説明

圧電式インクジェットプリンティング・モジュール

【課題】圧電式インクジェットプリンティング・モジュールの熱サイクル間のインク速度の低下を減じる方法及び、圧電式インクジェットプリンティング・モジュールを分極する方法を提供する。
【解決手段】圧電素子34はフィルム30の上に合わされる。圧電素子34は、フィルム30に接する圧電素子34の側に電極40を有する。電極40は、フィルム30の51側で電気接点31と合わせられ、電極が駆動統合回路によって個々に対処されるようにする。電極40は圧電素子34の表面上の半導体被膜36上に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンティング・モジュールに関する。
【発明の背景】
【0002】
インクジェットプリンティング・モジュールは基板方向に開口部からインクを噴射する。インクは圧電式インクジェットプリンティング・モジュールによって生成される一連の液滴として噴出され得る。特定のプリンティング・モジュールはそれぞれ64ジェット(jet)から成る4つのグループで256ジェットを有し得る。圧電式インクジェットプリンティング・モジュールはモジュール本体、圧電素子、及び圧電素子を駆動する電気接点を含む。通常、モジュール本体は、インク用のポンプ室(チャンバー)の役目をする一連のインクチャネルを機械加工された表面への長方形の部材である。圧電素子は、本体表面に亘って配置され、インクを噴射するためのポンプ室のインクを加圧するようにポンプ室に対応し得る。
【0003】
圧電素子の特性はプリンティング・モジュールの噴射特性に影響を及ぼし得る。例えば、駆動パルス(fire pulse)によって生成されるインクの液滴量は、プリンティング・モジュールのそれぞれのインクジェットの特性に依存し得る。液滴量及び液滴速度は液滴によって生成される画像の質に影響を及ぼし得る。所望の速度及び所望の位置または画素にて所望のサイズのインク液滴を選択して噴出することによって、高精度な画像が生成され得る。
【発明の概要】
【0004】
概して、本発明は、モジュールの圧電素子の表面上に半導体物質を有する圧電式インクジェットプリンティング・モジュールを特徴付ける。半導体物質は被膜であり得る。物質の半導体的性質は、圧電素子から離れた素子を加熱及び冷却して生成される電荷を流出させるのを助け得る。このことは、印刷中に直面し得る加熱及び冷却周期の間モジュールの安定性を向上させ得る。半導体物質は圧電素子表面の電荷拡散率を増す。電気接点付近の領域の電荷拡散率を増すことによって、十分な電圧が印加され圧電素子またはその一部を分極化あるいは非分極化(depole)する。圧電素子またはその一部を分極化あるいは非分極化する性能によって、モジュールの製造を簡略化でき、液滴噴出特性が単一のジェットに対して変更されることが可能になる。
【0005】
1つの特徴では、本発明は、圧電素子の表面上に半導体物質を有する圧電素子を含むインクジェットモジュールを特徴づける。半導体物質は圧電素子から焦電電荷を流出させ得る。半導体物質は圧電素子上の被膜であり得る。
【0006】
別の特徴では、本発明は、複数のインクジェットモジュールを含むインクジェットプリントヘッドを特徴づける。
【0007】
別の特徴では、本発明は、インクジェットモジュールの製造方法を特徴づける。この方法は圧電素子の表面上に半導体物質を配置することから成ることを含む。配置は圧電素子の表面上に半導体物質を被膜することを含み得る。この方法は電気接点が圧電素子と接触することも含み得る。電気接点は半導体物質に接触し得る。
【0008】
別の特徴では、本発明は熱サイクル(thermal cycling)の間インクジェットモジュールにおけるインク速度の低下を減じる方法を特徴づける。この方法は圧電素子の表面上に半導体物質を配置することを含み、圧電素子の表面上に半導体物質を被膜することを含み得る。
【0009】
別の特徴では、本発明は圧電式インクジェットモジュールを分極する方法を特徴づける。分極方法は圧電素子の表面上に半導体物質を含む圧電式インクジェットモジュールを取り付けることを含む。圧電素子は圧電素子の表面上の半導体物質と接触する電気接点を有する。電気接点は圧電素子を活性化させるために配置される。分極電圧が圧電素子を分極するのに十分な時間の間半導体物資と圧電素子に亘って印加される。
【0010】
別の特徴では、本発明は、インクジェットプリンティング・モジュールにおけるジェットの性能を変更する方法を特徴づける。この方法は、噴射領域における圧電素子の分極を変えるために変更電圧をインクジェットプリンティング・モジュールの圧電素子の噴射領域に印加することを含む。噴射領域は、噴射領域における圧電素子の表面上の半導体物質に接触する電気接点を含み得る。変更電圧は電気接点に印加され得る。モジュールは複数のジェットを含み、各々のジェットは圧電物質の表面上の半導体物質に接触する電気接点を含む噴射領域を有する。この方法はモジュールのジェットのインクの液滴の大きさまたはインクの液滴速度を監視し、先端のインクの液滴の大きさまたはインクの液滴速度を調整するために変更電圧を選択することを含み得る。
【0011】
半導体物質は圧電素子より大きい導電率を有する。半導体物質が熱サイクルの間焦電体が非分極化するのを防ぐための被膜を形成するとき、半導体物質の被膜は、冷却時間の間圧電物質の表面上に蓄積された電荷を放電するのに十分な導電性であり、領域適用の持続時間の間各々の電極で用いられる領域の解像度を維持するのに十分な抵抗である。半導体物質は単位面積(persquare)あたり5000メガオームまたはそれ未満、望ましくは単位面積あたり1000メガオームかそれ未満、さらに望ましくは単位面積あたり500メガオームかそれ未満の抵抗を有し得る。半導体物質は単位面積あたり0.1メガオームかそれより大きい抵抗、望ましくは単位面積あたり1メガオームかそれより大きく、さらに望ましくは単位面積あたり10メガオームかそれより大きい抵抗を有し得る。ある実施例では、半導体物質は、単位面積あたり11メガオームと単位面積あたり500メガオームとの間の抵抗を有している。
【0012】
半導体物質はドープ処理された絶縁体を含み得る。ドープ処理された絶縁体は所定の抵抗率を有するように選択され得る。半導体物質は酸化アルミニウム、窒化珪素、または酸化ネオジウムから抽出され得る。ある実施例では、半導体物質は窒化珪素から抽出され、圧電素子はチタン酸ジルコン酸鉛である。
【0013】
インクジェットモジュールはインクチャネルを含み得る。圧電素子はチャネルのインクが噴射圧に従うように配置され得る。電気接点は圧電素子を活性化させるために配置され得る。モジュールは一連のチャネルを含み得る。チャネルの各々は単一の圧電素子に対応している。ある特徴では、チャネル全部が単一の圧電素子に対応している。インクジェットモジュールは加熱及び冷却周期に制約される。
【0014】
本発明の1つ以上の実施例の詳細が、添付図面および以下の説明で述べられる。本発明の他の特徴、目的、及び利点は説明及び図面から、及び請求項から明らかにされるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】圧電式インクジェットプリンティング・モジュール説明する概略図である。
【図1B】圧電式インクジェットプリンティング・モジュール説明する概略図である。
【図2】圧電式インクジェットプリンティング・モジュールの一部を説明する概略図である。
【図3】Nに対するSiのモル比が変化するときの窒化珪素の抵抗率を表す概略図である。
【図4】加熱及び冷却周期の間の圧電式インクジェットプリンティング・モジュールの温度を表すグラフである。
【図5】圧電式インクジェットプリンティング・モジュール及び圧電素子上に半導性被膜を有する圧電式インクジェットプリンティング・モジュールに対して加熱及び冷却周期を繰り返した後の液滴速度における下落率を表すグラフである。
【発明の実施の形態】
【0016】
圧電式インクジェットモジュールは素子表面に半導体物質を有する圧電素子を含む。通常、モジュールは本体の噴射領域に亘って配置される圧電素子を含む。噴射領域は本体内のポンプ室の一部であり得る。フレックスプリント(flexprint)などのポリマーは、ポンプ室を密封し、圧電素子の表面上に電極などの電気接点を配置し得る。圧電素子は各々の噴射領域に及ぶ。電圧が電気接点に印加されると、噴射領域における圧電素子の形は変化し、その結果対応するポンプ室内でインクが噴射圧にかけられる。インクはポンプ室から噴出され、基板上に位置させられる。電気接点も半導体物質に接触することが望ましい。
【0017】
圧電式インクジェットプリンティング・モジュールの1つの例は、米国特許第5,640,184号で説明されたモジュールなどの剪断(Shear)モードモジュールであり、その全体の内容がここに参照として組み込まれている。剪断モードモジュールの電気接点はインクチャネルに隣接する圧電素子の側に位置し得る。図1A、1B及び2を参照すると、圧電式インクジェットヘッド2は1つ以上のモジュール4を含み、モジュール4は、多機能(manifold)板12及びオリフィスプレート14が取り付けられているつば部10に取り付けられる。インクはつば部10を通ってモジュール4へ導かれる。モジュール4はオリフィスプレート14上の開口部16からインクを噴出するために駆動される。模範的なインクジェットヘッドがモデルCCP256/300ホットメルトPILGHG(HOTMELT PILG HD)(スペクトラ株式会社、ハノーバー、ニューハンプシャー州(Spectra,Inc,Hanover, NewHampshire))として販売されている。
【0018】
インクジェットモジュール4は本体20を含み、それは焼結炭素またはセラミックなどの材質から作られ得る。複数のチャネル22が本体20へ機械加工あるいは製造されてポンプ室を形成する。インクは、本体20に同様に機械加工されたインク充填路を通ってポンプ室を満たす。本体4の反対側の表面は可塑性ポリマーフィルム30、30’で覆われて本体20のポンプ室に亘って位置するよう配置された一連の電気接点31及び31’を含む。電気接点31及び31’はリード線に接続され、リード線は順に駆動統合回路33及び33’を含むフレックスプリント32及び32’に接続され得る。フィルム30及び30’はフレックスプリントであり得る(例えば、カプトン(KAPTON)、アドバンスドサーキットシステム、フランクリン、ニューハンプシャー州(AdvancedCircuitSystem, Franklin,New Hampshire)から入手できる)。フィルム30及び30’はエポキシ樹脂薄層によって本体20に密閉される。フィルム30及びフレックスプリント32は単一のユニット(図示せず)あるいは図示したような2つのユニットであり得る。圧電素子34及び34’は各々の素子の少なくとも1つの表面上に半導体被膜36及び36’を有する。半導体被膜は圧電素子の表面上にスパッタリング、蒸着、または化学気相蒸着等の方法で塗布される。
【0019】
図2を参照すると、圧電素子34はフィルム30の上に合わされる。圧電素子34は、フィルム30に接する圧電素子34の側に電極40を有する。電極40はフィルム30の51側で電気接点31と合わせられ、電極が駆動統合回路によって個々に対処されるようにする。電極40は圧電素子34の表面上の半導体被膜36上に配置され得る。もう1つの方法として、電極40が圧電素子34上の1の面上に配置され、半導体被膜36が反対側の面上に配置される。電極40は圧電素子の表面上に配置されている導電金属を化学的にエッチング処理することによって形成され得る。電極を形成する適切な方法は米国特許第6,037,707号にも説明され、それはその全体において参照としてここに組み込まれている。電極はアルミニウム、チタニウム−タングステン、ニッケルクロム、または金などの導体でできている。各々の電極40は、ポンプ室を形成するために本体4のチャネル22に対応して配置されかつ対応する大きさになされる。各々の電極40は細長い領域42を有し、すき間43が電極40の周囲とポンプ室の両側及び端との間にあるようにポンプ室の寸法よりわずかに狭い長さ及び幅を有する。これらの電極領域42はポンプ室上の中央にあって、圧電素子34の噴射領域を対象とする駆動電極である。圧電素子34上の第2電極52はチャネル22の外側、従ってポンプ室の外側の本体20の領域に通常対応する。電極52は共通の(グランド(接地))電極である。電極52は(図示したような)櫛形であるか、または個々にアドレス可能な電極片であるだろう。フィルム電極及び圧電素子電極は、うまく電気接点を有し、フィルムと圧電素子とが容易に整合することに十分に一致する。フィルム電極は圧電素子を越えて延び、駆動回路を含むフレックスプリント32へのはんだ付けによる接続を可能にする。
【0020】
代替実施例(図示せず)では、電極40はフィルム30上に直接配置され、それは圧電素子の表面上の半導体被膜36と接する。このことは電極と圧電素子との間の電気的接触を促進する。このことは表面の導電率を増すことによってある程度達成され得る。このことはモジュールの製造を容易にし、用いられるべき電極形成の広範な多様性を可能にする。
【0021】
圧電素子は単一のモノリシックチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)部材であり得る。圧電素子は印加電圧によって引き起こされる変位によってポンプ室からインクを押し流す。変位は少なくともこの部材の分極の関数である。圧電素子は電界の印加によって分極される。分極プロセスは、例えば、米国特許第5,605,659で説明され、その全体が参照としてここに組み込まれている。分極化の程度は印加された電界の強さと持続時間に依存し得る。分極電圧が除去されると、圧電ドメインが調整される。
【0022】
例えば噴射の間などの、電界の次の適用によって、印加された電界の強さに比例して形の変化が起こり得る。分極化の反対方向において印加された電界の多様性は、累積的にかつ連続的に分極化を低下させる。また、キュリー点へ圧電物質を熱することは、非分極化あるいは、分極化の損失を生じ得る。さらに、圧電物質を熱することは焦電電荷が圧電素子の表面上に蓄積することを生じさせ得る。焦電電荷の蓄積によって圧電素子を非分極化するのに十分な意義のある電圧がもたらされ得る。非分極は200ボルトの低さの電圧で生じ始め得る。例えば、典型的な剪断モードPZT装置は1セ氏温度毎に6から20ボルトの間の焦電電圧を生成し、その焦電電圧は圧電素子を非分極化するに十分な電圧を生成し得る。その結果、インクジェットモジュールの噴射性能に悪影響が及ぼされ得る。
【0023】
電極位置の反対の面が望ましい圧電素子の表面上の半導体被膜は、熱サイクルによって生成されて蓄積される焦電電荷を減じるか排除し得る。半導体被膜は圧電素子から焦電電荷を流出させ得る。圧電素子から焦電電荷を流出させるために用いられる半導体被膜は、素子の単一表面上にあり得る。被膜が過剰に絶縁されていると、焦電電荷を十分に流し去らない。被膜が過剰に導電性を有するならば、例えば、10マイクロ秒の駆動パルスの印加の間、モジュールの適切な動作を妨げる。半導体被膜は20℃と150℃との間の温度で所望の抵抗率を有し得る。半導体被膜が分極処理されたPZTに用いられると、蒸着温度は200℃より下であり得る。半導体被膜は不活性で耐久性があるだろう。例えば、半導体物質は例えば150℃までの高温で安定すべきであり、半導体物質と接触する物質または成分と不利な反応をすべきでない。
【0024】
更に具体的には、半導体被膜の電荷拡散率は焦電電荷を流出させるのに十分であり得る。半導体物質は0.006cm/secより大きく、望ましくは0.06cm/secより大きく、かつ100cm/secより小さく、望ましくは10cm/secより小さい拡散率を有し得る。拡散率αは圧電素子tの厚さ、圧電物質の誘電定数ε、及び被膜抵抗ρから公式:
α=t/ρε
によって概算し得る。
【0025】
0.25mmのPZTの厚さ、単位面積あたり100メガオームの被膜抵抗、及び1600χεのPZT誘電定数(εが誘電定数である)に対して、結果として生じる拡散率は1.7cm/secである。被膜抵抗が単位面積あたり10メガオームであるとき、結果として生じる拡散率は17cm/secである。典型的なPZTに基づく圧電素子に対して、被膜は単位面積毎に100メガオームより少ない抵抗率を有し、蓄積された焦電電荷を適切に流出させ、被膜は単位面積あたり10メガオームより大きい抵抗を有し、装置の性能に悪影響を与えない。
【0026】
圧電素子の表面上に配置され得る適当な半導体物質は、酸化アルミニウムに基づく物質、窒化珪素に基づく物質、及び酸化ネオジウムに基づく物質を含む。これらの物質の抵抗率は物質に添加物を加えることによって調整され得る。例えば、窒化珪素のバルク抵抗は、図3に示したように、珪素の窒素に対するモル比を調整することによって変えられ得る。例えば、1981年発行のH.ダンJ.(H.DunJ)氏その他による電気化学協会(ElectrochemicalSociety)128:1555及び1978年発行のA.K.シナー(A.K.Sinha)氏及びT.E.スミス.J(T.E. Smith J.)氏による応用物理(Applied Physics)9:2756を参照せよ。被膜抵抗率、または、表面抵抗率は被膜の厚さによって分割されたバルク抵抗率である。半導体物質は圧電素子の表面上の接続層であるだろう。被膜は、1000オングストロームと10000オングストロームとの間、望ましくは2000オングストロームと9000オングストロームとの間、さらに望ましくは2500オングストロームと7500オングストロームとの間の厚さを有するだろう。
【0027】
半導体被膜は、被膜に接触するポリマーフィルム上の圧電素子と電極との間の接触を改善し得る。PZT素子上に電極をパターン処理することは費用のかかる処理であるだろう。フレックスプリント及び回路基板はより少ない費用でパターン処理され得る。フレックスプリントなどのポリマーフィルム上に電極パターンを接着することによって、圧電素子への圧電面上の費用のかかる電極パターン処理を避け得る。導電粒子が、圧電式表面と電極との間のインタフェースで電気接触を高めるために加えられる。このタイプの処理は、例えば、米国特許第6,037,707号で説明され、参照として組み込まれている。被膜は基調を成す圧電素子面に比較して高い導電性を有する。よって、ポリマーフィルム上の電極との電気接触は改善され得る。半導体被膜は接触抵抗を減じ圧電素子面に亘って電荷が拡散することを助ける。0.25mmのPZTの厚さ、単位面積あたり10メガオームの被膜抵抗率、及び1600χεの誘電定数に対して、拡散率は17cm/secである。1マイクロ秒において、電荷は約0.004cmまたはPZT厚さの16パーセントの距離に拡散する。このことは被膜が存在しないときより広く、接触点が電荷を拡散することを可能にする。追加の付加的な電力損失は、被膜抵抗があまりに低いのを避けることによってうまく取り扱うことができる。
【0028】
また、半導体被膜は十分な電荷拡散率を与え、組み立てられたプリンティング・モジュールにおいて圧電物質が分極されることを可能にする。このことは、個々の金属化ステップを製造の間避けることを可能にし、製造費用を減じ得る。分極化は製造プロセスの後の方で起こり得るので、例えば、キュリー温度より高い温度を含むプロセスや別の方法で圧電物質を非分極化するプロセスなどの、以前は避けられていた製造プロセスを用い得る。半導体被膜は、圧電素子の表面上に電極全部(即ち、熱及びグランド電極を一緒に)を経由して同時に印加される均一の電圧が、分極化するための側上に蓄積することを可能にする。例えば、0.25mmの厚さを有するPZT上の単位面積あたり100メガオームの抵抗率、及び1600χεの誘電定数を有する被膜は1.7cm/secの拡散率を有する。グランド面と電極との間の距離が0.025cmであるとき、領域は1秒の何分の1かで分極電圧を達成し得る。
【0029】
同じように、噴射領域にアクセスする個々の電極は、インク液滴速度および大きさを含む噴射性能を改善するために単一のジェットに分極化調整がなされることを可能にする。例えば、特定のジェットに対する電極に電圧を印加することによって、半導体被膜はジェットの領域が分極されるかあるいは非分極されて、アクセスされる特定のジェットの噴射パラメータを変えることを可能にする。噴射領域には駆動電極(firing electrode)、隣接するグランド電極、及び電極間の隙間が含まれる。異なる電圧が各々の電極に印加されてその場所の分極電圧を選択的に制御し、その結果噴射特性を変更された。製造の間、液滴量または速度などの噴射特性が測定され、他のジェットの噴射性能にさらにしっかり適合するために特定のジェットに変更電圧が印加され得る。この方法では、モジュールの各々のジェットの性能は噴射領域における分極化の程度を変更することによって調整され得る。この方法は、それ自身の駆動電極及びグランド電極を有するモジュール同様に、上記したモジュール上で実行され、所定のジェットに対するグランド電極及び駆動電極が、分極化または非分極化に対して同じ電位で配置されることを可能にする。
【0030】
熱サイクルでの液滴速度の低下が、半導体被膜を有していないPZTに基づくプリントヘッド、及び圧電素子上の窒化珪素に基づく半導体被膜を有するPZTに基づくプリントヘッドに対して測定された。窒化珪素被膜はプラズマ増加化学気相蒸着によって蒸着され、約2のSi/Nモル比を有し、5000オングストロームの厚さを有した。各々の装置の炭素プリントヘッド組立品は約200グラムの質量を有し、PZT上の有効な焦電電荷を生成し得る温度へ熱サイクルを繰り返すことに従った。具体的に言うと、熱サイクルは図4に示した温度グラフに従った。プリントヘッド組立品は室内温度から125℃へと3分間加熱された。上昇した温度は3分間の温度でドエル時間の間維持され、アセンブリは送風強制空気を用いて9分間の間に渡って冷却された。液滴速度がテストの開始とテストの間の定期的な間隔とに各々の組立品に対して測定された。被膜されない組立品と被膜された組立品とに対する速度における割合低下(100×(テスト速度−初期速度)/初期速度)を示すデータが図5に示されている。被膜された組立品は被膜されない組立品より熱サイクルに対してより安定していた。
【0031】
本発明のいくつかの実施例が説明されてきた。それでもなお、様々な変化形が本発明の精神及び範囲から乖離することなくなされるであろうことが理解されるだろう。例えば、半導体被膜は適当な抵抗率を有する何らかの半導体物質から形成され得る。半導体物質は上記したような窒化珪素などの無機物質か、あるいは有機物質であり得る。それゆえに、他の実施例は以下の請求項の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットモジュールであって、
本体内に形成されている複数のチャネルと、
前記本体の前記複数のチャネルに亘って配されている圧電素子と、
前記圧電素子の第1の表面上に配されている半導体物質と、
前記本体の前記複数のチャネルに亘って配され、駆動回路に接続されている複数のリードに接続され、かつ前記圧電素子と前記本体の前記複数のチャネルとの間に配されている複数の電気的接点と、
前記圧電素子と前記複数の電気的接点との間に配されかつ前記複数の電気的接点と対応している複数の電極と、を含み、
前記複数の電極は、前記圧電素子の前記第1の表面と反対側の第2の表面に亘って配され、前記複数の電極は、駆動電極及び他の電極を含み、前記駆動電極及び前記他の電極の両方は、前記圧電素子の前記第2の表面上に配され、
前記複数の電気的接点及び前記複数の電極は、前記圧電素子を動作させるために使用され、
前記半導体物質は、前記圧電素子から焦電電荷を流出させることを特徴とするインクジェットモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットモジュールであって、前記半導体物質は、蓄積された焦電電荷を流出させるのに十分低くかつ前記インクジェットモジュールの性能に悪影響を与えることのない十分に高い抵抗を有するインクジェットモジュール。
【請求項3】
前記半導体物質が単位面積あたり100メガオーム以下であり且つ単位面積あたり10メガオーム以上である抵抗率を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットモジュール。
【請求項4】
前記半導体物質が、1.7cm/secと17cm/secとの間の拡散率を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットモジュール。
【請求項5】
前記半導体物質が絶縁体及びドーパントを含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェットモジュール。
【請求項6】
前記半導体物質が酸化アルミニウム、窒化珪素、または酸化ネオジウムを含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェットモジュール。
【請求項7】
前記圧電素子がチタン酸ジルコン酸鉛であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットモジュール。
【請求項8】
請求項1記載のインクジェットモジュールを含む複数のインクジェットモジュールから成るインクジェットプリントヘッド。
【請求項9】
熱サイクルの間インクジェットモジュールにおけるインク速度低下を減じる方法であって、
前記方法は、圧電素子における焦電電荷を減じるステップを含み、前記インクジェットモジュールは、前記圧電素子の第1の表面に物理的に接している半導体物質を含み、
前記圧電素子は、前記インクジェットモジュールの本体の複数のチャネルに亘って配されており、
前記インクジェットモジュールは、駆動回路に接続されている複数のリードに接続されておりかつ前記本体の前記複数のチャネルに亘って配されている複数の電気的接点を含み、前記複数の電気的接点は、前記圧電素子と前記複数のチャネルとの間に配されており、
前記インクジェットモジュールは、前記圧電素子と前記複数の電気的接点との間に配されておりかつ前記複数の電気的接点と対応している複数の電極を含み、前記複数の電極は、前記圧電素子の前記第1の表面とは反対側の第2の表面に亘って配されており、前記複数の電極は、駆動電極及び他の電極を含み、前記駆動電極及び前記他の電極の両方は、前記圧電素子の前記第2の表面に配されており、
前記複数の電気的接点及び前記複数の電極は、前記圧電素子を駆動させるために使用されることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記半導体物質は、焦電電荷を流出させるのに十分低く且つ前記インクジェットモジュールの性能に悪影響を及ぼすことのない十分高い抵抗率を有することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記半導体物質が単位面積あたり100メガオーム以下であり且つ単位面積あたり10メガオーム以上である抵抗率を有することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
各々のモジュールの前記半導体物質が1.7cm/secと17cm/secとの間の拡散率を有することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項13】
各々のモジュールの前記半導体物質が窒化珪素、酸化アルミニウム、又は酸化ネオジウムを含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項14】
各々のモジュールの前記圧電素子がチタン酸ジルコン酸鉛であることを特徴とする請求項9記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−47009(P2013−47009A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230728(P2012−230728)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2002−526593(P2002−526593)の分割
【原出願日】平成13年9月13日(2001.9.13)
【出願人】(502122794)フジフィルム ディマティックス, インコーポレイテッド (73)
【Fターム(参考)】