圧電振動デバイス
【課題】 耐衝撃性を向上させ、信頼性の高い圧電振動デバイスを提供する。
【解決手段】 ベースには3次元方向に緩衝機能を有した弾性支持体が接合された構成である。弾性支持体の保持部には圧電振動板がその両短辺の主面が保持される状態で平置き状態に搭載されている。圧電振動板の両短辺の対角位置には導電接合材Sが塗布され、弾性支持体と導電接合されている。圧電振動板の短辺長さWに対して、導電接合材の長さWsは約30%程度の長さに設定されている。
【解決手段】 ベースには3次元方向に緩衝機能を有した弾性支持体が接合された構成である。弾性支持体の保持部には圧電振動板がその両短辺の主面が保持される状態で平置き状態に搭載されている。圧電振動板の両短辺の対角位置には導電接合材Sが塗布され、弾性支持体と導電接合されている。圧電振動板の短辺長さWに対して、導電接合材の長さWsは約30%程度の長さに設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動デバイスに係り、特に圧電振動板の保持構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子等の圧電振動デバイスは、パッケージ内に圧電振動板が緩衝状態に支持された構成が多く、例えば特開2005-20123号公報(特許文献1)に示すように、金属リード端子が植設されてなる金属ベース1と、前記金属リード端子のインナー側に溶接される平板状の金属サポート13,14と、当該金属サポートの板面と同方向に搭載される圧電振動板2と、金属製のキャップ3とからなる構成となっており、圧電振動板の両短辺が導電接合材により金属サポートに接合されている。
【0003】
また特開平8−162891号公報(特許文献2)には、平面的な屈曲部を有する板状金属板を基台に取り付け、圧電振動板の対角位置で板状金属板と接合した構成が開示されている。
【特許文献1】特開2005-20123号公報
【特許文献2】特開平8-162891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1においては、圧電振動デバイスが落下等により衝撃を受けた場合、金属サポートの緩衝機能により圧電振動板に対する応力を緩和することができる。しかしながら近年車載用途のように圧電振動デバイスの使用環境が厳しい場合、より高度な耐衝撃性が要求され、従来の構成では要求使用を満足できないことがあった。
【0005】
また特許文献2においては平面(2次元)方向の応力については緩衝機能を有しているが、圧電振動板の厚さ方向についての応力緩和ができない構成であり、様々な方向からの耐衝撃性向上には限界があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、耐衝撃性を向上させ、信頼性の高い圧電振動デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電振動板とこれを保持する弾性支持体との接合寸法と耐衝撃性との関係について鋭意検討した結果得られたもので、次のような構成により耐衝撃性を向上させたものである。
【0008】
すなわち、請求項1に示すように、ベースと、ベースに設けられた複数の弾性支持体と、当該弾性支持体に導電接合材により導電接合され、表裏面に励振電極の形成された矩形状の圧電振動板とを有する圧電振動デバイスであって、前記各弾性支持体は、ベースとの接合部と圧電振動板の保持部を有し、かつ前記圧電振動板の厚さ方向に可撓性を有する構成であり、また前記圧電振動板は長辺と短辺を有し、表面に形成された一方の励振電極を一方の短辺に導出し、裏面に形成された他方の励振電極を他方の短辺に導出した構成であり、前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを前記導電接合材により接合し、当該導電接合材は前記各短辺寸法に対して20〜60%の寸法を有する接合領域を有していることを特徴としている。
【0009】
接合領域の寸法は圧電振動板の短辺において導電接合材が塗布された領域であって、その短辺方向寸法を指しており、上記20〜60%の接合寸法は短辺の全長に対して接合材が塗布された範囲(長さ)の割合を指している。
【0010】
上記構成によれば、前記各弾性支持体は、ベースとの接合部と圧電振動板の保持部を有し、かつ前記圧電振動板の厚さ方向に可撓性を有する構成であり、また前記圧電振動板は長辺と短辺を有し、表面に形成された一方の励振電極を一方の短辺に導出し、裏面に形成された他方の励振電極を他方の短辺に導出した構成である。そして前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを導電接合材により接合し、当該導電接合材は前記各短辺寸法に対して20〜60%の寸法の接合領域を形成している構成である。よって、このような構成であると接合寸法以外の短辺部分(非接合領域)が自由端として機能する。従って落下等における衝撃応力が接合領域にかかった場合でも、前記自由端部分で大きく変形でき、これにより部分的な応力の集中を抑制し、全体として耐衝撃性を向上させることができる。なお、前記接合領域は1つの短辺に対して複数設けてもよいが、自由端を有効に造り出すためには1つの接合領域であることが好ましい。
【0011】
なお、導電接合材の接合領域が大きい場合、圧電振動板の振動(駆動)を阻害することがあり、直列抵抗等の電気的特性を低下させることが考えられるが、導電接合材の使用量を抑制する本発明によれば、電気的特性向上にも寄与する。
【0012】
また請求項2に示すように、上記請求項1記載の構成において、前記接合領域は矩形状圧電振動板の対角位置に配置されている構成としてもよい。
【0013】
前記接合領域は矩形状圧電振動板の対角位置に配置することにより、前記自由端も対角位置に配置されることになる。このような構成により両保持接合における安定性を維持した状態で、接合領域以外の自由端の可動領域を大きくとることができる。すなわち1つの短辺において接合領域が角部に偏って形成されることにより、短辺の非接合領域が自由端となり、この自由端寸法を大きくとることができる。従って、外部衝撃により応力が加わった場合でも、圧電振動板は自由端部分で大きく変形することができ、圧電振動板の弾性限界の許容範囲を拡大することができる。さらに接合領域が対角に位置することにより、長辺の両端保持構成において重量バランスのよい安定した保持を行うことができる。以上、請求項2の構成により、耐衝撃性をさらに向上させることができる。なお、前記対角位置は必ずしも矩形状圧電振動板の角部を含む必要はなく、角部近傍であってもよい。
【0014】
さらに請求項3に示すように、上記請求項1または2記載の各構成において前記導電接合材は、主として圧電振動板と保持部間に配置される下塗り部と、主として圧電振動板の上面に形成される上塗り部からなる構成としてもよい。
【0015】
長辺の両端保持構成を行う場合は、圧電振動板を搭載する保持部が同一平面に位置することが求められるが、弾性支持体の加工ばらつき等により平行度や両保持部の高さ等がばらつき、圧電振動板を安定して保持できない場合がある。このような場合、下塗り部を有することにより、上記加工ばらつきによる搭載時の不安定要因(例えば平行度や保持部の高さばらつき)を吸収することができ、圧電振動板に対する外部応力を抑制することができる。また上塗り部により弾性支持体との接合を強固にすることができ、接合領域を小さくとった場合でも、圧電振動板と弾性支持体との実用的な接合強度を得ることができる。なお下塗り部の一部が側面等の他の領域にはみ出てもよいし、また上塗り部の一部が側面等の他の領域にはみ出た構成となってもよい。
【0016】
また請求項4に示すように、上記請求項1または2または3記載の各構成において、前記下塗り部の接合領域より前記上塗り部の接合領域が大きい構成としてもよい。
【0017】
本発明にかかるような圧電振動デバイスにおいては、圧電振動板と保持部の接合面積が大きい場合、外部衝撃に対して圧電振動板が割れる等の損傷を受けやすくなることがある。請求項4によれば圧電振動板と保持部の接合面積を抑制することができるので圧電振動板の損傷をなくすことができ、また上塗り部を相対的に大きくした構成により、外部衝撃により弾性支持体から圧電振動板が外れるという不具合を抑制することができる。よって、全体として耐衝撃性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐衝撃性を向上させた圧電振動デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による実施の形態を、水晶振動子を例にとり、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す内部構造を示す側面図であり、図2は、図1においてキャップによる気密封止前の平面図であり、図3は、図2のA−A断面図(圧電振動板の保持部のみ表示)である。
【0020】
圧電振動板2はATカット水晶振動板からなり、短辺と長辺を有する矩形状に加工されている。圧電振動板2の表裏面には矩形形状の励振電極21,22(22は図示せず)が形成され、また当該励振電極から各短辺に引出電極21a,22aが引き出されている。すなわち、圧電振動板2の表面に形成されている励振電極21は引出電極21aにより圧電振動板の一方の短辺に引き出され、圧電振動板2の裏面に形成されている励振電極22は引出電極22aにより圧電振動板の他方の短辺に引き出されている。なお、後述の電気的接続を確実に行うため各引出電極21a,22aを反対主面に回り込ませている。なお、反対主面に回り込ませる構成でなくてもよく、この場合、導電接合材により表裏電極を導電接合してもよい。上記電極材料は例えばとしてクロムやニッケルの下地電極層の上部に、銀や金を主とした主電極層が形成された積層構造で形成されている。これら電極は真空蒸着法あるいはスパッタリング法等の薄膜形成手段により形成されている。なお、前記電極材料は上述の例に限定されるものではなく、他の電極材料を用いてもよいし、電極構成も単層構成や3層以上の積層構成であってもよい。
【0021】
ベース1は金属製のシェル10と当該シェルを貫通した状態で配置されたリード端子11,12からなる。金属製のシェル10は低背の長円柱形状であり、平面視中央部分から所定寸法離れた両側に貫通孔が設けられている。当該貫通孔には絶縁ガラスGが充填され、その中央部分をリード端子11,12が貫通した構成となっている。各リード端子は細長い棒状の金属材料(コバール等)からなる導電体である。各リード端子は絶縁ガラスGを介してシェルに固定されることにより、相互に電気的に独立した構成となっている。以上により、ベース1はシェルの上部に突出したインナーリード部11a,12aとシェルの下部に突出したアウターリード部11b、12bを形成している。
【0022】
シェルの下部周縁部分には一体的に周状のフランジ10aが設けられている。なお、フランジ10aには、図示していないが周状の突起部(プロジェクション)が一体的に形成され、後述の抵抗溶接時の接合性向上に寄与する構成となっている。
【0023】
弾性支持体13,14は前記インナーリード部11a,12aに抵抗溶接あるいはレーザービーム溶接等の手法により各々接合されている。弾性支持体13,14はコア材が洋白(銅と亜鉛とニッケルから構成される合金)材からなり、その表面に銀メッキが形成された構成である。当該弾性支持体は薄板加工により可撓性を有する構成となっている。また弾性支持体13,14はインナーリード部11a,12aと接合される接合部13a,14aと、当該接合部とつながり相互に離間する方向に伸長する屈曲部13b,14bと、当該屈曲部とつながり圧電振動板2を保持する保持部13c,14cを有している。以上の構成により、弾性支持体13,14は全体として階段状の構成であり、3次元方向(縦横方向と厚さ方向)に緩衝機能を有している。特に図1における上下方向すなわち圧電振動板の板厚方向においては比較的大きな可撓性を有している。なお、両保持部は同一平面上に水平状態に配置され、圧電振動板はその両短辺の主面が保持部に保持される状態で平置き状態に搭載される。
【0024】
図2に示すように、本実施の形態においては、圧電振動板2の両短辺に導電接合材Sが塗布され、弾性支持体13,14と圧電振動板の引出電極21a,22aそれぞれが電気的機械的に接続されている。導電接合材Sは両短辺の対角位置に塗布されている。また、圧電振動板の短辺長さWに対して、導電接合材の長さWsは約30%程度の長さに設定している。このような構成により、両保持接合における安定性を維持した状態で、圧電振動板の短辺において、接合領域以外では自由端となる可動領域を大きくとることができる。すなわち1つの短辺において接合領域が一方の角部に偏って形成されることにより、短辺の非接合領域が自由端となり、この自由端寸法を大きくとることができる。従って、外部衝撃により応力が加わった場合でも、圧電振動板は自由端部分で大きく変形することができ、圧電振動板の弾性限界の許容範囲を拡大することができる。さらに接合領域が対角に位置することにより、長辺の両端保持構成において重量バランスのよい安定した保持を行うことができる。
【0025】
また、図1および図3に示すように、本実施の形態において、導電接合材Sは下塗り部(下塗り導電接合材)S1と、上塗り部(上塗り導電接合材)S2とを有する構成となっている。下塗り部S1と上塗り部S2の塗布領域は上下ほぼ同じサイズとしており、前記長さWsや奥行きについても同程度のサイズとしている。
【0026】
導電性接合材Sは、例えば銀等からなる導電フィラーが添加されたシリコーン系樹脂接合材を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば導電フィラーが添加されたエポキシ系樹脂接合材であってもよい。また下塗り部と上塗り部に使用する接合材を異ならせてもよい。例えば緩衝性能に優れたシリコーン系樹脂接合材を下塗り部に適用し、上塗り部にエポキシ系樹脂接合材を適用してもよい。
【0027】
なお、導電接合材Sは保持部に対して偏在して形成される構成でなくてもよく、例えば中央部分にのみ形成される構成であってもよい。また一方の保持部のみにおいて導電接合材が偏在する構成であってもよい。
【0028】
さらに、上記実施の形態において、導電接合材Sは下塗り部と上塗り部を有する構成を開示したが、下塗り部のみの構成であってもよい。この場合、下塗り部の導電接合材と引出電極あるいは圧電振動板の素地との馴染みのよい材料を選択したり、製造条件を工夫することにより必要な接合強度を得ることができる。
【0029】
キャップ3は全体として長円柱形状であり、前記ベース1の上面を被覆することができる逆凹形構成で、下面が開口した構成である。また開口の外周部分には周状のフランジ31が形成されている。当該キャップは洋白をコア材とし、表面にニッケルメッキが形成されている。当該キャップのフランジ31と前記ベースのフランジと10aが対応した状態で接合され、圧電振動板等が気密封止されている。
【0030】
次に圧電振動デバイスの製造方法について説明する。まず、弾性支持体がインナーリード部に接合されたベース1を用意する。そして当該弾性支持体13,14の保持部13c、14c上に導電接合材の下塗り部S1を塗布する。塗布に際してはディスペンサによりペースト状の導電性接合材を保持部に対して吐出する。塗布位置は図2に示すように保持部13c、14cの一部に偏った位置に塗布し、全体として下塗り部が保持部13c、14cで対角位置に配置されるように形成する。
【0031】
その後圧電振動板2を前記保持部間に架設するように搭載する。これにより保持部においては下塗り部を介して圧電振動板が搭載された構成となっている。さらに圧電振動板の上面あるいは上面と側面に対して上塗り部S2を塗布する。当該上塗り部S2は前記下塗り部S1に対応する上部位置に形成される。その後導電接合材の乾燥工程、アニール工程後、不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気中でキャップによる気密封止を行う。当該気密封止は前述のフランジ同士を抵抗溶接することにより行い、当該気密封止によりキャップ内部が不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気中に保持される。
【0032】
なお、前記製造方法においては、下塗り部S1を塗布後、直ちに圧電振動板を搭載し、その後時間を置かずに上塗り部S2を塗布し、その後接合材の乾燥処理を行っている。しかしこの方法に限定されるものではなく、例えば下塗り部S1を塗布後一端接合材を硬化あるいは半硬化させ、その後圧電振動子を搭載し、さらに上塗り部の塗布をして接合材の最終硬化をさせる方法を採用してもよい。この場合、下塗り部が安定して形成されるので、本発明による緩衝機能を安定して発揮させることができる。
【0033】
次に圧電振動デバイスにおいて、圧電振動板に対する導電接合材の接合領域(接合量)および接合位置と、耐衝撃性の関係についての比較検証試験について説明する。
【0034】
[比較試験1]
比較試験1においては、導電接合材を矩形圧電振動板の短辺に対して全体に塗布(接合)した場合と、一部に塗布した場合の耐衝撃性について検証している。検証に用いた圧電振動デバイスは、図1に示す構成であり、弾性支持体13,14により圧電振動板の両端の短辺部分を保持した構成である。弾性支持体は洋白からなり、その表面に銀メッキが形成されており、その板厚は0.1mmである。圧電振動板の外形は長辺8mm、短辺2mm、厚さ0.062mmであり、周波数は27MHzである。導電接合材はシリコーン系樹脂接合材であり、具体的には藤倉化成社製XA-5003を用いている。なお、具体的な導電接合材Sの接合寸法および接合位置は図4に示す構成であり、それぞれ(a)で示すサンプルは接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの30%の寸法であり、かつ各導電接合材Sがほぼ対角に配置された構成であり、(b)で示すサンプルは接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの30%の寸法であり、かつ各導電接合材Sが短辺の中央部分に対向して配置された構成であり、(c)で示すサンプルは接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法W全体に渡って形成された構成である。
【0035】
以上の各支持構成を有する気密封止された圧電振動デバイスに対して耐衝撃性比較試験を行った。検証に用いたサンプルは各100個であり、図5に耐衝撃性比較試験の結果を示す。図5において横軸は落下高さと試験回数を示しており、例えば、50cm×3回は50cmの高さから所定仕様の木材プレート上にサンプルを落下させ、これを3回繰り返した場合を示しており、縦軸は当該試験を行った後の良品率を示している。なお、不良品の判定基準は圧電振動デバイスの直列抵抗が所定範囲以上変動した場合としている。図5において50cm×3回の試験においては(a)で示すサンプル、(b)で示すサンプル、(c)で示すサンプルともに良品率が100%であることを意味している。図5から明らかなように、(c)で示すサンプル、すなわち接合寸法が短辺全体に渡って形成されたサンプルは75cm×10回の試験から良品率が低下し、200cm×10回の試験終了時には良品率が95%となり、耐衝撃性は好ましくないことが理解できる。これに対して(a)で示すサンプルは試験終了後も良品率は100%であり、極めて良好な結果となり、また(b)で示すサンプルについても若干の耐衝撃性の低下が認められるものの実用上問題ないといえる。以上の結果から、導電接合材を部分的に塗布することにより、耐衝撃性の大幅な向上を得ることが認められた。
【0036】
[比較試験2]
次に導電接合材を対角に配置した接合構成において、接合寸法の割合に対する耐衝撃性について検証した。検証条件および検証に用いた圧電振動デバイスは上記検証試験1と同じ構成であり、導電接合材Sの接合寸法については図6と図7に示すような構成である。図6において(f)以外は導電接合材の形成された圧電振動板の平面図であり、図6(f)は圧電振動板を短辺から見た側面図である。図6において(d)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの10%の割合で形成しており、かつ下塗り部と上塗り部とも短辺寸法Wの10%の割合で形成した構成である。なお、以下、特に明示をしない場合、接合寸法は下塗り部と上塗り部とも同じ割合で形成されているものとする。(e)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの20%の割合で形成している。(f)で示すサンプルは、接合寸法Wsについて下塗り部と上塗り部を異ならせており、下塗り部は20%、上塗り部は30%の割合で形成している。(g)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの50%の割合で形成している。(h)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの60%の割合で形成している。(i)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの75%の割合で形成している。
【0037】
また図7に示す(j)〜(l)は、導電接合材が下塗り部のみの場合について示している。図7において(j)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの20%の割合で形成している。(k)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの60%の割合で形成している。(l)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの75%の割合で形成している。
【0038】
以上の各支持構成を有する気密封止された圧電振動デバイスに対して耐衝撃性試験を行った。検証に用いたサンプルは各100個であり、図8〜図10に耐衝撃性試験の結果を示す。図8は上記(d)〜(f)で示すサンプルに関する耐衝撃性を示すデータであり、(d)で示すサンプルは比較的早い段階で良品率が低下していることが理解できるが、これは導電接合材自体が弾性支持体の保持部から外れるという事象によることが確認できた。(e)と(f)で示すサンプルは試験終了後の良品率は99%と100%であり、極めて良好な結果であった。なお、(f)で示すサンプルは導電接合材の使用量も少なく、電気的特性も非常に良好である。
【0039】
図9は上記(g)〜(i)で示すサンプルに関する耐衝撃性を示すデータであり、(g)と(h)で示すサンプルは試験終了後の良品率が99%と98%であり、概ね実用上問題のない耐衝撃性を備えていることが確認できた。しかし(i)で示すサンプルは試験終了時点での良品率が低く、やや実用性に欠けていることが理解できる。
【0040】
図10は上記(j)〜(l)で示すサンプルに関する耐衝撃性を示すデータであり、(j)と(k)で示すサンプルは試験終了後の良品率が99%と98%であり、概ね実用上問題のない耐衝撃性を備えていることが確認できた。しかし(l)で示すサンプルは試験終了時点での良品率が低く、やや実用性に欠けていることが理解できる。
【0041】
以上の検証結果から、導電接合材による接合領域が圧電振動板の短辺寸法に対して20〜60%の寸法範囲であると、下塗り部のみの場合、下塗り部と上塗り部の場合を含めて良好な耐衝撃性を確保することが分かった。
【0042】
また上記20〜60%の範囲において短辺の中央部で対向して保持した場合に較べて、対角に保持したほうが耐衝撃性が向上することが分かった。
【0043】
さらに上記20〜60%の範囲において下塗り部よりも上塗り部の接合範囲を大きくすることにより、耐衝撃性が向上することも分かった。
【0044】
なお、上記実施の形態において、導電接合材に導電フィラーが添加されたシリコーン系樹脂接合材を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば導電フィラーが添加されたエポキシ系樹脂接合材、あるいはウレタン系樹脂接合材であってもよい。
【0045】
また、圧電振動板を保持する弾性支持体も上記実施の形態に開示した構成に限定されるものではなく、例えば図11、図12、図13に示すような弾性支持体17、18を有する構成であってもよい。図11はベースの他の構成を示す断面図であり、図12は図11の平面図であり、図13は圧電振動板を搭載した状態での平面図である。なお、キャップは図示していない。この実施形態において、弾性支持体17、18はインナーリード部15a,16aとの接合部17a、18aから一端相互に近接する方向に伸長し、その後相互に離間する方向に伸長した構成で、屈曲部17b、18bを経由して最終的に保持部17c、18cに至る構成である。
【0046】
このような構成においては、インナーリード部に接合される接合部17a,18aと保持部17c、18c間の距離を大きくとることができるので、緩衝性能に優れている。このような構成のベースを用いて、前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを導電接合材により接合し、当該導電接合材による接合領域が圧電振動板の短辺寸法に対して20〜60%の寸法範囲の構成とすることにより、より耐衝撃性に優れた圧電振動デバイスを得ることができる。
【0047】
また図13に示すように、圧電振動板に形成された電極構成が前述の実施形態と異なっており、励振電極41,42(42は図示せず)から引き出された引出電極41a,42aは短辺全長に渡って形成された構成ではなく、一部にのみ形成した構成となっている。このような構成により導電接合材が必要以上に拡がることがなく、前述の接合材形成領域を限定することができる。その結果、耐衝撃性を向上させる構成を精度よく、かつ高い生産性でもって製造することができる。なお、このような導電接合材の拡がりを防止する構成としては、部分的な引出電極の形成以外に、例えば一部電極に切り欠き(無電極部の形成)を設けること等によっても実現できる。
【0048】
なお、図13に示すように、弾性支持体の保持部の幅よりも圧電振動板の短辺寸法が大きい構成となっている。このような場合、導電接合材は圧電振動板の角部よりやや内側の前記保持部と接合できる領域塗布することになるが、ほぼ対角位置で保持することは可能である。
【0049】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水晶振動子、水晶発振器等の圧電振動デバイスの周波数調整の量産に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態を示す内部構造を示す側面図である。
【図2】図1においてキャップによる気密封止前の平面図である。
【図3】図2のA−A断面図(圧電振動板の保持部のみ表示)である。
【図4】導電接合材の圧電振動板への接合領域および接合位置を示す図である。
【図5】検証比較データを示すグラフである。
【図6】導電接合材の圧電振動板への接合領域および接合位置を示す図である。
【図7】導電接合材の圧電振動板への接合領域および接合位置を示す図である。
【図8】検証比較データを示すグラフである。
【図9】検証比較データを示すグラフである。
【図10】検証比較データを示すグラフである。
【図11】他のベース構成を示す断面図である。
【図12】図10の平面図である。
【図13】圧電振動板を搭載した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ベース
11,12、15,16 リード端子
13,14、17,18 弾性支持体
2 圧電振動板(水晶振動板)
3 キャップ
S1 下塗り部
S2 上塗り部
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子等の圧電振動デバイスに係り、特に圧電振動板の保持構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子等の圧電振動デバイスは、パッケージ内に圧電振動板が緩衝状態に支持された構成が多く、例えば特開2005-20123号公報(特許文献1)に示すように、金属リード端子が植設されてなる金属ベース1と、前記金属リード端子のインナー側に溶接される平板状の金属サポート13,14と、当該金属サポートの板面と同方向に搭載される圧電振動板2と、金属製のキャップ3とからなる構成となっており、圧電振動板の両短辺が導電接合材により金属サポートに接合されている。
【0003】
また特開平8−162891号公報(特許文献2)には、平面的な屈曲部を有する板状金属板を基台に取り付け、圧電振動板の対角位置で板状金属板と接合した構成が開示されている。
【特許文献1】特開2005-20123号公報
【特許文献2】特開平8-162891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1においては、圧電振動デバイスが落下等により衝撃を受けた場合、金属サポートの緩衝機能により圧電振動板に対する応力を緩和することができる。しかしながら近年車載用途のように圧電振動デバイスの使用環境が厳しい場合、より高度な耐衝撃性が要求され、従来の構成では要求使用を満足できないことがあった。
【0005】
また特許文献2においては平面(2次元)方向の応力については緩衝機能を有しているが、圧電振動板の厚さ方向についての応力緩和ができない構成であり、様々な方向からの耐衝撃性向上には限界があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、耐衝撃性を向上させ、信頼性の高い圧電振動デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電振動板とこれを保持する弾性支持体との接合寸法と耐衝撃性との関係について鋭意検討した結果得られたもので、次のような構成により耐衝撃性を向上させたものである。
【0008】
すなわち、請求項1に示すように、ベースと、ベースに設けられた複数の弾性支持体と、当該弾性支持体に導電接合材により導電接合され、表裏面に励振電極の形成された矩形状の圧電振動板とを有する圧電振動デバイスであって、前記各弾性支持体は、ベースとの接合部と圧電振動板の保持部を有し、かつ前記圧電振動板の厚さ方向に可撓性を有する構成であり、また前記圧電振動板は長辺と短辺を有し、表面に形成された一方の励振電極を一方の短辺に導出し、裏面に形成された他方の励振電極を他方の短辺に導出した構成であり、前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを前記導電接合材により接合し、当該導電接合材は前記各短辺寸法に対して20〜60%の寸法を有する接合領域を有していることを特徴としている。
【0009】
接合領域の寸法は圧電振動板の短辺において導電接合材が塗布された領域であって、その短辺方向寸法を指しており、上記20〜60%の接合寸法は短辺の全長に対して接合材が塗布された範囲(長さ)の割合を指している。
【0010】
上記構成によれば、前記各弾性支持体は、ベースとの接合部と圧電振動板の保持部を有し、かつ前記圧電振動板の厚さ方向に可撓性を有する構成であり、また前記圧電振動板は長辺と短辺を有し、表面に形成された一方の励振電極を一方の短辺に導出し、裏面に形成された他方の励振電極を他方の短辺に導出した構成である。そして前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを導電接合材により接合し、当該導電接合材は前記各短辺寸法に対して20〜60%の寸法の接合領域を形成している構成である。よって、このような構成であると接合寸法以外の短辺部分(非接合領域)が自由端として機能する。従って落下等における衝撃応力が接合領域にかかった場合でも、前記自由端部分で大きく変形でき、これにより部分的な応力の集中を抑制し、全体として耐衝撃性を向上させることができる。なお、前記接合領域は1つの短辺に対して複数設けてもよいが、自由端を有効に造り出すためには1つの接合領域であることが好ましい。
【0011】
なお、導電接合材の接合領域が大きい場合、圧電振動板の振動(駆動)を阻害することがあり、直列抵抗等の電気的特性を低下させることが考えられるが、導電接合材の使用量を抑制する本発明によれば、電気的特性向上にも寄与する。
【0012】
また請求項2に示すように、上記請求項1記載の構成において、前記接合領域は矩形状圧電振動板の対角位置に配置されている構成としてもよい。
【0013】
前記接合領域は矩形状圧電振動板の対角位置に配置することにより、前記自由端も対角位置に配置されることになる。このような構成により両保持接合における安定性を維持した状態で、接合領域以外の自由端の可動領域を大きくとることができる。すなわち1つの短辺において接合領域が角部に偏って形成されることにより、短辺の非接合領域が自由端となり、この自由端寸法を大きくとることができる。従って、外部衝撃により応力が加わった場合でも、圧電振動板は自由端部分で大きく変形することができ、圧電振動板の弾性限界の許容範囲を拡大することができる。さらに接合領域が対角に位置することにより、長辺の両端保持構成において重量バランスのよい安定した保持を行うことができる。以上、請求項2の構成により、耐衝撃性をさらに向上させることができる。なお、前記対角位置は必ずしも矩形状圧電振動板の角部を含む必要はなく、角部近傍であってもよい。
【0014】
さらに請求項3に示すように、上記請求項1または2記載の各構成において前記導電接合材は、主として圧電振動板と保持部間に配置される下塗り部と、主として圧電振動板の上面に形成される上塗り部からなる構成としてもよい。
【0015】
長辺の両端保持構成を行う場合は、圧電振動板を搭載する保持部が同一平面に位置することが求められるが、弾性支持体の加工ばらつき等により平行度や両保持部の高さ等がばらつき、圧電振動板を安定して保持できない場合がある。このような場合、下塗り部を有することにより、上記加工ばらつきによる搭載時の不安定要因(例えば平行度や保持部の高さばらつき)を吸収することができ、圧電振動板に対する外部応力を抑制することができる。また上塗り部により弾性支持体との接合を強固にすることができ、接合領域を小さくとった場合でも、圧電振動板と弾性支持体との実用的な接合強度を得ることができる。なお下塗り部の一部が側面等の他の領域にはみ出てもよいし、また上塗り部の一部が側面等の他の領域にはみ出た構成となってもよい。
【0016】
また請求項4に示すように、上記請求項1または2または3記載の各構成において、前記下塗り部の接合領域より前記上塗り部の接合領域が大きい構成としてもよい。
【0017】
本発明にかかるような圧電振動デバイスにおいては、圧電振動板と保持部の接合面積が大きい場合、外部衝撃に対して圧電振動板が割れる等の損傷を受けやすくなることがある。請求項4によれば圧電振動板と保持部の接合面積を抑制することができるので圧電振動板の損傷をなくすことができ、また上塗り部を相対的に大きくした構成により、外部衝撃により弾性支持体から圧電振動板が外れるという不具合を抑制することができる。よって、全体として耐衝撃性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐衝撃性を向上させた圧電振動デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明による実施の形態を、水晶振動子を例にとり、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す内部構造を示す側面図であり、図2は、図1においてキャップによる気密封止前の平面図であり、図3は、図2のA−A断面図(圧電振動板の保持部のみ表示)である。
【0020】
圧電振動板2はATカット水晶振動板からなり、短辺と長辺を有する矩形状に加工されている。圧電振動板2の表裏面には矩形形状の励振電極21,22(22は図示せず)が形成され、また当該励振電極から各短辺に引出電極21a,22aが引き出されている。すなわち、圧電振動板2の表面に形成されている励振電極21は引出電極21aにより圧電振動板の一方の短辺に引き出され、圧電振動板2の裏面に形成されている励振電極22は引出電極22aにより圧電振動板の他方の短辺に引き出されている。なお、後述の電気的接続を確実に行うため各引出電極21a,22aを反対主面に回り込ませている。なお、反対主面に回り込ませる構成でなくてもよく、この場合、導電接合材により表裏電極を導電接合してもよい。上記電極材料は例えばとしてクロムやニッケルの下地電極層の上部に、銀や金を主とした主電極層が形成された積層構造で形成されている。これら電極は真空蒸着法あるいはスパッタリング法等の薄膜形成手段により形成されている。なお、前記電極材料は上述の例に限定されるものではなく、他の電極材料を用いてもよいし、電極構成も単層構成や3層以上の積層構成であってもよい。
【0021】
ベース1は金属製のシェル10と当該シェルを貫通した状態で配置されたリード端子11,12からなる。金属製のシェル10は低背の長円柱形状であり、平面視中央部分から所定寸法離れた両側に貫通孔が設けられている。当該貫通孔には絶縁ガラスGが充填され、その中央部分をリード端子11,12が貫通した構成となっている。各リード端子は細長い棒状の金属材料(コバール等)からなる導電体である。各リード端子は絶縁ガラスGを介してシェルに固定されることにより、相互に電気的に独立した構成となっている。以上により、ベース1はシェルの上部に突出したインナーリード部11a,12aとシェルの下部に突出したアウターリード部11b、12bを形成している。
【0022】
シェルの下部周縁部分には一体的に周状のフランジ10aが設けられている。なお、フランジ10aには、図示していないが周状の突起部(プロジェクション)が一体的に形成され、後述の抵抗溶接時の接合性向上に寄与する構成となっている。
【0023】
弾性支持体13,14は前記インナーリード部11a,12aに抵抗溶接あるいはレーザービーム溶接等の手法により各々接合されている。弾性支持体13,14はコア材が洋白(銅と亜鉛とニッケルから構成される合金)材からなり、その表面に銀メッキが形成された構成である。当該弾性支持体は薄板加工により可撓性を有する構成となっている。また弾性支持体13,14はインナーリード部11a,12aと接合される接合部13a,14aと、当該接合部とつながり相互に離間する方向に伸長する屈曲部13b,14bと、当該屈曲部とつながり圧電振動板2を保持する保持部13c,14cを有している。以上の構成により、弾性支持体13,14は全体として階段状の構成であり、3次元方向(縦横方向と厚さ方向)に緩衝機能を有している。特に図1における上下方向すなわち圧電振動板の板厚方向においては比較的大きな可撓性を有している。なお、両保持部は同一平面上に水平状態に配置され、圧電振動板はその両短辺の主面が保持部に保持される状態で平置き状態に搭載される。
【0024】
図2に示すように、本実施の形態においては、圧電振動板2の両短辺に導電接合材Sが塗布され、弾性支持体13,14と圧電振動板の引出電極21a,22aそれぞれが電気的機械的に接続されている。導電接合材Sは両短辺の対角位置に塗布されている。また、圧電振動板の短辺長さWに対して、導電接合材の長さWsは約30%程度の長さに設定している。このような構成により、両保持接合における安定性を維持した状態で、圧電振動板の短辺において、接合領域以外では自由端となる可動領域を大きくとることができる。すなわち1つの短辺において接合領域が一方の角部に偏って形成されることにより、短辺の非接合領域が自由端となり、この自由端寸法を大きくとることができる。従って、外部衝撃により応力が加わった場合でも、圧電振動板は自由端部分で大きく変形することができ、圧電振動板の弾性限界の許容範囲を拡大することができる。さらに接合領域が対角に位置することにより、長辺の両端保持構成において重量バランスのよい安定した保持を行うことができる。
【0025】
また、図1および図3に示すように、本実施の形態において、導電接合材Sは下塗り部(下塗り導電接合材)S1と、上塗り部(上塗り導電接合材)S2とを有する構成となっている。下塗り部S1と上塗り部S2の塗布領域は上下ほぼ同じサイズとしており、前記長さWsや奥行きについても同程度のサイズとしている。
【0026】
導電性接合材Sは、例えば銀等からなる導電フィラーが添加されたシリコーン系樹脂接合材を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば導電フィラーが添加されたエポキシ系樹脂接合材であってもよい。また下塗り部と上塗り部に使用する接合材を異ならせてもよい。例えば緩衝性能に優れたシリコーン系樹脂接合材を下塗り部に適用し、上塗り部にエポキシ系樹脂接合材を適用してもよい。
【0027】
なお、導電接合材Sは保持部に対して偏在して形成される構成でなくてもよく、例えば中央部分にのみ形成される構成であってもよい。また一方の保持部のみにおいて導電接合材が偏在する構成であってもよい。
【0028】
さらに、上記実施の形態において、導電接合材Sは下塗り部と上塗り部を有する構成を開示したが、下塗り部のみの構成であってもよい。この場合、下塗り部の導電接合材と引出電極あるいは圧電振動板の素地との馴染みのよい材料を選択したり、製造条件を工夫することにより必要な接合強度を得ることができる。
【0029】
キャップ3は全体として長円柱形状であり、前記ベース1の上面を被覆することができる逆凹形構成で、下面が開口した構成である。また開口の外周部分には周状のフランジ31が形成されている。当該キャップは洋白をコア材とし、表面にニッケルメッキが形成されている。当該キャップのフランジ31と前記ベースのフランジと10aが対応した状態で接合され、圧電振動板等が気密封止されている。
【0030】
次に圧電振動デバイスの製造方法について説明する。まず、弾性支持体がインナーリード部に接合されたベース1を用意する。そして当該弾性支持体13,14の保持部13c、14c上に導電接合材の下塗り部S1を塗布する。塗布に際してはディスペンサによりペースト状の導電性接合材を保持部に対して吐出する。塗布位置は図2に示すように保持部13c、14cの一部に偏った位置に塗布し、全体として下塗り部が保持部13c、14cで対角位置に配置されるように形成する。
【0031】
その後圧電振動板2を前記保持部間に架設するように搭載する。これにより保持部においては下塗り部を介して圧電振動板が搭載された構成となっている。さらに圧電振動板の上面あるいは上面と側面に対して上塗り部S2を塗布する。当該上塗り部S2は前記下塗り部S1に対応する上部位置に形成される。その後導電接合材の乾燥工程、アニール工程後、不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気中でキャップによる気密封止を行う。当該気密封止は前述のフランジ同士を抵抗溶接することにより行い、当該気密封止によりキャップ内部が不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気中に保持される。
【0032】
なお、前記製造方法においては、下塗り部S1を塗布後、直ちに圧電振動板を搭載し、その後時間を置かずに上塗り部S2を塗布し、その後接合材の乾燥処理を行っている。しかしこの方法に限定されるものではなく、例えば下塗り部S1を塗布後一端接合材を硬化あるいは半硬化させ、その後圧電振動子を搭載し、さらに上塗り部の塗布をして接合材の最終硬化をさせる方法を採用してもよい。この場合、下塗り部が安定して形成されるので、本発明による緩衝機能を安定して発揮させることができる。
【0033】
次に圧電振動デバイスにおいて、圧電振動板に対する導電接合材の接合領域(接合量)および接合位置と、耐衝撃性の関係についての比較検証試験について説明する。
【0034】
[比較試験1]
比較試験1においては、導電接合材を矩形圧電振動板の短辺に対して全体に塗布(接合)した場合と、一部に塗布した場合の耐衝撃性について検証している。検証に用いた圧電振動デバイスは、図1に示す構成であり、弾性支持体13,14により圧電振動板の両端の短辺部分を保持した構成である。弾性支持体は洋白からなり、その表面に銀メッキが形成されており、その板厚は0.1mmである。圧電振動板の外形は長辺8mm、短辺2mm、厚さ0.062mmであり、周波数は27MHzである。導電接合材はシリコーン系樹脂接合材であり、具体的には藤倉化成社製XA-5003を用いている。なお、具体的な導電接合材Sの接合寸法および接合位置は図4に示す構成であり、それぞれ(a)で示すサンプルは接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの30%の寸法であり、かつ各導電接合材Sがほぼ対角に配置された構成であり、(b)で示すサンプルは接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの30%の寸法であり、かつ各導電接合材Sが短辺の中央部分に対向して配置された構成であり、(c)で示すサンプルは接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法W全体に渡って形成された構成である。
【0035】
以上の各支持構成を有する気密封止された圧電振動デバイスに対して耐衝撃性比較試験を行った。検証に用いたサンプルは各100個であり、図5に耐衝撃性比較試験の結果を示す。図5において横軸は落下高さと試験回数を示しており、例えば、50cm×3回は50cmの高さから所定仕様の木材プレート上にサンプルを落下させ、これを3回繰り返した場合を示しており、縦軸は当該試験を行った後の良品率を示している。なお、不良品の判定基準は圧電振動デバイスの直列抵抗が所定範囲以上変動した場合としている。図5において50cm×3回の試験においては(a)で示すサンプル、(b)で示すサンプル、(c)で示すサンプルともに良品率が100%であることを意味している。図5から明らかなように、(c)で示すサンプル、すなわち接合寸法が短辺全体に渡って形成されたサンプルは75cm×10回の試験から良品率が低下し、200cm×10回の試験終了時には良品率が95%となり、耐衝撃性は好ましくないことが理解できる。これに対して(a)で示すサンプルは試験終了後も良品率は100%であり、極めて良好な結果となり、また(b)で示すサンプルについても若干の耐衝撃性の低下が認められるものの実用上問題ないといえる。以上の結果から、導電接合材を部分的に塗布することにより、耐衝撃性の大幅な向上を得ることが認められた。
【0036】
[比較試験2]
次に導電接合材を対角に配置した接合構成において、接合寸法の割合に対する耐衝撃性について検証した。検証条件および検証に用いた圧電振動デバイスは上記検証試験1と同じ構成であり、導電接合材Sの接合寸法については図6と図7に示すような構成である。図6において(f)以外は導電接合材の形成された圧電振動板の平面図であり、図6(f)は圧電振動板を短辺から見た側面図である。図6において(d)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの10%の割合で形成しており、かつ下塗り部と上塗り部とも短辺寸法Wの10%の割合で形成した構成である。なお、以下、特に明示をしない場合、接合寸法は下塗り部と上塗り部とも同じ割合で形成されているものとする。(e)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの20%の割合で形成している。(f)で示すサンプルは、接合寸法Wsについて下塗り部と上塗り部を異ならせており、下塗り部は20%、上塗り部は30%の割合で形成している。(g)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの50%の割合で形成している。(h)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの60%の割合で形成している。(i)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの75%の割合で形成している。
【0037】
また図7に示す(j)〜(l)は、導電接合材が下塗り部のみの場合について示している。図7において(j)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの20%の割合で形成している。(k)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの60%の割合で形成している。(l)で示すサンプルは、接合寸法Wsが圧電振動板の短辺寸法Wの75%の割合で形成している。
【0038】
以上の各支持構成を有する気密封止された圧電振動デバイスに対して耐衝撃性試験を行った。検証に用いたサンプルは各100個であり、図8〜図10に耐衝撃性試験の結果を示す。図8は上記(d)〜(f)で示すサンプルに関する耐衝撃性を示すデータであり、(d)で示すサンプルは比較的早い段階で良品率が低下していることが理解できるが、これは導電接合材自体が弾性支持体の保持部から外れるという事象によることが確認できた。(e)と(f)で示すサンプルは試験終了後の良品率は99%と100%であり、極めて良好な結果であった。なお、(f)で示すサンプルは導電接合材の使用量も少なく、電気的特性も非常に良好である。
【0039】
図9は上記(g)〜(i)で示すサンプルに関する耐衝撃性を示すデータであり、(g)と(h)で示すサンプルは試験終了後の良品率が99%と98%であり、概ね実用上問題のない耐衝撃性を備えていることが確認できた。しかし(i)で示すサンプルは試験終了時点での良品率が低く、やや実用性に欠けていることが理解できる。
【0040】
図10は上記(j)〜(l)で示すサンプルに関する耐衝撃性を示すデータであり、(j)と(k)で示すサンプルは試験終了後の良品率が99%と98%であり、概ね実用上問題のない耐衝撃性を備えていることが確認できた。しかし(l)で示すサンプルは試験終了時点での良品率が低く、やや実用性に欠けていることが理解できる。
【0041】
以上の検証結果から、導電接合材による接合領域が圧電振動板の短辺寸法に対して20〜60%の寸法範囲であると、下塗り部のみの場合、下塗り部と上塗り部の場合を含めて良好な耐衝撃性を確保することが分かった。
【0042】
また上記20〜60%の範囲において短辺の中央部で対向して保持した場合に較べて、対角に保持したほうが耐衝撃性が向上することが分かった。
【0043】
さらに上記20〜60%の範囲において下塗り部よりも上塗り部の接合範囲を大きくすることにより、耐衝撃性が向上することも分かった。
【0044】
なお、上記実施の形態において、導電接合材に導電フィラーが添加されたシリコーン系樹脂接合材を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば導電フィラーが添加されたエポキシ系樹脂接合材、あるいはウレタン系樹脂接合材であってもよい。
【0045】
また、圧電振動板を保持する弾性支持体も上記実施の形態に開示した構成に限定されるものではなく、例えば図11、図12、図13に示すような弾性支持体17、18を有する構成であってもよい。図11はベースの他の構成を示す断面図であり、図12は図11の平面図であり、図13は圧電振動板を搭載した状態での平面図である。なお、キャップは図示していない。この実施形態において、弾性支持体17、18はインナーリード部15a,16aとの接合部17a、18aから一端相互に近接する方向に伸長し、その後相互に離間する方向に伸長した構成で、屈曲部17b、18bを経由して最終的に保持部17c、18cに至る構成である。
【0046】
このような構成においては、インナーリード部に接合される接合部17a,18aと保持部17c、18c間の距離を大きくとることができるので、緩衝性能に優れている。このような構成のベースを用いて、前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを導電接合材により接合し、当該導電接合材による接合領域が圧電振動板の短辺寸法に対して20〜60%の寸法範囲の構成とすることにより、より耐衝撃性に優れた圧電振動デバイスを得ることができる。
【0047】
また図13に示すように、圧電振動板に形成された電極構成が前述の実施形態と異なっており、励振電極41,42(42は図示せず)から引き出された引出電極41a,42aは短辺全長に渡って形成された構成ではなく、一部にのみ形成した構成となっている。このような構成により導電接合材が必要以上に拡がることがなく、前述の接合材形成領域を限定することができる。その結果、耐衝撃性を向上させる構成を精度よく、かつ高い生産性でもって製造することができる。なお、このような導電接合材の拡がりを防止する構成としては、部分的な引出電極の形成以外に、例えば一部電極に切り欠き(無電極部の形成)を設けること等によっても実現できる。
【0048】
なお、図13に示すように、弾性支持体の保持部の幅よりも圧電振動板の短辺寸法が大きい構成となっている。このような場合、導電接合材は圧電振動板の角部よりやや内側の前記保持部と接合できる領域塗布することになるが、ほぼ対角位置で保持することは可能である。
【0049】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水晶振動子、水晶発振器等の圧電振動デバイスの周波数調整の量産に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態を示す内部構造を示す側面図である。
【図2】図1においてキャップによる気密封止前の平面図である。
【図3】図2のA−A断面図(圧電振動板の保持部のみ表示)である。
【図4】導電接合材の圧電振動板への接合領域および接合位置を示す図である。
【図5】検証比較データを示すグラフである。
【図6】導電接合材の圧電振動板への接合領域および接合位置を示す図である。
【図7】導電接合材の圧電振動板への接合領域および接合位置を示す図である。
【図8】検証比較データを示すグラフである。
【図9】検証比較データを示すグラフである。
【図10】検証比較データを示すグラフである。
【図11】他のベース構成を示す断面図である。
【図12】図10の平面図である。
【図13】圧電振動板を搭載した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ベース
11,12、15,16 リード端子
13,14、17,18 弾性支持体
2 圧電振動板(水晶振動板)
3 キャップ
S1 下塗り部
S2 上塗り部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、ベースに設けられた複数の弾性支持体と、当該弾性支持体に導電接合材により導電接合され、表裏面に励振電極の形成された矩形状の圧電振動板とを有する圧電振動デバイスであって、
前記各弾性支持体は、ベースとの接合部と圧電振動板の保持部を有し、かつ前記圧電振動板の厚さ方向に可撓性を有する構成であり、
前記圧電振動板は長辺と短辺を有し、表面に形成された一方の励振電極を一方の短辺に導出し、裏面に形成された他方の励振電極を他方の短辺に導出した構成であり、
前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを導電接合材により接合し、当該導電接合材は前記各短辺寸法に対して20〜60%の寸法を有する接合領域を有していることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
前記接合領域は前記圧電振動板の対角位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の圧電振動デバイス。
【請求項3】
前記導電接合材は、主として圧電振動板と保持部間に配置される下塗り部と、主として圧電振動板の上面に形成される上塗り部からなることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項4】
前記下塗り部の接合領域より前記上塗り部の接合領域が大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【請求項1】
ベースと、ベースに設けられた複数の弾性支持体と、当該弾性支持体に導電接合材により導電接合され、表裏面に励振電極の形成された矩形状の圧電振動板とを有する圧電振動デバイスであって、
前記各弾性支持体は、ベースとの接合部と圧電振動板の保持部を有し、かつ前記圧電振動板の厚さ方向に可撓性を有する構成であり、
前記圧電振動板は長辺と短辺を有し、表面に形成された一方の励振電極を一方の短辺に導出し、裏面に形成された他方の励振電極を他方の短辺に導出した構成であり、
前記圧電振動板の各短辺と前記各保持部とを導電接合材により接合し、当該導電接合材は前記各短辺寸法に対して20〜60%の寸法を有する接合領域を有していることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
前記接合領域は前記圧電振動板の対角位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の圧電振動デバイス。
【請求項3】
前記導電接合材は、主として圧電振動板と保持部間に配置される下塗り部と、主として圧電振動板の上面に形成される上塗り部からなることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項4】
前記下塗り部の接合領域より前記上塗り部の接合領域が大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電振動デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−290273(P2009−290273A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137764(P2008−137764)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】
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