説明

圧電単結晶及びその製造方法、並びにその圧電単結晶を利用した圧電応用部品及び誘電応用部品

圧電単結晶及びその製造方法、及びその圧電単結晶を利用した圧電及び誘電応用部品を提供する。本発明による圧電単結晶は、高誘電率K3T、高圧電定数d33、k33、高い相転移温度(キュリー温度、Tc)、高い抗電界Ec、及び向上した機械的特性を併せ持つため、かかる優れた特性の圧電単結晶を広い温度領域と広い使用電圧条件下で使用することができる。また、単結晶の量産に適合した固相単結晶成長法を用いて圧電単結晶を製造し、高価な原料を含まない単結晶組成を開発して圧電単結晶の商用化を可能にする。これにより、優れた特性の圧電単結晶を利用した圧電応用部品及び誘電応用部品を広い温度領域で製造し、使用することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電単結晶、その圧電単結晶を利用した圧電応用部品及び誘電応用部品、及びその圧電単結晶の製造方法に係り、高誘電率K3T、高圧電定数d33,k33、高い相転移温度(正方晶相と立方晶相間の相転移温度(キュリー温度:Tc)及び菱面体晶相と正方晶相間の相転移温度TRT)、高抗電界Ec、及び向上した機械的特性を併せ持つペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶及びその圧電単結晶で製作した圧電応用部品並びに誘電応用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶は、既存の圧電多結晶体材料に比べて遥かに高い誘電率K3Tと圧電定数d33,k33を示し、圧電アクチュエーター、圧電トランスデューサ、及び圧電センサーなどのような高性能部品に利用され、各種の薄膜素子の基板材料としてもその応用が期待される。
【0003】
現在まで開発されたペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶としては、PMN―PT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3―PbTiO3)、PZN―PT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3―PbTiO3)、PInN―PT(Pb(In1/2Nb1/2)O3―PbTiO3)、PYbN―PT(Pb(Yb1/2Nb1/2)O3―PbTiO3)、PSN―PT(Pb(Sc1/2Nb1/2)O3―PbTiO3)、PMN―PInN―PT、PMN―PYbN―PT、及びBiScO3―PbTiO3(BS―PT)などがある。このような単結晶は、溶融時に調和融解(congruent melting)挙動を示し、通常、既存の単結晶成長法である光束法とブリッジマン法などで製造されていた。
【0004】
開発された既存のPMN―PTとPZN―PTなどの圧電単結晶は、室温で高い誘電及び圧電特性(K3T>4,000、d33>1,400pC/N、k33>0.85)を示すという長所があるが、低い相転移温度Tc、TRT、低い抗電界Ec、及び脆性などの欠点から圧電単結晶の使用温度範囲や使用電圧条件などと圧電単結晶応用部品の製作条件などが大きく制限される。一般に、ペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶は、菱面体晶相と正方晶相の相境界、すなわち、MPB(morphotropic phase boundary)組成の近傍領域で誘電及び圧電特性が最も高いと知られている。正方晶系の圧電単結晶は、圧電または電気光学的特性に優れた一部の特定の結晶配向においてその使用が可能であると知られている。しかしながら、ペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶は、一般に菱面体晶相の時に最も優れた誘電及び圧電特性を示すことから、菱面体晶相の圧電単結晶の応用が最も活発である。ところで、菱面体晶相の圧電単結晶は、菱面体晶相と正方晶相間の相転移温度TRT以下でだけ安定した挙動を示すため、菱面体晶相が安定した挙動を示し得る最大温度であるTRT以下でだけその使用が可能である。したがって、TRT相転移温度が低い場合には、菱面体晶相の圧電単結晶の使用温度が低くなり、且つ圧電単結晶応用部品の製作温度と使用温度もTRT以下に制限される。また、相転移温度Tc、TRTと抗電界Ecが低い場合には、機械加工、応力、発熱、及び駆動電圧下で圧電単結晶のポーリングが除去され易くなり、優れた誘電及び圧電特性を喪失してしまう。したがって、相転移温度Tc、TRTと抗電界Ecの低い圧電単結晶は、単結晶応用部品の製作条件、使用温度条件と駆動電圧条件などが制限される。PMN―PT単結晶の場合、一般に、Tc<150℃、TRT<80℃と、Ec<2.5kV/cmであり、PZN―PT単結晶の場合、一般に、Tc<170℃、TRT<100℃とEc<3.5kV/cmである。そして、かかる圧電単結晶で製作された誘電及び圧電応用部品も、製造条件、使用温度範囲や使用電圧条件などが制限され、圧電単結晶応用部品の開発と実用化の障害要因となってきていた。
【0005】
圧電単結晶の短所を克服するために、PInN―PT、PSN―PTとBS―PTなどのような新規な組成からなる単結晶が開発され、また、PMN―PInN―PTとPMN―BS―PTなどのように混ざり合った単結晶組成も研究されてきた。しかしながら、かかる単結晶では、誘電率、圧電定数、相転移温度、抗電界と機械的特性などの全てを改善することはできなかった。また、ScとInなどのように高価な元素を主成分とする組成からなる圧電単結晶は、高い単結晶の製造コストのため単結晶の実用化の障害要因となっていた。
【0006】
PMN―PTなどの現在まで開発されたペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶が低い相転移温度を示す理由は、大きく三つに分けられる。第一は、下記表1に示すように、PTのように主な構成成分となるリラクサ(relaxor;PMNやPZNなど)の相転移温度が低いということである。表1は、ペロブスカイト型構造の圧電セラミックス多結晶体の正方晶相と立方晶相間の相転移温度Tcを表している(Ref.:Park et al.,「Characteristics of Relaxor―Based Piezoelectric Single Crystals for Ultrasonic Transducers,」 IEEETransactions on Ultrasonics、Ferroelectrics、and Frequency Control、vol. 44、no. 5、1997、pp. 1140−1147)。圧電単結晶のキュリー温度は、同じ組成の多結晶体のキュリー温度とほぼ同じであるため、多結晶体のキュリー温度から圧電単結晶のキュリー温度を推定することができる。第二は、正方晶相と菱面体晶相との境界をなすMPBが温度軸に対して垂直でなく緩やかに傾いていて、菱面体晶相と正方晶相間の相転移温度TRTを高めるためには、キュリー温度Tcの減少が不可欠となることから、キュリー温度Tcと菱面体晶相と正方晶相間の相転移温度TRTを同時に高めることは困難であった。第三は、相転移温度が比較的高いリラクサ(PYbN、PInNやBiScO3など)をPMN―PTなどに混ぜ込む場合にも、相転移温度が組成に比例して単純に増加しないか、または誘電及び圧電特性が低下するという問題を発生させるためである。
【0007】
【表1】

【0008】
表1のRelaxor−PT系単結晶は、主に溶融工程を利用する既存の単結晶成長法である光束法とブリッジマン法などで製造されるが、単結晶の製造工程上の理由から、組成が均一な大きな単結晶の製造は困難であり且つ製造コストが高く、量産が困難であるため、未だ商用化には成功していないという状況である。
【0009】
一般に、圧電セラミックス単結晶は、圧電セラミックス多結晶体に比べて機械的強度及び破壊靭性が低いため、小さな機械的衝撃にも壊れ易いという欠点がある。このような圧電単結晶の脆性は、圧電単結晶を利用した応用部品の製作と応用部品の使用の際に圧電単結晶の破壊を誘発し易く、圧電単結晶の使用に大きな制限となってきていた。したがって、圧電単結晶の商用化のためには、圧電単結晶の誘電及び圧電特性の向上と併せて、圧電単結晶の機械的特性の向上が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、ペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶を対象とするものであって、高誘電率(K3T≧4,000〜8,000)、高圧電定数(d33≧1,400〜2,500pC/N、k33≧0.85〜0.95)、高い相転移温度(Tc≧180〜400℃、TRT≧100〜250℃)、高い抗電界(Ec≧5〜15kV/cm)、及び向上した機械的特性を併せ持つ圧電単結晶を提供することである。
【0011】
また、本発明は、ScとInなどのように高価な元素を主成分とする従来のペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶とは異なり、高価な元素を含まないか、或いは極めて小量を含みながら、提示した優れた特性を併せ持つペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶の新規な組成を提示することで、単結晶の製造コストを下げて圧電単結晶の実用化を可能にする方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、高誘電率K3T、高圧電定数d33、k33、高い相転移温度Tc、TRT、及び高い抗電界Ecを併せ持つペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶を含む誘電及び圧電応用部品を提供する。これにより、優れた特性の圧電単結晶を利用した圧電応用部品及び誘電応用部品を広い温度領域で製作し使用することを可能にする。
【0013】
また、本発明は、既存の単結晶成長法である光束法とブリッジマン法などと異なって、固相単結晶成長法を用いて特別の装置を必要とすることなく一般の熱処理工程によって、単結晶の製造コストを下げ且つ圧電単結晶を量産できる単結晶成長方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、機械的衝撃に対する抵抗性が大きく且つ機械加工が容易なペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶を提供する。これにより、圧電単結晶を利用した応用部品の製作を容易にし且つ応用部品の使用の際の単結晶の破壊と特性の低下現象を抑制することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明によるペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶は、ジルコニウム(Zr)を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によるジルコニウム(Zr)を含むペロブスカイト型結晶構造([A][B]O3)の圧電単結晶組成は、下記の一般式(1)で表される。
【0017】
【化8】

【0018】
上記一般式(1)において、AはPb、Sr、Ba及びBiからなる群より選択された少なくとも一種であり、MはCe、Co、Fe、In、Mg、Mn、Ni、Sc、Yb及びZnからなる群より選択された少なくとも一種であり、NはNb、Sb、Ta及びWからなる群より選択された少なくとも一種であり、x及びyはそれぞれ下記の条件を満足する。
【0019】
0.05≦x≦0.58(モル比)
0.05≦y≦0.62(モル比)
上記一般式(1)において、AはPbであることが好ましい。すなわち、下記一般式(2)の組成を有することが好ましい。
【0020】
【化9】

【0021】
上記一般式(1)において、NはNbであることが好ましい。すなわち、下記一般式(3)の組成を有することが好ましい。
【0022】
【化10】

【0023】
また、上記一般式(1)の組成を有する圧電単結晶は、下記一般式(4)の組成を有することが好ましい。
【0024】
【化11】

【0025】
上記一般式(4)において、aはモル比で0.0≦a≦0.1であり、bはモル比で0.0≦b≦0.6である。
【0026】
また、上記一般式(1)の組成を有する圧電単結晶は、下記一般式(5)の組成を有することが好ましい。
【0027】
【化12】

【0028】
上記一般式(5)において、xはモル比で0.20≦x≦0.58であり、aはモル比で0.0≦a≦0.5である。
【0029】
また、上記一般式(1)の組成を有する圧電単結晶は、下記一般式(6)の組成を有することが好ましい。
【0030】
【化13】

【0031】
上記一般式(6)において、xはモル比で0.25≦x≦0.58である。
【0032】
また、上記一般式1の組成を有する圧電単結晶は、下記一般式7の組成を有することが好ましい。
【0033】
【化14】

【0034】
上記一般式(7)において、xはモル比で0.65≦x≦1.00であり、yはモル比で0.05≦y≦0.15である。
【0035】
また、上記一般式(1)ないし一般式(7)の何れか一つの組成に加えて、Pが添加された組成を有する圧電単結晶であることが好ましい。具体的に、下記一般式(8)ないし(14)の一般式の組成を有する圧電単結晶であることが好ましい。上記Pは圧電単結晶中において第二相の形態で存在し、金属相、酸化物相または気孔の第二相であることが好ましい。また、上記Pは金属(Au、Ag、Ir、Pt、Pd及びRh)、酸化物(MgO及びZrO2)及び気孔などからなる群より選択された少なくとも一種であり、上記Pは全組成に対する体積分率で0.1%ないし20%の範囲で添加されることが好ましい。
【0036】
【化15】

【0037】
上記一般式(8)において、AはPb、Sr、Ba及びBiからなる群より選択された少なくとも一種であり、MはCe、Co、Fe、In、Mg、Mn、Ni、Sc、Yb及びZnからなる群より選択された少なくとも一種であり、NはNb、Sb、Ta及びWからなる群より選択された少なくとも一種であり、Pは単結晶中において第二相形態で存在し、金属(Au、Ag、Ir、Pt、Pd及びRh)、酸化物(MgO、ZrO2)及び気孔などからなる群より選択された少なくとも一種であり、cは体積分率で0.001≦c≦0.20であり、x及びyはそれぞれ下記の条件を満足する。
【0038】
0.05≦x≦0.58(モル比)
0.05≦y≦0.62(モル比)
【0039】
【化16】

【0040】
上記一般式(9)において、M、N、x、y、P及びcは上記一般式(8)において定義されたとおりである。
【0041】
【化17】

【0042】
上記一般式(10)において、A、M、x、y、P及びcは上記一般式(8)において定義されたとおりである。
【0043】
【化18】

【0044】
上記一般式(11)において、x、y、P及びcは上記一般式(8)において定義されたとおりであり、aはモル比で0.0≦a≦0.1であり、bはモル比で0.0≦b≦0.6である。
【0045】
【化19】

【0046】
上記一般式(12)において、y、P及びcは上記一般式(8)において定義されたとおりであり、xはモル比で0.20≦x≦0.58であり、aはモル比で0.0≦a≦0.5である。
【0047】
【化20】

【0048】
上記一般式(13)において、y、P及びcは上記一般式(8)において定義されたとおりであり、xはモル比で0.25≦x≦0.58である。
【0049】
【化21】

【0050】
上記一般式(14)において、P及びcは上記一般式(8)において定義されたとおりであり、xはモル比で0.65≦x≦1.00であり、yは0.05≦y≦0.15である。
【0051】
上記一般式(1)ないし(14)で示す組成を有する圧電単結晶は、誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)と抗電界(Ec≧5kV/cm)の特性を併せ持つ特徴を有する。
【0052】
また、本発明は、上記一般式で示されるペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶を含むことにより高誘電率(K3T≧4,000)、高圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、高い相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)と高い抗電界(Ec≧5kV/cm)を併せ持つ誘電及び圧電応用部品に関する。
【0053】
また、本発明は、上記一般式で示される無鉛系ペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶を含むことにより、有毒性の鉛(Pb)を含まない、環境にやさしい無鉛系圧電単結晶及び無鉛系圧電単結晶を利用した誘電及び圧電応用部品に関する。
【0054】
また、本発明は、上記一般式(8)ないし(14)で示す組成を有する圧電単結晶は、金属相(例えば、Au、Ag、Ir、Pt、Pd、またはRh)、酸化物相(例えば、MgOまたはZrO2)または気孔からなる群より選択された少なくとも一種の強化第二相Pを含むことで、機械的特性が向上して機械的衝撃に対する抵抗性が大きく且つ機械加工が容易であるという特徴を有する。特に、金属(Au、Ag、Ir、Pt、Pd、及びRh)第二相を含む場合には、誘電及び圧電特性も向上するという特徴を有する。
【0055】
また、本発明は、上記一般式(8)ないし(14)で示す組成を有する圧電単結晶は、金属相(例えば、Au、Ag、Ir、Pt、Pd、またはRh)、酸化物相(例えば、MgOまたはZrO2)または気孔からなる群より選択された少なくとも一種の強化第二相Pが粒状に均一に分布するか、または所定のパターンを有しつつ規則的に分布するといったように、第二相の分布形態に応じて圧電単結晶の誘電、圧電及び機械的特性が向上するという特徴を有する。
【0056】
一方、本発明による圧電単結晶の製造方法は、(a)上記一般式で示す組成を有する多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径を調節して異常粒子の数密度(number density;ND)を減少させる段階、及び(b)上記段階(a)において異常粒子の数密度が減少された多結晶体に対し熱処理を施して異常粒子を成長させる段階と、を含むことを特徴とする。
【0057】
また、本発明による単結晶製造方法は、(a)組成、熱処理温度、及び熱処理雰囲気などを調節して多結晶体において異常粒成長現象を誘導し、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径を調節して異常粒子の数密度NDを減少させる段階、及び(b)上記段階(a)において異常粒子の数密度が減少された多結晶体に対し熱処理を施して異常粒子を成長させる段階と、を含むことを特徴とする。これにより、周辺の異常粒子に邪魔されることなく少数の異常粒子だけを成長させ続けるか、種子単結晶を多結晶体中に成長させ続けて50mm2以上の大きさを有する単結晶を得ることができる。
【0058】
上記本発明による圧電単結晶の製造方法において、上記多結晶体に対し熱処理を施す前に多結晶体に種子単結晶を接合させた後、接合部では異常粒成長を誘導し多結晶体中では異常粒成長を抑制させる条件下で熱処理を施して種子単結晶を多結晶体中に成長させ続けることを特徴とする。
【0059】
上記本発明による圧電単結晶の製造方法において、上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することを特徴とする。
【0060】
また、上記本発明による圧電単結晶成長方法において、少数の異常粒子だけを生成させ、該生成された少数の異常粒子だけを成長させようとするとき、上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上ないしRc以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦Rc)に調節することを特徴とする。
【発明の効果】
【0061】
本発明による圧電単結晶及び圧電単結晶応用部品は、高誘電率K3T、高圧電定数d33、k33、高い相転移温度Tc、TRT、高い抗電界Ec、及び向上した機械的特性を併せ持つことで広い温度領域と使用電圧条件下で使用可能にする長所を有する。また、単結晶の量産に適合した固相単結晶成長法を用いて圧電単結晶を製造し、且つ高価な原料を含まない単結晶組成を開発して圧電単結晶の商用化を可能にした。本発明による圧電単結晶及び圧電単結晶応用部品は、優れた特性を有する圧電単結晶を利用した圧電応用部品及び誘電応用部品を広い温度領域で製作し使用することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、本発明についてより具体的に説明することにする。
【0063】
図1を参照すると、[A][MN]O3―PbTiO3―PbZrO3状態図は、菱面体晶相と正方晶相の相境界MPBの周りにおいて優れた誘電及び圧電特性を有する組成領域を示す。[A][MN]O3―PbTiO3―PbZrO3状態図において、菱面体晶相と正方晶相の相境界組成で誘電及び圧電特性が最大となり、MPB組成から遠くなるほど誘電及び圧電特性が次第に減少する。そして、MPB組成から菱面体晶相の領域の中に5モル%以内の組成範囲では、誘電及び圧電特性の減少が僅かで非常に高い誘電及び圧電特性値を保持し、MPB組成から菱面体晶相の領域の中に10モル%以内の組成組成では、誘電及び圧電特性が連続して減少したが、誘電及び圧電応用部品に適用するのに十分に高い誘電及び圧電特性値を示した。MPB組成から正方晶相の領域の中へとその組成が変わっていく場合は、菱面体晶相の領域の中へとその組成が変わっていく場合に比べて誘電及び圧電特性の減少が素早く起こる。しかし、正方晶相の領域の中に5モル%以内の組成範囲である場合や10モル%以内の組成範囲の場合にも誘電及び圧電特性が連続して減少したが、誘電及び圧電応用部品に適用するのに十分に高い誘電及び圧電特性値を示した。
【0064】
図1におけるPbTiO3とPbZrO3の相境界MPBは、PbTiO3:PbZrO3=x:y=0.48:0.52(モル比)と知られている。MPB組成から菱面体晶相の領域の中及び正方晶相の領域の中へとその組成がそれぞれ5モル%変わる場合は、xとyの最大値はそれぞれ0.53と0.57(言い換えれば、xが最大の場合のx:y=0.53:0.47で、yが最大の場合のx:y=0.43:0.57)となる。そして、MPB組成から菱面体晶相の領域の中及び正方晶相の領域の中へとその組成がそれぞれ10モル%変わる場合は、xとyの最大値はそれぞれ0.58と0.62(言い換えれば、xが最大の場合のx:y=0.58:0.42で、yが最大の場合のx:y=0.38:0.62)となる。MPB組成から菱面体晶相の領域の中及び正方晶相の領域の中へのその組成範囲がそれぞれ5モル%以内で高い誘電及び圧電特性値を保持し、MPB組成から菱面体晶相の領域の中及び正方晶相の領域の中へのその組成範囲がそれぞれ10モル%以内では、誘電及び圧電応用部品に適用するのに十分に高い誘電及び圧電特性値を示した。
【0065】
図1において、PbTiO3とPbZrO3の含量、すなわち、xとy値が0.05以下の場合は、菱面体晶相と正方晶相の相境界を作ることができないか、または相転移温度と抗電界が非常に低いことから、本発明には不向きであった。
【0066】
上記一般式(1)において、xは0.05≦x≦0.58の関係を満足することが好ましい。xが0.05未満の場合は、相転移温度Tc、TRT、圧電定数d33、k33、または抗電界Ecが低く、xが0.58を超える場合は、誘電率K3T、圧電定数d33、k33、または相転移温度TRTが低いためである。一方、yは0.05≦y≦0.62の関係を満足することが好ましい。その理由は、yが0.05未満の場合は、相転移温度Tc、TRT、圧電定数d33、k33、または抗電界Ecが低く、0.62を超える場合は、誘電率K3Tまたは圧電定数d33、k33が低いためである。
【0067】
上記一般式(4)において、aはモル比で0.0≦a≦0.1の関係を満足することが好ましい。aが0.1を超える場合は、相転移温度Tc、TRTと圧電定数d33、k33が低くなるためである。bはモル比で0.0≦b≦0.6の関係を満足することが好ましい。bが0.6を超える場合は、相転移温度Tc、TRT、圧電定数d33、k33、または抗電界が低いためである。
【0068】
上記一般式(5)において、aは0.0≦a≦0.5の関係を満足することが好ましい。a値が0.5を超える場合は、誘電率K3Tと圧電定数d33、k33が低くなるためである。一方、xはモル比で0.20≦x≦0.58の関係を満足することが好ましい。xが0.20未満の場合は、相転移温度Tc、TRTと抗電界Ecが低く、xが0.58を超える場合は、誘電率K3Tと圧電定数d33、k33が低いためである。
【0069】
上記一般式(6)において、xはモル比で0.25≦x≦0.58の関係を満足することが好ましい。xが0.25未満の場合は、圧電定数d33、k33、相転移温度Tc、TRT、または抗電界Ecが低く、xが0.58を超える場合は、誘電率K3T、圧電定数d33、k33、または相転移温度TRTが低いためである。
【0070】
上記一般式(7)において、xはモル比で0.65≦x≦1.00の関係を満足し、yはモル比で0.05≦y≦0.15の関係を満足することが好ましい。xが0.65未満であるか、yが0.15を超える場合は、圧電定数d33、k33、相転移温度Tc、TRT、または抗電界Ecが低く、yが0.05未満の場合は、誘電率K3T、圧電定数d33、k33、または相転移温度TRTが低いためである。
【0071】
現在最も多用されている圧電セラミックス多結晶材料は、PZT(Pb(Zr,Ti)O3)系列であるが、PZTは有毒性の鉛(Pb)を含んでいることから環境上問題になっている。したがって、鉛を含まない無鉛系圧電セラミックス材料の使用が急がれているが、現在まで開発された無鉛系圧電セラミックス材料の特性がPZTセラミックス材料の特性に及ばないことから、無鉛系圧電セラミックス材料の使用が制限されている。PMN−PTなどの材料と同様に、単結晶材料は、多結晶材料に比べて圧電特性が一般に2倍以上高い。したがって、無鉛系圧電セラミックス材料を単結晶化させると、急激な圧電特性の向上が期待される。しかしながら、既存の単結晶成長法では無鉛系圧電単結晶の製造が難しいため無鉛系圧電単結晶の研究・開発が制限されている。本発明による固相単結晶成長法を用いると、無鉛系圧電単結晶を製造することができ、経済的に量産された無鉛系圧電単結晶は、既存の鉛系PZTセラミックス材料の代替となる。
【0072】
セラミックス多結晶体または硝子のように壊れ易い脆性を示す材料の機械的特性を向上する一般的な方法の一つは、材料中へのクラックの成長を抑制または邪魔する強化剤または強化第二相を添加することである。強化第二相が材料中へのクラックの成長を抑制すれば、結果的に材料の破壊が抑制され機械的特性が向上する。強化第二相は、材料中で化学的に安定しマトリックスと独立して第二相の形態を保持しなければならず、その種類としては、金属相、酸化物相、及び気孔などが挙げられる。本発明では、上記一般式(1)ないし(7)で示す組成を有する圧電単結晶中で化学的に安定しクラックの成長を抑制することができる第二相を強化第二相として用いた。強化第二相を含む圧電単結晶は、強化圧電単結晶または強化圧電単結晶複合体と呼ばれることもある。
【0073】
上記一般式(1)ないし(7)で示す何れか一つの組成に添加されるPは、全組成に対する体積分率で0.1ないし20%の範囲の量で添加されることが好ましい。Pが0.1%未満の場合は、Pの添加量が僅かであることから単結晶の機械的特性または誘電及び圧電特性の増加効果があまり期待できず、20%を超える場合は、却って機械的特性または誘電及び圧電特性が悪くなるためである。
【0074】
本発明による圧電単結晶は、キュリー温度Tcが180度以上であることが好ましい。キュリー温度が180度未満であると、抗電界Ecを5kV/cm以上または相転移温度TRTを100度以上に上げ難いためである。
【0075】
本発明による圧電単結晶は、電気機械結合係数k33が0.85以上であることが好ましい。電気機械結合係数が0.85未満であると、圧電多結晶体セラミックスとその特性がほぼ同じで且つエネルギー変換効率が低くなるためである。
【0076】
本発明による圧電単結晶は、抗電界が5kV/cm以上であることが好ましい。抗電界が5kV/cm未満であると、圧電単結晶の加工の際または圧電単結晶応用部品の製作または使用の際にポーリングが除去され易くなるためである。
【0077】
本発明による圧電単結晶の製造方法において、上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節されることが好ましい。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径が0.5Rcより小さい場合(0.5Rc>R)は、異常粒子の数密度が高すぎて単結晶が成長できなくなり、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径が2Rcより大きい場合(2Rc<R)は、異常粒子の数密度が「0」であるか、単結晶の成長速度が遅すぎて大きな単結晶を製造することができないためである。
【0078】
本発明による圧電単結晶の製造方法において、多結晶体の異常粒子の数密度が減少した状態で発生した少数の異常粒子を成長させ続けて単結晶を得る場合は、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rが、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上Rc以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦Rc)に調節されることが好ましい。少数の異常粒子だけを生成させ、その生成された少数の異常粒子を成長させるための条件は、0.5Rc≦R≦Rcであって、Rが0.5Rcより小さい場合は、生成される異常粒子の数密度が高すぎることから少数の異常粒子だけを成長させることが不可能となり、RがRcより大きい場合は、異常粒子が全く生成されなくなることから、上記範囲内に調節することが好ましい。
【0079】
ペロブスカイト型結晶構造は、[A][B]O3で表され、AとBが+2価と+4価のイオンからそれぞれ構成される単純ペロブスカイト型構造と、Bが+2価と+5価のイオンから構成されるか、+3価と+5価のイオンから構成されるか、または+2価と+6価のイオンから構成される複合ペロブスカイト型構造とに分けられる。しかしながら、単純ペロブスカイト型構造と複合単純ペロブスカイト型構造とは、その結晶構造に差がなく、本発明では、単純ペロブスカイト型構造と複合単純ペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶をいずれも含む。
【0080】
ジルコン酸鉛(PbZrO3)は、230℃の高い相転移温度を有するだけでなく(表1)、MPBを温度軸に対してより垂直にさせる効果があるため、高いキュリー温度を保持しつつ高い菱面体晶相と正方晶相間の相転移温度TRTを得ることが可能であることから、Tc、TRTともに高い組成を開発することができる。そして、既存の圧電単結晶組成にジルコン酸鉛を混ぜ込む場合においても、相転移温度がジルコン酸鉛の含量に比例して増大する。したがって、ジルコニウム(Zr)またはジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶は、既存の圧電単結晶の問題点を克服することができる。また、ジルコニア(ZrO2)またはジルコン酸鉛は、既存の圧電多結晶材料において主成分に使われており且つ安価な原料であることから、単結晶の原料コストを上げることなく本発明の目的を達成することができる。
【0081】
ジルコニウムまたはジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型結晶構造の圧電単結晶は、一般的な単結晶製法では製造が不可能であると知られている。ジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型圧電単結晶は、溶融時にPMN−PTとPZN−PTなどとは異なって、調和融解挙動を示さないで不調和融解挙動を示す。不調和融解挙動を示すと、固相の溶融時に液相と固相ジルコニア(ZrO2)に分離され、液相中の固相ジルコニア粒子が単結晶成長を邪魔することにより、溶融工程を用いる一般的な単結晶成長法である光束法とブリッジマン法などでは製造することができない。ジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型圧電単結晶の製造自体が難しかったため、単結晶の誘電及び圧電特性も未だに報告されたことがない。特に、ジルコン酸鉛の含量による圧電特性d33、k33、相転移温度Tc、TRTと抗電界Ecなどの特性変化は、現在まで報告されたことがない。
【0082】
溶融工程を用いる一般的な単結晶成長法では強化第二相を含む単結晶の製造が難しいため未だに報告されたことがない。何故ならば、溶融温度以上では、強化第二相が液相と化学的に不安定して反応するため、独立して第二相形態を保持することができず消滅するためである。また、液相中において第二相と液相との密度差によって第二相と液相との分離が起こり、第二相を含む単結晶の製造が難しく且つ単結晶中における強化第二相の体積分率、大きさ、形態、配列、及び分布などを調節することができない。本発明では、溶融工程を用いない固相単結晶成長法を用いて強化第二相を含む圧電単結晶を製造する。固相単結晶成長法では、単結晶成長が溶融温度以下で起こるため、強化第二相と単結晶との化学的反応が抑制され、強化第二相が単結晶中において独立した形態で安定して存在することができるようになる。そして、単結晶成長が強化第二相を含む多結晶体で起こり、単結晶の成長中に強化第二相の体積分率、大きさ、形態、配列、及び分布などの変化がない。したがって、強化第二相を含む多結晶体を作る工程において、多結晶体中の強化第二相の体積分率、大きさ、形態、配列、及び分布などを調節して単結晶を成長させると、結果的に所望の形態の強化第二相を含む単結晶、すなわち、強化圧電単結晶を製造することができる。
【0083】
本発明では、既存の単結晶成長法とは異なって、固相単結晶成長法を用いてジルコニウム(Zr)を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造した。固相単結晶成長法は、既存の単結晶成長法とは異なって、溶融工程を用いないことからジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造することができ、また、各種の元素を含む複雑な組成であるが、化学的に均一な組成を有するジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造することができた。
【0084】
本発明による新規なペロブスカイト型圧電単結晶を含む圧電体を利用する圧電応用部品としては、超音波トランスデューサ(医療用超音波診断機、ソーナー用トランスデューサ、非破壊検査用トランスデューサ、超音波洗浄機、超音波モーターなど)、圧電アクチュエーター(d33型アクチュエーター、d31型アクチュエーター、d15型アクチュエーター、微細位置制御用圧電アクチュエーター、圧電ポンプ、圧電バルブ、及び圧電スピーカーなど)と圧電センサー(圧電加速度計など)などがある。
【0085】
本発明による新規なペロブスカイト型圧電単結晶を含む圧電体を利用する誘電応用部品としては、高効率キャパシタ、赤外線センサー、誘電体フィルターなどがある。
【0086】
本発明による圧電単結晶を含む圧電体を利用する圧電応用部品の例として、図2a及び図2bに示したアクチュエーターが挙げられる。図2a(d33型アクチュエーター)と図2b(d31型アクチュエーター)に示すアクチュエーター10は、本発明による圧電単結晶を含む圧電体12を含み、該圧電体12は、伝導性電極14、16に取り囲まれている。圧電体12は、上記一般式(1)ないし(12)で示す何れか一つの組成を有する圧電単結晶を含み、その結晶の結晶軸は、通常座標20において示すとおりに配列される。電極14、16の間に電圧Vが印加されると、圧電体12は、矢印24により示すような方向に主な圧電変形が起こる。
【0087】
本発明による圧電単結晶を含む圧電体を利用する圧電応用部品のまた他の例として、図3a及び図3bに示した超音波トランスデューサ20が挙げられる。図3aは、2−2複合体の超音波変換器20の分解組立図であって、本発明による圧電単結晶を含む複数の単結晶圧電素子22、ポリマー層24、電極26、28を含んでいる。図3bは、1−3複合体の超音波変換器30の分解組立図であって、本発明による圧電単結晶を含む複数の単結晶圧電素子32、ポリマー層34、電極36、38を含んでいる。
【0088】
本発明による応用部品のまた他の例として、図4に示す超音波プローブ40が挙げられる。図4に示す超音波プローブ40は、本発明による圧電単結晶を利用した圧電素子41、該圧電素子の超音波送/受信面及びその反対面に一対の電極42a、42bを形成してなる超音波送/受信素子、送/受信面に接続された電極42a上に形成された音響整合層43a、43b、音響レンズ44、一次電極と二次電極にそれぞれ接続された基本電極板46a及びフレキシブル印刷回路基板46bを含む。上記音響レンズ44は、音響整合層の全体を覆うことができるように形成される。接着剤を利用して基本電極板46aが一次電極42aに接合され、複数本のケーブルを有するフレキシブル印刷回路基板46bが二次電極42bに接合される。
【0089】
本発明による応用部品のまた他の例として、図5による表面弾性波フィルターが挙げられる。図5に示すように、表面弾性波フィルターは、本発明による圧電単結晶で構成された基板と、入力変換器及び出力変換器からなる。
【0090】
本発明による圧電単結晶で構成された誘電体を利用した誘電応用部品の例として、図6に示した薄膜キャパシタが挙げられる。この薄膜キャパシタは、シリコーン基板51の表面上に酸化シリコーンなどの絶縁層52が形成されている。絶縁層52上にPtなどで形成された下部電極53が形成され、下部電極53上に本発明による圧電単結晶で構成された高誘電率の誘電体層54が形成される。誘電体層54上にPtなどで形成された上部電極59が形成される。
【実施例】
【0091】
以下、添付した図面を参照しながら本発明による圧電単結晶の組成による誘電特性、圧電特性、相転移温度、及び抗電界の変化を詳細に説明する。
<実施例1>
本実施例では、[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62)の組成を有する単結晶を固相単結晶成長法で製造し、ジルコニウム(Zr)の含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、及び抗電界値の変化を測定した。
単結晶の製造
本実施例では、[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62)の組成を有するセラミックス粉体をコロンバイト法を用いて製造した。先ず、MgO及びNb25粉体をボールミルにより混合した後、仮焼してMgNb26を製造し、PbO、MgNb26、TiO2、ZrO2粉体をさらに混合し仮焼して表2の組成を有するペロブスカイト相粉体を製造した。製造された[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3粉体に過量のPbOを添加して混合粉体を製造した。製造された混合粉体を成形した後、200MPaの静水圧で加圧成形し、これにより得られた粉末成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができる条件として、添加される過量PbOの量が10〜20モル%の範囲と決められ、熱処理温度が1000〜1150℃の範囲と決められた。このようにして製造された多結晶体の上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3の種子単結晶を載置して熱処理を施し、種子単結晶の多結晶体中への連続的な成長を利用して多結晶体組成の単結晶を製造した。
【0092】
上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節した時、種子単結晶は多結晶体中へと成長し続けた。本実施例では、過量PbOの量と熱処理温度を調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦2Rcの範囲に調節した時、熱処理中にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶が[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62)多結晶体中へと成長し続けて多結晶と同じ組成を有する単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは10×10mm2以上であった。
電気機械結合係数k33の測定
一方、製造された単結晶の電気機械結合係数k33は、インピーダンス分析器(HP4294A)を利用してIEEE法で測定した。組成による電気機械結合係数k33の変化の結果を、下記表2に示した。
【0093】
【表2】

【0094】
上記表2に示したように、測定した組成の全てにおいて電気機械結合係数k33が0.85以上の値を示した。
誘電及び圧電特性の測定
また、上記製造された[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62)単結晶において、yの変化による誘電率、相転移温度Tc、TRT、圧電定数、及び抗電界の特性変化を、それぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。その結果を、下記表3に示した。
【0095】
【表3】

【0096】
上記表3に示したように、表3の組成において、yが0.22から0.27へと増加するに伴い、Tcは230℃程度と一定であったが、TRTは100℃から170℃へと連続して増加した。圧電単結晶組成の全量におけるジルコニウム(Zr)の含量、すなわち、yを変化させて、相転移温度Tc、TRTを同時に高く保持することができ、また誘電及び圧電特性も高い値を保持することができた。
【0097】
本実施例において製造された単結晶の特性は、単結晶の組成が菱面体晶相で且つMPB境界に近いほど高い値を示し、MPBから遠くなるほど(yが増加するほど)誘電及び圧電特性が減少しものの、TRT相転移温度は却って増加した。菱面体晶相で且つMPB組成とほぼ同じのジルコニウム(Zr)またはジルコン酸鉛(PbZrO3)を含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示した。
<実施例2>
本実施例では、実施例1の組成([Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62))に強化第二相を体積分率で0.1%〜20%の範囲で添加して、強化圧電単結晶([Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3+cP(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20))を製造し、強化第二相の種類と含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、抗電界、及び破壊強度などの変化を測定した。
単結晶の製造
本発明による第二相強化剤を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造するために、ペロブスカイト型圧電単結晶組成粉体にP(Pは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、MgO、ZrO2及び気孔からなる群より選択された一つまたは複数)を体積分率で0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加して多結晶体を製造し、該製造した多結晶体を利用して固相単結晶成長法で単結晶を製造した。
【0098】
本実施例では、先ず[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62)組成のセラミックス粉体を実施例1と同様に製造し、該製造された粉体のx/y値を、それぞれ0.38/0.22、0.37/0.23、0.36/0.24、0.35/0.25、0.34/0.26、0.33/0.27と設定した。製造された[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3粉体に過量のPbO粉体とともにMgO粉体(P=MgO)、Pt粉体(P=Pt)とPMMA(polymethyl methacrylate)ポリマー(P=pore)をそれぞれ添加した。PMMAは、熱処理中に分解され消滅するため、熱処理後に多結晶体と単結晶中に気孔を形成するようになる。最終的に製造された粉末成形体は、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけてそれぞれ熱処理を施した。熱処理過程により、[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3+cMgO、[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3+cPtおよび[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3+c(Pore)(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20)の組成を有する多結晶体が製造された。
【0099】
多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができる条件として、添加される過量PbOの量が20モル%と決められ、熱処理温度が1100℃と決められた。このようにして製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して熱処理を施し、種子単結晶の多結晶体中への連続的な成長を利用して多結晶体組成の単結晶を製造した。すなわち、製造された粉体に20モル%の過量PbOを添加し、1100℃で熱処理を施して多結晶体を製造した後、該製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して1100℃で300時間かけて熱処理を施した時、種子単結晶が成長し続け、多結晶体組成の単結晶が多結晶体中へと成長した。
【0100】
上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節した時、種子単結晶が多結晶体中へと成長し続けた。本実施例では、過量PbOの量と熱処理温度を調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦2Rcの範囲に調節した時、熱処理中にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶が多結晶体中へと成長し続けて多結晶と同じ組成を有する単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは15×15mm2以上であった。
破壊強度の測定
上記実施例2に従って製造された強化第二相を含む単結晶の破壊強度MPa値をASTM法によって4点曲げ強度測定法で測定した。その結果を、下記表4に示した。
【0101】
【表4】

【0102】
上記表4に示したように、[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62)単結晶は、組成の変化に関係なくほぼ同じ破壊強度値(45±15MPa)を示した。単結晶中に0.01MgOと0.005Ptを含む単結晶は、それぞれ49±15MPaと54±15MPaの破壊強度値を示した。そして、単結晶に気孔が体積分率で20%以下含まれた場合は、破壊強度値が50±20MPaに増加した。
圧電特性の測定
上記実施例2に従って製造された強化圧電単結晶([Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3+cP(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20))のyの変化による相転移温度、及び圧電定数などの特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。製造された単結晶の相転移温度は、第二相の添加による変化がほとんどなく、誘電及び圧電定数の測定結果は、下記表5に示したとおりである。そして[Pb][(Mg1/3Nb2/3(1xy)TixZry]O3(x=0.34、y=0.26)単結晶にPt粒子を添加して体積分率を0%から15%までに増加させた時における、圧電単結晶の誘電率の変化を表6に示した。
【0103】
【表5】

【0104】
【表6】

【0105】
結果分析
本実施例で製造された単結晶の特性は、MgO、Pt、及び気孔などの第二相が0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加されると、破壊強度及び機械的靭性が向上した。そして、単結晶中に伝導性金属としてのPt粒子を分散させた場合は、誘電特性が含量に比例して連続して増加した。したがって、MgO、Pt、及び気孔などの第二相を含むジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示し、MgOやPtなどの第二相を含まないジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶に比べて機械的特性が一層向上した。
<実施例3>
<実施例3―1>
本実施例では、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)組成の単結晶を固相単結晶成長法で製造し、ジルコニウムの含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、及び抗電界値の変化を測定した。本実施例では、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)の組成を有するペロブスカイト相セラミックス粉体を<実施例1>と同じ方法で製造し、y値をそれぞれ0.19、0.21、0.23、0.25、0.27、0.29、及び0.31と設定した。製造されたペロブスカイト相粉体に過量のPbO粉体を0、5、10、15、20、25、及び30モル%と変化させて添加して、過量のPbOが含まれた各種の組成を有する粉体を製造した。過量PbOが添加された粉体成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施し、多結晶体での異常粒成長挙動及び異常粒子の数密度を調査した。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができる条件として、添加される過量PbOの量が20モル%と決められ、熱処理温度の範囲は1100℃〜1150℃と決められた。このように本実施例では、添加される過量のPbOの量と熱処理温度を調節することで多結晶体のマトリックス粒子の粒径を調節したが、その他、熱処理時間、熱処理雰囲気(試片周囲の酸素分圧、PO2)、試片周囲のPbO分圧(PPbO)などの条件を調節することで多結晶体のマトリックス粒子の粒径を調節することもできた。すなわち、上記の通りに1150℃で熱処理を施して多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径が調節されることで異常粒子の数密度が減少された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して1100℃で300時間かけて熱処理を施し、種子単結晶の多結晶体中への連続的な成長を利用して多結晶体組成の単結晶を製造した。(2段階熱処理による単結晶の製造)
<実施例3―2>
一方、本発明者らは、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)の組成を有するセラミックス粉体を利用して種子単結晶を含むことなく多結晶体中で生成された少数の異常粒子を成長させ続けることで単結晶を製造した。直ぐ上で述べた種子単結晶を接触させる実験と同じ方法でペロブスカイト相粉体を製造し、それに過量のPbO粉体を添加した後に熱処理を施した。その結果、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上1倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦Rc)に調節することができる条件として、添加される過量PbOの量が30モル%と決められ、熱処理温度が1050℃と決められた。上記[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)の組成を有するセラミックス粉体に上記のように決められた30モル%の過量PbOを添加し、1050℃で500時間かけて一回熱処理を施すことにより、多結晶体に自発的に生成された少数の異常粒子だけを多結晶体中へと成長させ続けて単結晶を製造した。(1回熱処理による単結晶の製造)
単結晶の観察
図8a及び図8bは、固相単結晶成長法で製造された[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti0.35Zr0.25]O3(y=0.25)単結晶の研磨面を示す写真であって、多結晶体中において成長した単結晶が観察される。図8aは、上記実施例3−1に従い、製造された[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti0.35Zr0.25]O3粉体に20モル%の過量PbOを添加し、1150℃で熱処理を施すことで多結晶体を製造した後、該製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置し1100℃で300時間かけて熱処理を施して得られた単結晶を示す写真である。上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節した時、種子単結晶は、多結晶体中へと成長し続けた。本実施例では、過量PbOの量と熱処理温度を調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦2Rcの範囲に調節した時、熱処理中にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶が多結晶体中へと成長し続けて多結晶と同じ組成を有する単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは30×25mm2以上であった。
【0106】
図8bは、上記実施例3−2に従い、製造された[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti0.35Zr0.25]O3粉体に30モル%の過量PbOを添加し、1050℃で500時間かけて熱処理を施して得られた単結晶を示す写真である。上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上1倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦Rc)に調節した時、多結晶体中において異常粒子の数密度が減少して少数の異常粒子だけを成長させ続けることができた。本実施例では、過量PbOの量と熱処理温度を調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上1倍以下の粒径範囲に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦Rcの範囲に調節した時、多結晶体において自発的に生成された少数の異常粒子が多結晶体中において成長し続けて大きめの単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは20×20mm2以上であった。
誘電特性及び相転移温度の測定
一方、上記実施例3−1に従って製造された単結晶に対して誘電特性の変化及び相転移温度をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定し、その結果を、図9及び表7に示した。
【0107】
図9は、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.19≦y≦0.31)単結晶において温度による誘電特性の変化及び相転移温度Tc、TRTを示す図である。表7は、製造された単結晶のyの変化による誘電率、相転移温度、圧電定数と抗電界の特性変化を示している。図9及び表7に示すように、yが0.19から0.31へと増加するに伴い、Tcは約200℃程度と一定であっが、TRTは100℃から165℃へと連続して増加した。y=0.23である場合に誘電及び圧電特性が最大となり、MPB組成はy=0.23近傍であることが分かった。表7における菱面体晶相の単結晶は、立方晶相の<001>方向の特性であり、正方晶相の単結晶は<011>方向の特性である。
【0108】
【表7】

【0109】
本実施例において製造された単結晶の特性は、単結晶の組成が菱面体晶相で且つMPB境界に近いほど優れており、MPBから菱面体晶相の方に組成が変わっていくほど(yが増加するほど)誘電及び圧電特性が減少したが、TRT相転移温度は却って増加した。MPBから正方晶相の方に組成が変わっていくほど(yが減少するほど)誘電及び圧電特性とTRT相転移温度が減少した。菱面体晶相で且つMPB組成とほぼ同じジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成で誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示した。
<実施例4>
本実施例では、実施例3の組成([Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62))に強化第二相を体積分率で0.1%〜20%の範囲で添加して、強化圧電単結晶([Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3+cP(0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20))を製造し、強化第二相の種類と含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、抗電界、及び破壊強度などの変化を測定した。
単結晶の製造
本発明による第二相強化剤を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造するために、ペロブスカイト型圧電単結晶組成粉体にP(Pは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、MgO、ZrO2及び気孔からなる群より選択された一つまたは複数)を体積分率で0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加して多結晶体を製造し、該製造された多結晶体を利用して固相単結晶成長法で単結晶を製造した。
【0110】
本実施例では、先ず[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)組成のセラミックス粉体を実施例3と同様に製造し、該製造した粉体のy値を、それぞれ0.19、0.21、0.23、0.25、0.27、0.29、0.31と設定した。製造されたペロブスカイト相粉体に過量のPbO粉体とともにZrO2粉体(P=ZrO2)、AgPd粉体(P=AgPd)とカーボン粉末塊(P=pore)をそれぞれ添加した。カーボン粉末塊は、熱処理中に分解され消滅するため、多結晶体と単結晶中に気孔を形成するようになる。最終的に製造された粉末成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間までそれぞれ熱処理を施した。熱処理過程により、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3+cZrO2、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3+cAgPdおよび[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3+c(Pore)(0.25≦x≦0.58;0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20)の組成を有する多結晶体が製造された。各組成の単結晶の製造は、<実施例3>と同じ実験条件と方法にし、第二相を含む場合の単結晶成長速度は、第二相を含まない場合よりは遅かったが、単結晶成長挙動と条件はほぼ同じであった。
破壊強度の測定
上記実施例4に従って製造された強化第二相を含む単結晶の破壊強度値をASTM法によって4点曲げ強度測定法で測定した。その結果を、下記表8aないし8cに示した。
【0111】
【表8a】

【0112】
【表8b】

【0113】
【表8c】

【0114】
上記表8aないし8cに示したように、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)単結晶は、組成の変化に関係なくほぼ同じ破壊強度値(48±15MPa)を示した。単結晶中に強化第二相としてのZrO2、AgPd、及び気孔などが体積分率で20%以下含まれた場合には、強化第二相が全く含まれていない場合に比べて破壊強度値が増加した。
圧電特性の測定
上記実施例4に従って製造された強化圧電単結晶([Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3+cP(0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20))のyとcの変化による相転移温度、及び圧電定数などの特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。製造された単結晶の相転移温度は、第二相添加によってほとんど変化がなかった。そして、[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6-y)Zry]O3(y=0.25)単結晶にAgPd粒子を添加して体積分率を0%から20%までに増加させた時における、圧電単結晶の誘電率の変化を表9に示した。
【0115】
【表9】

【0116】
結果分析
本実施例で製造された単結晶の特性は、ZrO2、AgPt、及び気孔などの第二相が0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加されると、破壊強度及び機械的靭性が向上した。そして、単結晶中に伝導性金属としてのAgPd粒子を分散させた場合は、誘電特性が含量に比例して連続して増加した。したがって、ZrO2、AgPd、及び気孔などの第二相を含むジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示し、強化第二相を含まないジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶に比べて機械的特性が一層向上した。
<実施例5>
本実施例では、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)の組成を有する単結晶を固相単結晶成長法で製造し、ジルコニウムまたはジルコン酸鉛の含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、及び抗電界値の変化を測定した。
単結晶の製造
本実施例では、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)の組成を有するセラミックス粉体をコロンバイト法を用いて製造した。y値をそれぞれ0.20、0.22、0.24、0.26、0.28、0.30と設定した。先ず、MgO、ZnO、及びNb25粉体をボールミルにより混合した後、仮焼して(Mg、Zn)Nb26を製造し、PbO、(Mg、Zn)Nb26、TiO2、ZrO2粉体をさらに混合し仮焼してペロブスカイト相粉体を製造した。製造された[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3粉体に過量のPbO粉体を0、5、10、15、20、25、30モル%と変化させて添加して、過量のPbOが含まれた各種の組成を有する粉体を製造した。製造された粉末成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。その結果、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができる条件として、添加される過量PbOの量が15モル%と決められ、熱処理温度が1100℃と決められた。このようにして製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して熱処理を施し、種子単結晶の多結晶体中への連続的な成長を利用して多結晶体組成の単結晶を製造した。
【0117】
上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節した時、種子単結晶は多結晶体中へと成長し続けた。本実施例では、過量PbOの量を15モル%に調節し熱処理温度を1100℃に調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦2Rcの範囲に調節した時、熱処理中にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶が[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)多結晶体中へと成長し続けて多結晶と同じ組成を有する単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは25×25mm2以上であった。
圧電特性の測定
上記実施例5に従って製造された[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)単結晶のyの変化による誘電率、相転移温度、圧電定数、及び抗電界の特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。その結果を、下記表10に示した。
【0118】
【表10】

【0119】
上記表10に示したように、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)組成においてyが0.20から0.30へと増加するに従い、Tcは約250℃でほぼ一定であったが、TRTは100℃から175℃へと連続して増加した。
【0120】
本実施例に従って製造された単結晶の特性は、単結晶の組成が菱面体晶相で且つMPB境界に近いほど優れており、MPBから菱面体晶相の方に組成が変わっていくほど(yが増加するほど)誘電及び圧電特性が減少したが、TRT相転移温度は却って増加した。MPBから正方晶相の方に組成が変わっていくほど(yが減少するほど)誘電及び圧電特性、TRT相転移温度が減少した。菱面体晶相で且つMPB組成とほぼ同じジルコニウムまたはジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示した。
<実施例6>
本実施例では、実施例5の組成([Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55))に強化第二相を体積分率で0.1%〜20%の範囲で添加して強化圧電単結晶([Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3+cP(0.05≦y≦0.55;0.001≦c≦0.20))を製造し、強化第二相の種類と含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、抗電界、及び破壊強度などの変化を測定した。
単結晶の製造
本発明による第二相強化剤を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造するために、ペロブスカイト型圧電単結晶組成粉体にP(Pは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、MgO、ZrO2及び気孔からなる群より選択された一つまたは複数)を体積分率で0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加して多結晶体を製造し、該製造された多結晶体を利用して固相単結晶成長法で単結晶を製造した。
【0121】
本実施例では、先ず[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)組成のセラミックス粉体を実施例5と同様に製造し、該製造した粉体のy値を、それぞれ0.20、0.22、0.24、0.26、0.28、0.30と設定した。製造された[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3粉体に過量のPbO粉体とともにMgO粉体(P=MgO)、Ag粉体(P=Ag)とPMMAポリマー(P=pore)をそれぞれ添加した。最終的に製造された粉末成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。熱処理過程により、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3+cMgO、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3+cAgおよび[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3+c(Pore)(0.05≦y≦0.55;0.001≦c≦0.20)の組成を有する多結晶体が製造された。各組成の単結晶の製造は、<実施例5>と同じ実験条件と方法にし、第二相を含む場合の単結晶成長速度は第二相を含まない場合に比べて遅かったが、単結晶成長挙動と条件はほぼ同じであった。
破壊強度の測定
上記実施例6に従って製造された強化第二相を含む単結晶の破壊強度値をASTM法によって4点曲げ強度測定法で測定した。その結果を、下記表11aないし11cに示した。
【0122】
【表11a】

【0123】
【表11b】

【0124】
【表11c】

【0125】
上記表11に示したように、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.55)単結晶は、組成の変化に関係なくほぼ同じ破壊強度値(46±12MPa)を示した。単結晶中に強化第二相としてのMgO、Ag、及び気孔などが体積分率で20%以下含まれた場合は、強化第二相が含まれていない場合に比べて破壊強度値が増加した。
圧電特性の測定
上記実施例6に従って製造された強化圧電単結晶([Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3+cP(0.05≦y≦0.55;0.001≦c≦0.20))のyとcの変化による相転移温度、及び圧電定数などの特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。製造された単結晶の相転移温度Tc、TRTは、第二相の添加による変化がなかった。そして、[Pb][((Mg0.7Zn0.31/3Nb2/30.45Ti(0.55-y)Zry]O3(y=0.24)単結晶にAg粒子を添加して体積分率を0%から20%までに増加させた時における、圧電単結晶の誘電率の変化を表12に示した。
【0126】
【表12】

【0127】
結果分析
本実施例に従って製造された単結晶の特性は、MgO、Ag、及び気孔などの第二相が0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加されると、破壊強度及び機械的靭性が向上した。そして、単結晶中に伝導性金属としてのAg粒子を分散させた場合は、誘電特性が連続して増加した。したがって、MgO、Ag、及び気孔などの第二相を含むジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示し、強化第二相を含まないジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶に比べて機械的特性が一層向上した。
<実施例7>
本実施例では、[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)の組成を有する単結晶を固相単結晶成長法で製造し、ジルコニウムまたはジルコン酸鉛の含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、及び抗電界値の変化を測定した。
単結晶の製造
本実施例では、[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)組成のセラミックス粉体をコロンバイト法を利用して製造した。先ず、MgO、In23、及びNb25粉体をボールミルにより混合した後、仮焼して(Mg、In)Nb26を製造し、PbO、(Mg、In)Nb26、TiO2、ZrO2粉体をさらに混合し仮焼してペロブスカイト相粉体を製造した。y値をそれぞれ0.35、0.37、0.39、0.41、0.43、0.45と設定した。製造されたペロブスカイト相粉体に過量のPbO粉体を0、5、10、15、20、25、30モル%へと変化させて添加して、過量のPbOが含まれた各種の組成の粉体を製造した。製造された粉末成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができる条件として、添加される過量PbOの量が25モル%と決められ、熱処理温度が1200℃と決められた。このようにして製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して熱処理を施した。すなわち、製造された粉体に25モル%の過量PbOを添加して1200℃に加熱することにより多結晶体を製造した後、該製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して1200℃で300時間かけて熱処理を施した時、種子単結晶が成長し続けて多結晶体組成の単結晶が多結晶体中において成長した。
【0128】
上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節した時、種子単結晶は多結晶体中へと成長し続けた。本実施例では、過量PbOの量と熱処理温度を調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦2Rcの範囲に調節した時、熱処理中にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶が多結晶体中へと成長し続けて多結晶と同じ組成を有する単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは25×25mm2以上であった。
圧電特性の測定
上記実施例7に従って製造された[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)単結晶のyの変化による誘電率、相転移温度Tc、TRT、圧電定数、及び抗電界の特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。その結果を、下記表13に示した。
【0129】
【表13】

【0130】
上記表13に示したように、[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)の組成においてyが0.35から0.45へと増加するに伴い、Tcは約300℃程度でほぼ一定であったが、TRTは100℃から195℃へと連続して増加した。
【0131】
本実施例に従って製造された単結晶の特性は、単結晶の組成が菱面体晶相で且つMPB境界に近いほど高かったし、MPBから遠くなるほど誘電及び圧電特性が減少したが、TRT相転移温度は却って増加した。菱面体晶相で且つMPB組成とほぼ同じジルコニウムまたはジルコン酸鉛を含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示した。
<実施例8>
本実施例では、実施例7の組成([Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62))に強化第二相を体積分率で0.1%〜20%の範囲で添加して、強化圧電単結晶([Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3+cP(0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20))を製造し、強化第二相の種類と含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、抗電界、及び破壊強度などの変化を測定した。
単結晶の製造
本発明による第二相強化剤を含むペロブスカイト型圧電単結晶を製造するために、ペロブスカイト型圧電単結晶組成粉体にP(Pは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、MgO、ZrO2及び気孔からなる群より選択された一つまたは複数)を体積分率で0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加して多結晶体を製造し、該製造された多結晶体を利用して固相単結晶成長法で単結晶を製造した。
【0132】
本実施例では、先ず[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)組成のセラミックス粉体を実施例7と同様に製造し、該製造した粉体のy値を、それぞれ0.35、0.37、0.39、0.41、0.43、0.45と設定した。製造されたペロブスカイト相粉体に過量のPbO粉体とともにZrO2粉体(P=ZrO2)、Rh粉体(P=Rh)とPMMAポリマー(P=pore)をそれぞれ添加した。最終的に製造された粉末成形体に対し、900℃〜1300℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。熱処理過程により、[Pb][((Mg1/3Nb2/3)0.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3+cZrO2、[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3+cRhおよび[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3+c(Pore)(0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20)の組成を有する多結晶体が製造された。各組成の単結晶製造は、<実施例7>と同じ実験条件と方法にし、第二相を含む場合の単結晶成長速度は、第二相を含まない場合に比べて遅かったが、単結晶成長挙動と条件はほぼ同じであった。
破壊強度の測定
上記実施例8に従って製造された強化第二相を含む単結晶の破壊強度値をASTM法によって4点曲げ強度測定法で測定した。その結果を、下記表14aないし14cに示した。
【0133】
【表14a】

【0134】
【表14b】

【0135】
【表14c】

【0136】
上記表14に示したように、[Pb][((Mg1/3Nb2/30.1(In1/2Nb1/20.1Ti(0.8-y)Zry]O3(0.05≦y≦0.62)単結晶は、組成の変化に関係なくほぼ同じ破壊強度値(50±13MPa)を示した。単結晶中に強化第二相としてのZrO2、Rh、及び気孔などが体積分率で20%以下含まれた場合は、強化第二相が含まれていない場合に比べて破壊強度値が増加した。
圧電特性の測定
上記実施例8に従って製造された強化圧電単結晶([Pb][((Mg1/3Nb2/3)0.1(In1/2Nb1/2)0.1Ti(0.8-y)Zry]O3+cP(0.05≦y≦0.62;0.001≦c≦0.20)のyとcの変化による相転移温度及び圧電定数などの特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。製造された単結晶の相転移温度Tc、TRTは、第二相の添加による変化がなかった。そして、[Pb][((Mg1/3Nb2/3)0.1(In1/2Nb1/2)0.1Ti(0.8-y)Zry]O3(y=0.37)単結晶にRh粒子を添加して体積分率を0%から20%までに増加させた時における、圧電単結晶の誘電率の変化を表15に示した。
【0137】
【表15】

【0138】
結果分析
本実施例に従って製造された単結晶の特性は、ZrO2、Rh、及び気孔などの第二相が0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)添加されると、破壊強度及び機械的靭性が向上した。そして、単結晶中に伝導性金属としてのRh粒子を分散させた場合は、誘電特性が連続して増加した。したがって、ZrO2、Rh、及び気孔などの第二相を含むジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示し、強化第二相を含まないジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の圧電単結晶に比べて機械的特性が一層向上した。
<実施例9>
本実施例では、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)の組成を有する無鉛系単結晶を固相単結晶成長法で製造し、ジルコニウムの含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、及び抗電界値の変化を測定した。
単結晶の製造
本実施例では、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)組成のセラミックス粉体を固相反応法で製造した。BaCO3、Bi23、Fe23、TiO2、ZrO2粉体をボールミルにより混合し仮焼してペロブスカイト相粉体を製造した。x値を0.75、y値をそれぞれ0.05、0.07、0.09、0.11、0.13と設定した。[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)粉体に過量のTiO2、Bi23粉体を0モル%から15モル%の範囲で変化させて添加して、過量のTiO2、Bi23が含まれた各種の組成の粉体を製造した。粉体を成形した後に200MPaの静水圧で加圧成形し、これにより得られた粉末成形体に対し、800℃〜1350℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節することができる条件として、添加される過量TiO2、Bi23の量がそれぞれ0.5モル%、2モル%と決められ、熱処理温度が1100℃と決められた。このようにして製造された多結晶体上にBa(Ti0.7Zr0.3)O3種子単結晶を載置して熱処理を施した。300時間かけて熱処理した時、種子単結晶が成長し続けて多結晶体組成の単結晶が多結晶体中において成長した。
【0139】
上記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径Rcの0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節した時、種子単結晶が多結晶体中へと成長し続けた。本実施例では、過量TiO2、Bi23の量と熱処理温度を調節した時、多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを異常粒子の生成が起こる臨界粒径の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲に調節することができた。多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rを0.5Rc≦R≦2Rcの範囲に調節した時、熱処理中にBa(Ti0.9Zr0.1)O3種子単結晶が[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)多結晶体中において成長し続けて多結晶と同じ組成を有する単結晶が製造され、成長した単結晶の大きさは15×15mm2以上であった。
圧電特性の測定
上記実施例9に従って製造された[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)単結晶のyの変化による誘電率、相転移温度、圧電定数、及び抗電界の特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。その結果を、下記表16に示した。
【0140】
【表16】

【0141】
上記表16に示したように、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)の組成において、yが0.05から0.15へと増加するに伴い、Tcは約250℃程度でほぼ一定であったが、TRTは100℃から160℃へと連続して増加した。
【0142】
本実施例に従って製造された単結晶の特性は、単結晶の組成が菱面体晶相で且つMPB境界に近いほど高かったし、MPBから遠くなるほど誘電及び圧電特性が減少したが、TRT相転移温度は却って増加した。菱面体晶相で且つMPB組成とほぼ同じジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の無鉛系圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示した。
<実施例10>
本実施例では、実施例9の組成([BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15))に強化第二相を体積分率で0.1%〜20%の範囲で添加して、強化圧電単結晶([BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3+cP(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15;0.001≦c≦0.20))を製造し、強化第二相の種類と含量の変化による誘電率、圧電定数、相転移温度、抗電界、及び破壊強度などの変化を測定した。
単結晶の製造
本発明による第二相強化剤を含むペロブスカイト型無鉛系圧電単結晶を製造するために、単結晶組成粉体にP(Pは、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、MgO、ZrO2及び気孔からなる群より選択された一つまたは複数)を体積分率で0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加して多結晶体を製造し、該製造された多結晶体を利用して固相単結晶成長法で単結晶を製造した。
【0143】
本実施例では、先ず[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)組成のセラミックス粉体を実施例9と同様に製造した。x値を0.75、y値をそれぞれ0.05、0.07、0.09、0.11、0.13と設定した。製造された[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3粉体に過量のTiO2、Bi23粉体とともにMgO粉体(P=MgO)、Pt粉体(P=Pt)、PMMAポリマー(P=pore)をそれぞれ添加した。粉体を成形した後に200MPaの静水圧で加圧成形し、これにより得られた粉末成形体に対し、800℃〜1350℃の温度範囲において25℃おきに複数の温度で100時間かけて熱処理を施した。熱処理過程により、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3+cMgO、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3+cPtおよび[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3+c(Pore)(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15;0.001≦c≦0.20)組成の多結晶体が製造された。各組成の単結晶製造は、<実施例9>と同じ実験条件と方法にし、第二相を含む場合の単結晶成長速度は、第二相を含まない場合に比べては遅かったが、単結晶成長挙動と条件はほぼ同じであった。
破壊強度の測定
上記実施例10に従って製造された強化第二相を含む単結晶の破壊強度値をASTM法によって4点曲げ強度測定法で測定した。その結果を、下記表17aないし17cに示した。
【0144】
【表17a】

【0145】
【表17b】

【0146】
【表17c】

【0147】
上記表17に示したように、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15)単結晶は、組成の変化に関係になくほぼ同じ破壊強度値(60±15MPa)を示した。単結晶中に強化第二相としてのMgO、Pt、及び気孔などが体積分率で20%以下含まれた場合は、破壊強度値が増加した。
圧電特性の測定
上記実施例10に従って製造された強化圧電単結晶([BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3+cP(0.65≦x≦1.00;0.05≦y≦0.15;0.001≦c≦0.20)のyとcの変化による相転移温度Tc、TRT及び圧電定数などの特性をそれぞれインピーダンス分析器などを利用してIEEE法で測定した。製造された単結晶の相転移温度は、第二相の添加による変化はなかった。そして、[BaxBi(1-x)][Fe(1-x)Ti(x-y)Zry]O3(x=0.75;y=0.09)単結晶にPt粒子を添加して体積分率を0%から20%までに増加させた時における、圧電単結晶の誘電率の変化を表18に示した。
【0148】
【表18】

【0149】
結果分析
本実施例に従って製造された単結晶の特性は、MgO、Pt、及び気孔などの第二相が0.1%以上20%以下(0.001≦c≦0.20)の範囲で添加されると、破壊強度及び機械的靭性が向上した。そして、単結晶中に伝導性金属としてのPt粒子を分散させた場合は、誘電特性が連続して増加した。したがって、MgO、Pt、及び気孔などの第二相を含むジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の無鉛系圧電単結晶は、特定の組成において誘電率(K3T≧4,000)、圧電定数(d33≧1,400pC/N、k33≧0.85)、相転移温度(Tc≧180℃、TRT≧100℃)、及び抗電界(Ec≧5kV/cm)の全ての特性を示し、強化第二相を含まないジルコニウムを含むペロブスカイト型構造の無鉛系圧電単結晶に比べて機械的特性が一層向上した。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明による圧電単結晶及び圧電単結晶応用部品は、高誘電率K3T、高圧電定数d33、k33、高い相転移温度Tc、TRT、高い抗電界Ec、及び向上した機械的特性を併せ持つ広い温度領域と使用電圧条件での使用を可能にする長所がある。また、単結晶の量産に好適合の固相単結晶成長法を利用して圧電単結晶を製造し、高価な原料を含まない単結晶組成を開発して圧電単結晶の商用化を可能にした。本発明による圧電単結晶及び圧電単結晶応用部品は、優れた特性の圧電単結晶を利用した圧電応用部品及び誘電応用部品を広い温度領域で製造し、使用することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は[A][MN]O3―PbTiO3―PbZrO3の状態態図であって、菱面体晶相と正方晶相の相境界MPBと相境界の周りにおいて優れた誘電及び圧電特性を有する組成領域を示す。
【図2a】図2aは本発明による圧電単結晶を利用して製造された圧電アクチュエーターの構成を示す概略図である。
【図2b】図2bは本発明による圧電単結晶を利用して製造された圧電アクチュエーターの別の構成を示す概略図である。
【図3a】図3aは本発明による圧電単結晶を利用して製造された超音波トランスデューサの別の構成を示す概略図である。
【図3b】図3bは本発明による圧電単結晶を利用して製造された超音波トランスデューサの構成を示す概略図である。
【図4】図4は本発明による圧電単結晶を利用して製造された超音波プローブの構成を示す概略図である。
【図5】図5は本発明による圧電単結晶を利用して製造された表面弾性波フィルターの構成を示す概略図である。
【図6】図6は本発明による圧電単結晶を利用して製造された薄膜キャパシタの構成を示す概略図である。
【図7a】図7aは本発明の方法による異常粒成長が起こる多結晶体においてマトリックス粒子の平均粒径Rと異常粒子の数密度ND、単位面積当たりの異常粒子の個数、及びマトリックス粒子の平均粒径Rと単結晶の成長速度の相関関係を示す図である。
【図7b】図7bは種子単結晶の連続成長条件[0.5Rc≦R≦2Rc]を示す図(R:マトリックス粒子の平均粒径、Rc:異常粒子の生成を起こし得るマトリックス粒子の臨界粒径)である。
【図8a】図8aは固相単結晶成長法で製造された[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti0.35Zr0.25]O3単結晶の表面研磨面の写真である。
【図8b】図8bは固相単結晶成長法で製造された別の[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti0.35Zr0.25]O3単結晶の表面研磨面の写真である。
【図9】図9は製造された[Pb0.97Sr0.03][(Mg1/3Nb2/30.4Ti(0.6y)Zry]O3単結晶のy値の変化による誘電率及び相転移温度Tc、TRTの変化を示す図である。
【符号の説明】
【0152】
10 アクチュエーター
12 圧電体
14、16 伝導性電極
20 超音波トランスデューサ
22、32 単結晶圧電素子
24、34 ポリマー層
26、28、36、38 電極
30 超音波変換器
40 超音波プローブ
41 圧電素子
42a、42b 電極
43a、43b 音響整合層
44 音響レンズ
46a 基本電極板
46b フレキシブル印刷回路基板
51 シリコーン基板
52 絶縁層
53 下部電極
54 誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の組成を有するジルコニウム(Zr)を含むペロブスカイト型構造([A][B]O3)の圧電単結晶。
【化1】

前記一般式において、AはPb、Sr、Ba及びBiからなる群より選択された少なくとも一種であり、MはCe、Co、Fe、In、Mg、Mn、Ni、Sc、Yb及びZnからなる群より選択された少なくとも一種であり、NはNb、Sb、Ta及びWからなる群より選択された少なくとも一種であり、x及びyはそれぞれ下記の条件を満足する。
0.05≦x≦0.58(モル比)
0.05≦y≦0.62(モル比)
【請求項2】
前記圧電単結晶は、下記一般式(2)の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶。
【化2】

【請求項3】
前記圧電単結晶は、下記一般式(3)の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶。
【化3】

【請求項4】
前記圧電単結晶は、下記一般式(4)の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶。
【化4】

前記一般式において、aはモル比で0.0≦a≦0.1であり、bはモル比で0.0≦b≦0.6である。
【請求項5】
前記圧電単結晶は、下記一般式(5)の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶。
【化5】

前記一般式において、xはモル比で0.20≦x≦0.58であり、aはモル比で0.0≦a≦0.5である。
【請求項6】
前記圧電単結晶は、下記一般式(6)の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶。
【化6】

前記一般式において、xはモル比で0.25≦x≦0.58である。
【請求項7】
前記圧電単結晶は、下記一般式(7)の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電単結晶。
【化7】

前記一般式において、xはモル比で0.65≦x≦1.00であり、yはモル比で0.05≦y≦0.15である。
【請求項8】
請求項1に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項9】
請求項2に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項10】
請求項3に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項11】
請求項4に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項12】
請求項5に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項13】
請求項6に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項14】
請求項7に記載の圧電単結晶の組成に体積分率で0.1%〜20%の強化第二相Pをさらに含むことを特徴とする圧電単結晶。
【請求項15】
前記強化第二相Pは、金属相、酸化物相及び気孔からなる群より選択された何れか一種であることを特徴とする請求項8ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶。
【請求項16】
前記強化第二相Pは、Au、Ag、Ir、Pt、Pd、Rh、MgO、ZrO2及び気孔からなる群より選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項15に記載の圧電単結晶。
【請求項17】
前記強化第二相Pは、圧電単結晶中において粒状に均一に分布するか、または所定のパターンを有しつつ規則的に分布することを特徴とする請求項8ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶。
【請求項18】
前記x及びyは、菱面体晶相と正方晶相の相境界MPBの組成から10モル%の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶。
【請求項19】
前記x及びyは、菱面体晶相と正方晶相の相境界MPBの組成から5モル%の範囲にあることを特徴とする請求項18に記載の圧電単結晶。
【請求項20】
キュリー温度Tcが180度以上で且つ菱面体晶相と正方晶相間の相転移温度TRTが100度以上であることを特徴とする請求項1ないし14の何れかに記載の圧電単結晶。
【請求項21】
電気機械結合係数k33が0.85以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶。
【請求項22】
抗電界Ecが5kV/cm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶。
【請求項23】
請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶を製造する方法であって、
(a)前記組成を有する多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径を調節して異常粒子の数密度を減少させる段階、及び
(b)前記段階(a)において異常粒子の数密度が減少された多結晶体に対し熱処理を施して異常粒子を成長させる段階と、
を含むことを特徴とする圧電単結晶の製造方法。
【請求項24】
請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶を製造する方法であって、
前記組成を有する多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径を調節して異常粒子の数密度を減少させる条件下で多結晶体に対し熱処理を施すことを特徴とする圧電単結晶の製造方法。
【請求項25】
前記多結晶体の異常粒子の数密度が減少された状態で発生した少数の異常粒子だけを成長させ続けて単結晶を得ることを特徴とする請求項23に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項26】
前記多結晶体に対し熱処理を施す前に多結晶体に種子単結晶を接合させ、熱処理中に種子単結晶を多結晶体中へと成長させ続けることを特徴とする請求項23に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項27】
前記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節されることを特徴とする請求項23に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項28】
前記多結晶体の異常粒子の数密度が減少された状態で発生した少数の異常粒子だけを成長させ続けて単結晶を得ることを特徴とする請求項24に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項29】
前記多結晶体に対し熱処理を施す前に多結晶体に種子単結晶を接合させ、熱処理中に種子単結晶を多結晶体中へと成長させ続けることを特徴とする請求項24に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項30】
前記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上2倍以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦2Rc)に調節されることを特徴とする請求項24に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項31】
前記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上Rc以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦Rc)に調節されることを特徴とする請求項25に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項32】
前記多結晶体のマトリックス粒子の平均粒径Rは、異常粒子の生成が起こる臨界粒径(異常粒子の数密度が「0」になるマトリックス粒子の平均粒径、Rc)の0.5倍以上Rc以下の粒径範囲(0.5Rc≦R≦Rc)に調節されることを特徴とする請求項28に記載の圧電単結晶の製造方法。
【請求項33】
請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶を含む圧電体を利用した圧電応用部品。
【請求項34】
前記圧電応用部品は、ペロブスカイト型圧電単結晶を含む圧電体を利用した超音波トランスデューサであることを特徴とする請求項33に記載の圧電応用部品。
【請求項35】
前記圧電応用部品は、ペロブスカイト型圧電単結晶を含む圧電体を利用した圧電アクチュエーターであることを特徴とする請求項33に記載の圧電応用部品。
【請求項36】
前記圧電応用部品は、ペロブスカイト型圧電単結晶を含む圧電体を利用した圧電センサーであることを特徴とする請求項33に記載の圧電応用部品。
【請求項37】
請求項1ないし請求項14の何れかに記載の圧電単結晶を含む誘電体を利用した誘電応用部品。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−514765(P2009−514765A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538825(P2008−538825)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004609
【国際公開番号】WO2007/052982
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(500445310)セラコンプ カンパニー, リミテッド (2)
【Fターム(参考)】