説明

圧電ポンプ

【課題】圧電振動子の耐水性、絶縁性を確保しながら、その振幅を大きくし、ポンプ効率を高めることができる圧電ポンプを得る。
【解決手段】周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏にポンプ室と大気室を形成し、該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、圧電振動子の導電性金属薄板からなるシムの一方の面をポンプ室に臨ませ、該シムの他方の面上に大気室に臨む圧電体層を複数層積層し、かつ、この複数の圧電体層は、各層の分極方向及び配線接続を、圧電体が単層である場合に比して、圧電振動子の振幅が大きくなるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動する圧電振動子によってポンプ作用を得る圧電ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電ポンプは、周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、ポンプ室に連なる一対の流路に、流れ方向の異なる一対の逆止弁(ポンプ室への流体流を許す逆止弁とポンプ室からの流体流を許す逆止弁)を設けている。圧電振動子を振動させると、ポンプ室の容積が変化し、この容積変化に伴い一対の逆止弁の一方が閉じて他方が開く動作を繰り返すことから、ポンプ作用が得られる。このような圧電ポンプは、例えば水冷ノート型パソコンの冷却水循環ポンプとして用いられている。
【特許文献1】特開平10-225146号公報
【特許文献2】実用新案登録第2606595号公報
【特許文献3】特開2003-209302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
圧電振動子としては、シムの片面に圧電体を積層したユニモルフ型と、両面に圧電体を積層したバイモルフ型とが知られている。バイモルフ型は、ユニモルフ型に比べ圧電振動子の振幅を大きくすることができるという利点がある反面、圧電体がポンプ室に臨み接液することから、長期に渡る耐水性、絶縁性に問題がある。一方、ユニモルフ型はシムを接液面とすることができるため、耐水性、絶縁性の問題は低いが、バイモルフ型に比べ圧電振動子の振幅を大きくとることができず、十分な吐出量を確保する(ポンプ効率を高める)ことが困難である。
【0004】
本発明は、圧電振動子の耐水性、絶縁性を確保しながら、その振幅を大きくし、ポンプ効率を高めることができる圧電ポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、圧電振動子の耐水性、絶縁性を確保するために、シムの一面を接液面とし他面に圧電体を設けるユニモルフ型を維持しつつ、振幅を大きくするために、圧電体層を複数にし、これら圧電体層の分極方向と配線構造を、圧電体層が単層の場合よりも振幅が大きくなるように定めたものである。
【0006】
圧電体の分極方向と配線構造については、並列型、直列型のいずれも採用できる。
【0007】
並列型において、複数層の圧電体は、電気的に分離した下部圧電体層と上部圧電体層を構成することが実際的である。この下部圧電体層と上部圧電体層は、各々が一つの圧電体層からなる単層構造あるいは各々が圧電体層を複数積層した多層構造とすることができる。単層構造においては、下部圧電体層と上部圧電体層の分極方向が同一で、該下部圧電体層と上部圧電体層は電気的に並列に接続される。多層構造においては、隣接する圧電体層が電気的に並列に接続され、かつ、分極方向が逆向きとなる。下部圧電体層と上部圧電体層を多層化すれば、両層を単層で備える場合に比べて、低電圧化することができる。
【0008】
一方、直列型では、複数の圧電体層の分極方向は、隣接する圧電体層において互いに反対方向であり、各圧電体層は電気的に直列に接続されている。この直列型において、複数の圧電体層は、電気的に分離したそれぞれ単層の下部圧電体層と上部圧電体層を構成し、この下部圧電体層と上部圧電体層の分極方向が反対方向で、該下部圧電体層と上部圧電体層は電気的に直列に接続されることが実際的であるが、複数の圧電体層は三層以上あってもよい。
【0009】
また、複数の圧電体層は、層間に内部電極を有する状態で焼成と分極処理を行うことができる。
【0010】
別の態様では、複数の圧電体層は、単層の状態で焼成と電極形成と分極処理を行い、後に接着して構成することもできる。この態様は、特に、複数の圧電体層を電気的に直列に接続した直列型で構成するときに有利である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧電ポンプは、圧電振動子の導電性金属薄板からなるシムの一方の面をポンプ室に臨ませ、該シムの他方の面上に、大気室に臨む圧電体層を複数層積層し、かつこの複数の圧電体層は、各層の分極方向及び配線接続を、圧電体が単層である場合に比して、圧電振動子の振幅が大きくなるように設定したので、耐水性、絶縁性を確保しながら、圧電振動子の振幅を大きくし、ポンプ効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図11ないし図13は、本発明が対象とする圧電ポンプ20の一例を示している。この圧電ポンプ20は、下方から順に積層したロアハウジング21、ミドルハウジング22及びアッパハウジング23を有している。
【0013】
ロアハウジング21には、冷却水(液体)の吸入ポート24と吐出ポート25が開口している。ミドルハウジング22とアッパハウジング23の間には、Oリング27を介して圧電振動子10が液密に挟着支持されていて、該圧電振動子10とミドルハウジング22との間にポンプ室Pを構成している。圧電振動子10とアッパハウジング23との間には、大気室Aが形成される。大気室Aは、開放しても密閉してもよい。
【0014】
ロアハウジング21とミドルハウジング22には、吸入ポート24とポンプ室Pを連通させる吸入流路30、及びポンプ室Pと吐出ポート25を連通させる吐出流路31がそれぞれ形成されており、ミドルハウジング22には、この吸入流路30と吐出流路31にそれぞれ逆止弁(アンブレラ)32、33が設けられている。逆止弁32は、吸入ポート24からポンプ室Pへの流体流を許してその逆の流体流を許さない吸入側逆止弁であり、逆止弁33は、ポンプ室Pから吐出ポート25への流体流を許してその逆の流体流を許さない吐出側逆止弁である。
【0015】
図11ないし図13の実施形態の逆止弁32、33は、同一の形態であり、流路に接着もしくは溶着固定される穴あき基板32a、33aに、弾性材料からなるアンブレラ32b、33bを装着してなっている。
【0016】
以上の圧電ポンプは、圧電振動子10が正逆に弾性変形(振動)すると、ポンプ室Pの容積が拡大する行程では、吸入側逆止弁32が開いて吐出側逆止弁33が閉じるため、吸入ポート24からポンプ室P内に液体が流入する。一方、ポンプ室Pの容積が縮小する行程では、吐出側逆止弁33が開いて吸入側逆止弁32が閉じるため、ポンプ室Pから吐出ポート25に液体が流出する。したがって、圧電振動子10を正逆に連続させて弾性変形させる(振動させる)ことで、ポンプ作用が得られる。
【0017】
本発明は、例えば以上の構成を有する圧電ポンプ20における圧電振動子10の構成を特徴としている。以下では、図1〜図10を参照し、本発明の特徴部分である圧電振動子10について、詳細に説明する。
【0018】
圧電振動子10は、ポンプ室P側に臨むシム11と、大気室A側に臨む積層圧電体12とからなる。
【0019】
図1は、圧電振動子10の第1実施形態を示している。積層圧電体12は、シム11側から順に積層した下部圧電体層12aと上部圧電体層12bとの二層からなり、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間に中間電極層13aが位置している。中間電極層13aは、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを電気的に分離する中性面として機能する。下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向は、図中の矢印(三角指標)で示されるように、同一である。周知のように、圧電体(層)は、正負の電圧を印加すると、表面積が拡縮する方向に変形する。シム11側の下部圧電体層12aはシム側電極層13bを介してシム11と導通し、シム11及び上部圧電体層12bの大気室A側の表面電極層13cは第1給電ライン14に導通している。中間電極層13aは、上部圧電体層12bの側面に形成した側面電極13d及び表面に形成した取出電極13eを介して第2給電ライン15に導通している。すなわち、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bは、電気的には並列に接続されている。シム11は、例えば厚さ50〜300μm程度のステンレス、42アロイ等の金属製の薄板からなる。積層圧電体12の全体の厚さは、例えば50〜600μm程度とする。
【0020】
第1給電ライン14と第2給電ライン15の間に交番電界を印加すると、第1給電ライン14が正、第2給電ライン15が負である瞬間には、図1に矢印で示すように、下部圧電体層12aの表面積が拡大し、上部圧電体層12bの表面積が縮小する。すると、積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図1において下方に凸となる方向に変形させる(偶力Fを発生させる)ことになる。これに対し、第1給電ライン14と第2給電ライン15の正負が逆転すると、以上とは逆に積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図1において上方に凸となる方向に変形させる。この繰り返しにより、圧電振動子10は全体として振動することになる。そして、その振幅は、積層圧電体12が単一の圧電体層からなる場合に比して大きい。
【0021】
図2は、圧電振動子10の第2実施形態を示している。第2実施形態の圧電振動子10は、上述の側面電極13dに代えて、スルーホール電極13fにより、中間電極層13aと取出電極13eを導通させた実施形態である。この第2実施形態によっても、第1実施形態と同様に、圧電振動子10の振幅は積層圧電体12が単一の圧電体層からなる場合に比して大きくなる。
【0022】
図3及び図4に示される実施形態は、積層圧電体12と第1給電ライン14及び第2給電ライン15との接続部を積層圧電体12の大気室A側の表面に集中させた実施形態である。
【0023】
図3は、圧電振動子10の第3実施形態を示している。第3実施形態の圧電振動子10は、図1に示される第1実施形態の変形例であって、シム側電極層13b(11)と表面電極層13cとが積層圧電体12の側面に後に形成した側面接続電極13gによって導通している。この第3実施形態によれば、圧電振動子10の振幅は積層圧電体12が単一の圧電体層からなる場合に比して大きくなり、さらに、積層圧電体12への配線接続が容易となる。
【0024】
図4は、圧電振動子10の第4実施形態を示している。第4実施形態の圧電振動子10は、図2に示される第2実施形態の変形例であって、シム側電極層13b(シム11)と表面電極層13cが、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bに跨らせて形成したスルーホール電極13hによって導通している。この第4実施形態によっても、第3実施形態と同様に、圧電振動子10の振幅は積層圧電体12が単一の圧電体層からなる場合に比して大きくなり、さらに、積層圧電体12への配線接続が容易となる。
【0025】
以上の第1〜第4実施形態において、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bが電気的に並列接続された積層圧電体12は、例えば、次のように製造することができる。先ず最初に、平均粒径約1.0μm程度に粉砕した(Pb(Zr、Ti)O3)を主成分とした圧電粉末に有機バインダや可塑剤、有機溶剤を所定容量配合してスラリーを作製し、このスラリーからドクターブレード法により所定厚さ(例えば60〜70μm)の圧電グリーンシートを作成する。この圧電グリーンシートを所定形状に平面円形に型抜きし複数層重ねて下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを作成し、これらの間及び表面に各電極層(中間電極層13aないしスルーホール電極13f)を形成する。これを焼成して積層圧電体12を作成し、次いで下部圧電体層12aと上部圧電体層12bに同一方向の分極特性を与える分極処理を施す。図1の破線は、分極処理を施す際の結線例を示している。すなわち、シム側電極層13bを−(−V)電圧ラインに、表面電極層13cを+(+V)電圧ラインに、中間電極層13aをGNDラインにそれぞれ接続し、所定の条件で通電処理することにより、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向を同一にすることができる。図2〜図4では分極処理用の結線を図示省略してあるが、第2〜第4実施形態にも図1の結線を用いる。
【0026】
図5及び図6の実施形態は、図4に示される第4実施形態の変形例であって、積層圧電体12を高積層化した実施形態(下部圧電体層12a及び上部圧電体層12bを多層化した実施形態)である。
【0027】
図5は、圧電振動子10の第5実施形態を示している。第5実施形態の圧電振動子10では、積層圧電体12が、シム11側から順に積層した第1圧電体層12a1、第2圧電体層12a2、第3圧電体層12b3及び第4圧電体層12b4の四層構造で形成され、隣接する圧電体層12a1、12a2、12b3、12b4の間に、第1〜第3内部電極層13a1、13a2、13a3が位置している。第1〜第4圧電体層12a1、12a2、12b3、12b4の分極方向は、図中の矢印(三角指標)で示される。隣接する第1圧電体層12a1と第2圧電体層12a2は、電気的に並列に接続されていて分極方向が互いに逆向きをなし、二層一対で第2内部電極層13a2のシム11側に位置する下部圧電体層12aを構成する。一方の隣接する第3圧電体層12b3と第4圧電体層12b4は、電気的に並列に接続されていて分極方向が互いに逆向きをなし、二層一対で第2内部電極層13a2の大気室A側に位置する上部圧電体層12bを構成する。この第5実施形態では、第2内部電極層13a2が、下部圧電体層12a(第2圧電体層12a2)と上部圧電体層12b(第3圧電体層12b3)を電気的に分離する中性面として機能する、中間電極層13aである。
【0028】
積層圧電体12は、正負の電圧を印加すると、表面積が拡縮する方向に変形する。第1圧電体層12a1のシム11側のシム側電極層13b、第2内部電極層13a2(中間電極層13a)及び第4圧電体層12b4の大気室A側の表面電極層13cは、スルーホール電極13hを介して導通し、さらに、表面電極層13cは第1給電ライン14に導通している。第3圧電体層12b3と第4圧電体層12b4の間に位置する第3内部電極層13a3は、第4圧電体層12b4の表面に形成した取出電極13eにスルーホール電極13fを介して導通し、取出電極13eが第1圧電体層12a1と第2圧電体層12a2の間に位置する第1内部電極層13a1と共に第2給電ライン15に導通している。つまり、下部圧電体層12a(第1圧電体層12a1と第2圧電体層12a2)と上部圧電体層12b(第3圧電体層12b3と第4圧電体層12b4)は、電気的には並列に接続されている。
【0029】
第1給電ライン14と第2給電ライン15の間に交番電界を印加すると、第1給電ライン14が正、第2給電ライン15が負である瞬間には、図5に矢印で示すように、下部圧電体層12aの表面積が拡大し、上部圧電体層12bの表面積が縮小する。すると、積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図5において下方に凸となる方向に変形させる(偶力Fを発生させる)ことになる。これに対し、第1給電ライン14と第2給電ライン15の正負が逆転すると、以上とは逆に積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図5において上方に凸となる方向に変形させる。この繰り返しにより、圧電振動子10は全体として振動することになる。そして、その振幅は、圧電振動子10の圧電体が単一の圧電体層からなる場合、さらに、下部圧電体層12a及び上部圧電体層12bのそれぞれが単一の圧電体層からなる場合に比して大きい。
【0030】
上記第1〜第4圧電体層12a1、12a2、12b3、12b4の分極特性は、図5の破線で示すように、第1内部電極層13a1を+(+V)電圧ラインに、シム側電極層13bと中間電極層13a(第2内部電極層13a2)と表面電極層13cをGNDラインに、そして第3内部電極層13a3を−(−V)電圧ラインにそれぞれ接続し、所定の条件で通電処理することにより得られる。
【0031】
積層圧電体12の全体の厚さは、第1実施形態と同様に、例えば50〜600μm程度である。この第5実施形態によれば、同一の変位量を得ようとするとき、圧電振動子10の圧電体が四層構造の積層圧電体12と同じ厚さを有する単一の圧電体層からなる場合に比べて、圧電振動子10に与える駆動電圧を1/4とすることができ、低電圧化を図れる。
【0032】
図6は、圧電振動子10の第6実施形態を示している。第6実施形態の圧電振動子10では、積層圧電体12が、シム11側から順に積層した第1圧電体層12a1、第2圧電体層12a2、第3圧電体層12a3、第4圧電体層12b4、第5圧電体層12b5及び第6圧電体層12b6の六層構造で形成され、隣接する圧電体層12a1〜12a3、12b4〜12b6の間に、第1〜第5内部電極層13a1、13a2、13a3、13a4、13a5が位置している。第1〜第6圧電体層12a1〜12a3、12b4〜12b6の分極方向は、図中の矢印(三角指標)で示される。隣接する第1圧電体層12a1と第2圧電体層12a2及び第2圧電体層12a2と第3圧電体層12a3は、電気的に並列に接続されていて分極方向が互いに逆向きをなし、三層一対で第3内部電極層13a3のシム11側に位置する下部圧電体層12aを構成する。一方、隣接する第4圧電体層12b4と第5圧電体層12b5及び第5圧電体層12b5と第6圧電体層12b6は、電気的に並列に接続されていて分極方向が互いに逆向きをなし、三層一対で第3内部電極層13a3の大気室A側に位置する上部圧電体層12bを構成する。この第6実施形態では、下部圧電体層12a(第3圧電体層12a3)と上部圧電体層12b(第4圧電体層12b4)を電気的に分離する中性面として機能する、中間電極層13aである。
【0033】
積層圧電体12は、正負の電圧を印加すると、表面積が拡縮する方向に変形する。第1圧電体層12a1と第2圧電体層12a2の間に位置する第1内部電極層13a1、中間電極層13a(第3内部電極層13a3)、第5圧電体層12b5と第6圧電体層12b6の間に位置する第5内部電極層13a5及び第6圧電体層12b6の大気室A側に形成した取出電極13eはスルーホール電極13fを介して導通し、さらに、取出電極13eは第2給電ライン15に導通している。第1圧電体層12a1のシム11側のシム側電極層13b及び第2圧電体層12a2と第3圧電体層12a3の間に位置する第2内部電極層13a2は、スルーホール電極13iにより導通し、さらにシム側電極層13b(シム11)は第1給電ライン14に導通している。第4圧電体層12b4と第5圧電体層12b5の間に位置する第4内部電極層13a4と第6圧電体層12b6の大気室A側の表面電極層13cは、スルーホール電極13hにより導通し、さらに表面電極層13cは第1給電ライン14に導通している。つまり、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bは、電気的には並列に接続されている。
【0034】
第1給電ライン14と第2給電ライン15の間に交番電界を印加すると、第1給電ライン14が正、第2給電ライン15が負である瞬間には、図6に矢印で示すように、下部圧電体層12aの表面積が拡大し、上部圧電体層12bの表面積が縮小する。すると、積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図6において下方に凸となる方向に変形させる(偶力Fを発生させる)ことになる。これに対し、第1給電ライン14と第2給電ライン15の正負が逆転すると、以上とは逆に積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図6において上方に凸となる方向に変形させる。この繰り返しにより、圧電振動子10は全体として振動することになる。そして、その振幅は、圧電振動子10の圧電体が単一の圧電体層からなる場合、さらに、下部圧電体層12a及び上部圧電体層12bが単一の圧電体層からなる場合に比して大きい。
【0035】
上記第1〜第6圧電体層12a1〜12a3、12b4〜12b6の分極特性は、図6の破線で示すように、シム側電極層13bを−(−V)電圧ラインに、表面電極層13cを+(+V)電圧ラインに、そして中間電極層13a(第3内部電極層13a3)をGNDラインにそれぞれ接続し、所定の条件で通電処理することにより得られる。
【0036】
積層圧電体12の全体の厚さは、第1実施形態と同様に、例えば50〜600μm程度である。この第6実施形態によれば、同一の変位量を得ようとするとき、圧電振動子10の圧電体が六層構造の積層圧電体12と同じ厚さを有する単一の圧電体層からなる場合に比べて、圧電振動子10に与える駆動電圧を1/6とすることができ、低電圧化を図れる。上部圧電体層12a及び下部圧電体層12bを高層化するほど、同一の変位量を得ようとするときに必要な駆動電圧を低減できる。
【0037】
以上では、並列型の積層圧電体12を用いた第1〜第6実施形態について説明したが、本発明は直列型の積層圧電体にも適用可能である。直列型の積層圧電体を用いれば、分極反転の影響を受けずに済み、長寿命化と駆動電圧強度の制約なく性能達成のための高電圧化とが可能となる。
【0038】
図7ないし図10は、積層した下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向を互いに逆とし、該下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを電気的に直列に接続した実施形態を示している。
【0039】
図7は、圧電振動子10の第7実施形態を示している。第7実施形態の圧電振動子10は、電極構成(中間電極層13a、シム側電極層13b、表面電極層13c、側面電極13d及び取出電極13e)は第1実施形態(図1)と同一であるが、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向が異なっている。この下部圧電体層12aと上部圧電体層12bは、電気的に直列に接続されており、表面電極層13cに導通する第1給電ライン14とシム側電極層13bに導通する第2給電ライン15を介して駆動電圧が与えられる。中間電極層13aは、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを電気的に分離する中性面として機能する。積層圧電体12の全体の厚さは、例えば50〜600μm程度とする。
【0040】
この第7実施形態では、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向が互いに逆であるので、第1給電ライン14と第2給電ライン15の間に交番電界を印加すると、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの一方の表面積が拡大し他方の表面積が縮小する。このため、圧電振動子10は、図1で説明したのと同様に、圧電振動子10の圧電体が単一の圧電体層からなる場合に比して大きい振幅で振動することになる。
【0041】
側面電極13dと取出電極13eは、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bに互いに逆方向の分極処理を施す際の結線のために必要である。すなわち、図7に破線で示すように、シム側電極層13bと表面電極層13cの両方を+電圧ライン(+V)に接続し、側面電極13dと取出電極13eを利用して中間電極層13aをGNDに接続することで、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bに対して互いに逆方向の分極特性を与えることができる。
【0042】
図8は、圧電振動子10の第8実施形態を示している。第8実施形態の圧電振動子10は、第7実施形態の側面電極13dに代えて、スルーホール電極13fにより、中間電極層13aと取出電極13eを導通させた実施形態である。別言すれば、電極構成を第2実施形態(図2)と同一とし、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向及び接続態様を第7実施形態(図7)と同一とした実施形態である。
【0043】
図9及び図10は、圧電振動子10の第9実施形態を示している。この第9実施形態は、電気的に直列接続した下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを、容易に製造することができる実施形態である。上述した第1〜第8実施形態の積層圧電体12は、予め下部圧電体層12a、上部圧電体層12b及び電極層13a〜13fを一体に形成した上で、図1、図2、図5及び図6〜図8に破線で示したように結線して分極処理を施す必要がある。このため、電極構成が複雑にならざるを得ない。これに対し、本第9実施形態では、図9に示すように、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bをそれぞれ別個に形成し、分極処理後の下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを互いの分極方向が異なる向きで電気的に直列接続するだけでよい。より具体的に説明すると、下部圧電体層12aは、圧電グリーンシートを所定形状に平面円形に型抜きし単層もしくは複数層重ねて焼成し、この焼成体の表裏面に電極層(シム側電極層13b、中間電極層13a’)を形成して、この表裏面の電極層を利用して分極処理を施すことにより形成する。上部圧電体層12bは、圧電グリーンシートを所定形状に平面円形に型抜きし単層もしくは複数層重ねて焼成し、この焼成体の表裏面に電極層(表面電極層13c、中間電極層13a’)を形成して、この表裏面の電極層を利用して下部圧電体層12aとは逆向きの分極処理を施すことにより形成する。そして、同図9に示すように、シム11と下部圧電体層12aのシム側電極層13bを接着し、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの中間電極層13a’を互いに接着する。接着には、例えば導電性樹脂接着剤を用いることができる。これにより、図10に示すように、分極方向が互いに逆向きで、かつ、電気的に直列接続された下部圧電体層12aと上部圧電体層12bからなる積層圧電体12、及び、該積層圧電体12を有する圧電振動子10が得られる。積層圧電体12の全体の厚さは、例えば50〜600μm程度とする。この第9実施形態によれば、図7の側面電極13dや図8のスルーホール電極13fを必要としないので、直列型の積層圧電体12を容易に形成できる。なお、本実施形態の接続態様は、第7実施形態(図7)と同様である。
【0044】
以上の各実施形態によれば、シム11の一方の面をポンプ室Pに臨ませ、該シム11の他方の面上に大気室Aに臨む積層圧電体12を複数の圧電体層から形成し、かつ、この積層圧電体12では、各層の分極方向及び配線接続を、該積層圧電体12が単層の圧電体からなる場合に比して圧電振動子10の振幅が大きくなるように設定したので、耐水性、絶縁性を確保しながら、圧電振動子の振幅を大きくし、ポンプ効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の圧電ポンプに用いる圧電振動子の第1実施形態を示す模式断面図である。
【図2】圧電振動子の第2実施形態の断面図である。
【図3】圧電振動子の第3実施形態の断面図である。
【図4】圧電振動子の第4実施形態の断面図である。
【図5】圧電振動子の第5実施形態の断面図である。
【図6】圧電振動子の第6実施形態の断面図である。
【図7】圧電振動子の第7実施形態の断面図である。
【図8】圧電振動子の第8実施形態の断面図である。
【図9】圧電振動子の第9実施形態の接続態様を説明する断面図である。
【図10】圧電振動子の第9実施形態の断面図である。
【図11】本発明を適用する圧電ポンプの一例を示す、一部を切開した平面図である。
【図12】図11のII-II線に沿う断面図である。
【図13】同分解斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
10 圧電振動子(圧電振動子)
11 シム
12 積層圧電体
12a 下部圧電体層
12a1〜12a3 第1〜第3圧電体層
12b 上部圧電体層
12b3〜12b6 第3〜第6圧電体層
13a 中間電極層
13a1〜13a5 第1〜第5内部電極層
13b シム側電極層
13c 表面電極層
13d 側面電極
13e 取出電極
13f、13h、13i スルーホール電極
13g 側面接続電極
14 第1給電ライン
15 第2給電ライン
20 圧電ポンプ(圧電ポンプ)
P ポンプ室
A 大気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、
前記圧電振動子の導電性金属薄板からなるシムの一方の面を前記ポンプ室に臨ませ、該シムの他方の面上に、前記大気室に臨む圧電体層を複数層積層し、
かつ、この複数の圧電体層は、各層の分極方向及び配線接続を、圧電体が単層である場合に比して、圧電振動子の振幅が大きくなるように設定したことを特徴とする圧電ポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の圧電ポンプにおいて、前記複数の圧電体層は、電気的に分離したそれぞれ単層の下部圧電体層と上部圧電体層を構成し、この下部圧電体層と上部圧電体層の分極方向が同一で、該下部圧電体層と上部圧電体層は電気的に並列に接続されている圧電ポンプ。
【請求項3】
請求項1記載の圧電ポンプにおいて、前記複数の圧電体層は、電気的に分離した下部圧電体層と上部圧電体層を構成し、この下部圧電体層及び上部圧電体層は、各々が圧電体層を複数積層した多層構造をなし、かつ、この多層構造において隣接する圧電体層が電気的に並列に接続され、かつ、分極方向が逆向きをなしている圧電ポンプ。
【請求項4】
請求項1記載の圧電ポンプにおいて、前記複数の圧電体層の分極方向は、隣接する圧電体層において互いに反対方向であり、各圧電体層は電気的に直列に接続されている圧電ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電ポンプにおいて、前記複数の圧電体層は、電気的に分離したそれぞれ単層の下部圧電体層と上部圧電体層を構成し、この下部圧電体層と上部圧電体層の分極方向が反対方向で、該下部圧電体層と上部圧電体層は電気的に直列に接続されている圧電ポンプ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の圧電ポンプにおいて、前記複数の圧電体層は、層間に内部電極を有する状態で焼成と分極処理がなされている圧電ポンプ。
【請求項7】
請求項4または5記載の圧電ポンプにおいて、前記複数の圧電体層は、単層の状態で焼成と電極形成と分極処理がなされており、その後接着されている圧電ポンプ。
【請求項8】
周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、
上記圧電振動子の導電性金属薄板からなるシムの一方の面が上記ポンプ室に臨み、該シムの他方の面上には、隣接する圧電体層において分極方向が互いに異なる、上記大気室に臨む複数層の圧電体層が積層形成されており、これら複数の圧電体層は、単層の状態で焼成と電極形成と分極処理がなされていて、その後電気的に直列接続状態で接着されていることを特徴とする圧電ポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2008−175097(P2008−175097A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7567(P2007−7567)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】