説明

圧電振動子及びこれを用いた温度センサー

【課題】常温から1000℃以上の高温の間で使用可能であり、急激な温度変化に対応して耐久性に優れる圧電振動子、及びこれを用いた温度センサーを提供する。
【解決手段】板状をなす圧電振動子片の表面及び裏面に夫々励振電極を備えてなり、圧電振動子片の素材は、ランガサイト構造を有する酸化物結晶材料からなり、励振電極が、酸化物結晶材料を構成する金属元素の少なくとも1種類を含む第1の金属薄膜と、白金族元素の少なくとも1種類を含む第2の金属薄膜と、高融点金属元素の少なくとも1種類を含む第3の金属薄膜を含む。酸化物結晶材料としてLTG、又はLTGAが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、250℃を超える温度で使用可能な圧電振動子に関し、特に、1000℃以上の高温まで使用可能であるとともに、急激な温度変化にも対応可能で、優れた耐久性を備える圧電振動子に関する。また、この圧電振動子を使用した温度センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子の振動特性が温度によって変化することを利用して、圧電振動子を温度センサーに用いることは従来から知られている。特許文献1には、圧電振動子の素材に水晶を用いた温度測定装置が記載されている。また、ネットワークアナライザを内蔵した測定器にこの温度センサーを複数接続することによって、多数点の温度を同時に測定することが可能であり、簡単な作業で測定できることが記載されている。
【0003】
しかしながら、水晶を使用する圧電振動子は、使用温度が250℃以下とされている。これに対して、最近では、拡散炉等において1000℃以上での処理が要求され、正確な温度分布の測定が要求されている。したがって、1000℃以上の高温で使用可能な圧電振動子が求められ、優れた周波数特性を備えるとともに、急激な温度変化にも対応可能であり、優れた耐久性を備える圧電振動子、及び温度センサーが求められている。
【0004】
特許文献2には、高温で使用できる圧電振動子の素材としてランガサイト構造を有する酸化物結晶を使用することが紹介されている。そして、この圧電振動子は、非常に広い温度範囲で使用することが可能であり、常温から1000〜1300℃の高温においても、安定した周波数特性を備えることが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された圧電振動子は、板状の圧電振動子片の表面及び裏面に形成する一対の励振電極の耐久性に問題を残している。すなわち、板状の圧電振動子片は、それ自身は耐熱性及び耐久性に優れているのであるが、表面及び裏面に形成した励振電極が剥離し易く、長期間安定した周波数特性を維持することができない。これは、圧電振動子を構成する酸化物結晶と、励振電極を構成する白金等の導電性材料との熱膨張係数の違いから、高温での使用や急激な温度変化を繰り返すことにより剥離を起こすものと考えられる。
【0006】
特許文献3には、電極剥離の問題を解決する技術が紹介されており、圧電振動子の励振電極についても記載されている。この励振電極は、ルテニウムやロジウム等の白金族元素の少なくとも1種類を含む金属薄膜と、タングステンやモリブデン等の高融点金属元素の少なくとも1種類を含む金属薄膜とを、2つの金属薄膜が積層するように、圧電振動子片の表面及び裏面に形成するものである。
【0007】
そこで、特許文献2に記載された素材を用いた圧電振動子片の表面及び裏面に、互いに対向するように、特許文献3に記載された2つの金属薄膜からなる励振電極を形成して、テスト用の圧電振動子を試作した。そして、高温における温度測定試験を行った結果、一定の効果は認められるものの、常温から1000℃の範囲における急激な温度変化を繰り返し行うと剥離を起こし、十分な耐久性を備えているとは言えないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−256519号公報
【特許文献2】特開2009−250843号公報
【特許文献3】特開2005−281767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、250℃以上の高温で使用することができる温度センサー用の圧電振動子であって、例えば、常温から1250℃の間で、1分間に50℃程度の温度変化に対応可能であり、耐久性に優れる圧電振動子を提供することにある。そして、拡散炉等の処理において、多数点の温度を同時に測定することが可能であり、かつ、簡単な作業で測定できることが可能な温度センサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る圧電振動子は、板状をなす圧電振動子片の表面及び裏面に互いに対向する励振電極を備えてなる圧電振動子であって、前記圧電振動子片は、ランガサイト構造を有する酸化物結晶材料からなり、前記励振電極が、前記酸化物結晶材料を構成する金属元素の少なくとも1種類を含む第1の金属薄膜と、白金族元素の少なくとも1種類を含む第2の金属薄膜と、高融点金属元素の少なくとも1種類を含む第3の金属薄膜を含む手段を採用している。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る圧電振動子は、請求項1に記載の圧電振動子において、前記酸化物結晶材料が、ランタン、ガリウム、及びタンタルの酸化物結晶であるか、又は、ランタン、ガリウム、アルミニウム、及びタンタルの酸化物結晶である手段を採用している。本発明の請求項3に係る圧電振動子は、請求項1又は2に記載の圧電振動子において、前記励振電極の2つの端子部が、前記圧電振動子片の表面又は裏面の何れか一方の側に設けられている手段を採用している。また、本発明の請求項4に記載の圧電振動子は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の圧電振動子において、前記金属薄膜を形成する方法がスパッタリング法である手段を採用している。
【0012】
さらに、本発明の請求項5に係る温度センサーは、請求項1乃至4の何れか1項に記載の圧電振動子が、セラミック又はシリコンからなる容器内に収納され、気密に封止されてなる手段を採用している。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構成としたことにより、本発明の圧電振動子は、250℃以上の高温で使用可能であり、常温から1250℃の間で、1分間に50℃程度の急激な温度変化に対応することが可能であり、長期間の使用にも励振電極の剥離を起こすことなく、安定した周波数特性を維持することができる。そして、これを用いた本発明の温度センサーは、拡散炉等の処理において、多数点の温度を同時に測定することが可能であり、かつ、簡単な作業で測定できる温度センサーとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の圧電振動子の主な構成を示す説明図である。
【図2】本発明の圧電振動子を示す概略図であり、(a)は表面図、(b)は裏面図、(c)は(a)のA−A矢視断面図、(d)は(a)のB−B矢視断面図である。
【図3】図2の圧電振動子を容器に収納した温度センサーの概略図であり、(a)は容器内平面図、(b)は(a)のC−C矢視断面図、(c)は(a)のD−D矢視断面図、(d)は(a)のE−E矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の圧電振動子10の構成を示す説明図である。圧電振動子10は、板状をなす圧電振動子片20の表面及び裏面に互いに対向する励振電極30を備えている。
【0016】
圧電振動子片20の素材には、ランガサイト構造を有する酸化物結晶材料が使用されている。すなわち、本発明の圧電振動子10は、圧電振動子片20として、ランタン、ガリウム、及びケイ素の酸化物結晶であるランガサイト(LGS)、ランタン、ガリウム、アルミニウム、及びケイ素の酸化物結晶(LGAS)、ランタン、ガリウム、及びニオブの酸化物結晶であるランガナイト(LNG)、ランタン、ガリウム、アルミニウム、及びニオブの酸化物結晶(LNGA)、ランタン、ガリウム、及びタンタルの酸化物結晶(LTG)、ランタン、ガリウム、アルミニウム、及びタンタルの酸化物結晶(LTGA)の何れかを用いる。
【0017】
本発明の圧電振動子10は、圧電振動子片20に上記の素材を使用することによって、1000℃以上の高温でも安定した周波数特性を維持することができ、また、ヒステリシスも残さない。上記の素材の中でも、特に、LTG及びLTGAが優れている。圧電振動子片20の大きさとしては、例えば、5mm×5mmの板状とし、厚さを100〜150μmとすることができる。
【0018】
励振電極30は、圧電振動子片20の表面及び裏面に互いに対向して形成され、順に積層された3つの金属薄膜の層からなっている。第1の金属薄膜31は、圧電振動子片20の素材である酸化物結晶材料を構成する金属元素(ランタン、ガリウム等)の少なくとも1種類を含む層である。第2の金属薄膜32は、白金族元素(ロジウム、ルテニウム等)の少なくとも1種類を含む層である。第3の金属薄膜33は、高融点金属元素(タングステン、モリブデン等)の少なくとも1種類を含む層である。
【0019】
これらの金属薄膜は、公知の物理気相成長法(PVD法)で形成することができる。すなわち、真空蒸着法(熱蒸着、電子ビーム蒸着、レーザ蒸着)、イオンプレーティング法、活性化蒸着法、アーク蒸着法、イオンクラスター蒸着法、イオンビーム蒸着法、電着法、スパッタリング法(DCスパッタリング法、高周波スパッタリング法、高周波プラズマ支援スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、ECRスパッタリング法)等である。これらの中でも、特に、スパッタリング法が優れており、所望の金属薄膜を安定して形成することができる。
【0020】
各金属薄膜の厚みは100μm以下であり、1μm以下とすることが好ましい。圧電振動子片20を構成する酸化物結晶材料、第1の金属薄膜31、第2の金属薄膜32、第3の金属薄膜33は、互いに隣り合う面が融合し合って、互いに混合状態となっていてもかまわない。また、第2の金属薄膜32と第3の金属薄膜33は、積層される順序を逆にすることも可能である。
【0021】
本発明の圧電振動子10における励振電極30は、上記のような構成で形成することにより、圧電振動子片20と励振電極30との熱膨張係数の違いが緩和されて耐久性を備えることになる。すなわち、常温から1000℃以上の高温の間で急激な温度変化に対応することが可能であり、長期間の使用にも励振電極の剥離を起こすことなく使用することができる。
【0022】
図2は、本発明の圧電振動子10の具体的な一例を示し、(a)は表面図、(b)は裏面図、(c)は(a)のA−A矢視断面図、(d)は(a)のB−B矢視断面図である。板状をなす圧電振動子片20の表面20aには、励振電極30aが形成され、裏面20bには励振電極30bが形成されている。励振電極30a及び励振電極30bは、夫々、上述した第1の金属薄膜31、第2の金属薄膜32、第3の金属薄膜33を含んでいる。
【0023】
表面20aに設けられた励振電極30aは、その一部が圧電振動子片20の端部で、表面20aから裏面20bに回り込み、裏面20bにおいて端子部35aを形成している。裏面20bに設けられた励振電極30bは、その一部が圧電振動子片20の裏面20bの端部において端子部35bを形成している。
【0024】
端子部35aと端子部35bは、比較的近傍に設けられることが好ましく、圧電振動子片20が方形の場合には、その一辺に設けられることが好ましい。また、端子部35aと端子部35bは、圧電振動子片20の表面20a又は裏面20bの何れか一方の側に設けられていることが好ましい。これらは、圧電振動子10が容器内に収納される場合に、容器側からの拘束を少なくして、周波数特性に与える影響を少なくするためである。
【0025】
本発明の圧電振動子10は、上記のような構成としたことにより、250℃以上の温度で使用可能であり、1000℃以上の高温まで使用可能である。また、常温から1250℃の間で、1分間に50℃程度の急激な温度変化を繰り返しても、長期間に亘って励振電極の剥離を起こさず、安定した周波数特性を維持することができる。
【0026】
図3は、圧電振動子10を容器40に収納して温度センサー70を形成した例を示しており、(a)は容器40内の平面図、(b)は(a)のC−C矢視断面図、(c)は(a)のD−D矢視断面図、(d)は(a)のE−E矢視断面図である。
【0027】
容器40は、厳しい温度変化に対応できることが望ましいことから、全体をセラミックとすることが好ましい。用途によっては、シリコンを使用することもある。本明細書において、「セラミック」という用語は「石英」を含む意味で用いることとする。容器40の形状は、使用目的によって圧電振動子片20の形状と共に決定することが好ましく、収納部の形態は四角形に限らず、他の多角形、円形、楕円形等とすることができる。
【0028】
容器40は、容器本体41と蓋体42とからなっており、容器40の内部には、内部端子60a及び内部端子60bが形成され、容器40の外部には、外部端子50a及び外部端子50bが形成されている。そして、内部端子60aは外部端子50aと接続され、内部端子60bは外部端子50bと接続されている。
【0029】
したがって、圧電振動子10の端子部35aを内部端子60aに接続し、端子部35bを内部端子60bに接続した状態で、圧電振動子10を容器40内に収納することによって、外部端子50a及び外部端子50bが、夫々圧電振動子10の励振電極30a及び励振電極30bの端子を形成することになる。なお、容器40の外部には、ダミー端子51が形成されている。
【0030】
容器40の内部は、真空状態又は不活性ガスを充填した状態で気密に封止される。封止することによって、圧電振動子10は、異物の付着や変質を起こすことなく、所定の周波数特性を維持することができる。容器本体41と蓋体42とは、高融点のシールリングを用いて一体化することができる。容器40の材質が石英等である場合には、加熱により直接融合して接合することができる。
【0031】
上記のような構成による本発明の温度センサー70は、常温から1000℃以上の高温に亘る急激な温度変化に対応することが可能であり、長期間の使用にも安定した周波数特性を維持することができる。そして、ネットワークアナライザ等を内蔵した測定器に、外部端子50a、50bを接続することにより、従来と同様に、簡単に温度測定を行うことが可能である。また、複数の温度センサー70を直列又は並列に測定器に接続することにより、従来と同様に、多数点の温度を同時に測定することも可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 圧電振動子
20 圧電振動子片
30 励振電極
31 第1の金属薄膜
32 第2の金属薄膜
33 第3の金属薄膜
35a、35b 端子部
40 容器
70 温度センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状をなす圧電振動子片の表面及び裏面に互いに対向する励振電極を備えてなる圧電振動子であって、
前記圧電振動子片は、ランガサイト構造を有する酸化物結晶材料からなり、
前記励振電極が、前記酸化物結晶材料を構成する金属元素の少なくとも1種類を含む第1の金属薄膜と、白金族元素の少なくとも1種類を含む第2の金属薄膜と、高融点金属元素の少なくとも1種類を含む第3の金属薄膜を含むことを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
前記酸化物結晶材料が、ランタン、ガリウム、及びタンタルの酸化物結晶であるか、又は、ランタン、ガリウム、アルミニウム、及びタンタルの酸化物結晶であることを特徴とする請求1に記載の圧電振動子。
【請求項3】
前記励振電極の2つの端子部が、前記圧電振動子片の表面又は裏面の何れか一方の側に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電振動子。
【請求項4】
前記金属薄膜を形成する方法がスパッタリング法である請求項1乃至3の何れか1項に記載の圧電振動子。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の圧電振動子が、セラミック又はシリコンからなる容器内に収納され、気密に封止されてなることを特徴とする温度センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113595(P2013−113595A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257123(P2011−257123)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000136561)株式会社フルヤ金属 (48)
【Fターム(参考)】