説明

圧電体素子及びその製造方法、並びに液体吐出ヘッド

【課題】複数の圧電体薄膜を積層して形成される圧電体素子における膜の密着性を高めて剥離を防止し、耐久性、信頼性を高めるとともに変位効率(駆動効率)を向上させる圧電体素子を提供する。
【解決手段】基板30上に、第1の電極32が形成され、その上に第1の圧電体膜34が形成される。さらに第1の圧電体膜34の上に拡散ブロック層として機能する金属酸化物膜36が積層され、その上に金属膜38が積層して形成される。金属膜38の上に第2の圧電体膜76が形成され、その上に第2の電極46が積層して形成される。第1の圧電体膜34の分極方向と第2の圧電体膜44の分極方向は互いに異なる。第1の電極32と第2の電極46を接地電位とし、金属膜38を含む中間電極40をドライブ電極とすることができる。各層の圧電体膜を互いに異なる組成で構成することができる。中間層40の厚みと応力値の積は100N/m未満であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電体素子及びその製造方法に係り、特にアクチュエータなどの各種用途に利用される圧電体薄膜材料を使った圧電体素子及びその製造技術、並びにこれを用いた液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧力センサ用途に複数の圧電膜を積層した構成が開示されている。この圧力センサは、基板上に電極層と圧電膜とが交互に積層され、2層以上の圧電膜を備えた圧電膜積層体として構成されている。電極には、Pt(白金)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)、TiN(窒化チタン)、Ru(ルテニウム)などの材料が用いられ(特許文献1の段落0034)、各層の圧電膜はスパッタ法によって形成される(同文献1の段落0077)。
【0003】
特許文献2には、白金またはパラジウムを電極としたバイモルフ構造体の圧電アクチュエータが提案されている。同文献2の段落0018及び図3によれば、外部電極としての白金電極上に圧電性薄膜(PZT薄膜)が形成され、その上に内部電極として白金電極が形成され、さらにその上に別のPZT薄膜と白金電極(外部電極)が積層して形成された構成となっている。
【0004】
特許文献3には、スパッタ法などの薄膜技術を用いて圧電体と導電体を交互に積層して製造される積層型アクチュエータ素子とその配線方法が提案されている。同文献3においても、圧電体の材料や電極(白金、アルミニウム、金、銀)の材料に関して一般的な材料が開示されている。
【0005】
特許文献4には、一対の電極と、その間に設けられた圧電体部とを有する圧電素子において、その圧電体部の中に分極方向が互いに反転した状態の第1の圧電薄膜と第2の圧電薄膜とを有する構成が開示されている。これは、基板温度を異ならせて第1の圧電薄膜と第2の圧電薄膜とを連続的に形成し、圧電体部の厚さ方向で組成を変えることで薄膜バイモルフ構造を実現したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−139338号公報
【特許文献2】特開平8−116103号公報
【特許文献3】特開平9−181368号公報
【特許文献4】特開2001−77438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1から3に記載のように、スパッタ法によって圧電体薄膜を形成し、電極と圧電体膜とを交互に積層して形成する構成が知られている。しかし、これら文献に開示されている一般的な電極材料、圧電体材料を用いて、従来の方法で複数の圧電体膜を積層形成すると、電極が剥離したり、圧電体が剥離したりするという問題があり、実際には圧電薄膜によってこのような積層構造を形成することは困難であった。
【0008】
例えば、引用文献2のように、白金またはパラジウム電極を中間層(内部電極)とした場合、圧電体の形成時に膜の剥離が生じたり、クラックが生じたりする懸念があった。
【0009】
他の具体的な例を述べると、基板温度を350℃以上650℃以下とする気相成長を用いた圧電体薄膜の形成(基板温度は気相成長にて直接圧電体材料が結晶成長する温度)において、圧電体を形成した後に、通常の条件下でPtやIr(イリジウム)などの電極を形成し、その後、当該電極上に圧電体を形成すると、電極が剥離したり、圧電体が剥離したりするという問題があった。
【0010】
また、このような剥離等が発生しない場合であっても、成膜後の膜の密着性が悪く、デバイスとしての耐久性に課題があった。密着性を向上させるために、Ti(チタン)などの密着層を用いても、実際には圧電体が剥離してしまうという問題があった。
【0011】
特許文献4に開示された構成は、圧電体部の内部(第1の圧電薄膜と第2の圧電薄膜との間)に中間電極が存在しない。同文献4には、第1の圧電薄膜と第2の圧電薄膜との間に電極材料であるPt、Au、Pd、Ag等の電極膜を形成してもよい旨の記載があるが、上記した剥離の問題や密着性の低下による耐久性の課題に関する言及がない。
【0012】
また、上記課題の他、圧電体素子をアクチュエータ等として利用する場合、駆動回路(ドライバ)の負担低減等の観点から、できるだけ低電圧の駆動電圧の印加によって大きな変位を得ることが望まれる。
【0013】
この点、特許文献4には、駆動方法や駆動電圧の印加方法に関する記載がなく、駆動回路の負担低減等の観点は示されていない。また、特許文献4の方法のように中間電極のない構造であると、アクチュエータとして同じ変位を出すために必要な電圧は、単相のものと同じになり、駆動電圧が下がるといった効果がない。また、分極の異なる圧電体が直接接していることにより、界面の分極状態が不安定になり、圧電体の分極状態の安定性が悪い。さらに、圧電体が脱分極した際に、再分極する手段がないなどの課題がある。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、複数の圧電体薄膜を積層して形成される積層体における膜の密着性を高めて剥離を防止し、耐久性、信頼性の高い圧電体素子を提供するとともに、変位効率(駆動効率)のよい圧電体素子を提供することを目的とする。また、このような圧電体素子を製造することできる製造方法を提供することを目的とし、併せてかかる圧電体素子を用いた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明に係る圧電体素子は、基板と、前記基板上に形成された第1の電極と、前記第1の電極の上に積層して形成された第1の圧電体膜と、前記第1の圧電体膜の上に積層して形成された金属酸化物膜と、前記金属酸化物膜の上に積層して形成された金属膜と、前記金属膜の上に積層して形成された第2の圧電体膜と、前記第2の圧電体膜の上に積層して形成された第2の電極と、を備え、前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向とが異なることを特徴とする。
【0016】
第1の圧電体膜の上に積層される金属酸化物膜は、拡散ブロック層として機能し、圧電体材料の成分や酸素原子が金属膜に拡散するのを抑止する。このため金属膜の構造変化や密着性の低下が防止され、複数の圧電体膜を金属酸化物膜及び金属膜の積層物(中間層)を介して積層して形成することができる。
【0017】
第1の圧電体膜と第2の圧電体膜との間に設けられた金属膜は中間電極として利用される。金属酸化物膜として導電性材料が用いられる場合、この金属酸化物膜と金属膜とを含んで中間電極が構成される。本発明の圧電体素子によれば、第1の電極と第2の電極とを接地電位とし、中間電極に駆動電圧を印加する構成を採用できる。このような構成は駆動回路(ドライバ)の負担が少なく、低電圧の駆動電圧の印加によって大きな変位を得ることができる。
【0018】
他の発明態様については、本明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の積層体で課題となっている膜の剥離や密着性の低下を防止することができ、複数の圧電体膜を積層構造で形成することができる。これにより、耐久性、信頼性の高い圧電体素子を得ることができる。また、本発明の圧電体素子によれば、変位効率の向上を実現でき、駆動回路の負担が少ない、低電圧の駆動電圧による駆動が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る圧電体素子の構成例を示す断面図
【図2】第1実施例に係る圧電体素子の製造プロセスを示す説明図
【図3】第1実施例に係る圧電体素子の製造プロセスを示す説明図
【図4】第1実施例によって作製された圧電体膜の積層体の構成を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真の図
【図5】第1実施例により作製された圧電体膜のX線回折(XRD)特性を示す図
【図6】第1実施例により作製された圧電体素子(デバイス)の構成図
【図7】中間層の厚みと剥離の関係を調べた実験結果をまとめた図表
【図8】第2実施例に係る圧電体素子(デバイス)の構成図
【図9】第1実施例、第2実施例及び比較例2についての分極方法と駆動電圧をまとめた図表
【図10】本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<実施形態>
図1は本発明の実施形態に係る圧電体素子の構成例を示す断面図である。図1に示した圧電体素子10は、支持体としての基材12の上に、第1の電極14が形成され、さらにその上に第1の圧電体膜16が形成され、さらにその上に金属酸化物膜18、金属膜20、第2の圧電体膜22、及び第2の電極24がこの順で積層して形成された積層構造体として構成されている。
【0023】
なお、図1その他の図面に示す各層の膜厚やそれらの比率は、説明の都合上、適宜変更して描いており、必ずしも実際の膜厚や比率を反映したものではない。また、本明細書では、積層構造を表現するにあたり、基材12の表面から基材厚み方向に離れる方向を「上」として表現する。図1では基材12を水平に保持した状態で基材12の上面に、第1の電極14その他の各層(14〜24)が順次重ねられている構成となっているため、重力の方向(図1の下方)を下方向としたときの上下の関係と一致している。ただし、基材12の姿勢を傾けたり、反転させたりすることも可能である。基材12の姿勢に依存する積層構造の積み重ね方向が必ずしも重力の方向を基準とする上下方向と一致しない場合についても、積層構造の上下関係を混乱なく表現するために、基材12の面を基準にして、その面から厚み方向に離れる方向を「上」と表現する。例えば、図1の上下を反転させた場合であっても、基材12上に第1の電極14が形成され、その上に第1の圧電体膜16が積層されるという表現で記述される。
【0024】
図1に示した圧電体素子10は、金属酸化物膜18と金属膜20とが積層されてなる中間層26を挟んで2層の圧電体膜(第1の圧電体膜16と第2の圧電体膜22)が積層される構成を有し、これら2層の圧電体膜(16、22)の下面に第1の電極14が形成され、最上面に第2の電極24が形成された構成となっている。
【0025】
ここでは、2層の圧電体膜(16、22)を例示しているが、本発明の実施に際しては、中間層(符号26と同等のもの)を介在させながら、3層以上さらに多数の圧電体膜を積層する形態も可能である。その場合、図1の第2の電極24に代えて、中間層(符号26と同等のもの)が形成され、圧電体膜と中間層が順次交互に積層される積層構造体となる。圧電体膜を重ねる段数(積層数)をnとすると(nは2以上の整数)、中間層は(n−1)層形成されることになる。そして、最上層(n層目)の圧電体膜の上に、符号24のような第2の電極が形成される。
【0026】
基材12の材料は、特に限定されず、例えば、シリコン(Si)、ガラス、セラミックなど、様々な材料を用いることができる。シリコン、酸化シリコン、ステンレス(SUS)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、アルミナ、サファイヤ、SiC、及びSrTiO等の基板が挙げられる。また、基材12としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
【0027】
第1の電極14には、Pt(白金)、Al(アルミミウム)、Mo(モリブデン)、TiN(窒化チタン)、Ru(ルテニウム)、Au(金)、銀(Ag)などの材料を用いることができる。特に、第1の電極14は、白金族の金属を含む構成が好ましい。また、基材12との密着性を高めるために、密着層としてTiやTiWなどを用いる構成が好ましく、この密着層の上に白金族の金属を積層して形成する態様がさらに好ましい。
【0028】
第2の電極24についても、第1の電極14と同様に、各種の材料を用いることができる。特に、第2の電極24は、白金族或いは銅族の金属を含む構成が好ましい。また、密着層としてTiやTiWなどの密着層の上に白金族の金属を積層して形成する態様がさらに好ましい。第1の電極14と第2の電極24は、同じ材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。例えば、第1の電極14はTiW/Ptの積層構造とし、第2の電極24はTiW/Auの積層構造とすることができる。第1の電極14と第2の電極24の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
【0029】
金属酸化物膜18は、1層目の圧電体膜(符号16)からの酸素原子や圧電体材料成分の拡散反応をブロックする拡散ブロック層としての役割を果たす。金属酸化物膜18は、導電体であってもよいし、絶縁体であってもよい。金属酸化物膜18には、白金族の酸化物を含む構成、或いはチタン属の酸化物を含む構成を採用することが好ましい。例えば、金属酸化物膜18として、Irの酸化物(「IrOx」或いは「Ir−O」と表記する。)、或いは、Tiの酸化物(TiOやTiOなど)を採用することができる。
【0030】
金属酸化物膜18上に重ねて形成される金属膜20は、2層目の圧電体膜(符号22)を気相成長(スパッタ法等)によって形成するために有益な役割を果たす。本実施形態に用いられる圧電体膜は、酸化物の上に成長しにくく、金属上に成長しやすい。したがって、金属酸化物膜18の上に金属膜20を形成し、この金属膜20の上に圧電体膜(第2の圧電体膜22)を形成する構成が好ましい。金属膜20の材料は、特に限定されないが、例えば、Ir、Prなどの白金族に属する金属を含むものであることが好ましい。
【0031】
金属酸化物膜18と金属膜20とを積層してなる中間層26は中間電極として利用することができる。中間層26を中間電極として利用する場合、金属酸化物膜18は導電体材料で構成されることが好ましい。金属酸化物膜18として絶縁体材料を用いた場合であっても、金属膜20の部分を中間電極として利用することができる。
【0032】
中間層26の構造は、アモルファスでも結晶でもかまわない。また、中間層26の表面粗さや膜の構造(柱状構造や粒状など)は特に限定されない。さらには、結晶の方位や配向性にもこだわらない。中間層26は酸化物(金属酸化物膜18)を含む構成であることが好ましいが、窒素を含んでいてもよい。
【0033】
第1の圧電体膜16及び第2の圧電体膜22は、気相成長法にて基板温度を上げて成膜中に結晶化させる方法で形成される。酸化物圧電体であれば、特に材料は限定されない。第1の圧電体膜16と第2の圧電体膜22は、同じ材料(組成)であってもよいが、異なる材料とすることができる。本発明の実施に際しては、第1の圧電体膜16と第2の圧電体膜22とで組成を異ならせることが好ましい。
【0034】
例えば、第1の圧電体膜16と第2の圧電体膜22のうち、一方の圧電体膜はNb(ニオブ)をドープしたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成し、他方の圧電体膜はNbをドープしないPZTで構成することができる。
【0035】
また、第1の圧電体膜16(1層目)の分極方向と、第2の圧電体膜22(2層目)の分極方向は異なっている。例えば、1層目は分極方向が下向き(中間電極から下部電極に向かう方向)、2層目は分極方向が上向き(中間電極から上部電極に向かう方向)となっている。1層目の分極方向を上向き、2層目の分極方向を下向きとする形態も可能である。また、1層目の分極方向と2層目の分極方向とが互いに平行で逆向きである関係に限らず、分極方向を直交させるなど、各層の分極方向が非平行となる関係もあり得る。
【0036】
所望の分極状態を得るために、圧電体膜を挟む対向電極間に電圧を印加するなどの方法により分極処理が行われる。分極処理は、加熱を伴ってもよい。また、分極処理の方法として、コロナ法などの方式を採用してもよい。なお、成膜時の分極状態をそのまま利用することができる場合には、分極処理を省略できる。
【0037】
<剥離原因の究明>
従来の技術で圧電体膜と電極とを交互に積層する積層構造体を製造する場合に、電極等の剥離が発生する原因を鋭意調査したところ、圧電体を成膜するときの成膜温度にて、圧電体材料から酸素原子や圧電体材料成分(例えばPZT材料であれば、Pbなど)が電極に拡散し、電極材料の構造変化や密着性低下を引き起こし、剥離することが解った。
【0038】
電極等の剥離を防止して耐久性の高いデバイスを得るためには、基板上に形成されている圧電体膜における圧電体材料の成分が電極層に拡散することを阻止(ブロック)することが有益であり、特に酸素原子のブロックが重要であることが判明した。
【0039】
以上の知見から、本発明の実施形態においては、1層目の圧電体膜(第1の圧電体膜16)を形成した後に、当該圧電体膜(16)の上に拡散ブロック層としての金属酸化物膜18を形成し、この金属酸化物膜18によって1層目の圧電体膜(第1の圧電体膜16)からの拡散反応をブロックする。そして、当該金属酸化物膜18の上に金属膜20を形成し、この金属膜20上に2層目の圧電体膜(第2の圧電体膜22)を形成する。つまり、1層目の圧電体膜と2層目の圧電体膜との間に、金属酸化物膜と金属膜とを積層してなる中間層を介在させ、この中間層を挟んで圧電体膜を積層して形成する。このような工程の繰り返しによって、強固な密着性を持って複数層の圧電体膜を積層することができる。
【0040】
<第1実施例>
図2及び図3は第1実施例に係る圧電体素子の製造プロセスを示す図である。
【0041】
(工程1):まず、SOI(Silicon On Insulator)基板30を準備する(図2(a))。SOI基板30は、ハンドル層としてのSi層301と、絶縁層(BOX層)としての酸化膜層(SiO)層302と、デバイス層としてのSi層303とが積層された構成を有する。SOI基板30に代えて、通常のシリコン基板(Siウエハ)を用いることも可能である。
【0042】
(工程2):SOI基板30のSiO層303の上に(図1において上面に)、スパッタ法にてTiWを膜厚20nm形成し、その上に重ねてIrを膜厚150nm形成した。このTiW(20nm)/Ir(150nm)の積層膜が下部電極32となる(図2(b))。
【0043】
(工程3):その後、下部電極32の上に、第1の圧電体膜としての真性PZT薄膜34を500℃の成膜温度にてスパッタ法により、2μmの膜厚で形成した(図2(c))。
【0044】
PZT薄膜34の成膜には、高周波(RF;radio frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いた。真空度0.5Pa、Ar/O混合雰囲気(O体積分率2.5%)の条件下で、Pb1.3Zr0.52Ti0.483のターゲットを用いて、PZT膜を成膜した。
【0045】
(工程4):さらにこのPZT薄膜34の上に、350℃の成膜温度にてスパッタ法によりIr−O膜36を50nmの膜厚で形成した(図2(d))。
【0046】
(工程5):さらにこのIr−O膜36の上に、Ir膜38を20nmの膜厚で形成した(図2(e))。Ir−O膜36とIr膜38の積層膜(符号40)が「中間電極」に相当し、「中間層」に相当する。
【0047】
Ir−O膜36の形成条件としては、Irターゲットを用いた反応性スパッタ法にて、圧力0.5Pa、50%Arと50%Oの混合ガスにて行った。また、Ir膜38については、Ir−O膜36の形成後、Arガスのみで成膜することによって得た。
【0048】
Ir−O膜36は1層目のPZT薄膜34からのPb拡散ブロックや酸素拡散ブロックの役割を果たす。また、Ir−O膜36上に形成されるIr膜38は、中間電極の抵抗値を下げるために、また次層のPZTの成長を初期(1層目の)PZTの成長と同じ条件で行うために挿入した。Ir−O膜36及びIr膜38の成膜温度は、密着性向上や抵抗率の低下させるために本実施例は350℃としたが、室温でもよいし、より高温でもかまわない。なお、実際に温度を変えて実施したところ、同じ結果が得られている。
【0049】
(工程6):中間電極40を形成後、この上に2層目の圧電体として、NbをドープしたPZT薄膜44を形成した(図3(f))。なお、Nb等のドーパントを添加していない「真性PZT」と区別するために、NbをドープしたPZTを「NbドープPZT」或いは「PNZT」と表記する場合がある。PZT薄膜34の成膜には、高周波(RF;radio frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いた。成膜ガスは97.5%Arと2.5%Oの混合ガスを用い、ターゲット材料としてはPb1.3((Zr0.52 Ti0.48)0.88 Nb0.12)O3の組成のものを用いた。成膜圧力は2.2mTorrとした。こうして2層目のPZT薄膜44の膜厚は約2μm形成した。
【0050】
(工程7):その後さらに、2層目のPZT薄膜44の上に、上部電極46を形成した(図3(g))。上部電極46は、下部電極32と同様に、スパッタ法にてTiWを膜厚20nm形成し、その上に重ねてIrを膜厚150nm形成した。このTiW(20nm)/Ir(150nm)の積層膜が上部電極46となる。こうして、図3(g)に示すような積層構造を得た。
【0051】
(工程8):その後、図3(h)に示すように、積層体における2層目のPZT薄膜44をエッチングして、所望の形状とする。なお、Ir−O膜やIr膜をパターニングしてから、PZT薄膜44を形成する態様も可能である。PZT薄膜44を所望の形状に形成した後に、第2電極をパターニングしてもよい。
【0052】
(工程9):最後に、このウエハ構造体について、図3(i)に示すように、SOI基板30の裏側(下面側)、すなわちSi層301を、エッチング等によって部分的に除去して、振動板として5μm厚でSi層303(デバイス層)を残し、キャビティ構造を作製した。SiO層302はエッチングストップ層として機能し、図3(i)ではSiO層302を残して、SiO層とSi層303とで振動板を構成している。ただし、SiO層302を除去して振動板を構成してもよい。
【0053】
上記のプロセスにより、図3(i)に示す構造体が得られた。図3(i)に示すような構成は、例えば、インクジェットヘッドに適用される。エッチングで除去した凹部空間(符号48)がインク室(圧力室)に対応する。
【0054】
<<図1の構成と図2及び図3の構成の対応関係について>>
図2及び図3のSOI基板30が図1の基材12に相当する。図2及び図3の下部電極32が図1の第1の電極14に相当する。図2及び図3のPZT薄膜34が図1の第1の圧電体膜16に相当し、図2及び図3のPZT薄膜44が図1の第2の圧電体膜22に相当する。図2及び図3のIr−O膜36が図1の金属酸化物膜18に相当し、図2及び図3のIr膜38が図1の金属膜20に相当する。図2及び図3の中間電極40が図1の中間層26に相当する。図2及び図3の上部電極46が図1の第2の電極24に相当する。
【0055】
参考のために、工程6によって2層目のPZT薄膜44が形成された状態における当該積層体の膜構成のSEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)写真を図4に示す。工程1〜6によって、図4に示すような構成の積層体が得られた。
【0056】
図4に示したように、中間電極40を挟んで2層のPZT薄膜34、44が強固な密着性で積層されており、剥離のない良好な積層構造体が得られている。
【0057】
<XRD特性について>
図5は、第1実施例により作製した2層の圧電体膜の積層体(図2(g))についてXRD(X‐ray diffraction;X線回折)にて解析した結果である。図5において、横軸は反射角2θの角度を表し、縦軸は回折強度を表している。X線回折による解析は、2層の圧電体膜を積層した積層構造体に対してまとめて上からX線を照射して結晶構造の解析をしている。図示のように、本例で作製されたPZT薄膜は、結晶の方位の分布がPNZT(100)、PNZT(200)に集中しており、(100)方向あるいは(001)方向に配向している結晶配向性を有する高配向度の圧電体膜である。第1実施例で説明した方法により、異相なく優れた結晶性を有する圧電体膜が良好に成膜できている。
【0058】
<成膜方法について>
圧電体膜の成膜方法としては気相成長法が好ましい。例えば、スパッタ法の他、イオンプレーティング法、MOCVD法(有機金属気相成長法)、PLD法(パルスレーザー堆積法)など、各種の方法を適用し得る。また、気相成長法以外の方法(例えば、ゾルゲル法など)を用いることも考えられる。
【0059】
<圧電材料について>
本実施形態に好適な圧電体としては、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むものが挙げられる。
【0060】
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
【0061】
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、ビスマスフェライト等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
【0062】
また、本実施形態の圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことが好ましい。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V、Nb、Ta、及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上述の一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜は、高い圧電歪定数(d31定数)を有するため、かかる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、変位特性の優れたものとなる。なお、一般式(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物の方が一般式(P)で表されるものよりも圧電定数が高くなる。
【0063】
また、一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜を備える圧電アクチュエータは、駆動電圧範囲において、リニアリティの優れた電圧―変位特性を有している。これらの圧電材料は、本発明を実施する上で良好な圧電特性を示すものである。
【0064】
<各圧電体膜の分極方向について>
本例の場合、1層目の圧電体膜(符号34)と2層目の圧電体膜(符号44)は異なる圧電材料で形成され、各層の圧電体膜の分極方向は互いに異なる方向となっている。分極方向は、電荷分布の偏りによる双極子モーメントのベクトル方向(マイナスからプラスへの向き)で定義される。
【0065】
1層目の真性PZT(符号34)に関しては、分極方向が下向き(中間電極40から下部電極32に向かう方向)となるようにするために、中間電極40に+30V、下部電極32を接地電位として5分間、分極処理を行った。分極処理は加熱しても構わないし、コロナ方などの方式でも構わない。
【0066】
その一方で、2層目のNbドープPZT薄膜(符号44)は、成膜当初から分極方向が上向き(中間電極40から上部電極46に向かう方向)に分極されていたものが得られている。
【0067】
圧電体の分極方向と同じ方向の電界が作用すると、圧電体は圧電横効果(d31モード)により、振動板の面内で収縮しようとする。振動板上に形成された圧電体膜が振動板の面内で収縮すると、振動板がその変形を拘束するため、振動板は厚み方向に撓み(曲げ)変形する。
【0068】
図6は、第1実施例により得られたデバイス50について、各圧電体膜(34,44)の分極方向を白抜き矢印で模式的に示したものである。この第1実施例により得られたデバイス50の上部電極46と下部電極32を接地電位に接続し、中間電極40に+9Vを印加したところ、変位として、約82nmが得られた。
【0069】
<比較例1>
比較例1として、次の手順により積層体を作製した。すなわち、Si基板上にTiW(20nm)とIr(150nm)を積層形成した後、この上にPZT薄膜を基板温度(成膜温度)500℃にてスパッタ法によって膜厚2μm形成した。この成膜後にPZT膜上に350℃にてIr膜を直接70nm形成した。つまり、この比較例1は、第1実施例の構成(図1)から金属酸化物膜18としてのIr−O膜を省略した形態となっている。
【0070】
Ir膜(70nm)の中間電極を形成後、この中間電極の上に直接2層目のPZT膜を形成した。形成条件は1層目と同じ条件にて、2μm厚を目標として形成した。
【0071】
しかしながら、成膜後に装置からサンプルを取り出したところ、2層目のPZT膜が剥離した状態であった。これは2層目のPZT薄膜の形成時にIr電極が酸化されたり、1層目のPZT薄膜からの圧電材料成分Pbの拡散の影響を受けてIr電極が変質して体積変化があり、PZT薄膜がIr電極(中間電極)から剥離したものと考えられた。
【0072】
このIr膜による中間電極をPtに変更した形態、さらには、密着層としてTiやTiWを形成した上にIr電極(又はPt電極)を形成した形態についても作製を試みたが、上記同様に2層目の圧電体膜の剥離が生じた。また、上記比較例1における中間電極としてのIr膜の膜厚を50nm、120nm、150nm、200nm、250nmと変えて、同様のサンプル作製をおこなったが、いずれも、2層目の圧電体膜の剥離が生じた。
【0073】
<中間層(中間電極)の厚みと剥離の関係について>
本実施形態による中間層の厚みと剥離の関係について調べたところ、図7に示す表のような結果になった。表中の実施例A〜Eにおける中間層は、第1実施例で説明した金属酸化物膜18と金属膜20を含む層である。中間層は、例えば、図1で説明したように、IrOxとIrの組み合わせであってもよいし、TiOのような絶縁体とIrのような金属膜との組み合わせであってもよい。ここでは、図1〜図4で例示した膜構成において中間層の厚みを変えて実験を行った。図7の表における実施例A〜Dに示したように、中間層の厚みが薄ければ(200nm未満であれば)、剥離の懸念はない。しかし、中間層の厚みが極端に薄くなると、例えば、50nm未満の場合には、電極として抵抗値が高くなったり、下層の(1層目)のPZTからの拡散反応のブロック性が低下するなど、問題となりうる。
【0074】
その一方、同表中の比較例に示すように、中間層の厚みが250nm以上になったものについて、上部圧電体(2層目)の剥離が発生した。これは、熱膨張係数差等による応力によって剥離したものと推察される。実施例Eに示したように、中間層の厚みが200nmの場合に一部剥離した状態が観察されたが、実用上許容できる場合も有りうると考えられる。中間層の厚みとして200nmが許容できるレベルの境界(上限)となる。
【0075】
以上の点から中間層の厚みは50nm以上、200nm以下が好ましい。より好ましくは、50nm以上200nm未満であり、さらに好ましくは50nm以上150nm以下である。
【0076】
上記の説明では、中間層の「厚み」をパラメータとして評価したが、剥離の有無に関して、実際は応力が主要因である。表に示した厚みを有する中間層の応力値を算出したところ、200nmのもので500MPa程度であった。すなわち、中間層の好ましい条件として、厚みと応力値から関係を考えると、中間層の応力値と厚みの積(応力×厚み)が100N/m以下であることが好ましい。なお、中間層の応力値はゼロ(零)であっても構わない。
【0077】
応力値と厚みの積は、材料に依存しない一般的な指標となる。拡散反応による剥離を防止した構成(拡散ブロック層としての金属酸化物膜を含む中間層を介して圧電体膜を積層する構成)を採用するとともに、熱膨張係数差による応力に起因する剥離を抑止する観点から、中間層の応力値と厚みの積が100N/m未満であることがより好ましく、75N/m以下であることがより好ましい。なお、中間層の応力値と厚みの積は小さい値であるほど(0に近い値であるほど)、熱膨張係数差による応力の影響が小さいと言えるため、中間層の応力値と厚みの積に関して好ましい下限値を規定する意義は乏しい。
【0078】
<第2実施例>
図8は、第2実施例によって得られたデバイスの構成図である。図8中、図6に示した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0079】
第2実施例では、第1実施例と同様なデバイス70を作成した。第2実施例では、1層目の圧電体(符号74)にNbドープPZTを適用し、2層目の圧電体(符号76)に真性PZT76を適用した。つまり、符号74で示したNbドープPZTは、図6の符号44と同等の組成であり、図8中符号76で示した真性PZTは、図6の符号34と同等の組成である。第1実施例と同様に、真性PZT(符号76)について分極処理を行い、図8の白抜き矢印で示すような分極状態を得た。すなわち、1層目の圧電体(符号74)の分極方向は上向き、2層目の圧電体(符号76)の分極方向は下向きである。
【0080】
こうして得られたデバイス70に関して、下部電極32と上部電極46を接地電位とし、中間電極40に−9Vを印加したところ、変位として約81nmが得られた。
【0081】
<比較例2>
比較例2のデバイスとして、第1実施例と同様のデバイス構造において、1層目の圧電体と2層目の圧電体をともにNbドープPZTのみで形成した。そして、1層目の圧電体の分極方向と2層目の圧電体の分極方向とを同一方向(ここでは、ともに上向き)とした。
【0082】
この比較例2のデバイスについて、駆動電圧の印加方法に関し、分極方向から最適な方向を選び、下部電極に+9V、中間電極を接地、上部電極に−9Vを印加した。その結果、変位としては96nmが得られた。しかし、駆動電圧の絶対値として18Vであり、第1実施例や第2実施例よりも大きな値となった。また、この比較例2の場合、正負の電圧出力に対応したドライバが必要であり、高価なものとなる。さらには、上下の電極が接地電位でないため、基板への電流リークや、上部電極への絶縁保護などの必要があり、構成が煩雑である。
【0083】
<分極方向と駆動電圧のまとめ>
図9は、第1実施例、第2実施例及び比較例2についての分極方法と駆動電圧をまとめた図表である。同表において「実施例1」は第1実施例を表し、「実施例2」は第2実施例を表し、「比較例」は比較例2を表す。「圧電体1」は1層目の圧電体膜を表し、「圧電体2」は2層目の圧電体膜を表している。また、同表において「変位/電位」は、変位量を駆動電圧の絶対値で割ったものであり、単位電圧あたりの変位効率を示す。図9から明らかなように、比較例2に比べて、第1実施例及び第2実施例の方が効率よく駆動できていることがわかる。
【0084】
また、第1実施例や第2実施例の場合、正又は負のいずれか一方の極性の電圧出力に対応したドライバで駆動できるため、比較例2と比べて安価なものとなる。さらに、第1実施例及び第2実施例の場合、上下の電極が接地電位となるため、基板への電流リークや、上部電極への絶縁保護などの対策を省略或いは簡略化することが可能である。
【0085】
<液体吐出ヘッドへの適用例>
図10は、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの構成を示す図である。ここでは、第1実施例で説明したデバイス構成(図6)を吐出エネルギー発生素子として採用したインクジェットヘッドを例示するが、第2実施例で説明したデバイス構成(図8)を採用してもよい。
【0086】
図10において、図6に示した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。図10に示したインクジェットヘッド150は、図6で説明した積層構造体のSi層301の底面にノズルプレート152が接合されている。ノズルプレート152には、インク(液体)の吐出口としてのノズル孔154が形成されている。符号48で示した空間(圧力室)にインクが充填され、圧電駆動によって振動板(Si層303)が撓み変形し、圧力室48の容積が変化することによって、圧力が変動し、ノズル孔154からインク滴が吐出される。すなわち、図6で説明した積層構造体は、図10のインクジェットヘッド150において、ノズルから液体を吐出させるエネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子として動作する。
【0087】
なお、図10には示されていないが、Si層301には、圧力室48にインクを供給するためのインク供給流路(共通流路や個別供給路など)が形成される。また、図10では、Si層301の下面に直接ノズルプレート152を接合した例を示したが、Si層301とノズルプレート152の間に、他の流路構造が形成された流路プレートが積層されてもよい。
【0088】
図10では1つのノズル孔154とこれに連通する圧力室48及びその圧力室48に対応した吐出エネルギー発生素子を含んだ吐出機構の要素を示しているが、インクジェットヘッド150には、同様の構成を有する吐出機構(液滴吐出素子)が複数設けられている。
【0089】
ノズルプレート152の吐出面(ノズル面)における複数のノズル孔154の配列形態は特に限定されない。例えば、複数のノズルが一列に並んだ一次元配列、複数のノズルが2列に並んだ千鳥配列、或いは3列以上のノズル列が組み合わされて2次元配列された形態など、様々なノズル配列があり得る。
【0090】
下部電極32と上部電極46は、駆動回路(駆動IC)160のグランド端子に接続され、接地電位とされる。中間電極40は、駆動回路160の駆動電圧出力端子に接続され、ドライブ電極として機能する。駆動回路160は、電極間に挟まれた圧電体膜(符号34,44)を変形させる駆動用の電力(駆動電圧)を供給する手段である。
【0091】
この構成によれば、駆動信号としてプラス電圧のみによる駆動制御が可能である。したがって、比較例2に比べて、駆動回路160を簡略化でき、低コストで耐久性、信頼性の高いインクジェットシステムを実現できる。
【0092】
なお、図10のインクジェットヘッド150において、第1実施例のデバイスに代えて第2実施例のデバイスを適用した形態とした場合には、駆動信号としてマイナス電圧のみによる駆動制御が可能である。
【0093】
<作用効果>
上記説明したように、本発明の実施形態によれば、圧電体薄膜を積層構造体として用いることができるので、圧電体薄膜材料を使った圧電体素子の実効的な性能向上を達成できる。
【0094】
圧電体素子については、比較的低電圧の駆動電圧の印加によって大きな変位を得ることができる。また、駆動電圧の低下によって駆動回路を含む制御回路の負担が軽減され、低コスト化、省電力化、耐久性向上等を実現することができる。
【0095】
<変形例>
上述の第1実施例及び第2実施例では、キャビティ構造を有するダイアフラム型の圧電アクチュエータを説明したが、本発明の適用範囲はこれに限らず、カンチレバー(片持ち梁)構造のアクチュエータに適用することもできる。
【0096】
<他の応用例1>
上記の実施形態では、インクジェットヘッドへの適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを描画する液体吐出ヘッド及びこれを用いた液体吐出装置(システム)に広く適用できる。
【0097】
<他の応用例2>
上述の実施形態では、アクチュエータ用途の圧電体素子を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、センサ用途や発電用途など、様々な用途の圧電体素子についても本発明を適用できる。
【0098】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。
【0099】
<開示する発明の各種態様>
上記に詳述した実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書では以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0100】
(第1態様):基板と、前記基板上に形成された第1の電極と、前記第1の電極の上に積層して形成された第1の圧電体膜と、前記第1の圧電体膜の上に積層して形成された金属酸化物膜と、前記金属酸化物膜の上に積層して形成された金属膜と、前記金属膜の上に積層して形成された第2の圧電体膜と、前記第2の圧電体膜の上に積層して形成された第2の電極と、を備え、前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向とが異なることを特徴とする圧電体素子。
【0101】
この態様によれば、基板上に基板面に近い側から、第1の電極、第1の圧電体膜、金属酸化物、金属膜、第2の圧電体膜、第2の電極が順に積層して形成された積層構造体を有する。金属酸化物膜は拡散ブロック層として機能し、圧電体膜から金属膜への酸素原子や圧電体材料成分の拡散が抑止される。これにより、拡散反応に起因する金属膜の構造変化や密着性の低下が防止され、強固な密着性を持つ圧電体膜の積層構造体を得ることができる。
【0102】
また、金属膜は中間電極として利用することができ、第1の電極と第2の電極とを接地電位とし、中間電極に駆動電圧を印加する構成を採用できる。このような構成は駆動回路(ドライバ)の負担が少なく、低電圧の駆動電圧の印加によって大きな変位を得ることができる。
【0103】
さらに、分極の異なる圧電体が中間電極を挟んで積層された構造であり、分極の異なる圧電体が直接接していない構造のため、分極の異なる圧電体が直接接した構成(特許文献4)の場合に界面の分極状態が不安定になり、圧電体の分極状態の安定性が悪いという問題も回避される。また、圧電体が脱分極した際に、中間電極を利用して再分極が容易であるという利点もある。
【0104】
なお、用語の解釈に際し、「Aの上にBを積層する」という表現は、Aに接してBをA上に直接積層する場合に限らず、AとBの間に他の1又は複数の層を介在させ、Aの上に1又は複数の層を介してBを積層する場合も有りうる。
【0105】
圧電体膜の上に金属酸化物膜と金属膜とが積層して形成され、さらにその上に圧電体膜が積層されるという構造が繰り返され、3層以上の圧電体膜が積層される構造もあり得る。この場合、最上層の圧電体膜を「第2の圧電体膜」と解釈してもよいし、2層目以上におけるいずれか一つの層の圧電体膜を「第2の圧電体膜」と解釈することもできる。
【0106】
(第2態様):第1態様に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜と前記第2の圧電体膜との間に介在する前記金属酸化物膜及び前記金属膜からなる中間層の応力値と厚みの積が100N/m未満であることが好ましい。
【0107】
かかる第2態様は、圧電体膜と中間層との熱膨張係数差による応力に起因する剥離が抑制される点でより好ましい態様である。
【0108】
(第3態様):第1態様又は第2態様に記載の圧電体素子において、中間層の厚みが50nm以上250nm未満であることが好ましい。
【0109】
中間層による拡散ブロック性、並びに、圧電体膜と中間層との熱膨張係数差による応力に起因する剥離抑制の観点から、中間層の厚みを50nm以上250nm未満の範囲とする構成が好ましい。
【0110】
(第4態様):第1態様から第3態様のいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記金属酸化物膜は、白金族の酸化物を含む構成とすることができる。
【0111】
金属酸化物膜として、Ir、Pt、Ruなどの白金族の酸化物を用いることができる。
【0112】
(第5態様):第1態様から第4態様のいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記金属膜は、白金族の金属を含む構成とすることができる。
【0113】
金属膜には、各種の金属材料を用いることができるが、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Ptなどの白金族の金属を好適に用いることができる。なお、第1の電極、第2の電極についても、これら白金族の金属を用いることができる。また、第1の電極、第2の電極には、銅族の金属(Cu、Ag、Au)を用いることができる。
【0114】
(第6態様):第1態様から第5態様のいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記第1の電極及び前記第2の電極は、共に接地電位に維持され、前記第1の圧電体膜と前記第2の圧電体膜との間に設けられた前記金属膜を含んで構成される中間電極は、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜を変形させるための駆動電圧が印加されるドライブ電極として用いることができる。
【0115】
かかる態様によれば、正又は負のいずれかの極性の電圧による駆動制御が可能であり、安価な駆動回路を用いることができる。また、第1の電極及び第2の電極が接地電位となるため、基板への電流リークや上部の電極への絶縁保護などの対策を省略或いは簡略化できる。
【0116】
(第7態様):第6態様に記載の圧電体素子において、前記中間電極に前記駆動電圧が印加されることにより、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜には、それぞれの分極方向と同じ方向の電界が印加させる構成が好ましい。
【0117】
分極方向と同じ方向の電界を与えることにより、大きな変位を得ることができる。
【0118】
(第8態様):第1態様から第7態様のいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜は、気相成長法によって形成されたものとすることができる。
【0119】
スパッタ法に代表される気相成長法を用いることにより、所要の圧電性能を持つ圧電体薄膜を得ることができる。また、金属膜上には圧電体膜を成長させ易く、良好な成膜が可能である。
【0120】
(第9態様):第8態様に記載の圧電体素子において、前記気相成長法がスパッタ法であって、加熱成膜して結晶化させる方法とすることができる。
【0121】
この態様によれば、金属酸化物膜が拡散ブロック層として機能するため、加熱成膜の際に下層の圧電体膜からの材料成分等が金属膜に拡散することを防止することができ、密着性の高い圧電体薄膜の積層構造体を得ることができる。
【0122】
(第10態様):第1態様から第9態様のいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜はペロブスカイト型の酸化物で構成されることが好ましい。
【0123】
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、アクチュエータ、センサ、発電デバイスなど、各種用途に用いることができる。
【0124】
(第11態様):第1態様から第10態様のうちいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜の組成と前記第2の圧電体膜の組成とが異なる構成とすることができる。
【0125】
用途や必要な特性(性能)に対応して適切な組成の圧電体膜を組み合わせることができる。
【0126】
(第12態様):第1態様から第11態様のうちいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち少なくとも一方は、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることが好ましい。
【0127】
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、圧電アクチュエータ等として好ましいものである。
【0128】
(第13態様):第12態様に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち一方は、前記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であり、他方は下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物である構成とすることができる。
【0129】
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
【0130】
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
【0131】
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
(第14態様):第1態様から第13態様のうちいずれか1項に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち少なくとも一方は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にNbが添加された材料により構成されるものとすることができる。
【0132】
NbドープしたPZTは、良好な圧電特性を有し、圧電アクチュエータ等として好ましいものである。
【0133】
(第15態様):第14態様に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち一方は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にNbが添加された材料により構成され、他方はNbが添加されていない材料で構成されているものとすることができる。
【0134】
NbドープPZTは成膜直後から分極状態が一方向に決まっており、逆方向に分極し難く、Nbが添加されていない真性PZTであれば分極方向を後処理にて比較的自由に選ぶことが可能である。一度に2つの方向の分極処理を行うのは困難であるが、本構成であれば、最少の分極処理でデバイス化が図れるためプロセスが簡便となる。
【0135】
(第16態様):第15態様に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち、Nbが添加されたPZTにより構成される方の圧電体膜の分極方向が、前記基板側から前記第2の電極側に向かう方向であるものとすることができる。
【0136】
成膜時の分極状態をそのまま利用できる場合、別途の分極処理は不要である。
【0137】
(第17態様):第15態様又は第16態様に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち、前記Nbが添加されていない材料で構成される方の圧電体膜が真性PZTであるものとすることができる。
【0138】
真性PZTに対して、分極処理を行うことにより、分極方向を変更することができる。
【0139】
(第18態様):第1態様から第17態様に記載の圧電体素子において、前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向は、膜の厚さ方向と平行であり、かつ、互いに逆向きの方向であるものとすることができる。
【0140】
(第19態様):液体を吐出するための吐出口としてのノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室に対応して設けられ、前記ノズルから液体を吐出させるエネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子として動作する第1態様から第18態様のいずれか1項に記載の圧電体素子と、を備えた液体吐出ヘッド。
【0141】
この態様によれば、吐出効率のよい液体吐出ヘッドを実現することができる。また、駆動回路の負担が少なく、安価な回路構成とすることができる。
【0142】
(第20態様):基板上に第1の電極を形成する第1の電極形成工程と、前記第1の電極の上に第1の圧電体膜を積層して形成する第1の圧電体膜形成工程と、前記第1の圧電体膜の上に金属酸化物膜を積層して形成する金属酸化物膜形成工程と、前記金属酸化物膜の上に金属膜を積層して形成する金属膜形成工程と、前記金属膜の上に第2の圧電体膜を積層して形成する第2の圧電体膜形成工程と、前記第2の圧電体膜の上に第2の電極を形成する第1の電極形成工程と、前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向とを異ならせる分極処理工程と、を含む圧電体素子の製造方法。
【0143】
この態様によれば、拡散反応に起因する金属膜の構造変化や密着性の低下が防止され、強固な密着性を持つ圧電体膜の積層構造体を得ることができる。
【0144】
(第21態様):第20態様に記載の圧電体素子の製造方法において、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜は、気相成長法によって形成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0145】
10…圧電体素子、12…基材、14…第1の電極、16…第1の圧電体膜、18…金属酸化物膜、20…金属膜、22…第2の圧電体膜、24…第2の電極、26…中間層、30…SOI基板、32…下部電極、34…PZT薄膜、36…Ir−O膜、38…Ir膜、40…中間電極、44…PZT薄膜、46…上部電極、48…圧力室、50…デバイス、70…デバイス、150…インクジェットヘッド、152…ノズルプレート、154…ノズル孔、160…駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1の電極と、
前記第1の電極の上に積層して形成された第1の圧電体膜と、
前記第1の圧電体膜の上に積層して形成された金属酸化物膜と、
前記金属酸化物膜の上に積層して形成された金属膜と、
前記金属膜の上に積層して形成された第2の圧電体膜と、
前記第2の圧電体膜の上に積層して形成された第2の電極と、
を備え、
前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向とが異なることを特徴とする圧電体素子。
【請求項2】
前記第1の圧電体膜と前記第2の圧電体膜との間に介在する前記金属酸化物膜及び前記金属膜からなる中間層の応力値と厚みの積が100N/m未満であることを特徴とする請求項1に記載の圧電体素子。
【請求項3】
前記中間層の厚みが50nm以上250nm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電体素子。
【請求項4】
前記金属酸化物膜は、白金族の酸化物を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項5】
前記金属膜は、白金族の金属を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項6】
前記第1の電極及び前記第2の電極は、共に接地電位に維持され、前記第1の圧電体膜と前記第2の圧電体膜との間に設けられた前記金属膜を含んで構成される中間電極は、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜を変形させるための駆動電圧が印加されるドライブ電極として用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項7】
前記中間電極に前記駆動電圧が印加されることにより、前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜には、それぞれの分極方向と同じ方向の電界が印加させることを特徴とする請求項6に記載の圧電体素子。
【請求項8】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜は、気相成長法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項9】
前記気相成長法がスパッタ法であって、加熱成膜して結晶化させる方法であることを特徴とする請求項8に記載の圧電体素子。
【請求項10】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜はペロブスカイト型の酸化物で構成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項11】
前記第1の圧電体膜の組成と前記第2の圧電体膜の組成とが異なることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項12】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち少なくとも一方は、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の圧電体素子。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項13】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち一方は、前記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であり、他方は下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項12に記載の圧電体素子。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項14】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち少なくとも一方は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にNbが添加された材料により構成されることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項15】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち一方は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にNbが添加された材料により構成され、他方はNbが添加されていない材料で構成されていることを特徴とする請求項14に記載の圧電体素子。
【請求項16】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち、Nbが添加されたPZTにより構成される方の圧電体膜の分極方向が、前記基板側から前記第2の電極側に向かう方向であることを特徴とする請求項15に記載の圧電体素子。
【請求項17】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜のうち、前記Nbが添加されていない材料で構成される方の圧電体膜が真性PZTであることを特徴とする請求項15又は16に記載の圧電体素子。
【請求項18】
前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向は、膜の厚さ方向と平行であり、かつ、互いに逆向きの方向であることを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の圧電体素子。
【請求項19】
液体を吐出するための吐出口としてのノズルと、
前記ノズルに連通する圧力室と、
前記圧力室に対応して設けられ、前記ノズルから液体を吐出させるエネルギーを発生させる吐出エネルギー発生素子として動作する請求項1から18のいずれか1項に記載の圧電体素子と、
を備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項20】
基板上に第1の電極を形成する第1の電極形成工程と、
前記第1の電極の上に第1の圧電体膜を積層して形成する第1の圧電体膜形成工程と、
前記第1の圧電体膜の上に金属酸化物膜を積層して形成する金属酸化物膜形成工程と、
前記金属酸化物膜の上に金属膜を積層して形成する金属膜形成工程と、
前記金属膜の上に第2の圧電体膜を積層して形成する第2の圧電体膜形成工程と、
前記第2の圧電体膜の上に第2の電極を形成する第1の電極形成工程と、
前記第1の圧電体膜の分極方向と前記第2の圧電体膜の分極方向とを異ならせる分極処理工程と、
を含むことを特徴とする圧電体素子の製造方法。
【請求項21】
前記第1の圧電体膜及び前記第2の圧電体膜は、気相成長法によって形成されることを特徴とする請求項20に記載の圧電体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−80887(P2013−80887A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239246(P2011−239246)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】