圧電振動子及びこの圧電振動子を備えた発振器
【課題】広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の圧電振動子及びこの圧電振動子を備えた発振器を提供すること。
【解決手段】共通の圧電板1に振動部11、21を設けて、これら振動部11、21を囲む枠状体31を配置すると共に、枠状体31に対して振動部11、21を夫々支持する支持部12、22を圧電板1に設ける。また、振動部11、21の励振電極13、23に夫々接続される電極パッド15、25を枠状体31に設けると共に、これら振動部11、21間に、例えば圧電板1の双晶化により形成される弾性境界領域32を配置して、圧電板1の振動の伝搬を抑制する。更に、第1の支持部12及び第2の支持部22に弾性境界領域32を設ける。
【解決手段】共通の圧電板1に振動部11、21を設けて、これら振動部11、21を囲む枠状体31を配置すると共に、枠状体31に対して振動部11、21を夫々支持する支持部12、22を圧電板1に設ける。また、振動部11、21の励振電極13、23に夫々接続される電極パッド15、25を枠状体31に設けると共に、これら振動部11、21間に、例えば圧電板1の双晶化により形成される弾性境界領域32を配置して、圧電板1の振動の伝搬を抑制する。更に、第1の支持部12及び第2の支持部22に弾性境界領域32を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電板を厚さ方向から挟むように励振電極を形成した圧電振動子及びこの圧電振動子を備えた発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば水晶などからなる圧電板の上下両面に励振電極を形成した水晶(圧電)振動子は、安定した周波数信号を出力する基準周波数源として、例えばTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)などの発振器に広く使用されている。このTCXOは、感温素子を用いた温度補償回路を備えており、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号が得られると共に、小型で軽量という利点がある。そして、より一層安定した周波数信号が得られるTCXOとして、例えば特許文献1に記載されているように、共通の圧電板に2つの振動子を形成して、これら振動子の一方を温度センサとして利用する構成が知られている。
【0003】
ところで、電子機器の小型化が進むにつれて、水晶振動子についても小型化が求められており、特許文献2に記載されているように、例えば外枠体により片持ちあるいは両持ちで支持された振動子をフォトリソグラフィー法により製造する手法が知られている。
しかしながら、これら特許文献1、2あるいは特許文献3〜12には、フォトリソグラフィー法を用いてTCXOを形成する技術や、TCXOに対して電気信号の入出力を行うための引き出し電極については具体的に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−33195
【特許文献2】特開平7−212171
【特許文献3】特開昭53−3179
【特許文献4】特開2004−146965
【特許文献5】特開2008−22378
【特許文献6】特開2011−35546
【特許文献7】特開2011−41113
【特許文献8】特開2003−23339
【特許文献9】特開平5−160659
【特許文献10】特開昭61−238116
【特許文献11】特開昭61−13809
【特許文献12】特開2001−144578
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の圧電振動子及びこの圧電振動子を備えた発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圧電振動子は、
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
この枠状体の左側部分から、前記第1の振動部を支持するために当該第1の振動部に向かって伸びる第1の支持部、及び前記枠状体の右側部分から、前記第2の振動部を支持するために当該第2の振動部に向かって伸びる第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、
前記第1の振動部と前記第2の振動部との間、前記第1の支持部、及び前記第2の支持部の少なくとも1箇所に形成され、圧電板の振動の伝搬を抑制するための境界領域と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
前記第1の電極パッド及び前記第2の電極パッドのうち一方の電極パッドは、当該電極パッドに接続される一方の振動部に対してこの電極パッドを介して応力が伝わることを抑えるために、前記枠状体上において他方の振動部側に寄った位置に配置されていても良い。
【0008】
本発明の圧電振動子は、
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
前記第1の振動部及び前記第2の振動部を夫々支持するために、前記枠状体から前記第1の振動部及び前記第2の振動部に向かって夫々伸びる第1の支持部及び第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の発振器は、
既述の圧電振動子と、
前記第1の電極パッドに接続される第1の発振回路と、
前記第2の振動部を温度センサーとして用いるために、前記第2の電極パッドに接続される第2の発振回路と、
前記第1の発振回路及び前記第2の発振回路の夫々の出力信号に基づいて設定周波数信号を得るための信号出力部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、共通の圧電板に第1の振動部及び第2の振動部を設けて、これら第1の振動部及び第2の振動部を囲む枠状体を配置すると共に、枠状体に対して第1の振動部及び第2の振動部を夫々支持する支持部を圧電板に設けている。そのため、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の圧電振動子を構成できる。また、枠状体の左側部分及び枠状体の右側部分に第1の振動部及び第2の振動部を夫々支持するための支持部を設けることにより、機械的強度に優れた圧電振動子を得ることができる。更に、第1の振動部及び第2の振動部の励振電極に夫々接続される電極パッドを枠状体に設けているので、電極パッド側からの機械的な応力や、圧電振動子の外部の温度変化による電極パッドの膨張収縮が各振動部へ伝達することを抑制できる。更にまた、第1の振動部と第2の振動部との間に、圧電板の振動の伝搬を抑制するための境界領域を設けることにより、これら振動部間での相互干渉を抑えることができる。また、第1の支持部及び第2の支持部の少なくとも1箇所に境界領域を設けることにより、振動部から支持部への振動エネルギーの漏出を抑えることができるので、安定した出力信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の水晶振動子の一例を示す斜視図である。
【図2】前記水晶振動子の表面側を示す平面図である。
【図3】前記水晶振動子の裏面側を示す平面図である。
【図4】前記水晶振動子を示す縦断面図である。
【図5】前記水晶振動子における弾性境界領域を形成する様子を模式的に示す縦断面図である。
【図6】前記水晶振動子の周波数特性を示す模式図である。
【図7】前記水晶振動子の周波数温度特性を示す模式図である。
【図8】前記水晶振動子を備えた発振器を示す回路図である。
【図9】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図10】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図11】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図12】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図13】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図14】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図15】前記水晶振動子の他の例を示す平面図である。
【図16】前記水晶振動子の他の例を示す平面図である。
【図17】前記水晶振動子の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の圧電振動子の実施の形態の一例である水晶振動子について、図1〜図7を参照して説明する。始めに、この水晶振動子の概略について説明すると、この水晶振動子は、図1に示すように、例えば水晶からなる共通の圧電板1において互いに対向するように配置された2つの振動部11、21を備えている。そして、圧電板1には、平面で見た時に隙間領域を介してこれら振動部11、21を囲むように配置された枠状体31が設けられており、振動部11、21は、夫々支持部12、22を介して枠状体31に支持されている。圧電板1は、この例では長手方向(図2中X方向)が結晶軸のX軸となるように切断されたATカット板により構成されている。図1中2、3は夫々水晶振動子を収納するために上方側が開口する概略箱形の外装体及びこの外装体の上面を塞ぐ蓋体であり、各々例えばアルミナ(Al2O3)などのセラミックスにより構成されると共に、例えば直接接合により互いに封止されている。また、図1中4は外装体2の床面に形成された入出力電極であり、この入出力電極4を介して水晶振動子に対して電気信号の入出力が行われる。尚、図1では蓋体3の一部を切り欠いている。
【0013】
これら振動部11、21の並ぶ方向を左右方向(図2中X方向)と呼ぶと共に、左側の振動部11及び右側の振動部21に夫々「第1」及び「第2」を付すと、第1の振動部11は、枠状体31において当該第1の振動部11よりも左側の部位(左側部分)からこの第1の振動部11に向かって互いに平行に伸びる第1の支持部12、12により支持されている。また、第2の振動部21は、枠状体31において当該第2の振動部21よりも右側の部位(右側部分)からこの第2の振動部21に向かって互いに平行に伸びる第2の支持部22、22により支持されている。そして、第1の振動部11の右端部と、第2の振動部21の左端部とは、互いに接続されている。従って、これら振動部11、21からなる構成は、支持部12、22を介して枠状体31により左右両持ちで支持されている。
【0014】
これら振動部11、21間の領域には、圧電板1の振動が当該領域を介して伝搬することを抑制するための弾性境界領域32が形成されている。この例では、弾性境界領域32は、圧電板1を双晶化させることによって形成されている。具体的には、この弾性境界領域32は、圧電板1が水晶のα−β転移点以上の温度となるように例えばレーザー光を当該圧電板1に照射して加熱することにより、水晶の電気軸即ちX軸を反転させることにより形成されたものであり、図4及び図5に示すように、前後方向(図2中Y方向)及び圧電板1の厚さ方向に亘って形成されている。
【0015】
即ち、この弾性境界領域32は、各振動部11、21における圧電板1とは物性(共振周波数)が異なるように当該圧電板1を変質させた領域であり、従って振動部11、21間では当該弾性境界領域32を介して圧電板1の振動が伝搬しにくくなっている。具体的には、例えば第1の振動部11で発生する振動は、前記弾性境界領域32を介して第2の振動部21に向かおうとするが、当該弾性境界領域32の共振周波数が第1の振動部11における共振周波数とは異なるので、この弾性境界領域32において振動が減衰し、従って第2の振動部21への伝達が阻害される。第2の振動部21で発生する振動についても同様に、弾性境界領域32によって第1の振動部11への伝搬が阻害される。尚、図1では弾性境界領域32を省略している。
【0016】
この弾性境界領域32は、図2〜図4にも示すように、各振動部11、21と枠状体31との間における支持部12、22にも形成されており、従って弾性境界領域32によって、各々の振動部11、21の振動エネルギーが支持部12、22を介して枠状体31に漏洩することが抑制されている。そのため、各振動部11、21では、圧電板1の振動に基づいて発生するエネルギーが閉じこめられていると言える。
【0017】
続いて、これら振動部11、21のうち第1の振動部11について説明する。第1の振動部11の上面側及び下面側には、圧電板1を厚さ方向から挟むように、互いに同じ膜厚例えば0.1μm程度となるように各々矩形に形成された一対の励振電極13a、13bが配置されている。圧電板1の上面(表面)側の励振電極13aには、2つの第1の支持部12、12のうち手前側の第1の支持部12の上面及び当該第1の支持部12の側面を介して圧電板1の下面(裏面)側に向かって伸び出す第1の引き出し電極14の一端側が接続されている。この第1の引き出し電極14の他端側は、図3に示すように、枠状体31の下面において当該枠状体31の角部に向かって伸び出して、第1の電極パッド15をなしている。尚、この実施の形態では、圧電板1を平面で見た時(表面側、図2)の前後方向を手前側及び奥側と呼んでいる。
【0018】
第1の電極パッド15の下方側には、外装体2の床面に形成された入出力電極4と当該第1の電極パッド15とを電気的に接続するために、導電材からなるバンプ(導電性接着剤)16が形成されている。このバンプ16の下方側における外装体2の下面には、図4に示すように、電極5が形成されており、当該蓋体3を上下方向に貫通するように設けられた貫通配線6を介して、第1の振動部11に対して入出力電極4から電気信号の入出力が行われるように構成されている。
【0019】
第1の振動部11の裏面側の励振電極13bには、図2及び図3に示すように、2つの支持部12、12のうち奥側の支持部12の裏面側に形成された引き出し電極14の一端側が接続されており、この引き出し電極14の他端側は、枠状体31の裏面側を奥側に向かって伸び出して第1の電極パッド15をなしている。この第1の電極パッド15は、同様にバンプ16及び貫通配線6を介して入出力電極4に接続されている。従って、第1の振動部11と第1の電極パッド15、15との間には、既述の弾性境界領域32が各々位置している。
【0020】
第2の振動部21は、平面で見た時に振動部11、21間の弾性境界領域32において当該弾性境界領域32の中心位置を介して点対称となるように配置されている。即ち、第2の振動部21の上面側及び下面側には、互いに同じ膜厚となるように形成された一対の励振電極23a、23bが配置されている。これら励振電極23a、23bの膜厚は、第1の振動部11の共振周波数と第2の振動部21の共振周波数とを互いに異なる値にするために、既述の励振電極13a、13bとは異なる寸法例えば0.3μm程度となっている。
【0021】
第2の振動部21の上面側の励振電極23aは、2つの支持部22、22のうち奥側の支持部22の上面側に形成された引き出し電極24の一端側に接続されている。この引き出し電極24の他端側は、図2中右側に伸び出すと共に圧電板1の下面側に回り込んで、枠状体31の角部において第2の電極パッド25をなしている。この第2の電極パッド25は、図4に示すように、バンプ26、電極5及び貫通配線6を介して外装体2の下方側の入出力電極4に接続されている。
【0022】
第2の振動部21の裏面側の励振電極23bには、2つの支持部22、22のうち手前側の支持部22の下面側に形成された引き出し電極24の一端側が接続されており、この引き出し電極24の他端側は、枠状体31の裏面側を手前側に向かって伸び出して第2の電極パッド25をなしている。この第2の電極パッド25についても、バンプ26、電極5及び貫通配線6を介して外装体2の下面側の入出力電極4に接続されている。従って、第2の振動部21についても、当該第2の振動部21と第2の電極パッド25、25との間には、弾性境界領域32が各々位置している。尚、図4では励振電極13、23の膜厚を誇張して大きく描画している。
【0023】
次に、この水晶振動子の製造方法について、簡単に説明する。始めに、厚み寸法が例えば100μm程度に切断されると共に上下両面が研磨された水晶からなるウエハに対して、例えばレジストマスクを用いたフォトリソグラフィー法及びウエットエッチングにより、枠状体31と振動部11、21との間の領域、枠状体31と支持部12、22との間の領域及び支持部12、12(22、22)間の領域に貫通孔を形成する。次いで、既に説明したように、例えばレーザー光を用いて水晶ウエハを部分的に加熱することにより、弾性境界領域32を形成する。
【0024】
続いて、水晶ウエハの上下両面に励振電極13a、13b、23a、23bを形成する。具体的には、励振電極13a、13bの形成される領域が開口すると共に当該領域以外を覆うようにパターニングされたレジストマスクを水晶ウエハ上に形成し、このウエハに対して例えばスパッタ法や無電解メッキなどにより例えば金(Au)などからなる金属膜を形成する。次に、水晶ウエハを例えば有機溶剤やアルカリ水溶液に浸漬し、レジストマスクと共に当該レジストマスク上に形成された余剰の金属膜を除去することにより、励振電極13a、13bを形成する。続いて、励振電極23a、23bの形成される領域が開口すると共に当該領域以外を覆うようにパターニングされたレジストマスクを水晶ウエハ上に形成し、先の手法と同様にして励振電極23a、23bを形成する。その後、同様の手法により引き出し電極14、24及び電極パッド15、25を形成した後、例えばダイシングにより圧電板1を個片化する。この圧電板1は、平面で見た時の寸法が例えば1650μm×3100μm程度となる。
【0025】
そして、入出力電極4、電極5及び貫通配線6の形成された外装体2の内部にバンプ16、26を配置すると共にこれらバンプ16、26の上方側に圧電板1を収納する。次いで、例えばレーザー光の照射によりバンプ16、26を溶融させて、入出力電極4と水晶振動子(励振電極13、23)とを電気的に導通させる。続いて、真空雰囲気において蓋体3を用いて外装体2の開口部を気密に塞ぐと共に、外装体2と蓋体3とを加熱しながら互いに押圧することにより、これら外装体2と蓋体3とを直接接合する。
【0026】
従って、励振電極13a、13bの膜厚と励振電極23a、23bの膜厚とを互いにずらしていることから、例えば図6に示すように、第1の振動部11の共振周波数と第2の振動部21の共振周波数とが互いに異なる値となる。また、共通の圧電板1に2つの振動部11、21を形成していることから、これら振動部11、21の置かれる雰囲気の温度がほぼ揃う。従って、図7に示すように、これら振動部11、21の各々の温度特性(温度変化に対して共振周波数が変化する度合い)についても互いに揃う。尚、図6及び図7は、各々の振動部11、21の特性を模式的に示している。
【0027】
続いて、以上説明した水晶振動子を備えた発振器の一例について、既述のTCXOを例に挙げて図8を参照して説明する。このTCXOは、外部に設定周波数f0の信号を出力するための回路であり、TCXOの外部の温度変化に依らずに、あるいは外部の温度変化の影響を抑えて、この設定周波数f0を出力できるように構成されている。この設定周波数f0は、基準温度T0例えば29℃において、基準電圧V0を第1の発振回路17に印加した時に得られる出力周波数である。
【0028】
第1の振動部11には、電極パッド15、15を介して第1の発振回路17が接続されており、第2の振動部21には、同様に電極パッド25、25を介して、当該第2の振動部21を温度センサーとして用いるための第2の発振回路27が接続されている。そして、これら発振回路17、27間には、第2の発振回路27から入力される温度補償用の周波数信号に基づいて水晶振動子の温度を推定し、この温度において第1の発振回路17にて設定周波数f0が得られる制御電圧Vc(Vc=V0−ΔV)を演算するための制御電圧供給部41が信号出力部として設けられている。図8中42は、第2の発振回路27に制御電圧V10が入力される入力端であり、43は発振器の出力端である。また、図8中44はバリキャップダイオードである。
【0029】
具体的には、制御電圧供給部41は、第2の発振回路27から入力される周波数信号から周波数fを計測するための例えば周波数カウンターなどからなる周波数検出部45と、この周波数検出部45において計測した周波数fに基づいて温度Tを推定する温度推定部46と、温度推定部46において推定した温度Tに基づいて補償電圧ΔVを演算するための補償電圧演算部47と、補償電圧演算部47にて演算された補償電圧ΔVを基準電圧V0から減算した制御電圧Vcを第1の発振回路17に出力するための加算部48と、を備えている。温度推定部46には、以下の(1)式に示す第2の発振回路27の周波数温度特性(例えば3次関数)が記憶されており、この温度特性と第2の発振回路27の発振周波数fとに基づいて、水晶振動子の温度が求められる。
f=f10{1+α2(T−T10)3+β2(T−T10)+γ2} ・・・(1)
【0030】
また、補償電圧演算部47は、第1の発振回路17の温度特性である例えば3次関数発生器を備えており、以下の(2)〜(4)式及び温度Tに基づいて、補償電圧ΔVを求めるように構成されている。
ΔV=V0(Δf/f0) ・・・(2)
Δf/f0=α1(T−T0)3+β1(T−T0)+γ1 ・・・(3)
ΔV=V0{α1(T−T0)3+β1(T−T0)+γ1}・・ ・(4)
α1、β1、γ1及びα2、β2、γ2は夫々第1の発振回路17及び第2の発振回路27に固有の定数であり、温度や基準電圧を種々変えて出力周波数を測定することにより求められる。尚、Δf=f−f0であり、またf10は第2の発振回路27において基準温度T10にて基準電圧V10を印加した時に得られる出力周波数である。
【0031】
この発振器において入力端42に制御電圧V10を入力すると、第2の発振回路27では、水晶振動子の温度Tに基づいて、既述の式(1)で求められる発振周波数fにおいて基本波の厚み滑り振動で発振する。この発振周波数fは、既述のように周波数検出部45を介して温度推定部46に入力され、この温度推定部46において水晶振動子の温度Tが推定される。そして、補償電圧演算部47では、温度推定部46にて得られた温度Tに基づいて補償電圧ΔVが演算され、加算部48を介して制御電圧Vcが第1の発振回路17に印加される。第1の発振回路17では、水晶振動子の温度T及び制御電圧Vcに応じた発振周波数f、即ち設定周波数f0において厚み滑り振動で振動する。つまり、温度Tでは、第1の発振回路17は、基準温度T0との差分(T−To)だけ、当該第1の発振回路17の周波数温度特性の3次関数に沿って発振周波数fが設定周波数f0からずれようとする。しかし、設定周波数f0が得られる制御電圧Vcを第1の発振回路17に印加していることから、即ち前記差分に対応する分だけ基準電圧V0よりも低い(あるいは高い)制御電圧Vcを印加していることから、当該差分を相殺した出力周波数(設定周波数f0)が得られる。
【0032】
上述の実施の形態によれば、共通の圧電板1に振動部11、21を設けて、これら振動部11、21を囲む枠状体31を配置すると共に、枠状体31に対して振動部11、21を夫々支持する支持部12、22を圧電板1に設けている。そのため、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の水晶振動子を構成できる。また、水晶振動子は、図2などから分かるように、平面で見た時に、振動部11、21間を通る直線を介して長辺方向(X方向)において線対称となり、且つ支持部12、12間及び支持部22、22間を各々通る直線を介して短辺方向(Y方向)においても線対称となっている。そのため、例えば当該水晶振動子の外部から加わる応力が均等に分散されるので、良好な機械的強度が得られる。言い換えると、このように上下対称且つ左右対称に構成することにより、良好な機械的耐性が得られる。
【0033】
また、振動部11、21の励振電極13、23に夫々接続される電極パッド15、25を枠状体31に設けているので、外装体2側からの機械的な応力や、圧電振動子の外部の温度変化による電極パッド15、25の膨張収縮が電極パッド15、25を介して各振動部11、21へ伝達することを抑制できる。更に、これら振動部11、21間に、圧電板1の振動の伝搬を抑制するための弾性境界領域32を設けることにより、振動部11、21間での相互干渉を抑えることができる。従って、広い温度範囲に亘って安定した出力周波数を得ることができる。更にまた、第1の支持部12及び第2の支持部22に弾性境界領域32を設けることにより、振動部11、21から支持部12、22への振動エネルギーの漏出を抑えることができるので、安定した出力信号を得ることができ、またCI(クリスタルインピーダンス)値の劣化(増大)を抑えることができる。また、本発明の水晶振動子では、良好な熱ヒステリシス特性が得られる。
【0034】
以上説明した水晶振動子の他の例について、以下に列挙する。弾性境界領域32として、圧電板1を双晶化した例を説明したが、非晶質化しても良い。また、図9は、弾性境界領域32として、圧電板1を双晶化することに代えて、上下両面に溝33を形成した例を示している。この溝33は、例えば励振電極13、23を形成する前に、例えばウエットエッチングにより形成される。このように圧電板1に溝33を形成することにより、弾性境界領域32では、振動部11、21の形成された領域よりも圧電板1の膜厚が薄くなる。そのため、弾性境界領域32では、振動部11、21に対して共振周波数が変わるので、圧電板1の振動が伝搬しにくくなり、既述と同様の効果が得られる。尚、図9では、支持部12、22における弾性境界領域32については描画を省略している。以降の図10、10についても同様である。
【0035】
この時、振動部11、21間に貫通孔を形成し、いわば振動部11、21を切り離した場合には、これら振動部11、21間において音響結合が起こり、振動エネルギーが伝搬してしまうので、貫通孔ではなく溝33を形成することが好ましい。また、溝33としては、上面側及び下面側のいずれかだけに形成しても良く、図10は圧電板1の上面側に溝33を形成した例を示している。
【0036】
また、弾性境界領域32としては、圧電板1を双晶化したり溝33を形成したりすることに代えて、図11に示すように、凸部34を設けても良い。この凸部34の厚み寸法は、各振動部11、21における圧電板1の例えば2倍程度に設定される。このような凸部34を備えた水晶振動子を製造する場合には、例えば当該凸部34の厚み寸法となるように圧電板1を形成した後、フォトリソグラフィー法及びウエットエッチングにより弾性境界領域32以外の領域(各振動部11、21など)を薄膜化し、続いて励振電極13、23などを成膜することにより形成される。凸部34を設けることにより、溝33を形成した場合と同様に共振周波数が振動部11、21の形成された領域とは異なる値になるので、既述の各例と同様の効果が得られる。また、凸部34を設けることにより、圧電板1が他の部位(振動部11、21)よりも厚くなるので、圧電板1の機械的強度が向上する。凸部34についても、図11のように上下両面に設けても良いし、上面側及び下面側のいずれかだけに設けても良い。
【0037】
また、図12は、弾性境界領域32を振動部11、21間にだけ形成して、支持部12、22には形成しない例を示している。図13は、振動部11、21間には弾性境界領域32を形成せずに、支持部12、22に各々形成した例を示している。更に、図14は、振動部11、21間及び支持部22には弾性境界領域32を形成せずに、支持部12にだけ弾性境界領域32を形成した例を示している。このように、本発明は、振動部11、21間、支持部12、22のうち少なくとも1カ所に弾性境界領域32を設けても良い。
【0038】
以上説明した圧電板1として、長手方向が結晶軸のX軸となるように切り出したATカット板を例に挙げたが、長手方向がZ軸となるATカット板を用いても良い。また、圧電板1として、自然面であるr面が上下両面に露出した基板を用いても良い。このr面を圧電板1の上下面に形成する場合には、例えば圧電板1の側面側などに金属からなるマスクを形成し、続いて上下両面にr面が露出するまで例えばフッ化アンモニウム(NH4F)液などに圧電板1を浸漬する。その後、この圧電板1に対して弾性境界領域32や励振電極13、23などを形成する。更に、圧電板1として、水晶の結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心にして約33°回転させ、かつこの位置から新しいZ‘軸を中心にして約22°回転させた面から切り出したSCカット板を用いても良い。このSCカット板を用いる場合には、弾性境界領域32としては、フェムト秒レーザーを照射することにより圧電板1を非晶質化しても良い。このSCカット板は、後述のOCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)に好適に用いられる。
【0039】
また、図15に示すように、バンプ16、26を支持部12、22から離間させた位置に設けても良い。この例では、バンプ16については第1の振動部11よりも第2の振動部21側における枠状体31に形成すると共に、バンプ26については、第2の振動部21よりも第1の振動部11側における枠状体31に形成している。言い換えると、これらバンプ16、26は、圧電板1を囲む周面において、支持部12、22から夫々できるだけ離間するように配置されていると言える。従って、これらバンプ16、26は、互いに近接した位置に配置されることになる。このようにバンプ16、26と支持部12、22とを離間させることにより、バンプ16、26側(外装体2)からの機械応力や熱応力の影響をより一層抑えることができる。
【0040】
また、図16に示すように、弾性境界領域32を形成しなくても良い。更に、振動部11、21からなる構成を左右両側から支持することに代えて、図17に示すように、例えば手前側からこれら振動部11、21を各々片持ちで支持するようにしても良い。このような構成においても、既述の各例と同様に弾性境界領域32を形成しても良い。
【0041】
本発明の水晶振動子を備えた発振器として、図8に示すTCXOを例に挙げたが、振動部11、21の周波数温度特性が揃っていることから、これら振動部11、21間の周波数の差分は、広い温度範囲においてほぼ一定の値となる。従って、この差分を設定周波数f0として利用しても良い。この場合には、前記差分を計算する算出部が信号出力部をなす。また、このTCXOにおける第1の振動部11の後段側(第1の振動部11と出力端43との間)に、波形整形用のフィルタを設けても良い。そして、この波形整形用のフィルタとして、第1の振動部11や第2の振動部21と共通の圧電板1に、これら振動部11、12と同様に一対の励振電極を設けた水晶振動子を用いることにより、振動部11、12とフィルタとの周波数温度特性が揃う。そのため、このようなフィルタを用いることにより、第1の振動部11から出力される出力信号の波形が乱れずに、良好な波形の信号が得られる。
【0042】
また、TCXO以外にも、OCXOに本発明の水晶振動子を適用しても良い。この場合には、OCXOのヒータを制御する時に用いられる温度検出用のセンサに代えて本発明の水晶振動子を用いることにより、具体的には振動部11、21の発振周波数の差を算出して、この差を温度検出用の信号として利用することにより、小型のOCXOが得られる。
【符号の説明】
【0043】
1 圧電板
11、21 振動部
12、22 支持部
13、23 励振電極
14、24 引き出し電極
17、27 発振回路
31 枠状体
32 弾性境界領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電板を厚さ方向から挟むように励振電極を形成した圧電振動子及びこの圧電振動子を備えた発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば水晶などからなる圧電板の上下両面に励振電極を形成した水晶(圧電)振動子は、安定した周波数信号を出力する基準周波数源として、例えばTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)などの発振器に広く使用されている。このTCXOは、感温素子を用いた温度補償回路を備えており、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号が得られると共に、小型で軽量という利点がある。そして、より一層安定した周波数信号が得られるTCXOとして、例えば特許文献1に記載されているように、共通の圧電板に2つの振動子を形成して、これら振動子の一方を温度センサとして利用する構成が知られている。
【0003】
ところで、電子機器の小型化が進むにつれて、水晶振動子についても小型化が求められており、特許文献2に記載されているように、例えば外枠体により片持ちあるいは両持ちで支持された振動子をフォトリソグラフィー法により製造する手法が知られている。
しかしながら、これら特許文献1、2あるいは特許文献3〜12には、フォトリソグラフィー法を用いてTCXOを形成する技術や、TCXOに対して電気信号の入出力を行うための引き出し電極については具体的に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−33195
【特許文献2】特開平7−212171
【特許文献3】特開昭53−3179
【特許文献4】特開2004−146965
【特許文献5】特開2008−22378
【特許文献6】特開2011−35546
【特許文献7】特開2011−41113
【特許文献8】特開2003−23339
【特許文献9】特開平5−160659
【特許文献10】特開昭61−238116
【特許文献11】特開昭61−13809
【特許文献12】特開2001−144578
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の圧電振動子及びこの圧電振動子を備えた発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の圧電振動子は、
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
この枠状体の左側部分から、前記第1の振動部を支持するために当該第1の振動部に向かって伸びる第1の支持部、及び前記枠状体の右側部分から、前記第2の振動部を支持するために当該第2の振動部に向かって伸びる第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、
前記第1の振動部と前記第2の振動部との間、前記第1の支持部、及び前記第2の支持部の少なくとも1箇所に形成され、圧電板の振動の伝搬を抑制するための境界領域と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
前記第1の電極パッド及び前記第2の電極パッドのうち一方の電極パッドは、当該電極パッドに接続される一方の振動部に対してこの電極パッドを介して応力が伝わることを抑えるために、前記枠状体上において他方の振動部側に寄った位置に配置されていても良い。
【0008】
本発明の圧電振動子は、
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
前記第1の振動部及び前記第2の振動部を夫々支持するために、前記枠状体から前記第1の振動部及び前記第2の振動部に向かって夫々伸びる第1の支持部及び第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の発振器は、
既述の圧電振動子と、
前記第1の電極パッドに接続される第1の発振回路と、
前記第2の振動部を温度センサーとして用いるために、前記第2の電極パッドに接続される第2の発振回路と、
前記第1の発振回路及び前記第2の発振回路の夫々の出力信号に基づいて設定周波数信号を得るための信号出力部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、共通の圧電板に第1の振動部及び第2の振動部を設けて、これら第1の振動部及び第2の振動部を囲む枠状体を配置すると共に、枠状体に対して第1の振動部及び第2の振動部を夫々支持する支持部を圧電板に設けている。そのため、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の圧電振動子を構成できる。また、枠状体の左側部分及び枠状体の右側部分に第1の振動部及び第2の振動部を夫々支持するための支持部を設けることにより、機械的強度に優れた圧電振動子を得ることができる。更に、第1の振動部及び第2の振動部の励振電極に夫々接続される電極パッドを枠状体に設けているので、電極パッド側からの機械的な応力や、圧電振動子の外部の温度変化による電極パッドの膨張収縮が各振動部へ伝達することを抑制できる。更にまた、第1の振動部と第2の振動部との間に、圧電板の振動の伝搬を抑制するための境界領域を設けることにより、これら振動部間での相互干渉を抑えることができる。また、第1の支持部及び第2の支持部の少なくとも1箇所に境界領域を設けることにより、振動部から支持部への振動エネルギーの漏出を抑えることができるので、安定した出力信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の水晶振動子の一例を示す斜視図である。
【図2】前記水晶振動子の表面側を示す平面図である。
【図3】前記水晶振動子の裏面側を示す平面図である。
【図4】前記水晶振動子を示す縦断面図である。
【図5】前記水晶振動子における弾性境界領域を形成する様子を模式的に示す縦断面図である。
【図6】前記水晶振動子の周波数特性を示す模式図である。
【図7】前記水晶振動子の周波数温度特性を示す模式図である。
【図8】前記水晶振動子を備えた発振器を示す回路図である。
【図9】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図10】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図11】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図12】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図13】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図14】前記水晶振動子の他の例を示す縦断面図である。
【図15】前記水晶振動子の他の例を示す平面図である。
【図16】前記水晶振動子の他の例を示す平面図である。
【図17】前記水晶振動子の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の圧電振動子の実施の形態の一例である水晶振動子について、図1〜図7を参照して説明する。始めに、この水晶振動子の概略について説明すると、この水晶振動子は、図1に示すように、例えば水晶からなる共通の圧電板1において互いに対向するように配置された2つの振動部11、21を備えている。そして、圧電板1には、平面で見た時に隙間領域を介してこれら振動部11、21を囲むように配置された枠状体31が設けられており、振動部11、21は、夫々支持部12、22を介して枠状体31に支持されている。圧電板1は、この例では長手方向(図2中X方向)が結晶軸のX軸となるように切断されたATカット板により構成されている。図1中2、3は夫々水晶振動子を収納するために上方側が開口する概略箱形の外装体及びこの外装体の上面を塞ぐ蓋体であり、各々例えばアルミナ(Al2O3)などのセラミックスにより構成されると共に、例えば直接接合により互いに封止されている。また、図1中4は外装体2の床面に形成された入出力電極であり、この入出力電極4を介して水晶振動子に対して電気信号の入出力が行われる。尚、図1では蓋体3の一部を切り欠いている。
【0013】
これら振動部11、21の並ぶ方向を左右方向(図2中X方向)と呼ぶと共に、左側の振動部11及び右側の振動部21に夫々「第1」及び「第2」を付すと、第1の振動部11は、枠状体31において当該第1の振動部11よりも左側の部位(左側部分)からこの第1の振動部11に向かって互いに平行に伸びる第1の支持部12、12により支持されている。また、第2の振動部21は、枠状体31において当該第2の振動部21よりも右側の部位(右側部分)からこの第2の振動部21に向かって互いに平行に伸びる第2の支持部22、22により支持されている。そして、第1の振動部11の右端部と、第2の振動部21の左端部とは、互いに接続されている。従って、これら振動部11、21からなる構成は、支持部12、22を介して枠状体31により左右両持ちで支持されている。
【0014】
これら振動部11、21間の領域には、圧電板1の振動が当該領域を介して伝搬することを抑制するための弾性境界領域32が形成されている。この例では、弾性境界領域32は、圧電板1を双晶化させることによって形成されている。具体的には、この弾性境界領域32は、圧電板1が水晶のα−β転移点以上の温度となるように例えばレーザー光を当該圧電板1に照射して加熱することにより、水晶の電気軸即ちX軸を反転させることにより形成されたものであり、図4及び図5に示すように、前後方向(図2中Y方向)及び圧電板1の厚さ方向に亘って形成されている。
【0015】
即ち、この弾性境界領域32は、各振動部11、21における圧電板1とは物性(共振周波数)が異なるように当該圧電板1を変質させた領域であり、従って振動部11、21間では当該弾性境界領域32を介して圧電板1の振動が伝搬しにくくなっている。具体的には、例えば第1の振動部11で発生する振動は、前記弾性境界領域32を介して第2の振動部21に向かおうとするが、当該弾性境界領域32の共振周波数が第1の振動部11における共振周波数とは異なるので、この弾性境界領域32において振動が減衰し、従って第2の振動部21への伝達が阻害される。第2の振動部21で発生する振動についても同様に、弾性境界領域32によって第1の振動部11への伝搬が阻害される。尚、図1では弾性境界領域32を省略している。
【0016】
この弾性境界領域32は、図2〜図4にも示すように、各振動部11、21と枠状体31との間における支持部12、22にも形成されており、従って弾性境界領域32によって、各々の振動部11、21の振動エネルギーが支持部12、22を介して枠状体31に漏洩することが抑制されている。そのため、各振動部11、21では、圧電板1の振動に基づいて発生するエネルギーが閉じこめられていると言える。
【0017】
続いて、これら振動部11、21のうち第1の振動部11について説明する。第1の振動部11の上面側及び下面側には、圧電板1を厚さ方向から挟むように、互いに同じ膜厚例えば0.1μm程度となるように各々矩形に形成された一対の励振電極13a、13bが配置されている。圧電板1の上面(表面)側の励振電極13aには、2つの第1の支持部12、12のうち手前側の第1の支持部12の上面及び当該第1の支持部12の側面を介して圧電板1の下面(裏面)側に向かって伸び出す第1の引き出し電極14の一端側が接続されている。この第1の引き出し電極14の他端側は、図3に示すように、枠状体31の下面において当該枠状体31の角部に向かって伸び出して、第1の電極パッド15をなしている。尚、この実施の形態では、圧電板1を平面で見た時(表面側、図2)の前後方向を手前側及び奥側と呼んでいる。
【0018】
第1の電極パッド15の下方側には、外装体2の床面に形成された入出力電極4と当該第1の電極パッド15とを電気的に接続するために、導電材からなるバンプ(導電性接着剤)16が形成されている。このバンプ16の下方側における外装体2の下面には、図4に示すように、電極5が形成されており、当該蓋体3を上下方向に貫通するように設けられた貫通配線6を介して、第1の振動部11に対して入出力電極4から電気信号の入出力が行われるように構成されている。
【0019】
第1の振動部11の裏面側の励振電極13bには、図2及び図3に示すように、2つの支持部12、12のうち奥側の支持部12の裏面側に形成された引き出し電極14の一端側が接続されており、この引き出し電極14の他端側は、枠状体31の裏面側を奥側に向かって伸び出して第1の電極パッド15をなしている。この第1の電極パッド15は、同様にバンプ16及び貫通配線6を介して入出力電極4に接続されている。従って、第1の振動部11と第1の電極パッド15、15との間には、既述の弾性境界領域32が各々位置している。
【0020】
第2の振動部21は、平面で見た時に振動部11、21間の弾性境界領域32において当該弾性境界領域32の中心位置を介して点対称となるように配置されている。即ち、第2の振動部21の上面側及び下面側には、互いに同じ膜厚となるように形成された一対の励振電極23a、23bが配置されている。これら励振電極23a、23bの膜厚は、第1の振動部11の共振周波数と第2の振動部21の共振周波数とを互いに異なる値にするために、既述の励振電極13a、13bとは異なる寸法例えば0.3μm程度となっている。
【0021】
第2の振動部21の上面側の励振電極23aは、2つの支持部22、22のうち奥側の支持部22の上面側に形成された引き出し電極24の一端側に接続されている。この引き出し電極24の他端側は、図2中右側に伸び出すと共に圧電板1の下面側に回り込んで、枠状体31の角部において第2の電極パッド25をなしている。この第2の電極パッド25は、図4に示すように、バンプ26、電極5及び貫通配線6を介して外装体2の下方側の入出力電極4に接続されている。
【0022】
第2の振動部21の裏面側の励振電極23bには、2つの支持部22、22のうち手前側の支持部22の下面側に形成された引き出し電極24の一端側が接続されており、この引き出し電極24の他端側は、枠状体31の裏面側を手前側に向かって伸び出して第2の電極パッド25をなしている。この第2の電極パッド25についても、バンプ26、電極5及び貫通配線6を介して外装体2の下面側の入出力電極4に接続されている。従って、第2の振動部21についても、当該第2の振動部21と第2の電極パッド25、25との間には、弾性境界領域32が各々位置している。尚、図4では励振電極13、23の膜厚を誇張して大きく描画している。
【0023】
次に、この水晶振動子の製造方法について、簡単に説明する。始めに、厚み寸法が例えば100μm程度に切断されると共に上下両面が研磨された水晶からなるウエハに対して、例えばレジストマスクを用いたフォトリソグラフィー法及びウエットエッチングにより、枠状体31と振動部11、21との間の領域、枠状体31と支持部12、22との間の領域及び支持部12、12(22、22)間の領域に貫通孔を形成する。次いで、既に説明したように、例えばレーザー光を用いて水晶ウエハを部分的に加熱することにより、弾性境界領域32を形成する。
【0024】
続いて、水晶ウエハの上下両面に励振電極13a、13b、23a、23bを形成する。具体的には、励振電極13a、13bの形成される領域が開口すると共に当該領域以外を覆うようにパターニングされたレジストマスクを水晶ウエハ上に形成し、このウエハに対して例えばスパッタ法や無電解メッキなどにより例えば金(Au)などからなる金属膜を形成する。次に、水晶ウエハを例えば有機溶剤やアルカリ水溶液に浸漬し、レジストマスクと共に当該レジストマスク上に形成された余剰の金属膜を除去することにより、励振電極13a、13bを形成する。続いて、励振電極23a、23bの形成される領域が開口すると共に当該領域以外を覆うようにパターニングされたレジストマスクを水晶ウエハ上に形成し、先の手法と同様にして励振電極23a、23bを形成する。その後、同様の手法により引き出し電極14、24及び電極パッド15、25を形成した後、例えばダイシングにより圧電板1を個片化する。この圧電板1は、平面で見た時の寸法が例えば1650μm×3100μm程度となる。
【0025】
そして、入出力電極4、電極5及び貫通配線6の形成された外装体2の内部にバンプ16、26を配置すると共にこれらバンプ16、26の上方側に圧電板1を収納する。次いで、例えばレーザー光の照射によりバンプ16、26を溶融させて、入出力電極4と水晶振動子(励振電極13、23)とを電気的に導通させる。続いて、真空雰囲気において蓋体3を用いて外装体2の開口部を気密に塞ぐと共に、外装体2と蓋体3とを加熱しながら互いに押圧することにより、これら外装体2と蓋体3とを直接接合する。
【0026】
従って、励振電極13a、13bの膜厚と励振電極23a、23bの膜厚とを互いにずらしていることから、例えば図6に示すように、第1の振動部11の共振周波数と第2の振動部21の共振周波数とが互いに異なる値となる。また、共通の圧電板1に2つの振動部11、21を形成していることから、これら振動部11、21の置かれる雰囲気の温度がほぼ揃う。従って、図7に示すように、これら振動部11、21の各々の温度特性(温度変化に対して共振周波数が変化する度合い)についても互いに揃う。尚、図6及び図7は、各々の振動部11、21の特性を模式的に示している。
【0027】
続いて、以上説明した水晶振動子を備えた発振器の一例について、既述のTCXOを例に挙げて図8を参照して説明する。このTCXOは、外部に設定周波数f0の信号を出力するための回路であり、TCXOの外部の温度変化に依らずに、あるいは外部の温度変化の影響を抑えて、この設定周波数f0を出力できるように構成されている。この設定周波数f0は、基準温度T0例えば29℃において、基準電圧V0を第1の発振回路17に印加した時に得られる出力周波数である。
【0028】
第1の振動部11には、電極パッド15、15を介して第1の発振回路17が接続されており、第2の振動部21には、同様に電極パッド25、25を介して、当該第2の振動部21を温度センサーとして用いるための第2の発振回路27が接続されている。そして、これら発振回路17、27間には、第2の発振回路27から入力される温度補償用の周波数信号に基づいて水晶振動子の温度を推定し、この温度において第1の発振回路17にて設定周波数f0が得られる制御電圧Vc(Vc=V0−ΔV)を演算するための制御電圧供給部41が信号出力部として設けられている。図8中42は、第2の発振回路27に制御電圧V10が入力される入力端であり、43は発振器の出力端である。また、図8中44はバリキャップダイオードである。
【0029】
具体的には、制御電圧供給部41は、第2の発振回路27から入力される周波数信号から周波数fを計測するための例えば周波数カウンターなどからなる周波数検出部45と、この周波数検出部45において計測した周波数fに基づいて温度Tを推定する温度推定部46と、温度推定部46において推定した温度Tに基づいて補償電圧ΔVを演算するための補償電圧演算部47と、補償電圧演算部47にて演算された補償電圧ΔVを基準電圧V0から減算した制御電圧Vcを第1の発振回路17に出力するための加算部48と、を備えている。温度推定部46には、以下の(1)式に示す第2の発振回路27の周波数温度特性(例えば3次関数)が記憶されており、この温度特性と第2の発振回路27の発振周波数fとに基づいて、水晶振動子の温度が求められる。
f=f10{1+α2(T−T10)3+β2(T−T10)+γ2} ・・・(1)
【0030】
また、補償電圧演算部47は、第1の発振回路17の温度特性である例えば3次関数発生器を備えており、以下の(2)〜(4)式及び温度Tに基づいて、補償電圧ΔVを求めるように構成されている。
ΔV=V0(Δf/f0) ・・・(2)
Δf/f0=α1(T−T0)3+β1(T−T0)+γ1 ・・・(3)
ΔV=V0{α1(T−T0)3+β1(T−T0)+γ1}・・ ・(4)
α1、β1、γ1及びα2、β2、γ2は夫々第1の発振回路17及び第2の発振回路27に固有の定数であり、温度や基準電圧を種々変えて出力周波数を測定することにより求められる。尚、Δf=f−f0であり、またf10は第2の発振回路27において基準温度T10にて基準電圧V10を印加した時に得られる出力周波数である。
【0031】
この発振器において入力端42に制御電圧V10を入力すると、第2の発振回路27では、水晶振動子の温度Tに基づいて、既述の式(1)で求められる発振周波数fにおいて基本波の厚み滑り振動で発振する。この発振周波数fは、既述のように周波数検出部45を介して温度推定部46に入力され、この温度推定部46において水晶振動子の温度Tが推定される。そして、補償電圧演算部47では、温度推定部46にて得られた温度Tに基づいて補償電圧ΔVが演算され、加算部48を介して制御電圧Vcが第1の発振回路17に印加される。第1の発振回路17では、水晶振動子の温度T及び制御電圧Vcに応じた発振周波数f、即ち設定周波数f0において厚み滑り振動で振動する。つまり、温度Tでは、第1の発振回路17は、基準温度T0との差分(T−To)だけ、当該第1の発振回路17の周波数温度特性の3次関数に沿って発振周波数fが設定周波数f0からずれようとする。しかし、設定周波数f0が得られる制御電圧Vcを第1の発振回路17に印加していることから、即ち前記差分に対応する分だけ基準電圧V0よりも低い(あるいは高い)制御電圧Vcを印加していることから、当該差分を相殺した出力周波数(設定周波数f0)が得られる。
【0032】
上述の実施の形態によれば、共通の圧電板1に振動部11、21を設けて、これら振動部11、21を囲む枠状体31を配置すると共に、枠状体31に対して振動部11、21を夫々支持する支持部12、22を圧電板1に設けている。そのため、広い温度範囲に亘って安定した周波数信号を得るための小型の水晶振動子を構成できる。また、水晶振動子は、図2などから分かるように、平面で見た時に、振動部11、21間を通る直線を介して長辺方向(X方向)において線対称となり、且つ支持部12、12間及び支持部22、22間を各々通る直線を介して短辺方向(Y方向)においても線対称となっている。そのため、例えば当該水晶振動子の外部から加わる応力が均等に分散されるので、良好な機械的強度が得られる。言い換えると、このように上下対称且つ左右対称に構成することにより、良好な機械的耐性が得られる。
【0033】
また、振動部11、21の励振電極13、23に夫々接続される電極パッド15、25を枠状体31に設けているので、外装体2側からの機械的な応力や、圧電振動子の外部の温度変化による電極パッド15、25の膨張収縮が電極パッド15、25を介して各振動部11、21へ伝達することを抑制できる。更に、これら振動部11、21間に、圧電板1の振動の伝搬を抑制するための弾性境界領域32を設けることにより、振動部11、21間での相互干渉を抑えることができる。従って、広い温度範囲に亘って安定した出力周波数を得ることができる。更にまた、第1の支持部12及び第2の支持部22に弾性境界領域32を設けることにより、振動部11、21から支持部12、22への振動エネルギーの漏出を抑えることができるので、安定した出力信号を得ることができ、またCI(クリスタルインピーダンス)値の劣化(増大)を抑えることができる。また、本発明の水晶振動子では、良好な熱ヒステリシス特性が得られる。
【0034】
以上説明した水晶振動子の他の例について、以下に列挙する。弾性境界領域32として、圧電板1を双晶化した例を説明したが、非晶質化しても良い。また、図9は、弾性境界領域32として、圧電板1を双晶化することに代えて、上下両面に溝33を形成した例を示している。この溝33は、例えば励振電極13、23を形成する前に、例えばウエットエッチングにより形成される。このように圧電板1に溝33を形成することにより、弾性境界領域32では、振動部11、21の形成された領域よりも圧電板1の膜厚が薄くなる。そのため、弾性境界領域32では、振動部11、21に対して共振周波数が変わるので、圧電板1の振動が伝搬しにくくなり、既述と同様の効果が得られる。尚、図9では、支持部12、22における弾性境界領域32については描画を省略している。以降の図10、10についても同様である。
【0035】
この時、振動部11、21間に貫通孔を形成し、いわば振動部11、21を切り離した場合には、これら振動部11、21間において音響結合が起こり、振動エネルギーが伝搬してしまうので、貫通孔ではなく溝33を形成することが好ましい。また、溝33としては、上面側及び下面側のいずれかだけに形成しても良く、図10は圧電板1の上面側に溝33を形成した例を示している。
【0036】
また、弾性境界領域32としては、圧電板1を双晶化したり溝33を形成したりすることに代えて、図11に示すように、凸部34を設けても良い。この凸部34の厚み寸法は、各振動部11、21における圧電板1の例えば2倍程度に設定される。このような凸部34を備えた水晶振動子を製造する場合には、例えば当該凸部34の厚み寸法となるように圧電板1を形成した後、フォトリソグラフィー法及びウエットエッチングにより弾性境界領域32以外の領域(各振動部11、21など)を薄膜化し、続いて励振電極13、23などを成膜することにより形成される。凸部34を設けることにより、溝33を形成した場合と同様に共振周波数が振動部11、21の形成された領域とは異なる値になるので、既述の各例と同様の効果が得られる。また、凸部34を設けることにより、圧電板1が他の部位(振動部11、21)よりも厚くなるので、圧電板1の機械的強度が向上する。凸部34についても、図11のように上下両面に設けても良いし、上面側及び下面側のいずれかだけに設けても良い。
【0037】
また、図12は、弾性境界領域32を振動部11、21間にだけ形成して、支持部12、22には形成しない例を示している。図13は、振動部11、21間には弾性境界領域32を形成せずに、支持部12、22に各々形成した例を示している。更に、図14は、振動部11、21間及び支持部22には弾性境界領域32を形成せずに、支持部12にだけ弾性境界領域32を形成した例を示している。このように、本発明は、振動部11、21間、支持部12、22のうち少なくとも1カ所に弾性境界領域32を設けても良い。
【0038】
以上説明した圧電板1として、長手方向が結晶軸のX軸となるように切り出したATカット板を例に挙げたが、長手方向がZ軸となるATカット板を用いても良い。また、圧電板1として、自然面であるr面が上下両面に露出した基板を用いても良い。このr面を圧電板1の上下面に形成する場合には、例えば圧電板1の側面側などに金属からなるマスクを形成し、続いて上下両面にr面が露出するまで例えばフッ化アンモニウム(NH4F)液などに圧電板1を浸漬する。その後、この圧電板1に対して弾性境界領域32や励振電極13、23などを形成する。更に、圧電板1として、水晶の結晶軸のY軸に直交する面をX軸を中心にして約33°回転させ、かつこの位置から新しいZ‘軸を中心にして約22°回転させた面から切り出したSCカット板を用いても良い。このSCカット板を用いる場合には、弾性境界領域32としては、フェムト秒レーザーを照射することにより圧電板1を非晶質化しても良い。このSCカット板は、後述のOCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)に好適に用いられる。
【0039】
また、図15に示すように、バンプ16、26を支持部12、22から離間させた位置に設けても良い。この例では、バンプ16については第1の振動部11よりも第2の振動部21側における枠状体31に形成すると共に、バンプ26については、第2の振動部21よりも第1の振動部11側における枠状体31に形成している。言い換えると、これらバンプ16、26は、圧電板1を囲む周面において、支持部12、22から夫々できるだけ離間するように配置されていると言える。従って、これらバンプ16、26は、互いに近接した位置に配置されることになる。このようにバンプ16、26と支持部12、22とを離間させることにより、バンプ16、26側(外装体2)からの機械応力や熱応力の影響をより一層抑えることができる。
【0040】
また、図16に示すように、弾性境界領域32を形成しなくても良い。更に、振動部11、21からなる構成を左右両側から支持することに代えて、図17に示すように、例えば手前側からこれら振動部11、21を各々片持ちで支持するようにしても良い。このような構成においても、既述の各例と同様に弾性境界領域32を形成しても良い。
【0041】
本発明の水晶振動子を備えた発振器として、図8に示すTCXOを例に挙げたが、振動部11、21の周波数温度特性が揃っていることから、これら振動部11、21間の周波数の差分は、広い温度範囲においてほぼ一定の値となる。従って、この差分を設定周波数f0として利用しても良い。この場合には、前記差分を計算する算出部が信号出力部をなす。また、このTCXOにおける第1の振動部11の後段側(第1の振動部11と出力端43との間)に、波形整形用のフィルタを設けても良い。そして、この波形整形用のフィルタとして、第1の振動部11や第2の振動部21と共通の圧電板1に、これら振動部11、12と同様に一対の励振電極を設けた水晶振動子を用いることにより、振動部11、12とフィルタとの周波数温度特性が揃う。そのため、このようなフィルタを用いることにより、第1の振動部11から出力される出力信号の波形が乱れずに、良好な波形の信号が得られる。
【0042】
また、TCXO以外にも、OCXOに本発明の水晶振動子を適用しても良い。この場合には、OCXOのヒータを制御する時に用いられる温度検出用のセンサに代えて本発明の水晶振動子を用いることにより、具体的には振動部11、21の発振周波数の差を算出して、この差を温度検出用の信号として利用することにより、小型のOCXOが得られる。
【符号の説明】
【0043】
1 圧電板
11、21 振動部
12、22 支持部
13、23 励振電極
14、24 引き出し電極
17、27 発振回路
31 枠状体
32 弾性境界領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
この枠状体の左側部分から、前記第1の振動部を支持するために当該第1の振動部に向かって伸びる第1の支持部、及び前記枠状体の右側部分から、前記第2の振動部を支持するために当該第2の振動部に向かって伸びる第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、
前記第1の振動部と前記第2の振動部との間、前記第1の支持部、及び前記第2の支持部の少なくとも1箇所に形成され、圧電板の振動の伝搬を抑制するための境界領域と、を備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記第1の電極パッド及び前記第2の電極パッドのうち一方の電極パッドは、当該電極パッドに接続される一方の振動部に対してこの電極パッドを介して応力が伝わることを抑えるために、前記枠状体上において他方の振動部側に寄った位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項3】
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
前記第1の振動部及び前記第2の振動部を夫々支持するために、前記枠状体から前記第1の振動部及び前記第2の振動部に向かって夫々伸びる第1の支持部及び第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、を備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の圧電振動子と、
前記第1の電極パッドに接続される第1の発振回路と、
前記第2の振動部を温度センサーとして用いるために、前記第2の電極パッドに接続される第2の発振回路と、
前記第1の発振回路及び前記第2の発振回路の夫々の出力信号に基づいて設定周波数信号を得るための信号出力部と、を備えたことを特徴とする発振器。
【請求項1】
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
この枠状体の左側部分から、前記第1の振動部を支持するために当該第1の振動部に向かって伸びる第1の支持部、及び前記枠状体の右側部分から、前記第2の振動部を支持するために当該第2の振動部に向かって伸びる第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、
前記第1の振動部と前記第2の振動部との間、前記第1の支持部、及び前記第2の支持部の少なくとも1箇所に形成され、圧電板の振動の伝搬を抑制するための境界領域と、を備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記第1の電極パッド及び前記第2の電極パッドのうち一方の電極パッドは、当該電極パッドに接続される一方の振動部に対してこの電極パッドを介して応力が伝わることを抑えるために、前記枠状体上において他方の振動部側に寄った位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項3】
圧電板における互いに左右に並ぶ領域の各々の両面に一対の励振電極が設けられ、共振周波数が互いに異なるように構成された第1の振動部及び第2の振動部と、
これら第1の振動部及び第2の振動部を隙間領域を介して囲むように前記圧電板に形成された枠状体と、
前記第1の振動部及び前記第2の振動部を夫々支持するために、前記枠状体から前記第1の振動部及び前記第2の振動部に向かって夫々伸びる第1の支持部及び第2の支持部と、
前記第1の支持部上に形成され、前記第1の振動部の励振電極に接続された第1の引き出し電極、及び前記第2の支持部上に形成され、前記第2の振動部の励振電極に接続された第2の引き出し電極と、
前記枠状体に設けられ、前記第1の引き出し電極及び前記第2の引き出し電極に夫々接続される第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、を備えたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の圧電振動子と、
前記第1の電極パッドに接続される第1の発振回路と、
前記第2の振動部を温度センサーとして用いるために、前記第2の電極パッドに接続される第2の発振回路と、
前記第1の発振回路及び前記第2の発振回路の夫々の出力信号に基づいて設定周波数信号を得るための信号出力部と、を備えたことを特徴とする発振器。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−98841(P2013−98841A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241237(P2011−241237)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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