説明

圧電体積層体、表面弾性波素子、薄膜圧電共振子および圧電アクチュエータ

【課題】大きな電気機械結合係数、安定な温度特性、大きな表面弾性波伝播速度を有する圧電体積層体と、当該圧電体積層体を含む表面弾性波素子、薄膜圧電共振子および圧電アクチュエータを提供する。
【解決手段】圧電体積層体100は、基体1と、前記基体1の上方に形成された、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる第1圧電体層3と、を含み、第1圧電体層は、組成式(KaNa1-axNbO3で表され、該組成式において、0.1<a<1であり、1≦x≦1.2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸カリウムナトリウム層を有する圧電体積層体、当該圧電体積層体を
含む表面弾性波素子、薄膜圧電共振子および圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、携帯電話などの移動体通信を中心とした通信分野の著しい発展に伴い、表面
弾性波素子の需要が急速に拡大している。表面弾性波素子の開発の方向としては、小型化
、高効率化、高周波化の方向にある。そのためには、より大きな電気機械結合係数(k2
)、より安定な温度特性、より大きな表面弾性波伝播速度、が必要となる。
【0003】
表面弾性波素子は、従来、主として圧電体の単結晶上にインターディジタル型電極を形
成した構造が用いられてきた。圧電単結晶の代表的なものとしては、水晶、ニオブ酸リチ
ウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)などがある。例えば、広帯域
化や通過帯域の低損失化が要求されるRFフィルタの場合には、電気機械結合係数の大き
いLiNbO3が用いられる。一方、狭帯域でも安定な温度特性が必要なIFフィルタの
場合は、中心周波数温度係数の小さい水晶が用いられる。さらに、電気機械結合係数およ
び中心周波数温度係数がそれぞれLiNbO3と水晶の間にあるLiTaO3はその中間的
な役割を果たしている。また、最近、ニオブ酸カリウム(KNbO3)単結晶において、
大きな電気機械結合係数の値を示すカット角が見出された。KNbO3単結晶板は、特開
平10−65488号公報に記載されている。
【0004】
圧電単結晶基板を用いた表面弾性波素子では、電気機械結合係数、温度係数、音速など
の特性は材料固有の値であり、カット角および伝播方向で決定される。たとえば、0°Y
−XKNbO3単結晶基体は電気機械結合係数に優れるが、45°から75°までの回転
Y−XKNbO3単結晶基体のような零温度特性は室温付近において示さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−65488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、基体上にニオブ酸カリウムナトリウム層が形成された圧電体積層体を
提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、本発明の圧電体積層体を有する表面弾性波素子および薄膜圧電共
振子を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、本発明の圧電体積層体を有する圧電アクチュエータを提供
することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる圧電体積層体は、
基体と、
前記基体の上方に形成された、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる第1圧電体層と、
を含む。
【0010】
本発明において、特定のA部材(以下、「A部材」という。)の上方に設けられた特定
のB部材(以下、「B部材」という。)というとき、A部材の上に直接B部材が設けられ
た場合と、A部材の上に他の部材を介してB部材が設けられた場合とを含む意味である。
【0011】
本発明の圧電体積層体において、前記第1圧電体層は、組成式(KaNa1-axNbO3
で表され、該組成式において、0.1<a<1であり、1≦x≦1.2であることができ
る。
【0012】
本発明の圧電体積層体において、前記第1圧電体層は、前記組成式において、1<x≦
1.1であることができる。
【0013】
本発明の圧電体積層体において、前記第1圧電体層の下方に、配向制御層が形成される
ことができる。
【0014】
本発明の圧電体積層体において、前記配向制御層は、ランタン酸ニッケルからなること
ができる。前記ランタン酸ニッケルは多結晶であることができる。
【0015】
本発明の圧電体積層体は、前記第1圧電体層と連続する、ニオブ酸カリウムナトリウム
からなる第2圧電体層を有し、前記第2圧電体層は、該第2圧電体層と接し、かつ前記第
1圧電体層と反対側に位置する層を構成する元素を含むことができる。
【0016】
本発明の圧電体積層体において、前記第1圧電体層は、
組成式(KaNa1-a)NbO3で表される圧電体からなる第1相の部分と、
組成式(KaNa1-axNbO3(ただし、1<x)で表される圧電体からなる第2相の
部分と、を含むことができる。
【0017】
本発明の圧電体積層体は、前記第1圧電体層の上方に形成された電極を有することがで
きる。
【0018】
本発明の圧電体積層体は、前記基体と前記第1圧電体層との間に形成された第1電極と

前記第1圧電体層の上方に形成された第2電極と、を有することができる。
【0019】
本発明にかかる表面弾性波素子は、本発明の圧電体積層体を含む。
【0020】
本発明にかかる薄膜圧電共振子は、本発明の圧電体積層体を含む。
【0021】
本発明にかかる圧電アクチュエータは、本発明の圧電体積層体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態にかかる第1の圧電体積層体を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかる圧電体積層体の圧電体層を模式的に示す断面図。
【図3】本発明の実施形態にかかる圧電体積層体の圧電体層を模式的に示す断面図。
【図4】本発明の実施形態にかかる第1の圧電体積層体の変形例を模式的に示す断面図。
【図5】本発明の実施形態にかかる第2の圧電体積層体を模式的に示す断面図。
【図6】本発明の実施形態にかかる第2の圧電体積層体の変形例を模式的に示す断面図。
【図7】本発明の実施例における圧電体層のヒステリシス特性を示す図。
【図8】(A)、(B)は本発明の実施例における圧電体層の表面のSEMによる図であり、(C)は比較例における圧電体層の表面のSEMによる図。
【図9】本発明の実施例および比較例のXRDの図。
【図10】本発明の実施例における圧電体層の電界と歪みとの関係を示す図。
【図11】本発明の実施例における圧電体層のSAW発振波形を示す図。
【図12】本発明の実施例におけるラマン発光分析の結果を示す図。
【図13】本発明の実施例におけるNa過剰量と面間隔の関係を示す図。
【図14】(A)は本発明の実施例における表面のSEMによる図を示し、(B)は参考例における表面のSEMによる図。
【図15】(A)は本発明の実施例におけるXRDの図を示し、(B)は参考例におけるXRDの図。
【図16】本発明の実施形態にかかる表面弾性波素子を模式的に示す図。
【図17】本発明の実施形態にかかる表面弾性波素子を適用した周波数フィルタを模式的に示す図。
【図18】本発明の実施形態にかかる表面弾性波素子を適用した発振器を模式的に示す図。
【図19】本発明の実施形態にかかる第1の薄膜圧電共振子を模式的に示す図。
【図20】本発明の実施形態にかかる第2の薄膜圧電共振子を模式的に示す図。
【図21】本発明の実施形態にかかる圧電アクチュエータを適用したインクジェット式ヘッドを模式的に示す図。
【図22】本発明の実施形態にかかる圧電アクチュエータを適用したインクジェット式ヘッドを模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
1.圧電体積層体
1.1.第1の圧電体積層体
図1は、本実施形態に係る第1の圧電体積層体100の一例を模式的に示す断面図であ
る。
【0025】
圧電体積層体100は、基体1と、基体1上に形成されたニオブ酸カリウムナトリウム
からなる圧電体層3と、圧電体層3上に形成された電極4とを含む。
【0026】
基体1は、圧電体積層体100の用途によって選択され、その材料、構成は特に限定さ
れない。基体1としては、絶縁性基板、半導体基板等を用いることができる。絶縁性基板
としては、たとえばサファイア基板、STO基板、プラスチック基板、ガラス基板などを
用いることができ、半導体基板としてはシリコン基板などを用いることができる。また、
基体1は、基板単体あるいは基板上に他の層が積層された積層体であってもよい。
【0027】
基体1上には、図4に示すように、必要に応じて配向制御層6を有することができる。
配向制御層6は、バッファ層あるいはシード層と呼ばれ、圧電体層3の結晶配向性を制御
する機能を有する。すなわち、配向制御層6上に形成される圧電体層3は、配向制御層6
の結晶構造を引き継いだ結晶構造となる。かかる配向制御層6としては、圧電体層3と同
様の結晶構造を有する複合酸化物を用いることができる。配向制御層6としては、たとえ
ば、ランタン酸ニッケル(LaNiO3)などのペロブスカイト型酸化物を用いることが
できる。ランタン酸ニッケルは、多結晶であることができる。配向制御層6は、圧電体層
3の配向を制御できればよく、例えば50ないし100nmの膜厚を有することができる

【0028】
圧電体層3は、組成式(KaNa1-axNbO3で表される圧電体から構成される。前記
組成式において、好ましくは0.1<a<1、より好ましくは0.2≦a≦0.7であり
、好ましくは1≦x≦1.2、より好ましくは1<x≦1.1である。組成式(KaNa1
-axNbO3で表される圧電体は、室温では斜方晶の構造をとる。前記組成式において、
「a」が上記範囲にあることにより、斜方晶から菱面体晶(a≦0.55)および斜方晶
から単斜晶(0.55≦a)への相変化温度がマイナス40℃以下となり、低温領域にお
いて安定した特性が得られる点で好ましい。「a」が0.1以下であると、結晶化のため
の熱処理時にカリウムの揮発のために異相が生じ、圧電特性や強誘電体特性などの物性に
悪影響を及ぼす。「x」が上記範囲にあることにより、低温にて結晶が形成されるのでカ
リウムの揮発が抑制され、層密度が向上する点で好ましい。
【0029】
本実施形態では、圧電体層3は均質な層であってもよく、あるいは図2,図3に示すよ
うような態様を有する層であってもよい。図2および図3は、概念的もしくは模式的な図
である。
【0030】
すなわち、図2に示すように、圧電体層3は、組成式(KaNa1-a)NbO3で表され
るニオブ酸カリウムナトリウムからなる第1圧電体層32と、第1圧電体層32と基体1
との間に形成され、少なくとも圧電体層3と接する層(図示の場合、基体1)を構成する
元素を含む圧電体からなる第2圧電体層34とを有することができる。第2圧電体層34
は、第1圧電体層32に比べて、Aサイト元素であるカリウムおよびナトリウムを過剰に
含むことができる。また、第2圧電体層34は、第1圧電体層32のニオブ酸カリウムナ
トリウムに、基体1を構成する元素を含む。例えば、基体1としてSTO(SrTiO3
)基板を用いた場合は、第2圧電体層34は、ニオブ酸カリウムナトリウムに、ストロン
チウムおよびチタンを含むことができる。基体1として、Nb:STO(NbドープSr
TiO3)を用いた場合は、第2圧電体層34は、ニオブ酸カリウムナトリウムに、スト
ロンチウム、チタンおよびニオブを含むことができる。また、図4に示すように、基体1
上に配向制御層6を有する場合には、第2圧電体層34は、配向制御層6を構成する元素
を含むことができる。例えば、配向制御層6としてランタン酸ニッケルを用いた場合には
、第2圧電体層34は、ニオブ酸カリウムナトリウムにランタンおよびニッケルを含む。
【0031】
また、図3に示すように、圧電体層3は、組成式(KaNa1-a)NbO3で表される圧
電体からなる第1相の部分36と、組成式(KaNa1-axNbO3(ただし、1<x)で
表される圧電体からなる第2相の部分38と、を含むことができる。
【0032】
本実施形態の圧電体層3は、擬立方晶(100)に優先配向していることが望ましい。
【0033】
圧電体層3の代表的な層厚は、圧電体積層体100の用途によって選択される。圧電体
層3の代表的な層厚は、300nmから3.0μmである。ただし、この厚みの上限値に
関しては、薄層としての緻密さ、結晶配向性を維持する範囲で厚くすることができ、10
μm程度まで許容できる。
【0034】
電極4は、金属層または導電性複合酸化物層から構成できる。電極4は、金属層と導電
性複合酸化物層の積層体でもよい。電極4の材料としては、白金、イリジウム、アルミニ
ウムなどの金属層あるいは酸化イリジウムなどの導電性複合酸化物層を用いることができ
る。
【0035】
本実施形態の第1の圧電体積層体100は、たとえば以下のようにして形成できる。
【0036】
(1) まず、基体1を準備する。基体1は、上述したように圧電体積層体100の用
途で選択される。基体1としては、たとえばSTO(SrTiO3)基板、Nb:STO
(NbドープSrTiO3)基板、サファイア基板を用いることができる。
【0037】
(2) 図1に示すように、基体1上に、上述した組成式で示される圧電体からなる圧
電体3を形成する。
【0038】
ゾルゲル法やMOD法にて圧電体層3を形成する場合には、前記組成式の組成となる前
駆体溶液を用いて塗布層を形成し、該塗布層を結晶化させることにより形成できる。
【0039】
圧電体層3の形成材料である前駆体溶液については、圧電体層3となる圧電材料の構成
金属をそれぞれ含んでなる有機金属化合物を各金属が所望のモル比となるように混合し、
さらにアルコールなどの有機溶媒を用いてこれらを溶解、または分散させることにより作
製することができる。圧電材料の構成金属をそれぞれ含んでなる有機金属化合物としては
、金属アルコキシドや有機酸塩、βジケトン錯体といった有機金属化合物を用いることが
できる。具体的には、圧電材料として以下のものが挙げられる。
【0040】
ナトリウム(Na)を含む有機金属化合物としては、たとえば、ナトリウムエトキシド
が挙げられる。カリウム(K)を含む有機金属化合物としては、たとえば、カリウムエト
キシドが挙げられる。ニオブ(Nb)を含む有機金属化合物としては、たとえばニオブエ
トキシドが挙げられる。圧電材料の構成金属を含んでなる有機金属化合物は、これらに限
定されず、公知のものを用いることができる。
【0041】
前駆体溶液には、必要に応じて安定化剤等の各種添加剤を添加することができる。さら
に、前駆体溶液に加水分解・重縮合を起こさせる場合には、前駆体溶液に適当な量の水と
ともに、触媒として酸あるいは塩基を添加することができる。
【0042】
圧電体層3が所望の組成比となるように、原料溶液を調製する。この原料溶液を基体1
上に塗布した後、熱処理を加えて塗層を結晶化させることにより、圧電体層3を形成する
ことができる。具体的には、たとえば、原料溶液の塗布工程、アルコールなどの溶媒の除
去工程、塗層の乾燥熱処理工程および脱脂熱処理工程の一連の工程を所望の回数行い、そ
の後に結晶化アニールにより焼成して圧電体層3を形成する。また、上述した塗布工程、
溶媒の除去工程、塗層の乾燥熱処理工程、脱脂熱処理工程および結晶化アニール工程から
なる一連の工程を所望の回数行うことにより、圧電体層3を形成することもできる。
【0043】
(3) 図1に示すように、圧電体層3上に、電極4を形成する。電極4を構成する金
属層あるいは導電性複合酸化物層は、たとえば公知のスパッタリングなどによって形成さ
れる。
【0044】
(4) 次に、必要に応じて、ポストアニールを酸素雰囲気中でRTA(ラピッドサー
マルアニール)等を用いて行うことができる。これにより、電極4と圧電体層3との良好
な界面を形成することができ、かつ圧電体層3の結晶性を改善することができる。
【0045】
図4に示すように、基体1上に配向制御層6を有する圧電体積層体100の場合には、
上記(1)の工程の後に、基体1上に配向制御層6を形成する。配向制御層6としてラン
タン酸ニッケルを用いる場合には、スパッタ法を用いることができる。配向制御層6を形
成することにより、圧電体層3は配向制御層6の結晶構造を反映してより高い結晶性およ
び配向性を有することができる。
【0046】
以上の工程によって、本実施形態にかかる第1の圧電体積層体100を製造することが
できる。
【0047】
以上のようにして、圧電体層3を形成することにより、圧電体層3は、組成式(Ka
1-axNbO3で表される圧電体から構成される。この圧電体は、室温では斜方晶の構
造を有するペロブスカイト型酸化物である。
【0048】
1.2.第2の圧電体積層体
図5は、本実施形態に係る第2の圧電体積層体200の一例を模式的に示す断面図であ
る。
【0049】
圧電体積層体200は、基体1と、基体1上に形成された第1電極(下部電極)2と、
下部電極2上に形成された圧電体層3と、圧電体層3上に形成された第2電極(上部電極
)4とを含む。
【0050】
基体1は、圧電体積層体200の用途によって選択され、その材料、構成は特に限定さ
れない。基体1としては、第1の圧電体積層体100で述べたと同様のものを用いること
ができる。
【0051】
下部電極2は、白金族などの金属層あるいは導電性複合酸化物層を用いることができる
。また、下部電極2としては、金属層と導電性複合酸化物層とが積層された多層構造を有
する導電層を用いることができる。下部電極2の最上層はバッファ層として機能する導電
層であってもよい。かかるバッファ層としては、第1の圧電体積層体100と同様に、圧
電体層3と同様の結晶構造を有することができる。バッファ層がこのような構造を有する
ことで、圧電体層3は、バッファ層の結晶構造を引き継いだ結晶構造となる。
【0052】
下部電極2上には、図6に示すように、必要に応じて配向制御層6を有することができ
る。配向制御層6については、第1の圧電体積層体100において述べたと同様であり、
バッファ層あるいはシード層と呼ばれ、圧電体層3の結晶配向性を制御する機能を有する

【0053】
圧電体層3は、第1の圧電体積層体100における圧電体層3と同様である。すなわち
、圧電体層3は、組成式(KaNa1-axNbO3で表される圧電体から構成される。前記
組成式において、好ましくは0.1<a<1、より好ましくは0.2≦a≦0.7であり
、好ましくは1≦x≦1.2、より好ましくは1<x≦1.1である。組成式(KaNa1
-axNbO3で表される圧電体は、室温では斜方晶の構造をとる。前記組成式において、
「a」が上記範囲にあることにより、斜方晶から菱面体晶(a≦0.55)および斜方晶
から単斜晶(0.55≦a)への相変化温度がマイナス40℃以下となり、低温領域にお
いて安定した特性が得られる点で好ましい。組成式における「a」および「x」の数値範
囲に関する事項および圧電体層3の特徴は、第1の圧電体積層体100で述べたと同様で
あるので、詳細な記載を省略する。
【0054】
圧電体層が図2に対応する構成を有する場合には、圧電体層3は、組成式(KaNa1-a
)NbO3で表される圧電体からなる第1圧電体層32と、第1圧電体層32と基体1と
の間に形成され、少なくとも圧電体層3と接する層(図示の場合、下部電極2)を構成す
る元素を含む圧電体(過剰のカリウムおよび/またはナトリウムを含むニオブ酸カリウム
ナトリウム)からなる第2圧電体層34とを有することができる。
【0055】
また、圧電体層が図3に対応する構成を有する場合には、圧電体層3は、組成式(Ka
Na1-a)NbO3で表される圧電体からなる第1相の部分36と、組成式(KaNa1-a
xNbO3(ただし、1<x)で表される圧電体からなる第2相の部分38と、を含むこと
ができる。
【0056】
上部電極4は、下部電極2と同様に、金属層または導電性複合酸化物層、あるいはそれ
らの積層体からなることができる。すなわち、上部電極4は、白金、イリジウムなどの金
属層あるいは酸化イリジウムなどの導電性複合酸化物層を用いることができる。
【0057】
本実施形態の第2の圧電体積層体200は、たとえば以下のようにして形成できる。
【0058】
(1) まず、基体1を準備する。基体1としては、第1の圧電体積層体100で述べ
た基体1と同様のものを用いることができる。基体1としては、たとえばシリコン基板を
用いることができる。
【0059】
(2) 図5に示すように、基体1上に、下部電極2を形成する。下部電極2を構成す
る金属層または導電性複合酸化物層は、たとえば公知のスパッタリングなどによって形成
される。
【0060】
(3) 図5に示すように、下部電極2上に、上述した組成式で示される圧電体層3を
形成する。圧電体層3の形成方法は、第1の圧電体積層体100の場合と同様であるので
、詳細な説明を省略する。
【0061】
(4) 図5に示すように、圧電体層3上に、上部電極4を形成する。上部電極4を構
成する金属層または導電性複合酸化物層の構成、形成方法については、第1の圧電体積層
体100の電極4と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0062】
(5) 次に、必要に応じて、ポストアニールを酸素雰囲気中でRTA等を用いて行う
ことができる。これにより、下部電極2,上部電極4と圧電体層3との良好な界面を形成
することができ、かつ圧電体層3の結晶性を改善することができる。
【0063】
図6に示すように、下部電極2上に配向制御層6を有する圧電体積層体200の場合に
は、上記(2)の工程の後に、下部電極2上に配向制御層6を形成する。配向制御層6と
してランタン酸ニッケルを用いる場合には、スパッタ法を用いることができる。配向制御
層6を形成することにより、圧電体層3は配向制御層6の結晶構造を反映してより高い結
晶性および配向性を有することができる。
【0064】
以上の工程によって、本実施形態にかかる第2の圧電体積層体200を製造することが
できる。
【0065】
なお、圧電体層3は、ゾルゲル法やMOD(Metal Organic Decomposition)法の液
相法のみならず、レーザーアブレーション法やスパッタ法等の気相法を用いて形成するこ
ともできる。
【0066】
第1、第2の圧電体積層体100,200は、圧電特性に優れた圧電体層3を有し、後
述する各種の用途に好適に適用できる。
【0067】
2.実施例
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない

【0068】
2.1.実施例1
カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシドおよびニオブエトキシドを、K:Na:N
b=1.0:0.2:1.0のモル比で混合し、この混合液をブチルセロソルブ中で還流
し、トリプルアルコキシド溶液を調整した。さらに、この溶液の安定化剤としてジエタノ
ールアミンを添加した。このようにして前駆体溶液を調整した。なお、ジエタノールアミ
ンの代わりに酢酸を用いることもできる。この前駆体溶液を、白金層を形成した基体(白
金層/酸化シリコン層/シリコン基板)上にスピンコート法により塗布し、ホットプレー
ト上で乾燥、仮焼成した後、700℃にてラピッドサーマルアニールを施した。この工程
を数回繰り返して得られた、厚さ約1.5μmの多結晶ニオブ酸ナトリウムカリウム(K
NN)層を得た。このKNN層上に、スパッタリング法により厚さ100nm、直径20
0μmの白金電極を形成した。このようにしてキャパシタサンプルを得た。
【0069】
上記キャパシタサンプルを用いて、ヒステリシス特性の評価を行ったところ、図7に示
すヒステリシスが得られた。図7から、本実施例のキャパシタサンプルは、良好なヒステ
リシス特性を有し、KNN層が強誘電性を有することが確認された。
【0070】
2.2.実施例2,比較例1
実施例1における、カリウムに対するナトリウムのモル比(モル%)を表1に示すよう
に変えた他は、実施例1と同様にしてKNN層形成用前駆体溶液を調製した。すなわち、
前駆体溶液中のカリウムに対するナトリウム量(過剰Na量)を、10モル%,20モル
%,40モル%および50モル%に調製した。これらの前駆体溶液をNb:STO(Nb
ドープSrTiO3)単結晶基板上にスピンコート法により塗布し、ホットプレート上で
乾燥、仮焼成した後、700℃にてラピッドサーマルアニールを施した。この工程を数回
繰り返し、4種の厚さ約1μmの多結晶KNN層を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
また、比較例1として、前駆体溶液にナトリウムを含まず、カリウムエトキシドおよび
ニオブエトキシドを、K:Nb=1.0:1.0のモル比で混合した以外は実施例2と同
様にしてニオブ酸カリウム層(KN層)を形成した。
【0073】
得られたKNN層およびKN層について、以下の評価を行った。
【0074】
(1) KNN層の組成分析
ICP(誘導結合型プラズマ)発光分析法によって、実施例2にかかるKNN層の組成
分析を行った。その結果を表1に示す。表1より、実施例のKNN層では、式(KaNa1
-axNbO3におけるxは1より大きく、Nbに対して、KおよびNaが化学量論組成に
比べて過剰に含まれることが確認された。また、前駆体溶液におけるNa量を増加させて
も「x」の値は最大で約1.1であった。
【0075】
(2) SEMによる層の表面観察
実施例2にかかる2種のKNN層(x=1.04,1.09)および比較例1にかかる
KN層の表面をSEMによって観察した。その結果を図8に示す。図8(A)、(B)は
、実施例2の結果であり、図8(C)は比較例1の結果である。図8(A)、(B)より
、実施例2にかかるKNN層は、均質で良好なモフォロジーが得られることが確認された
。これに対し、図8(C)より、比較例1のKN層では、異相が形成されていることが確
認された。
【0076】
(3) XRDによる結晶性
上記(2)で用いたと同じサンプルについて、XRDによって結晶性を調べた。その結
果を図9に示す。図9において、符号「a」および「b」で示すチャートは、実施例2に
かかるKNN層の結果であり、符号「c」で示すチャートは比較例1にかかるKN層の結
果を示す。
【0077】
図9から、実施例2にかかるKNN層は、良好な結晶性を示し、(100)配向してい
ることが確認された。これに対し、比較例1のKN層は、異相(K4Nb617)のピーク
が確認され、良好な結晶性が得られないことが確認された。
【0078】
(4) ラマン分光分析
実施例2で得られたKNN層、すなわち、カリウムに対するナトリウム量(過剰Na量
)を、10モル%,20モル%,40モル%および50モル%に調製した前駆体溶液を用
いて得られたKNN層、および過剰Na量を30モル%に調整した前駆体溶液を用いて実
施例2と同様にして得られたKNN層について、ラマン分光分析を行った。その結果を図
12に示す。図12において、符号aから符号eは、前記過剰Na量が10モル%から5
0モル%のときのスペクトルを示す。
【0079】
図12のスペクトルから、過剰Na量によって、KNNのAサイトに由来する第1ピー
ク(500から550cm-1の間にあるピーク)がシフトし、かつ、600cm-1付近の
第2ピークがブロード化している。このことから、カリウムおよびナトリウムはAサイト
に存在することが確認された。
【0080】
(5) X線解析から求めた面間隔
実施例2における各サンプルについて、X線解析(θ−2θ)のピークから(100)
面の面間隔を求めた。その結果を図13に示す。
【0081】
図13から、Na過剰量が増加するにしたがって面間隔(d(100))の値が小さく
なることが確認された。これは、ナトリウムの原子半径がカリウムより小さいため、ナト
リウムの添加量が多くなるにつれて面間隔が小さくなることによる。このことからも、カ
リウムおよびナトリウムは、Aサイトに存在することが確認された。
【0082】
2.3.実施例3
実施例1で述べたと同様な方法で、KNN層形成用前駆体溶液を調製した。この前駆体
溶液をNb:STO(NbドープSrTiO3)単結晶基板上にスピンコート法により塗
布し、ホットプレート上で乾燥、仮焼成した後、700℃にてラピッドサーマルアニール
を施した。この工程を数回繰り返し、厚さ約1μmの多結晶KNN層を得た。このKNN
層上に、リフトオフ法により、厚さ100nm、直径約30μmの白金電極を形成した。
白金の成層にはスパッタリング法を用いた。この基板を白金被覆シリコン基板上に銀ペー
ストを介して接着した。
【0083】
このようにして作成したサンプルについて、AFM(原子間力顕微鏡)により電界−歪
の測定を行った。その結果を図10に示す。図10の電界−歪曲線から、本実施例のKN
N層は、電圧により圧電振動を発生することが示された。またこの結果より、実施例1で
観察されたヒステリシス曲線はKNN層の圧電特性に起因するものであることが確認され
た。
【0084】
2.4.実施例4
実施例1で述べたと同様な方法で、KNN層形成用前駆体溶液を調製した。このゾル溶
液をSTO(SrTiO3)単結晶基板上にスピンコート法により塗布し、ホットプレー
ト上で乾燥、仮焼成した後、700℃にてラピッドサーマルアニールを施した。この工程
を数十回繰り返し、厚さ約10μmの多結晶KNN層を得た。このKNN層をCMPで平
坦化した後、KNN層上に厚さ100nmのアルミニウム層を蒸着し、フォトリソグラフ
ィーにより2ポート型櫛歯電極(L/S=5μm)を形成し、ネットワークアナライザを用い
てSAW伝搬特性を表すS21パラメーターの測定を行った。
【0085】
図11に示すのはS21パラメーターの測定結果であるが、240MHz付近に比帯域
幅約15%のKNN/STO基板の共振波形(符号「a」で示す)が観察された。図11
から、本実施例のKNN/STO基板は、応力により表面弾性波を励震することが確認さ
れた。
【0086】
2.5.実施例5,参考例1
カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシドおよびニオブエトキシドを、K:Na:N
b=1.0:0.2:1.0のモル比で混合し、この混合液をブチルセロソルブ中で還流
し、トリプルアルコキシド溶液を調整した。さらに、この溶液の安定化剤としてジエタノ
ールアミンを添加した。このようにして前駆体溶液を調整した。なお、ジエタノールアミ
ンの代わりに酢酸を用いることもできる。この前駆体溶液を、配向制御層として多結晶ラ
ンタン酸ニッケル(LNO)層を形成した基体(ランタン酸ニッケル層/白金層/酸化シ
リコン層/シリコン基板)上にスピンコート法により塗布し、ホットプレート上で乾燥、
仮焼成した後、700℃にてラピッドサーマルアニールを施した。この工程を8回繰り返
して、厚さ約1μmの多結晶ニオブ酸ナトリウムカリウム(KNN)層を得た。
【0087】
このサンプルを用いて、その表面平坦性をSEMにて評価した。その結果を図14(A
)に示す。この結果から、本実施例のKNN層は、配向制御層であるLNO層の結晶性を
反映して、緻密で良好な結晶性を有することが確認された。また、このサンプルについて
、XRDによって結晶性を調べたところ、図15(A)に示す結果が得られた。この結果
から、本実施例では、KNN層は、1μmの膜厚であっても、(100)単一配向してい
ることが確認された。
【0088】
さらに、本実施例5のKNN層について、SAW伝搬特性を表すSパラメータを観察し
たところ、伝搬損失は−1db以下であり、SAWデバイス等に適用しうる小さい値であ
ることを確認した。
【0089】
参考例1として、実施例5における配向制御層を形成しない他は、実施例5と同様にし
てKNN層を形成した。このKNN層の表面平坦性をSEMにて評価した。その結果を図
14(B)に示す。この結果から、本実施例のKNN層は、配向制御層であるLNO層を
有さないため、表面平坦性が実施例5に比べて劣るものであった。さらに、このKNN層
をXRDによって結晶性を調べた。その結果を図15(B)に示す。この結果から、白金
層上にKNN層を形成すると、KNN層はランダム配向することが確認された。
【0090】
3.適用例
3.1.表面弾性波素子
次に、本発明の第1の圧電体積層体100を適用した表面弾性波素子の一例について、
図面を参照しながら説明する。
【0091】
図16は、本実施形態に係る表面弾性波素子300を模式的に示す断面図である。
【0092】
表面弾性波素子300は、図1および図4に示す第1の圧電体積層体100を適用して
形成される。すなわち、表面弾性波素子300は、圧電体積層体100における基体1と
、基体1上に形成された圧電体層3と、圧電体層3上に形成された電極、すなわちインタ
ーディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極
18,19は、図2に示す電極4をパターニングして形成される。
【0093】
3.2.周波数フィルタ
次に、本発明の表面弾性波素子を適用した周波数フィルタの一例について、図面を参照
しながら説明する。図17は、周波数フィルタを模式的に示す図である。
【0094】
図17に示すように、周波数フィルタは積層体140を有する。この積層体140とし
ては、上述した表面弾性波素子300と同様の積層体(図16参照)を用いることができ
る。すなわち、積層体140は、図1および図4に示す基体1と、圧電体層3とを有する
ことができる。
【0095】
積層体140は、その上面に、図1および図4に示す電極4をパターニングして形成さ
れるIDT電極141、142を有する。また、IDT電極141、142を挟むように
、積層体140の上面には吸音部143、144が形成されている。吸音部143、14
4は、積層体140の表面を伝播する表面弾性波を吸収するものである。一方のIDT電
極141には高周波信号源145が接続されており、他方のIDT電極142には信号線
が接続されている。
【0096】
3.3.発振器
次に、本発明の表面弾性波素子を適用した発振器の一例について、図面を参照しながら
説明する。図18は、発振器を模式的に示す図である。
【0097】
図18に示すように、発振器は積層体150を有する。この積層体150としては、上
述した表面弾性波素子300と同様の積層体(図16参照)を用いることができる。すな
わち、積層体150は、図1および図4に示す基体1と、圧電体層3とを有することがで
きる。
【0098】
積層体150の上面には、IDT電極151が形成されており、さらに、IDT電極1
51を挟むように、IDT電極152、153が形成されている。IDT電極151を構
成する一方の櫛歯状電極151aには、高周波信号源154が接続されており、他方の櫛
歯状電極151bには、信号線が接続されている。なお、IDT電極151は、電気信号
印加用電極に相当し、IDT電極152、153は、IDT電極151によって発生され
る表面弾性波の特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分を共振させる共振用電極
に相当する。
【0099】
また、前述した発振器をVCSO(Voltage Controlled SAW Oscillator:電圧制御
SAW発振器)に応用することもできる。
【0100】
以上述べたように、周波数フィルタおよび発振器は、本発明に係る表面弾性波素子を有
することができる。
【0101】
3.4.薄膜圧電共振子
次に、本発明の圧電体積層体を適用した薄膜圧電共振子の一例について、図面を参照し
ながら説明する。
【0102】
3.4.1.第1の薄膜圧電共振子
図19は、本実施形態の一例である第1の薄膜圧電共振子700を模式的に示す図であ
る。第1の薄膜圧電共振子700は、ダイアフラム型の薄膜圧電共振子である。
【0103】
第1の薄膜圧電共振子700は、基板701と、弾性層703と、下部電極704と、
圧電体層705と、上部電極706と、を含む。薄膜圧電共振子700における基板70
1と、下部電極704、圧電体層705、および上部電極706は、それぞれ図5および
図6に示す圧電体積層体200における基体1、下部電極2、圧電体層3、および上部電
極4に相当する。また、弾性層703としては、図5において図示しないバッファ層(図
6における配向制御層)などの層を用いることができる。すなわち、第1の薄膜圧電共振
子700は、図5および図6に示す圧電体積層体200を有する。
【0104】
基板701には、基板701を貫通するビアホール702が形成されている。上部電極
706上には、配線708が設けられている。配線708は、弾性層703上に形成され
た電極709と、パッド710を介して電気的に接続されている。
【0105】
3.4.2.第2の薄膜圧電共振子
図20は、本実施形態の一例である第2の薄膜圧電共振子800を模式的に示す図であ
る。第2の薄膜圧電共振子800が図19に示す第1の薄膜圧電共振子700と主に異な
るところは、ビアホールを形成せず、基板801と弾性層803との間にエアギャップ8
02を形成した点にある。
【0106】
第2の薄膜圧電共振子800は、基板801と、弾性層803と、下部電極804と、
圧電体層805と、上部電極806と、を含む。薄膜圧電共振子800における基板80
1、下部電極804、圧電体層805、および上部電極806は、それぞれ図5および図
6に示す圧電体積層体200における基体1、下部電極2、圧電体層3、および上部電極
4に相当する。また、弾性層803としては、図5において図示しないバッファ層(図6
における配向制御層6)などの層を用いることができる。すなわち、第2の薄膜圧電共振
子800は、図5および図6に示す圧電体積層体200を有する。エアギャップ802は
、基板801と、弾性層803との間に形成された空間である。
【0107】
本実施形態に係る圧電薄層共振子(例えば、第1の薄膜圧電共振子700および第2の
薄膜圧電共振子800)は、共振子、周波数フィルタ、または、発振器として機能するこ
とができる。
【0108】
3.5.圧電アクチュエータ
本発明の第2の圧電体積層体200を圧電アクチュエータに適応した例として、インク
ジェット式記録ヘッドについて説明する。図21は、本実施形態に係る圧電アクチュエー
タを適用したインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す側断面図であり、図22は、
このインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下逆に
示したものである。
【0109】
図21および図22に示すように、インクジェット式記録ヘッド50は、ヘッド本体5
7と、ヘッド本体57上に形成される圧電部54と、を含む。圧電部54には図5および
図6に示す圧電体積層体200が適用され、下部電極2、圧電体層3および上部電極4が
順に積層して構成されている。インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電部54は、圧
電アクチュエータとして機能する。
【0110】
ヘッド本体57は、ノズル板51と、インク室基板52と、弾性層55と、から構成さ
れている。図5および図6に示す圧電体積層体200における基体1は、図21における
弾性層55を構成する。弾性層55としては、図5および図6において図示しないバッフ
ァ層などの層を用いることができる。また、圧電体積層体200における基体1は、図2
1におけるインク室基板52を構成する。インク室基板52にはキャビティ521が形成
されている。また、ノズル板51には、キャビティ521と連続するノズル511が形成
されている。そして、図22に示すように、これらが筐体56に収納されて、インクジェ
ット式記録ヘッド50が構成されている。ノズル511の穴径は10〜30μmである。
またノズル511は、1インチあたり90ノズルないし300ノズルのピッチで形成され
る。
【0111】
各圧電部は、圧電素子駆動回路(図示しない)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路
の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。すなわち、各圧電部54
はそれぞれ振動源(ヘッドアクチュエータ)として機能する。弾性層55は、圧電部54
の振動(たわみ)によって振動し、キャビティ521の内部圧力を瞬間的に高めるよう機
能する。圧電体への最大印加電圧は20V〜40Vであり、20kHz〜50kHzで駆
動する。代表的なインク吐出量は2ピコリットルから5ピコリットルの間である。
【0112】
なお、上述では、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明した
が、本実施形態は、圧電体積層体を圧電アクチュエータとして用いた液体噴射ヘッドを対
象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用
いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射
ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられ
る電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げる
ことができる。
【0113】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能で
ある。たとえば、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば
、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。
また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む
。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一
の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成
に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0114】
1 基体、2 下部電極、3 圧電体層、4 電極(上部電極)、6 配向制御層、3
2 第1圧電体層、34 第2圧電体層、36 第1相の部分、38 第2相の部分、1
00,200 圧電体積層体、300 表面弾性波素子、700,800 薄膜圧電共振
子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の上方に形成された、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる第1圧電体層と、
を含む、圧電体積層体。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1圧電体層は、組成式(KaNa1-axNbO3で表され、該組成式において、0
.1<a<1であり、1≦x≦1.2である、圧電体積層体。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1圧電体層は、前記組成式において、1<x≦1.1である、圧電体積層体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記第1圧電体層の下方に、配向制御層が形成された、圧電体積層体。
【請求項5】
請求項4において、
前記配向制御層は、ランタン酸ニッケルからなる、圧電体積層体。
【請求項6】
請求項5において、
前記ランタン酸ニッケルは多結晶である、圧電体積層体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記第1圧電体層と連続する、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる第2圧電体層を有
し、
前記第2圧電体層は、該第2圧電体層と接し、かつ前記第1圧電体層と反対側に位置す
る層を構成する元素を含む、圧電体積層体。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記第1圧電体層は、
組成式(KaNa1-a)NbO3で表される圧電体からなる第1相の部分と、
組成式(KaNa1-axNbO3(ただし、1<x)で表される圧電体からなる第2相の
部分と、を含む、圧電体積層体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記第1圧電体層の上方に形成された電極を有する、圧電体積層体。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記基体と前記第1圧電体層との間に形成された第1電極と、
前記第1圧電体層の上方に形成された第2電極と、を有する、圧電体積層体。
【請求項11】
請求項9に記載の圧電体積層体を含む、表面弾性波素子。
【請求項12】
請求項10に記載の圧電体積層体を含む、薄膜圧電共振子。
【請求項13】
請求項10に記載の圧電体積層体を含む、圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−155272(P2011−155272A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46022(P2011−46022)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【分割の表示】特願2006−113494(P2006−113494)の分割
【原出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】