圧電振動デバイス
【課題】一般的な共振回路において可変リアクタンス素子や可変インダクタンス素子を使用することなく、発振周波数やフィルタの周波数特性を制御し得る共振回路、及びかかる共振回路を使用した発振回路やフィルタ等を提供する。
【解決手段】水晶振動子等の圧電振動子やコイル、コンデンサあるいはそれらと等価的な素子を組み合わせた共振回路であって、互いに共振周波数の異なる少なくとも2つの共振回路を組み合わせ、夫々の共振回路の励振電流若しくは電圧を独立に変化させると、複合共振回路全体の反共振周波数を変動させることができる現象を利用して、その周波数特性を自在に調整し得る発振回路やフィルタを構成する。
【解決手段】水晶振動子等の圧電振動子やコイル、コンデンサあるいはそれらと等価的な素子を組み合わせた共振回路であって、互いに共振周波数の異なる少なくとも2つの共振回路を組み合わせ、夫々の共振回路の励振電流若しくは電圧を独立に変化させると、複合共振回路全体の反共振周波数を変動させることができる現象を利用して、その周波数特性を自在に調整し得る発振回路やフィルタを構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば水晶振動子等の圧電振動子や、コイル、コンデンサあるいはそれらと等価的な素子を組み合わせた複合共振回路、及びこれらの回路を使用した発振回路やフィルタ等に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルやコンデンサ、あるいはそれらと等価な回路素子を組み合わせた共振回路は、各種の電子回路に使用されているが、共振周波数を制御する機能を要求される場合が多い。一般に、共振回路の周波数を制御するには、コイルのインダクタンス若しくはコンデンサの容量(キャパシタンス)を変化させるか、あるいはその両者を変化させるのが基本である。これら回路の共振現象を利用するものとしては多々存するが、電子回路において重要な回路の一つとして、発振回路やフィルタが知られている。発振回路やフィルタは、例えば、携帯電話機や各種通信機には不可欠の電子部品であり、且つ、その発振周波数やフィルタの周波数特性(通過域周波数や阻止域周波数)を制御する機能を要求される場合が多い。
【0003】
一般に、これらの発振回路やフィルタには圧電振動子が多用されている。即ち、圧電振動子の共振発振周波数は他の電子部品に比べて、経年変化が少ない上、周囲温度変化に対する周波数変動も少ない。また、圧電振動子は、その周波数短期安定度が非常に優れているため、発振回路には不可欠の部品であり電子機器等の用途には無くてはならない電子部品である。さらに、発振回路に限らずフィルタにおいても同様に、圧電材料の特質や圧電振動子の共振周波数特性は極めて有用である。
【0004】
一方、携帯電話機の周波数基準用のTCXO(温度補償水晶発振回路)や、ディジタル回路のタイミング抽出素子として数多く採用されている電圧制御圧電発振回路においては、周波数制御機能を付加するのが通常である。そのために、通常、周波数制御手段として容量可変ダイオード等のリアクタンス可変素子が使用されている。
【0005】
圧電振動子の使用周波数は数KHzから数10GHzまでの広い周波数領域に亘っているが、このような広い周波数領域において周波数信号を発生させるための圧電素子の振動姿態としては、例えば、音叉振動、屈曲振動、縦(のび)振動、輪郭すべり振動、厚みすべり振動、輪郭すべり、結合モード、及びストンリー波を含む表面波振動等が知られている。
【0006】
また、最近はSMR(Solid Mount Resonator)と呼ばれる振動子、FBAR(Film Acoustic Bulk Resonator)と呼ばれる振動子、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を使用した圧電デバイス(例えば、非特許文献1および非特許文献2)や、交叉指電極駆動ラム波のように高い周波数を志向した新しい形の振動子の提案もなされている(例えば、「弾性波素子技術ハンドブック」、日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編、オーム社、1991年発行,「弾性波デバイス技術」、日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編、オーム社、2004年発行,「特許第3400165号公報」を参照)。
【0007】
しかしながら、発振回路の周波数制御手段として用いられる容量可変ダイオードは、発振回路の低消費電力化とその小型化を阻んでいるのが実情である。
【0008】
すなわち、周波数可変範囲を大きくするためには、容量値の変化幅を大きくする必要があるが、容量可変ダイオードの変化は印加する電圧値の幅に依存するため、必然的に高い電圧値が必要となり、周波数可変範囲の拡大化と回路の低電圧化とは相反する要求である。従って、低消費電力化の為に有効な低電源電圧化と、小型化のためのIC化が両立しない要因ともなる。
【0009】
なお、低電源電圧化の為に、容量可変ダイオードとして容量の変化幅の大きい超階段型容量可変ダイオードを使用する方法があるが、この型式のダイオードは、その他の部分を含めて小型化の為にIC化しようとしたときに現在のICの生産ラインでは対応できない。従って、現在でも、当該部品を個別部品として発振回路を組み立てざるを得ないのが現状である。
【0010】
また、広い周波数範囲にわたって周波数を精密に制御する手段は、発振回路に限らずフィルタや種々の共振回路においても有用であり、容量可変ダイオードに代わる周波数制御手段が求められている。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、水晶振動子等の圧電振動子を含むが、これに限らず、一般的な共振回路において可変リアクタンス素子や可変インダクタンス素子を使用することなく、発振周波数やフィルタの周波数特性を制御し得る共振回路、及びかかる共振回路を使用した発振回路やフィルタ等を提供する。また、圧電材料を用いた発振回路やフィルタにおいて、これら圧電素子の振動姿態等で決まる周波数可変範囲の限界を越えて、広い範囲に渡って周波数変化が可能な複合共振回路を提供することも目的の一つである。
【発明の開示】
【0012】
本発明による複合共振回路は、互いに異なる共振周波数を有する少なくとも2つの共振素子と、前記共振素子に対して可変の分配割合にて電力を供給する電力分配回路とからなる複合共振回路であり、前記電力分配回路は、前記2つの共振素子に到る2つの電力供給路と、前記電力供給路に各々挿入された2つの可変減衰器若しくは2つの可変利得増幅器と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明による複合共振回路に含まれる圧電振動デバイスの一つの形態は、単一の圧電基板と、前記基板上に設けられた少なくとも3つの電極対と、2組の外部接続端子とを含み、互いに異なる2つの振動モードが個別に前記外部接続端子に現出するように、前記3つの電極対が前記2組の外部接続端子に接続されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による発振回路は、増幅器と、前記増幅器の出力端から前記増幅器の入力端に到る帰還路を形成する帰還部とを含む発振回路であって、前記帰還部は、前記出力端から前記入力端に到る正帰還路と、前記出力端から前記入力端に到る負帰還路とを有し、前記負帰還路は、前記正帰還路から回路的に独立であって、かつ互いに異なる共振周波数を有する少なくとも2つの共振素子と、前記共振素子に対して前記出力端からの電力を可変の分配割合にて供給する電力分配回路と、からなることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、少なくとも2つの共振回路を組み合わせ夫々の共振回路の励振電流若しくは電圧を独立に変化させると、複合共振回路全体の反共振周波数を変動させることができる現象を利用して発振回路やフィルタを構成するものであり、従来にない新しい原理に基づいた周波数制御方式の発振回路やフィルタを実現することができる。特に、従来、高いインピーダンスを伴うことから、実用化が試みられることの無かった反共振周波数近傍での周波数制御方式や、同方式を応用した発振回路の構成を実現する道を開いたものであると云い得る。
【0016】
即ち、本発明は具体的には、例えば、MCF(モノリシッククリスタルフィルタ)として知られるような水晶基板等の圧電基板に複数の電極を形成した構造の圧電デバイスにおいて、複数の固有振動モードを生じさせるように、従来とは基本的に異なる電極配置と、電極の極性接続を行うことによって、複数の共振周波数配列中に反共振点を生じさせ、その反共振周波数が、複数の各共振回路に流れる高周波信号の相対的レベル比に応じて変化する物理現象を利用するようにしたのである。本発明によれば、発振周波数やフィルタ周波数の特性制御に不可欠であった可変容量ダイオード等の可変リアクタンス素子が不要になるので、低電圧化や消費電流低減化に適した共振回路を提供する上で有用である。
【0017】
また、反共振周波数近傍におけるフィルタや発振回路は、そのインピーダンスが高くなるので周辺回路の抵抗成分の影響を受け難くなり、極めてQが高く、かつ発振周波数の短期安定度に優れた特性を示す。また、フィルタにおいては、極めて急峻な減衰特性を実現可能であり、しかも、そのフィルタの周波数特性を調整することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の複合共振回路の一実施例を示す電極構成図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図2の(a)乃至(f)は、本発明の実施例の説明のための固有振動モードの種類を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の複合共振回路の周波数特性測定に使用した測定回路のブロック図である。
【図4】図4は、本発明に係る複合共振回路の周波数特性の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明に係る複合共振回路の周波数特性の他の一例を示す図である。
【図6】図6の(a)乃至(c)は、本発明に係る複合共振回路の周波数特性の変化を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係る複合共振回路において、2つの減衰器の減衰量差と反共振周波数偏移との関係を示す実測値である。
【図8】図8は、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図であって、(a)は測定回路の等価ブロック図、(b)乃至(d)の各々は本発明に係る複合共振回路の等価回路の一例を示す図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図10】図10は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図11】図11の(a)、(b)は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図12】図12の(a)乃至(c)は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図13】図13の(a)乃至(f)は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図14a】図14aは、本発明に係る複合共振回路を用いた発振回路の一例を示す図である。
【図14b】図14bは、本発明に係る複合共振回路を用いた発振回路の他の一例を示す図である。
【図15】図15は、図14の回路における複合共振回路の周波数特性例を示す図である。
【図16】図16は、本発明の複合共振回路を使用した発振回路の他の実施例を示す図である。
【図17a】図17aは、本発明の複合共振回路を使用したフィルタ素子の一例を示す図である。
【図17b】図17bは、本発明の複合共振回路を使用したフィルタ素子の他の一例を示す図である。
【図18】図18は、従来の2重モードフィルタの電極構成を示す図である。
【図19】図19の(a)、(b)は、従来の2重モードフィルタの固有振動モードの種類を示す模式図である。
【図20】図20は、複合共振回路として個別振動子を用いた場合における、2つの減衰器の減衰量差と反共振周波数偏移との関係を示す実測値である。
【図21a】図21aは、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図である。
【図21b】図21bは、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図である。
【図21c】図21cは、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図である。
【図22a】図22aは、本発明に係る複合共振回路の並列容量打ち消し回路を説明するための図である。
【図22b】図22bは、本発明に係る複合共振回路の並列容量打ち消し回路を説明するための図である。
【図22c】図22cは、本発明に係る複合共振回路の並列容量打ち消し回路を説明するための図である。
【図23】図23は、図22に示す回路の周波数特性の測定結果を示す図である。
【図24a】図24aは、図22に示す並列容量打ち消し回路の理論的検証を説明するための図である。
【図24b】図24bは、図22に示す並列容量打ち消し回路の理論的検証を説明するための図である。
【図25】図25は、本発明に係る複合共振回路のTwin−T回路による実施例を示す図である。
【図26】図26は、図25の回路を用いた場合における、2つの減衰器の減衰量差と反共振周波数偏移との関係を示す実測値である。
【図27a】図27aは、図25に示す回路の理論的検証を説明するための図である。
【図27b】図27bは、図25に示す回路の理論的検証を説明するための図である。
【図27c】図27cは、図25に示す回路の理論的検証を説明するための図である。
【図28】図28は、本発明の複合共振回路を使用した発振回路の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について詳細な説明を行う。
【0020】
一般に、圧電振動子等の圧電デバイスには無数の固有振動モードが存在することはよく知られており、この固有振動モードは、性質の似た幾つかの固有振動モードの属に分類できる。これらの1つの属にはその性質を表した称呼が付せられており、例えば、屈曲(音叉振動を含む)振動、長さ縦振動、輪郭すべり振動、幅縦振動、厚みねじれ振動、厚みすべり振動、厚み縦振動、レーリー表面波振動、リーキー表面波振動、横波表面波振動、SMR振動、ストンリー波振動等の名称が知られている。
【0021】
また、これらの固有振動モード属を選択した圧電振動子等の圧電デバイスはいわゆる“構造デバイス”であるから、その構造・形状・寸法を規定すれば、如何なる材料(圧電材料や電極材料等)が使用されても、その固有振動モードの性質をより上位概念で統一的に論ずることができることは周知である。
【0022】
この1つの属の中に無数に存在する固有振動モードは“同属固有振動モード”或いは“固有振動モード属”と呼ばれる。この中の個々の固有振動モードを規定するには、“モード次数”が用いられる。このモード次数は“オーバートーン次数”や“インハーモニック・オーバートーン次数”とも称呼される。
【0023】
本発明の圧電材料を使用する複合共振器では、一つの固有振動モード属の中から少なくとも2つの固有振動モードを選択して利用するものである。この少なくとも2つの固有振動モードには、それに対応した少なくとも2つのモード次数が対応する。以下に示す実施例の説明においては、この固有振動モード属に付された称呼とモード次数を用いて話を進める。
【0024】
これらの固有振動モード属およびモード次数の両方を選択した圧電振動子等の圧電デバイスはいわゆる“構造デバイス”であるから、この圧電振動子の構造・形状および使用する材料(圧電材料や電極材料等)を決めれば完全に規定されるが、使用される材料(圧電材料や電極材料等)にかかわらず、前記“固有振動モード属”および、“モード次数”を規定すれば、その固有振動モード属の性質を利用して、より上位概念で統一的に論ずることができることは周知である。例えば、厚みすべり振動(固有振動モード属が規定)において、“基本波の最低次モード”(モード次数が規定)を使用すると決めると、圧電振動子の構造形状が完全に規定できる。
【0025】
そして更に、規定されるべきモード次数の変化に対しても、形状が変化するもののその構造概念は変わらないので、この変化に対しても更に上位概念で統一的に規定できることも周知である。例えば、厚みすべり振動において、基本波の最低次モードから高次モードへの変化に対応した圧電振動子の構造・形状の変化を統一的に規定できることも周知である。従って、1つの固有振動モード属に対応した圧電デバイスの構造を既定すれば良いことになる。
【0026】
本発明は、全ての固有振動モード属を包含する上位概念で成立する発明である。即ち、個々の圧電振動子の構造で決められる技術範囲をすべて包含した、より上位の概念で規定されるべきものである。この全ての固有振動モード属を包含した技術発明であることを説明するために、本明細書は、より具体的な固有振動モード属を選択した場合の例を、“厚みすべり振動”、“レーリー表面波振動”、“屈曲振動”の3つの実施例を述べ、これらを含めた複数の固有振動モード属へ上位概念の説明に移ると言う順序で話を進める。
図1は本発明の第1の実施例を示す図であって、厚みすべり振動を利用した場合である。因みに、本実施例は、圧電基板X1上に複数の電極1乃至8を形成したものである。一般に、このタイプの圧電デバイスには無数の固有振動モードが存在するが、圧電デバイスに一組の電極を配すると、無数の固有振動モードのうちの幾つかを選択して同時に駆動することが可能となる。所望の固有振動モードを選択するには、電極の形状そのものの対称性や圧電基板の相対位置関係と電極への印加信号の極性の対称性等を適宜選択すればよい。
【0027】
以下に示す本発明の複合共振回路の実施例は、同一基板の圧電材料(水晶基板)を使用したものでありこれを「複合共振器」と称するが、以下の例示によって説明する本発明の原理は、この例に限らず、セラミック等の他の圧電材料を使用した複合共振回路全般にわたるものである。また、かかる複合共振回路をストリップライン素子を用いて構成するようにしても良い。
【0028】
図1に示す複合共振器Re1は、円盤状の水晶圧電基板X1の一面に、夫々の一頂角を対峙させて第一電極1、第二電極2、第三電極3、第四電極4を近接配置すると共に、該圧電基板X1を挟んでその裏面に、前記第一の電極に対向する第五電極5、前記第二電極に対向する第六電極6、前記第三電極に対向する第七電極7、前記第四電極に対向する第八電極8が配置されている。また各電極には、圧電基板X1の周縁に至るリードが付され、互いに他の電極あるいは外部接続端子T1,T2,T3,T4と結線可能になっている。なお図1において、裏面電極番号は図中に(5)、(6)、(7)、(8)と表示し裏面に位置するリード等は破線にて示している。
【0029】
これらの結線の一例を説明すれば、図1に示したように、各電極は前記リード端部を介して、第一電極1と第二電極2とが共に第一端子T1に接続され、前記第五電極5と第六電極6が共に第二端子T2に接続され、前記第三電極3と前記第八電極8とが共に第三端子T3に接続され、前記第四電極4と前記第七電極7とが第四端子T4に夫々接続されている。
【0030】
すなわち、本発明による複合共振器は、以上の実施例に示す如く、同一基板上において相互の圧電的結合が独立となるように、少なくとも4対の電極をその表裏面上に配置したものであると言える。なお、スプリアス抑圧の必要上、かかる4対の電極の基板主面上における配置は、基板主面上の上下左右の各方向について対称に配置されることが望ましいが、図1に示される如く、各方向についての電極の対称性の中心点が基板の中心に一致することは必須の要件ではない。
【0031】
この実施例における各電極の寸法等の具体例を示せば、図1の圧電板X1は、直径約8mmで、厚みすべり振動周波数がほぼ10MHzのATカット円形水晶板である。また、各電極寸法は一辺が約1.5mmの正方形で、互いに約0.3mmの間隙を挟んで頂角を対峙させて圧電基板(水晶板)X1の中央部に上下左右対称になるように4組配されている。リード(引き出し線)の幅は約0.3mmであり、基板周縁部では導電性接着剤等で、外部接続端子Tと接続されている。なお、電極およびリードは、厚さが片面150nmのAgを真空蒸着法で形成したものである。
【0032】
この例に示す複合共振器Re1では、各電極の配置と共に、各電極間の接続関係に特徴がある。即ち、圧電基板X1の表面に配置した第一電極1及び第二電極2と、これらに対向する基板裏面の第五電極5及び第六電極6とが、共に夫々の面において同一端子T1、T2に接続されているのに対し、前記第三電極3は裏面の非対向電極である前記第八電極8と共に第三端子T3に接続され、且つ、前記第四電極4は裏面の非対向電極である前記第七電極7と共に第四端子T4に夫々接続されている。
【0033】
ここで、外部接続端子の各端子対に現出される振動モードの相異に鑑みて、外部接続端子の各端子対をそれぞれ正端子対及び負端子対と呼称して識別するものと仮定し、例えば、上記の端子T1−T2の端子対を正端子対と呼称した場合、端子T1に第一電極1及び第二電極2が接続され、端子T2に第五電極5及び第六電極6が接続される如く、かかる正端子対の各々の端子には表裏面の同一主面上に配置された電極同士が接続される。
【0034】
一方、正端子対とは異なる振動モードが現出される端子T3−T4の端子対は負端子対と呼称して識別子し、かかる負端子対の各々の端子には、端子T3に第三電極3及び第八電極8が接続され、端子T4に第四電極4及び第七電極7が接続される如く、異なる主面上に配置された電極同士が接続される。そして、前者の電極と端子対との結線接続を正極性の結線接続と定義し、後者の電極と端子対との結線接続を逆極性、即ち、前述の正極性の結線接続とは反対の極性の結線接続であると定義する。
【0035】
次に、本発明の基本的な考え方を明らかにすべく、従来のこの種の圧電デバイスにおける電極構造と動作の違いを説明する。
【0036】
例えば、図18に示す電極構造は、従来から知られている2重モード圧電フィルタであるが、圧電基板X1を挟んで2組の対向電極21(22)と、対向電極23(24)とがわずかな間隙を隔てて配置されており、それぞれの電極が電極引き出し線を介して外部電極41、42、及び外部電極43、44に接続されている。このように一対ずつの電極が両面に配置された構造では、このとき生ずる固有振動モードは図19(a)に示すような対象モードと、図19(b)に示すような上下に分割された反対象モードの二つとなる。また、図18に示すように、フィルタを実現するための基本的な電極数は四枚であることが知られている。これら四枚の電極枚数はこの圧電フィルタの使用状態によっては、圧電基板の片面の電極を共通化した共通電極が採用されることもあり、そのとき電極数は三枚となる。
【0037】
これに対し、前記図1に示した本発明に係る実施例の複合共振器Re1においては、同図から明らかなように、片面四枚、両面で八枚の電極数となる(なお、後述するように、一方の一部電極を共通化する場合は、片面三枚、両面で六枚となる)。即ち、本発明と、従来の圧電デバイスとは、最も基本的な構造において相違していることが理解できるであろう。
【0038】
更に、従来の圧電フィルタと本発明の複合共振器は、動作・作用の観点からも全く別のものである。即ち、従来の圧電フィルタでは、無数の固有振動モードのうち同時に励振可能な幾つかの固有振動モードを利用するもので、電極構造により一義的に決まる複数の固有振動モードを利用してフィルタ機能を得るものであるのに対し、本発明では、更に、少なくとも1組または2組の電極を配し、同時に励振可能である別個の幾つかの固有振動モードを発生させるものであって、以下に説明するように従来知られていなかった物理現象を利用するものである。
【0039】
図1に示した構造の圧電基板を用いた複合共振器Re1では、片面に4つの電極が配されているが、それぞれの電極寸法に比べて、間隙幅が0.3mmと狭いために、圧電振動的には四つの電極面全体を含む全体が一体として振動し、しかも、各電極の接続態様に起因する極性配置のために、図2に示すような複数の固有振動モードを生ずる。即ち、図2(a)乃至(f)は振動変位の大きさを2次元的に表現するために、振幅レベルを等高線で概念的に示したものである。なお、各図における円の大きさ等は模式的図であるが、圧電基板(水晶板)X1の大きさ、および縦横関係を一致させてある。
【0040】
圧電振動子においては、一般的に水晶板周辺部の変位はほとんど零であり、図中等高線の数が多い程その中心部の変位量が大きいことを示しており、例えば図2(a)では、圧電基板(水晶板)X1の中央部が一番変位の絶対値が大きいことを表し、実線と破線の違いは、変位方向が互いに逆方向であることを示している。
【0041】
図1に示した実施例では、全ての電極寸法を同じにしているので、圧電基板X1とこれらの電極の配置関係は圧電基板X1の中心線に対して互いに上下左右対称の位置に配されている。夫々の電極の極性は上述したように、図面上部の第一、第二電極及びその裏面の第五、第六電極の対と、図面下部の第三電極、第四電極及びその裏面の第七電極、第八電極の電極対との極性が異なっている。したがって、外部端子T1、T2に印加された高周波電流によって、図2(a)と図2(b)の2つの固有振動モードが効率よく励振され、外部端子T3,T4に印加される高周波電流によって、図2(c)と図2(d)に示す固有振動モードが効率よく励振される。
【0042】
即ち、図2(b)の固有振動モードは、第一電極1,第二電極2及びこれらに対向する電極5、6が圧電基板X1の中心より上部に位置しているために励振されるものであり、図2(a)は全体が順方向の変位a1で振動していることを示し、上下方向も左右方向も対称な振動変位であることを示している。図2(b)に示した破線の等高線は、実線で示した順方向の変位a1に対して変位方向が逆方向の変位a2であることを示し、左右には対称振動変位ではあるが、上下逆位相な2分割された反対称振動変位であることを示している。
【0043】
図2(c)、(d)に示す固有振動モードは左右方向には反対称の振動変位であることが特徴で、図2(c)では上下方向に対称、図2(d)は上下方向にも反対称である。これら固有振動モードには夫々に対応して固有振動周波数が存在するが、これらの固有振動周波数の絶対値や相対値(2つの固有振動周波数の間の周波数間隔)は、圧電振動子を構成する圧電基板や電極の材料定数や、それらの形状寸法に依存することは従来技術の圧電振動子と同様である。
【0044】
このように構成した複合共振器Re1の端子から見た周波数特性を、図3に示す測定回路にて測定する。この測定回路は、図1に示した複合共振器Re1の外部端子T1、T3、の夫々に減衰器ATT1、ATT2を介して周波数可変式高周波信号発生器SGから信号を供給すると共に、残りの外部端子T2、T4からの出力信号レベルをレベル測定器L1によって測定するものである。なお、複合共振器Re1は、図1に示した実施例1の水晶振動子であるが、図3ではこれを模式的に描いている。
【0045】
図4は測定結果の一例であって、図3の減衰器ATT1の減衰量を0dBにしておき、他方の減衰器ATT2の減衰量を100dBにし、SGの出力レベルは一定で、周波数を変えながらレベル測定器L1の値を測定した結果である。即ち、この状態では、レベル測定器L1に現れる信号は、減衰器ATT1からの信号が支配的となり、第一電極1および第二電極2と、圧電基板X1裏面の第五電極5および第六電極6とに起因して発生する固有振動モードの影響を受けたものとなる。
【0046】
その結果、同図4に実線で記した曲線b1のような周波数応答が観測された。この周波数応答b1には、2つの周波数f1、f2に出力レベルのピークがみられ、その共振周波数は、f1=9.82272MHz、f2=9.85290MHzであった。
【0047】
次に、減衰器ATT2の減衰量を10乃至20dB程度まで変化させると、図示は省略するが、全体的な周波数応答の曲線b1は縦軸出力レベル軸の下方に減衰量に応じて平行移動するものの、f1、f2の周波数や横軸周波数軸方向についてその形状の変化はなく、結果としてこれら2つの周波数の値にほとんど変化は見られなかった。この2つの周波数f1、f2は、図2(a)、及び(b)の振動変位を引き起こす固有振動周波数に対応するものと考えられる。
【0048】
一方、減衰器ATT2の減衰量を0dBにしておき、減衰器ATT1の減衰量を100dBにし、SGの周波数を変えながら出力レベル測定器L1の値を測定してみた所、図4に破線で記した曲線b2に示すように、2つの周波数f3、f4に出力レベルのピークがみられ、その共振周波数は、f3=9.86763MHz、f4=9.89735MHzであった。
【0049】
ここで減衰器ATT2の減衰量を10乃至20dB程度まで変化させても同様に、全体的な周波数応答の曲線b2は縦軸出力レベル軸方向に平行移動するものの、横軸周波数軸についてその形状に変化は見られなかった。この2つの周波数は、図2(c)、及び(d)に示す振動変位を引き起こす固有振動周波数に対応するものと考えられる。
【0050】
以上の結果を整理すると、減衰器ATT1の減衰量を0dBにしておき減衰器ATT2の減衰量を100dBにすると周波数f1とf2を持った曲線b1のみが観測され、減衰器ATT2の減衰量を0dBにしておき減衰器ATT1の減衰量を100dBにすると周波数f3とf4を持った曲線b2のみが観測されるという現象が明らかとなる。
【0051】
次に、減衰器ATT1と減衰器ATT2の減衰量を両方共に0dBとした場合の出力レベル周波数特性を測定したところ、図5の曲線b3に示すように、f2とf3の間に反共振周波数fpが存在することが分かる。
【0052】
本発明は、以下に詳細に説明するように、f2とf3の間に発生する反共振周波数fpが、図3の2つの減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差(相対値)に依存して変化することを示し、かかる現象を利用してその周波数特性が制御可能な共振回路を提供するものである。
【0053】
図6は、減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差によって、反共振周波数fpがf2とf3の間で連続的に変化する様子を説明するための図であり、前記図5に示した曲線b3の反共振周波数fpを挟むf2〜f3の部分を抽出して描いた図である。
【0054】
そして、図6(a)は減衰器ATT1と減衰器ATT2の減衰量に差がない場合であって、周波数応答b4にはf2とf3のほぼ中間に反共振周波数fp見られる。一方、図6(b)は減衰器ATT2の減衰量が減衰器ATT1の減衰量より大きい場合であり、反共振周波数fpはf2とf3の間であってf3に近い所にある。逆に、図6(c)は減衰器ATT1の減衰量が減衰器ATT2の減衰量より大きい場合であり、反共振周波数fpはf2とf3の間であってf2に近い所にある。
【0055】
以上の実験結果からも明らかなように、減衰器ATT1と減衰器ATT2の減衰量の差を連続的に変えると、それに応じて反共振周波数fpも連続的に変わることが分かる。
【0056】
この反共振周波数fpと、減衰器ATT1、ATT2との減衰量の差の関係を実測した例を図7に示す。縦軸は、2つの共振周波数のf2とf3うち、低い方の周波数f2を零%、高い方の周波数f3を100%として規準化した反共振周波数の値を示している。また、横軸は、2つの減衰器ATT1、ATT2の減衰量の相対関係を表している。
【0057】
即ち、両方の減衰量が等しい時を横軸の零“0”とし、横軸減衰量の負の方向は、固有振動周波数の高い方の外部端子T3、T4に接続されている減衰器ATT2の減衰量を零“0”に固定しておき、固有振動周波数の低い方の外部端子T1、T2に接続された減衰器ATT1の減衰量のみを増加させた場合である。逆に、横軸減衰量の正の方向は、固有振動周波数の低い方の外部端子T1、T2に接続された減衰器ATT1の減衰量を零“0”に固定しておき、固有振動周波数の高い方の外部端子T3、T4に接続された減衰器ATT2の減衰量のみを増加させた場合である。
【0058】
なお、図3では省略してあるが、減衰器ATT1、ATT2における減衰量の指示値と、外部端子T1及びT3への印加電圧値との間を簡単な関係にする為に、周波数可変式高周波信号発生器SGと、SGから分岐された2つの減衰器ATT1及びATT2との間に、インピーダンス整合型電力分配器を配することは従来技術と同様である。
【0059】
図7より、反共振周波数fpの値は、2つの固有モードへの励振レベル差によって、2つの固有振動周波数(f2,f3)の間隔の35%、絶対値として500ppm程度の周波数範囲まで連続して、広範囲に亘って可変し得ることが判る。
【0060】
このような反共振周波数fpの周波数可変効果は、従来技術による2つ圧電振動子Q1、及びQ2を用いても得ることができる。
【0061】
2つの圧電振動子として2つの水晶振動子を用いた場合を、前述した図3の回路を用いて説明する。図3の端子T1と端子T2の間に水晶振動子Q1を、端子T3と端子T4の間に水晶振動子Q2を各々接続する。2つの水晶振動子Q1と水晶振動子Q2の共振周波数は、それぞれ9.995200MHzと10.005116MHzである。2つの水晶振動子は、直径6.5ミリメートルの円形ATカット水晶板の中央部に、直径3ミリメートルの円形電極を銀を電極材料として真空蒸着法により形成し、その周波数低下量を約70kHzとした。それぞれの水晶振動子は、この電極付き水晶板を導電性接着剤を用いてHC−49/U保持器に導通固着接続し、乾燥窒素を封入して気密封止した構造である。
【0062】
2つの水晶振動子Q1、及びQ2が接続された図3の回路の周波数特性を測定する。この場合は、図1の実施例の場合に見られる本質的なスプリアスf1、f4が存在せず、f2とf3のみが2つの水晶振動子Q1,Q2の共振周波数に対応する。従って、この場合においても同回路の周波数特性は、図6(a)、(b)、(c)のように反共振周波数fpの値が変化する。
【0063】
次に、前述の図7に倣って、同回路における反共振周波数fpと、減衰器ATT1とATT2の減衰量の差との関係を実測した例を図20に示す。図20より、反共振周波数fpの変化は、2つの水晶振動子への励振レベル差により、2つの共振周波数(固有振動周波数)間隔の93.4%、絶対値として926ppmの周波数範囲まで連続して、広範囲に亘って変化していることが判る。
【0064】
なお、前記2つの圧電振動子は、いわゆるエネルギー閉じ込め効果のある振動モードの場合、一枚の圧電板上に間隔をあけて複数の電極を配した構造でも同様の効果があることは自明である。
【0065】
なお、前述の図7において、両方の減衰器の減衰量が等しい時、即ち、横軸“0”の時に、縦軸周波数が50%の所にないのは、複合共振器を構成する夫々の圧電振動子に並列容量があるため、そのQ値(共振先鋭度)が低いことと相俟って、図4乃至6の周波数応答曲線b1乃至b4の各々が横軸周波数に対して左右非対称となっているからであると推測される。図7で測定された圧電振動子に使用された圧電板は、ATカット水晶板上の厚みすべり振動であるので、その容量比は250程度であるから、この場合の非対称性はこの容量比に対応してこの程度であると言うことになる。
【0066】
この非対称性は、本発明の複合共振器に使用された圧電基板上と、その圧電基板に励振された固有振動モード特有の容量比(或いは電気機械結合係数)に依存し、かかる容量比が小さければ非対称性は少なくなるが、圧電振動子の並列容量を打ち消す手段を講じれば、この非対称性を軽減することもできる。
【0067】
圧電振動子の並列容量を打ち消す方法としては、本発明の複合共振器の外部端子T1、T2、および外部端子T3、T4の間に並列容量と並列共振を起こすようなインダクタンス値をもったコイルを接続しても良い。また、ブリッジバランス法により打ち消す方法、或いはコンデンサ及びコイルによるT型回路による方法を用いても良い。なお、ブリッジバランス法、或いはコンデンサ及びコイルによるT型回路による方法については、後述する発振回路の説明のところで詳細に説明する。
【0068】
図3の測定回路により、その反共振周波数fpと2つの減衰器の減衰量の差を測定すると、図7や図20の実測例のような良好な相関関係があることが示されたが、この関係を図21を用いて理論的に解析する。
【0069】
図3に示される回路は、図21(a)のように書き換えられる。即ち、図3の周波数可変式高周波信号発生器SGは、図21(a)の交流電源Eと抵抗RSに、図8のレベル測定器L1は、図21(a)の抵抗RLに書き換えられる。また、図3の複合共振器Re1は、例えば、図1に示すような複合共振器の場合、その電極構造とその結線状況から、図2に示す所望の固有モード(b)と(c)は直交関係にあるので、一枚の圧電板中に2つの固有モードが混在しているにもかかわらず、圧電振動的に独立な振動をしていると考えることができる。
【0070】
また、図20の周波数可変特性の場合には、個別の2つの圧電振動子Q1とQ2を用いているので、この場合も2つの固有モードは独立に振動している。従って、図21(a)の端子T1と端子T2の間、及び端子T3と端子T4の間の回路は、2つの独立した一般的な圧電振動子の4定数等価回路、即ち、L11、C11、r11の直列回路とC01との並列回路、及びL12、C12、r12の直列回路とC02との並列回路で表現できる。また、減衰器ATT1の出力電圧をV1,減衰器ATT2の出力電圧をV2,抵抗RLの両端の電圧をV3と定義する。
【0071】
さらに、図21(a)の回路は、図21(b)のように書き換えることができる。即ち、図21(a)の交流電源Eと抵抗RS、及び減衰器ATT1と減衰器ATT2とから構成された部分を、図21(b)の2つの交流電源e1とe2、及び2つの抵抗R1とR2書き換えることができる。ここで、2つの交流電源e1とe2、及び2つの抵抗R1とR2の値は、図21(a)と図21(b)における端子電圧V1乃至3が互いに等しくなるように設定されている。
【0072】
また、図21(a)の複合共振器Re1の2つの並列容量C01、C02は、その影響が本質的ではなく、後述する如くこの値を打ち消すことも可能であるため、図21(b)では、かかる並列容量を無視して話を進めるものとする。
【0073】
図21(b)の回路における解析の目的は、反共振周波数fpの電圧V1及びV2に対する依存性を明らかにすることである。この為には、図21(b)の回路における伝達関数の零点を求めればよい。すなわち、抵抗RLを零にして出力電流ILが零になる所を求めればよい。計算の便宜上、複合共振器の抵抗r11とr12を零とすると、図21(b)の回路は、さらに、図21(c)のように書き換えることができる。
【0074】
重畳の定理を用いて電圧V1及びV2から図21(c)の出力電流ILを求め、この時その分母が零ではないことを利用して、その伝達関数の分子が零になる点は次式で与えられる。
【0075】
【数1】
数式1の両辺をV1とV2の積の平方根で割ることにより次式が得られる。
【0076】
【数2】
数式2を角周波数ωについて解けば反共振角周波数ωpが得られる。さらに、この反共振角周波数ωpを2πで割って反共振周波数fpを求めると次のようになる。
【0077】
【数3】
そして、この数式3が反共振周波数fpと、2つの電圧V1及びV2との関係を示す周波数方程式である。
【0078】
次に、本発明の複合共振器の直感的な等価回路を求める。
【0079】
数式3の周波数方程式により、4つの等価定数には、それぞれV1の平方根とV2の平方根が乗ぜられている。従って、反共振周波数fpの電圧V1とV2に対する依存性を直感的に理解するためだけなら、図8(b)に示す等価回路が直感的で分かり易い。この図8(b)と同様にして、図8(c)、図8(d)のように拡張することができる。
図3に示した測定回路の等価回路を図8(a)に示すように表したとき、夫々の直列共振回路の等価的回路定数は、図3の減衰器ATT1の出力電圧をV1、減衰器ATT2の出力電圧をV2とすると、図8(b)の通りとなる。
【0080】
即ち、これら2つの直列共振回路の等価定数は、外部端子T1、T2から見た等価インダクタンスは、その値がL1×√(V2/V1)(インダクタンスL1にV2/V1の平方根を乗じたもの、以下同じ)および、等価容量(コンデンサ)は、その値がC1×√(V1/V2)となることを見出した。同様にして、外部端子T3、T4からみた等価インダクタンスはその値がL2×√(V1/V2)、等価容量(コンデンサ)はその値がC2×√(V2/V1)となる。
【0081】
但し、インダクタンスL1、容量(コンデンサ)C1、およびインダクタンスL2、容量(コンデンサ)C2の値は、減衰器ATT1の出力電圧V1と減衰器ATT2の出力電圧V2が等しい時の値である。
【0082】
この等価回路には、2つの直列共振回路が減衰器ATT1、ATT2を介して並列に接続されている。この2つの直列共振周波数には電圧V1、V2への依存性はない。しかし、この直列共振周波数の間には反共振周波数が存在し、その反共振周波数が2つの電圧V1とV2で変化することになり、その近似式は上記の数式3と同様に以下の通りである。
【0083】
【数35】
上述した如く、数式35の関係を等価回路で表すと、図8(b)、(c)、(d)のように表すことができる。図8(b)は、2つの直列共振回路の素子値が電圧V1、V2で変化する等価定数をもった等価回路である。この直列等価回路によれば、インダクタンス値と容量値は、電圧V1、V2の値に関して互いに逆比例(一方が減少すれば、他方が増加し、両者の積は変化しない)するから、直列共振周波数は変化しないことになり、上述した測定結果と一致する。
【0084】
また、図8(c)は、この電圧で変化する現象をトランスの変成比(V1の4乗根とV2の4乗根)で表現した回路である。但し、付随して等価抵抗R1,並列容量C01,および等価抵抗R2,並列容量C02の変化の様子も記載してある。
【0085】
さらに、図8(d)は、図1の複合共振器(水晶振動子)の電極形状や電極配置に非対称性があった場合の“もれ結合”の程度を、トランスの変成比Φ1及びΦ2で表現した回路として付け加えたものである。この回路の点線で囲んだ部分が図8(c)に加えられた部分であって、これを図8(d)に示す。この図によると、かかる変成比が0.5、即ち、50%程度の“もれ結合”があっても、反共振周波数fpの2つの電圧V1,V2に対する依存性は確保されていることがわかる。
【0086】
以上説明したように、本発明の複合共振器では、二つの共振回路に供給する信号電圧、若しくは電流の大きさ、正確には、二つの共振回路に供給する電圧/電流の大きさの比によって反共振周波数が変化する。それ故、この複合共振器を含んで発振回路を構成し、あるいはフィルタを構成して、夫々の共振回路の励振レベルを制御すれば、発振回路の出力周波数を変化させ、あるいはフィルタの周波数特性、例えば、通過帯域周波数や阻止域周波数等を制御することが可能となる。
【0087】
更に、従来の発振回路において必須とされた可変ダイオード等の可変リアクタンス素子を用いることなく周波数の制御を行うことができるので、本発明による複合共振器はIC化に適した構成と言える。
【0088】
以上に説明した実施例では、隣接する固有振動周波数を有する2つの固有振動モードを選んで、両者をほぼ独立に制御して、等価的に反共振周波数fpの周波数を制御できることを説明した。
【0089】
また、図1に示した電極構造は、例えば図9に示すように第一電極と第二電極を連結し、裏面の第五電極と第六電極とを連結したものであってもよい。これら連結した電極は共に同一極性になるように結線するので連結することができる。
【0090】
次に上記実施例に比べて不要振動を軽減することができる電極構造について説明する。その軽減方法の考え方は、図1に示した電極形状を上下方向にも対称性を持たせる手法である。図1の電極構造では、図2(a)、(b)、(c)、(d)に示す4つの固有振動モードが強勢に励振可能であったが、本発明に利用されている固有振動モードは、図2(b)と図2(c)の2つの固有振動モードのみである。即ち、図2(a)と図2(d)の固有振動モードは不要であるので、この不要な固有振動モードの励振を抑圧すれば、スプリアスを軽減することが可能となる。そのための電極構造例を図10に示す。
【0091】
図10に示す複合共振器Re2は、水晶等の圧電基板X2の一方面に夫々の頂角を対峙させて近接配置した第一電極11、第二電極12と、これら第一、第二電極の間に配置した第三電極13、第四電極14と、該圧電基板X2を挟んで基板裏面に配置した、前記第一の電極に対向する第五電極15と、前記第二電極に対向する第六電極16と、前記第三電極に対向する第七電極17と、前記第四電極に対向する第八電極18とを備えている。
【0092】
ここで、第一電極11、第二電極12、及びこれらに対向する裏面の第五電極15、第六電極16は共に長方形であり、その間に配置する第三電極13、第四電極14、それらに対向する裏面に配置する第七電極、第八電極は、スリットを介して分離された短方形電極である。これらの各電極は、第一電極11と第二電極12を第一の端子T11に接続され、第五電極15と第六電極16を第二の端子T12に接続され、第三電極13と第八電極18を第三端子T13に接続され、第四電極14と第七電極17を第四端子T14に接続されている。
【0093】
このような構成によれば、圧電基板X2両面に上部、中間部、下部夫々に3組の電極が配され、上部電極11、15と下部電極12、16は上下左右両方向に対称な形状で、その結線も同一面では同じ電位になるように接続されている。また、中間部の電極13、17、電極14,18は、上下左右方向に対称な形状ではあるが、その結線は同一面では逆電位となるように接続されている。これらの電極構造では、電極形状およびその結線状況も上下方向に対称であるので、図2(b)、(d)に示す上下方向に反対称な固有振動モードは励振されない。従って、外部端子T11、T12では図2(a)に示す固有振動モードが、外部端子T13、T14では図2(c)に示す固有振動モードが、それぞれほぼ単独に励振される。その結果、実施例1と同様に周波数可変特性が得られ、しかも、不要モードの励振が生じないか、大幅に抑圧されるから、スプリアスが低減される効果がある。
【0094】
以上、図10を用いて電極形状を上下方向にも対称性を持たせることによって、不要な固有振動モードの発生を抑圧する一つの例を説明したが、同様に上下に対称性を持たせる他の方法を説明する。図示は省略するが、図10を参照しつつ説明すると、同図上部の第一の対向電極11と裏面の15、および下部対向電極12と16を共に、同図の電極13、14、17、18のように分割し、且つ、当該中央電極13および14、裏面の17、18を夫々共通電極として連結する。この電極構成では、上下左右に対称であるので、各電極と外部端子との接続を図2(a)、(c)に示す固有振動モードのみを励振できるように接続することできる。従って、この場合にも実施例1と同様に周波数可変特性が得られ、しかも、不要モードの励振が生じないか、大幅に抑圧されるからスプリアスが低減される。なお、この場合の各電極と外部端子との接続法は図10から容易に推測できるので、その説明は省略する。
【0095】
次に、使用する固有振動モードとしてレーリー表面波振動を用いた場合を、図11(a)、(b)を用いて交叉指電極8対の場合を例示する。なお、電極対数を増減することや、電極を1電極指増加させ、それぞれの電極で対称形状とすることは従来技術の表面波デバイスと同じである。
図11(a)に示すように、圧電基板X3の一面に櫛歯状の交叉指電極31が引き出し部32に連結して形成されており、これに交差して交叉指電極33が引き出し部34に連結して形成されている。そして、各引き出し部32、34は夫々外部端子T21、T22に接続されている。また、これに並列に、第二の交叉指電極対35と37が夫々引き出し部36、38に連結して形成され、各引き出し部は外部端子T23,T24に接続されている。
【0096】
この電極構造における特徴は、上部の交叉指電極対では、各電極指の結線状況が左右方向全体に同位相周期電位となるように結線されているのに対し、下部の交叉指電極の各電極指が、電極指中央部を境にして、逆位相周期電位となるように結線されている。即ち、下部電極では左右方向の中央部の隣り合う2つの電極指が、同じ電極引き出し部に接続された形状であることが特徴である。外部端子T21、T22、及び外部端子T23、T24に供給される交流電流により励振される固有振動モードは、それぞれ、図2(a)、(b)および図2(c)、(d)である。
【0097】
図11(a)の構成は、既に説明した図1と同様に機能する。即ち、図1の例と、図11(a)の例では、共に図面上方の電極は同相になるように接続されているが、下方電極は逆相となるように接続されている。
【0098】
一方、図11(b)に示す電極構造は、上記(a)に示した二つの交叉指電極を直列方向に並べたものであり、この場合、外部端子T21、T22及び外部端子T23、T24に、供給される交流電流により励振される固有振動モードは、それぞれ、図2(a)、(c)および図2(e)、(f)である。
【0099】
そして、これらの構造によっても図2(c)と(e)とを用いて、上述した図1等の実施例の場合と同様に、反共振周波数を駆動信号レベルによって制御することが可能である。
【0100】
上述した図1、図9、並びに図10に示した電極構造では、水晶板の両面に対向電極を配して厚み振動のようなバルク波を励振した。次に、このバルク波(厚みすべり振動)を、交叉指電極を用いて励振する場合について図12(a)、(b)、(c)を用いて説明する。
【0101】
図12(a)は、ATカット水晶板X4の表面と裏面の夫々に交叉指電極が配され、夫々の電極が共通電極部を介して外部端子T31、T32、T33、T34に接続されている。そして、該基板表面には、同12図(b)に示すように左右対称に配列された交叉指電極が、反対面には、同図(c)に示すように、中央部を境にして左右逆位相となるように配列された交叉指電極が、交叉指電極対を為すように形成されている。
【0102】
図12(b)に示す電極形状は、上下左右対称で、交叉指の結線は全て同じ電位に接続されている。それ故、強勢に励振できる固有振動モードの変位形状は、上下左右対称の図2(a)である。これに対して、図12(c)に示す電極形状では、交叉指の結線は中央部で逆極性の電位に接続されているので、強勢に励振できる固有振動モードの変位形状は、上下対称で左右反対称の図2(c)である。即ち、図12に示す実施例では、図2(b)や図2(d)のような不要振動は励振され難い特徴を持つ。従って、外部端子T31、T32では図2(a)に示す固有振動モードが、外部端子T33、T34では図2(c)に示す固有振動モードが励振され、その結果、スプリアスを抑圧する効果を有する周波数可変特性保有の複合共振器を実現することができる。
【0103】
なお、図12(a)、(b)、(c)の励振用交叉指電極の周辺に、近接させ或いは所定の間隔を空けて、短絡又は開放された周期的交叉指電極や周期的溝部を配置して、所望の固有振動モードの振動エネルギを反射させて、励振された振動エネルギを励振用交叉指電極の付近に集中させるような、従来の表面波デバイス(フィルタ、振動子も含む)での特性改善手段を本発明の複合共振器に用いるようにしても良い。
【0104】
次に、両端部で支持した双音叉構造で屈曲振動を利用した場合の実施例を、図13(a)〜(f)を用いて説明する。
【0105】
図13(a)は、両持ち双音叉形状をしたXカット水晶板51の概要を示す斜視図である。水晶板自体の構造は、従来技術の双音叉構造で屈曲振動を利用した圧電振動子の場合と同じであるので、説明の便宜上、従来技術で開示されている部分から概略的に説明を始める。
【0106】
この水晶板51は、厚さが一様で長方形状の水晶板の中央部が長方形状に刳り貫かれた構造をしており、上部および下部の指部52,53と、右側および左側の端部54,55と、右と左の股部56,57とを持っている。
【0107】
次に電極配置とその結線状態について説明する。この水晶板51の上部指部52の4つの側面には、図13(b)の電極配置の概要を示す断面図に示すように、各側面のほぼ全面に電極61、61´、62、62´を配されている。そして、これらの電極は、図13(c)の電極展開図に示すように結線されている。即ち、図13(c)のように接続された4つの電極61、61´、62、62´が、図13(b)に示すように上部指部52の4つの側面に配されている。因みに、図13(a)の斜視図では、電極61と電極62は見えているが、電極61´と電極62´は上部指部52の裏側なので遮蔽されている。
【0108】
このような電極を下部指部53にも設ければ、従来から知られた音叉型屈曲振動子となり、全体として2つの外部端子に接続した水晶振動子に交流電圧を印加すると、その共振周波数近傍での振動変位が図13(a)の上下方向に変位する弦のような振動が起こることが知られている。そして、このときの上部指部52の振動変位は図13(e)に示すような形状となる。即ち、図13(a)の上部指部52の中央で変位が最大で、上部指部52の両端部即ち股部56、57付近では振動変位が最小となる。
【0109】
一方、下部指部53の振動変位は、上部指部52の振動変位とその絶対値はほぼ同じであるが、振動方向が上下逆方向となる。即ち、図13(e)の上下を逆にした変位形状である。
【0110】
本発明では、上部指部52には図13(b)、(c)に示す電極61、61´、62、62´を配し、図13(c)の電極展開図に示すように結線するが、下部指部53には、従来の音叉型振動子と異なり、図13(d)に示すように、下部指部53の中央で二つに分割された電極を配置する点に特徴がある。
【0111】
即ち、図13(d)に示すように、下部指部53には電極71、71´乃至74,74´の合計八個の電極が配置されている。かかる電極の構成を、その作用を説明する観点から整理すると、本発明に係る音叉型の複合共振器は、上部指部52の4つの側面にはほぼ全面に図13(c)に示したように電極が配されて外部端子41,42に接続され、下部指部53の4つの側面にはほぼ全面に図13(d)に示したように2分割された電極が配され、外部端子43,44に接続されている。
【0112】
この圧電振動子の外部端子41,42に交流電圧を印加した時のその共振周波数近傍での振動変位は、図13(a)に示した水晶板51の上部指部52が上下方向に変位する弦の振動のような振動が起こることが知られている。そして、このときの上部指部52の振動変位は図13(e)に示すような形状である。即ち、図13(a)の上部指部52の中央で変位が最大で、上部指部52の両端部、即ち股部56、57付近では振動変位が最小となる。そして、この振動により、水晶板51の2つの股部56、57を介して振動エネルギが流れ、下部指部53に同じ振動振幅で方向が逆な振動を引き起こす。
【0113】
一方、外部端子43、44に交流電圧を印加した時、その共振周波数近傍での振動変位は、図13(a)に示した水晶板51の下部指部53が上下方向に変位する弦のように振動することが知られている。そして、このときの下部指部53の振動変位は図13(f)に示すような形状である。この場合、水晶板51の下部指部53の中央部、及びその両端部、即ち股部56、57付近では振動変位が最小で、その中央部と端部との中間点で変位が最大となる。これは電極形状が図13(d)に示すように分割電極で、かつ同一面で隣接する電極の電気的極性が逆極性に接続されているからである。
【0114】
この場合は、水晶板51の2つの股部56,57を介して上部指部52に振動エネルギが流れ、上部指部52に同じ振幅で逆方向の振動を引き起こす。即ち、図13(f)の上下を逆にした変位形状の振動が発生する。
【0115】
以上の結果として、2つの固有振動モードが双音叉振動子全体に混在して生ずることになる。そして、これらの構造によっても前述した実施例の場合と同様に、反共振周波数を、2つの指部への励振駆動信号のレベルを調整することによって制御することが可能となる。
【0116】
以上の実施例では、使用する固有振動モードとして、厚みすべり振動のような厚み振動を利用した場合、および表面波振動、音叉縦振動を利用した場合を説明した。
【0117】
しかし、本発明の適応範囲はこれに限るものではない。即ち、屈曲振動、長さ縦振動、輪郭すべり振動、幅縦振動、厚みねじれ振動、厚み縦振動、横波表面波振動、SMR振動、及びストンリー波振動等においても、これらの波動が強勢に存在可能な振動子において、その適応が可能である。即ち、少なくとも2つの固有振動モードのうち、固有振動周波数の隣接する2つの固有振動モードをほぼ独立に駆動可能な2組の電極構造を配する手段を講ずれば、可変リアクタンス素子を必要とすることなく、本発明の2組の外部端子への駆動電圧の値の差を制御することにより、本発明の複合共振器単独で周波数を変えることが実現できると言う効果を持つ。
【0118】
以上に説明した本発明に係る圧電材料を使用した複合共振器の構造は、以下のように整理できる。即ち、圧電基板の面上に配された、電極の配列や形状が左右上下対称で、この電極の接続がこの電極全面で同じ極性に接続された電極の組と、電極の形状が左右上下対称でこの電極の接続がこの電極の中央部を境にして逆極性に接続された電極の組を配したことが特徴である。あるいは、2つの固有振動モードに対応して発生する2つの発生電荷を有効に集めるように2組の電極を配し、それぞれの電極の構造を発生した電荷が加算されるように構成した複合共振器であると云うことも出来よう。
【0119】
従って、前記複合共振器が、同一圧電基板表面に複数の電極を配置し互いに異なる固有振動モードにて励振され、夫々の固有振動モードが独立に制御されるように構成したことを特徴とする複合共振器であるとも表現することが出来る。
【0120】
次に、本発明の複合共振器を利用した発振回路の実施例について説明する。
【0121】
先ず、例示する発振回路としてT型回路を用いて反共振周波数の近傍で発振させ、2つの外部端子に印加する電圧を制御することにより、発振周波数を広い範囲にわたって連続的に可変できるように構成した発振回路について説明する。
【0122】
即ち、従来の発振回路では、使用される圧電振動子の“共振周波数”近傍で発振させることを目的にしているが、本発明の複合共振器は、本質的にはその反共振周波数を可変するように機能するので、この“反共振周波数”の近傍で発振させることを特徴とする。
【0123】
本実施例の発振回路では、複合共振器の反共振周波数の近傍で発振させるために、直列腕に2つのコンデンサを有し、シャント腕に本発明の複合共振回路を挿入したT型回路を構成してこれを増幅器に接続している。かかる回路構成は、従来の共振周波数近傍で発振させる為、直列腕に水晶振動子を有し、シャント腕に2つのコンデンサを有するπ型回路を増幅器に接続した発振回路とは全く違う構成である。
【0124】
図14(a)は、本発明にかかる複合共振器を使用した発振回路の一例を示すブロック図である。破線で囲んだ部分80が本発明による複合共振器(以下の説明では、等価的に「圧電振動子」と称する)を模式的に記したものである。外部端子T41、T42、T43、及びT44は、既に示した各実施例の外部端子と同じである。圧電振動子80の外部端子T42、T44は接地されており、外部端子T41、T43には、4つのコンデンサC1乃至C4と、2つの減衰器ATT41、及びATT42が接続されている。
【0125】
増幅器AMP41は、従来技術で使用されているトランジスタ又はその複合回路より構成されており、1つの入力端子T58と、その入力端子の位相に対して逆位相の出力となる出力端子T59と、同位相の出力となる出力端子T65とを有している。
【0126】
増幅器AMP41の逆位相出力端子T59は、T51とT54に分岐され、減衰器ATT41とATT42を経て、4つのコンデンサC1乃至C4と、本発明の圧電振動子80より構成される部分に接続され、中間タップT57で同電位に接続されている。なお、この回路ループは、増幅器AMP41についての負帰還回路ループを構成する。
【0127】
因みに、かかる負帰還回路ループは、本発明における増幅器の出力端から入力端に到る負帰還路に当たり、出力端子T59から中間タップT57に到る経路が電力分配回路を構成する。また、当該電力分配回路に含まれる中間タップT51からT57に到る経路、及び中間タップT54からT57に到る経路がそれぞれ2つの電力供給路を構成する。さらに、かかる電力供給路において、中間タップT52→T53→T57、並びに中間タップT55→T56→T57に亘る経路がそれぞれ第1電流枝路を構成し、中間タップT52とT53の中点から圧電振動子80を介して接地電位に亘る経路、並びに中間タップT55とT56の中点から圧電振動子80を介して接地電位に亘る経路がそれぞれ第2電流枝路を構成する。
【0128】
増幅器AMP41の入力端子T58には、コンデンサC11とコイルL12との直列回路の一端が接続されており同回路の他端は接地されている。また、入力端子T58には、コンデンサC9とコンデンサC10との直列回路が接続されており同回路の他端は接地されている。なお、コンデンサC9とコンデンサC10との間から抵抗R8介して、増幅器AMP41の同位相出力端子T65に接続された回路ループが設けられている。なお、この回路ループは、増幅器AMP41についての正帰還回路ループを構成している。
【0129】
因みに、かかる正帰還回路ループは、本発明における増幅器の出力端から入力端に到る正帰還路を構成する。
【0130】
なお、抵抗8の値を零としても、即ち、抵抗8を短絡しても増幅器AMP41が機能することは従来技術の発振回路の場合と同様である。
【0131】
次に、上記の正帰還回路ループの機能について説明を行う。増幅器AMP41の入力端子T58と、これと同位相の出力端子T65により構成されるコイルL12、コンデンサC11、C9、C10、及び抵抗8の回路は、従来技術のコルピッツ(クラップ)型発振回路を構成している。そして、これらの素子値が適宜設定され、さらに、増幅器AMP41の増幅率が必要十分な値であれば、同回路において発振が開始され、かつ該発振動作が持続することになる。
【0132】
そして、この場合の発振周波数は、近似的にコイルL12と、3つのコンデンサC11、C9、C10、の直列接続の合成容量との共振周波数となる。なお、本実施例では、この発振周波数を、本発明の圧電振動子80を含む回路より発現された反共振周波数の近傍に選ぶものとする。
【0133】
なお、コンデンサC11は、増幅器AMP41に印加される直流バイアスの電圧値を適正な値に設定するための直流遮断の機能を備えている。
【0134】
増幅器AMP41と帯域フィルタFIL41は、本発明の圧電振動子80が呈する反共振周波数において定常発振を持続させ得るように、発振回路全体の損失を補償する増幅率と、本発明の圧電振動子80の反共振周波数近傍で発振するような位相特性を持たせてある。なお、増幅器AMP41の出力端(中間タップ59)の出力レベルを、例えば、AGC機構等により一定にする機能を保有するようにしてもよい。
【0135】
次に、本発明にかかる複合共振回路の反共振周波数の近傍で発振させる原理を説明する。なお、中間タップ52、53及び圧電振動子の外部端子T41、T42の部分と、中間タップ55、56及び圧電振動子の外部端子T43、T44の部分とは、同じ構成なので上部半分の部分のみについて説明を行う。
【0136】
中間タップ52、53及び圧電振動子の外部端子T41、T42の部分は、いわゆるT型回路を構成している。即ち、圧電振動子の外部端子T41、T42がT型回路のシャント腕の部分に、2つのコンデンサC1,C2がT型回路の直列腕の部分に接続されている。かかる2組のT型回路を負帰還回路の要素とした回路構成によって、図15に示すようなインピーダンス反転機能を近似する効果が増幅器AMP41の増幅率と相俟って発生する。
【0137】
即ち、図14(a)の2組のT型回路を負帰還回路の要素とした回路により、前述した図5の周波数応答曲線b3を上下反転したような図15に示す周波数応答曲線b5が得られる。図15の縦軸は中間タップ65の電圧を中間タップ58に印加された電圧で除したものであり、図15の横軸は周波数を表す。
【0138】
図15において、図5の周波数応答曲線b3に対して上下反転の周波数応答が得られたのであるから、本発明の圧電振動子の反共振周波数は、従来の圧電振動子の共振周波数として機能することは明らかである。従って、かかるT型回路を負帰還回路の要素とし、所定の周波数特性を有する増幅器を接続して正帰還ループ及び負帰還ループを形成すれば発振回路を構成することができる。
【0139】
次に、圧電振動子の2つの外部端子に印加する電圧を可変して周波数連続可変とする手段について説明する。既に説明したように本発明の圧電振動子の外部端子T41、及び外部端子T43に印加する電圧を変えると、反共振周波数fpは図6に示したように変化する。図14(a)に示す発振回路ではかかる調整を、中間タップ51と中間タップ52との間、及び中間タップ54と中間タップ55との間に、減衰器ATT41及び減衰器ATT42を配して行う。
【0140】
即ち、中間タップ51における増幅器の出力を減衰器ATT41で減衰させ必要な電圧を得て、該電圧をコンデンサC1を介して圧電振動子の外部端子T41に印加する。そして、減衰器ATT41の減衰量を調整すれば、外部端子T41に印加される電圧を任意に制御できる。同様にして外部端子T43への印加電圧も、減衰器ATT42により任意に制御することができる。
【0141】
従って、2つの減衰器ATT41とATT42の各々の減衰量を制御することにより、外部端子T41およびT43に印加する電圧を任意に調節できるので、反共振周波数fpの値を図6に示した通り任意の周波数に連続的に制御可能となる。
【0142】
図14(a)の4つのコンデンサC1乃至C4は、4つのコイルや4つの抵抗、或いはそれらの組み合わせであっても同様の効果が得られる。なお、上記減衰器ATT41、ATT42の出力インピーダンスは、50Ωのものが市場で良く見受けられるが、本発明はこの値に限定されるものではなく、例えば、1Ω以下の極端に小さな値を用いることにより良好な特性が得られる。更に、かかる減衰器の構成は、内部の素子が抵抗よりなる抵抗減衰器であってもよいし、或いはコンデンサやコイルからなるリアクタンス素子を用いた減衰器であっても同様の効果を期待できる。
【0143】
本発明による発振回路は、圧電振動子80の反共振周波数fp近傍での現象を利用するものであるが、この反共振周波数の近傍では圧電振動子は高インピーダンス特性を呈するので、発振回路の実装に当たっては、圧電振動子周辺における浮遊容量の変動に注意をすることが必要である。この影響を軽減して使いやすい発振回路を実現するためには、例えば、図14(a)において、中間タップ52、53、55、56と、4つのコンデンサC1乃至C4、及び圧電振動子80を同一保持器内に実装したデバイス構造にすることが望ましい。これによって、かかる保持器の外套部分による浮遊容量変動の影響が軽減されると言う効果が期待できる。なお、上述の如く、4つのコンデンサC1乃至C4は、4つのコイルや4つの抵抗、或いはそれらの組み合わせであっても良い。
【0144】
次に、図14(a)の変形回路を図14(b)に示す。即ち、図14(b)は、図14(a)に示された回路を以下に示すプロセスによって変形した回路である。
【0145】
先ず、図14(a)の減衰器ATT1を取り外して、中間タップ51と52との間を短絡する。同様に、減衰器ATT2を取り外して、中間タップ54と55との間を短絡する。次に、圧電振動子80の外部端子42と接地電位の間に取り外した減衰器ATT1を挿入し、同様に、圧電振動子80の外部端子44と接地電位の間に取り外した減衰器ATT2を挿入する。かかる回路構成においても、減衰器ATT1及びATT2の減衰量を制御することにより、圧電振動子80の外部端子41と42、並びに外部端子43と44の間の電位差を調整できるので、圧電振動子80の反共振周波数を可変させることができる。
【0146】
次に、圧電振動子80の並列容量を打ち消した発振回路を、図16を用いて説明する。この回路は、既に説明した図14(a)の回路に、破線で囲んだ回路90、及び91を追加したものである。これらの追加回路は、両方とも同じ構成及び機能を有するので上部の回路90みを説明する。
【0147】
回路90の部分は、コンデンサC1´、C2´、C01´、及び差動増幅器AMP90とからなっている。2つのコンデンサC1´、C2´の値は、コンデンサC1,C2と同じ値に設定されている。また、コンデンサC01´の値は、圧電振動子80の外部端子T41、T42の間における並列容量C01の値とほぼ同じ値に設定されている。コンデンサC2とコンデンサC2´の出力は、中間タップT53、T53´を通って、差動増幅器AMP90の正入力端子と負入力端子に、それぞれ接続されている。
【0148】
このように設定された回路の特性は、ブリッジ・バランス現象によって、圧電振動子80の外部端子T41、T42間の並列容量C01をキャンセルした状態をつくることができる。同様にして、下部の破線で囲んだ回路91によって、外部端子T43、T44の並列容量C02をキャンセルすることができる。
【0149】
次に、圧電振動子の並列容量を打ち消す方法として、図16に示した方法とは別な方法を示す。その実施例を図22(a)を用いて説明する。
【0150】
図22(a)において、交流電源e1及び抵抗R1と負荷抵抗RLとの間に、コンデンサC1とコイルL2の直列腕の中間点に従来技術の圧電振動子Q1がシャントに接続されたT型回路が接続されている。
【0151】
同回路に使用される圧電振動子Q1は、共振周波数が9.9952MHzのHC−49/U型ATカット水晶振動子であり、その設計仕様は既に使用したものと同じである。また、コンデンサC1の公称容量値は2.5pF、コイルL2の公称インダクタンス値は27μHである。
【0152】
このT型回路における素子定数設定の条件を、図22(b)を用いて説明する。
【0153】
先ず、シャントに接続された圧電振動子Q1の並列容量の値をC01としたとき、使用周波数帯域(発振周波数帯域)において、この並列容量C01とコンデンサC1の容量値との和(C01+C1)と、コイルのインダクタンス値L2により決まる共振周波数を、使用周波数帯域内になるように設定した。更に、C01及びC1の値が小さな場合には、浮遊容量の影響も考慮して実験的にも再設定を行うことが可能である。
【0154】
図22(a)の回路の周波数特性を測定した結果を、図23に示す。横軸が測定周波数、縦軸が減衰量の絶対値である。この周波数特性は、周波数に対して対称であり、並列容量の影響が軽減されほとんど打ち消されていることが分かる。更に、この図に示す減衰量の最大値(下に凸)が、圧電振動子Q1の共振周波数9.9952MHzに一致していることから、インピーダンス反転効果も発現していることがわかる。
【0155】
なお、直列腕におけるコイルの位置はいずれでもよい。即ち、図22(c)に示すように、図22(b)のコンデンサC1の位置にコイルL1を配置し、コイルL2の位置にコンデンサC2を配置してもその効果は同じである。
【0156】
次に、この設定には一つの自由度が残っていることを指摘する。本発明ではこの自由度を活かして、圧電振動子Q1(本発明の複合共振器)の実効Q値(実効共振先鋭度)を、反共振周波数近傍において劣化させないための最適化を施す。かかる最適回路定数設定条件は以下の通りである。
【0157】
先ず、図22(b)において、シャントに接続された圧電振動子の並列容量をC01としたとき、直列腕に接続されたコンデンサC1の値を並列容量C01の値の10倍以下に設定する。このような回路素子設定条件の下では、T型回路のコンデンサC1とコイルL2からなる共振部分の共振インピーダンスが十分に大きな値となるため、シャント接続された圧電振動子Q1によるインピーダンス短絡効果が顕著に発現されることになる。
【0158】
図22(b)の回路において、水晶振動子Q1の並列容量C01とコンデンサC1の容量値との和(C01+C1)、及びコイルのインダクタンス値L2により決定される共振周波数を使用周波数帯域内になるように設定すると、並列容量打消し効果とインピーダンス反転効果が得られることが実験的に確認された。ここでは、かかる現象を、図24(a)に示す回路を用いて理論的に解析する。
【0159】
図24(a)において、交流電源e1及び抵抗R1と、負荷抵抗RLとの間にT型回路が接続されている。このT型回路では、インピーダンスZ1とインピーダンスZ2からなる直列腕の中間点に、インピーダンスZpとインピーダンスZsの並列接続回路がシャントに接続されている。因みに、インピーダンスZpは圧電振動子の並列容量部分に対応し、インピーダンスZsは圧電振動子の直列腕L11,C11,r11により発現されるインピーダンスに対応している。
【0160】
図24(a)の動作特性を解析するには、先ず、中間タップT52と中間タップT53で挟まれるT型回路の従属マトリクス要素を求めて、次に、並列容量打ち消し効果を評価するのに便利なアドミッタンス・マトリクス要素Y21を求めると良い。かかるプロセスを実行することにより次式が得られる。
【0161】
【数4】
ここで、
【0162】
【数5】
なる条件が成立すると仮定するならば、数式4は、次式のように簡単な式に書き換えることができる。
【0163】
【数6】
数式6の右辺では、L11、C11、r11からなる直列腕のインピーダンスZsのみが、分子に位置していることに着目する必要がある。
【0164】
すなわち、Zsのみが残りZpが消去されていると言うことは、並列容量C01によるインピーダンスZpが打ち消されていることを意味している。また、分子に位置しているということは、アドミタンスY21がインピーダンスZsに比例しており、さらに、インピーダンスZsが反転されてアドミタンスに変換されたことを意味している。
【0165】
次に、かかる並列容量の打消しと、インピーダンスの反転を引き起こす前提条件とされた数式5について検討する。数式5は、インピーダンスZ1、Z2に対して対称な式であるのでZ1とZ2を入れ替えても成立する。そこで、例えば、数式5をZ2について整理すると次式が得られる。
【0166】
【数7】
前述の如く、インピーダンスZpは、圧電振動子の並列容量C01に対応したインピーダンスであるので、次式で与えられる。
【0167】
【数8】
さらに、インピーダンスZ1は、容量値C1を持ったコンデンサのインピーダンス
【0168】
【数9】
であるので、数式9と数式8を数式7に代入することにより次式が得られる。
【0169】
【数10】
次に、数式10のインピーダンスZ2は、インダクタンス値L2を持ったコイルのインピーダンスであるから次式で与えられる。
【0170】
【数11】
そして、数式11を数式10に代入すると次式が成立する。
【0171】
【数12】
数式12において、共振角周波数ωが次式で与えられるときには、数式10の条件、即ち数式5の条件は完全に満たされていることになる。
【0172】
【数13】
ここで、数式13の共振角周波数を並列容量打消し共振角周波数と呼び、その記号をωcとする。並列容量打消し共振角周波数ωcの一点では、数式5の条件は完全に満たされているが、ωcの近傍でも実際には、数式5の左辺が十分零に近いと言う条件が満たされている。従って、数式4の分母の第二項は1に対して十分小さくなり数式6で近似できることになる。なお、上記理論展開の正しさは、図23に示される実測例によっても裏付けられている。
【0173】
以上で、数式10のインピーダンスZ2をコイルで実現した場合の実施例について説明を行った。次に、インピーダンスZ2を、いわゆる“負容量”として実現した場合を説明する。負容量を実現する手段は、例えば、特許第3400165号の特許文献などに開示されている。この場合、負容量の周波数依存特性と数式5右辺の周波数依存特性が同じなので、広い周波数範囲に亘って数式10を満たすことができる。
【0174】
次に、図22(a)に示したシリースに接続されたコンデンサとコイルおよびシャントに接続された本発明の複合圧電振動子(個別圧電振動子を用いた場合を含む)により構成されたT型回路を2組用いて、反共振周波数を可変した場合の実施例を、図25を用いて説明する。
【0175】
図25の回路において、本発明の複合振動子80の所には、請求項3に示した通り2つの従来技術の圧電振動子Q1、Q2をそれぞれ外部端子41と42の間、および、外部端子43と44の間に接続した。使用した圧電振動子Q1の共振周波数は9.9952MHz、圧電振動子Q2の共振周波数は10.005116MHzである。両振動子ともHC−49/U型ATカット水晶振動子であり、その設計仕様は既に使用したものと同じである。
【0176】
また、コンデンサC1とコンデンサC3の所には、それぞれ公称容量2.5pFのコンデンサを接続し、コイルL2とコイルL4の所にはそれぞれ公称インダクタンス値が27μHのコイルを接続した。
【0177】
以上に説明したT型回路の素子定数設定は、図22(b)を用いて説明した条件を、中間タップ52と中間タップ53の間(シャントに接続された水晶振動子Q1を含む)、及び中間タップ55と中間タップ56の間(シャントに接続された水晶振動子Q2を含む)に適応したものである。
【0178】
図25に示される中間タップT59と中間タップ57の間の回路を、図3と同様に、周波数可変式高周波信号発生器SGとレベル測定器L1の間に接続して、反共振周波数の偏移と、減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差との関係を実測した例を図26に示す。
図26より、反共振周波数の周波数変化は、減衰器の減衰量の差に応じて、2つの圧電振動子の共振周波数(固有振動周波数)間隔の98.6%、絶対値として978ppm程度の周波数範囲まで連続して、広範囲に亘って変わっていることが判る。
【0179】
また、この並列容量を打ち消した回路を2つ用いた回路形式においては、2つの圧電振動子の共振周波数(固有振動周波数)の間で、その中央部の周波数から両端部の共振周波数近くまで、その共振尖鋭度(実効Q値)がほぼ一定であると言う特長を有している。
図25の回路において、反共振周波数と、減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差との間に図26に示すような関係があることを実験的に明らかにした。次に、この関係を理論的に解明する。
【0180】
図25の回路において、シャントに圧電振動子80の外部端子41と外部端子42の部分を含み、中間タップT52と中間タップT53の間の素子値を用いて従属マトリクスF1の要素A1,B1,C1,D1を求めることができる。
【0181】
同様にして、図25において、シャントに圧電振動子80の外部端子43と外部端子44の部分を含み、中間タップT55と中間タップT56の間の素子値を用いて従属マトリクスF2の要素A2,B2,C2,D2を求めることができる。
【0182】
以上の解析結果を図27(a)の回路に示す。ここで、電圧V1は中間タップT52と接地間の電圧、V2は中間タップT55と接地間の電圧、V3は中間タップT57と接地間の電圧である。電圧V1及び電圧V2を可変するには、それぞれ、減衰器ATT1および減衰器ATT2を調整すればよい。
【0183】
図27(a)は、図27(b)のように書き換えることができる。ここで、Zss1は図27(a)の中間タップT52より電源側をみたインピーダンスであり、Zss2は中間タップT55より電源側をみたインピーダンスである。また、交流電源e1、e2は、それぞれ、図27(b)の中間タップT52での電圧が図27(a)の電圧V1と、図27(b)の中間タップT55での電圧が図27(a)の電圧V2と等しくなるように調整された電圧である。
【0184】
図27(b)の従属マトリクスF1、F2の部分は、テブナンの定理により各従属マトリクスの要素を用いて、図27(c)のように書き換えることができる。ここで、インピーダンスZ01,Z02は、それぞれ次式で与えられる。
【0185】
【数14】
【0186】
【数15】
また、電源電圧e01、e02は、それぞれ次式で与えられる。
【0187】
【数16】
【0188】
【数17】
ここでは、図27(b)の回路における反共振周波数と、電圧V1及びV2との関係を導き出すことが目的であるから、Zss1=0、Zss2=0として、更に、RL=0と仮定してもよい。この場合の出力電流ILは、C1=C3、並びにL2=L4であることを考慮すれば次式で与えられる。
【0189】
【数18】
ここで、V1は中間タップT52と接地間の電圧,V2は中間タップT55と接地間の電圧である。また、ZS1は圧電振動子Q1の直列腕のインピーダンス、ZS2は、圧電振動子Q2の直列腕のインピーダンスである。
【0190】
数式18は、前述の数式1と同じ形式であって、2つの直列腕のインピーダンスZS1とZS2のそれぞれに電圧V1とV2が乗ぜられている。また、同式の右辺全体に乗ぜられているC1をL2で除したものは、それ自体周波数特性を持たない一定値である。このことは、周波数可変範囲の全体に亘って良好なQ値が得られることを意味している。
【0191】
従って、この場合の反共振周波数の電圧V1、V2との関係は、前述の数式3で与えられる。実際に実験結果を見ても、図20と図26は非常に似た特性を示していることから、同じ数式3に従うことはうなずける。
【0192】
よって、外部端子T41、T42および外部端子T43、T44の間の並列容量が小さくなり、共振周波数を発現する直列腕のみの効果が顕著になる。即ち、本発明の複合共振回路を使用する上で、好ましくない並列容量の影響を軽減することが出来る。このことは、本発明の複合共振回路(圧電振動子)が、比較的インピーダンスの高い反共振周波数fp近傍の特性を利用するので、フィギュアオブメリット(圧電振動子の共振先鋭度を容量比で割ったもの)の改善効果が顕著に現れ、純度の高い発振出力が期待できる。
【0193】
以上は、2つの固有振動モードを用いた場合について説明を行ってきた。しかし、数式18を導出した経緯より、例えば、3つ以上の固有振動モードを用いて3つ以上の電圧を制御した場合でも同様の効果が得られる。
【0194】
次に、反共振周波数で直接発振する発振回路の実施例を図28を用いて説明する。
【0195】
反共振周波数で発振させるための基本的な考え方は、図25に示すT型回路を2つ組み合わせた回路において、本発明の複合共振回路(ここでは等価的に「圧電振動子」と称する)80により実現された共振先鋭度の優れた反共振周波数で、安定した発振を持続するのに必要な発振回路のループゲインを保つことである。
【0196】
図28は、本発明にかかる複合共振回路を使用した発振回路の一例を示すブロック図である。同図において、破線で囲んだ部分80が本発明の複合共振回路を模式的に記した部分である。また、増幅器AMP41は、正入力端子45(中間タップ60に接続)、負入力端子46(中間タップ61に接続)、及び正出力端子47(中間タップ63および中間タップ64に接続)を持っている。
【0197】
本実施例では、反共振周波数で発振をさせるために、以下の3つの基本的要件を具備することが必要である。
【0198】
先ず、その一つは正帰還ループに関する要件である。図28において増幅器AMP41の正出力端子47から、中間タップ63を経由して、コイルL5、コンデンサC6、抵抗R3の直列接続回路が、中間タップ60を経由して、増幅器AMP41の正入力端子45に接続されている。また、抵抗R3と中間タップ60の間から抵抗R4が接地電位に接続されている。増幅器AMP41の正出力端子47から正入力端子45までのループは正帰還ループを構成し、かかるループのループゲインが1を越えれば、周波数の可変範囲内にある所定の周波数で発振を開始する。コイルL5とコンデンサC6の値は、この2つの素子から決定される直列共振周波数が前記所定の周波数と等しくなるように設定する。一方、抵抗R3とR4の値は、この正帰還ループのループ利得を調整するのに用いられる。
【0199】
2つ目の要件は、負帰還ループに関するものである。中間タップ52と中間タップ53の間、および中間タップ55と中間タップ56の間に、それぞれ、T型回路に接続されたコイルとコンデンサと圧電振動子80の外部端子41と42、及びT型回路に接続されたコイルとコンデンサと圧電振動子80の外部端子T3とT4を接続する。
【0200】
一方、この負帰還ループを構成する圧電振動子80含む2つのT型回路の周波数特性は、図23に示されるように反共振周波数fpが発現している。従って、この回路の反共振周波数fpでのみ負帰還量を減少させて、正帰還ループのループゲインが1を超えるような状態を得ることができる。これによって、反共振周波数fpにおける発振が得られる。
【0201】
次に、3つ目の要件はDCバイアスの安定化に関するものである。増幅器AMP41の正出力端子47から中間タップT64を経由して、コイルL7とコンデンサC8の並列回路と抵抗R5の直列枝が、さらに中間タップT61を介して増幅器AMP41の負入力端子46に接続されている。また、抵抗R5と中間タップT61の間の点より抵抗R6が接地電位に接続されている。なお、コイルL7とコンデンサC8の値は、かかる2つの素子値から決定される並列共振周波数が前記所定の周波数と等しくなるように設定する。
【0202】
中間タップ61に接続されている増幅器AMP41の入力端子は、負入力端子46であるので、このループは負帰還ループを構成する。この負帰還ループでは、ループを構成するコイルL7を介して直流成分も導通するので、発振開始点から発振飽和点に至るまでの直流動作点を安定化する機能を有している。即ち、抵抗R5とR6の値は、主に直流動作点の設定および負帰還ループのループ利得の調整に用いられる。
【0203】
以上の3つの要件を具備することによって、図28に示される回路は、反共振周波数での安定した発振出力を得ることができる。
図28に示される回路の変形実施例として、その幾つかを以下に説明する。
【0204】
先ず、中間タップ62と中間タップ63の間には、リアクタンス素子に代わり、抵抗素子、或いはリアクタンス素子と共に抵抗素子を接続しても良い。
【0205】
また、増幅器AMP41としては、1つの正入力端子45のみを持ち、正出力端子47および負出力端子48(図示せず)の2つの出力端子を持ったものを用いても良い。この場合、負入力端子46と中間タップT61の間の接続を切り離し、中間タップT61と中間タップT60を短絡接続する。更に、中間タップT63と中間タップT64の間の接続を切り離し、正出力端子47を中間タップT63に、負出力端子48を中間タップT64に接続すれば良い。かかる回路によっても反共振周波数fpでの発振を得ることができる。
【0206】
以上に説明した発振回路では、圧電振動子の2つの外部端子T41、T42および外部端子T43、T44に印加する電圧値を制御するのに、増幅器の出力を一定にしておき、減衰器の減衰量を変えたが、この減衰器の部分を出力電圧制御型増幅器としても同様の効果を出すことも可能である。この出力電圧制御型増幅器の出力インピーダンスの値を、使用される圧電振動子の2つの等価抵抗(例えば、図8(a)のr1とr2)の値に比べて小さく選ぶと、本発明で着目している反共振周波数のQ値(共振先鋭度)が、回路実装動作時に劣化する程度を軽減することができる。
【0207】
更に、図16の作動増幅器AMP90、及びAMP91の入力インピーダンスの値を、使用される圧電振動子の2つの等価抵抗(例えば、図8(a)のr1とr2)の値に比べて小さく選ぶと、同様に、回路実装動作時における反共振周波数のQ値(共振先鋭度)の劣化程度を軽減することが可能となる。
【0208】
また、図16の作動増幅器AMP90、AMP91は、ブリッジバランス現象を利用しているので、減衰器ATT41、ATT42部分をプッシュプル出力型増幅器で置き換えても同様な効果を得ることができる。
【0209】
以上の説明では、発振回路等において、容量可変ダイオードのような可変リアクタンス素子を必要としない周波数可変の方法を提案して来た。しかし、本発明の圧電振動子に、従来の可変リアクタンス素子を併用することにより、更に、高い機能を発揮させることができる。
【0210】
かかる併用実施例について以下に説明を行う。例えば、容量可変ダイオードでは、その容量値が当該容量可変ダイオードに印加される電圧で変化する。これらの可変リアクタンス素子は、2端子素子なので等価的には2端子素子であるコンデンサ(容量)やコイル(インダクタンス)と同様の機能を発揮するものである。ここで、2端子素子の2つの端子をP、及びQと呼ぶものとする。
【0211】
次に、この可変リアクタンス素子を何処に接続すれば、発振回路の発振周波数が変化するかを、既に説明した図14(a)の回路を参照しながら説明する。同回路の周波数を変化させるためには、例えば、図14(a)の圧電振動子80の外部端子41、42、43、44のいずれか1つに、この可変リアクタンス素子の片側端子Pが接続されていればよい。残りの端子Qは、この可変リアクタンス素子の反対側の端子Pに接続しない限り、図14(a)のどの点に接続しても反共振周波数を変えることができる。図14(a)では、特に、圧電振動子80の外部端子41、42の点は“ホット点”と呼ばれ、この41や42の点と接地電位(アース)の間に、可変リアクタンス素子を接続すると感度良く反周波数を変えることができる。
【0212】
かかる回路構成の場合、本発明による周波数可変の手段と、可変リアクタンス素子による周波数可変手段の2つの手段を持つことになるので、無線通信システムの例ではチャンネル切替と、信号変調の2つの目的にこの2つの手段を便利に割り当てることもできる。本発明にかかる複合共振回路は、2つの直列腕の等価回路定数に電圧依存性があるので、この現象を利用すると、周波数特性を制御できる可変フィルタを実現することができる。
【0213】
図3及び図25に示した試験回路は、上述した本発明に係る圧電振動子等らよる各種の複合共振器(以下MRと称する)1つを使用して、帯域阻止フィルタの基本区間(以下BREと称する)を実現したことに他ならない。また、図14及び図28に示した発振回路では、MRを1つと4つのコンデンサを負帰還回路の構成要素として帯域通過フィルタの基本区間(BTEと称する)を実現している回路部分が含まれている。この部分を抜き出したものを図17(a)、及び(b)に示す。但し、この4つのコンデンサは、4つのコイルや4つの抵抗、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
【0214】
次に、を図17(b)を用いて、帯域通過フィルタとしての作用について説明する。図17(b)は、図25の中間タップT59と中間タップT57の間に、更に反転増幅器が並列接続された回路構成となっている。これによって、図17(b)全体としては負帰還ループが構成されている。
【0215】
図25の回路における周波数特性は、数式18より図23に示される特性と同様な反共振特性を示すが、図17(b)では、図25の回路が反転増幅器の負帰還部分を構成しているので、同回路の反共振特性に基づいて負帰還が掛けられることになる。すなわち、図17(b)の中間タップT59の電圧と中間タップT57の電圧との関係は、前述した図15の場合と同様に、その大きさの関係が逆転して、帯域通過特性を呈することになる。
【0216】
次に、既に説明した図17(b)の回路を例にとって、フィルタの電圧V1とV2を変えることによって、その周波数特性が制御可能なフィルタとして機能し得ることを説明する。図17(b)における負帰還部分の中間タップT52の対接地電位V1、及び中間タップT55の対接地電位V2を変化させると、該負帰還部分の反共振周波数は図26に示す如く、かかる両電圧比に対する依存性を有しているので、図17(b)全体としては、その通過帯域特性を電圧V1とV2により可変できることになる。
【0217】
なお、反転増幅器として演算増幅器(オペレーショナル・アンプ)や、NAND回路(反転ゲート回路)を使用するときには、例えば、図28に示した演算増幅器による回路例で言えば、その中間タップT61、中間タップT64等の各部における対接地電位の直流バイアス電圧の安定化対策が必要となる。
【0218】
また、本発明のフィルタにより高次のフィルタを構成するには、従来技術のフィルタで用いられる基本区間を従属接続する手法を用いて、前記基本区間(MREおよびMTE)を並列接続して減衰傾度を急峻にする手法を用いることができる。また、図17(b)では、フィルタの周波数を変えるのに2つの減衰器ATTI,ATT2の減衰量を制御したが、この減衰器の代わりに電子的に減衰量を制御できる従来技術の手法を利用しても良い。
【0219】
以上において、本発明を利用した周波数可変型帯域フィルタについて説明を行った。なお、圧電振動子の共振先鋭度が良好なことから、本発明により、狭帯域の帯域フィルタを広い周波数範囲に亘り変化させることによって理想的なフィルタの実現が期待できる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば水晶振動子等の圧電振動子や、コイル、コンデンサあるいはそれらと等価的な素子を組み合わせた複合共振回路、及びこれらの回路を使用した発振回路やフィルタ等に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルやコンデンサ、あるいはそれらと等価な回路素子を組み合わせた共振回路は、各種の電子回路に使用されているが、共振周波数を制御する機能を要求される場合が多い。一般に、共振回路の周波数を制御するには、コイルのインダクタンス若しくはコンデンサの容量(キャパシタンス)を変化させるか、あるいはその両者を変化させるのが基本である。これら回路の共振現象を利用するものとしては多々存するが、電子回路において重要な回路の一つとして、発振回路やフィルタが知られている。発振回路やフィルタは、例えば、携帯電話機や各種通信機には不可欠の電子部品であり、且つ、その発振周波数やフィルタの周波数特性(通過域周波数や阻止域周波数)を制御する機能を要求される場合が多い。
【0003】
一般に、これらの発振回路やフィルタには圧電振動子が多用されている。即ち、圧電振動子の共振発振周波数は他の電子部品に比べて、経年変化が少ない上、周囲温度変化に対する周波数変動も少ない。また、圧電振動子は、その周波数短期安定度が非常に優れているため、発振回路には不可欠の部品であり電子機器等の用途には無くてはならない電子部品である。さらに、発振回路に限らずフィルタにおいても同様に、圧電材料の特質や圧電振動子の共振周波数特性は極めて有用である。
【0004】
一方、携帯電話機の周波数基準用のTCXO(温度補償水晶発振回路)や、ディジタル回路のタイミング抽出素子として数多く採用されている電圧制御圧電発振回路においては、周波数制御機能を付加するのが通常である。そのために、通常、周波数制御手段として容量可変ダイオード等のリアクタンス可変素子が使用されている。
【0005】
圧電振動子の使用周波数は数KHzから数10GHzまでの広い周波数領域に亘っているが、このような広い周波数領域において周波数信号を発生させるための圧電素子の振動姿態としては、例えば、音叉振動、屈曲振動、縦(のび)振動、輪郭すべり振動、厚みすべり振動、輪郭すべり、結合モード、及びストンリー波を含む表面波振動等が知られている。
【0006】
また、最近はSMR(Solid Mount Resonator)と呼ばれる振動子、FBAR(Film Acoustic Bulk Resonator)と呼ばれる振動子、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を使用した圧電デバイス(例えば、非特許文献1および非特許文献2)や、交叉指電極駆動ラム波のように高い周波数を志向した新しい形の振動子の提案もなされている(例えば、「弾性波素子技術ハンドブック」、日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編、オーム社、1991年発行,「弾性波デバイス技術」、日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編、オーム社、2004年発行,「特許第3400165号公報」を参照)。
【0007】
しかしながら、発振回路の周波数制御手段として用いられる容量可変ダイオードは、発振回路の低消費電力化とその小型化を阻んでいるのが実情である。
【0008】
すなわち、周波数可変範囲を大きくするためには、容量値の変化幅を大きくする必要があるが、容量可変ダイオードの変化は印加する電圧値の幅に依存するため、必然的に高い電圧値が必要となり、周波数可変範囲の拡大化と回路の低電圧化とは相反する要求である。従って、低消費電力化の為に有効な低電源電圧化と、小型化のためのIC化が両立しない要因ともなる。
【0009】
なお、低電源電圧化の為に、容量可変ダイオードとして容量の変化幅の大きい超階段型容量可変ダイオードを使用する方法があるが、この型式のダイオードは、その他の部分を含めて小型化の為にIC化しようとしたときに現在のICの生産ラインでは対応できない。従って、現在でも、当該部品を個別部品として発振回路を組み立てざるを得ないのが現状である。
【0010】
また、広い周波数範囲にわたって周波数を精密に制御する手段は、発振回路に限らずフィルタや種々の共振回路においても有用であり、容量可変ダイオードに代わる周波数制御手段が求められている。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、水晶振動子等の圧電振動子を含むが、これに限らず、一般的な共振回路において可変リアクタンス素子や可変インダクタンス素子を使用することなく、発振周波数やフィルタの周波数特性を制御し得る共振回路、及びかかる共振回路を使用した発振回路やフィルタ等を提供する。また、圧電材料を用いた発振回路やフィルタにおいて、これら圧電素子の振動姿態等で決まる周波数可変範囲の限界を越えて、広い範囲に渡って周波数変化が可能な複合共振回路を提供することも目的の一つである。
【発明の開示】
【0012】
本発明による複合共振回路は、互いに異なる共振周波数を有する少なくとも2つの共振素子と、前記共振素子に対して可変の分配割合にて電力を供給する電力分配回路とからなる複合共振回路であり、前記電力分配回路は、前記2つの共振素子に到る2つの電力供給路と、前記電力供給路に各々挿入された2つの可変減衰器若しくは2つの可変利得増幅器と、を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明による複合共振回路に含まれる圧電振動デバイスの一つの形態は、単一の圧電基板と、前記基板上に設けられた少なくとも3つの電極対と、2組の外部接続端子とを含み、互いに異なる2つの振動モードが個別に前記外部接続端子に現出するように、前記3つの電極対が前記2組の外部接続端子に接続されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明による発振回路は、増幅器と、前記増幅器の出力端から前記増幅器の入力端に到る帰還路を形成する帰還部とを含む発振回路であって、前記帰還部は、前記出力端から前記入力端に到る正帰還路と、前記出力端から前記入力端に到る負帰還路とを有し、前記負帰還路は、前記正帰還路から回路的に独立であって、かつ互いに異なる共振周波数を有する少なくとも2つの共振素子と、前記共振素子に対して前記出力端からの電力を可変の分配割合にて供給する電力分配回路と、からなることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、少なくとも2つの共振回路を組み合わせ夫々の共振回路の励振電流若しくは電圧を独立に変化させると、複合共振回路全体の反共振周波数を変動させることができる現象を利用して発振回路やフィルタを構成するものであり、従来にない新しい原理に基づいた周波数制御方式の発振回路やフィルタを実現することができる。特に、従来、高いインピーダンスを伴うことから、実用化が試みられることの無かった反共振周波数近傍での周波数制御方式や、同方式を応用した発振回路の構成を実現する道を開いたものであると云い得る。
【0016】
即ち、本発明は具体的には、例えば、MCF(モノリシッククリスタルフィルタ)として知られるような水晶基板等の圧電基板に複数の電極を形成した構造の圧電デバイスにおいて、複数の固有振動モードを生じさせるように、従来とは基本的に異なる電極配置と、電極の極性接続を行うことによって、複数の共振周波数配列中に反共振点を生じさせ、その反共振周波数が、複数の各共振回路に流れる高周波信号の相対的レベル比に応じて変化する物理現象を利用するようにしたのである。本発明によれば、発振周波数やフィルタ周波数の特性制御に不可欠であった可変容量ダイオード等の可変リアクタンス素子が不要になるので、低電圧化や消費電流低減化に適した共振回路を提供する上で有用である。
【0017】
また、反共振周波数近傍におけるフィルタや発振回路は、そのインピーダンスが高くなるので周辺回路の抵抗成分の影響を受け難くなり、極めてQが高く、かつ発振周波数の短期安定度に優れた特性を示す。また、フィルタにおいては、極めて急峻な減衰特性を実現可能であり、しかも、そのフィルタの周波数特性を調整することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の複合共振回路の一実施例を示す電極構成図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図2の(a)乃至(f)は、本発明の実施例の説明のための固有振動モードの種類を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の複合共振回路の周波数特性測定に使用した測定回路のブロック図である。
【図4】図4は、本発明に係る複合共振回路の周波数特性の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明に係る複合共振回路の周波数特性の他の一例を示す図である。
【図6】図6の(a)乃至(c)は、本発明に係る複合共振回路の周波数特性の変化を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係る複合共振回路において、2つの減衰器の減衰量差と反共振周波数偏移との関係を示す実測値である。
【図8】図8は、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図であって、(a)は測定回路の等価ブロック図、(b)乃至(d)の各々は本発明に係る複合共振回路の等価回路の一例を示す図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図10】図10は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図11】図11の(a)、(b)は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図12】図12の(a)乃至(c)は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図13】図13の(a)乃至(f)は、本発明の他の実施例を示す電極/結線構成図である。
【図14a】図14aは、本発明に係る複合共振回路を用いた発振回路の一例を示す図である。
【図14b】図14bは、本発明に係る複合共振回路を用いた発振回路の他の一例を示す図である。
【図15】図15は、図14の回路における複合共振回路の周波数特性例を示す図である。
【図16】図16は、本発明の複合共振回路を使用した発振回路の他の実施例を示す図である。
【図17a】図17aは、本発明の複合共振回路を使用したフィルタ素子の一例を示す図である。
【図17b】図17bは、本発明の複合共振回路を使用したフィルタ素子の他の一例を示す図である。
【図18】図18は、従来の2重モードフィルタの電極構成を示す図である。
【図19】図19の(a)、(b)は、従来の2重モードフィルタの固有振動モードの種類を示す模式図である。
【図20】図20は、複合共振回路として個別振動子を用いた場合における、2つの減衰器の減衰量差と反共振周波数偏移との関係を示す実測値である。
【図21a】図21aは、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図である。
【図21b】図21bは、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図である。
【図21c】図21cは、本発明に係る複合共振回路の等価回路を説明するための図である。
【図22a】図22aは、本発明に係る複合共振回路の並列容量打ち消し回路を説明するための図である。
【図22b】図22bは、本発明に係る複合共振回路の並列容量打ち消し回路を説明するための図である。
【図22c】図22cは、本発明に係る複合共振回路の並列容量打ち消し回路を説明するための図である。
【図23】図23は、図22に示す回路の周波数特性の測定結果を示す図である。
【図24a】図24aは、図22に示す並列容量打ち消し回路の理論的検証を説明するための図である。
【図24b】図24bは、図22に示す並列容量打ち消し回路の理論的検証を説明するための図である。
【図25】図25は、本発明に係る複合共振回路のTwin−T回路による実施例を示す図である。
【図26】図26は、図25の回路を用いた場合における、2つの減衰器の減衰量差と反共振周波数偏移との関係を示す実測値である。
【図27a】図27aは、図25に示す回路の理論的検証を説明するための図である。
【図27b】図27bは、図25に示す回路の理論的検証を説明するための図である。
【図27c】図27cは、図25に示す回路の理論的検証を説明するための図である。
【図28】図28は、本発明の複合共振回路を使用した発振回路の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について詳細な説明を行う。
【0020】
一般に、圧電振動子等の圧電デバイスには無数の固有振動モードが存在することはよく知られており、この固有振動モードは、性質の似た幾つかの固有振動モードの属に分類できる。これらの1つの属にはその性質を表した称呼が付せられており、例えば、屈曲(音叉振動を含む)振動、長さ縦振動、輪郭すべり振動、幅縦振動、厚みねじれ振動、厚みすべり振動、厚み縦振動、レーリー表面波振動、リーキー表面波振動、横波表面波振動、SMR振動、ストンリー波振動等の名称が知られている。
【0021】
また、これらの固有振動モード属を選択した圧電振動子等の圧電デバイスはいわゆる“構造デバイス”であるから、その構造・形状・寸法を規定すれば、如何なる材料(圧電材料や電極材料等)が使用されても、その固有振動モードの性質をより上位概念で統一的に論ずることができることは周知である。
【0022】
この1つの属の中に無数に存在する固有振動モードは“同属固有振動モード”或いは“固有振動モード属”と呼ばれる。この中の個々の固有振動モードを規定するには、“モード次数”が用いられる。このモード次数は“オーバートーン次数”や“インハーモニック・オーバートーン次数”とも称呼される。
【0023】
本発明の圧電材料を使用する複合共振器では、一つの固有振動モード属の中から少なくとも2つの固有振動モードを選択して利用するものである。この少なくとも2つの固有振動モードには、それに対応した少なくとも2つのモード次数が対応する。以下に示す実施例の説明においては、この固有振動モード属に付された称呼とモード次数を用いて話を進める。
【0024】
これらの固有振動モード属およびモード次数の両方を選択した圧電振動子等の圧電デバイスはいわゆる“構造デバイス”であるから、この圧電振動子の構造・形状および使用する材料(圧電材料や電極材料等)を決めれば完全に規定されるが、使用される材料(圧電材料や電極材料等)にかかわらず、前記“固有振動モード属”および、“モード次数”を規定すれば、その固有振動モード属の性質を利用して、より上位概念で統一的に論ずることができることは周知である。例えば、厚みすべり振動(固有振動モード属が規定)において、“基本波の最低次モード”(モード次数が規定)を使用すると決めると、圧電振動子の構造形状が完全に規定できる。
【0025】
そして更に、規定されるべきモード次数の変化に対しても、形状が変化するもののその構造概念は変わらないので、この変化に対しても更に上位概念で統一的に規定できることも周知である。例えば、厚みすべり振動において、基本波の最低次モードから高次モードへの変化に対応した圧電振動子の構造・形状の変化を統一的に規定できることも周知である。従って、1つの固有振動モード属に対応した圧電デバイスの構造を既定すれば良いことになる。
【0026】
本発明は、全ての固有振動モード属を包含する上位概念で成立する発明である。即ち、個々の圧電振動子の構造で決められる技術範囲をすべて包含した、より上位の概念で規定されるべきものである。この全ての固有振動モード属を包含した技術発明であることを説明するために、本明細書は、より具体的な固有振動モード属を選択した場合の例を、“厚みすべり振動”、“レーリー表面波振動”、“屈曲振動”の3つの実施例を述べ、これらを含めた複数の固有振動モード属へ上位概念の説明に移ると言う順序で話を進める。
図1は本発明の第1の実施例を示す図であって、厚みすべり振動を利用した場合である。因みに、本実施例は、圧電基板X1上に複数の電極1乃至8を形成したものである。一般に、このタイプの圧電デバイスには無数の固有振動モードが存在するが、圧電デバイスに一組の電極を配すると、無数の固有振動モードのうちの幾つかを選択して同時に駆動することが可能となる。所望の固有振動モードを選択するには、電極の形状そのものの対称性や圧電基板の相対位置関係と電極への印加信号の極性の対称性等を適宜選択すればよい。
【0027】
以下に示す本発明の複合共振回路の実施例は、同一基板の圧電材料(水晶基板)を使用したものでありこれを「複合共振器」と称するが、以下の例示によって説明する本発明の原理は、この例に限らず、セラミック等の他の圧電材料を使用した複合共振回路全般にわたるものである。また、かかる複合共振回路をストリップライン素子を用いて構成するようにしても良い。
【0028】
図1に示す複合共振器Re1は、円盤状の水晶圧電基板X1の一面に、夫々の一頂角を対峙させて第一電極1、第二電極2、第三電極3、第四電極4を近接配置すると共に、該圧電基板X1を挟んでその裏面に、前記第一の電極に対向する第五電極5、前記第二電極に対向する第六電極6、前記第三電極に対向する第七電極7、前記第四電極に対向する第八電極8が配置されている。また各電極には、圧電基板X1の周縁に至るリードが付され、互いに他の電極あるいは外部接続端子T1,T2,T3,T4と結線可能になっている。なお図1において、裏面電極番号は図中に(5)、(6)、(7)、(8)と表示し裏面に位置するリード等は破線にて示している。
【0029】
これらの結線の一例を説明すれば、図1に示したように、各電極は前記リード端部を介して、第一電極1と第二電極2とが共に第一端子T1に接続され、前記第五電極5と第六電極6が共に第二端子T2に接続され、前記第三電極3と前記第八電極8とが共に第三端子T3に接続され、前記第四電極4と前記第七電極7とが第四端子T4に夫々接続されている。
【0030】
すなわち、本発明による複合共振器は、以上の実施例に示す如く、同一基板上において相互の圧電的結合が独立となるように、少なくとも4対の電極をその表裏面上に配置したものであると言える。なお、スプリアス抑圧の必要上、かかる4対の電極の基板主面上における配置は、基板主面上の上下左右の各方向について対称に配置されることが望ましいが、図1に示される如く、各方向についての電極の対称性の中心点が基板の中心に一致することは必須の要件ではない。
【0031】
この実施例における各電極の寸法等の具体例を示せば、図1の圧電板X1は、直径約8mmで、厚みすべり振動周波数がほぼ10MHzのATカット円形水晶板である。また、各電極寸法は一辺が約1.5mmの正方形で、互いに約0.3mmの間隙を挟んで頂角を対峙させて圧電基板(水晶板)X1の中央部に上下左右対称になるように4組配されている。リード(引き出し線)の幅は約0.3mmであり、基板周縁部では導電性接着剤等で、外部接続端子Tと接続されている。なお、電極およびリードは、厚さが片面150nmのAgを真空蒸着法で形成したものである。
【0032】
この例に示す複合共振器Re1では、各電極の配置と共に、各電極間の接続関係に特徴がある。即ち、圧電基板X1の表面に配置した第一電極1及び第二電極2と、これらに対向する基板裏面の第五電極5及び第六電極6とが、共に夫々の面において同一端子T1、T2に接続されているのに対し、前記第三電極3は裏面の非対向電極である前記第八電極8と共に第三端子T3に接続され、且つ、前記第四電極4は裏面の非対向電極である前記第七電極7と共に第四端子T4に夫々接続されている。
【0033】
ここで、外部接続端子の各端子対に現出される振動モードの相異に鑑みて、外部接続端子の各端子対をそれぞれ正端子対及び負端子対と呼称して識別するものと仮定し、例えば、上記の端子T1−T2の端子対を正端子対と呼称した場合、端子T1に第一電極1及び第二電極2が接続され、端子T2に第五電極5及び第六電極6が接続される如く、かかる正端子対の各々の端子には表裏面の同一主面上に配置された電極同士が接続される。
【0034】
一方、正端子対とは異なる振動モードが現出される端子T3−T4の端子対は負端子対と呼称して識別子し、かかる負端子対の各々の端子には、端子T3に第三電極3及び第八電極8が接続され、端子T4に第四電極4及び第七電極7が接続される如く、異なる主面上に配置された電極同士が接続される。そして、前者の電極と端子対との結線接続を正極性の結線接続と定義し、後者の電極と端子対との結線接続を逆極性、即ち、前述の正極性の結線接続とは反対の極性の結線接続であると定義する。
【0035】
次に、本発明の基本的な考え方を明らかにすべく、従来のこの種の圧電デバイスにおける電極構造と動作の違いを説明する。
【0036】
例えば、図18に示す電極構造は、従来から知られている2重モード圧電フィルタであるが、圧電基板X1を挟んで2組の対向電極21(22)と、対向電極23(24)とがわずかな間隙を隔てて配置されており、それぞれの電極が電極引き出し線を介して外部電極41、42、及び外部電極43、44に接続されている。このように一対ずつの電極が両面に配置された構造では、このとき生ずる固有振動モードは図19(a)に示すような対象モードと、図19(b)に示すような上下に分割された反対象モードの二つとなる。また、図18に示すように、フィルタを実現するための基本的な電極数は四枚であることが知られている。これら四枚の電極枚数はこの圧電フィルタの使用状態によっては、圧電基板の片面の電極を共通化した共通電極が採用されることもあり、そのとき電極数は三枚となる。
【0037】
これに対し、前記図1に示した本発明に係る実施例の複合共振器Re1においては、同図から明らかなように、片面四枚、両面で八枚の電極数となる(なお、後述するように、一方の一部電極を共通化する場合は、片面三枚、両面で六枚となる)。即ち、本発明と、従来の圧電デバイスとは、最も基本的な構造において相違していることが理解できるであろう。
【0038】
更に、従来の圧電フィルタと本発明の複合共振器は、動作・作用の観点からも全く別のものである。即ち、従来の圧電フィルタでは、無数の固有振動モードのうち同時に励振可能な幾つかの固有振動モードを利用するもので、電極構造により一義的に決まる複数の固有振動モードを利用してフィルタ機能を得るものであるのに対し、本発明では、更に、少なくとも1組または2組の電極を配し、同時に励振可能である別個の幾つかの固有振動モードを発生させるものであって、以下に説明するように従来知られていなかった物理現象を利用するものである。
【0039】
図1に示した構造の圧電基板を用いた複合共振器Re1では、片面に4つの電極が配されているが、それぞれの電極寸法に比べて、間隙幅が0.3mmと狭いために、圧電振動的には四つの電極面全体を含む全体が一体として振動し、しかも、各電極の接続態様に起因する極性配置のために、図2に示すような複数の固有振動モードを生ずる。即ち、図2(a)乃至(f)は振動変位の大きさを2次元的に表現するために、振幅レベルを等高線で概念的に示したものである。なお、各図における円の大きさ等は模式的図であるが、圧電基板(水晶板)X1の大きさ、および縦横関係を一致させてある。
【0040】
圧電振動子においては、一般的に水晶板周辺部の変位はほとんど零であり、図中等高線の数が多い程その中心部の変位量が大きいことを示しており、例えば図2(a)では、圧電基板(水晶板)X1の中央部が一番変位の絶対値が大きいことを表し、実線と破線の違いは、変位方向が互いに逆方向であることを示している。
【0041】
図1に示した実施例では、全ての電極寸法を同じにしているので、圧電基板X1とこれらの電極の配置関係は圧電基板X1の中心線に対して互いに上下左右対称の位置に配されている。夫々の電極の極性は上述したように、図面上部の第一、第二電極及びその裏面の第五、第六電極の対と、図面下部の第三電極、第四電極及びその裏面の第七電極、第八電極の電極対との極性が異なっている。したがって、外部端子T1、T2に印加された高周波電流によって、図2(a)と図2(b)の2つの固有振動モードが効率よく励振され、外部端子T3,T4に印加される高周波電流によって、図2(c)と図2(d)に示す固有振動モードが効率よく励振される。
【0042】
即ち、図2(b)の固有振動モードは、第一電極1,第二電極2及びこれらに対向する電極5、6が圧電基板X1の中心より上部に位置しているために励振されるものであり、図2(a)は全体が順方向の変位a1で振動していることを示し、上下方向も左右方向も対称な振動変位であることを示している。図2(b)に示した破線の等高線は、実線で示した順方向の変位a1に対して変位方向が逆方向の変位a2であることを示し、左右には対称振動変位ではあるが、上下逆位相な2分割された反対称振動変位であることを示している。
【0043】
図2(c)、(d)に示す固有振動モードは左右方向には反対称の振動変位であることが特徴で、図2(c)では上下方向に対称、図2(d)は上下方向にも反対称である。これら固有振動モードには夫々に対応して固有振動周波数が存在するが、これらの固有振動周波数の絶対値や相対値(2つの固有振動周波数の間の周波数間隔)は、圧電振動子を構成する圧電基板や電極の材料定数や、それらの形状寸法に依存することは従来技術の圧電振動子と同様である。
【0044】
このように構成した複合共振器Re1の端子から見た周波数特性を、図3に示す測定回路にて測定する。この測定回路は、図1に示した複合共振器Re1の外部端子T1、T3、の夫々に減衰器ATT1、ATT2を介して周波数可変式高周波信号発生器SGから信号を供給すると共に、残りの外部端子T2、T4からの出力信号レベルをレベル測定器L1によって測定するものである。なお、複合共振器Re1は、図1に示した実施例1の水晶振動子であるが、図3ではこれを模式的に描いている。
【0045】
図4は測定結果の一例であって、図3の減衰器ATT1の減衰量を0dBにしておき、他方の減衰器ATT2の減衰量を100dBにし、SGの出力レベルは一定で、周波数を変えながらレベル測定器L1の値を測定した結果である。即ち、この状態では、レベル測定器L1に現れる信号は、減衰器ATT1からの信号が支配的となり、第一電極1および第二電極2と、圧電基板X1裏面の第五電極5および第六電極6とに起因して発生する固有振動モードの影響を受けたものとなる。
【0046】
その結果、同図4に実線で記した曲線b1のような周波数応答が観測された。この周波数応答b1には、2つの周波数f1、f2に出力レベルのピークがみられ、その共振周波数は、f1=9.82272MHz、f2=9.85290MHzであった。
【0047】
次に、減衰器ATT2の減衰量を10乃至20dB程度まで変化させると、図示は省略するが、全体的な周波数応答の曲線b1は縦軸出力レベル軸の下方に減衰量に応じて平行移動するものの、f1、f2の周波数や横軸周波数軸方向についてその形状の変化はなく、結果としてこれら2つの周波数の値にほとんど変化は見られなかった。この2つの周波数f1、f2は、図2(a)、及び(b)の振動変位を引き起こす固有振動周波数に対応するものと考えられる。
【0048】
一方、減衰器ATT2の減衰量を0dBにしておき、減衰器ATT1の減衰量を100dBにし、SGの周波数を変えながら出力レベル測定器L1の値を測定してみた所、図4に破線で記した曲線b2に示すように、2つの周波数f3、f4に出力レベルのピークがみられ、その共振周波数は、f3=9.86763MHz、f4=9.89735MHzであった。
【0049】
ここで減衰器ATT2の減衰量を10乃至20dB程度まで変化させても同様に、全体的な周波数応答の曲線b2は縦軸出力レベル軸方向に平行移動するものの、横軸周波数軸についてその形状に変化は見られなかった。この2つの周波数は、図2(c)、及び(d)に示す振動変位を引き起こす固有振動周波数に対応するものと考えられる。
【0050】
以上の結果を整理すると、減衰器ATT1の減衰量を0dBにしておき減衰器ATT2の減衰量を100dBにすると周波数f1とf2を持った曲線b1のみが観測され、減衰器ATT2の減衰量を0dBにしておき減衰器ATT1の減衰量を100dBにすると周波数f3とf4を持った曲線b2のみが観測されるという現象が明らかとなる。
【0051】
次に、減衰器ATT1と減衰器ATT2の減衰量を両方共に0dBとした場合の出力レベル周波数特性を測定したところ、図5の曲線b3に示すように、f2とf3の間に反共振周波数fpが存在することが分かる。
【0052】
本発明は、以下に詳細に説明するように、f2とf3の間に発生する反共振周波数fpが、図3の2つの減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差(相対値)に依存して変化することを示し、かかる現象を利用してその周波数特性が制御可能な共振回路を提供するものである。
【0053】
図6は、減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差によって、反共振周波数fpがf2とf3の間で連続的に変化する様子を説明するための図であり、前記図5に示した曲線b3の反共振周波数fpを挟むf2〜f3の部分を抽出して描いた図である。
【0054】
そして、図6(a)は減衰器ATT1と減衰器ATT2の減衰量に差がない場合であって、周波数応答b4にはf2とf3のほぼ中間に反共振周波数fp見られる。一方、図6(b)は減衰器ATT2の減衰量が減衰器ATT1の減衰量より大きい場合であり、反共振周波数fpはf2とf3の間であってf3に近い所にある。逆に、図6(c)は減衰器ATT1の減衰量が減衰器ATT2の減衰量より大きい場合であり、反共振周波数fpはf2とf3の間であってf2に近い所にある。
【0055】
以上の実験結果からも明らかなように、減衰器ATT1と減衰器ATT2の減衰量の差を連続的に変えると、それに応じて反共振周波数fpも連続的に変わることが分かる。
【0056】
この反共振周波数fpと、減衰器ATT1、ATT2との減衰量の差の関係を実測した例を図7に示す。縦軸は、2つの共振周波数のf2とf3うち、低い方の周波数f2を零%、高い方の周波数f3を100%として規準化した反共振周波数の値を示している。また、横軸は、2つの減衰器ATT1、ATT2の減衰量の相対関係を表している。
【0057】
即ち、両方の減衰量が等しい時を横軸の零“0”とし、横軸減衰量の負の方向は、固有振動周波数の高い方の外部端子T3、T4に接続されている減衰器ATT2の減衰量を零“0”に固定しておき、固有振動周波数の低い方の外部端子T1、T2に接続された減衰器ATT1の減衰量のみを増加させた場合である。逆に、横軸減衰量の正の方向は、固有振動周波数の低い方の外部端子T1、T2に接続された減衰器ATT1の減衰量を零“0”に固定しておき、固有振動周波数の高い方の外部端子T3、T4に接続された減衰器ATT2の減衰量のみを増加させた場合である。
【0058】
なお、図3では省略してあるが、減衰器ATT1、ATT2における減衰量の指示値と、外部端子T1及びT3への印加電圧値との間を簡単な関係にする為に、周波数可変式高周波信号発生器SGと、SGから分岐された2つの減衰器ATT1及びATT2との間に、インピーダンス整合型電力分配器を配することは従来技術と同様である。
【0059】
図7より、反共振周波数fpの値は、2つの固有モードへの励振レベル差によって、2つの固有振動周波数(f2,f3)の間隔の35%、絶対値として500ppm程度の周波数範囲まで連続して、広範囲に亘って可変し得ることが判る。
【0060】
このような反共振周波数fpの周波数可変効果は、従来技術による2つ圧電振動子Q1、及びQ2を用いても得ることができる。
【0061】
2つの圧電振動子として2つの水晶振動子を用いた場合を、前述した図3の回路を用いて説明する。図3の端子T1と端子T2の間に水晶振動子Q1を、端子T3と端子T4の間に水晶振動子Q2を各々接続する。2つの水晶振動子Q1と水晶振動子Q2の共振周波数は、それぞれ9.995200MHzと10.005116MHzである。2つの水晶振動子は、直径6.5ミリメートルの円形ATカット水晶板の中央部に、直径3ミリメートルの円形電極を銀を電極材料として真空蒸着法により形成し、その周波数低下量を約70kHzとした。それぞれの水晶振動子は、この電極付き水晶板を導電性接着剤を用いてHC−49/U保持器に導通固着接続し、乾燥窒素を封入して気密封止した構造である。
【0062】
2つの水晶振動子Q1、及びQ2が接続された図3の回路の周波数特性を測定する。この場合は、図1の実施例の場合に見られる本質的なスプリアスf1、f4が存在せず、f2とf3のみが2つの水晶振動子Q1,Q2の共振周波数に対応する。従って、この場合においても同回路の周波数特性は、図6(a)、(b)、(c)のように反共振周波数fpの値が変化する。
【0063】
次に、前述の図7に倣って、同回路における反共振周波数fpと、減衰器ATT1とATT2の減衰量の差との関係を実測した例を図20に示す。図20より、反共振周波数fpの変化は、2つの水晶振動子への励振レベル差により、2つの共振周波数(固有振動周波数)間隔の93.4%、絶対値として926ppmの周波数範囲まで連続して、広範囲に亘って変化していることが判る。
【0064】
なお、前記2つの圧電振動子は、いわゆるエネルギー閉じ込め効果のある振動モードの場合、一枚の圧電板上に間隔をあけて複数の電極を配した構造でも同様の効果があることは自明である。
【0065】
なお、前述の図7において、両方の減衰器の減衰量が等しい時、即ち、横軸“0”の時に、縦軸周波数が50%の所にないのは、複合共振器を構成する夫々の圧電振動子に並列容量があるため、そのQ値(共振先鋭度)が低いことと相俟って、図4乃至6の周波数応答曲線b1乃至b4の各々が横軸周波数に対して左右非対称となっているからであると推測される。図7で測定された圧電振動子に使用された圧電板は、ATカット水晶板上の厚みすべり振動であるので、その容量比は250程度であるから、この場合の非対称性はこの容量比に対応してこの程度であると言うことになる。
【0066】
この非対称性は、本発明の複合共振器に使用された圧電基板上と、その圧電基板に励振された固有振動モード特有の容量比(或いは電気機械結合係数)に依存し、かかる容量比が小さければ非対称性は少なくなるが、圧電振動子の並列容量を打ち消す手段を講じれば、この非対称性を軽減することもできる。
【0067】
圧電振動子の並列容量を打ち消す方法としては、本発明の複合共振器の外部端子T1、T2、および外部端子T3、T4の間に並列容量と並列共振を起こすようなインダクタンス値をもったコイルを接続しても良い。また、ブリッジバランス法により打ち消す方法、或いはコンデンサ及びコイルによるT型回路による方法を用いても良い。なお、ブリッジバランス法、或いはコンデンサ及びコイルによるT型回路による方法については、後述する発振回路の説明のところで詳細に説明する。
【0068】
図3の測定回路により、その反共振周波数fpと2つの減衰器の減衰量の差を測定すると、図7や図20の実測例のような良好な相関関係があることが示されたが、この関係を図21を用いて理論的に解析する。
【0069】
図3に示される回路は、図21(a)のように書き換えられる。即ち、図3の周波数可変式高周波信号発生器SGは、図21(a)の交流電源Eと抵抗RSに、図8のレベル測定器L1は、図21(a)の抵抗RLに書き換えられる。また、図3の複合共振器Re1は、例えば、図1に示すような複合共振器の場合、その電極構造とその結線状況から、図2に示す所望の固有モード(b)と(c)は直交関係にあるので、一枚の圧電板中に2つの固有モードが混在しているにもかかわらず、圧電振動的に独立な振動をしていると考えることができる。
【0070】
また、図20の周波数可変特性の場合には、個別の2つの圧電振動子Q1とQ2を用いているので、この場合も2つの固有モードは独立に振動している。従って、図21(a)の端子T1と端子T2の間、及び端子T3と端子T4の間の回路は、2つの独立した一般的な圧電振動子の4定数等価回路、即ち、L11、C11、r11の直列回路とC01との並列回路、及びL12、C12、r12の直列回路とC02との並列回路で表現できる。また、減衰器ATT1の出力電圧をV1,減衰器ATT2の出力電圧をV2,抵抗RLの両端の電圧をV3と定義する。
【0071】
さらに、図21(a)の回路は、図21(b)のように書き換えることができる。即ち、図21(a)の交流電源Eと抵抗RS、及び減衰器ATT1と減衰器ATT2とから構成された部分を、図21(b)の2つの交流電源e1とe2、及び2つの抵抗R1とR2書き換えることができる。ここで、2つの交流電源e1とe2、及び2つの抵抗R1とR2の値は、図21(a)と図21(b)における端子電圧V1乃至3が互いに等しくなるように設定されている。
【0072】
また、図21(a)の複合共振器Re1の2つの並列容量C01、C02は、その影響が本質的ではなく、後述する如くこの値を打ち消すことも可能であるため、図21(b)では、かかる並列容量を無視して話を進めるものとする。
【0073】
図21(b)の回路における解析の目的は、反共振周波数fpの電圧V1及びV2に対する依存性を明らかにすることである。この為には、図21(b)の回路における伝達関数の零点を求めればよい。すなわち、抵抗RLを零にして出力電流ILが零になる所を求めればよい。計算の便宜上、複合共振器の抵抗r11とr12を零とすると、図21(b)の回路は、さらに、図21(c)のように書き換えることができる。
【0074】
重畳の定理を用いて電圧V1及びV2から図21(c)の出力電流ILを求め、この時その分母が零ではないことを利用して、その伝達関数の分子が零になる点は次式で与えられる。
【0075】
【数1】
数式1の両辺をV1とV2の積の平方根で割ることにより次式が得られる。
【0076】
【数2】
数式2を角周波数ωについて解けば反共振角周波数ωpが得られる。さらに、この反共振角周波数ωpを2πで割って反共振周波数fpを求めると次のようになる。
【0077】
【数3】
そして、この数式3が反共振周波数fpと、2つの電圧V1及びV2との関係を示す周波数方程式である。
【0078】
次に、本発明の複合共振器の直感的な等価回路を求める。
【0079】
数式3の周波数方程式により、4つの等価定数には、それぞれV1の平方根とV2の平方根が乗ぜられている。従って、反共振周波数fpの電圧V1とV2に対する依存性を直感的に理解するためだけなら、図8(b)に示す等価回路が直感的で分かり易い。この図8(b)と同様にして、図8(c)、図8(d)のように拡張することができる。
図3に示した測定回路の等価回路を図8(a)に示すように表したとき、夫々の直列共振回路の等価的回路定数は、図3の減衰器ATT1の出力電圧をV1、減衰器ATT2の出力電圧をV2とすると、図8(b)の通りとなる。
【0080】
即ち、これら2つの直列共振回路の等価定数は、外部端子T1、T2から見た等価インダクタンスは、その値がL1×√(V2/V1)(インダクタンスL1にV2/V1の平方根を乗じたもの、以下同じ)および、等価容量(コンデンサ)は、その値がC1×√(V1/V2)となることを見出した。同様にして、外部端子T3、T4からみた等価インダクタンスはその値がL2×√(V1/V2)、等価容量(コンデンサ)はその値がC2×√(V2/V1)となる。
【0081】
但し、インダクタンスL1、容量(コンデンサ)C1、およびインダクタンスL2、容量(コンデンサ)C2の値は、減衰器ATT1の出力電圧V1と減衰器ATT2の出力電圧V2が等しい時の値である。
【0082】
この等価回路には、2つの直列共振回路が減衰器ATT1、ATT2を介して並列に接続されている。この2つの直列共振周波数には電圧V1、V2への依存性はない。しかし、この直列共振周波数の間には反共振周波数が存在し、その反共振周波数が2つの電圧V1とV2で変化することになり、その近似式は上記の数式3と同様に以下の通りである。
【0083】
【数35】
上述した如く、数式35の関係を等価回路で表すと、図8(b)、(c)、(d)のように表すことができる。図8(b)は、2つの直列共振回路の素子値が電圧V1、V2で変化する等価定数をもった等価回路である。この直列等価回路によれば、インダクタンス値と容量値は、電圧V1、V2の値に関して互いに逆比例(一方が減少すれば、他方が増加し、両者の積は変化しない)するから、直列共振周波数は変化しないことになり、上述した測定結果と一致する。
【0084】
また、図8(c)は、この電圧で変化する現象をトランスの変成比(V1の4乗根とV2の4乗根)で表現した回路である。但し、付随して等価抵抗R1,並列容量C01,および等価抵抗R2,並列容量C02の変化の様子も記載してある。
【0085】
さらに、図8(d)は、図1の複合共振器(水晶振動子)の電極形状や電極配置に非対称性があった場合の“もれ結合”の程度を、トランスの変成比Φ1及びΦ2で表現した回路として付け加えたものである。この回路の点線で囲んだ部分が図8(c)に加えられた部分であって、これを図8(d)に示す。この図によると、かかる変成比が0.5、即ち、50%程度の“もれ結合”があっても、反共振周波数fpの2つの電圧V1,V2に対する依存性は確保されていることがわかる。
【0086】
以上説明したように、本発明の複合共振器では、二つの共振回路に供給する信号電圧、若しくは電流の大きさ、正確には、二つの共振回路に供給する電圧/電流の大きさの比によって反共振周波数が変化する。それ故、この複合共振器を含んで発振回路を構成し、あるいはフィルタを構成して、夫々の共振回路の励振レベルを制御すれば、発振回路の出力周波数を変化させ、あるいはフィルタの周波数特性、例えば、通過帯域周波数や阻止域周波数等を制御することが可能となる。
【0087】
更に、従来の発振回路において必須とされた可変ダイオード等の可変リアクタンス素子を用いることなく周波数の制御を行うことができるので、本発明による複合共振器はIC化に適した構成と言える。
【0088】
以上に説明した実施例では、隣接する固有振動周波数を有する2つの固有振動モードを選んで、両者をほぼ独立に制御して、等価的に反共振周波数fpの周波数を制御できることを説明した。
【0089】
また、図1に示した電極構造は、例えば図9に示すように第一電極と第二電極を連結し、裏面の第五電極と第六電極とを連結したものであってもよい。これら連結した電極は共に同一極性になるように結線するので連結することができる。
【0090】
次に上記実施例に比べて不要振動を軽減することができる電極構造について説明する。その軽減方法の考え方は、図1に示した電極形状を上下方向にも対称性を持たせる手法である。図1の電極構造では、図2(a)、(b)、(c)、(d)に示す4つの固有振動モードが強勢に励振可能であったが、本発明に利用されている固有振動モードは、図2(b)と図2(c)の2つの固有振動モードのみである。即ち、図2(a)と図2(d)の固有振動モードは不要であるので、この不要な固有振動モードの励振を抑圧すれば、スプリアスを軽減することが可能となる。そのための電極構造例を図10に示す。
【0091】
図10に示す複合共振器Re2は、水晶等の圧電基板X2の一方面に夫々の頂角を対峙させて近接配置した第一電極11、第二電極12と、これら第一、第二電極の間に配置した第三電極13、第四電極14と、該圧電基板X2を挟んで基板裏面に配置した、前記第一の電極に対向する第五電極15と、前記第二電極に対向する第六電極16と、前記第三電極に対向する第七電極17と、前記第四電極に対向する第八電極18とを備えている。
【0092】
ここで、第一電極11、第二電極12、及びこれらに対向する裏面の第五電極15、第六電極16は共に長方形であり、その間に配置する第三電極13、第四電極14、それらに対向する裏面に配置する第七電極、第八電極は、スリットを介して分離された短方形電極である。これらの各電極は、第一電極11と第二電極12を第一の端子T11に接続され、第五電極15と第六電極16を第二の端子T12に接続され、第三電極13と第八電極18を第三端子T13に接続され、第四電極14と第七電極17を第四端子T14に接続されている。
【0093】
このような構成によれば、圧電基板X2両面に上部、中間部、下部夫々に3組の電極が配され、上部電極11、15と下部電極12、16は上下左右両方向に対称な形状で、その結線も同一面では同じ電位になるように接続されている。また、中間部の電極13、17、電極14,18は、上下左右方向に対称な形状ではあるが、その結線は同一面では逆電位となるように接続されている。これらの電極構造では、電極形状およびその結線状況も上下方向に対称であるので、図2(b)、(d)に示す上下方向に反対称な固有振動モードは励振されない。従って、外部端子T11、T12では図2(a)に示す固有振動モードが、外部端子T13、T14では図2(c)に示す固有振動モードが、それぞれほぼ単独に励振される。その結果、実施例1と同様に周波数可変特性が得られ、しかも、不要モードの励振が生じないか、大幅に抑圧されるから、スプリアスが低減される効果がある。
【0094】
以上、図10を用いて電極形状を上下方向にも対称性を持たせることによって、不要な固有振動モードの発生を抑圧する一つの例を説明したが、同様に上下に対称性を持たせる他の方法を説明する。図示は省略するが、図10を参照しつつ説明すると、同図上部の第一の対向電極11と裏面の15、および下部対向電極12と16を共に、同図の電極13、14、17、18のように分割し、且つ、当該中央電極13および14、裏面の17、18を夫々共通電極として連結する。この電極構成では、上下左右に対称であるので、各電極と外部端子との接続を図2(a)、(c)に示す固有振動モードのみを励振できるように接続することできる。従って、この場合にも実施例1と同様に周波数可変特性が得られ、しかも、不要モードの励振が生じないか、大幅に抑圧されるからスプリアスが低減される。なお、この場合の各電極と外部端子との接続法は図10から容易に推測できるので、その説明は省略する。
【0095】
次に、使用する固有振動モードとしてレーリー表面波振動を用いた場合を、図11(a)、(b)を用いて交叉指電極8対の場合を例示する。なお、電極対数を増減することや、電極を1電極指増加させ、それぞれの電極で対称形状とすることは従来技術の表面波デバイスと同じである。
図11(a)に示すように、圧電基板X3の一面に櫛歯状の交叉指電極31が引き出し部32に連結して形成されており、これに交差して交叉指電極33が引き出し部34に連結して形成されている。そして、各引き出し部32、34は夫々外部端子T21、T22に接続されている。また、これに並列に、第二の交叉指電極対35と37が夫々引き出し部36、38に連結して形成され、各引き出し部は外部端子T23,T24に接続されている。
【0096】
この電極構造における特徴は、上部の交叉指電極対では、各電極指の結線状況が左右方向全体に同位相周期電位となるように結線されているのに対し、下部の交叉指電極の各電極指が、電極指中央部を境にして、逆位相周期電位となるように結線されている。即ち、下部電極では左右方向の中央部の隣り合う2つの電極指が、同じ電極引き出し部に接続された形状であることが特徴である。外部端子T21、T22、及び外部端子T23、T24に供給される交流電流により励振される固有振動モードは、それぞれ、図2(a)、(b)および図2(c)、(d)である。
【0097】
図11(a)の構成は、既に説明した図1と同様に機能する。即ち、図1の例と、図11(a)の例では、共に図面上方の電極は同相になるように接続されているが、下方電極は逆相となるように接続されている。
【0098】
一方、図11(b)に示す電極構造は、上記(a)に示した二つの交叉指電極を直列方向に並べたものであり、この場合、外部端子T21、T22及び外部端子T23、T24に、供給される交流電流により励振される固有振動モードは、それぞれ、図2(a)、(c)および図2(e)、(f)である。
【0099】
そして、これらの構造によっても図2(c)と(e)とを用いて、上述した図1等の実施例の場合と同様に、反共振周波数を駆動信号レベルによって制御することが可能である。
【0100】
上述した図1、図9、並びに図10に示した電極構造では、水晶板の両面に対向電極を配して厚み振動のようなバルク波を励振した。次に、このバルク波(厚みすべり振動)を、交叉指電極を用いて励振する場合について図12(a)、(b)、(c)を用いて説明する。
【0101】
図12(a)は、ATカット水晶板X4の表面と裏面の夫々に交叉指電極が配され、夫々の電極が共通電極部を介して外部端子T31、T32、T33、T34に接続されている。そして、該基板表面には、同12図(b)に示すように左右対称に配列された交叉指電極が、反対面には、同図(c)に示すように、中央部を境にして左右逆位相となるように配列された交叉指電極が、交叉指電極対を為すように形成されている。
【0102】
図12(b)に示す電極形状は、上下左右対称で、交叉指の結線は全て同じ電位に接続されている。それ故、強勢に励振できる固有振動モードの変位形状は、上下左右対称の図2(a)である。これに対して、図12(c)に示す電極形状では、交叉指の結線は中央部で逆極性の電位に接続されているので、強勢に励振できる固有振動モードの変位形状は、上下対称で左右反対称の図2(c)である。即ち、図12に示す実施例では、図2(b)や図2(d)のような不要振動は励振され難い特徴を持つ。従って、外部端子T31、T32では図2(a)に示す固有振動モードが、外部端子T33、T34では図2(c)に示す固有振動モードが励振され、その結果、スプリアスを抑圧する効果を有する周波数可変特性保有の複合共振器を実現することができる。
【0103】
なお、図12(a)、(b)、(c)の励振用交叉指電極の周辺に、近接させ或いは所定の間隔を空けて、短絡又は開放された周期的交叉指電極や周期的溝部を配置して、所望の固有振動モードの振動エネルギを反射させて、励振された振動エネルギを励振用交叉指電極の付近に集中させるような、従来の表面波デバイス(フィルタ、振動子も含む)での特性改善手段を本発明の複合共振器に用いるようにしても良い。
【0104】
次に、両端部で支持した双音叉構造で屈曲振動を利用した場合の実施例を、図13(a)〜(f)を用いて説明する。
【0105】
図13(a)は、両持ち双音叉形状をしたXカット水晶板51の概要を示す斜視図である。水晶板自体の構造は、従来技術の双音叉構造で屈曲振動を利用した圧電振動子の場合と同じであるので、説明の便宜上、従来技術で開示されている部分から概略的に説明を始める。
【0106】
この水晶板51は、厚さが一様で長方形状の水晶板の中央部が長方形状に刳り貫かれた構造をしており、上部および下部の指部52,53と、右側および左側の端部54,55と、右と左の股部56,57とを持っている。
【0107】
次に電極配置とその結線状態について説明する。この水晶板51の上部指部52の4つの側面には、図13(b)の電極配置の概要を示す断面図に示すように、各側面のほぼ全面に電極61、61´、62、62´を配されている。そして、これらの電極は、図13(c)の電極展開図に示すように結線されている。即ち、図13(c)のように接続された4つの電極61、61´、62、62´が、図13(b)に示すように上部指部52の4つの側面に配されている。因みに、図13(a)の斜視図では、電極61と電極62は見えているが、電極61´と電極62´は上部指部52の裏側なので遮蔽されている。
【0108】
このような電極を下部指部53にも設ければ、従来から知られた音叉型屈曲振動子となり、全体として2つの外部端子に接続した水晶振動子に交流電圧を印加すると、その共振周波数近傍での振動変位が図13(a)の上下方向に変位する弦のような振動が起こることが知られている。そして、このときの上部指部52の振動変位は図13(e)に示すような形状となる。即ち、図13(a)の上部指部52の中央で変位が最大で、上部指部52の両端部即ち股部56、57付近では振動変位が最小となる。
【0109】
一方、下部指部53の振動変位は、上部指部52の振動変位とその絶対値はほぼ同じであるが、振動方向が上下逆方向となる。即ち、図13(e)の上下を逆にした変位形状である。
【0110】
本発明では、上部指部52には図13(b)、(c)に示す電極61、61´、62、62´を配し、図13(c)の電極展開図に示すように結線するが、下部指部53には、従来の音叉型振動子と異なり、図13(d)に示すように、下部指部53の中央で二つに分割された電極を配置する点に特徴がある。
【0111】
即ち、図13(d)に示すように、下部指部53には電極71、71´乃至74,74´の合計八個の電極が配置されている。かかる電極の構成を、その作用を説明する観点から整理すると、本発明に係る音叉型の複合共振器は、上部指部52の4つの側面にはほぼ全面に図13(c)に示したように電極が配されて外部端子41,42に接続され、下部指部53の4つの側面にはほぼ全面に図13(d)に示したように2分割された電極が配され、外部端子43,44に接続されている。
【0112】
この圧電振動子の外部端子41,42に交流電圧を印加した時のその共振周波数近傍での振動変位は、図13(a)に示した水晶板51の上部指部52が上下方向に変位する弦の振動のような振動が起こることが知られている。そして、このときの上部指部52の振動変位は図13(e)に示すような形状である。即ち、図13(a)の上部指部52の中央で変位が最大で、上部指部52の両端部、即ち股部56、57付近では振動変位が最小となる。そして、この振動により、水晶板51の2つの股部56、57を介して振動エネルギが流れ、下部指部53に同じ振動振幅で方向が逆な振動を引き起こす。
【0113】
一方、外部端子43、44に交流電圧を印加した時、その共振周波数近傍での振動変位は、図13(a)に示した水晶板51の下部指部53が上下方向に変位する弦のように振動することが知られている。そして、このときの下部指部53の振動変位は図13(f)に示すような形状である。この場合、水晶板51の下部指部53の中央部、及びその両端部、即ち股部56、57付近では振動変位が最小で、その中央部と端部との中間点で変位が最大となる。これは電極形状が図13(d)に示すように分割電極で、かつ同一面で隣接する電極の電気的極性が逆極性に接続されているからである。
【0114】
この場合は、水晶板51の2つの股部56,57を介して上部指部52に振動エネルギが流れ、上部指部52に同じ振幅で逆方向の振動を引き起こす。即ち、図13(f)の上下を逆にした変位形状の振動が発生する。
【0115】
以上の結果として、2つの固有振動モードが双音叉振動子全体に混在して生ずることになる。そして、これらの構造によっても前述した実施例の場合と同様に、反共振周波数を、2つの指部への励振駆動信号のレベルを調整することによって制御することが可能となる。
【0116】
以上の実施例では、使用する固有振動モードとして、厚みすべり振動のような厚み振動を利用した場合、および表面波振動、音叉縦振動を利用した場合を説明した。
【0117】
しかし、本発明の適応範囲はこれに限るものではない。即ち、屈曲振動、長さ縦振動、輪郭すべり振動、幅縦振動、厚みねじれ振動、厚み縦振動、横波表面波振動、SMR振動、及びストンリー波振動等においても、これらの波動が強勢に存在可能な振動子において、その適応が可能である。即ち、少なくとも2つの固有振動モードのうち、固有振動周波数の隣接する2つの固有振動モードをほぼ独立に駆動可能な2組の電極構造を配する手段を講ずれば、可変リアクタンス素子を必要とすることなく、本発明の2組の外部端子への駆動電圧の値の差を制御することにより、本発明の複合共振器単独で周波数を変えることが実現できると言う効果を持つ。
【0118】
以上に説明した本発明に係る圧電材料を使用した複合共振器の構造は、以下のように整理できる。即ち、圧電基板の面上に配された、電極の配列や形状が左右上下対称で、この電極の接続がこの電極全面で同じ極性に接続された電極の組と、電極の形状が左右上下対称でこの電極の接続がこの電極の中央部を境にして逆極性に接続された電極の組を配したことが特徴である。あるいは、2つの固有振動モードに対応して発生する2つの発生電荷を有効に集めるように2組の電極を配し、それぞれの電極の構造を発生した電荷が加算されるように構成した複合共振器であると云うことも出来よう。
【0119】
従って、前記複合共振器が、同一圧電基板表面に複数の電極を配置し互いに異なる固有振動モードにて励振され、夫々の固有振動モードが独立に制御されるように構成したことを特徴とする複合共振器であるとも表現することが出来る。
【0120】
次に、本発明の複合共振器を利用した発振回路の実施例について説明する。
【0121】
先ず、例示する発振回路としてT型回路を用いて反共振周波数の近傍で発振させ、2つの外部端子に印加する電圧を制御することにより、発振周波数を広い範囲にわたって連続的に可変できるように構成した発振回路について説明する。
【0122】
即ち、従来の発振回路では、使用される圧電振動子の“共振周波数”近傍で発振させることを目的にしているが、本発明の複合共振器は、本質的にはその反共振周波数を可変するように機能するので、この“反共振周波数”の近傍で発振させることを特徴とする。
【0123】
本実施例の発振回路では、複合共振器の反共振周波数の近傍で発振させるために、直列腕に2つのコンデンサを有し、シャント腕に本発明の複合共振回路を挿入したT型回路を構成してこれを増幅器に接続している。かかる回路構成は、従来の共振周波数近傍で発振させる為、直列腕に水晶振動子を有し、シャント腕に2つのコンデンサを有するπ型回路を増幅器に接続した発振回路とは全く違う構成である。
【0124】
図14(a)は、本発明にかかる複合共振器を使用した発振回路の一例を示すブロック図である。破線で囲んだ部分80が本発明による複合共振器(以下の説明では、等価的に「圧電振動子」と称する)を模式的に記したものである。外部端子T41、T42、T43、及びT44は、既に示した各実施例の外部端子と同じである。圧電振動子80の外部端子T42、T44は接地されており、外部端子T41、T43には、4つのコンデンサC1乃至C4と、2つの減衰器ATT41、及びATT42が接続されている。
【0125】
増幅器AMP41は、従来技術で使用されているトランジスタ又はその複合回路より構成されており、1つの入力端子T58と、その入力端子の位相に対して逆位相の出力となる出力端子T59と、同位相の出力となる出力端子T65とを有している。
【0126】
増幅器AMP41の逆位相出力端子T59は、T51とT54に分岐され、減衰器ATT41とATT42を経て、4つのコンデンサC1乃至C4と、本発明の圧電振動子80より構成される部分に接続され、中間タップT57で同電位に接続されている。なお、この回路ループは、増幅器AMP41についての負帰還回路ループを構成する。
【0127】
因みに、かかる負帰還回路ループは、本発明における増幅器の出力端から入力端に到る負帰還路に当たり、出力端子T59から中間タップT57に到る経路が電力分配回路を構成する。また、当該電力分配回路に含まれる中間タップT51からT57に到る経路、及び中間タップT54からT57に到る経路がそれぞれ2つの電力供給路を構成する。さらに、かかる電力供給路において、中間タップT52→T53→T57、並びに中間タップT55→T56→T57に亘る経路がそれぞれ第1電流枝路を構成し、中間タップT52とT53の中点から圧電振動子80を介して接地電位に亘る経路、並びに中間タップT55とT56の中点から圧電振動子80を介して接地電位に亘る経路がそれぞれ第2電流枝路を構成する。
【0128】
増幅器AMP41の入力端子T58には、コンデンサC11とコイルL12との直列回路の一端が接続されており同回路の他端は接地されている。また、入力端子T58には、コンデンサC9とコンデンサC10との直列回路が接続されており同回路の他端は接地されている。なお、コンデンサC9とコンデンサC10との間から抵抗R8介して、増幅器AMP41の同位相出力端子T65に接続された回路ループが設けられている。なお、この回路ループは、増幅器AMP41についての正帰還回路ループを構成している。
【0129】
因みに、かかる正帰還回路ループは、本発明における増幅器の出力端から入力端に到る正帰還路を構成する。
【0130】
なお、抵抗8の値を零としても、即ち、抵抗8を短絡しても増幅器AMP41が機能することは従来技術の発振回路の場合と同様である。
【0131】
次に、上記の正帰還回路ループの機能について説明を行う。増幅器AMP41の入力端子T58と、これと同位相の出力端子T65により構成されるコイルL12、コンデンサC11、C9、C10、及び抵抗8の回路は、従来技術のコルピッツ(クラップ)型発振回路を構成している。そして、これらの素子値が適宜設定され、さらに、増幅器AMP41の増幅率が必要十分な値であれば、同回路において発振が開始され、かつ該発振動作が持続することになる。
【0132】
そして、この場合の発振周波数は、近似的にコイルL12と、3つのコンデンサC11、C9、C10、の直列接続の合成容量との共振周波数となる。なお、本実施例では、この発振周波数を、本発明の圧電振動子80を含む回路より発現された反共振周波数の近傍に選ぶものとする。
【0133】
なお、コンデンサC11は、増幅器AMP41に印加される直流バイアスの電圧値を適正な値に設定するための直流遮断の機能を備えている。
【0134】
増幅器AMP41と帯域フィルタFIL41は、本発明の圧電振動子80が呈する反共振周波数において定常発振を持続させ得るように、発振回路全体の損失を補償する増幅率と、本発明の圧電振動子80の反共振周波数近傍で発振するような位相特性を持たせてある。なお、増幅器AMP41の出力端(中間タップ59)の出力レベルを、例えば、AGC機構等により一定にする機能を保有するようにしてもよい。
【0135】
次に、本発明にかかる複合共振回路の反共振周波数の近傍で発振させる原理を説明する。なお、中間タップ52、53及び圧電振動子の外部端子T41、T42の部分と、中間タップ55、56及び圧電振動子の外部端子T43、T44の部分とは、同じ構成なので上部半分の部分のみについて説明を行う。
【0136】
中間タップ52、53及び圧電振動子の外部端子T41、T42の部分は、いわゆるT型回路を構成している。即ち、圧電振動子の外部端子T41、T42がT型回路のシャント腕の部分に、2つのコンデンサC1,C2がT型回路の直列腕の部分に接続されている。かかる2組のT型回路を負帰還回路の要素とした回路構成によって、図15に示すようなインピーダンス反転機能を近似する効果が増幅器AMP41の増幅率と相俟って発生する。
【0137】
即ち、図14(a)の2組のT型回路を負帰還回路の要素とした回路により、前述した図5の周波数応答曲線b3を上下反転したような図15に示す周波数応答曲線b5が得られる。図15の縦軸は中間タップ65の電圧を中間タップ58に印加された電圧で除したものであり、図15の横軸は周波数を表す。
【0138】
図15において、図5の周波数応答曲線b3に対して上下反転の周波数応答が得られたのであるから、本発明の圧電振動子の反共振周波数は、従来の圧電振動子の共振周波数として機能することは明らかである。従って、かかるT型回路を負帰還回路の要素とし、所定の周波数特性を有する増幅器を接続して正帰還ループ及び負帰還ループを形成すれば発振回路を構成することができる。
【0139】
次に、圧電振動子の2つの外部端子に印加する電圧を可変して周波数連続可変とする手段について説明する。既に説明したように本発明の圧電振動子の外部端子T41、及び外部端子T43に印加する電圧を変えると、反共振周波数fpは図6に示したように変化する。図14(a)に示す発振回路ではかかる調整を、中間タップ51と中間タップ52との間、及び中間タップ54と中間タップ55との間に、減衰器ATT41及び減衰器ATT42を配して行う。
【0140】
即ち、中間タップ51における増幅器の出力を減衰器ATT41で減衰させ必要な電圧を得て、該電圧をコンデンサC1を介して圧電振動子の外部端子T41に印加する。そして、減衰器ATT41の減衰量を調整すれば、外部端子T41に印加される電圧を任意に制御できる。同様にして外部端子T43への印加電圧も、減衰器ATT42により任意に制御することができる。
【0141】
従って、2つの減衰器ATT41とATT42の各々の減衰量を制御することにより、外部端子T41およびT43に印加する電圧を任意に調節できるので、反共振周波数fpの値を図6に示した通り任意の周波数に連続的に制御可能となる。
【0142】
図14(a)の4つのコンデンサC1乃至C4は、4つのコイルや4つの抵抗、或いはそれらの組み合わせであっても同様の効果が得られる。なお、上記減衰器ATT41、ATT42の出力インピーダンスは、50Ωのものが市場で良く見受けられるが、本発明はこの値に限定されるものではなく、例えば、1Ω以下の極端に小さな値を用いることにより良好な特性が得られる。更に、かかる減衰器の構成は、内部の素子が抵抗よりなる抵抗減衰器であってもよいし、或いはコンデンサやコイルからなるリアクタンス素子を用いた減衰器であっても同様の効果を期待できる。
【0143】
本発明による発振回路は、圧電振動子80の反共振周波数fp近傍での現象を利用するものであるが、この反共振周波数の近傍では圧電振動子は高インピーダンス特性を呈するので、発振回路の実装に当たっては、圧電振動子周辺における浮遊容量の変動に注意をすることが必要である。この影響を軽減して使いやすい発振回路を実現するためには、例えば、図14(a)において、中間タップ52、53、55、56と、4つのコンデンサC1乃至C4、及び圧電振動子80を同一保持器内に実装したデバイス構造にすることが望ましい。これによって、かかる保持器の外套部分による浮遊容量変動の影響が軽減されると言う効果が期待できる。なお、上述の如く、4つのコンデンサC1乃至C4は、4つのコイルや4つの抵抗、或いはそれらの組み合わせであっても良い。
【0144】
次に、図14(a)の変形回路を図14(b)に示す。即ち、図14(b)は、図14(a)に示された回路を以下に示すプロセスによって変形した回路である。
【0145】
先ず、図14(a)の減衰器ATT1を取り外して、中間タップ51と52との間を短絡する。同様に、減衰器ATT2を取り外して、中間タップ54と55との間を短絡する。次に、圧電振動子80の外部端子42と接地電位の間に取り外した減衰器ATT1を挿入し、同様に、圧電振動子80の外部端子44と接地電位の間に取り外した減衰器ATT2を挿入する。かかる回路構成においても、減衰器ATT1及びATT2の減衰量を制御することにより、圧電振動子80の外部端子41と42、並びに外部端子43と44の間の電位差を調整できるので、圧電振動子80の反共振周波数を可変させることができる。
【0146】
次に、圧電振動子80の並列容量を打ち消した発振回路を、図16を用いて説明する。この回路は、既に説明した図14(a)の回路に、破線で囲んだ回路90、及び91を追加したものである。これらの追加回路は、両方とも同じ構成及び機能を有するので上部の回路90みを説明する。
【0147】
回路90の部分は、コンデンサC1´、C2´、C01´、及び差動増幅器AMP90とからなっている。2つのコンデンサC1´、C2´の値は、コンデンサC1,C2と同じ値に設定されている。また、コンデンサC01´の値は、圧電振動子80の外部端子T41、T42の間における並列容量C01の値とほぼ同じ値に設定されている。コンデンサC2とコンデンサC2´の出力は、中間タップT53、T53´を通って、差動増幅器AMP90の正入力端子と負入力端子に、それぞれ接続されている。
【0148】
このように設定された回路の特性は、ブリッジ・バランス現象によって、圧電振動子80の外部端子T41、T42間の並列容量C01をキャンセルした状態をつくることができる。同様にして、下部の破線で囲んだ回路91によって、外部端子T43、T44の並列容量C02をキャンセルすることができる。
【0149】
次に、圧電振動子の並列容量を打ち消す方法として、図16に示した方法とは別な方法を示す。その実施例を図22(a)を用いて説明する。
【0150】
図22(a)において、交流電源e1及び抵抗R1と負荷抵抗RLとの間に、コンデンサC1とコイルL2の直列腕の中間点に従来技術の圧電振動子Q1がシャントに接続されたT型回路が接続されている。
【0151】
同回路に使用される圧電振動子Q1は、共振周波数が9.9952MHzのHC−49/U型ATカット水晶振動子であり、その設計仕様は既に使用したものと同じである。また、コンデンサC1の公称容量値は2.5pF、コイルL2の公称インダクタンス値は27μHである。
【0152】
このT型回路における素子定数設定の条件を、図22(b)を用いて説明する。
【0153】
先ず、シャントに接続された圧電振動子Q1の並列容量の値をC01としたとき、使用周波数帯域(発振周波数帯域)において、この並列容量C01とコンデンサC1の容量値との和(C01+C1)と、コイルのインダクタンス値L2により決まる共振周波数を、使用周波数帯域内になるように設定した。更に、C01及びC1の値が小さな場合には、浮遊容量の影響も考慮して実験的にも再設定を行うことが可能である。
【0154】
図22(a)の回路の周波数特性を測定した結果を、図23に示す。横軸が測定周波数、縦軸が減衰量の絶対値である。この周波数特性は、周波数に対して対称であり、並列容量の影響が軽減されほとんど打ち消されていることが分かる。更に、この図に示す減衰量の最大値(下に凸)が、圧電振動子Q1の共振周波数9.9952MHzに一致していることから、インピーダンス反転効果も発現していることがわかる。
【0155】
なお、直列腕におけるコイルの位置はいずれでもよい。即ち、図22(c)に示すように、図22(b)のコンデンサC1の位置にコイルL1を配置し、コイルL2の位置にコンデンサC2を配置してもその効果は同じである。
【0156】
次に、この設定には一つの自由度が残っていることを指摘する。本発明ではこの自由度を活かして、圧電振動子Q1(本発明の複合共振器)の実効Q値(実効共振先鋭度)を、反共振周波数近傍において劣化させないための最適化を施す。かかる最適回路定数設定条件は以下の通りである。
【0157】
先ず、図22(b)において、シャントに接続された圧電振動子の並列容量をC01としたとき、直列腕に接続されたコンデンサC1の値を並列容量C01の値の10倍以下に設定する。このような回路素子設定条件の下では、T型回路のコンデンサC1とコイルL2からなる共振部分の共振インピーダンスが十分に大きな値となるため、シャント接続された圧電振動子Q1によるインピーダンス短絡効果が顕著に発現されることになる。
【0158】
図22(b)の回路において、水晶振動子Q1の並列容量C01とコンデンサC1の容量値との和(C01+C1)、及びコイルのインダクタンス値L2により決定される共振周波数を使用周波数帯域内になるように設定すると、並列容量打消し効果とインピーダンス反転効果が得られることが実験的に確認された。ここでは、かかる現象を、図24(a)に示す回路を用いて理論的に解析する。
【0159】
図24(a)において、交流電源e1及び抵抗R1と、負荷抵抗RLとの間にT型回路が接続されている。このT型回路では、インピーダンスZ1とインピーダンスZ2からなる直列腕の中間点に、インピーダンスZpとインピーダンスZsの並列接続回路がシャントに接続されている。因みに、インピーダンスZpは圧電振動子の並列容量部分に対応し、インピーダンスZsは圧電振動子の直列腕L11,C11,r11により発現されるインピーダンスに対応している。
【0160】
図24(a)の動作特性を解析するには、先ず、中間タップT52と中間タップT53で挟まれるT型回路の従属マトリクス要素を求めて、次に、並列容量打ち消し効果を評価するのに便利なアドミッタンス・マトリクス要素Y21を求めると良い。かかるプロセスを実行することにより次式が得られる。
【0161】
【数4】
ここで、
【0162】
【数5】
なる条件が成立すると仮定するならば、数式4は、次式のように簡単な式に書き換えることができる。
【0163】
【数6】
数式6の右辺では、L11、C11、r11からなる直列腕のインピーダンスZsのみが、分子に位置していることに着目する必要がある。
【0164】
すなわち、Zsのみが残りZpが消去されていると言うことは、並列容量C01によるインピーダンスZpが打ち消されていることを意味している。また、分子に位置しているということは、アドミタンスY21がインピーダンスZsに比例しており、さらに、インピーダンスZsが反転されてアドミタンスに変換されたことを意味している。
【0165】
次に、かかる並列容量の打消しと、インピーダンスの反転を引き起こす前提条件とされた数式5について検討する。数式5は、インピーダンスZ1、Z2に対して対称な式であるのでZ1とZ2を入れ替えても成立する。そこで、例えば、数式5をZ2について整理すると次式が得られる。
【0166】
【数7】
前述の如く、インピーダンスZpは、圧電振動子の並列容量C01に対応したインピーダンスであるので、次式で与えられる。
【0167】
【数8】
さらに、インピーダンスZ1は、容量値C1を持ったコンデンサのインピーダンス
【0168】
【数9】
であるので、数式9と数式8を数式7に代入することにより次式が得られる。
【0169】
【数10】
次に、数式10のインピーダンスZ2は、インダクタンス値L2を持ったコイルのインピーダンスであるから次式で与えられる。
【0170】
【数11】
そして、数式11を数式10に代入すると次式が成立する。
【0171】
【数12】
数式12において、共振角周波数ωが次式で与えられるときには、数式10の条件、即ち数式5の条件は完全に満たされていることになる。
【0172】
【数13】
ここで、数式13の共振角周波数を並列容量打消し共振角周波数と呼び、その記号をωcとする。並列容量打消し共振角周波数ωcの一点では、数式5の条件は完全に満たされているが、ωcの近傍でも実際には、数式5の左辺が十分零に近いと言う条件が満たされている。従って、数式4の分母の第二項は1に対して十分小さくなり数式6で近似できることになる。なお、上記理論展開の正しさは、図23に示される実測例によっても裏付けられている。
【0173】
以上で、数式10のインピーダンスZ2をコイルで実現した場合の実施例について説明を行った。次に、インピーダンスZ2を、いわゆる“負容量”として実現した場合を説明する。負容量を実現する手段は、例えば、特許第3400165号の特許文献などに開示されている。この場合、負容量の周波数依存特性と数式5右辺の周波数依存特性が同じなので、広い周波数範囲に亘って数式10を満たすことができる。
【0174】
次に、図22(a)に示したシリースに接続されたコンデンサとコイルおよびシャントに接続された本発明の複合圧電振動子(個別圧電振動子を用いた場合を含む)により構成されたT型回路を2組用いて、反共振周波数を可変した場合の実施例を、図25を用いて説明する。
【0175】
図25の回路において、本発明の複合振動子80の所には、請求項3に示した通り2つの従来技術の圧電振動子Q1、Q2をそれぞれ外部端子41と42の間、および、外部端子43と44の間に接続した。使用した圧電振動子Q1の共振周波数は9.9952MHz、圧電振動子Q2の共振周波数は10.005116MHzである。両振動子ともHC−49/U型ATカット水晶振動子であり、その設計仕様は既に使用したものと同じである。
【0176】
また、コンデンサC1とコンデンサC3の所には、それぞれ公称容量2.5pFのコンデンサを接続し、コイルL2とコイルL4の所にはそれぞれ公称インダクタンス値が27μHのコイルを接続した。
【0177】
以上に説明したT型回路の素子定数設定は、図22(b)を用いて説明した条件を、中間タップ52と中間タップ53の間(シャントに接続された水晶振動子Q1を含む)、及び中間タップ55と中間タップ56の間(シャントに接続された水晶振動子Q2を含む)に適応したものである。
【0178】
図25に示される中間タップT59と中間タップ57の間の回路を、図3と同様に、周波数可変式高周波信号発生器SGとレベル測定器L1の間に接続して、反共振周波数の偏移と、減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差との関係を実測した例を図26に示す。
図26より、反共振周波数の周波数変化は、減衰器の減衰量の差に応じて、2つの圧電振動子の共振周波数(固有振動周波数)間隔の98.6%、絶対値として978ppm程度の周波数範囲まで連続して、広範囲に亘って変わっていることが判る。
【0179】
また、この並列容量を打ち消した回路を2つ用いた回路形式においては、2つの圧電振動子の共振周波数(固有振動周波数)の間で、その中央部の周波数から両端部の共振周波数近くまで、その共振尖鋭度(実効Q値)がほぼ一定であると言う特長を有している。
図25の回路において、反共振周波数と、減衰器ATT1、ATT2の減衰量の差との間に図26に示すような関係があることを実験的に明らかにした。次に、この関係を理論的に解明する。
【0180】
図25の回路において、シャントに圧電振動子80の外部端子41と外部端子42の部分を含み、中間タップT52と中間タップT53の間の素子値を用いて従属マトリクスF1の要素A1,B1,C1,D1を求めることができる。
【0181】
同様にして、図25において、シャントに圧電振動子80の外部端子43と外部端子44の部分を含み、中間タップT55と中間タップT56の間の素子値を用いて従属マトリクスF2の要素A2,B2,C2,D2を求めることができる。
【0182】
以上の解析結果を図27(a)の回路に示す。ここで、電圧V1は中間タップT52と接地間の電圧、V2は中間タップT55と接地間の電圧、V3は中間タップT57と接地間の電圧である。電圧V1及び電圧V2を可変するには、それぞれ、減衰器ATT1および減衰器ATT2を調整すればよい。
【0183】
図27(a)は、図27(b)のように書き換えることができる。ここで、Zss1は図27(a)の中間タップT52より電源側をみたインピーダンスであり、Zss2は中間タップT55より電源側をみたインピーダンスである。また、交流電源e1、e2は、それぞれ、図27(b)の中間タップT52での電圧が図27(a)の電圧V1と、図27(b)の中間タップT55での電圧が図27(a)の電圧V2と等しくなるように調整された電圧である。
【0184】
図27(b)の従属マトリクスF1、F2の部分は、テブナンの定理により各従属マトリクスの要素を用いて、図27(c)のように書き換えることができる。ここで、インピーダンスZ01,Z02は、それぞれ次式で与えられる。
【0185】
【数14】
【0186】
【数15】
また、電源電圧e01、e02は、それぞれ次式で与えられる。
【0187】
【数16】
【0188】
【数17】
ここでは、図27(b)の回路における反共振周波数と、電圧V1及びV2との関係を導き出すことが目的であるから、Zss1=0、Zss2=0として、更に、RL=0と仮定してもよい。この場合の出力電流ILは、C1=C3、並びにL2=L4であることを考慮すれば次式で与えられる。
【0189】
【数18】
ここで、V1は中間タップT52と接地間の電圧,V2は中間タップT55と接地間の電圧である。また、ZS1は圧電振動子Q1の直列腕のインピーダンス、ZS2は、圧電振動子Q2の直列腕のインピーダンスである。
【0190】
数式18は、前述の数式1と同じ形式であって、2つの直列腕のインピーダンスZS1とZS2のそれぞれに電圧V1とV2が乗ぜられている。また、同式の右辺全体に乗ぜられているC1をL2で除したものは、それ自体周波数特性を持たない一定値である。このことは、周波数可変範囲の全体に亘って良好なQ値が得られることを意味している。
【0191】
従って、この場合の反共振周波数の電圧V1、V2との関係は、前述の数式3で与えられる。実際に実験結果を見ても、図20と図26は非常に似た特性を示していることから、同じ数式3に従うことはうなずける。
【0192】
よって、外部端子T41、T42および外部端子T43、T44の間の並列容量が小さくなり、共振周波数を発現する直列腕のみの効果が顕著になる。即ち、本発明の複合共振回路を使用する上で、好ましくない並列容量の影響を軽減することが出来る。このことは、本発明の複合共振回路(圧電振動子)が、比較的インピーダンスの高い反共振周波数fp近傍の特性を利用するので、フィギュアオブメリット(圧電振動子の共振先鋭度を容量比で割ったもの)の改善効果が顕著に現れ、純度の高い発振出力が期待できる。
【0193】
以上は、2つの固有振動モードを用いた場合について説明を行ってきた。しかし、数式18を導出した経緯より、例えば、3つ以上の固有振動モードを用いて3つ以上の電圧を制御した場合でも同様の効果が得られる。
【0194】
次に、反共振周波数で直接発振する発振回路の実施例を図28を用いて説明する。
【0195】
反共振周波数で発振させるための基本的な考え方は、図25に示すT型回路を2つ組み合わせた回路において、本発明の複合共振回路(ここでは等価的に「圧電振動子」と称する)80により実現された共振先鋭度の優れた反共振周波数で、安定した発振を持続するのに必要な発振回路のループゲインを保つことである。
【0196】
図28は、本発明にかかる複合共振回路を使用した発振回路の一例を示すブロック図である。同図において、破線で囲んだ部分80が本発明の複合共振回路を模式的に記した部分である。また、増幅器AMP41は、正入力端子45(中間タップ60に接続)、負入力端子46(中間タップ61に接続)、及び正出力端子47(中間タップ63および中間タップ64に接続)を持っている。
【0197】
本実施例では、反共振周波数で発振をさせるために、以下の3つの基本的要件を具備することが必要である。
【0198】
先ず、その一つは正帰還ループに関する要件である。図28において増幅器AMP41の正出力端子47から、中間タップ63を経由して、コイルL5、コンデンサC6、抵抗R3の直列接続回路が、中間タップ60を経由して、増幅器AMP41の正入力端子45に接続されている。また、抵抗R3と中間タップ60の間から抵抗R4が接地電位に接続されている。増幅器AMP41の正出力端子47から正入力端子45までのループは正帰還ループを構成し、かかるループのループゲインが1を越えれば、周波数の可変範囲内にある所定の周波数で発振を開始する。コイルL5とコンデンサC6の値は、この2つの素子から決定される直列共振周波数が前記所定の周波数と等しくなるように設定する。一方、抵抗R3とR4の値は、この正帰還ループのループ利得を調整するのに用いられる。
【0199】
2つ目の要件は、負帰還ループに関するものである。中間タップ52と中間タップ53の間、および中間タップ55と中間タップ56の間に、それぞれ、T型回路に接続されたコイルとコンデンサと圧電振動子80の外部端子41と42、及びT型回路に接続されたコイルとコンデンサと圧電振動子80の外部端子T3とT4を接続する。
【0200】
一方、この負帰還ループを構成する圧電振動子80含む2つのT型回路の周波数特性は、図23に示されるように反共振周波数fpが発現している。従って、この回路の反共振周波数fpでのみ負帰還量を減少させて、正帰還ループのループゲインが1を超えるような状態を得ることができる。これによって、反共振周波数fpにおける発振が得られる。
【0201】
次に、3つ目の要件はDCバイアスの安定化に関するものである。増幅器AMP41の正出力端子47から中間タップT64を経由して、コイルL7とコンデンサC8の並列回路と抵抗R5の直列枝が、さらに中間タップT61を介して増幅器AMP41の負入力端子46に接続されている。また、抵抗R5と中間タップT61の間の点より抵抗R6が接地電位に接続されている。なお、コイルL7とコンデンサC8の値は、かかる2つの素子値から決定される並列共振周波数が前記所定の周波数と等しくなるように設定する。
【0202】
中間タップ61に接続されている増幅器AMP41の入力端子は、負入力端子46であるので、このループは負帰還ループを構成する。この負帰還ループでは、ループを構成するコイルL7を介して直流成分も導通するので、発振開始点から発振飽和点に至るまでの直流動作点を安定化する機能を有している。即ち、抵抗R5とR6の値は、主に直流動作点の設定および負帰還ループのループ利得の調整に用いられる。
【0203】
以上の3つの要件を具備することによって、図28に示される回路は、反共振周波数での安定した発振出力を得ることができる。
図28に示される回路の変形実施例として、その幾つかを以下に説明する。
【0204】
先ず、中間タップ62と中間タップ63の間には、リアクタンス素子に代わり、抵抗素子、或いはリアクタンス素子と共に抵抗素子を接続しても良い。
【0205】
また、増幅器AMP41としては、1つの正入力端子45のみを持ち、正出力端子47および負出力端子48(図示せず)の2つの出力端子を持ったものを用いても良い。この場合、負入力端子46と中間タップT61の間の接続を切り離し、中間タップT61と中間タップT60を短絡接続する。更に、中間タップT63と中間タップT64の間の接続を切り離し、正出力端子47を中間タップT63に、負出力端子48を中間タップT64に接続すれば良い。かかる回路によっても反共振周波数fpでの発振を得ることができる。
【0206】
以上に説明した発振回路では、圧電振動子の2つの外部端子T41、T42および外部端子T43、T44に印加する電圧値を制御するのに、増幅器の出力を一定にしておき、減衰器の減衰量を変えたが、この減衰器の部分を出力電圧制御型増幅器としても同様の効果を出すことも可能である。この出力電圧制御型増幅器の出力インピーダンスの値を、使用される圧電振動子の2つの等価抵抗(例えば、図8(a)のr1とr2)の値に比べて小さく選ぶと、本発明で着目している反共振周波数のQ値(共振先鋭度)が、回路実装動作時に劣化する程度を軽減することができる。
【0207】
更に、図16の作動増幅器AMP90、及びAMP91の入力インピーダンスの値を、使用される圧電振動子の2つの等価抵抗(例えば、図8(a)のr1とr2)の値に比べて小さく選ぶと、同様に、回路実装動作時における反共振周波数のQ値(共振先鋭度)の劣化程度を軽減することが可能となる。
【0208】
また、図16の作動増幅器AMP90、AMP91は、ブリッジバランス現象を利用しているので、減衰器ATT41、ATT42部分をプッシュプル出力型増幅器で置き換えても同様な効果を得ることができる。
【0209】
以上の説明では、発振回路等において、容量可変ダイオードのような可変リアクタンス素子を必要としない周波数可変の方法を提案して来た。しかし、本発明の圧電振動子に、従来の可変リアクタンス素子を併用することにより、更に、高い機能を発揮させることができる。
【0210】
かかる併用実施例について以下に説明を行う。例えば、容量可変ダイオードでは、その容量値が当該容量可変ダイオードに印加される電圧で変化する。これらの可変リアクタンス素子は、2端子素子なので等価的には2端子素子であるコンデンサ(容量)やコイル(インダクタンス)と同様の機能を発揮するものである。ここで、2端子素子の2つの端子をP、及びQと呼ぶものとする。
【0211】
次に、この可変リアクタンス素子を何処に接続すれば、発振回路の発振周波数が変化するかを、既に説明した図14(a)の回路を参照しながら説明する。同回路の周波数を変化させるためには、例えば、図14(a)の圧電振動子80の外部端子41、42、43、44のいずれか1つに、この可変リアクタンス素子の片側端子Pが接続されていればよい。残りの端子Qは、この可変リアクタンス素子の反対側の端子Pに接続しない限り、図14(a)のどの点に接続しても反共振周波数を変えることができる。図14(a)では、特に、圧電振動子80の外部端子41、42の点は“ホット点”と呼ばれ、この41や42の点と接地電位(アース)の間に、可変リアクタンス素子を接続すると感度良く反周波数を変えることができる。
【0212】
かかる回路構成の場合、本発明による周波数可変の手段と、可変リアクタンス素子による周波数可変手段の2つの手段を持つことになるので、無線通信システムの例ではチャンネル切替と、信号変調の2つの目的にこの2つの手段を便利に割り当てることもできる。本発明にかかる複合共振回路は、2つの直列腕の等価回路定数に電圧依存性があるので、この現象を利用すると、周波数特性を制御できる可変フィルタを実現することができる。
【0213】
図3及び図25に示した試験回路は、上述した本発明に係る圧電振動子等らよる各種の複合共振器(以下MRと称する)1つを使用して、帯域阻止フィルタの基本区間(以下BREと称する)を実現したことに他ならない。また、図14及び図28に示した発振回路では、MRを1つと4つのコンデンサを負帰還回路の構成要素として帯域通過フィルタの基本区間(BTEと称する)を実現している回路部分が含まれている。この部分を抜き出したものを図17(a)、及び(b)に示す。但し、この4つのコンデンサは、4つのコイルや4つの抵抗、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
【0214】
次に、を図17(b)を用いて、帯域通過フィルタとしての作用について説明する。図17(b)は、図25の中間タップT59と中間タップT57の間に、更に反転増幅器が並列接続された回路構成となっている。これによって、図17(b)全体としては負帰還ループが構成されている。
【0215】
図25の回路における周波数特性は、数式18より図23に示される特性と同様な反共振特性を示すが、図17(b)では、図25の回路が反転増幅器の負帰還部分を構成しているので、同回路の反共振特性に基づいて負帰還が掛けられることになる。すなわち、図17(b)の中間タップT59の電圧と中間タップT57の電圧との関係は、前述した図15の場合と同様に、その大きさの関係が逆転して、帯域通過特性を呈することになる。
【0216】
次に、既に説明した図17(b)の回路を例にとって、フィルタの電圧V1とV2を変えることによって、その周波数特性が制御可能なフィルタとして機能し得ることを説明する。図17(b)における負帰還部分の中間タップT52の対接地電位V1、及び中間タップT55の対接地電位V2を変化させると、該負帰還部分の反共振周波数は図26に示す如く、かかる両電圧比に対する依存性を有しているので、図17(b)全体としては、その通過帯域特性を電圧V1とV2により可変できることになる。
【0217】
なお、反転増幅器として演算増幅器(オペレーショナル・アンプ)や、NAND回路(反転ゲート回路)を使用するときには、例えば、図28に示した演算増幅器による回路例で言えば、その中間タップT61、中間タップT64等の各部における対接地電位の直流バイアス電圧の安定化対策が必要となる。
【0218】
また、本発明のフィルタにより高次のフィルタを構成するには、従来技術のフィルタで用いられる基本区間を従属接続する手法を用いて、前記基本区間(MREおよびMTE)を並列接続して減衰傾度を急峻にする手法を用いることができる。また、図17(b)では、フィルタの周波数を変えるのに2つの減衰器ATTI,ATT2の減衰量を制御したが、この減衰器の代わりに電子的に減衰量を制御できる従来技術の手法を利用しても良い。
【0219】
以上において、本発明を利用した周波数可変型帯域フィルタについて説明を行った。なお、圧電振動子の共振先鋭度が良好なことから、本発明により、狭帯域の帯域フィルタを広い周波数範囲に亘り変化させることによって理想的なフィルタの実現が期待できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の圧電基板と、前記基板上に設けられた少なくとも3つの電極対と、2組の外部接続端子とを含み、
互いに異なる2つの振動モードが個別に前記外部接続端子に現出するように、前記3つの電極対が前記2組の外部接続端子に接続されていることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
単一の圧電基板と、前記基板上に設けられた少なくとも4つの電極対と、2組の外部接続端子とを含み、
互いに異なる2つの振動モードのみが個別に前記外部接続端子に現出し、かつ前記2つの互いに異なる振動モード以外の振動モードが前記外部接続端子に現出しないように、前記4つの電極対が前記外部接続端子に接続されていることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項3】
前記電極対の各々は、前記基板を挟んで対向する裏表面電極対群であることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項4】
2対の正負外部端子対をさらに含み、
前記正負外部端子対の一方対に前記裏表面電極対群に含まれる1対の裏表面電極対の各々が接続され、かつ前記正負外部端子対の他方対に前記裏表面電極対群に含まれる2対の裏表面電極対が互いに反対の極性結線にて接続されていることを特徴とする請求項3記載の圧電振動デバイス。
【請求項5】
前記電極対の各々は、前記基板の同一主面上に並置された電極対であることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項6】
前記電極対の各々は、少なくとも1対の交叉指電極対からなることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項1】
単一の圧電基板と、前記基板上に設けられた少なくとも3つの電極対と、2組の外部接続端子とを含み、
互いに異なる2つの振動モードが個別に前記外部接続端子に現出するように、前記3つの電極対が前記2組の外部接続端子に接続されていることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
単一の圧電基板と、前記基板上に設けられた少なくとも4つの電極対と、2組の外部接続端子とを含み、
互いに異なる2つの振動モードのみが個別に前記外部接続端子に現出し、かつ前記2つの互いに異なる振動モード以外の振動モードが前記外部接続端子に現出しないように、前記4つの電極対が前記外部接続端子に接続されていることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項3】
前記電極対の各々は、前記基板を挟んで対向する裏表面電極対群であることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項4】
2対の正負外部端子対をさらに含み、
前記正負外部端子対の一方対に前記裏表面電極対群に含まれる1対の裏表面電極対の各々が接続され、かつ前記正負外部端子対の他方対に前記裏表面電極対群に含まれる2対の裏表面電極対が互いに反対の極性結線にて接続されていることを特徴とする請求項3記載の圧電振動デバイス。
【請求項5】
前記電極対の各々は、前記基板の同一主面上に並置された電極対であることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【請求項6】
前記電極対の各々は、少なくとも1対の交叉指電極対からなることを特徴とする請求項1または2記載の圧電振動デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図21c】
【図22a】
【図22b】
【図22c】
【図23】
【図24a】
【図24b】
【図25】
【図26】
【図27a】
【図27b】
【図27c】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図15】
【図16】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図21c】
【図22a】
【図22b】
【図22c】
【図23】
【図24a】
【図24b】
【図25】
【図26】
【図27a】
【図27b】
【図27c】
【図28】
【公開番号】特開2012−23756(P2012−23756A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197264(P2011−197264)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【分割の表示】特願2006−543270(P2006−543270)の分割
【原出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(504434637)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【分割の表示】特願2006−543270(P2006−543270)の分割
【原出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(504434637)
【Fターム(参考)】
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