説明

圧電振動子の測定方法および測定装置

【課題】 圧電振動子の電気特性を精度良く測定し、リード線が電気特性に与える影響が小さい圧電振動子の測定方法および測定装置を提供すること。
【解決手段】 圧電セラミックスの対向する面にそれぞれ電極が形成され、前記電極に電気信号を入出力するリード線が電気的に接続された圧電振動子1の測定方法であって、リード線5の少なくとも一部を横断するように弾性体4で狭持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電振動子の共振周波数の測定に好適な圧電振動子の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子の電気特性評価には、圧電振動子の表面に設けられた電極を介して微小な交流電圧を印加し、圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を評価する方法が一般に使用されている。
【0003】
図3は、圧電振動子の概形を示す斜視図である。図3に示すように、圧電振動子1は、圧電セラミックス2の対向する上下面に電極3が設けられ、図中の矢印のように厚み方向に分極されている。図4は圧電振動子の測定方法を示す概略図で、図4(a)は、コンタクトプローブで電気的接続をした場合を示す図、図4(b)は、リード線で電気的接続をした場合を示す図である。図4(a)では、測定解析装置であるインピーダンスアナライザ7からの端子をコンタクトプローブ6に接続し、上下からコンタクトプローブ6を圧電振動子1上下の電極に圧接して電気的に接続し、交流電圧を印加している。図4(b)では、圧電振動子1上下の電極に、銅線等からなるリード線5に半田付けして電気的に接続し、リード線5の他方の先端をインピーダンスアナライザ7からの端子と接続し、交流電圧を印加している。
【0004】
コンタクトプローブを使用する方法として、例えば特許文献1では、圧電基板の表裏両側に個々に配設された測定プローブと、これら測定プローブを圧電基板を挟んで接近離間可能に支持するプローブ支持機構とを備える圧電基板の材料定数測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−124844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、圧電振動子の電気特性の一つとして共振周波数を測定する場合、圧電振動子と測定器や測定解析装置の電気的な接続を上述した2つの方法のいずれかにより行い、インピーダンスの周波数特性を測定するのが一般的である。
【0007】
しかしながら、コンタクトプローブを使用する方法では、厚み方向に振動する圧電振動子に対して、コンタクトプローブの接触方向が振動の方向と同じである為、インピーダンスが最小となる周波数である共振周波数が、設計値よりも高く測定されるという課題があった。また、リード線を取り付ける方法の場合、圧電振動子に対する確実な接触が得られる半面、リード線の微小な振動が圧電振動子の共振周波数の値に影響する場合があるという課題があった。
【0008】
すなわち、リード線の長さや直径等の形状が圧電振動子に対して充分に小さい場合、共振周波数はほぼ圧電振動子のみの結果を反映するが、近年需要が増加している外形寸法が数mm角の小型の圧電振動子の場合、リード線の固有振動の影響が圧電振動子の特性に重畳し、以下に説明するように共振周波数の値に影響を及ぼす場合があるという問題が発生していた。
【0009】
図5は、従来の測定方法と計算値による圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を示す図である。コンタクトプローブを使用する方法では、圧電振動子の振動方向である厚み方向に対してコンタクトプローブの接触方向が同じである為、コンタクトプローブが圧電振動子の振動を抑制するように作用する。従って、圧電振動子の共振周波数が設計値で650kHzである場合に、例えば測定値が680kHzと高く測定される現象が生じる場合がある。
【0010】
一方、リード線を用いる方法で測定した場合、インピーダンス波形上に多数の高周波振動が数10kHzおきに重畳し、特に共振周波数が2つに分割されて測定される場合がある。これは、細く長いリード線の固有振動モード(50〜60kHzとその高次モードの共振)が、圧電振動子本来のインピーダンス波形に重畳したものと考えられる。このような例では共振周波数、反共振周波数の判別が困難となり測定精度が大きく低下してしまう。
【0011】
そこで、本発明は、リード線の振動の影響が小さく、共振周波数を精度良く測定できる圧電振動子の測定方法および測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明においては、リード線の振動が共振周波数の値に与える影響を小さくする為、測定時にリード線を弾性体で狭持し、リード線の振動を弾性体によって減衰させる測定方法および測定装置を発案した。
【0013】
すなわち、本発明によれば、圧電セラミックスの対向する面にそれぞれ電極が形成され、前記電極に電気信号を入出力するリード線が電気的に接続された圧電振動子の測定方法であって、前記リード線の少なくとも一部を横断するように弾性体で狭持することを特徴とする圧電振動子の測定方法が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記弾性体は、JIS K 6253で規定される国際ゴム硬さが40以下(0を含まず)であることを特徴とする上記の圧電振動子の測定方法が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、上記の圧電振動子の測定方法を用いた測定装置が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リード線の振動の影響が小さく、共振周波数を精度良く測定できる圧電振動子の測定方法および測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の圧電振動子の測定方法および測定装置を示す概略図で、図1(a)は、本発明の圧電振動子の測定方法を示す概略図、図1(b)は、複数の圧電振動子を測定する測定装置を示す概略図。
【図2】本発明の測定方法によるインピーダンスの周波数特性を示す図で、図2(a)は、硬さ20の弾性ゴムでリード端子を狭持した場合の圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を示す図、図2(b)は、高硬度のアクリル樹脂でリード端子を狭持した場合の圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を示す図。
【図3】圧電振動子の概形を示す斜視図。
【図4】圧電振動子の測定方法を示す概略図で、図4(a)は、コンタクトプローブで電気的接続をした場合を示す図、図4(b)は、リード線で電気的接続をした場合を示す図。
【図5】従来の測定方法と計算値による圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明の圧電振動子は、図3に示すような直方体形状の圧電セラミックス2からなり、上下面に銀ペースト等からなる電極3が設けられている。さらに、上下面の電極間で分極処理が施され、図中矢印ように厚み方向に分極されている。圧電セラミックス2は、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム等、圧電特性を持つ様々な材料が適用でき、形状も直方体に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の圧電振動子の測定方法および測定装置を示す概略図で、図1(a)は、本発明の圧電振動子の測定方法を示す概略図で、図1(b)は、複数の圧電振動子を測定する測定装置を示す概略図である。圧電振動子1の上下面に形成された電極には、リード線5の一端が半田や導電接着剤等で電気的に接続されている。リード線5の他端はインピーダンスアナライザ7等の測定解析装置に接続されている。リード線5を横断するように2つの弾性体4で狭持し、リード線5の振動を減衰させるように構成されている。
【0021】
リード線5を狭持する弾性体4としては、ウレタンゴム、シリコンゴム等の弾性ゴムを使用するのが好ましい。また、弾性体4の硬さは、JIS K 6253で規定される国際ゴム硬さが40以下(0を含まず)であることが好ましい。弾性体4の硬さが40より大きい場合、リード線5の振動を減衰させる効果が少なくなり、共振周波数が正確に測定できない。また、弾性体4の硬さは、例えば10以下のような極端に小さい場合、リード線の振動を減衰させる効果は得られるが、弾性体の価格も高くなるため、コストパフォーマンスを考慮して選択するのが好ましい。
【0022】
弾性体4の大きさは特に限定しないが、圧電振動子1を測定するのに用いるリード線5の少なくとも一部を横断するような大きさとするのが好ましく、特に弾性体4の厚みは、リード線5の直径に対して十分大きくすることでリード線の振動の減衰させる効果が確実に得られるため、リード線5の直径の10倍以上とするのが好ましい。
【0023】
上述した測定方法を使用して測定装置に応用した場合、図1(b)に示すように、効率的に測定するため複数個の圧電振動子1を測定できる測定装置とするのが好ましい。本実施の形態の測定装置においても、複数個の圧電振動子1に固定されたリード線5をひとつの弾性体4でまとめて狭持する構造としている。また、図1(b)には図示していないが、この弾性体4には、リード線5と接する面と反対の面に支持機構を設け、自動または手動で、リード線5を狭持できるように設計するのが好ましい。さらに、複数の圧電振動子1に固定、接続したリード線5は、自動または手動で、圧電振動子1を切り替えて測定するように設計された回路基板(図示せず)に接続され、回路基板からインピーダンスアナライザ7へ接続するのが好ましい。
【実施例】
【0024】
本実施例の圧電振動子は図3に示すような直方体の形状で、1.5mm×1.5mm×厚み2mmとした。圧電振動子1は、圧電セラミックス2の対向する上下面に銀ペーストを印刷した電極3を設け、図中矢印のように厚み方向に分極した。また、本実施例の圧電振動子1は厚み方向に振動し、共振周波数を計算すると650kHzとなった。
【0025】
圧電振動子の電極に銅線からなる直径0.1mm、長さ50mmのリード線を半田付けし電気的に接続した。リード線の他端は、インピーダンスアナライザに接続した。リード線を厚さ5mmのシリコンゴムで狭持し、シリコンゴムの硬さを10、20、40、50と変化させて、インピーダンスの周波数特性と、1kHzにおける静電容量Cをインピーダンスアナライザで測定した。また、比較例として、リード線を弾性体で狭持しない場合、リード線を使用せずコンタクトプローブを圧接した場合、リード線を厚さ10mmのアクリル樹脂ブロックからなる高硬度プラスチックで狭持した場合も測定した。測定電圧は1Vrms(交流電圧の実効値)とし、100kHz〜1000kHzの正弦波を入力した。
【0026】
表1は、各条件における圧電振動子の電気特性の代表的なパラメータをインピーダンス波形から算出した結果を示す。評価項目は共振周波数fr、反共振周波数fa、静電容量C、及びfr、fa、Cから算出され圧電特性を評価するための圧電d定数(d33:大きい程良い)である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1からわかるように、本発明の測定方法によると、設計値と比較して数Hzの測定誤差はあるが、比較例の測定方法よりも正確に共振周波数が測定できていることが確認できた。リード線を弾性体で狭持しない比較例の構造においては、共振周波数frの近傍が2山に分割されてしまう為どちらが本来のfrであるか判別出来ず、正確な測定が難しい。また、比較例のコンタクトプローブの影響を見ると、共振周波数frが設計値よりも30kHz高く測定され、その影響でd33が設計値と比較して小さく算出されており、共振周波数のずれにより圧電特性にも影響が出ていることが確認できた。本発明によると、リード線による不要振動がゴム、樹脂によって減衰されインピーダンス波形上に現れにくくなるため、精度良く測定する事が可能となる。しかしながら、弾性体であるシリコンゴムの硬さが40よりも大きくなった場合、および比較例の高硬度のアクリル樹脂でリード線を狭持する方法では、インピーダンスの周波数特性を示す波形上に不要振動のピークが残存し、測定精度が低下していることが確認できた。
【0029】
図2は、本発明の測定方法によるインピーダンスの周波数特性を示す図で、図2(a)は、硬さ20の弾性ゴムでリード端子を狭持した場合の圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を示す図、図2(b)は高硬度のアクリル樹脂でリード端子を狭持した場合の圧電振動子のインピーダンスの周波数特性を示す図である。図2(a)から分かるように、硬さ20の弾性ゴムを使用した場合、相対的に弱い振動であるリード線の高次振動が減衰し、本来の圧電振動子のみの波形に近づいている。また、図2(b)から分かるように、高硬度のアクリル樹脂を使用した場合、共振周波数frが分割する事はなくなったが、まだ不要な振動が残る結果が得られた。
【0030】
また、上述した測定方法を応用して、図1(b)に示すような測定装置を作製した。測定する圧電振動子1は6個として、直径0.1mm、長さ50mmのリード線5の一端を圧電振動子1の上下の電極にそれぞれ半田付けした。リード線5の他端は、順次切り替えて測定されるように設計した回路を組み込んだ制御機構に接続し、制御機構はインピーダンスアナライザ7に接続した。10mm×50mm×厚さ5mmで、硬さ20のシリコンゴムからなる弾性体4の片面(リード線と接触しない面)に同寸法のアルミニウム板を貼り付けたものを2つ準備し、これらを支持し狭持するような機能を持つ支持機構を構成し測定装置を作製した。弾性体4がリード線5のほぼ中央を横断する位置で狭持し、共振周波数を測定したところ、上述した測定方法による結果と同様に精度よく測定されていることを確認した。なお、本発明の測定装置は本実施例に限定されるものではなく、本発明の測定方法を用いたものであればよい。
【0031】
以上説明したとおり、本発明によると、リード線の振動の影響が小さく、共振周波数を精度良く測定できる圧電振動子の測定方法が得られ、また、量産等に適した複数個の測定が可能となる測定装置への応用も可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 圧電振動子
2 圧電セラミックス
3 電極
4 弾性体
5 リード線
6 コンタクトプローブ
7 インピーダンスアナライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミックスの対向する面にそれぞれ電極が形成され、前記電極に電気信号を入出力するリード線が電気的に接続された圧電振動子の測定方法であって、前記リード線の少なくとも一部を横断するように弾性体で狭持することを特徴とする圧電振動子の測定方法。
【請求項2】
前記弾性体は、JIS K 6253で規定される国際ゴム硬さが40以下(0を含まず)であることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動子の測定方法。
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載の圧電振動子の測定方法を用いた測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−84754(P2012−84754A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231051(P2010−231051)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】