説明

圧電素子

【課題】応力緩和層の根元にかかる応力を分散させ、破壊を防止できる圧電素子を提供する。
【解決手段】矩形体状に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子100であって、圧電層110と内部電極120とが交互に積層された素子本体と、素子本体の外周に接して設けられ、積層面に沿って形成された応力緩和層140と、を備え、応力緩和層140は、角が取れた矩形の内周141を有する。これにより、応力緩和層140の根元への応力集中を回避し、破壊を防止できる。すなわち、圧電素子100の変位に応じて応力緩和層140が開いたときでも、応力緩和層140の根元にかかる応力を分散でき、圧電素子100の破壊を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矩形体状に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層型圧電アクチュエータは、電圧印加時、内部電極付近に応力が発生することが知られている。この応力は積層型圧電アクチュエータの耐久性に悪影響を与えるため、これを緩和しようと、応力緩和層と呼ばれる空隙層を設ける発明がなされた。この空隙層により、積層型圧電アクチュエータの不良品発生率が減少する等の効果が得られた。
【0003】
たとえば、特許文献1記載の積層型圧電アクチュエータは、内部電極が1層毎にそれぞれ外部電極に接続されており、応力緩和層を、隣接する内部電極間であって、10層から40層の内部電極の間に1層ほど形成している。このようにして、耐久性に優れ、低コストで作製することができる積層型圧電アクチュエータを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−267646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来はアクチュエータの圧電活性部と圧電不活性部との間に発生する応力を、応力緩和層により緩和することができた。しかしながら、図2に示すように、素子200の変位に応じて空隙層240が開くと、空隙層240の薄さにより層の根元の角部分242に応力が集中し、アクチュエータが破壊する場合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、応力緩和層の根元にかかる応力を分散させ、破壊を防止できる圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電素子は、矩形体状に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であって、圧電層と内部電極とが交互に積層された素子本体と、前記素子本体の外周に接して設けられ、積層面に沿って形成された応力緩和層と、を備え、前記応力緩和層は、角が取れた矩形の内周を有することを特徴としている。
【0008】
これにより、応力緩和層の根元への応力集中を回避し、破壊を防止できる。すなわち、圧電素子の変位に応じて応力緩和層が開いたときでも、応力緩和層の根元にかかる応力を分散でき、圧電素子の破壊を防止できる。
【0009】
(2)また、本発明の圧電素子は、前記応力緩和層が、前記内周の隅角部がR状であることを特徴としている。これにより、応力集中を回避する効果を向上できる。
【0010】
(3)また、本発明の圧電素子は、前記応力緩和層が、前記内周の隅角部のRと外周の一辺との比が0.1以上0.2以下であることを特徴としている。これにより、圧電素子の外力に対する破壊強度を高く維持しつつ、応力集中を回避する効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧電素子の応力緩和層の根元にかかる応力を分散させ、その破壊を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の圧電素子を示す斜視図および断面図である。
【図2】従来の圧電素子を示す斜視図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(圧電素子の構成)
図1(a)、(b)は、それぞれ圧電素子100を示す斜視図、応力緩和層140の位置の断面図である。圧電素子100の素子本体は、圧電層110と内部電極120とが積層方向Zについて交互に積層され、矩形体状に形成されている。圧電層110は、たとえばPZTのような圧電材料で構成され、厚み方向の互い違いの向きに分極されている。内部電極120は、対向する圧電素子100の側面上で外部電極130に取り出されており、隣り合う内部電極120に異なる電圧を印加できるように形成されている。内部電極120へ電圧を印加することで各圧電層110が歪み、圧電素子全体が伸縮する。なお、圧電アクチュエータとして圧電素子100を説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されない。
【0015】
圧電素子100は、積層方向Zの両端側に設けられた保護層と電圧の印加により駆動する活性層とに区分できる。さらに、活性層は、内部電極120の積層方向Zへの投影が重なり合う中央の活性領域と内部電極120が外部とショートしないように設けられた周囲の領域とに区分できる。活性領域は、圧電素子100において実際に駆動する領域である。活性領域は電圧により駆動するが、その周囲の領域は、電圧の印加により変形せず応力が生じる。
【0016】
圧電素子100は、応力緩和層140を有している。応力緩和層140は、活性領域の周囲の領域に形成されている。応力緩和層140は、空隙層として形成されているが、密度の低い材料が充填された層として形成されていてもよい。各応力緩和層140は、積層面上で外周に接して形成されている。その結果、応力を外に逃がし、圧電素子100の駆動による応力を緩和することができる。
【0017】
応力緩和層140の内周141は、応力緩和層140の根元になっており、駆動の際には応力が集中しやすい。応力緩和層140の内周141は、角が取れた矩形状である。これにより、応力緩和層140の根元への応力集中を回避し、破壊を防止できる。すなわち、圧電素子の変位に応じて応力緩和層140が開いたときでも、応力緩和層140の根元にかかる応力を分散でき、圧電素子の破壊を防止できる。
【0018】
特に、応力緩和層140の内周141の隅角部142は、R状であるのが好ましい。これにより、応力集中を回避する効果を向上できる。たとえば、6×6mm断面の圧電素子100において、内周141の隅角部142のRは、0.6mm以上1.2mm以下であることが好ましい。すなわち、隅角部142のRと外周の一辺との比が、0.1以上0.2以下であることが好ましい。これにより、圧電素子100の外力に対する破壊強度を高く維持しつつ、応力集中を回避する効果を高めることができる。なお、応力緩和層140の外周とは、その積層面上への正射影において圧電素子100の側面に沿った境界線であり、内周141とは、圧電体が繋がっている根元の境界線である。また、応力緩和層140の内周141の隅角部142は、多角形状であってもよい。
【0019】
(圧電素子の製造方法)
次に、上記のように構成された圧電素子100の製造方法について説明する。まず、圧電体の粉体を含むスラリーを用い、引き上げ成形、ドクターブレード成形、押出成形等の方法によってグリーンシートを形成する。グリーンシートには内部電極120用および応力緩和層140用のパターンをスクリーン印刷等により塗布する。内部電極120用として電極ペースト(Ag−Pd合金等)を塗布し、その後、乾燥させて焼成前の電極膜を形成する。
【0020】
そして、さらに応力緩和層140用として非焼結材料(チタン酸鉛等)のペーストを塗布する。その際には、応力緩和層140の内周がR状のような角の取れた形状になるように設計し、塗布する。非焼結材料は、圧電素子100の焼成温度過程では焼結しない材料である。非焼結材料のペーストは、非焼結材料の粉末、バインダ、可塑剤および有機溶剤を所定の割合で混合して得られる。たとえば、非焼結材料にはチタン酸鉛、バインダにはエチルセルロース、可塑剤にはフタル酸ジオクチル、有機溶剤にはブチルカルビトールが挙げられる。なお、非焼結材料にはカーボン等、焼成時に焼き飛んで応力緩和層140を形成するものが含まれる。
【0021】
次に、電極膜および非焼結材料膜が形成された複数のグリーンシートを積層し、プレス成形した後、加熱して、グリーンシート、電極ペーストおよび非焼結材料ペースト中の有機成分を脱脂する。有機成分は加熱によって分解され気体となってグリーンシートやペースト膜から抜ける。
【0022】
このようにして脱脂された積層体を焼成する。このとき、チタン酸鉛は焼結せず、非焼結材料を塗布した箇所には応力緩和層140が形成される。焼成後に適宜加工することで分極前の焼成体が得られる。そして、焼結体を適宜加工し、積層方向Zの端面で接着して多連化する。そして、多連化した焼成体を分極処理することで、各圧電素子100とこれらにより構成されたポジショナ用アクチュエータを作製できる。
【0023】
(実施例1)
上記のように構成された圧電素子100についてFEM解析を行った。使用した圧電素子のモデルは、断面が6×6mm、高さ10mmの圧電素子の1/8分割モデルで、断面が3×3mm、高さ5mm、応力緩和層140の内周141の隅角部142のRを1mmとして要素を構成したものである。なお、1/8分割モデルとした際の分割面には、対称拘束を設定し、重力や上下面での拘束を一切無くす設定とした。このようなモデルを駆動させ、各部に発生する応力を解析した。その結果、応力緩和層140の内周141の応力が従来の160MPaから120MPaへ緩和されたのを確認できた。
【0024】
(実施例2)
また、断面が6×6mm、高さ10mm、R=0.7の圧電素子100を4つ積み重ねて作製して連結し、連結型の圧電アクチュエータとしてポジショナを作製した。そして、ファンクションジェネレータ+アンプで、0−150V、周期6sの矩形波を生成し、突入電流保護用の抵抗34kΩを介してポジショナに印加し、圧電アクチュエータを長時間駆動した。その結果、破壊までの平均駆動回数は、従来構造の素子では約100万回であったのに対し、圧電素子100では150万回以上であり、圧電素子100が破壊し難いことを確認できた。
【符号の説明】
【0025】
100 圧電素子
110 圧電層
120 内部電極
130 外部電極
140 応力緩和層
141 内周
142 隅角部
Z 積層方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形体状に形成され、電圧の印加により伸縮する積層型の圧電素子であって、
圧電層と内部電極とが交互に積層された素子本体と、
前記素子本体の外周に接して設けられ、積層面に沿って形成された応力緩和層と、を備え、
前記応力緩和層は、角が取れた矩形の内周を有することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記応力緩和層は、前記内周の隅角部がR状であることを特徴とする請求項1記載の圧電素子。
【請求項3】
前記応力緩和層は、前記内周の隅角部のRと外周の一辺との比が0.1以上0.2以下であることを特徴とする請求項2記載の圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−16548(P2013−16548A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146409(P2011−146409)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)