説明

圧電性膜を用いたアクチュエータ

【課題】圧電性膜の収縮力をその伸縮方向と直交する方向に作用させるアクチュエータを得る。
【解決手段】所定間隔で対向配置された弾性体と、上記弾性体の間に、上記弾性体が伸縮可能な状態で設けられた可動子とを備え、上記弾性体の少なくとも一方が伸縮領域を挟み又は囲むように周辺領域が支持部材に支持された圧電性膜であり、上記圧電性膜に通電されとき又は遮電されたときの伸縮によりこの伸縮方向と略直交する方向に上記可動子が移動するように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置制御装置、制振装置に適した、圧電性膜を用いたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電性膜(人工筋肉)を用いたアクチュエータが種々提案されている(特許文献1)。従来の圧電性膜を用いたアクチュエータは、その収縮力を、先ずその伸縮方向と一致する方向又は平行な方向に作用させる構成であった。
【特許文献1】特開2006-234038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら従来の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、その伸縮力と直交する方向に作用させるものが無かった。
そこで本発明は、圧電性膜の収縮力をその伸縮方向と直交する方向に作用させるアクチュエータを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
かかる課題を解決する本発明の圧電性膜を用いたアクチュエータは、所定間隔で対向配置された弾性体と、上記弾性体の間に、上記弾性体が伸縮可能な状態で設けられた可動子とを備え、上記弾性体の少なくとも一方が伸縮領域を挟み又は囲むように周辺領域が支持部材に支持された圧電性膜であり、上記圧電性膜に通電されとき又は遮電されたときの伸縮によりこの伸縮方向と略直交する方向に上記可動子を移動するように形成したことに特徴を有する
【0005】
圧電性膜は、通電時に延伸するように変形する圧電材料により形成することが好ましい。より実際的には、上記各圧電性膜には、上記伸縮領域の中央領域に電極膜が形成される。好ましくは、上記電極膜は、上記伸縮領域の伸縮に伴って伸縮する素材で形成する。
【0006】
上記可動子は、上記所定間隔よりも長く形成する。さらに上記各圧電性膜と上記可動子とは、上記圧電性膜に形成された保護膜を介して接触するように形成する。保護膜も同様に伸縮し、かつ滑り摩擦係数が小さい素材で形成することが好ましい。このような保護膜を形成することで、圧電性膜の摩耗を防止し、寿命を延ばすことが可能になる
【0007】
支持部材は、中空の本体部と、本体部の中空部を挟んで本体部の両端に上記圧電性膜を固定する、中空の押え部材とを備え、上記可動子は、上記本体部の中空部内に収容される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対向する弾性体の間にそれぞれが引き延ばされた状態で可動子を挟み、一方の弾性体となる圧電性膜を延伸させたときには可動子が他方の弾性体の収縮力によりこれらの伸縮方向と略直交する方向に移動し、一方の圧電性膜が収縮するときは可動子が他方の弾性体を引き伸ばしながらこれらの伸縮方向と略直交する方向に移動するので、圧電性膜の伸縮方向と直交する方向の駆動力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、添付図面に示した実施形態を参照して説明する。図1は、同実施形態の圧電性膜を用いたアクチュエータを分解した状態で示す正面図、図2は同アクチュエータを一部縦断して示す断面図、図3は同アクチュエータの平面図である。
【0010】
この実施形態では、圧電性膜は、布状に形成された第1圧電性膜11と第2圧電性膜15を備えている。圧電性膜11、15は弾性を有し、絶縁性の材料(絶縁性高分子)によって形成されている。
【0011】
第1、第2圧電性膜11、15は、中央に円形の中空部21a、25aが形成された板状の第1押え枠21、第2押え枠25によって、中空部21a、25aと同形の中空分23aを有する本体23の両端に挟持される。つまり、中空部23aの上下を塞ぐように、第1圧電性膜11は第1押え枠21と本体23の間に、第2筋肉膜15は本体23と第2押え枠25の間に挟圧保持される。第1、第2圧電性膜11、15の間であって、中空部23a内に、可動子としてバー31が挿入されている。このバー31は、対向する圧電性膜11、15の間隔よりも長く(高く)形成されていて、第1、第2押え枠21、25が本体23に固定された状態では、圧電性膜11、15の中央領域11a、15aを中空部21a、25aの外方に膨出させる状態で保持されている。つまり、非通電(遮電)状態では、第1、第2圧電性膜11、15の弾性収縮力が平衡状態に保持されている。
【0012】
第1、第2押え枠21、25及び本体23の平面形状は正方形に形成されているが、中空部21a、25a、23aと同心の円形でもよいし、形状は特に限定されない。また、本体23の中空部23aのみ他の中空部21a、25aよりも小径に形成してもよい。この構成により、バー31の倒れ、ブレの防止、又はバー31の移動ガイドが可能になる。
【0013】
圧電性膜11、15の伸縮領域11a、15aには、中央領域に電極膜12、13、電極膜16、17が形成されている。これらの電極膜12、13、電極膜16、17は導電性ゴム、又は金属板で形成される。圧電性膜11、15は、電極膜12、13間、又は電極膜16、17間に直流電流が流されると(通電されると)、電極膜12、13間、又は電極膜16、17と接している部分が薄くなり、延伸する。つまり、一方の圧電性膜11、15に通電すると、通電されていない方の圧電性膜11、15(伸縮領域11a、15a)の弾性復元力によってバー31を延伸した方の圧電性膜方向に移動させようとする力が発生する。つまりこの実施形態では、一方の電極膜12、13又は電極膜16、17に通電することで、バー31を上下方向に昇降移動させることができる。この実施形態では、このバー31が移動する力を押圧力又は牽引力とするアクチュエータとして利用できる。
【0014】
バー31と接触する電極膜12、16は、滑り摩擦係数が小さい素材で形成することが好ましいが、低滑り摩擦係数の素材を表面にコーティングしてもよい。
【0015】
なお、第1、第2圧電性膜11、15は、その周辺領域11b、15bが第1、第2押え枠21、25の中空部21a、25aを囲む外周面21b、25bに予め固定される。そうして、第1、第2圧電性膜11、15に通電して延伸させて、第1、第2圧電性膜11、15の間にバー31を介在させた状態で、第1、第2押え枠21、25が本体23に押しつけられ、周辺領域11b、15bが挟圧された状態でボルト締め等によって固定され、遮断される。これにより、第1、第2圧電性膜11、15の伸縮領域11a、15aが膨出した状態に保持される。
【0016】
バー31は、中実の円柱又は両端が塞がれた中空の円筒体であって、当接膜12、16に接触する端面の少なくとも角部は丸められている。なお、バー31は電気が流れない素材、構造であればよく、電極と接触する部分が絶縁処理されていれば金属であってもよい。
【0017】
図4は、同アクチュエータ10に駆動系を接続した実施例を示すブロック図である。この実施例は、バー31を、圧電性膜11、15と直交する方向(可動方向)の位置を所定位置に保つ、位置制御装置に適用した実施例である。位置制御装置は、バー31の位置をフィードバック制御する一組の位置制御回路43、45を備えている。これらの位置制御回路43、45は、バー31の可動方向位置変動を検出する位置センサを内蔵し、位置センサの出力に応じた信号を電源回路41に出力する。電源回路41は、位置制御回路43、45の出力差に応じて第1又は第2圧電性膜11、15に通電して延伸させ、バー31を可動方向に移動させて、バー31の可動方向位置を一定に保っている。
【0018】
位置制御回路43、45の他の実施形態では、センサとして、圧力センサ、ポテンショメータを使用する。圧力センサを用いれば、圧力が一定となるようにアクチュエータ10を動作させることができる。
【0019】
以上の実施形態では、対向する両方を圧電性膜としたが、一方は圧電性膜、他方は弾性部材、例えばゴム膜でもよい。図5には、下方は第2圧電性膜15であるが、上方をゴム膜18とした場合の実施例の概要を示した。
図5(A)に示した実施例では、非通電の第2圧電性膜15とゴム膜18とがロッド31により引き延ばされた平衡状態で静止している。この静止状態において第2圧電性膜15に通電すると、第2圧電性膜15が延伸して薄膜化し、ゴム膜18の弾性収縮力により押されたロッド31が下方に第2圧電性膜15を引き伸ばしながら移動し、上下方向に作用する力が平衡した位置で停止する(図5(B))。
【0020】
一方、図5(B)に示した平衡状態において、第2圧電性膜15の通電を遮断すると、第2圧電性膜15が収縮して厚くなり、その収縮力によってロッド31が上方にゴム膜18を引き伸ばしながら上昇して、上下方向に作用する力が平衡した位置で停止する(図5(C))。つまり、図5(A)に示した初期位置に戻る。
【0021】
この実施形態では1個のアクチュエータ10により駆動する構成を示したが、他の実施形態ではこのアクチュエータ10をバー31の可動方向に積層してもよい。その場合電極膜13、17は、絶縁材を挟んで接触させる。
【0022】
第1、第2圧電性膜11、15は同一仕様でもよいが、重力方向で下に位置する方のヤング率を高く(弾性収縮力を強く)形成してもよい。この構成により、重力(荷重)を相殺することができる。
また本発明は、第1、第2圧電性膜11、15の一方をばね部材、例えば圧縮コイルバネにして、バー31を常時圧電性膜方向に弾性付勢する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、バー31が第1、第2圧電性膜11、15と直交する方向に移動する力を押圧力又は牽引力とするアクチュエータとして利用できる。例えば、バー31により制振台を保持して、バー31の可動方向の位置を所定位置に保つ、位置制御装置や制振装置に適用できる。なお、バー31を連続的に往復移動させると、振動子としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した圧電性膜を用いたアクチュエータの実施形態を、分解して支持部材を縦断して示す正面図である。
【図2】同実施形態を組み立てた状態で、図3の切断線II-IIに沿って支持部材を縦断して示す正面図である。
【図3】同実施形態を組み立てた状態の平面図である。
【図4】同実施形態に駆動系を接続した実施例を示すブロック図である。
【図5】同アクチュエータの他の実施例の概要を示す図であって、(A)は非通電状態を、(B)は通電した状態を、(C)は通電を遮断した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 アクチュエータ
11 第1圧電性膜
11a 中央領域
11b 周辺領域
12 当接膜
13 電極膜
15 第2圧電性膜
15a 中央領域
15b 周辺領域
16 当接膜
21 第1押え枠
21a 中空部
21b 外周面
23 本体
25 第2押え枠
25a 中空部
25b 外周面
31 バー(可動子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔で対向配置された弾性体と、
上記弾性体の間に、上記弾性体が伸縮可能な状態で設けられた可動子とを備え、
上記弾性体の少なくとも一方が、伸縮領域を挟み又は囲むように周辺領域が支持部材に支持された圧電性膜であり、
上記圧電性膜に通電されとき又は遮電されたときの伸縮によりこの伸縮方向と略直交する方向に上記可動子が移動するように形成されていることを特徴とする圧電性膜を用いたアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、上記圧電性膜は、通電時に延伸するように変形する圧電材料により形成されている圧電性膜を用いたアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、上記圧電性膜には、上記伸縮領域の中央領域に電極膜が形成されている圧電性膜を用いたアクチュエータ。
【請求項4】
請求項3記載の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、上記電極膜は、上記伸縮領域の伸縮に伴って伸縮する素材で形成されている圧電性膜を用いたアクチュエータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項記載の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、上記可動子は、上記所定間隔よりも長いことを特徴とする圧電性膜を用いたアクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項記載の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、上記各圧電性膜と上記可動子とは、上記圧電性膜に形成された保護膜を介して接触する圧電性膜を用いたアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の圧電性膜を用いたアクチュエータにおいて、上記支持部材は、中空の本体部と、本体部の中空部を挟んで本体部の両端に上記圧電性膜を固定する、中空の押え部材とを備え、上記可動子は、上記本体部の中空部内に収容されている圧電性膜を用いたアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−148168(P2010−148168A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319364(P2008−319364)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)