説明

圧電振動片

【課題】電極の断線を防止するとともに、スプリアス振動を抑制する。
【解決手段】水晶振動片2の基板21に、励振を行う励振電極81,82と、外部電極と電気的に接続する保持電極83,84と、励振電極81,82を保持電極83,84に引き出す袖電極85,86とが形成されている。励振電極81,82は、基板21の両主面32,33に形成され、基板21の両主面22,23に形成された励振電極81,82により電極領域が構成されている。電極領域は、励振電極81,82が対向する対向電極部87と、励振電極81,82が対向しない無対向電極部88と、から構成されている。対向電極部87の周囲に、対向電極部87に連なって無対向電極部88が配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動片に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ATカット水晶振動片などの厚み振動系の圧電振動片を用いた圧電振動子では、発振周波数の高周波化が進められている。この圧電振動子に用いる圧電振動片は、発振周波数の高周波化に対応させるために、その振動領域が薄肉成形された逆メサ構造となり、薄肉成形された振動領域の両主面に薄膜の一対の励振電極が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された圧電振動片では、基板の両主面に、励振を行う一対の励振電極と、外部端子と電気的に接続するための保持電極と、前記一対の励振電極を前記保持電極に引き出す袖電極とが形成されている。これら一対の励振電極と保持電極と袖電極とは、同時に形成され、同じ厚さの薄膜となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−164824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に示すような圧電振動片は、逆メサ構造となっているため、その両主面に凹凸が成形されている。そのため、凹凸の段差部分などに形成された電極(励振電極、保持電極、袖電極)は、段差部分のエッジで断線する可能性がある。特に、高周波化に対応させた薄膜の電極の場合、段差部分のエッジで断線する可能性が高くなる。
【0006】
また、圧電振動片の他の不具合として、主振動以外に別の振動モードに起因するスプリアス振動の発生が挙げられる。このスプリアス振動は、高周波になるにつれて顕在化し、特に、励振領域の厚みが薄く成形された特許文献1に示す圧電振動片においてその影響が及び易い。
【0007】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、電極の断線を防止するとともに、スプリアス振動を抑制する圧電振動片を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる圧電振動片は、基板に、励振を行う複数の励振電極と、外部電極と電気的に接続する保持電極と、前記励振電極を前記保持電極に引き出す袖電極とが形成され、前記励振電極は、前記袖電極よりも薄く、複数の前記励振電極は、前記基板の両主面に形成され、前記基板の両主面に形成された複数の前記励振電極により電極領域が構成され、前記電極領域は、前記励振電極が対向する対向電極部と、前記励振電極が対向しない無対向電極部と、から構成され、前記対向電極部の周囲に、前記対向電極部に連なって前記無対向電極部が配されたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、最も強い振動変位分布を有する主振動の発振を妨げるのを防止することが可能となる。また、前記励振電極の端部付近に振動変位分布を有するスプリアス振動(例えば厚み系の2次モードである(1,2,1)モードや(1,1,2)モード、あるいは厚み系の3次モードである(1,3,1)モードや(1,1,3)モードなど)について、前記無対向電極部が構成されるので、各スプリアスの振動変位に影響を及ぼしてスプリアス振動を抑制することが可能となる。また、高周波化に対応させるために前記励振電極を薄く設定することも可能であり、その上、前記袖電極を前記励振電極より厚くして、電極の断線を防止することが可能となり、また、スプリアス振動もより一層抑制することが可能となる。すなわち、本発明によれば、電極の断線の防止と、スプリアス振動の抑制とを同時に行うことが可能となる。
【0010】
前記構成において、前記基板は、結晶性材料であり、前記励振電極は、略正方形に成形され、前記励振電極と前記袖電極との境界が平面視V字であってもよい。
【0011】
この場合、直交する結晶軸方向に沿ってそれぞれ発生する各スプリアス振動を同時に抑制することが可能となる。
【0012】
前記構成において、前記無対向電極部の厚みが、前記袖電極の厚みと同じであってもよい。
【0013】
この場合、前記対向電極部において主として発振(励振)する主振動に影響を及ぼすことなく前記対向電極部の周囲に主振動に付随して発生しやすいスプリアスを抑制するのに好ましい。
【0014】
前記構成において、前記袖電極は、前記保持電極よりも薄くてもよい。
【0015】
この場合、スプリアス振動を抑制しながら、電極の断線を防止し、さらに外部電極との接合を安定させることが可能となる。
【0016】
前記構成において、前記袖電極と前記保持電極は、前記基板上に蒸着膜が形成され、前記蒸着膜上にメッキ膜が形成されてなってもよい。
【0017】
この場合、前記基板への前記保持電極の形成強度を高めながら、外部電極との接合強度を高めることが可能となり、さらに前記袖電極と前記保持電極とがメッキ膜により形成されるので、前記袖電極と前記保持電極との厚みを増すことが容易になり、断線防止とスプリアス振動の抑制とを同時に図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる圧電振動片によれば、電極の断線を防止するとともに、スプリアス振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる水晶振動子の内部空間を公開した概略側面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかる水晶振動片の概略平面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかる、電極の構成を示した水晶振動片の概略断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態にかかる水晶振動片の共振波形データである。
【図5】図5は、比較例にかかる水晶振動片の共振波形データである。
【図6】図6は、100MHz帯の高周波型水晶振動子の袖電極の厚みに対する主振動のCI値と、CI比とに関するグラフである。
【図7】図7は、300MHz帯の高周波型水晶振動子の袖電極の厚みに対する主振動のCI値と、CI比とに関するグラフである。
【図8】図8は、600MHz帯の高周波型水晶振動子の袖電極の厚みに対する主振動のCI値と、CI比とに関するグラフである。
【図9】図9は、本発明の他の実施の形態にかかる水晶振動片の概略平面図である。
【図10】図10は、本発明の他の実施の形態にかかる水晶振動片の概略平面図である。
【図11】図11は、本発明の他の実施の形態にかかる水晶振動片の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施の形態という)について図面を参照して説明する。なお、以下に示す本実施の形態では、圧電振動デバイスとして水晶振動子に本発明を適用した場合を示す。
【0021】
−水晶振動子1−
本実施の形態にかかる水晶振動子1は、100MHz以上の高周波型水晶振動子であり、図1に示すように、ATカット水晶からなる水晶振動片2(本発明でいう圧電振動片)と、この水晶振動片2を保持し、水晶振動片2を気密封止するための第1封止部材3と、第1封止部材3に保持した水晶振動片2を気密封止するための第2封止部材4と、が設けられている。
【0022】
この水晶振動子1では、第1封止部材3と第2封止部材4とからパッケージが構成され、第1封止部材3と第2封止部材4とが、封止材5により接合されて、気密封止された内部空間11が形成される。この内部空間11では、水晶振動片2が、第1封止部材3に導電性バンプ6を用いてFCB法(Flip Chip Bonding)により電気機械的に超音波接合されている。なお、導電性バンプ6には、非流動性部材のメッキバンプが用いられている。この導電性バンプ6に保持電極83,84の一部を用いている。この場合、導電性バンプ6の形成工程を簡略化することができ、コストダウンを図ることができる。なお、本実施の形態では、導電性バンプ6に保持電極83,84の一部を用いているが、これに限定されるものではなく、後述するメッキ形成された保持電極83,84の上部に別途導電性バンプ6を形成してもよい。また、導電性バンプ6としてメッキバンプを用いているが、金属スタッドバンプなど他の導電性バンプを用いてもよい。
【0023】
次に、この水晶振動子1の各構成について、図1〜3を用いて説明する。
【0024】
−第1封止部材3−
第1封止部材3は、セラミックからなり、図1に示すように、底部31と、第1封止部材3の一主面32の主面外周に沿って底部31から上方に延出した壁部34と、から構成された箱状体に成形されている。この第1封止部材3は、セラミックの一枚板上にセラミックの直方体を積層して凹状に一体焼成してなる。
【0025】
この第1封止部材3の壁部34の天面は、第2封止部材4との接合面とされ、接合面には、第2封止部材4と接合するために用いる封止材5の一部となる接合膜(図示省略)が形成されている。本実施の形態にかかる接合膜は、第1封止部材3の天面(第2封止部材4との接合面)にWやMoのメタライズ層が形成され、このメタライズ層の上にNiやAuのメッキ層が積層された薄膜からなる。
【0026】
この第1封止部材3には、底部31と壁部34とによって囲まれたキャビティ35が形成され、このキャビティ35は、平面視略矩形状に形成されている。
【0027】
この第1封止部材3の筐体裏面(他主面33)の四隅には、キャスタレーション36が形成されている。これらキャスタレーション36は、筐体側面に形成され、第1封止部材3の他主面33の四隅に沿って形成されている。
【0028】
この第1封止部材3には、水晶振動片2の励振電極81,82それぞれと電気機械的に接合する電極パッド71,72と、外部部品や外部機器などと電気的に接続する外部端子電極73,74と、電極パッド71と外部端子電極73、および電極パッド72と外部端子電極74を電気的に接続させる配線パターン75とが、形成されている。これら電極パッド71,72と外部端子電極73,74と配線パターン75とにより第1封止部材3の電極7が構成される。電極パッド71,72は、第1封止部材3のキャビティ35の平面視で短辺方向に対向する隅部であって、第1封止部材3の長手方向の一端部に形成されている。外部端子電極73,74は、キャスタレーション36に形成されている。
【0029】
この第1封止部材3には、水晶振動片2の励振電極81,82をキャビティ35内からキャビティ35外へ導通させるためのビア37が形成されている。このビア37を介して、配線パターン75が、第1封止部材3の一主面32の電極パッド71,72から他主面33の外部端子電極73,74にかけてパターン形成されている。また、ビア37の内部には、Cuから構成される導通部材76が充填されている。
【0030】
−第2封止部材4−
第2封止部材4は、金属材料からなり、平面視矩形状の直方体の一枚板に成形されている。この第2封止部材4の下面の外周は、第1封止部材との接合面とされ、接合面には、第1封止部材3と接合するために用いる封止材5の一部となる接合膜(図示省略)が形成されている。本実施の形態にかかる接合膜は、第2封止部材4の下面(第1封止部材3との接合面)にAgローなどのろう材からなる。
【0031】
−水晶振動片2−
水晶振動片2は、結晶性材料である厚みすべり振動を行うATカット水晶片の基板21からなる。水晶振動片2の外形は、図2,3に示すように、平面視略矩形状(両主面22,23が略矩形状に形成された)の直方体となっている。また、水晶振動片2は、両主面22,23の長辺がX軸に沿って、また、両主面22,23の短辺がZ’軸に沿って成形されている。
【0032】
この水晶振動片2には、振動領域を構成する振動部24と、外部電極である第1封止部材3の電極パッド71,72と電気機械的に接合する枠部25とが設けられている。枠部25は、振動部24を囲むように振動部24の外周に設けられ、振動部24と枠部25とが一体成形されて基板21が構成される。振動部24の両主面22,23はエッチング成形され、枠部25に対して薄肉化されている。
【0033】
この水晶振動片2の基板21には、励振を行う一対の励振電極81,82と、第1封止部材3の電極パッド71,72と電気機械的に接合する保持電極83,84と、一対の励振電極81,82を保持電極83,84に引き出す袖電極85,86とが形成され、一対の励振電極81,82は、袖電極85,86により引出されて保持電極83,84にそれぞれ電気的に接続されている。また、一対の励振電極81,82は袖電極85,86よりも薄く、袖電極85,86は保持電極83,84よりも薄い。これら一対の励振電極81,82と保持電極83,84と袖電極85,86とにより水晶振動片2の電極8が構成される。
【0034】
一対の励振電極81,82は、図2,3に示すように、同形状であって同一面積の平面視略正方形状に成形され、基板21の両主面22,23の振動部24の平面視中央にそれぞれ形成されている。励振電極81は、各辺がX軸とZ’軸に沿って形成されている。励振電極82は、各辺がX軸とZ’軸とに沿わずに形成され、励振電極81,82の中心を中心点として励振電極81に対して平面視的に(主面22,23上において)20°〜70°の範囲で回転させた配置となっている。なお、本実施の形態では、励振電極82は励振電極81に対して45°に回転させた配置となっている。このように、励振電極82が励振電極81に対して回転させた配置となっている場合、平面視同形状の略正方形の一対の励振電極81,82の各隅部では、対向する励振電極81,82の電極領域が存在しないことになる。このように、一対の励振電極81,82の各隅部は、対向しない電極領域(下記する無対向電極部88参照)として構成されるので、励振電極81,82の端部付近に振動変位分布を有するスプリアス振動、例えば厚み系の2次モードである(1,2,1)モードや(1,1,2)モード、あるいは厚み系の3次モードである(1,3,1)モードや(1,1,3)モードなどについては、振動変位に影響して最も効率的に抑制される。
【0035】
これら一対の励振電極81,82は、基板21上にCr,Auが順に蒸着形成されたCr−Au膜(蒸着膜)により構成される。一対の励振電極81,82の厚さ寸法は、それぞれ0.03μm〜0.08μmの範囲に設定され、本実施の形態では、一対の励振電極81,82の厚さ寸法は0.05μmである。なお、励振電極81,82の厚さ寸法は、0.03μm〜0.08μmの範囲内であれば異なる寸法であってもよい。
【0036】
袖電極85,86は、振動部24の両主面22,23に対向せずにそれぞれ形成されている。これら袖電極85,86は、励振電極81,82を構成するCr−Au膜(蒸着膜)上に、さらにAuからなるAu膜(メッキ膜)がメッキ形成されたCr−Au膜により構成される。袖電極85,86の厚さ寸法は、それぞれ0.5μm〜4.0μmの範囲に設定され、本実施の形態では、袖電極85,86の厚さ寸法は1μmである。なお、袖電極85,86の厚さ寸法は、0.5μm〜4.0μmの範囲内であれば異なる寸法であってもよい。
【0037】
保持電極83,84は、振動部24から枠部25に亘って形成されている。これら保持電極83,84は、袖電極85,86を構成するCr−Au膜上に、さらにAuからなるAu膜(メッキ膜)がメッキ形成されたCr−Au膜により構成される。保持電極83,84の厚さ寸法は、それぞれ0.5μm〜10.0μmの範囲に設定され、本実施の形態では、保持電極83,84の厚さ寸法は2μmである。なお、保持電極83,84の厚さ寸法は、0.5μm〜10.0μmの範囲内であれば異なる寸法であってもよい。
【0038】
上記の構成の電極8では、励振電極81,82が基板21の両主面22,23に形成され、基板21の両主面22,23に形成された励振電極81,82により電極領域が構成されている。電極領域は、励振電極81,82が対向する対向電極部87と、励振電極81,82が対向しない無対向電極部88と、から構成されている。ここでいう無対向電極部88は、対向電極部87の周囲に、対向電極部87に連なって(連続して)形成される。
【0039】
なお、一対の励振電極81,82の無対向電極部88と袖電極85,86との境界27は、振動部24に位置し、図2に示すようにX軸(水晶振動片2の長手方向)とZ’軸(水晶振動片2の短手方向)に沿って形成された平面視L字もしく平面視V字となる。また、袖電極85,86と保持電極83,84との境界28は、振動部24に位置し、図2に示すようにX軸(水晶振動片2の長手方向)とZ’軸(水晶振動片2の短手方向)に沿って形成された平面視L字となる。
【0040】
−水晶振動子1の製造−
上記した構成からなる水晶振動子1では、図1〜3に示すように、第1封止部材3と水晶振動片2とは、導電性バンプ6を介してFCB法により電気機械的に超音波接合される。この接合により、水晶振動片2の励振電極81,82が、袖電極85,86、保持電極83,84、導電性バンプ6を介して第1封止部材3の電極パッド71,72に電気機械的に接合され、第1封止部材3に水晶振動片2が搭載される。そして、水晶振動片2が搭載された第1封止部材3に、第2封止部材4が、封止材5を介して溶接や加熱溶融などにより接合され、水晶振動片2を気密封止した水晶振動子1が製造される。
【0041】
−共振波形−
次に、上記の本実施の形態にかかる水晶振動片2を搭載した水晶振動子1の共振波形を計測し、その共振波形データを図4に示す。なお、図4に示す水晶振動子2として、622MHz帯の高周波型水晶振動子を用いた。
【0042】
また、本実施の形態の比較例として、本実施の形態にかかる水晶振動片2に対して、一対の励振電極81,82と保持電極83,84と袖電極85,86との構成が異なり、一対の励振電極81,82と保持電極83,84と袖電極85,86とが同じ厚さである水晶振動片を搭載した水晶振動子を用い、その共振波形データを図5に示す。
【0043】
図4,5に示すように、共振波形データから、本実施の形態にかかる水晶振動子1は、比較例の水晶振動子に比べて、主振動の直列共振抵抗値(CI値)が低く、スプリアス振動(スプリアスCI)を抑制していることがわかる。
【0044】
−袖電極85,86−
また、上記の本実施の形態にかかる水晶振動片2を搭載した水晶振動子1について、袖電極85,86の厚みを可変させ(それぞれ0.5μm〜4.0μm)、その時の主振動のCI値と、スプリアスのCI値とを測定し、これらCI値の比(CI比)を算出した。その結果を、図6〜8に示す。
【0045】
図6は、100MHz帯の高周波型水晶振動子の袖電極85,86の厚みに対する、主振動のCI値と、CI比とに関するグラフである。
【0046】
図7は、300MHz帯の高周波型水晶振動子の袖電極85,86の厚みに対する、主振動のCI値と、CI比とに関するグラフである。
【0047】
図8は、600MHz帯の高周波型水晶振動子の袖電極85,86の厚みに対する、主振動のCI値と、CI比とに関するグラフである。
【0048】
図6〜8に示すように、袖電極85,86の厚みが増すにつれて、主振動のCI値が下がり、CI比が上がることが分かる。また、図6〜8から、発振周波数が高い方がCI値を抑制できることが分かる。また、図6〜8から、いずれの発振周波数であっても同様の特性となることが分かる。これらのことから、発振周波数を高く設定し、袖電極85,86を厚くして、主振動のCI値を抑えてCI比を上げることが望ましい。
【0049】
しかしながら、袖電極85,86を厚くすると、他の不具合が生じる。例えば、袖電極85,86を形成する際に基板21に応力がかかるが、この応力は袖電極85,86などの電極の厚みに関係する。具体的には、袖電極85,86を厚くすると、基板21に必要以上の応力がかかり、その結果、エージング特性などの水晶振動子1の特性を悪化させることになる。本実施の形態にかかる水晶振動片2では、袖電極85,86の厚さがそれぞれ4.0μmを超えると、エージング特性などの水晶振動子1の特性が悪化し始める。
【0050】
また、袖電極85,86の厚さをそれぞれ0.5μm未満にすると、主振動のCI値が上がり、CI比が下がるだけでなく、袖電極85,86が断線する可能性がある。
【0051】
上記のことから、袖電極85,86の厚さは、それぞれ0.5〜4.0μmに設定することが好ましい。
【0052】
−本実施の形態の作用効果−
本実施の形態によれば、一対の励振電極81,82の中心付近が対向して形成されるので(対向電極部87参照)、励振電極81,82の中心付近に最も強い振動変位分布を有する主振動の発振を妨げることはない。また、一対の励振電極81,82の隅部が対向して形成されていないので(無対向電極部88参照)、励振電極81,82の端部付近(具体的には隅部付近)に振動変位分布を有するスプリアス振動(例えば厚み系の2次モードである(1,2,1)モードや(1,1,2)モード、あるいは厚み系の3次モードである(1,3,1)モードや(1,1,3)モードなど)の各スプリアスの振動変位に影響を及ぼし、スプリアス振動を抑制する。なお、両主面22,23の励振電極81,82は、その中心が重なる位置に形成されていることが好ましいが、製造誤差などにより多少ずれているものであっても同様の効果が期待できる。
【0053】
また、両主面22,23の励振電極81,82が同形状に形成されているので、水晶振動片2に形成される励振電極81,82の面積を大型化させることなく、励振電極81,82の中心付近の振動領域を確保しながら、励振電極81,82の隅部付近の各スプリアスの振動領域を縮小させる構成とすることができる。すなわち、水晶振動片2の小型化を図りながら、主振動の発振を妨げることなくスプリアス振動を抑制することができる。
【0054】
詳説すると、本実施の形態にかかる水晶振動片2によれば、基板21に励振電極81,82と保持電極83,84と袖電極85,86とが形成され、励振電極81,82は、基板21の両主面22,23に対向して形成され、かつ、励振電極81,82は、袖電極85,86よりも薄く、励振電極81,82のうち対向する電極領域によって対向電極部87が構成され、励振電極81,82のうち対向しない電極領域によって無対向電極部88が構成され、対向電極部87の周囲に、対向電極部87に連なって無対向電極部88が配されるので、最も強い振動変位分布を有する主振動の発振を妨げるのを防止することができる。また、励振電極81,82の端部付近に振動変位分布を有するスプリアス振動(例えば厚み系の2次モードである(1,2,1)モードや(1,1,2)モード、あるいは厚み系の3次モードである(1,3,1)モードや(1,1,3)モードなど)について、無対向電極部88が構成されるので、各スプリアスの振動変位に影響を及ぼしてスプリアス振動を抑制することができる。また、高周波化に対応させるために励振電極81,82を薄く設定することもでき、その上、袖電極85,86を励振電極81,82より厚くして、電極8の断線を防止することができ、また、スプリアス振動もより一層抑制することができる。すなわち、本実施の形態にかかる水晶振動片2によれば、電極8の断線の防止と、スプリアス振動の抑制とを同時に行うことができる。
【0055】
また、基板21は、結晶性材料であり、励振電極81,82は、略正方形に成形され、励振電極81,82と袖電極85,86との境界27が平面視V字であるので、直交する結晶軸方向に沿ってそれぞれ発生する各スプリアス振動を同時に抑制することができる。
【0056】
また、袖電極85,86は、保持電極83,84よりも薄いので、スプリアス振動を抑制しながら、電極8の断線を防止し、さらに外部電極(電極パッド71,72)との接合を安定させることができる。
【0057】
また、袖電極85,86と保持電極83,84とは、基板21上に蒸着膜が形成され、蒸着膜上にメッキ膜が形成されてなるので、基板21への保持電極83,84の形成強度を高めながら、外部電極(電極パッド71,72)との接合強度を高めることができ、さらに袖電極85,86と保持電極83,84とがメッキ膜により形成されるので、袖電極85,86と保持電極83,84との厚みを増すことが容易になり、断線防止とスプリアス振動の抑制とを同時に図ることができる。
【0058】
−他の実施の形態−
なお、本実施の形態では、圧電振動デバイスとして水晶振動子を適用しているが、これに限定されるものではなく、圧電振動を行う圧電振動片の励振電極を気密封止する圧電振動デバイスであれば、他のデバイスであってもよく、例えば水晶発振器であってもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、第1封止部材3にセラミックを用い、第2封止部材4に金属材料を用いているが、第1封止部材3および第2封止部材4の材料は、これに限定されるものではなく任意に設定可能であり、第1封止部材3および第2封止部材4にガラスなどを用いてもよい。
【0060】
また、本実施の形態では、第1封止部材3に搭載した水晶振動片2を第2封止部材4によって封止する水晶振動子1のパッケージを構成しているが、これに限定されるものではなく、第1封止部材と水晶振動片と第2封止部材とを積層したサンドイッチ構造の水晶振動子のパッケージであってもよい。このサンドイッチ構造の水晶振動子では、第1封止部材と水晶振動片とが封止材を介して接合されて、水晶振動片の他主面に形成された励振電極が第1封止部材と水晶振動片とによって気密封止され、水晶振動片と第2封止部材とが封止材を介して接合されて、水晶振動片の一主面に形成された励振電極が水晶振動片と第2封止部材とによって気密封止される。
【0061】
また、本実施の形態では、水晶振動片2の基板21は、枠部25を振動部24に対して厚肉化しているが、これに限定されるものではなく、枠部25の厚みを振動部24の厚みと同じ寸法にしてもよい。
【0062】
また、本実施の形態では、第1封止部材3の電極パッド71,72と水晶振動片2の保持電極83,84とが電気機械的に接合しているが、これに限定されるものではなく、第1封止部材3の電極パッド71,72と水晶振動片2の保持電極83,84とが電気的に接続されていれば、第1封止部材3と水晶振動片2との機械的な接合は他で行ってもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、袖電極85,86と保持電極83,84との境界28は、平面視L字となっているが、これに限定されるものではなく、任意の形状であってもよい。また、袖電極85,86と保持電極83,84との境界28は、振動部24に位置しているが、これは好適な例であり、枠部25に位置してもよい。
【0064】
また、本実施の形態では、水晶振動片2の外形を、平面視略矩形状の一枚板の直方体としているが、これに限定されるものではなく、例えば、図9に示すように、枠部25に切り欠き部26が設けられてもよい。この図9に示す他の実施の形態では、水晶振動片2の対向する長辺から短辺方向(±Z’軸方向)に沿って切り欠くことにより、切り欠き部26が基板21に設けられている。そのため、水晶振動片2の振動部24に対して導電性バンプ6の接合による応力歪の悪影響を取り除くことができる。
【0065】
また、本実施の形態では、一対の励振電極81,82の無対向電極部88は、袖電極85,86よりも薄いが、これに限定されるものではなく、図10に示すように、無対向電極部88の厚みが、袖電極85,86の厚みと同じであってもよい。この場合、対向電極部87において主として発振(励振)する主振動に影響を及ぼすことなく対向電極部87の周囲に主振動に付随して発生しやすいスプリアスを抑制するのに好ましい。
【0066】
また、本実施の形態では、同形状であって同一面積の平面視略正方形状に成形された一対の励振電極81,82を用いているが、一対の励振電極81,82のうち端面において無対向となる無対向電極部88が構成されていれば、一対の励振電極81,82の形状は任意に設定可能である。例えば、図11に示すように一対の励振電極81,82の大きさが異なっても良い。図11に示す他の実施の形態の場合、励振電極81の外周全てが励振電極82と対向しない無対向電極部88が構成されている。
【0067】
また、本実施の形態では、一対の励振電極81,82が基板21の両主面22,23に対向して形成されているが、励振電極の数はこれに限定されるものではなく任意の数でよく、複数の励振電極が対向して形成されていればよい。例えば、基板21の一主面22に1つの励振電極が形成され、他主面23に2つの励振電極が形成され、一主面22に形成された1つの励振電極と、他主面23に形成された2つの励振電極とが、対向して形成されてもよい。
【0068】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、特に水晶振動片に好適である。
【符号の説明】
【0070】
1 水晶振動子
11 内部空間
2 水晶振動片
21 基板
22,23 主面
24 振動部
25 枠部
26 切り欠き部
3 第1封止部材
31 底部
32,33 主面
34 壁部
35 キャビティ
36 キャスタレーション
37 ビア
4 第2封止部材
5 封止材
6 導電性バンプ
7 第1封止部材の電極
71,72 電極パッド
73,74 外部端子電極
75 配線パターン
76 導通部材
8 水晶振動片の電極
81,82 励振電極
83,84 保持電極
85,86 袖電極
87 対向電極部
88 無対向電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動片において、
基板に、励振を行う複数の励振電極と、外部電極と電気的に接続する保持電極と、前記励振電極を前記保持電極に引き出す袖電極とが形成され、
前記励振電極は、前記袖電極よりも薄く、
複数の前記励振電極は、前記基板の両主面に形成され、前記基板の両主面に形成された複数の前記励振電極により電極領域が構成され、
前記電極領域は、複数の前記励振電極が対向する対向電極部と、複数の前記励振電極が対向しない無対向電極部と、から構成され、
前記対向電極部の周囲に、前記対向電極部に連なって前記無対向電極部が配された圧電振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動片において、
前記基板は、結晶性材料であり、
前記励振電極は、略正方形に成形され、
前記励振電極と前記袖電極との境界が平面視V字となる圧電振動片。
【請求項3】
請求項1に記載の圧電振動片において、
前記無対向電極の厚みが、前記袖電極の厚みと同じである圧電振動片。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1つに記載の圧電振動片において、
前記袖電極は、前記保持電極よりも薄い圧電振動片。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか1つに記載の圧電振動片において、
前記袖電極と前記保持電極は、前記基板上に蒸着膜が形成され、前記蒸着膜上にメッキ膜が形成されてなる圧電振動片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−160094(P2011−160094A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18753(P2010−18753)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】