説明

圧電磁器組成物

【課題】 高い圧電d定数と高い脱分極温度を有し、生産性に優れた圧電磁器組成物を提供する。
【解決手段】 組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}で表され、x、yがそれぞれ0.040≦x≦0.100、0.005≦y≦0.080の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含まない圧電磁器組成物に係り、特にアクチュエータ等に用いて好適な圧電磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電磁器組成物として、二成分系と呼ばれるPZT(PbTiO−PbZrO)系の圧電磁器組成物や、三成分系と呼ばれるPCM{PbTiO−PbZrO−Pb(Mg1/3Nb2/3)O}系の圧電磁器組成物が主に用いられてきた。これらの圧電磁器組成物は、大きな圧電特性を示す事は勿論であるが、それと共に以下の特徴を持っている。すなわち、圧電磁器組成物の用途はセンサ、アクチュエータ、フィルタ等多種にわたり、各用途に要求される特性も様々であるが、前述した材料系ではその特性を各成分量の割合を調整することにより、要求に対応した特性に適宜に調整できる利点がある。
【0003】
近年、鉛を含まない圧電磁器組成物の開発が進み、上述したようなセンサ、アクチュエータ、フィルタ等様々な用途への応用が検討されている。鉛を含まない圧電磁器組成物として、例えば、特許文献1や特許文献2が提案されている。特許文献1には、組成式Bi1/2−1/2aNa1/2−1/2aBaTiO+bNbで表される圧電磁器組成物について記載されている。また、特許文献2には、組成式{Li(K1−yNa1−x}(Nb1−z−wTaSb)Oで表される圧電磁器組成物について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009―78958号公報
【特許文献2】特開2004―244302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電磁器組成物をアクチュエータへ適用するためには、圧電d定数と脱分極温度の向上が要求される。圧電d定数は、印加電界に対しての変位を表す特性で、大きいほうが望ましい。さらに、アクチュエータとしての実用性を考慮すると、圧電d定数d33が150pC/N以上であることが望ましい。脱分極温度は、常温から温度を上昇させた場合に、圧電体の分極が消失する温度で、アクチュエータとしての実用性を考慮すると150℃以上であることが望ましい。
【0006】
特許文献1に開示されている圧電磁器組成物は、圧電d定数d33が115pC/N以下の材料であり、アクチュエータへの適用を目的とした場合、実用的な特性が十分でないという課題がある。また、特許文献2に開示されている圧電磁器組成物は、カリウムを含んだ組成である。カリウムの原料として一般に使用される炭酸カリウムは潮解性が高いため、製造工程での取り扱いや保管時の管理が煩雑であり、生産性に劣るという課題がある。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的は、高い圧電d定数と高い脱分極温度を有し、生産性に優れた圧電磁器組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}で表され、x、yの範囲を規定することにより、圧電d定数d33が150pC/N以上であり、かつ脱分極温度が150℃以上となる圧電磁器組成物を得るものである。また、上記の組成式において、モル比[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]を0.98以上1.02以下と規定することにより、圧電d定数d33を150pC/N以上となる圧電磁器組成物が得られる。また、潮解性が高いカリウムを含まないため、製造工程での取り扱いや保管等の管理が容易で、生産性に優れた圧電磁器組成物が得られる。
【0009】
すなわち、本発明によれば、組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}で表され、x、yがそれぞれ0.040≦x≦0.100、0.005≦y≦0.080の範囲であることを特徴とする圧電磁器組成物が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、上記の組成式において、Bi、Na、Baの総モル数とTi、Mg、Nbの総モル数の比[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]が0.98以上1.02以下であることを特徴とする圧電磁器組成物が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い圧電d定数と高い脱分極温度を有し、生産性に優れた圧電磁器組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}で表される。この組成式において、x、yの値をそれぞれ0.040≦x≦0.100、0.005≦y≦0.080の範囲と規定することにより、圧電d定数d33を150pC/N以上、脱分極温度を150℃以上とすることができる。
【0013】
また、上記組成式において、ペロブスカイト構造のAサイトに位置するBi、Na、Baの総モル数と、Bサイトに位置するTi、Mg、Nbの総モル数の比[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]を0.98以上1.02以下とするのが好ましい。この構造により、焼結性を高めることともに、圧電d定数d33を150pC/N以上とすることができる。
【実施例】
【0014】
(実施例1)
主成分原料として、BaCO、TiO、NaCO、Bi、MgO、Nb試薬を用いた。これらを組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}について、0.030≦x≦0.110、0≦y≦0.090の範囲で、それぞれ化学量論的に配合し、ボールミルにより20時間混合した。このとき、どの原料も保管時、配合時に激しい吸水等の問題は見られず、取り扱いが容易であった。
【0015】
次に、混合した原料を800〜1100℃で1時間保持して仮焼し、20時間粉砕を行った。800〜1100℃の仮焼温度は、各組成による最適温度を予備実験により決定し、それぞれの最適温度により仮焼を行った。バインダーとしてポリビニールアルコールを用い造粒した後、1ton/cmの圧力で、直径20mm、厚さ1mmの円板状に加圧成型した。その後、1100〜1250℃で2時間保持して焼成を行った。1100〜1250℃の焼成温度も、各組成による最適温度を予備実験により決定し、それぞれの最適温度により焼成した。本発明の焼結体には異相の析出、緻密化困難等の問題はなく、容易に作製できた。この焼結体の両面に銀電極を形成し、100℃のシリコンオイル中で、直流電界4kV/mmを電極間に印加し、厚み方向に分極した。
【0016】
分極して得られた各試料について、それぞれ圧電d定数d33の測定を行った。測定はインピーダンスアナライザにより共振−反共振法で行った。また、インピーダンスアナライザにより共振波形を観測し、試料温度を常温から上昇させたときに、共振波形が観測できなくなる温度を脱分極温度とした。
【0017】
組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}において、x、yの値が本発明の範囲の試料を実施例、本発明の範囲外の試料を比較例として、圧電d定数d33と脱分極温度を測定した結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明の組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}において0.040≦x≦0.100、0.005≦y≦0.080である実施例1〜9では、圧電d定数d33が150pC/N以上、脱分極温度が150℃以上になった。
【0020】
(実施例2)
主成分原料として、BaCO、TiO、NaCO、Bi、MgO、Nb試薬を用いた。これらを組成式0.95{0.94(Bi1/2Na1/2TiO)−0.06BaTiO}−0.05{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}の組成を基準とし、Bi、Na、Baの総モル数とTi、Mg、Nbの総モル数の比[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]が0.97、0.98、1.00、1.02、1.03になるように配合し、ボールミルにより20時間混合した。
【0021】
次に、混合した原料を800〜1100℃で1時間保持して仮焼し、次に20時間粉砕を行った。800〜1100℃の仮焼温度は、[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]の各モル比による最適温度を予備実験により決定し、それぞれの最適温度により仮焼を行った。バインダーとしてポリビニールアルコールを用い造粒した後、1ton/cmの圧力で、直径20mm、厚さ1mmの円板状に加圧成型した。その後、1100〜1250℃で2時間保持して焼成を行った。1100〜1250℃の焼成温度は、[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]の各モル比による最適温度を予備実験により決定し、それぞれの最適温度により焼成した。この焼結体の両面に銀電極を形成し、100℃のシリコンオイル中で、直流電界4kV/mmを電極間に印加し、厚み方向に分極した。
【0022】
分極して得られた各試料について、それぞれ圧電d定数d33の測定を行った。測定はインピーダンスアナライザにより共振−反共振法で行った。また、インピーダンスアナライザにより共振波形を観測し、試料温度を常温から上昇させたときに、共振波形が観測できなくなる温度を脱分極温度とした。
【0023】
0.95{0.94(Bi1/2Na1/2TiO)−0.06BaTiO}−0.05{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}の組成を基準とし、Bi、Na、Baの総モル数とTi、Mg、Nbの総モル数の比[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]が、本発明の範囲である0.98以上1.02以下の試料を実施例、本発明の範囲外の試料を比較例とした。圧電d定数d33と脱分極温度を測定した結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
比較例17、18のモル比が0.98未満もしくは1.02より大きい場合、脱分極温度は変わらないが、圧電d定数d33が150pC/Nより小さくなった。実施例10〜12の本発明の範囲である、モル比が0.98以上1.02以下では、圧電d定数d33が150pC/N以上、かつ脱分極温度が150℃以上となった。
【0026】
以上説明したように、本発明の構成を採用することにより、高い圧電d定数d33と高い脱分極温度を有し、生産性に優れ、アクチュエータに適用できる圧電磁器組成物を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(1−y){(1−x)(Bi1/2Na1/2TiO)−xBaTiO}−y{Ba(Mg1/3Nb2/3)O}で表され、x、yがそれぞれ0.040≦x≦0.100、0.005≦y≦0.080の範囲であることを特徴とする圧電磁器組成物。
【請求項2】
Bi、Na、Baの総モル数とTi、Mg、Nbの総モル数の比[(Bi+Na+Ba)/(Ti+Mg+Nb)]が0.98以上1.02以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電磁器組成物。

【公開番号】特開2013−1591(P2013−1591A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132916(P2011−132916)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】