説明

圧電型スピーカー

【課題】 分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する圧電型スピーカーを提供する。
【解決手段】 バイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーは、振動板が、一方向の断面において連続する波形状に成形される可動部と、可動部の両端に形成される固定部と、を有し、振動板の可動部が、固定部を含む基準平面からの高さの絶対値が隣り合う同士で異なる複数の曲面部と、曲面部を連結する平面を構成する複数の平面部と、を含み、平面部の一方面側に正電極を有し、平面部の他方面側に負電極を有し、それぞれの平面部の正電極および負電極の面積が、それぞれの平面部の断面長に応じて変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する圧電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声を再生するスピーカーを取り付けるディスプレイ等の音響機器においては、スピーカーを取り付けるのに要する空間を小型化することが要望されている。それらの中には、ディスプレイの表示画面の前面側に透明視可能な振動板を配置するスピーカーが存在し、動電型スピーカーの他に、透明な高分子圧電フィルムを貼り合わせて振動板を構成する圧電型スピーカーがある。
【0003】
特に、透明な高分子圧電フィルムがポリフッ化ビニリデンのフィルム材であり、その可動部に正電極および負電極が形成されている圧電型スピーカーでは、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーが提案されている。ただし、圧電型スピーカーは、再生能率が低くて音圧レベルが低くなりやすく、音圧周波数特性を平坦にすることが難しい、といった様々な理由から音声再生能力において不利な点がある。したがって、従来には、これらの問題を解決するために様々な圧電型スピーカーが提案されている。
【0004】
従来には、分極処理された二枚の圧電フィルムを互いに貼着しアコーディオン・プリーツ状に折曲形成し、各折曲部及び壁部の少なくとも両面に電極を設け、それ等電極に信号電圧を印加することにより隣接する壁部を相反する方向に移動させるとともに、この壁部を壁部の移動方向に湾曲させるようにしたことを特徴とする圧電型スピーカーがある。(特許文献1)。
【0005】
また、従来には、分極処理された二枚の圧電フィルムを貼着して構成されるバイモルフ振動板を、その断面形状が徐々に変化する波形になるように交互に折曲げ形成するとともに、この折曲げ部の表裏に信号電圧が印加される電極部を形成したことを特徴とする圧電型スピーカーがある(特許文献2)。特に、第4図には、高域専用スピーカーとして、バイモルフ振動板31の波形状の周期が一定で、振幅が凸型の特性を呈するように形成されている圧電型スピーカーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭60−50596号公報(図5〜14)
【特許文献2】特開昭61−158300号公報(図1〜3)
【0007】
しかしながら、圧電型スピーカーにおいて、再生能率を高めて、かつ、音圧周波数特性を平坦にするには、従来の技術では十分でない。鉛直状の壁部を有するアコーディオン・プリーツ状の振動板の場合には、音圧周波数特性の平坦化が困難であり、また、圧電型スピーカーの薄型化も困難である。さらに、例えば、上記特許文献2の図4のような振動板形状を備える場合には、指向特性が改善するという利点があるものの、折曲げ部の表裏にのみ信号電圧が印加される電極部を有しているので、再生能率が低くて、十分な音圧レベルが得られない、という問題がある。さらに、また、折曲げ部の表裏に電極を設けると、圧電フィルムの透明性が低下するので、ディスプレイ装置に用いる圧電型スピーカーに適さなくなる、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する圧電型スピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧電型スピーカーは、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーであって、振動板が、一方向の断面において連続する波形状に成形される可動部と、可動部の両端に形成される固定部と、を有し、振動板の可動部が、固定部を含む基準平面からの高さの絶対値が隣り合う同士で異なる複数の曲面部と、曲面部を連結する平面を構成する複数の平面部と、を含み、平面部の一方面側に正電極を有し、平面部の他方面側に負電極を有し、平面部のそれぞれの正電極および負電極の面積が、それぞれの平面部の断面長に応じて変化する。
【0010】
好ましくは、本発明の圧電型スピーカーは、振動板の可動部のそれぞれの曲面部が、一方面側にさらに負電極を有し、他方面側にさらに正電極を有する。
【0011】
また、本発明の圧電型スピーカーは、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーであって、振動板が、一方向の断面において連続する波形状に成形される可動部と、可動部の両端に形成される固定部と、を有し、振動板の可動部が、固定部を含む基準平面からの高さの絶対値が隣り合う同士で異なる複数の曲面部と、曲面部を連結する平面を構成する複数の平面部と、を含み、平面部の一方面側および他方面側に正電極を有し、平面部での二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて形成される中間層に負電極を有し、平面部のそれぞれの正電極および負電極の面積が、それぞれの平面部の断面長に応じて変化する。
【0012】
また、本発明の圧電型スピーカーは、振動板の可動部のそれぞれの曲面部が、一方面側および他方面側にさらに負電極を有し、中間層にさらに正電極を有する。
【0013】
また、本発明の圧電型スピーカーは、振動板の可動部のそれぞれの平面部が、基準平面に対して斜めに交わるように傾斜する。
【0014】
また、本発明の圧電型スピーカーは、基準平面から可動部の曲面部の高さの絶対値が、可動部の中央部で最も大きく、可動部から固定部に向かうにつれて順次小さくなる。また、本発明の圧電型スピーカーは、可動部のそれぞれの平面部の断面長が、可動部の中央部で最も長く、可動部から固定部に向かうにつれて順次短くなる。
【0015】
さらに好ましくは、本発明の圧電型スピーカーは、振動板を構成する高分子圧電フィルムが、ポリフッ化ビニリデンのフィルム材であり、可動部が有する正電極および負電極が、金属ターゲットを用いて蒸着して形成されている、または、スパッタリングした金属薄膜で形成されている、または、金属粉を混入した導電塗料ないし透明高分子導電体をコーティングして形成されている。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明の圧電型スピーカーは、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーである。具体的には、振動板を構成する高分子圧電フィルムが、ポリフッ化ビニリデンのフィルム材であり、本発明の圧電型スピーカーの振動板は背面側が透明視できる。正電極および負電極は、平面部の一方面側および他方面側に少なくとも形成され、二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて形成される中間層に形成されていてもよい。加えて、可動部が有する正電極および負電極が、金属ターゲットを用いて蒸着して形成されている、または、スパッタリングした金属薄膜で形成されている、または、金属粉を混入した導電塗料ないし透明高分子導電体をコーティングして形成されている場合には、振動板の透明性が低下しないので、本発明の圧電型スピーカーは、ディスプレイ装置に用いる圧電型スピーカーに適する。
【0018】
圧電型スピーカーの振動板は、一方向の断面において連続する波形状に成形される可動部と、可動部の両端に形成される固定部と、を有する。振動板の可動部の波形状は、周期的に成形されて、固定部を仮想的に含む基準平面からの高さが隣り合う同士で異なる複数の曲面部と、曲面部の端部を連結する平面を構成する複数の平面部と、を含む。つまり、複数の曲面部は、基準平面からの高さを規定する断面の頂点を通過する稜線ならびに谷線をそれぞれ形成し、曲面部の高さが隣り合う同士で異なるように形成されている。好ましくは、圧電型スピーカーの振動板は、基準平面から可動部の曲面部の稜線ならびに谷線の高さの絶対値が、可動部の中央部で最も大きく(高く)、可動部から固定部に向かうにつれて順次小さく(低く)なるように形成される。
【0019】
また、振動板の可動部のそれぞれの平面部が、基準平面に対して斜めに交わるように傾斜するように構成される。振動板の平面部は、振動板の曲面部の端部を連結する平面を構成し、その一方面側に正電極を有し、その他方面側に負電極を有する。平面部の一方面側および他方面側に正電極を有し、平面部での二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて形成される中間層に負電極を有していてもよい。加えて、それぞれの平面部の正電極および負電極の面積が、一方向の断面において隣り合う同士で異なるそれぞれの平面部の断面長に応じて変化するように形成されている。可動部のそれぞれの平面部の断面長は、可動部の中央部で最も大きく、可動部から固定部に向かうにつれて順次短くなる。したがって、それぞれの平面部の正電極および負電極の面積が、一方向の断面において隣り合う同士で異なるそれぞれの平面部の断面長に応じて変化する。
【0020】
本発明の圧電型スピーカーは、振動板の可動部のそれぞれの平面部の正電極および負電極の面積が、一方向の断面において隣り合う同士で異なるそれぞれの平面部の断面長に応じて変化するように形成されているので、作用する駆動力が変化して音圧周波数特性の平坦化を図ることができる。すなわち、平面部の正電極および負電極の面積が、一方向の断面において隣り合う同士で同面積である場合には、各平面部で発生する駆動力が一定になって平坦な音圧周波数特性が実現できないのに比較して、ピーク・ディップの少ない平坦な音圧周波数特性が実現でき、また、指向特性も改善できる。さらに、振動板の可動部のそれぞれの曲面部が、一方面側にさらに負電極を有し、他方面側にさらに正電極を有するように構成することで、再生能率の向上を図ることができる。
【0021】
なお、本発明の圧電型スピーカーは、振動板の固定部を固定するフレームをさらに備えていても良い。さらに、正電極および負電極が接続される接続端子をフレームに備えていても良い。本発明の圧電型スピーカーは、ディスプレイ装置、あるいは、自動車等のスピードメーター等の表示器において、その前面側に設けるスピーカーに適用すると、表示画面と同じ方向から音波が放射されるので、画面と一致した使用者に良好な音声再生が可能になるという利点がある。
【発明の効果】
【0022】
分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する圧電型スピーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の好ましい実施形態による圧電型スピーカー1を説明する斜視図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態による圧電型スピーカー1を構成するスピーカー振動板2を説明する斜視図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による圧電型スピーカー1を構成するスピーカー振動板2を説明する断面図である。(実施例1)
【図4】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板2の可動部20を説明する一部拡大断面図である。(実施例1)
【図5】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板2の可動部20の電極配置を説明する図である。(実施例1)
【図6】比較例の圧電型スピーカーを構成するスピーカー振動板の可動部40の電極配置を説明する図である。(比較例1)
【図7】比較例の圧電型スピーカーを構成するスピーカー振動板5を説明する断面図である。(比較例2)
【図8】比較例の圧電型スピーカーを構成するスピーカー振動板の可動部60の電極配置を説明する図である。(比較例3)
【図9】実施例及び比較例の圧電型スピーカーの軸上音圧周波数特性のグラフである。(実施例1、比較例1〜3)
【図10】実施例及び比較例の圧電型スピーカーの指向特性を示す基準化音圧周波数特性のグラフである。(実施例1、比較例1〜3)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態による圧電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の好ましい実施形態による圧電型スピーカー1を説明する斜視図である。また、図2は、圧電型スピーカー1を構成するスピーカー振動板2を説明する斜視図であり、図3は、スピーカー振動板2の長径方向のA−A’断面図である。さらに、図4は、スピーカー振動板2の可動部20を説明する一部拡大断面図であり、図5は、スピーカー振動板2の可動部20における電極配置を説明する図である。なお、後述するように、圧電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、図2における点A−A’を結ぶ直線(長軸)が延びる方向が長径方向であり、また、点B−B’
を結ぶ直線(短軸)が延びる方向が短径方向である。
【0026】
本実施例の圧電型スピーカー1は、長径方向長L1が約83mm、短径方向長L2が約10mmの細長形の圧電型スピーカーであり、外形が略矩形のバイモルフ型のスピーカー振動板2を有する。バイモルフ型のスピーカー振動板2は、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて波形状に成形される振動板である。スピーカー振動板2は、長径方向の両端部でスピーカー振動板2を収容する略矩形状のフレーム3に固定されている。フレーム3の背面側には、音声信号電圧が供給される(図示しない)ターミナルが取り付けられている。圧電型スピーカー1では、後述するように、スピーカー振動板2の背面側が透明視できるので、ディスプレイ等のスピーカーを取り付ける幅が少ない機器が有する表示部の側面側などに取り付ける場合のみでなく、表示部の前面側に取り付けるのに適する。
【0027】
バイモルフ型のスピーカー振動板2は、分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを接着剤で貼り合わせて構成する振動板であり、図示するように、長径方向の断面において周期的に連続する波形状が現れるように形成されている。具体的には、スピーカー振動板2を構成する高分子圧電フィルムは、一枚の厚みが40μmのPVDF(ポリフッ化ビニリデン)のフィルム材である。スピーカー振動板2では、PVDFのフィルム材の表面および背面に正電極および負電極が、透明高分子導電体であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)をコーティングして厚み約2μmのコーティング層として形成されている。スピーカー振動板2は、フラットなシート状態の一枚のPVDFフィルムの一方面にPEDOTのコーティング層を形成し、これらを二枚用意し、所定の向きに調整した上でPEDOTのコーティング層を形成していない面同士を対向させて熱硬化性の接着剤を間に挟んで合わせて、所定の金型に挟んで加熱して成形する。なお、本実施例の場合には、正負の両電極を保護する保護フィルムとして、透明な厚みが16μmのPETのフィルムを成形時に貼り合わせている。
【0028】
スピーカー振動板2は、長径方向の断面において連続する波形状に成形される可動部20と、可動部20の両端に形成される固定部21および22と、を有する。固定部21および22は、フレーム3の(図示しない)取付部に形成される平面に固定される部分である。図2に図示するように、固定部21および22を仮想的に含む平面を基準平面Sとすると、波形状に成形される可動部20は、基準平面Sからの高さhsの絶対値が隣り合う同士で異なる複数の曲面部23または25と、曲面部23および25の端部を連結する平面を構成する複数の平面部24と、を含む。図示する曲面部23は、スピーカー振動板2の前面側に出現する曲面部であり、前面視した場合に稜線を規定する曲面部である。一方、曲面部25は、スピーカー振動板2の背面側に出現する曲面部であり、前面視した場合に谷線を規定する曲面部である。具体的には、それぞれの曲面部23または25は、断面の半径が0.5mmの円弧から形成される半円筒状の曲面である。
【0029】
複数の曲面部23の基準平面Sからの高さhsは、長径方向に沿って約1mmから4mmの間で変化する。同様に、複数の曲面部25の基準平面Sからの高さhsも、長径方向に沿ってその絶対値が約1mmから4mmの間で変化する。スピーカー振動板2の可動部20は、その中央部で最も高く(つまり、基準平面Sからの高さhsの絶対値が大きく)、可動部20から固定部21に向かうにつれて順次低く(つまり、基準平面Sからの高さhsの絶対値が小さく)なるように形成される。長径方向の断面図において、複数の曲面部23の頂点を通過して基準平面Sからの高さhsを規定する直線をraとし、複数の曲面部25の頂点を通過して基準平面Sからの高さhsを規定する直線をrbとすると、直線raおよびrbは、基準平面Sに対してほぼ線対称になる。
【0030】
また、波形状に成形される可動部20を構成するそれぞれの平面部24は、基準平面Sに対して斜めに交わるように傾斜している。さらに、可動部20は、その中央部で最も高くなるように形成されているので、それぞれの平面部24は、長径方向の断面において隣り合う同士で異なる断面長を有し、中央側の平面部24が固定部21または22に近い周辺側よりも長い断面長を有する。本実施例の場合には、可動部20のそれぞれの平面部24の断面長は、可動部20の中央部で最も長く、可動部20から固定部21または22に向かうにつれて順次短くなり、約0.7mm〜約7.1mmの範囲で変化する。なお、平面部24が基準平面Sに対して斜めに交わるとは、従来技術のアコーディオン・プリーツ状の圧電振動板において曲面部と曲面部とをつなぐ平面部が基準平面Sに対して直交するような場合を除き、平面部24と基準平面Sとが90度未満の角度で交わる場合をいう。好ましくは、平面部24が基準平面Sと斜めに交わる角度は、本実施例のように約3度〜約30度の範囲あればよく、約5度〜約28度の範囲であってもよい。
【0031】
図4の一部拡大断面図に示すように、バイモルフ型のスピーカー振動板2の可動部20では、分極方向の異なる貼り合わされた二枚のPVDFの表面および背面に、正電極(26p、27p)および負電極(26m、27m)が配置されている。図5は、スピーカー振動板2の可動部20の前面側の電極配置を説明する図であり、波形状に成形される可動部20の長径方向の半分を基準平面Sに沿うように平面状に延ばした場合、つまり、スピーカー振動板2を成形する前のフラットなシート状態での電極配置の図である。具体的には、図5(a)は正電極26pと負電極27mとの相対的な位置関係を示し、図5(b)は正電極26pの形状を示し、図5(c)は負電極27mの形状を示す。なお、スピーカー振動板2の可動部20の背面側の電極配置は、接続される信号線の位相が逆転して、正電極および負電極が入れ替わる関係になるので、可動部20の背面側の電極配置において、図5(b)は負電極26mと同一の形状を示し、図5(c)は正電極27pと同一の形状を示す。正電極と負電極との間には、コーティング層が形成されない幅約0.2mm〜約0.5mmの絶縁部28が形成される。
【0032】
例えば、図5(b)に示すように、可動部20の前面側の正電極26pは、長径方向に沿って細長い略矩形状に形成される接続部261と、この接続部261から短径方向に櫛の歯状に突出するように形成される複数の駆動部262と、を有する。本実施例の場合には、それぞれの駆動部262の幅26wは約0.9mmである。隣り合う駆動部262同士が離間する距離は、可動部20の断面形状に起因して中央側の平面部24がより長い断面長を有するので、可動部20の中央側に寄るほど長くなる。ただし、それぞれの曲面部23または25における正電極26pまたは負電極26mを構成する駆動部262の面積は、その幅26wが一定であるのでいずれの駆動部262でも一定である。
【0033】
また、図5(c)に示すように、可動部20の前面側の負電極27mは、長径方向に沿って細長い略矩形状に形成される接続部271と、この接続部271から短径方向に櫛の歯状に突出するように形成される複数の駆動部272と、を有する。本実施例の場合には、それぞれの駆動部272の幅27wは、可動部20の断面形状に起因して中央側の平面部24がより長い断面長を有するので、可動部20の中央側に寄るほど長くなり、約0.8mm〜約7.1mmの範囲で変化する。したがって、それぞれの平面部24における正電極27pまたは負電極27mを構成する駆動部272の面積は、可動部20の断面形状に起因して、中央側の平面部24に近い方が、周辺側の固定部21または22に近い方よりも大きくなる。
【0034】
スピーカー振動板2の可動部20の前面側では、曲面部23と曲面部25のそれぞれに正電極26pの駆動部262が配置され、平面部24のそれぞれに負電極27mの駆動部272が配置される。一方で、スピーカー振動板2の可動部20の背面側では、曲面部23と曲面部25のそれぞれに負電極26mの駆動部262が配置され、平面部24のそれぞれに正電極27pの駆動部272が配置される。つまり、スピーカー振動板2の可動部20の曲面部23および25では、前面側に正電極26pの駆動部262が配置され、背面側に負電極26mの駆動部262が配置され、そして、スピーカー振動板2の可動部20の平面部24では、前面側に負電極27mの駆動部272が配置され、背面側に正電極27pの駆動部272が配置される。このように、スピーカー振動板2の可動部20の電極配置は、頂点部分である曲面部23および25と、平面部24とで正負電極が逆相の関係となる。
【0035】
前述のターミナルに供給される音声信号電圧は、正電極26pおよび負電極26mの間と、正電極27pおよび負電極27mの間と、に印加される。例えば、ターミナルの正極端子と、正電極26pおよび27pとを接続し、ターミナルの負極端子と、負電極26mおよび27mとを接続すればよい。スピーカー振動板2の可動部20は、PVDFの一軸延伸フィルムを高電圧で分極処理して、これを所定の方向に二枚貼り合わせてバイモルフ型としたものであるから、前面側と背面側のPVDFフィルムの両方に音声信号電圧が加わる結果、延伸された長径方向に前面側と背面側とで逆相の関係を持って伸び縮みする。なお、上記の正電極と負電極の関係は、お互いに逆になってもよいことは、いうまでもない。
【0036】
静電容量負荷となる圧電型スピーカー1では、静電容量Cの変化によりスピーカー振動板2の可動部20の伸び縮みに作用する駆動力が変化する。例えば、可動部20の平面部24において、正電極27pおよび負電極27mの間に誘電体としてのPVDFのフィルムが挿入されているので、平面部24での静電容量Cは、真空中の誘電率ε0(約8.854[pF/m])と、誘電体(ここでは、圧電フィルム)の比誘電率ε'(約13)と、電極の面積s([m])と、に比例し、電極間の距離d(つまり、PVDFフィルムの厚み[m])に反比例する。
【0037】
したがって、それぞれの平面部24における正電極または負電極を構成する駆動部272で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部272で異なる面積を有することに起因して、中央側の平面部24に近い方が、周辺側の固定部21または22に近い方よりも大きくなる。一方で、それぞれの曲面部23および25における正電極または負電極を構成する駆動部262で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部262で面積が一定であることに起因して、いずれの曲面部23および25でもほぼ等しくなる。
【0038】
さらに、スピーカー振動板2の可動部20の電極配置は、上記の通り、曲面部23および25と、平面部24とで逆相の関係となっているので伸び縮みに作用する駆動力も逆相の関係となり、例えば、曲面部23および25が伸びる場合には平面部24が縮み、反対に曲面部23および25が縮む場合には平面部24が伸びる、という関係を有する。その結果、スピーカー振動板2の可動部20は、単なるPVDFシートを分極処理するような場合に比べて格段にその前後方向の振幅変位が大きくなるので、スピーカー振動板2を備える圧電型スピーカー1は、音波への変換効率が向上して再生能率の向上を図ることができる。
(比較例1)
【0039】
図6は、比較例1としての(図示しない)スピーカー振動板4の可動部40における電極配置を説明する図である。具体的には、図6は、比較例1の可動部40の前面側の電極配置を説明する図であり、波形状に成形される可動部40の長径方向の半分を基準平面Sに沿うように平面状に延ばした場合、つまり、スピーカー振動板4を成形する前のフラットなシート状態での電極配置の図である。比較例1のスピーカー振動板4は、中央部で基準平面Sからの高さhsが最も高くなる波形状に形成される可動部40を有し、(図示しない)曲面部43および45と、(図示しない)平面部44を含む。つまり、比較例1のスピーカー振動板4は、実施例1のスピーカー振動板2とほぼ同形状の振動板形状であり、可動部40の平面部44に形成される正電極47pおよび負電極47mの形状が実施例1の場合と異なる他は一致するので、重複する説明ならびに図示を省略する。
【0040】
図6に示すように、可動部40の前面側の正電極46pは、実施例1における正電極26pと同形状であり、長径方向に沿って細長い略矩形状に形成される接続部461と、この接続部461から短径方向に櫛の歯状に突出するように形成される複数の駆動部462と、を有する。ただし、それぞれの曲面部43または45における正電極46pまたは負電極46mを構成する駆動部462の面積は、その幅46wが一定であるのでいずれの駆動部462でも一定である。なお、可動部40の背面側の負電極46mは、前面側の正電極46pと同一の形状を示す。
【0041】
また、可動部40の前面側の負電極47mは、長径方向に沿って細長い略矩形状に形成される接続部471と、この接続部471から短径方向に櫛の歯状に突出するように形成される複数の駆動部472と、を有する点で一致するものの、それぞれの駆動部472の幅47wは、約0.8mmで一定である。なお、可動部40の背面側の正電極47pは、前面側の負電極47mと同一の形状を示す。したがって、それぞれの平面部44における正電極47pまたは負電極47mを構成する駆動部472の面積は、その幅47wが一定であるのでいずれの駆動部472でも一定である。
【0042】
また、比較例1のスピーカー振動板4の可動部40の曲面部43および45では、前面側に正電極46pの駆動部462が配置され、背面側に負電極46mの駆動部462が配置される。そして、平面部44では、前面側に負電極47mの駆動部472が配置され、背面側に正電極47pの駆動部472が配置される。このように、スピーカー振動板4の可動部40の電極配置は、頂点部分である曲面部43および45と、平面部44とで正負電極が逆相の関係となる。したがって、曲面部43および45と、平面部44とで、伸び縮みに作用する駆動力は逆相の関係となる。
【0043】
したがって、それぞれの平面部44における正電極または負電極を構成する駆動部472で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部472が一定の面積であることに起因してほぼ一定である。平面部44における駆動部472の面積は、実施例1の駆動部272の面積よりも減少するので、実質的に駆動力は減少する。一方で、それぞれの曲面部43および45における正電極または負電極を構成する駆動部462で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部462が一定の面積であることに起因して、いずれの曲面部43および45でもほぼ等しくなる。その結果、スピーカー振動板4の可動部40は、実施例1の場合に比べてその前後方向の振幅変位が小さくなるので、比較例1のスピーカー振動板4を備える圧電型スピーカーは、実施例1の圧電型スピーカー1よりも再生能率が低下する。
(比較例2)
【0044】
図7は、比較例2としてのスピーカー振動板5の長径方向のA−A’断面図である。比較例2のスピーカー振動板5は、固定部51および52を仮想的に含む基準平面Sからの高さhsがほぼ一定である波形状に形成される可動部50を有し、可動部50は、前面側の曲面部53と、背面側の曲面部55と、これらの曲面部を連結する平面部54を含む。また、比較例2のスピーカー振動板5では、可動部50の複数の曲面部53の基準平面Sからの高さhsが、長径方向に沿って変化することなく一定である点で異なる他は、実施例1または比較例1のスピーカー振動板4とほぼ同様の構成を有するので、重複する説明ならびに図示を省略する。
【0045】
比較例2のスピーカー振動板5では、複数の曲面部53および55の基準平面Sからの高さhsの絶対値が約4mmでほぼ一定であるので、長径方向の断面図において、複数の曲面部53ないし55の頂点をそれぞれ通過する直線raおよびrbは、基準平面Sに対して平行で、ほぼ線対称になる。また、それぞれの平面部54は、基準平面Sに対して斜めに交わるように傾斜するものの、長径方向の断面において隣り合う同士でほぼ同一の断面長を有し、平面部54が基準平面Sと斜めに交わる角度も、約5度でほぼ一定になる。
【0046】
可動部50に形成される(図示しない)正電極(56p、57p)および負電極(56m、57m)の形状は、図6に図示する先の比較例1の場合と同じである。したがって、可動部50のそれぞれの曲面部53または55における(図示しない)正電極56pまたは負電極56mを構成する(図示しない)駆動部562の面積は、その(図示しない)幅56wが一定であるのでいずれの駆動部562でも一定である。また、可動部50のそれぞれの平面部54における(図示しない)正電極57pまたは負電極57mを構成する(図示しない)駆動部572の面積は、その(図示しない)幅57wが一定であるのでいずれの駆動部572でも一定である。
【0047】
また、比較例2のスピーカー振動板5の可動部50の曲面部53および55では、前面側に正電極56pの駆動部562が配置され、背面側に負電極56mの駆動部562が配置され、そして、平面部54では、前面側に負電極57mの駆動部572が配置され、背面側に正電極57pの駆動部572が配置される。このように、スピーカー振動板5の可動部50の電極配置は、頂点部分である曲面部53および55と、平面部54とで正負電極が逆相の関係となる。したがって、曲面部53および55と、平面部54とで、伸び縮みに作用する駆動力は逆相の関係となる。
【0048】
したがって、それぞれの面積がほぼ一定な平面部54における正電極57pまたは負電極57mを構成する駆動部572で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部572が一定の面積であることに起因してほぼ一定である。平面部54における駆動部572の面積は、実施例1の駆動部272の面積よりも減少するので、実質的に駆動力は減少する。一方で、それぞれの曲面部53および55における正電極または負電極を構成する駆動部562で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部562が一定の面積であることに起因して、いずれの曲面部53および55でもほぼ等しくなる。その結果、スピーカー振動板5の可動部50は、実施例1の場合に比べてその前後方向の振幅変位が小さくなるので、比較例2のスピーカー振動板5を備える圧電型スピーカーは、実施例1の圧電型スピーカー1よりも音圧周波数特性が乱れて、再生能率が低下する。
(比較例3)
【0049】
図8は、比較例3としての(図示しない)スピーカー振動板6の可動部60における電極配置を説明する図である。具体的には、図8は、比較例3の可動部60の前面側の電極配置を説明する図であり、波形状に成形される可動部60の長径方向の半分を基準平面Sに沿うように平面状に延ばした場合、つまり、スピーカー振動板6を成形する前のフラットなシート状態での電極配置の図である。比較例3のスピーカー振動板6は、中央部で基準平面Sからの高さhsが最も高くなる波形状に形成される可動部60を有し、(図示しない)曲面部63および65と、(図示しない)平面部64を含む。つまり、比較例3のスピーカー振動板6は、実施例1のスピーカー振動板2とほぼ同形状の振動板形状であり、可動部60の平面部64に正電極および負電極の駆動部を有しない点で実施例1の場合と異なる他は一致するので、重複する説明ならびに図示を省略する。なお、比較例3のスピーカー振動板6は、特許文献2の図4に記載の圧電スピーカーの振動板に相当する。
【0050】
図8に示すように、可動部60の前面側の正電極66pは、実施例1における正電極26pと同形状であり、長径方向に沿って細長い略矩形状に形成される接続部661と、この接続部661から短径方向に櫛の歯状に突出するように形成される複数の駆動部662と、を有する。ただし、それぞれの曲面部63または65における正電極66pまたは負電極66mを構成する駆動部662の面積は、その幅66wが一定であるのでいずれの駆動部662でも一定である。また、比較例3のスピーカー振動板6の可動部60の曲面部63および65では、前面側に正電極66pの駆動部662が配置され、背面側に(図示しない)負電極66mの駆動部662が配置される。なお、可動部60の背面側の負電極66mは、前面側の正電極66pと同一の形状を示す。
【0051】
一方で、比較例3のスピーカー振動板6の可動部60の平面部64では、前面側および背面側に電極の駆動部が配置されない。したがって、スピーカー振動板6の可動部60の平面部64には、駆動力が作用しない。また、それぞれの曲面部63および65における正電極66pまたは負電極66mを構成する駆動部662で作用する駆動力は、それぞれの電極の駆動部662が一定の面積であることに起因して、いずれの曲面部63および65でもほぼ等しくなる。その結果、スピーカー振動板6の可動部60は、実施例1の場合に比べてその前後方向の振幅変位が小さくなり、比較例3のスピーカー振動板6を備える圧電型スピーカーは、実施例1の圧電型スピーカー1よりも再生能率が低下する。
【0052】
図9は、実施例1、および、比較例1〜3のスピーカー振動板を備える圧電型スピーカーの軸上1m換算した音圧周波数特性のグラフである。具体的には、図9において、(a)が実施例1のスピーカー振動板2を備える圧電型スピーカー1の場合であり、(b)が比較例1のスピーカー振動板4を備える圧電型スピーカーの場合であり、(c)が比較例2のスピーカー振動板5を備える圧電型スピーカーの場合であり、(d)が比較例3のスピーカー振動板6を備える圧電型スピーカーの場合であって、それぞれを重ね書きしている。
【0053】
実施例1の圧電型スピーカー1は、スピーカー振動板2の可動部20のそれぞれの平面部24の正電極27pおよび負電極27mの面積が、長径方向の断面において隣り合う同士で異なるそれぞれの平面部24の断面長に応じて変化するように形成されているので、他の比較例1のスピーカー振動板4のような平面部44の正電極47pおよび負電極47mの面積が一定の場合、あるいは、比較例2のスピーカー振動板5のような平面部54の断面長が一定の場合、あるいは、比較例3のスピーカー振動板6のような平面部64に正電極および負電極が設けられていない場合、とそれぞれ比較して、音圧周波数特性の平坦化を図ることができる。すなわち、平面部の正電極および負電極の面積が、一方向の断面において隣り合う同士で同面積である場合には、各平面部で発生する駆動力が一定になって平坦な音圧周波数特性が実現できないのに比較して、実施例1の圧電型スピーカー1は、他の比較例の場合よりも再生能率が高いので、音圧レベルが高く、ピーク・ディップの少ない平坦な音圧周波数特性が実現できる。
【0054】
また、図10は、実施例1、および、比較例1〜3の圧電型スピーカーにおいて、指向特性を示す基準化音圧周波数特性のグラフである。具体的には、0°軸上特性を基準特性として、30°方向および60°方向の差分特性を重ね書きしている。図10(a)が実施例1のスピーカー振動板2を備える圧電型スピーカー1の場合であり、図10(b)が比較例1のスピーカー振動板4を備える圧電型スピーカーの場合であり、図10(c)が比較例2のスピーカー振動板5を備える圧電型スピーカーの場合であり、図10(d)が比較例3のスピーカー振動板6を備える圧電型スピーカーの場合である。
【0055】
実施例1の圧電型スピーカー1は、スピーカー振動板2の可動部20のそれぞれの平面部24の正電極27pおよび負電極27mの面積が、長径方向の断面において隣り合う同士で異なるそれぞれの平面部24の断面長に応じて変化するように形成されているので、30°方向および60°方向での指向特性が、他の比較例の場合よりも優れている。比較例2のスピーカー振動板5では、可動部50の複数の曲面部53の基準平面Sからの高さhsが、長径方向に沿って変化することなく一定であるので、スピーカー振動板の基本的な形状が異なる実施例1、比較例1および3よりも著しく劣る指向特性を示す。一方、実施例1、比較例1および3の場合には、図10に示す基準化音圧周波数特性ではそれほど相違しないように表示されていても、図9に示す軸上音圧周波数特性が実施例1の場合に最も平坦であるので、実質的に実施例1の場合が最も好ましい指向特性を得ることができる。
【0056】
なお、実施例1のスピーカー振動板2において、可動部20の平面部24では、長径方向の断面において隣り合う同士で断面長がそれぞれ異なり、その断面長に応じて平面部24の正電極27pおよび負電極27mの面積が変化すればよい。すなわち、圧電型スピーカー1を実現するスピーカー振動板2は、基準平面Sから可動部20の曲面部23および25の高さhsの絶対値が、可動部20の中央部で最も大きく、可動部20から固定部21または22に向かうにつれて順次小さくなる。したがって、可動部20のそれぞれの平面部24の断面長は、可動部20の中央部で最も長く、可動部20から固定部21または22に向かうにつれて順次短くなるので、可動部20の平面部24は、その断面長に応じた面積の電極を有していればよい。場合によっては、可動部20の曲面部23および25に、正電極26pおよび負電極26mを設けなくてもよい。実施例1の圧電型スピーカー1ほど高い音圧レベルは実現できないものの、ピーク・ディップの少ない平坦な音圧周波数特性が実現できる。
【0057】
また、実施例1のスピーカー振動板2では、PVDFのフィルム材の表面および背面に正電極および負電極が、透明高分子導電体であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)をコーティングして形成されている。したがって、スピーカー振動板2の透明性が低下しないので、背面側がよく見えるという利点がある。また、スピーカー振動板2に形成する正電極および負電極は、金属ターゲットを用いて蒸着して形成されていてもよく、または、スパッタリングした金属薄膜で形成されていてもよく、金属粉を混入した導電塗料で正電極および負電極を形成する場合には、金属粉の粒径を小さくすることで透明性の低下を防止することができる。
【0058】
実施例1の圧電型スピーカー1は、車両のスピードメーター等のディスプレイ装置の前面側に配置して用いる圧電型スピーカーに適し、表示画面と同じ方向から音波が放射されるので、視覚と一体感のある使用者に良好な音声再生が可能になるという利点がある。なお、実施例1の圧電型スピーカー1は、上記の長径方向長L1および短径方向長L2を有する細長形の圧電型スピーカーであるが、長径方向長L1と短径方向長L2とがほぼ等しい矩形であってもよい。
【実施例2】
【0059】
本実施例の(図示しない)圧電型スピーカー1aは、先の実施例1の圧電型スピーカー1とほぼ同じ構成、寸法の圧電型スピーカーであって、バイモルフ型のスピーカー振動板2に代えて、二枚のフィルム材の間の中間層にさらに電極を有するバイモルフ型の(図示しない)スピーカー振動板2aを備える。つまり、先の実施例1のスピーカー振動板2では、その表面および背面に正電極および負電極が形成されており、この実施例2のスピーカー振動板2aでは、その表面および背面に正電極が設けられ、加えて(図示しない)中間層に(図示しない)負電極が設けられている。この実施例2のスピーカー振動板2aは、実施例1のスピーカー振動板2とほぼ同形状の振動板形状であり、電極配置が上記のように異なる点で実施例1の場合と異なる他は一致するので、重複する説明ならびに図示を省略する。
【0060】
バイモルフ型のスピーカー振動板2aは、分極方向の異なる二枚のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)のフィルム材を接着剤で貼り合わせて構成する振動板であり、長径方向の断面において連続する波形状が現れるように形成されている。スピーカー振動板2aの形成工程では、それぞれのPVDFのフィルム材の表面および背面に正電極および負電極が、透明高分子導電体であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)をコーティングして厚み約2μmのコーティング層として形成される。次に、フラットなシート状態の一枚のPVDFフィルムの表面および背面にPEDOTのコーティング層を形成し、これらを二枚用意し、所定の向きに調整した上で同一形状のコーティング層を形成している面同士を対向させて、所定の金型に挟んで加熱して成形し、二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせた中間層に電極を形成する。
【0061】
なお、中間層において電極を設けない部分に熱硬化性の接着剤を配置すれば、二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせることができる。また、上記の場合には二枚のPVDFのそれぞれ両面にコーティング層を形成したが、二枚の高分子圧電フィルムのうち、一枚の両面にコーティング層を形成し、もう一枚の高分子圧電フィルムのコーティング層を設けない表面を中間層になるように貼り合わせてもよい。この場合には、貼り合わせる両面同士を対向させて、熱硬化性の接着剤を間に挟んで合わせて、所定の金型に挟んで加熱して成形すればよい。
【0062】
スピーカー振動板2aは、長径方向の断面において連続する波形状に成形される可動部20と、可動部20の両端に形成される固定部21および22と、を有する。可動部20は、曲面部23および25と、これらを連結する平面部24を含む。その中央部で最も高くなる波状に形成される可動部20を構成するそれぞれの平面部24は、基準平面Sに対して斜めに交わるように傾斜し、さらに長径方向の断面において隣り合う同士で異なる断面長を有する。中央側の平面部24の方が、固定部21または22に近い周辺側よりも長い断面長を有する。
【0063】
バイモルフ型のスピーカー振動板2aの可動部20では、分極方向の異なる貼り合わされた二枚のPVDFの表面および背面と、中間層とに、正電極および負電極がそれぞれ配置されている。例えば、スピーカー振動板2aは、可動部20の曲面部23および25の表面側および背面側に負電極を有し、曲面部23および25での二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて形成される中間層に正電極を有する。曲面部23および25に設けられる正電極および負電極の形状は、表面側、背面側、および、中間層のいずれでも先の実施例における図5(b)に示す形状に一致する。
【0064】
また、スピーカー振動板2aは、可動部20の平面部24の表面側および背面側に正電極を有し、平面部24での二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて形成される中間層に負電極を有する。平面部24に設けられる正電極および負電極の形状は、表面側、背面側、および、中間層のいずれでも先の実施例における図5(c)に示す形状に一致する。したがって、スピーカー振動板2aの可動部20では、平面部24のそれぞれの正電極および負電極の面積は、それぞれの平面部24の断面長に応じて変化する。
【0065】
つまり、スピーカー振動板2aの可動部20の曲面部23および25では、前面側および背面側に負電極の駆動部が配置され、中間層に正電極の駆動部が配置さる。そして、スピーカー振動板2の可動部2aの平面部24では、前面側および背面側に正電極の駆動部が配置され、中間層に負電極の駆動部が配置される。このように、スピーカー振動板2aの可動部20の電極配置は、頂点部分である曲面部23および25と、平面部24とで正負電極が逆相の関係となる。スピーカー振動板2aの可動部20は、PVDFの一軸延伸フィルムを高電圧で分極処理して、これを所定の方向に二枚貼り合わせてバイモルフ型としたものであるから、前面側と背面側のPVDFフィルムの両方に音声信号電圧が加わる結果、延伸された長径方向に前面側と背面側とで逆相の関係を持って伸び縮みする。
【0066】
また、それぞれの平面部24における正電極または負電極を構成する駆動部で作用する駆動力は、図5(c)に示すようなそれぞれの電極の駆動部で異なる面積を有することに起因して、中央側の平面部24に近い方が、周辺側の固定部21または22に近い方よりも大きくなる。一方で、それぞれの曲面部23および25における正電極または負電極を構成する駆動部で作用する駆動力は、図5(b)に示すようなそれぞれの電極の駆動部で面積が一定であることに起因して、いずれの曲面部23および25でもほぼ等しくなる。
【0067】
さらに、スピーカー振動板2aの可動部20の電極配置は、上記の通り、曲面部23および25と、平面部24とで逆相の関係となっているので伸び縮みに作用する駆動力も逆相の関係となり、例えば、曲面部23および25が伸びる場合には平面部24が縮み、反対に曲面部23および25が縮む場合には平面部24が伸びる、という関係を有する。その結果、スピーカー振動板2aの可動部20は、単なるPVDFシートを分極処理するような場合に比べて格段にその前後方向の振幅変位が大きくなるので、スピーカー振動板2aを備える圧電型スピーカー1aは、音波への変換効率が向上してさらに再生能率の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の圧電型スピーカーは、車両のスピードメーター等のディスプレイ装置の前面側に配置して用いる圧電型スピーカーとしてのみならず、ディスプレイ等の映像・音響機器に内蔵するスピーカー、あるいは、音声を再生するスピーカーを内蔵するキャビネットを有するゲーム機、スロットマシン等の遊戯機にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 圧電型スピーカー
2 スピーカー振動板
20 可動部
21、22 固定部
23、25 曲面部
24 平面部
26、27 電極
28 絶縁部
3 フレーム
40 スピーカー振動板の可動部
5 スピーカー振動板
60 スピーカー振動板の可動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーであって、
該振動板が、一方向の断面において連続する波形状に成形される可動部と、該可動部の両端に形成される固定部と、を有し、
該振動板の該可動部が、該固定部を含む基準平面からの高さの絶対値が隣り合う同士で異なる複数の曲面部と、該曲面部を連結する平面を構成する複数の平面部と、を含み、
該平面部の一方面側に正電極を有し、該平面部の他方面側に負電極を有し、該平面部のそれぞれの該正電極および該負電極の面積が、それぞれの該平面部の断面長に応じて変化する、
圧電型スピーカー。
【請求項2】
前記振動板の前記可動部のそれぞれの前記曲面部が、前記一方面側にさらに負電極を有し、前記他方面側にさらに正電極を有する、
請求項1に記載の圧電型スピーカー。
【請求項3】
分極方向の異なる二枚の高分子圧電フィルムを貼り合わせて構成するバイモルフ型の振動板を備える圧電型スピーカーであって、
該振動板が、一方向の断面において連続する波形状に成形される可動部と、該可動部の両端に形成される固定部と、を有し、
該振動板の該可動部が、該固定部を含む基準平面からの高さの絶対値が隣り合う同士で異なる複数の曲面部と、該曲面部を連結する平面を構成する複数の平面部と、を含み、
該平面部の一方面側および他方面側に正電極を有し、該平面部での該二枚の該高分子圧電フィルムを貼り合わせて形成される中間層に負電極を有し、該平面部のそれぞれの該正電極および該負電極の面積が、それぞれの該平面部の断面長に応じて変化する、
圧電型スピーカー。
【請求項4】
前記振動板の前記可動部のそれぞれの前記曲面部が、前記一方面側および前記他方面側にさらに負電極を有し、前記中間層にさらに正電極を有する、
請求項3に記載の圧電型スピーカー。
【請求項5】
前記振動板の前記可動部のそれぞれの前記平面部が、前記基準平面に対して斜めに交わるように傾斜する、
請求項1から4のいずれかに記載の圧電型スピーカー。
【請求項6】
前記基準平面から前記可動部の前記曲面部の高さの絶対値が、該可動部の中央部で最も大きく、該可動部から前記固定部に向かうにつれて順次小さくなる、
請求項1から5のいずれかに記載の圧電型スピーカー。
【請求項7】
前記振動板を構成する前記高分子圧電フィルムが、ポリフッ化ビニリデンのフィルム材であり、前記可動部が有する前記正電極および前記負電極が、金属ターゲットを用いて蒸着して形成されている、または、スパッタリングした金属薄膜で形成されている、または、金属粉を混入した導電塗料ないし透明高分子導電体をコーティングして形成されている、
請求項1から6のいずれかに記載の圧電型スピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−135132(P2011−135132A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290036(P2009−290036)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(710014351)オンキヨー株式会社 (226)
【Fターム(参考)】