圧電素子およびその製造方法
【課題】単結晶基板上において、圧電薄膜を良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長させて成膜し、圧電特性を確実に向上させる圧電素子と、その製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子10は、以下の工程によって製造される。単結晶基板1を、振動する振動部1Aと、振動部1Aと連結されて振動が生じない非振動部1Bとに分けたときに、単結晶基板1上で、非振動部1B上を含む領域であって、振動部1A上の圧電薄膜3の成膜領域を除く領域に、圧電薄膜3の単結晶での成長を阻害する阻害膜2を成膜する。次に、上記成膜領域となる振動部1A上の少なくとも一部に、圧電薄膜3を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、阻害膜2上に、圧電薄膜3を非晶質または多結晶で成膜する。その後、阻害膜2上に成膜された圧電薄膜3を除去する。
【解決手段】圧電素子10は、以下の工程によって製造される。単結晶基板1を、振動する振動部1Aと、振動部1Aと連結されて振動が生じない非振動部1Bとに分けたときに、単結晶基板1上で、非振動部1B上を含む領域であって、振動部1A上の圧電薄膜3の成膜領域を除く領域に、圧電薄膜3の単結晶での成長を阻害する阻害膜2を成膜する。次に、上記成膜領域となる振動部1A上の少なくとも一部に、圧電薄膜3を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、阻害膜2上に、圧電薄膜3を非晶質または多結晶で成膜する。その後、阻害膜2上に成膜された圧電薄膜3を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子と、その圧電素子の製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、駆動素子やセンサなどの電気機械変換素子として、PZT(チタンジルコン酸鉛)などの圧電体が用いられている。一方、近年の装置の小型化、高密度化、低コスト化などの要求に応えて、Si基板を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子が増加している。MEMS素子に圧電体を応用すれば、例えばインクジェットヘッド、超音波センサ、赤外線センサ、周波数フィルタなど、種々のデバイスを作製することができる。
【0003】
ここで、MEMS素子に圧電体を応用する場合、圧電体を薄膜化することが望ましい。これは、圧電体を薄膜化することで、以下の利点が得られることによる。すなわち、成膜やフォトリソグラフィーなどの半導体プロセス技術を用いた高精度な加工が可能となり、小型化、高密度化を実現することができる。大面積のウェハに圧電体を一括加工できるため、コストを低減できる。電気機械の変換効率が向上し、駆動素子の特性やセンサの感度が向上する。
【0004】
圧電体をSiなどの基板上に成膜する方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition )法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、ゾルゲル法などの液相での成長法が知られている。
【0005】
PZTなどの圧電体は、一般的にABO3型の酸化物であり、その結晶がペロブスカイト型構造を採るときに良好な圧電効果を発現することが知られている。図11は、圧電体の結晶構造を模式的に示している。ペロブスカイト型構造とは、例えばPb(Zrx,Ti1−x)O3の正方晶では、正方晶の各頂点にPb原子が位置し、体心にTi原子またはZr原子が位置し、各面心にO原子が位置する構造である。
【0006】
中でも、圧電体は均一な単結晶構造をとるときに、大きな圧電特性が得られる。この傾向は、PZTのZr,Tiの元素をそれぞれMg,Nbに置き換えたPMN(マグネシウムニオブ酸鉛)や、PZTのTiの元素をNbに置き換えたPZN(亜鉛ニオブ酸鉛)など、いわゆるリラクサ材料と呼ばれる物質で顕著である。
【0007】
ところで、図12は、PZTの結晶状態を模式的に示す断面図である。PZTなどの圧電体とSiとは、結晶の格子定数が異なるため、Si基板上に成膜された圧電体は、方位の異なる複数の結晶101が柱状に寄り集まった多結晶状態となる。圧電体が多結晶状態であると、隣り合う結晶101・101の間に形成される結晶粒界101aで変位の拘束が生じる影響などにより、単結晶状態よりも特性が低下する。さらに、圧電体を駆動すべく、圧電体に大きな電界を印加すると、結晶粒界101aで電流リークが生じるため、そのような大きな電界を印加することもできなくなる。
【0008】
そこで、圧電体の特性低下等を回避すべく、圧電体を成膜後に単結晶化する技術が提案されている。例えば特許文献1では、下部電極上に圧電薄膜(強誘電体薄膜)を成膜した後、下部電極および圧電薄膜を、幅200μm、長さ200μmの正方形パターンが多数個形成されるように加工し、その後、圧電薄膜に対して熱処理を施すことにより、圧電薄膜を単結晶状態にしている。このように圧電薄膜を単結晶化することにより、圧電薄膜中には、結晶粒界が存在しなくなるため、リーク電流を低減できることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−215975号公報(請求項1、段落〔0034〕、〔0035〕、〔0041〕、〔0042〕、図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1のように、圧電薄膜の成膜後に熱処理を行って圧電薄膜を単結晶化する方法では、(1)圧電薄膜を単結晶化する際の熱処理時に、温度、圧力などの熱処理条件を最適化することが必要であること、(2)熱処理前に成膜された圧電薄膜では、原子同士が共有結合によって結合しており、熱処理による原子の移動範囲に限界があることから、圧電薄膜を良好に単結晶化することは実際には困難である。
【0011】
そこで、圧電特性を向上させるべく、良好な単結晶の圧電薄膜を実現するためには、圧電薄膜を最初から単結晶の状態で膜厚方向に成膜していくことが必要であり、このためには、単結晶基板上に、単結晶の圧電薄膜をエピタキシャル成長させて成膜することが必要と考えられる。しかし、圧電薄膜の成膜時には、元素の欠陥や、下層との格子定数の不整合(エピタキシャル成長と言えども圧電薄膜の格子定数が下層の格子定数と完全に一致していないため)による相転移などの不良が生じやすいため、圧電薄膜を良好な単結晶の状態でエピタキシャル成長させて成膜することは一般的に困難である。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜を成膜するための何らかの工夫が必要とされる。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、単結晶基板上において、圧電薄膜を良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長させて成膜することができ、これによって、圧電特性を確実に向上させることができる圧電素子と、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の圧電素子の製造方法は、単結晶基板上に圧電薄膜を成膜してなる圧電素子の製造方法であって、前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を成膜する工程と、前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、前記圧電薄膜を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、前記阻害膜上に、前記圧電薄膜を非晶質または多結晶で成膜する工程と、前記阻害膜上に成膜された前記圧電薄膜を除去する工程とを有していることを特徴としている。
【0014】
上記の製法によれば、阻害膜上では、圧電薄膜は単結晶での成長が阻害され、非晶質または多結晶で成長するので、圧電薄膜における元素の欠陥や下層との格子定数の不整合による相転移などの不良を、阻害膜上の圧電薄膜に集中させることができ、振動部上に成膜される圧電薄膜において、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、振動部上では、圧電薄膜は、下層の単結晶基板の構造を引き継いで、良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長する。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜を有する圧電素子を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。また、阻害膜上の圧電薄膜は、最終的に除去されるので、この圧電薄膜が振動部上の圧電薄膜の変位を阻害して圧電特性を低下させることはない。
【0015】
本発明の圧電素子は、単結晶基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子であって、前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に成膜され、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を備え、前記圧電薄膜は、前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、エピタキシャル成長によって単結晶の状態で成膜されていることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、圧電素子を製造するにあたって、例えば、単結晶基板の振動部上および阻害膜上に圧電薄膜を成膜し、その後、阻害膜上の圧電薄膜を除去することにより、上記圧電素子を実現することができる。このとき、阻害膜上の圧電薄膜は、単結晶での成長が阻害され、非晶質または多結晶で成長するので、圧電薄膜における元素の欠陥等の不良を、阻害膜上の圧電薄膜に集中させることができ、振動部上に成膜される圧電薄膜において、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、振動部上では、圧電薄膜は、下層の単結晶基板の構造を引き継いで、良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長する。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜を有する圧電素子を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。
【0017】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記阻害膜は、前記単結晶の圧電薄膜に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されており、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されてもよい。
【0018】
阻害膜は非晶質の材料で構成されているので、その阻害膜の上に圧電薄膜を非晶質または多結晶で確実に成長させることができる。また、阻害膜は電極材料で構成されており、単結晶の圧電薄膜を単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されるので、電極としての阻害膜を介して圧電薄膜に電界を印加することにより、d33駆動またはd15駆動を実現して、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。
【0019】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記阻害膜は、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されてもよい。このように阻害膜が成膜されることで、d33駆動を実現することができる。
【0020】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜は、正方晶で(111)配向に成膜してなっていてもよいし、菱面体晶で(100)配向に成膜してなっていてもよい。この場合、電界印加時に各結晶の分極方向がほぼ45度回転して一方向に揃うため、d33駆動時にさらに大きな圧電特性を得ることができる。
【0021】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板に沿う方向であってもよい。この場合、d33駆動を実現して大きな圧電特性を得ることができる。
【0022】
本発明の圧電素子において、前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、前記電界の印加方向に伸縮することによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させてもよい。このようなd33駆動により、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。
【0023】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜は、開口部を有するリング状に成膜されており、前記阻害膜は、前記単結晶基板上で、前記圧電薄膜の前記開口部の内側、および前記圧電薄膜の周囲に成膜されてもよい。このように阻害膜が成膜されることで、d15駆動を実現することができる。
【0024】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板の厚み方向であってもよい。この場合、d15駆動を実現して大きな圧電特性を得ることができる。
【0025】
本発明の圧電素子において、前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、せん断歪みが生じることによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させてもよい。このようなd15駆動により、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。
【0026】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記単結晶基板は、MgOからなり、前記圧電薄膜は、PZTからなっていてもよい。
【0027】
この構成では、MgOからなる単結晶基板上に、PZTからなる単結晶の圧電薄膜を直接成膜して、圧電特性の良好な圧電素子を実現できる。
【0028】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記単結晶基板は、単結晶の基板本体と、前記基板本体上に形成され、前記基板本体と前記圧電薄膜との間の格子定数を有する結晶整合層とを有しており、前記単結晶の前記圧電薄膜は、前記結晶整合層上に成膜されていてもよい。
【0029】
この構成では、基板本体の結晶の格子定数と圧電薄膜の結晶の格子定数との差が大きい場合でも、圧電薄膜は格子定数が基板本体よりも近い結晶整合層上に成膜されるため、結晶整合層上での圧電薄膜の単結晶での成長を促進させることができる。これにより、単結晶の圧電薄膜を成膜するにあたって、基板本体として圧電薄膜に近い格子定数の基板を用いる必要がなくなり、用いる基板本体の制約をなくすことができる。
【0030】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記基板本体は、Siからなり、前記結晶整合層は、MgOからなり、前記圧電薄膜は、PZTからなっていてもよい。
【0031】
この構成では、汎用性のあるSi基板を用い、そのSi基板上に、MgOからなる結晶整合層を介して、PZTからなる単結晶の圧電薄膜を成膜して、圧電特性の良好な圧電素子を実現できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、阻害膜上では、圧電薄膜は単結晶での成長が阻害されて非晶質または多結晶で成長するので、阻害膜上の圧電薄膜に元素の欠陥等の不良を集中させることができ、振動部上に成膜される圧電薄膜において、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、振動部上において、良好な単結晶の状態で圧電薄膜を確実にエピタキシャル成長させることができる。その結果、良好な単結晶の圧電薄膜を有する圧電素子を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の実施の一形態に係る圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【図2】上記圧電素子の製造時の流れを示すフローチャート、および製造工程を示す断面図である。
【図3】PTOおよびPZOの組成比と結晶系との関係を示すグラフである。
【図4】PTOおよびPZOの組成比と特性との関係を示すグラフである。
【図5】正方晶の(111)配向の結晶構造と、菱面体晶の(100)配向の結晶構造とを模式的に示す説明図である。
【図6】PZTを成膜するスパッタ装置の概略の構成を示す断面図である。
【図7】(a)は、上記圧電素子をd33駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、(b)は、図7(a)のA−A’線矢視断面図である。
【図8】(a)〜(c)は、他の構成の圧電素子の製造の手順を簡単に示す断面図である。
【図9】(a)は、図8(c)で示した圧電素子をd15駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、(b)は、図9(a)のA−A’線矢視断面図である。
【図10】図9(b)の圧電素子の電圧印加後の状態を示す断面図である。
【図11】圧電体としてのPZTの結晶構造を模式的に示す説明図である。
【図12】PZTの結晶状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0035】
〔1.圧電素子の構成および製造方法〕
図1(a)〜図1(c)は、本実施形態に係る圧電素子10の製造工程を示す断面図である。図1(c)に示すように、圧電素子10は、単結晶基板1と、阻害膜2と、圧電薄膜3とを有して構成されている。
【0036】
単結晶基板1は、例えばMgOからなる基板で構成されている。単結晶基板1の厚さは、デバイスの構成によって異なるが、一般的に300〜500μm程度である。
【0037】
ここで、単結晶基板1は、振動部1Aと非振動部1Bとを連結して構成されている。振動部1Aは、単結晶基板1のうち、圧電素子10の機能を発揮させるために振動する(撓む)部分であって、圧電薄膜3の圧電効果によって振動する、または圧電薄膜3に圧電効果を生じさせるために振動する部分である。なお、圧電効果とは、圧電薄膜3に電界を印加することによって圧電薄膜3が変形したり、逆に、圧電薄膜3を変形させることによって圧電薄膜3に電界(電位差)が生じることを言う。一方、非振動部1Bは、単結晶基板1のうちで振動が生じない部分である。振動部1Aは、圧電素子10の機能を発揮させるために利用されるため、利用領域と呼ぶこともでき、この場合、非振動部1Bは非利用領域となる。
【0038】
例えば、圧電素子10は、後述するようにインクジェットヘッドのアクチュエータや、超音波センサなどに利用可能であるが、上記のアクチュエータでは、圧電薄膜3の伸縮によって単結晶基板1の振動部1Aが振動することにより、単結晶基板1に形成された圧力室からインクを外部に吐出させることができる。また、超音波センサでは、超音波が当たって振動部1Aが振動することにより、圧電薄膜3に歪みが生じる。したがって、このときに発生する電位差を検知することにより、超音波の受信を検知できる。このように振動部1Aが振動することにより、圧電素子10をアクチュエータやセンサとして機能させることができる。
【0039】
阻害膜2は、圧電薄膜3の単結晶での成長を阻害するための膜であり、単結晶基板1上の一部の領域に成膜されている。より具体的には、阻害膜2は、単結晶基板1上で、非振動部1B上を含む領域であって、振動部1A上の圧電薄膜3の成膜領域を除く領域に成膜されている。なお、ここでは、後述するように、圧電薄膜3は、振動部1A上の全域に成膜されているため、阻害膜2は、非振動部1B上のみに成膜されていることになる。
【0040】
この阻害膜2は、振動部1A上に成膜される単結晶の圧電薄膜3に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されている。このような非晶質の電極材料としては、例えばPtが挙げられる。Ptの厚さは例えば0.1μm程度である。阻害膜2は、振動部1A上の圧電薄膜3を、単結晶基板1に沿って挟み込む複数の位置に成膜されており、圧電薄膜3に対して単結晶基板1に沿う方向に電界を印加することが可能となっている。
【0041】
なお、阻害膜2は、圧電薄膜3を、単結晶基板1に沿って挟み込むように成膜されるのであれば、その挟み込み方向は特に限定されない。したがって、阻害膜2は、単結晶基板1上で圧電薄膜3を一方向に沿って挟み込む2か所にのみ設けられていてもよいし(図1(c)参照)、上記2か所に加えて、上記一方向に直交する方向に沿って挟み込む2か所にも(計4か所)設けられていてもよい。つまり、阻害膜2は、単結晶基板1上で圧電薄膜3を少なくとも一方向に沿って挟み込む複数の位置に成膜されていればよい。
【0042】
なお、Ptと単結晶基板1との密着性を向上させるために、阻害膜2をTiとPtとの2層で構成してもよい。つまり、Pt層と単結晶基板1との間にTi層を介在させてもよい。この場合のTi層の厚さは、例えば0.02μm程度である。上記の阻害膜2は、振動部1A上の圧電薄膜3の側面にも、上記と同程度の膜厚で成膜されている。
【0043】
圧電薄膜3は、例えばPZTで構成されており、ここでは、振動部1A上の全域に、エピタキシャル成長によって単結晶の状態で成膜されている。PZTの厚みは、用途によって異なるが、センサでは1μm以下、アクチュエータでは5μm以下とするのが一般的である。
【0044】
次に、上記構成の圧電素子10の製造方法について説明する。まず、図1(a)に示すように、単結晶基板1の非振動部1B上に阻害膜2を成膜する(S1)。続いて、図1(b)に示すように、単結晶基板1の振動部1A上に、圧電薄膜3を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、阻害膜2上に、圧電薄膜3を非晶質または多結晶で成膜する(S2)。なお、単結晶の圧電薄膜3と、非晶質または多結晶の圧電薄膜3とを特に区別する場合には、前者を圧電薄膜3aと称し、後者を圧電薄膜3bと称する。そして、図1(c)に示すように、阻害膜2上に成膜された圧電薄膜3bを除去する(S3)。その後、振動部1A上の圧電薄膜3aの側面にも阻害膜2を成膜することで、圧電素子10が完成する。以下、圧電素子10の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0045】
〔2.圧電素子の製造方法の詳細〕
図2は、圧電素子10の製造時の流れを示すフローチャートと、製造工程を示す断面図とを併せて示したものである。まず、最初に単結晶基板1の表面を洗浄する(S11)。必要であれば、プラズマ洗浄などにより単結晶の表面を露出する。
【0046】
続いて、単結晶基板1の上に、レジスト剤をスピンコート法により塗布し、乾燥後、マスクを介して露光、現像し、レジストパターン4を得る(S12、S13)。そして、このレジストパターン4を覆うように、単結晶基板1上にTi、Ptをそれぞれ蒸着法で成膜し、阻害膜2を形成する(S14、S15)。その後、レジストパターン4をエッチング溶液で除去することにより、レジストパターン4上の阻害膜2も、レジストパターン4と同時に剥離する(リフトオフ;S16)。なお、エッチング溶液としては、エッチングするレジスト剤が指定されているものを用いる。以上の工程により、単結晶基板1の非振動部1B上に阻害膜2が成膜される。つまり、S11〜S16の工程は、上記したS1の工程に対応する。
【0047】
次に、単結晶基板1の表面が露出した領域および阻害膜2上に、圧電薄膜3としてのPZTをスパッタ法で成膜する(S17)。なお、PZTの成膜方法の詳細については後述する。PZTを成膜する下地の面において、PZTの成膜が必要となる領域には、MgOの単結晶面が露出し、PZTの成膜が不要な領域には、阻害膜2を構成する非晶質のPtが存在する。MgOの格子定数は0.42nmであり、PZTの格子定数は正方晶で0.39nm、菱面体晶で0.41nmであるところ、MgO単結晶面が露出ている領域では、PZTとの格子定数差が小さいため、成膜条件を適切に設定することにより、PZTを単結晶の状態でエピタキシャル成長させて成膜することができる。一方、非晶質のPtが存在する領域では、Ptの結晶性が低いため、その上に成膜されるPZTは、非晶質または多結晶で成長する。以上の工程により、単結晶基板1の振動部1A上に、単結晶の圧電薄膜3aが成膜されるとともに、阻害膜2上に、非晶質または多結晶の圧電薄膜3bが成膜される。つまり、S17の工程は、上記したS2の工程に対応する。
【0048】
続いて、圧電薄膜3の上に、レジスト剤をスピンコート法により塗布し、乾燥後、マスクを介して露光、現像し、必要な領域を保護するレジストパターン5を得る(S18、S19)。そして、この基板をエッチング溶液に浸漬し、不要な領域のPZT(阻害膜2上の圧電薄膜3bを含む)を除去する(S20)。このときのエッチング溶液としては、フッ酸と硝酸との混合液を用いる。なお、S20の工程は、上記したS3の工程に対応する。
【0049】
次に、圧電薄膜3(3a)および阻害膜2の上に、レジスト剤をスピンコート法により塗布し、乾燥後、マスクを介して露光、現像し、レジストパターン6を得る(S21、S12)。そして、レジストパターン6の上および圧電薄膜3aの側面に、Ti、Ptをそれぞれ蒸着法で成膜する(S23、S24)。その後、レジストパターン6をエッチング溶液で除去することにより、不要なTi、Ptもレジストパターン6と同時に剥離する(リフトオフ;S25)。これにより、振動部1A上に圧電薄膜3(3a)が成膜され、非振動部1B上に、TiおよびPtの層からなる阻害膜2が成膜された圧電素子10が得られる。また、各レジスト剤のパターニングにより、阻害膜2は、圧電薄膜3aを単結晶基板1に沿って挟み込む複数の位置に成膜されることになる。
【0050】
以上のように、単結晶基板1において、圧電薄膜3aの成膜領域以外の領域(ここでは非振動部1B上)に阻害膜2を成膜しておくことで、阻害膜2上では、圧電薄膜3は単結晶での成長が阻害され、非晶質または多結晶で成長する。これにより、圧電薄膜3における元素の欠陥や下層との格子定数の不整合による相転移などの不良を、阻害膜2上の圧電薄膜3bに集中させることができ、振動部1A上に成膜される圧電薄膜3aにおいて、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、圧電薄膜3aは、下層の単結晶基板1の構造を引き継いで、良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長する。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜3aを有する圧電素子3を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。また、阻害膜2上の圧電薄膜3bは、最終的に除去されるので、この圧電薄膜3bが圧電薄膜3aの変位を阻害して圧電特性を低下させることはない。
【0051】
また、単結晶の圧電薄膜3aは、振動部1A上に成膜されているので、圧電薄膜3aの圧電効果によって振動部1Aを振動させて、あるいは、振動部1Aの振動によって圧電薄膜3aに圧電効果を生じさせて、圧電素子10の機能(例えばアクチュエータやセンサとしての機能)を発揮させることができる。
【0052】
また、阻害膜2は非晶質の材料で構成されているので、その阻害膜2の上に圧電薄膜3を非晶質または多結晶で確実に成長させることができる。しかも、阻害膜2は電極材料で構成されており、単結晶の圧電薄膜3aを単結晶基板1に沿って挟み込む複数の位置に成膜されるので、阻害膜2・2を介して圧電薄膜3aに電界を印加することにより、d33駆動またはd15駆動を実現して、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。特に、阻害膜2が、圧電薄膜3を単結晶基板1に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されることにより、d33駆動を実現することができる。なお、d33駆動またはd15駆動の詳細については後述する。
【0053】
また、単結晶基板1としてのMgOと、圧電薄膜3aとしてのPZTとは、上述したように格子定数が近いので、単結晶基板1と圧電薄膜3aとの間に、格子定数差を小さくするための緩和層を設けなくても、単結晶基板1上に単結晶の圧電薄膜3aを直接成膜して、圧電特性の良好な圧電素子10を実現することができる。
【0054】
〔3.圧電薄膜の結晶配向〕
次に、単結晶の圧電薄膜3の結晶配向について説明する。圧電薄膜3としてのPZTは、ともにペロブスカイト型構造を採るPTO(PbTiO3;チタン酸鉛)とPZO(PbZrO3;ジルコン酸鉛)との固溶体であるが、PTOの比率が高いときにはPZT全体が正方晶となり、PZOの比率が高いときにはPZT全体が菱面体晶となる。
【0055】
図3は、PTOおよびPZOの組成比と結晶系との関係を示している。PTOとPZOとの組成比が、48/52〜47/53のあたりで、結晶系が正方晶から菱面体晶、または菱面体晶から正方晶に変化する。このように結晶系が変化する境界を組成相境界(MPB;Morphotropic phase boundary )と呼び、以下では単に相境界と記す。室温付近においては、PZTの結晶構造は、正方晶、菱面体晶またはこれらの混合結晶(相境界)であるが、キュリー点以上の温度では、PZTの結晶構造は、PTOとPZOとの組成比がいずれであっても、立方晶となる。
【0056】
図4は、PTOおよびPZOの組成比と特性(比誘電率、電気機械結合係数)との関係を示している。上記した相境界では、比誘電率および電気機械結合係数の両者が特異的に高くなる。比誘電率と圧電定数(単位電界あたりの変位量)とは正の相関があり、比誘電率が高くなることにより、圧電定数が高くなる。また、電気機械結合係数は、電気的な信号を機械的な歪みに変換する際の効率、あるいはその逆の変換の際の効率を示す指標となるものであり、この係数が高くなることによって、変換効率が高くなる。
【0057】
ここで、本実施形態では、単結晶の圧電体において、電界の印加方向(単結晶基板1に沿う方向、または圧電薄膜3の膜厚方向とは垂直方向)と分極方向とは同じであってもよいが、両者のなす角度が45度に近い値を取るとき、圧電体に対して基板に垂直に電界を印加しても、平行に電界を印加しても、分極方向が回転して電界の印加方向に揃い、大きな圧電特性が得られる。
【0058】
PZTにおいて、分極回転を利用して大きな圧電定数を得る条件は、以下の通りである。正方晶の分極方向は(100)方向であるので、PZTを正方晶で(111)配向になるように((111)方向が基板面に垂直となるように)基板上に成膜し、基板面と並行に電界を印加すると、分極方向と電界方向とのなす角を略45度(約55度(tanθ=√2/1)にすることができる。同様に、菱面体晶の分極方向は(111)方向であるので、PZTを菱面体晶で(100)配向となるように((100)方向が基板面に垂直となるように)基板上に成膜し、基板面と並行に電界を印加すると、分極方向と電界方向とのなす角を略45度(約55度(tanθ=√2/1)にすることができる。図5は、正方晶の(111)配向の結晶構造と、菱面体晶の(100)配向の結晶構造とを模式的に示している。
【0059】
正方晶の(111)配向を利用する場合、PTOがPZOよりも数%多く含まれた組成比のターゲット材料を用い、(111)面でカットしたMgO基板の上にPZTを成膜すればよい。また、菱面体晶の(100)配向を利用する場合、PZOがPTOよりも数%多く含まれた組成比のターゲット材料を用い、(100)面でカットしたMgO基板の上にPZTを成膜すればよい。以下、PZTの成膜方法の詳細について説明する。
【0060】
〔4.PZTの成膜方法の詳細〕
図6は、圧電薄膜3としてのPZTを成膜するスパッタ装置の概略の構成を示す断面図である。圧電薄膜3は、例えば高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。
【0061】
まず、所定の組成比に調合したPZT材料の粉末を混合、焼成、粉砕し、ターゲット皿12に充填してプレス機で加圧することにより、ターゲット11を作製する。そして、このターゲット皿12をマグネット13上に設置し、その上にカバー14を設置する。このマグネット13とその下にある高周波電極15は、絶縁体16によって真空チャンバー17と絶縁されている。また、高周波電極15は、高周波電源18と接続されている。
【0062】
次に、(111)面または(100)面でカットした単結晶基板1を、基板加熱ヒーター19上に設置する。そして、真空チャンバー17内を排気し、基板加熱ヒーター19によって単結晶基板1を600℃まで加熱する。加熱後、バルブ20および21を開け、スパッタガスであるArとO2を所定の割合でノズル22より真空チャンバー17内に導入し、真空度を所定値に保つ。ターゲット11に高周波電源18より高周波電力を投入し、プラズマを発生させることにより、単結晶基板1上に、正方晶の(111)配向または菱面体晶の(100)配向のPZTを圧電薄膜3aとして成膜することができる。
【0063】
〔5.圧電素子の応用例〕
図7(a)は、本実施形態で作製した圧電素子10をd33駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図7(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜3は、単結晶基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。単結晶基板1(振動部1A)の一部は、除去されて開口部1pが形成されている。圧電薄膜3の形成領域は、この開口部1pの形成領域に対応している。単結晶基板1における開口部1pの上部は、薄い板状の従動膜1sとなっている。
【0064】
また、非晶質の電極材料(例えばPt)で構成される阻害膜2は、図示しない配線により、外部の制御回路と接続されている。このとき、図7(a)に示すように、阻害膜2を形成する層の一部は除去されて単結晶基板1が露出している。このように電極層の一部を除去することで、圧電薄膜3に電界を印加する一対の電極(極性の異なる電極)としての阻害膜2・2を分離することができる。
【0065】
制御回路から、所定の圧電薄膜3を挟む一対の阻害膜2・2に電気信号を印加することにより、所定の圧電薄膜3のみを駆動することができる。つまり、圧電薄膜3に所定の電界を加えると、圧電薄膜3が電界印加方向に伸縮し、バイメタルの効果によって圧電薄膜3および単結晶基板1(振動部1A、従動膜1s)が上下に湾曲(振動)する。したがって、単結晶基板1の開口部1pに気体や液体を充填すると、圧電素子10をポンプ(例えばインクジェットヘッドのアクチュエータ)として用いることができる。
【0066】
また、圧電薄膜3の振動によって生じる電荷量を一対の阻害膜2・2を介して検出することにより、圧電薄膜3の変形量を検出することもできる。つまり、音波や超音波により、単結晶基板1(振動部1A、従動膜1s)が振動し、圧電薄膜3が振動すると、上記と反対の効果によって一対の阻害膜2・2間に電界が発生するため、このときの電界の大きさや検出信号の周波数を検出することにより、圧電素子10を超音波センサとして用いることもできる。さらに、PZTは、圧電特性の他にも焦電性、強誘電性を有しているため、圧電素子10を熱センサや記憶メモリとして活用することもできる。
【0067】
このように、図7(a)(b)の圧電素子10においては、圧電薄膜3aが電界の印加方向(単結晶基板1に沿った方向)に伸縮することによって、単結晶基板1を厚さ方向に振動させるd33駆動が行われる。このようなd33駆動により、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。なお、d31駆動とは、圧電体に対して基板に垂直な方向(分極方向も同じ方向)に電界を印加して圧電体を基板に沿う方向に伸縮させることにより、基板を厚さ方向に振動させる駆動方式を言う。
【0068】
特に、圧電薄膜3aとして、正方晶の(111)配向膜や菱面体晶の(100)配向膜を用いると、電界印加時に各結晶の分極方向がほぼ45度回転して一方向に揃うため、d33駆動時にさらに大きな圧電特性を得ることができる。なお、分極方向が単結晶基板1に沿う方向となるように圧電薄膜3aを成膜した場合でも、電界印加時に、圧電薄膜3aは電界印加方向に大きく伸縮するので、d33駆動によってd31駆動よりも大きな圧電特性が得られる点に変わりはない。
【0069】
〔6.圧電素子の他の構成〕
図8(a)〜図8(c)は、他の構成の圧電素子10の製造の手順を簡単に示す断面図である。この圧電素子10は、単結晶基板1が、基板本体31と、結晶整合層32とを積層して構成されている点以外は、図1(c)の圧電素子10と同様の構成である。阻害膜2および圧電薄膜3aは、結晶整合層32上に成膜されている。
【0070】
基板本体31は、単結晶の基板であり、例えばSi基板(格子定数;0.54nm)で構成されている。Si基板は、基板のサイズ、コスト、加工性等の観点で他の単結晶基板よりも有利である。
【0071】
結晶整合層32は、基板本体31上に形成されて、基板本体31と圧電薄膜3aとの間の格子定数を有している。本実施形態では、結晶整合層32は、圧電薄膜3aとしてのPZTと格子定数が近いMgO(格子定数;0.42nm)で構成されている。結晶整合層32としてのMgOは、例えばスパッタ法で成膜され、その厚みは0.01μm程度である。
【0072】
なお、上記構成の圧電素子10は、基板本体31としてのSi基板上に結晶整合層32としてのMgOをスパッタ法で成膜した後は、図1(a)〜図1(c)および図2で示した製法をそのまま適用して製造することができる。
【0073】
単結晶基板1を、汎用性のある単結晶のSi基板のみで構成した場合、SiとPZTとの格子定数の差が大きいため、Si基板上にPZTを単結晶で直接成膜することはできない。しかし、上記のように、単結晶基板1を、Si基板からなる基板本体31と結晶整合層32との2層構造とし、結晶整合層32上に圧電薄膜3aを成膜する構成とすることにより、結晶整合層32と圧電薄膜3aとの格子定数の差が小さいため、結晶整合層32上で圧電薄膜3aの単結晶での成長を促進させることができ、圧電薄膜3aを単結晶で成膜することができる。
【0074】
また、単結晶の圧電薄膜3aを成膜するにあたって、基板本体31として圧電薄膜3aに近い格子定数の基板を用いる必要がなくなり、用いる基板本体31の制約をなくすことができる。したがって、基板本体31として、安価で加工性に優れたSi基板を用いることが可能となる。
【0075】
また、上記のように、基板本体31としてのSi基板上に、MgOからなる結晶整合層32を介して、PZTからなる単結晶の圧電薄膜3aを成膜した構成であっても、上述した本実施形態の製造方法を適用することにより、阻害部2上の圧電薄膜3bに元素の欠陥等の不良を集中させ、振動部1A上の圧電薄膜3aにおける欠陥等の不良の集中を抑制することができるので、圧電特性の良好な圧電素子10を実現することができる。
【0076】
〔7.圧電素子の他の応用例〕
図9(a)は、図8(c)で示した圧電素子10をd15駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図9(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜3(3a)は、単結晶基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。ここで、圧電薄膜3を構成するPZTの分極方向Pは、単結晶基板1の厚み方向、つまり、PZTの膜厚方向である。また、PZTの厚さは、概ね1〜10μm程度である。
【0077】
単結晶基板1(振動部1A)の基板本体31の一部は除去されて、断面が円形の開口部31pが形成されている。圧電薄膜3の形成領域(特にリング状の外径)と、開口部31pの形成領域(特に開口径)とは対応している。基板本体31における開口部31pの上部は、薄い板状の従動膜31sとなっている。従動膜31sの厚さは、用途や圧電体の特性により変化するが、概ね1〜10μm程度である。そして、基板本体31上には、圧電薄膜3aの結晶成長を補助する、MgOからなる結晶整合層32が形成されている。この結晶整合層32上には、上記の圧電薄膜3(3a)が成膜されているとともに、阻害膜2が成膜されている。
【0078】
より詳しくは、圧電薄膜3aは、振動部1A上でリング状に成膜されており、開口部3pを有している。このため、圧電薄膜3aは、振動部1A上の全域ではなく、一部に成膜されていることになる。一方、阻害膜2は、非振動部1B上のみならず、振動部1A上において、圧電薄膜3aの開口部3p(リングの内側)にも成膜されている。したがって、阻害膜2は、単結晶基板1上で、非振動部1B上を含み、振動部1A上の圧電薄膜3aの成膜領域を除く領域に成膜されていることになる。なお、阻害膜2は、上記のように、圧電薄膜3aの開口部3pの内側、および圧電薄膜3aの周囲に成膜されることによって、圧電薄膜3aを単結晶基板1に沿って挟み込んでいることに変わりはない。
【0079】
以下、説明の便宜上、振動部1A上に成膜されている阻害膜2を、内電極2aと称し、非振動部1B上に成膜されている阻害膜2を、外電極2bと称することとする。これらの内電極2aおよび外電極2bは、外部の制御回路と電気的に接続されている。なお、このときの電気的な接続は、一般的なワイヤーを用いて行われてもよい。また、絶縁層を積層して内電極2aおよび外電極2bを電気的に接触させずに外部に引き出す構成としてもよい。
【0080】
上記構成の圧電素子10において、内電極2aおよび外電極2bを介して、圧電薄膜3aに電界が印加されると、電界の印加方向(単結晶基板1に沿った方向)と、圧電薄膜3aの分極方向(膜厚方向)とが直交しているため、図10に示すように、圧電薄膜3aは、せん断歪みによる滑り方向の変形(d15変形)を起こし、その断面が平行四辺形状になる。これにより、振動部1Aが上下に振動する。このとき、振動部1Aの振動方向に沿った軸であって、開口部31pの断面円形の中心を通る軸上には、圧電薄膜3aが存在しないため(リング状の圧電薄膜3aの開口部3pを通るため)、振動部1Aは、中心部分で傾かずに振動方向に平行移動(並進)するように振動する。このような振動部1Aの振動により、図7(b)の構成と同様に、圧電素子10をポンプとして用いることができる。また、振動部1Aを振動させて圧電薄膜3aから電位差を検出することにより、圧電素子10をセンサとしても用いることができる。
【0081】
このように、上記構成の圧電素子10においては、圧電薄膜3aは、阻害膜2(内電極2a、外電極2b)を介して単結晶基板1に沿った方向の電界が印加されたときに、せん断歪みが生じることによって、単結晶基板1を厚さ方向に振動させるd15駆動が行われる。このようなd15駆動では、d33駆動と同等か、それより大きい圧電特性を得ることができる。特に、圧電薄膜3aの分極方向を単結晶基板1の厚さ方向とし、電界印加方向と垂直方向とすることで、そのようなd15駆動を確実に実現して大きな圧電特性を確実に得ることができる。
【0082】
また、圧電薄膜3aは、開口部3pを有するリング状に成膜されており、阻害膜2は、単結晶基板1上で、圧電薄膜3aの開口部3pの内側、および圧電薄膜3aの周囲に成膜されているので、圧電薄膜3aの内側および外側の阻害膜2を介して、圧電薄膜3aに単結晶基板1に沿った方向の電界を印加することにより、単結晶基板1を厚さ方向に振動させるd15駆動を実現することができる。
【0083】
また、単結晶の圧電薄膜3aは、振動部1A上の一部に成膜されているので、阻害膜2が、非振動部1B上のみならず、振動部1A上の圧電薄膜3aの非成膜領域に成膜されていても、圧電薄膜3aの圧電効果によって振動部1Aを振動させて、あるいは、振動部1Aの振動によって圧電薄膜3aに圧電効果を生じさせて、圧電素子10の機能(例えばアクチュエータやセンサとしての機能)を発揮させることができる。
【0084】
〔8.補足〕
本実施形態では、圧電薄膜3をスパッタ法で成膜しているが、圧電薄膜3の成膜方法としては、上述したスパッタ法だけでなく、物理気相成長法である蒸着法、化学気相成長法であるCVD法、液相法であるゾルゲル法など、他の手法を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えばインクジェットヘッド、超音波センサ、赤外線センサ(熱センサ)、周波数フィルタなどの種々のデバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 単結晶基板
1A 振動部
1B 非振動部
2 阻害膜
3 圧電薄膜
3a 圧電薄膜
3b 圧電薄膜
3p 開口部
10 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子と、その圧電素子の製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、駆動素子やセンサなどの電気機械変換素子として、PZT(チタンジルコン酸鉛)などの圧電体が用いられている。一方、近年の装置の小型化、高密度化、低コスト化などの要求に応えて、Si基板を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子が増加している。MEMS素子に圧電体を応用すれば、例えばインクジェットヘッド、超音波センサ、赤外線センサ、周波数フィルタなど、種々のデバイスを作製することができる。
【0003】
ここで、MEMS素子に圧電体を応用する場合、圧電体を薄膜化することが望ましい。これは、圧電体を薄膜化することで、以下の利点が得られることによる。すなわち、成膜やフォトリソグラフィーなどの半導体プロセス技術を用いた高精度な加工が可能となり、小型化、高密度化を実現することができる。大面積のウェハに圧電体を一括加工できるため、コストを低減できる。電気機械の変換効率が向上し、駆動素子の特性やセンサの感度が向上する。
【0004】
圧電体をSiなどの基板上に成膜する方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition )法などの化学的な方法、スパッタ法やイオンプレーティング法などの物理的な方法、ゾルゲル法などの液相での成長法が知られている。
【0005】
PZTなどの圧電体は、一般的にABO3型の酸化物であり、その結晶がペロブスカイト型構造を採るときに良好な圧電効果を発現することが知られている。図11は、圧電体の結晶構造を模式的に示している。ペロブスカイト型構造とは、例えばPb(Zrx,Ti1−x)O3の正方晶では、正方晶の各頂点にPb原子が位置し、体心にTi原子またはZr原子が位置し、各面心にO原子が位置する構造である。
【0006】
中でも、圧電体は均一な単結晶構造をとるときに、大きな圧電特性が得られる。この傾向は、PZTのZr,Tiの元素をそれぞれMg,Nbに置き換えたPMN(マグネシウムニオブ酸鉛)や、PZTのTiの元素をNbに置き換えたPZN(亜鉛ニオブ酸鉛)など、いわゆるリラクサ材料と呼ばれる物質で顕著である。
【0007】
ところで、図12は、PZTの結晶状態を模式的に示す断面図である。PZTなどの圧電体とSiとは、結晶の格子定数が異なるため、Si基板上に成膜された圧電体は、方位の異なる複数の結晶101が柱状に寄り集まった多結晶状態となる。圧電体が多結晶状態であると、隣り合う結晶101・101の間に形成される結晶粒界101aで変位の拘束が生じる影響などにより、単結晶状態よりも特性が低下する。さらに、圧電体を駆動すべく、圧電体に大きな電界を印加すると、結晶粒界101aで電流リークが生じるため、そのような大きな電界を印加することもできなくなる。
【0008】
そこで、圧電体の特性低下等を回避すべく、圧電体を成膜後に単結晶化する技術が提案されている。例えば特許文献1では、下部電極上に圧電薄膜(強誘電体薄膜)を成膜した後、下部電極および圧電薄膜を、幅200μm、長さ200μmの正方形パターンが多数個形成されるように加工し、その後、圧電薄膜に対して熱処理を施すことにより、圧電薄膜を単結晶状態にしている。このように圧電薄膜を単結晶化することにより、圧電薄膜中には、結晶粒界が存在しなくなるため、リーク電流を低減できることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−215975号公報(請求項1、段落〔0034〕、〔0035〕、〔0041〕、〔0042〕、図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1のように、圧電薄膜の成膜後に熱処理を行って圧電薄膜を単結晶化する方法では、(1)圧電薄膜を単結晶化する際の熱処理時に、温度、圧力などの熱処理条件を最適化することが必要であること、(2)熱処理前に成膜された圧電薄膜では、原子同士が共有結合によって結合しており、熱処理による原子の移動範囲に限界があることから、圧電薄膜を良好に単結晶化することは実際には困難である。
【0011】
そこで、圧電特性を向上させるべく、良好な単結晶の圧電薄膜を実現するためには、圧電薄膜を最初から単結晶の状態で膜厚方向に成膜していくことが必要であり、このためには、単結晶基板上に、単結晶の圧電薄膜をエピタキシャル成長させて成膜することが必要と考えられる。しかし、圧電薄膜の成膜時には、元素の欠陥や、下層との格子定数の不整合(エピタキシャル成長と言えども圧電薄膜の格子定数が下層の格子定数と完全に一致していないため)による相転移などの不良が生じやすいため、圧電薄膜を良好な単結晶の状態でエピタキシャル成長させて成膜することは一般的に困難である。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜を成膜するための何らかの工夫が必要とされる。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、単結晶基板上において、圧電薄膜を良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長させて成膜することができ、これによって、圧電特性を確実に向上させることができる圧電素子と、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の圧電素子の製造方法は、単結晶基板上に圧電薄膜を成膜してなる圧電素子の製造方法であって、前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を成膜する工程と、前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、前記圧電薄膜を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、前記阻害膜上に、前記圧電薄膜を非晶質または多結晶で成膜する工程と、前記阻害膜上に成膜された前記圧電薄膜を除去する工程とを有していることを特徴としている。
【0014】
上記の製法によれば、阻害膜上では、圧電薄膜は単結晶での成長が阻害され、非晶質または多結晶で成長するので、圧電薄膜における元素の欠陥や下層との格子定数の不整合による相転移などの不良を、阻害膜上の圧電薄膜に集中させることができ、振動部上に成膜される圧電薄膜において、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、振動部上では、圧電薄膜は、下層の単結晶基板の構造を引き継いで、良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長する。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜を有する圧電素子を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。また、阻害膜上の圧電薄膜は、最終的に除去されるので、この圧電薄膜が振動部上の圧電薄膜の変位を阻害して圧電特性を低下させることはない。
【0015】
本発明の圧電素子は、単結晶基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子であって、前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に成膜され、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を備え、前記圧電薄膜は、前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、エピタキシャル成長によって単結晶の状態で成膜されていることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、圧電素子を製造するにあたって、例えば、単結晶基板の振動部上および阻害膜上に圧電薄膜を成膜し、その後、阻害膜上の圧電薄膜を除去することにより、上記圧電素子を実現することができる。このとき、阻害膜上の圧電薄膜は、単結晶での成長が阻害され、非晶質または多結晶で成長するので、圧電薄膜における元素の欠陥等の不良を、阻害膜上の圧電薄膜に集中させることができ、振動部上に成膜される圧電薄膜において、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、振動部上では、圧電薄膜は、下層の単結晶基板の構造を引き継いで、良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長する。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜を有する圧電素子を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。
【0017】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記阻害膜は、前記単結晶の圧電薄膜に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されており、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されてもよい。
【0018】
阻害膜は非晶質の材料で構成されているので、その阻害膜の上に圧電薄膜を非晶質または多結晶で確実に成長させることができる。また、阻害膜は電極材料で構成されており、単結晶の圧電薄膜を単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されるので、電極としての阻害膜を介して圧電薄膜に電界を印加することにより、d33駆動またはd15駆動を実現して、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。
【0019】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記阻害膜は、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されてもよい。このように阻害膜が成膜されることで、d33駆動を実現することができる。
【0020】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜は、正方晶で(111)配向に成膜してなっていてもよいし、菱面体晶で(100)配向に成膜してなっていてもよい。この場合、電界印加時に各結晶の分極方向がほぼ45度回転して一方向に揃うため、d33駆動時にさらに大きな圧電特性を得ることができる。
【0021】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板に沿う方向であってもよい。この場合、d33駆動を実現して大きな圧電特性を得ることができる。
【0022】
本発明の圧電素子において、前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、前記電界の印加方向に伸縮することによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させてもよい。このようなd33駆動により、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。
【0023】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜は、開口部を有するリング状に成膜されており、前記阻害膜は、前記単結晶基板上で、前記圧電薄膜の前記開口部の内側、および前記圧電薄膜の周囲に成膜されてもよい。このように阻害膜が成膜されることで、d15駆動を実現することができる。
【0024】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板の厚み方向であってもよい。この場合、d15駆動を実現して大きな圧電特性を得ることができる。
【0025】
本発明の圧電素子において、前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、せん断歪みが生じることによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させてもよい。このようなd15駆動により、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。
【0026】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記単結晶基板は、MgOからなり、前記圧電薄膜は、PZTからなっていてもよい。
【0027】
この構成では、MgOからなる単結晶基板上に、PZTからなる単結晶の圧電薄膜を直接成膜して、圧電特性の良好な圧電素子を実現できる。
【0028】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記単結晶基板は、単結晶の基板本体と、前記基板本体上に形成され、前記基板本体と前記圧電薄膜との間の格子定数を有する結晶整合層とを有しており、前記単結晶の前記圧電薄膜は、前記結晶整合層上に成膜されていてもよい。
【0029】
この構成では、基板本体の結晶の格子定数と圧電薄膜の結晶の格子定数との差が大きい場合でも、圧電薄膜は格子定数が基板本体よりも近い結晶整合層上に成膜されるため、結晶整合層上での圧電薄膜の単結晶での成長を促進させることができる。これにより、単結晶の圧電薄膜を成膜するにあたって、基板本体として圧電薄膜に近い格子定数の基板を用いる必要がなくなり、用いる基板本体の制約をなくすことができる。
【0030】
本発明の圧電素子およびその製造方法において、前記基板本体は、Siからなり、前記結晶整合層は、MgOからなり、前記圧電薄膜は、PZTからなっていてもよい。
【0031】
この構成では、汎用性のあるSi基板を用い、そのSi基板上に、MgOからなる結晶整合層を介して、PZTからなる単結晶の圧電薄膜を成膜して、圧電特性の良好な圧電素子を実現できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、阻害膜上では、圧電薄膜は単結晶での成長が阻害されて非晶質または多結晶で成長するので、阻害膜上の圧電薄膜に元素の欠陥等の不良を集中させることができ、振動部上に成膜される圧電薄膜において、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、振動部上において、良好な単結晶の状態で圧電薄膜を確実にエピタキシャル成長させることができる。その結果、良好な単結晶の圧電薄膜を有する圧電素子を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の実施の一形態に係る圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【図2】上記圧電素子の製造時の流れを示すフローチャート、および製造工程を示す断面図である。
【図3】PTOおよびPZOの組成比と結晶系との関係を示すグラフである。
【図4】PTOおよびPZOの組成比と特性との関係を示すグラフである。
【図5】正方晶の(111)配向の結晶構造と、菱面体晶の(100)配向の結晶構造とを模式的に示す説明図である。
【図6】PZTを成膜するスパッタ装置の概略の構成を示す断面図である。
【図7】(a)は、上記圧電素子をd33駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、(b)は、図7(a)のA−A’線矢視断面図である。
【図8】(a)〜(c)は、他の構成の圧電素子の製造の手順を簡単に示す断面図である。
【図9】(a)は、図8(c)で示した圧電素子をd15駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、(b)は、図9(a)のA−A’線矢視断面図である。
【図10】図9(b)の圧電素子の電圧印加後の状態を示す断面図である。
【図11】圧電体としてのPZTの結晶構造を模式的に示す説明図である。
【図12】PZTの結晶状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0035】
〔1.圧電素子の構成および製造方法〕
図1(a)〜図1(c)は、本実施形態に係る圧電素子10の製造工程を示す断面図である。図1(c)に示すように、圧電素子10は、単結晶基板1と、阻害膜2と、圧電薄膜3とを有して構成されている。
【0036】
単結晶基板1は、例えばMgOからなる基板で構成されている。単結晶基板1の厚さは、デバイスの構成によって異なるが、一般的に300〜500μm程度である。
【0037】
ここで、単結晶基板1は、振動部1Aと非振動部1Bとを連結して構成されている。振動部1Aは、単結晶基板1のうち、圧電素子10の機能を発揮させるために振動する(撓む)部分であって、圧電薄膜3の圧電効果によって振動する、または圧電薄膜3に圧電効果を生じさせるために振動する部分である。なお、圧電効果とは、圧電薄膜3に電界を印加することによって圧電薄膜3が変形したり、逆に、圧電薄膜3を変形させることによって圧電薄膜3に電界(電位差)が生じることを言う。一方、非振動部1Bは、単結晶基板1のうちで振動が生じない部分である。振動部1Aは、圧電素子10の機能を発揮させるために利用されるため、利用領域と呼ぶこともでき、この場合、非振動部1Bは非利用領域となる。
【0038】
例えば、圧電素子10は、後述するようにインクジェットヘッドのアクチュエータや、超音波センサなどに利用可能であるが、上記のアクチュエータでは、圧電薄膜3の伸縮によって単結晶基板1の振動部1Aが振動することにより、単結晶基板1に形成された圧力室からインクを外部に吐出させることができる。また、超音波センサでは、超音波が当たって振動部1Aが振動することにより、圧電薄膜3に歪みが生じる。したがって、このときに発生する電位差を検知することにより、超音波の受信を検知できる。このように振動部1Aが振動することにより、圧電素子10をアクチュエータやセンサとして機能させることができる。
【0039】
阻害膜2は、圧電薄膜3の単結晶での成長を阻害するための膜であり、単結晶基板1上の一部の領域に成膜されている。より具体的には、阻害膜2は、単結晶基板1上で、非振動部1B上を含む領域であって、振動部1A上の圧電薄膜3の成膜領域を除く領域に成膜されている。なお、ここでは、後述するように、圧電薄膜3は、振動部1A上の全域に成膜されているため、阻害膜2は、非振動部1B上のみに成膜されていることになる。
【0040】
この阻害膜2は、振動部1A上に成膜される単結晶の圧電薄膜3に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されている。このような非晶質の電極材料としては、例えばPtが挙げられる。Ptの厚さは例えば0.1μm程度である。阻害膜2は、振動部1A上の圧電薄膜3を、単結晶基板1に沿って挟み込む複数の位置に成膜されており、圧電薄膜3に対して単結晶基板1に沿う方向に電界を印加することが可能となっている。
【0041】
なお、阻害膜2は、圧電薄膜3を、単結晶基板1に沿って挟み込むように成膜されるのであれば、その挟み込み方向は特に限定されない。したがって、阻害膜2は、単結晶基板1上で圧電薄膜3を一方向に沿って挟み込む2か所にのみ設けられていてもよいし(図1(c)参照)、上記2か所に加えて、上記一方向に直交する方向に沿って挟み込む2か所にも(計4か所)設けられていてもよい。つまり、阻害膜2は、単結晶基板1上で圧電薄膜3を少なくとも一方向に沿って挟み込む複数の位置に成膜されていればよい。
【0042】
なお、Ptと単結晶基板1との密着性を向上させるために、阻害膜2をTiとPtとの2層で構成してもよい。つまり、Pt層と単結晶基板1との間にTi層を介在させてもよい。この場合のTi層の厚さは、例えば0.02μm程度である。上記の阻害膜2は、振動部1A上の圧電薄膜3の側面にも、上記と同程度の膜厚で成膜されている。
【0043】
圧電薄膜3は、例えばPZTで構成されており、ここでは、振動部1A上の全域に、エピタキシャル成長によって単結晶の状態で成膜されている。PZTの厚みは、用途によって異なるが、センサでは1μm以下、アクチュエータでは5μm以下とするのが一般的である。
【0044】
次に、上記構成の圧電素子10の製造方法について説明する。まず、図1(a)に示すように、単結晶基板1の非振動部1B上に阻害膜2を成膜する(S1)。続いて、図1(b)に示すように、単結晶基板1の振動部1A上に、圧電薄膜3を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、阻害膜2上に、圧電薄膜3を非晶質または多結晶で成膜する(S2)。なお、単結晶の圧電薄膜3と、非晶質または多結晶の圧電薄膜3とを特に区別する場合には、前者を圧電薄膜3aと称し、後者を圧電薄膜3bと称する。そして、図1(c)に示すように、阻害膜2上に成膜された圧電薄膜3bを除去する(S3)。その後、振動部1A上の圧電薄膜3aの側面にも阻害膜2を成膜することで、圧電素子10が完成する。以下、圧電素子10の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0045】
〔2.圧電素子の製造方法の詳細〕
図2は、圧電素子10の製造時の流れを示すフローチャートと、製造工程を示す断面図とを併せて示したものである。まず、最初に単結晶基板1の表面を洗浄する(S11)。必要であれば、プラズマ洗浄などにより単結晶の表面を露出する。
【0046】
続いて、単結晶基板1の上に、レジスト剤をスピンコート法により塗布し、乾燥後、マスクを介して露光、現像し、レジストパターン4を得る(S12、S13)。そして、このレジストパターン4を覆うように、単結晶基板1上にTi、Ptをそれぞれ蒸着法で成膜し、阻害膜2を形成する(S14、S15)。その後、レジストパターン4をエッチング溶液で除去することにより、レジストパターン4上の阻害膜2も、レジストパターン4と同時に剥離する(リフトオフ;S16)。なお、エッチング溶液としては、エッチングするレジスト剤が指定されているものを用いる。以上の工程により、単結晶基板1の非振動部1B上に阻害膜2が成膜される。つまり、S11〜S16の工程は、上記したS1の工程に対応する。
【0047】
次に、単結晶基板1の表面が露出した領域および阻害膜2上に、圧電薄膜3としてのPZTをスパッタ法で成膜する(S17)。なお、PZTの成膜方法の詳細については後述する。PZTを成膜する下地の面において、PZTの成膜が必要となる領域には、MgOの単結晶面が露出し、PZTの成膜が不要な領域には、阻害膜2を構成する非晶質のPtが存在する。MgOの格子定数は0.42nmであり、PZTの格子定数は正方晶で0.39nm、菱面体晶で0.41nmであるところ、MgO単結晶面が露出ている領域では、PZTとの格子定数差が小さいため、成膜条件を適切に設定することにより、PZTを単結晶の状態でエピタキシャル成長させて成膜することができる。一方、非晶質のPtが存在する領域では、Ptの結晶性が低いため、その上に成膜されるPZTは、非晶質または多結晶で成長する。以上の工程により、単結晶基板1の振動部1A上に、単結晶の圧電薄膜3aが成膜されるとともに、阻害膜2上に、非晶質または多結晶の圧電薄膜3bが成膜される。つまり、S17の工程は、上記したS2の工程に対応する。
【0048】
続いて、圧電薄膜3の上に、レジスト剤をスピンコート法により塗布し、乾燥後、マスクを介して露光、現像し、必要な領域を保護するレジストパターン5を得る(S18、S19)。そして、この基板をエッチング溶液に浸漬し、不要な領域のPZT(阻害膜2上の圧電薄膜3bを含む)を除去する(S20)。このときのエッチング溶液としては、フッ酸と硝酸との混合液を用いる。なお、S20の工程は、上記したS3の工程に対応する。
【0049】
次に、圧電薄膜3(3a)および阻害膜2の上に、レジスト剤をスピンコート法により塗布し、乾燥後、マスクを介して露光、現像し、レジストパターン6を得る(S21、S12)。そして、レジストパターン6の上および圧電薄膜3aの側面に、Ti、Ptをそれぞれ蒸着法で成膜する(S23、S24)。その後、レジストパターン6をエッチング溶液で除去することにより、不要なTi、Ptもレジストパターン6と同時に剥離する(リフトオフ;S25)。これにより、振動部1A上に圧電薄膜3(3a)が成膜され、非振動部1B上に、TiおよびPtの層からなる阻害膜2が成膜された圧電素子10が得られる。また、各レジスト剤のパターニングにより、阻害膜2は、圧電薄膜3aを単結晶基板1に沿って挟み込む複数の位置に成膜されることになる。
【0050】
以上のように、単結晶基板1において、圧電薄膜3aの成膜領域以外の領域(ここでは非振動部1B上)に阻害膜2を成膜しておくことで、阻害膜2上では、圧電薄膜3は単結晶での成長が阻害され、非晶質または多結晶で成長する。これにより、圧電薄膜3における元素の欠陥や下層との格子定数の不整合による相転移などの不良を、阻害膜2上の圧電薄膜3bに集中させることができ、振動部1A上に成膜される圧電薄膜3aにおいて、上記の不良が生じるのを抑制することができる。これにより、圧電薄膜3aは、下層の単結晶基板1の構造を引き継いで、良好な単結晶の状態で確実にエピタキシャル成長する。したがって、良好な単結晶の圧電薄膜3aを有する圧電素子3を実現して、圧電特性を確実に向上させることができる。また、阻害膜2上の圧電薄膜3bは、最終的に除去されるので、この圧電薄膜3bが圧電薄膜3aの変位を阻害して圧電特性を低下させることはない。
【0051】
また、単結晶の圧電薄膜3aは、振動部1A上に成膜されているので、圧電薄膜3aの圧電効果によって振動部1Aを振動させて、あるいは、振動部1Aの振動によって圧電薄膜3aに圧電効果を生じさせて、圧電素子10の機能(例えばアクチュエータやセンサとしての機能)を発揮させることができる。
【0052】
また、阻害膜2は非晶質の材料で構成されているので、その阻害膜2の上に圧電薄膜3を非晶質または多結晶で確実に成長させることができる。しかも、阻害膜2は電極材料で構成されており、単結晶の圧電薄膜3aを単結晶基板1に沿って挟み込む複数の位置に成膜されるので、阻害膜2・2を介して圧電薄膜3aに電界を印加することにより、d33駆動またはd15駆動を実現して、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。特に、阻害膜2が、圧電薄膜3を単結晶基板1に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されることにより、d33駆動を実現することができる。なお、d33駆動またはd15駆動の詳細については後述する。
【0053】
また、単結晶基板1としてのMgOと、圧電薄膜3aとしてのPZTとは、上述したように格子定数が近いので、単結晶基板1と圧電薄膜3aとの間に、格子定数差を小さくするための緩和層を設けなくても、単結晶基板1上に単結晶の圧電薄膜3aを直接成膜して、圧電特性の良好な圧電素子10を実現することができる。
【0054】
〔3.圧電薄膜の結晶配向〕
次に、単結晶の圧電薄膜3の結晶配向について説明する。圧電薄膜3としてのPZTは、ともにペロブスカイト型構造を採るPTO(PbTiO3;チタン酸鉛)とPZO(PbZrO3;ジルコン酸鉛)との固溶体であるが、PTOの比率が高いときにはPZT全体が正方晶となり、PZOの比率が高いときにはPZT全体が菱面体晶となる。
【0055】
図3は、PTOおよびPZOの組成比と結晶系との関係を示している。PTOとPZOとの組成比が、48/52〜47/53のあたりで、結晶系が正方晶から菱面体晶、または菱面体晶から正方晶に変化する。このように結晶系が変化する境界を組成相境界(MPB;Morphotropic phase boundary )と呼び、以下では単に相境界と記す。室温付近においては、PZTの結晶構造は、正方晶、菱面体晶またはこれらの混合結晶(相境界)であるが、キュリー点以上の温度では、PZTの結晶構造は、PTOとPZOとの組成比がいずれであっても、立方晶となる。
【0056】
図4は、PTOおよびPZOの組成比と特性(比誘電率、電気機械結合係数)との関係を示している。上記した相境界では、比誘電率および電気機械結合係数の両者が特異的に高くなる。比誘電率と圧電定数(単位電界あたりの変位量)とは正の相関があり、比誘電率が高くなることにより、圧電定数が高くなる。また、電気機械結合係数は、電気的な信号を機械的な歪みに変換する際の効率、あるいはその逆の変換の際の効率を示す指標となるものであり、この係数が高くなることによって、変換効率が高くなる。
【0057】
ここで、本実施形態では、単結晶の圧電体において、電界の印加方向(単結晶基板1に沿う方向、または圧電薄膜3の膜厚方向とは垂直方向)と分極方向とは同じであってもよいが、両者のなす角度が45度に近い値を取るとき、圧電体に対して基板に垂直に電界を印加しても、平行に電界を印加しても、分極方向が回転して電界の印加方向に揃い、大きな圧電特性が得られる。
【0058】
PZTにおいて、分極回転を利用して大きな圧電定数を得る条件は、以下の通りである。正方晶の分極方向は(100)方向であるので、PZTを正方晶で(111)配向になるように((111)方向が基板面に垂直となるように)基板上に成膜し、基板面と並行に電界を印加すると、分極方向と電界方向とのなす角を略45度(約55度(tanθ=√2/1)にすることができる。同様に、菱面体晶の分極方向は(111)方向であるので、PZTを菱面体晶で(100)配向となるように((100)方向が基板面に垂直となるように)基板上に成膜し、基板面と並行に電界を印加すると、分極方向と電界方向とのなす角を略45度(約55度(tanθ=√2/1)にすることができる。図5は、正方晶の(111)配向の結晶構造と、菱面体晶の(100)配向の結晶構造とを模式的に示している。
【0059】
正方晶の(111)配向を利用する場合、PTOがPZOよりも数%多く含まれた組成比のターゲット材料を用い、(111)面でカットしたMgO基板の上にPZTを成膜すればよい。また、菱面体晶の(100)配向を利用する場合、PZOがPTOよりも数%多く含まれた組成比のターゲット材料を用い、(100)面でカットしたMgO基板の上にPZTを成膜すればよい。以下、PZTの成膜方法の詳細について説明する。
【0060】
〔4.PZTの成膜方法の詳細〕
図6は、圧電薄膜3としてのPZTを成膜するスパッタ装置の概略の構成を示す断面図である。圧電薄膜3は、例えば高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。
【0061】
まず、所定の組成比に調合したPZT材料の粉末を混合、焼成、粉砕し、ターゲット皿12に充填してプレス機で加圧することにより、ターゲット11を作製する。そして、このターゲット皿12をマグネット13上に設置し、その上にカバー14を設置する。このマグネット13とその下にある高周波電極15は、絶縁体16によって真空チャンバー17と絶縁されている。また、高周波電極15は、高周波電源18と接続されている。
【0062】
次に、(111)面または(100)面でカットした単結晶基板1を、基板加熱ヒーター19上に設置する。そして、真空チャンバー17内を排気し、基板加熱ヒーター19によって単結晶基板1を600℃まで加熱する。加熱後、バルブ20および21を開け、スパッタガスであるArとO2を所定の割合でノズル22より真空チャンバー17内に導入し、真空度を所定値に保つ。ターゲット11に高周波電源18より高周波電力を投入し、プラズマを発生させることにより、単結晶基板1上に、正方晶の(111)配向または菱面体晶の(100)配向のPZTを圧電薄膜3aとして成膜することができる。
【0063】
〔5.圧電素子の応用例〕
図7(a)は、本実施形態で作製した圧電素子10をd33駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図7(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜3は、単結晶基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。単結晶基板1(振動部1A)の一部は、除去されて開口部1pが形成されている。圧電薄膜3の形成領域は、この開口部1pの形成領域に対応している。単結晶基板1における開口部1pの上部は、薄い板状の従動膜1sとなっている。
【0064】
また、非晶質の電極材料(例えばPt)で構成される阻害膜2は、図示しない配線により、外部の制御回路と接続されている。このとき、図7(a)に示すように、阻害膜2を形成する層の一部は除去されて単結晶基板1が露出している。このように電極層の一部を除去することで、圧電薄膜3に電界を印加する一対の電極(極性の異なる電極)としての阻害膜2・2を分離することができる。
【0065】
制御回路から、所定の圧電薄膜3を挟む一対の阻害膜2・2に電気信号を印加することにより、所定の圧電薄膜3のみを駆動することができる。つまり、圧電薄膜3に所定の電界を加えると、圧電薄膜3が電界印加方向に伸縮し、バイメタルの効果によって圧電薄膜3および単結晶基板1(振動部1A、従動膜1s)が上下に湾曲(振動)する。したがって、単結晶基板1の開口部1pに気体や液体を充填すると、圧電素子10をポンプ(例えばインクジェットヘッドのアクチュエータ)として用いることができる。
【0066】
また、圧電薄膜3の振動によって生じる電荷量を一対の阻害膜2・2を介して検出することにより、圧電薄膜3の変形量を検出することもできる。つまり、音波や超音波により、単結晶基板1(振動部1A、従動膜1s)が振動し、圧電薄膜3が振動すると、上記と反対の効果によって一対の阻害膜2・2間に電界が発生するため、このときの電界の大きさや検出信号の周波数を検出することにより、圧電素子10を超音波センサとして用いることもできる。さらに、PZTは、圧電特性の他にも焦電性、強誘電性を有しているため、圧電素子10を熱センサや記憶メモリとして活用することもできる。
【0067】
このように、図7(a)(b)の圧電素子10においては、圧電薄膜3aが電界の印加方向(単結晶基板1に沿った方向)に伸縮することによって、単結晶基板1を厚さ方向に振動させるd33駆動が行われる。このようなd33駆動により、d31駆動よりも大きな圧電特性を得ることができる。なお、d31駆動とは、圧電体に対して基板に垂直な方向(分極方向も同じ方向)に電界を印加して圧電体を基板に沿う方向に伸縮させることにより、基板を厚さ方向に振動させる駆動方式を言う。
【0068】
特に、圧電薄膜3aとして、正方晶の(111)配向膜や菱面体晶の(100)配向膜を用いると、電界印加時に各結晶の分極方向がほぼ45度回転して一方向に揃うため、d33駆動時にさらに大きな圧電特性を得ることができる。なお、分極方向が単結晶基板1に沿う方向となるように圧電薄膜3aを成膜した場合でも、電界印加時に、圧電薄膜3aは電界印加方向に大きく伸縮するので、d33駆動によってd31駆動よりも大きな圧電特性が得られる点に変わりはない。
【0069】
〔6.圧電素子の他の構成〕
図8(a)〜図8(c)は、他の構成の圧電素子10の製造の手順を簡単に示す断面図である。この圧電素子10は、単結晶基板1が、基板本体31と、結晶整合層32とを積層して構成されている点以外は、図1(c)の圧電素子10と同様の構成である。阻害膜2および圧電薄膜3aは、結晶整合層32上に成膜されている。
【0070】
基板本体31は、単結晶の基板であり、例えばSi基板(格子定数;0.54nm)で構成されている。Si基板は、基板のサイズ、コスト、加工性等の観点で他の単結晶基板よりも有利である。
【0071】
結晶整合層32は、基板本体31上に形成されて、基板本体31と圧電薄膜3aとの間の格子定数を有している。本実施形態では、結晶整合層32は、圧電薄膜3aとしてのPZTと格子定数が近いMgO(格子定数;0.42nm)で構成されている。結晶整合層32としてのMgOは、例えばスパッタ法で成膜され、その厚みは0.01μm程度である。
【0072】
なお、上記構成の圧電素子10は、基板本体31としてのSi基板上に結晶整合層32としてのMgOをスパッタ法で成膜した後は、図1(a)〜図1(c)および図2で示した製法をそのまま適用して製造することができる。
【0073】
単結晶基板1を、汎用性のある単結晶のSi基板のみで構成した場合、SiとPZTとの格子定数の差が大きいため、Si基板上にPZTを単結晶で直接成膜することはできない。しかし、上記のように、単結晶基板1を、Si基板からなる基板本体31と結晶整合層32との2層構造とし、結晶整合層32上に圧電薄膜3aを成膜する構成とすることにより、結晶整合層32と圧電薄膜3aとの格子定数の差が小さいため、結晶整合層32上で圧電薄膜3aの単結晶での成長を促進させることができ、圧電薄膜3aを単結晶で成膜することができる。
【0074】
また、単結晶の圧電薄膜3aを成膜するにあたって、基板本体31として圧電薄膜3aに近い格子定数の基板を用いる必要がなくなり、用いる基板本体31の制約をなくすことができる。したがって、基板本体31として、安価で加工性に優れたSi基板を用いることが可能となる。
【0075】
また、上記のように、基板本体31としてのSi基板上に、MgOからなる結晶整合層32を介して、PZTからなる単結晶の圧電薄膜3aを成膜した構成であっても、上述した本実施形態の製造方法を適用することにより、阻害部2上の圧電薄膜3bに元素の欠陥等の不良を集中させ、振動部1A上の圧電薄膜3aにおける欠陥等の不良の集中を抑制することができるので、圧電特性の良好な圧電素子10を実現することができる。
【0076】
〔7.圧電素子の他の応用例〕
図9(a)は、図8(c)で示した圧電素子10をd15駆動のダイヤフラムに応用したときの構成を示す平面図であり、図9(b)は、同図(a)のA−A’線矢視断面図である。圧電薄膜3(3a)は、単結晶基板1の必要な領域に、2次元の千鳥状に配置されている。ここで、圧電薄膜3を構成するPZTの分極方向Pは、単結晶基板1の厚み方向、つまり、PZTの膜厚方向である。また、PZTの厚さは、概ね1〜10μm程度である。
【0077】
単結晶基板1(振動部1A)の基板本体31の一部は除去されて、断面が円形の開口部31pが形成されている。圧電薄膜3の形成領域(特にリング状の外径)と、開口部31pの形成領域(特に開口径)とは対応している。基板本体31における開口部31pの上部は、薄い板状の従動膜31sとなっている。従動膜31sの厚さは、用途や圧電体の特性により変化するが、概ね1〜10μm程度である。そして、基板本体31上には、圧電薄膜3aの結晶成長を補助する、MgOからなる結晶整合層32が形成されている。この結晶整合層32上には、上記の圧電薄膜3(3a)が成膜されているとともに、阻害膜2が成膜されている。
【0078】
より詳しくは、圧電薄膜3aは、振動部1A上でリング状に成膜されており、開口部3pを有している。このため、圧電薄膜3aは、振動部1A上の全域ではなく、一部に成膜されていることになる。一方、阻害膜2は、非振動部1B上のみならず、振動部1A上において、圧電薄膜3aの開口部3p(リングの内側)にも成膜されている。したがって、阻害膜2は、単結晶基板1上で、非振動部1B上を含み、振動部1A上の圧電薄膜3aの成膜領域を除く領域に成膜されていることになる。なお、阻害膜2は、上記のように、圧電薄膜3aの開口部3pの内側、および圧電薄膜3aの周囲に成膜されることによって、圧電薄膜3aを単結晶基板1に沿って挟み込んでいることに変わりはない。
【0079】
以下、説明の便宜上、振動部1A上に成膜されている阻害膜2を、内電極2aと称し、非振動部1B上に成膜されている阻害膜2を、外電極2bと称することとする。これらの内電極2aおよび外電極2bは、外部の制御回路と電気的に接続されている。なお、このときの電気的な接続は、一般的なワイヤーを用いて行われてもよい。また、絶縁層を積層して内電極2aおよび外電極2bを電気的に接触させずに外部に引き出す構成としてもよい。
【0080】
上記構成の圧電素子10において、内電極2aおよび外電極2bを介して、圧電薄膜3aに電界が印加されると、電界の印加方向(単結晶基板1に沿った方向)と、圧電薄膜3aの分極方向(膜厚方向)とが直交しているため、図10に示すように、圧電薄膜3aは、せん断歪みによる滑り方向の変形(d15変形)を起こし、その断面が平行四辺形状になる。これにより、振動部1Aが上下に振動する。このとき、振動部1Aの振動方向に沿った軸であって、開口部31pの断面円形の中心を通る軸上には、圧電薄膜3aが存在しないため(リング状の圧電薄膜3aの開口部3pを通るため)、振動部1Aは、中心部分で傾かずに振動方向に平行移動(並進)するように振動する。このような振動部1Aの振動により、図7(b)の構成と同様に、圧電素子10をポンプとして用いることができる。また、振動部1Aを振動させて圧電薄膜3aから電位差を検出することにより、圧電素子10をセンサとしても用いることができる。
【0081】
このように、上記構成の圧電素子10においては、圧電薄膜3aは、阻害膜2(内電極2a、外電極2b)を介して単結晶基板1に沿った方向の電界が印加されたときに、せん断歪みが生じることによって、単結晶基板1を厚さ方向に振動させるd15駆動が行われる。このようなd15駆動では、d33駆動と同等か、それより大きい圧電特性を得ることができる。特に、圧電薄膜3aの分極方向を単結晶基板1の厚さ方向とし、電界印加方向と垂直方向とすることで、そのようなd15駆動を確実に実現して大きな圧電特性を確実に得ることができる。
【0082】
また、圧電薄膜3aは、開口部3pを有するリング状に成膜されており、阻害膜2は、単結晶基板1上で、圧電薄膜3aの開口部3pの内側、および圧電薄膜3aの周囲に成膜されているので、圧電薄膜3aの内側および外側の阻害膜2を介して、圧電薄膜3aに単結晶基板1に沿った方向の電界を印加することにより、単結晶基板1を厚さ方向に振動させるd15駆動を実現することができる。
【0083】
また、単結晶の圧電薄膜3aは、振動部1A上の一部に成膜されているので、阻害膜2が、非振動部1B上のみならず、振動部1A上の圧電薄膜3aの非成膜領域に成膜されていても、圧電薄膜3aの圧電効果によって振動部1Aを振動させて、あるいは、振動部1Aの振動によって圧電薄膜3aに圧電効果を生じさせて、圧電素子10の機能(例えばアクチュエータやセンサとしての機能)を発揮させることができる。
【0084】
〔8.補足〕
本実施形態では、圧電薄膜3をスパッタ法で成膜しているが、圧電薄膜3の成膜方法としては、上述したスパッタ法だけでなく、物理気相成長法である蒸着法、化学気相成長法であるCVD法、液相法であるゾルゲル法など、他の手法を用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えばインクジェットヘッド、超音波センサ、赤外線センサ(熱センサ)、周波数フィルタなどの種々のデバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 単結晶基板
1A 振動部
1B 非振動部
2 阻害膜
3 圧電薄膜
3a 圧電薄膜
3b 圧電薄膜
3p 開口部
10 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板上に圧電薄膜を成膜してなる圧電素子の製造方法であって、
前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、
前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を成膜する工程と、
前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、前記圧電薄膜を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、前記阻害膜上に、前記圧電薄膜を非晶質または多結晶で成膜する工程と、
前記阻害膜上に成膜された前記圧電薄膜を除去する工程とを有していることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記阻害膜は、前記単結晶の圧電薄膜に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されており、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記阻害膜は、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記圧電薄膜は、正方晶で(111)配向に成膜してなることを特徴とする請求項2または3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電薄膜は、菱面体晶で(100)配向に成膜してなることを特徴とする請求項2または3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板に沿う方向であることを特徴とする請求項2または3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
前記圧電薄膜は、開口部を有するリング状に成膜されており、
前記阻害膜は、前記単結晶基板上で、前記圧電薄膜の前記開口部の内側、および前記圧電薄膜の周囲に成膜されることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項8】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板の厚み方向であることを特徴とする請求項7に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項9】
前記単結晶基板は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記単結晶基板は、
単結晶の基板本体と、
前記基板本体上に形成され、前記基板本体と前記圧電薄膜との間の格子定数を有する結晶整合層とを有しており、
前記単結晶の前記圧電薄膜は、前記結晶整合層上に成膜されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項11】
前記基板本体は、Siからなり、
前記結晶整合層は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項10に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項12】
単結晶基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子であって、
前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、
前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に成膜され、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を備え、
前記圧電薄膜は、前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、エピタキシャル成長によって単結晶の状態で成膜されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項13】
前記阻害膜は、前記単結晶の圧電薄膜に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されており、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項12に記載の圧電素子。
【請求項14】
前記阻害膜は、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項13に記載の圧電素子。
【請求項15】
前記圧電薄膜は、正方晶で(111)配向に成膜してなることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項16】
前記圧電薄膜は、菱面体晶で(100)配向に成膜してなることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項17】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板に沿う方向であることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項18】
前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、前記電界の印加方向に伸縮することによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項19】
前記圧電薄膜は、開口部を有するリング状に成膜されており、
前記阻害膜は、前記単結晶基板上で、前記圧電薄膜の前記開口部の内側、および前記圧電薄膜の周囲に成膜されることを特徴とする請求項13に記載の圧電素子。
【請求項20】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板の厚み方向であることを特徴とする請求項19に記載の圧電素子。
【請求項21】
前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、せん断歪みが生じることによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させることを特徴とする請求項19または20に記載の圧電素子。
【請求項22】
前記単結晶基板は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項12から21のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項23】
前記単結晶基板は、
単結晶の基板本体と、
前記基板本体上に形成され、前記基板本体と前記圧電薄膜との間の格子定数を有する結晶整合層とを有しており、
前記単結晶の前記圧電薄膜は、前記結晶整合層上に成膜されていることを特徴とする請求項12から21のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項24】
前記基板本体は、Siからなり、
前記結晶整合層は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項23に記載の圧電素子。
【請求項1】
単結晶基板上に圧電薄膜を成膜してなる圧電素子の製造方法であって、
前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、
前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を成膜する工程と、
前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、前記圧電薄膜を単結晶でエピタキシャル成長させて成膜するとともに、前記阻害膜上に、前記圧電薄膜を非晶質または多結晶で成膜する工程と、
前記阻害膜上に成膜された前記圧電薄膜を除去する工程とを有していることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記阻害膜は、前記単結晶の圧電薄膜に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されており、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記阻害膜は、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記圧電薄膜は、正方晶で(111)配向に成膜してなることを特徴とする請求項2または3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電薄膜は、菱面体晶で(100)配向に成膜してなることを特徴とする請求項2または3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板に沿う方向であることを特徴とする請求項2または3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
前記圧電薄膜は、開口部を有するリング状に成膜されており、
前記阻害膜は、前記単結晶基板上で、前記圧電薄膜の前記開口部の内側、および前記圧電薄膜の周囲に成膜されることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項8】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板の厚み方向であることを特徴とする請求項7に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項9】
前記単結晶基板は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記単結晶基板は、
単結晶の基板本体と、
前記基板本体上に形成され、前記基板本体と前記圧電薄膜との間の格子定数を有する結晶整合層とを有しており、
前記単結晶の前記圧電薄膜は、前記結晶整合層上に成膜されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項11】
前記基板本体は、Siからなり、
前記結晶整合層は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項10に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項12】
単結晶基板上に圧電薄膜を成膜した圧電素子であって、
前記単結晶基板を、振動する振動部と、前記振動部と連結されて振動が生じない非振動部とに分けたときに、
前記単結晶基板上で、前記非振動部上を含む領域であって、前記振動部上の前記圧電薄膜の成膜領域を除く領域に成膜され、前記圧電薄膜の単結晶での成長を阻害する阻害膜を備え、
前記圧電薄膜は、前記成膜領域となる前記振動部上の少なくとも一部に、エピタキシャル成長によって単結晶の状態で成膜されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項13】
前記阻害膜は、前記単結晶の圧電薄膜に電界を印加するための非晶質の電極材料で構成されており、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項12に記載の圧電素子。
【請求項14】
前記阻害膜は、前記圧電薄膜を前記単結晶基板に沿って少なくとも一方向から挟み込む複数の位置に成膜されることを特徴とする請求項13に記載の圧電素子。
【請求項15】
前記圧電薄膜は、正方晶で(111)配向に成膜してなることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項16】
前記圧電薄膜は、菱面体晶で(100)配向に成膜してなることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項17】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板に沿う方向であることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子。
【請求項18】
前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、前記電界の印加方向に伸縮することによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項19】
前記圧電薄膜は、開口部を有するリング状に成膜されており、
前記阻害膜は、前記単結晶基板上で、前記圧電薄膜の前記開口部の内側、および前記圧電薄膜の周囲に成膜されることを特徴とする請求項13に記載の圧電素子。
【請求項20】
前記圧電薄膜の分極方向は、前記単結晶基板の厚み方向であることを特徴とする請求項19に記載の圧電素子。
【請求項21】
前記圧電薄膜は、前記阻害膜を介して前記単結晶基板に沿った方向の電界が印加されたときに、せん断歪みが生じることによって、前記単結晶基板を厚さ方向に振動させることを特徴とする請求項19または20に記載の圧電素子。
【請求項22】
前記単結晶基板は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項12から21のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項23】
前記単結晶基板は、
単結晶の基板本体と、
前記基板本体上に形成され、前記基板本体と前記圧電薄膜との間の格子定数を有する結晶整合層とを有しており、
前記単結晶の前記圧電薄膜は、前記結晶整合層上に成膜されていることを特徴とする請求項12から21のいずれかに記載の圧電素子。
【請求項24】
前記基板本体は、Siからなり、
前記結晶整合層は、MgOからなり、
前記圧電薄膜は、PZTからなることを特徴とする請求項23に記載の圧電素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−110180(P2013−110180A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252258(P2011−252258)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
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