説明

圧電体膜および圧電素子

【課題】高い圧電性能を有する圧電体膜、および、圧電素子を提供する。
【解決手段】(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有し、組成式:Pb1+δ[(ZrTi1−x1−yNb]Oで表される複合酸化物であり、式中、xは0<x<1の範囲であり、yは0.13≦y≦0.25の範囲であり、かつ、X線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比が、I(100)/I(200)≧1.25を満たすことを特徴とする圧電体膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体膜および圧電素子に係り、特に、高い圧電性能を持つ圧電体膜および圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アクチュエータとして、電圧を印加することによって変位する圧電効果を有する圧電体膜と、この圧電体膜に電圧を印加する電極とを組み合わせた圧電素子が知られている。圧電体膜は薄膜であり、微細化に有利であるため、非常に有用であるが、圧電性能が振るわないため、充分なデバイス性能を発揮できない問題があった。
【0003】
圧電材料としては、PZT(ジルコンチタン酸鉛)、およびPZTのAサイトおよび/またはBサイトの一部を他元素で置換したPZTの置換系が知られている。被置換イオンの価数よりも高い価数を有するドナイオンを添加したPZTでは、真性PZTよりも圧電性能が向上することが知られている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、Bサイトの原子をTaまたはNbで5%〜20%の範囲で置換し、添加物として、SiOまたはGeOを含有する圧電体膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−221037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、さらに、高い圧電性能を有する圧電体膜への要望が高まってきている。本発明は、さらに高い圧電性能を有する圧電体膜、および、圧電素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有し、組成式:Pb1+δ[(ZrTi1−x1−yNb]Oで表される複合酸化物であり、式中、xは0<x<1の範囲であり、yは0.13≦y≦0.25の範囲であり、かつ、X線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比が、I(100)/I(200)≧1.25を満たすことを特徴とする圧電体膜を提供する。
(δ=0およびz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
請求項1によれば、Nbの量を13%以上としているので、圧電特性・誘電特性を向上させることができる。また、I(100)/I(200)≧1.25を満たすことにより、Pbがペロブスカイト格子中の有効な位置に配置されていることが確認でき、充分な圧電性能を得ることができる。また、I(100)/I(200)≧1.25の比を規定することで、結晶中の不安定なPbイオンの量を減らすことができるので、連続駆動耐久性を向上させることができる。
【0008】
請求項2は請求項1において、前記回折ピーク強度I(100)と前記回折ピーク強度I(200)の比が、I(100)/I(200)≧1.29を満たすことを特徴とする。
【0009】
請求項3は請求項2において、yは0.19≦y≦0.25の範囲であることを特徴とする。
【0010】
請求項2および請求項3によれば、Nbのドープ量を19%以上とすること、また、I(100)/I(200)を1.29以上とすることで、さらに高い圧電特性・誘電特性を有する圧電体膜を提供することができる。
【0011】
請求項4は請求項1から3いずれか1項において、結晶相が菱面体晶相を含むことを特徴とする。
【0012】
菱面体晶相の自発分極は(111)方向であるが、(100)方向の電界をかけたときに大きな圧電定数を示すことが知られている。
【0013】
請求項4によれば、結晶層が菱面体晶相を含んでいるので、上で述べたような効果でさらに高い圧電性能を有する圧電体膜を提供することができる。
【0014】
請求項5は請求項1から4いずれか1項において、膜厚が2μm以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、I(100)/I(200)の比を規定することで、連続駆動耐久性を向上させることができると供に、膜厚を厚くすることで、さらに、耐久性を向上させることができる。
【0016】
請求項6は請求項1から5いずれか1項において、圧電定数d31が220pm/V以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項7は請求項6において、圧電定数d31が250pm/V以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項6または7によれば、圧電体膜の圧電定数d31を、220pm/V以上、さらに好ましくは、250pm/V以上としているので、充分な圧電性能を得ることができる。
【0019】
請求項8は請求項1から7いずれか1項において、結晶構造が、厚さ方向に延びる柱状結晶構造であることを特徴とする。
【0020】
請求項8によれば、結晶構造が、厚さ方向に延びる柱状結晶構造であるので、膜厚の厚い圧電体膜を形成することができる。
【0021】
請求項9は請求項1から8いずれか1項において、スパッタリング法により形成されたことを特徴とする。
【0022】
請求項9によれば、圧電体膜をスパッタリング法により形成しているので、積層結晶化に起因する横スジの発生を防止することができ、耐久性を向上させることができる。
【0023】
本発明の請求項10は前記目的を達成するために、請求項1から9いずれか1項に記載の圧電体膜と、電界を印加する電極と、を備えることを特徴とする圧電素子を提供する。
【0024】
請求項10によれば、本発明の圧電体膜を用いることにより、高い圧電性能を有する圧電素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の圧電体膜によれば、Nbを13%以上含有させ、(100)面と(200)面からの回折ピーク強度比を所定の値以上としたので、充分な圧電性能を得ることができる。また、本発明の圧電体膜を圧電素子に用いることにより、充分な性能を有する圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る圧電体膜を備える圧電素子およびインクジェット式記録ヘッドの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の圧電体膜を製造する製造装置の一例を示す図である。
【図3】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図4】比較例2の圧電体膜を製造する製造装置を示す図である。
【図5】実施例1で製造した圧電体膜のXRD回折パターンである。
【図6】実施例の結果を示す表図である。
【図7】実施例3で製造した圧電体膜のXRD回折パターンである。
【図8】比較例2で製造した圧電体膜のXRD回折パターンである。
【図9】実施例のNb添加量と誘電率εの関係を示すグラフ図である。
【図10】実施例のNb添加量および圧電定数d31の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面にしたがって、本発明に係る圧電体膜、圧電素子の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
[圧電素子、インクジェット式記録ヘッド]
図1を参照して、本発明に係る圧電体膜を備える圧電素子およびインクジェット式記録ヘッドの構造について説明する。図1は、インクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0029】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッド3は、概略、圧電アクチュエータ2の裏面側に、インクが貯留されるインク室(液体貯留室)21及びインク室21から外部にインクが吐出されるインク吐出口(液体吐出口)22を有するインクノズル(液体貯留吐出部材)20が取付けられたものである。
【0030】
インクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子1に印加する電界強度を増減させて圧電素子1を伸縮させ、これによってインク室21からのインクの吐出量の制御が行なわれる。
【0031】
圧電アクチュエータ2は、圧電素子1の基板11の裏面に、圧電体膜13の伸縮により振動する振動板16が取り付けられたものである。
【0032】
基板11とは独立した部材の振動板16及びインクノズル20を取り付ける代わりに、基板11の一部を振動板16及びインクノズル20に加工してもよい。例えば、基板11を裏面側からエッチングしてインク室21を形成し、基板自体の加工により振動板16とインクノズル20とを形成することができる。
【0033】
圧電素子1は、基板11の表面に、下部電極層12と圧電体膜13と上部電極層14とが順次積層された素子であり、圧電体膜13は、下部電極層12と上部電極層14とにより膜厚方向に電界が印加されるようになっている。
【0034】
圧電アクチュエータ2はたわみ振動モードのアクチュエータであり、下部電極層12はインク室21毎に駆動電圧を変動可能なように、圧電体膜13と共にパターニングされている。圧電素子1には、下部電極層12の印加電圧を変動させる駆動制御を行う駆動ドライバ15も備えられている。
【0035】
本実施形態の圧電素子1において、基板11としては特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),SrTiO,アルミナ,サファイヤ,及びシリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板11としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。また、基板11と下部電極層12との間に、格子整合性を良好にするためのバッファ層や、電極と基板との密着性を良好にするための密着層等を設けても構わない。
【0036】
下部電極層12の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0037】
上部電極層14の主成分としては特に制限なく、下部電極層12で例示した材料、Al,Ta,Cr,及びCu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0038】
下部電極層12と上部電極層14の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。
【0039】
圧電体膜13は、(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有している。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。具体的には、「(100)面に優先配向する」とは、X線回折広角法によって、圧電体膜を測定した際に生じる(100)面、(110)面及び(111)面の回折強度の比率(100)/((100)+(110)+(111))が0.5より大きいことを意味する。
【0040】
圧電体膜13は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)からなるものである。
【0041】
組成式(P):Pb1+δ[(ZrTi1−x1−yNb]O
xは0<x<1の範囲であり、yは0.13≦y≦0.25の範囲である。(δ=0およびz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
また、圧電体膜13を、X線回折法によって測定したペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比が、I(100)/I(200)≧1.25を満たす。
【0042】
好ましくは、yが0.19≦y0.25の範囲であり、I(100)/I(200)≧1.29である。
【0043】
I(100)/I(200)の値は、結晶中に存在する不安定なPbイオンの量と相関がある。この値が小さいほど結晶中において圧電機能を阻害するPbイオンが多いことを示している。また、結晶中に不安定なPbイオンが多いと、連続耐久性にも悪影響を及ぼす。
【0044】
[圧電体膜の成膜方法]
圧電体膜13の成膜方法としては、特に限定されず、スパッタ法、プラズマCVD法、MOCVD法、およびPL法などの気相成長法;ゾルゲル法および有機金属分解法などの液相法;およびエアロゾルデポジション法などが挙げられる。成膜中に成膜条件を変えやすいことから気相成長法が好ましい。また、気相成長法で行なうことにより、成膜時の横スジの発生を抑制することができ、耐久性の高い圧電体膜を成膜することができる。
【0045】
本発明においては、結晶中の不安定なPbイオンの量を減らす(I(100)/I(200)の値を高くする)ため、基板に衝突するイオンエネルギーが大きくなるように、圧電体膜の成膜を行なう。
【0046】
気相成長法による圧電体膜の製造は、基材とターゲットを対向させて、プラズマを用いて基板上にターゲットの構成元素を含む膜を成膜する成膜装置に適用可能である。適用可能な成膜方法としては、2極スパッタリング法、3極スパッタリング法、直流スパッタリング法、高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法)、ECRスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法、パルススパッタリング法、及びイオンビームスパッタリング法等のスパッタリング法が挙げられる。本発明が適用可能な気相成長法としては、スパッタリング法の他、イオンプレーティング法、及びプラズマCVD法等が挙げられる。本実施形態では高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法)を例として説明する。
【0047】
図2に、本発明の圧電体膜を製造する製造装置の一例を示す。図2に示す成膜装置(高周波スパッタリング装置)200は、基板Bが装着可能であり、装着された基板Bを所定温度に加熱することが可能な基板ホルダー211と、ターゲットTが装着可能なターゲットホルダ212とが備えられた真空容器210から概略構成されている。図2における装置では、真空容器210が成膜チャンバとなっている。
【0048】
真空容器210内において、基板ホルダー211とターゲットホルダ212とは互いに対向するように離間配置されている。ターゲットホルダ212は真空容器210の外部に配置された高周波電源(RF電源)213に接続されており、ターゲットホルダ212がプラズマを発生させるためのプラズマ電源(カソード電極)となっている。図2においては、真空容器210内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段214として、高周波電源213及びプラズマ電極(カソード電極)として機能するターゲットホルダ212が備えられている。
【0049】
基板Bは特に制限されず、Si基板、酸化物基板、ガラス基板、及び各種フレキシブル基板など、用途に応じて適宜選択することができる。ターゲットTの組成は、成膜する膜の組成に応じて選定される。
【0050】
成膜装置200には、真空容器210内にプラズマ化させるガスGを導入するガス導入手段217と、真空容器210内のガスの排気Vを行なうガス排出管218が備えられている。ガスGとしては、Ar、またはAr/O混合ガスなどが使用される。
【0051】
図2においては、真空容器210内の壁面をフローティング壁220として、フローティング電位としている。壁面をフローティング電位とすることで、プラズマ電位と同電位となるため、プラズマ成分が真空容器210の壁面に到達しにくくなり、基板Bに対するイオンの衝突エネルギーを高くすることができる。したがって、Pbイオンをペロブスカイト構造(ABO)のAサイトに配置することができ、結晶中の不安定なPbイオンの量を減らすことができるので、形成された圧電体膜は高い圧電性能を得ることができる。また、不安定なPbイオンが少ないので、X線回折法によって測定された回折ピーク強度の比(I(100)/I(200))を大きくすることができる。
【0052】
図2においては、真空容器210の壁面をフローティング電位とすることで、基板Bへのイオンの衝突エネルギーを高くしているが、他の方法として、真空容器210内のアノード面積を小さくする、あるいは、絶縁体で被覆する、基板Bのインピーダンスを変化させることにより、制御を行なうこともできる。
【0053】
本発明においては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のペロブスカイト構造のBサイト元素をNbで置換し、圧電性能を向上させているが、Nbの量を13%以上と高い比率で添加すると、パイロクロア相という圧電性能がない異相が発生しやすい。また、Nbはペロブスカイト結晶内に5価で入るため、Nbドープ量が増加すると荷電中性が成り立たなくなる関係で、不安定なPb原子がより増加する傾向にあった。したがって、Nbを13%以上ドープする場合は、成膜中の飛来Pbイオンに高いエネルギーを与える必要がある。上述したように、図2に記載されている圧電体膜の製造装置を用いることで、イオンエネルギーを高くすることができるので、高い圧電性能を有する圧電体膜を製造することができる。
【0054】
このようにして形成された圧電体膜は、結晶相が菱面体晶相を含んでいることが好ましい。また、結晶構造が厚さ方向に延びる柱状結晶構造であることが好ましい。柱状結晶構造とすることで、膜厚の厚い圧電体膜を形成することができる。圧電体膜の膜厚は2μm以上20μm以下であることが好ましい。圧電体膜の膜厚を高くすることにより、耐久性の高い圧電体膜を成膜することができる。また、圧電体膜をなす多数の柱状結晶の平均粒径は、特に制限はないが、30nm以上1μm以下であることが好ましい。柱状結晶の平均粒径が小さいと、誘電特性に関してドメイン境界部分の影響が大きくなるため、所望の圧電性能が得られない恐れがある。また、柱状結晶の平均粒径が大きいと、パターニング後の形状精度が低下する恐れがある。
【0055】
また、圧電体膜の圧電定数d31は220pm/V以上であることが好ましく、より好ましくは250pm/V以上である。圧電定数d31を上記範囲とすることにより、圧電体膜を圧電素子およびインクジェット式記録ヘッド(液体吐出装置)に好適に用いることができる。
【0056】
[インクジェット記録装置]
図3を参照してインクジェット式記録ヘッド3(172M、172K、172C、172Y)を備えたインクジェット記録装置の構成例について説明する。図3は、装置全体図である。
【0057】
インクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0058】
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排出部122を備えて構成される。
【0059】
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
【0060】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0061】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0062】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(第2の搬送体)170、用紙抑えローラ174、及びインクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。
【0063】
インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0064】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体124の記録面に向かって各インクジェット式記録ヘッド172M,172K,172C,172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0065】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0066】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図2に示すように、乾燥ドラム(搬送体)176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。
【0067】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、IRヒータ182と、IRヒータ182の間に配置された温風噴出しノズル180とで構成される。
【0068】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0069】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0070】
定着ローラ188は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体124を加熱加圧するように構成される。
【0071】
上記の如く構成された定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。
【0072】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0073】
(排出部)
定着部120に続いて排出部122が設けられている。排出部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。
【0074】
なお、図3においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。
【実施例】
【0075】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
300φターゲットを搭載した市販のスパッタリング装置を用いて、図2に示すように、成膜チャンバ側壁面をフローティング電位とした。基板にはインピーダンスが可変なLCR回路を接続し、基板のインピーダンスを変化させることで、成膜中のVsub(成膜中の基板電位)を変更できるようにした。
【0077】
ターゲットとしてPb1,3(Zr0.42Ti0.39Nb0.19)0を用い、3kWのRfスパッタリングを行い、PZT薄膜(圧電体膜)を作製した。成膜温度は500℃とした。基板は、SOI基板をシリコンRIEエッチングにて加工して作製したダイヤフラム構造上に、スパッタリングによりIr下部電極を蒸着したものを用いた。
【0078】
得られた薄膜のXRD回折パターンを図5に示す。(100)単一配向を有しており、I(100)/I(200)ピークの強度比をとると、その値は1.29であった。また、Cpから誘電率εを、また、ダイヤフラムの変位量から圧電定数d31を求めたところ、ε=1280、d31=310であった。結果を図6に示す。
【0079】
[実施例2]
ターゲットとして、BサイトにNb20%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。なお、Zr:Tiは、52:48となるように調整して添加した。また、以下の実施例、比較例においても、Nbのドープ量に関わらず、ジルコニウムとチタンの組成比は、Zr:Ti=52:48で固定して行なった。
【0080】
[実施例3]
ターゲットとして、BサイトにNb12.5%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。実施例3で得られた薄膜のXRD回折パターンを図7に示す。
【0081】
[実施例4]
ターゲットとして、BサイトにNb12.5%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。
【0082】
[比較例1]
ターゲットとして、BサイトにNb10%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の条件でPZT薄膜を作製した。
【0083】
[比較例2]
300φターゲットを搭載した市販のスパッタリング装置を用いて、図4に示すように、成膜チャンバ側壁面をグランド電位とし、基板周辺のチャンバ壁をフローティング電位とした。ターゲットとして、BサイトにNb20%をドープしたPZTを用いた以外、実施例1と同様の成膜条でRfスパッタリングにより成膜を行なった。
【0084】
得られた薄膜のXRD回折パターンを図8に示す。得られた膜の(100)/(200)ピークの強度比をとると、その値は1.071であった。また、誘電率ε、圧電定数d31を求めたところ、ε=1280、d31=310であった。
【0085】
図4に示す成膜装置のように、成膜チャンバ側壁面をグランド電位、基板周辺のチャンバ壁をフローティング壁220’として、フローティング電位とすると、図4における成膜チャンバの側面に向って強いDC成分の電界が発生し、かつ成膜チャンバの底面、すなわち、基板Bに向う電界が弱くなる。したがって、イオンの衝突エネルギーが低くなり、圧電性能が低くなると考えられる。
【0086】
[比較例3]
ターゲットとして、BサイトにNb17%をドープしたPZTを用いたこと以外は比較例2と同様の装置・成膜条件でPZT薄膜を作製した。
【0087】
[比較例4]
ターゲットとして、BサイトにNb9%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の装置・成膜条件でPZT薄膜を作製した。
【0088】
[比較例5]
ターゲットとして、BサイトにNb6.5%をドープしたPZTを用いたこと以外は実施例1と同様の装置・成膜条件でPZT薄膜を作製した。
【0089】
[比較例6]
ターゲットとして、Pb1.3(Zr0.52Ti0.48)Oを用いたこと以外は実施例1と同様の装置・成膜条件でPZT薄膜を作製した。
【0090】
[比較例7]
ターゲットとして、BサイトにNb13%をドープしたPZTを用いたこと以外は比較例2と同様の装置・成膜条件でPZT薄膜を作製した。
【0091】
[結果]
結果を図6に示す。また、Nb添加量と誘電率εの関係を図9、Nb添加量および圧電定数d31の関係を図10に示す。駆動耐久性は、温度40℃、相対湿度80%の雰囲気下で、100kHz、25Vp−p、オフセット電圧−12.5Vの正弦波印加で連続駆動させた際の絶縁破壊または変位劣化が生じた回数により以下の基準で判断した。なお、比較例4〜6の駆動耐久性は、誘電率ε、圧電定数d31の数値が低かったため試験をおこなわなかった。また、比較例5、6のVsubの測定も行なわなかった。
【0092】
◎・・・駆動耐久性≧1×1011サイクル
○・・・1×1011サイクル>駆動耐久性≧1×10サイクル
×・・・1×10サイクル>駆動耐久性
図6、9、10より、BサイトへのNbドーピングによって圧電特性・誘電特性が向上する傾向がみられた。しかし、I(100)/I(200)<1.25になると、特性が急激に減衰し、充分な特性が得られないことが確認できた。これらの結果より、インクジェットヘッドなどに適用するにあたり、充分な圧電性能を得るためには、図10に太枠で示す、Nb≧13%、I(100)/I(200)≧1.25を満たす必要があることが確認できる。
【0093】
図2に示すように、スパッタリング装置のチャンバ壁面をフローティング電位とし、かつ、基板周辺をグランド電位にすることで、基板に対するイオンの衝突エネルギーを強くすることができ、結晶中の不安定なPbイオンの量を減らすことができるので、高い特性を得ることができると考えられる。一方、図4に示すように、チャンバ壁面をグランドに、かつ、基板周辺をフローティング電位とすることで、プラズマがソフトになり、基板上でPbが充分マイグレーションできるエネルギーを受け取ることができない。これにより、結晶中に不安定で圧電に寄与しないPbイオンが発生し、特性が低下すると考えられる。実施例の結果より、基板電位Vsubを+10V以下とすることで、プラズマ電位との電位差を大きくすることができるので、イオンエネルギーを高くすることができる
【符号の説明】
【0094】
1…圧電素子、2…圧電アクチュエータ、3、172…インクジェット式記録ヘッド、11…基板、12…下部電極層、13…圧電体膜、14…上部電極層、15…駆動ドライバ、16…振動板、20…インクノズル(液体貯留吐出部材)、21…インク室(液体貯留室)、22…インク吐出口(液体吐出口)、100…インクジェット記録装置、112・・・給紙部、114…処理液付与部、116・・・描画部、118…乾燥部、120…定着部、122…排出部、124…記録媒体、200…成膜装置(高周波スパッタリング装置)、210…真空容器、211…基板ホルダー、212…ターゲットホルダ、213…高周波電源(RF電源)、217…ガス導入手段、218…ガス排出管、220…フローティング壁、B…基板、G…ガス、T…ターゲット、V…排気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(100)面に優先配向したペロブスカイト構造を有し、
組成式:Pb1+δ[(ZrTi1−x1−yNb]O
で表される複合酸化物であり、式中、xは0<x<1の範囲であり、yは0.13≦y≦0.25の範囲であり、
かつ、X線回折法によって測定されたペロブスカイト(100)面からの回折ピーク強度I(100)とペロブスカイト(200)面からの回折ピーク強度I(200)の比が、I(100)/I(200)≧1.25を満たすことを特徴とする圧電体膜。
(δ=0およびz=3が標準であるが、これらの値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準値からずれてもよい。)
【請求項2】
前記回折ピーク強度I(100)と前記回折ピーク強度I(200)の比が、I(100)/I(200)≧1.29を満たすことを特徴とする請求項1に記載の圧電体膜。
【請求項3】
yは0.19≦y≦0.25の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の圧電体膜。
【請求項4】
結晶相が菱面体晶相を含むことを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項5】
膜厚が2μm以上であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項6】
圧電定数d31が220pm/V以上であることを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項7】
圧電定数d31が250pm/V以上であることを特徴とする請求項6に記載の圧電体膜。
【請求項8】
結晶構造が、厚さ方向に延びる柱状結晶構造であることを特徴とする請求項1から7いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項9】
スパッタリング法により形成されたことを特徴とする請求項1から8いずれか1項に記載の圧電体膜。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項に記載の圧電体膜と、電界を印加する電極と、を備えることを特徴とする圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−9677(P2012−9677A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145101(P2010−145101)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】