説明

在宅人工透析支援システム

【課題】在宅治療における血液透析装置の保守の最適化と透析実行に関する治療実績の管理を支援する在宅人工透析支援システムを提供する。
【解決手段】透析に関する医療情報を入力するための医療情報入力手段と、透析中及び/または透析準備中における透析機器情報を検出する機器情報検出手段と、該透析機器情報が正常か異常かを判定する機器情報判定手段と、該医療情報、該機器情報及び該機器情報判定手段の判定結果を中央情報収集センターへ送信するための送信手段を具備した在宅治療用人工透析装置と、患者宅から送信された情報を受信するための受信手段と、受信された情報を診断用医療情報及び機器管理情報として図表および文字に変換する情報変換手段と、該診断用医療情報を患者を担当する病院へ伝送するための送信手段を具備する中央情報収集装置と、病院内に配置されて、中央情報収集センターから送信された診断用医療情報を受信するための受信手段を具備する医療情報受信装置を備えた在宅人工透析支援シ
ステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在宅での人工透析治療において、遠隔監視により、患者の状態、透析実行状況を把握できるとともに、人工透析装置の稼動状態、装置を構成する部品の劣化度合いをも把握できる在宅人工透析装置およびそれを用いた在宅人工透析支援システムの提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
腎機能不全患者の増加に伴い、血液透析を受ける患者の数も増加傾向にある。かかる患者は、通常、病院あるいは透析センターにおいて数日に1回の割合で数時間血液透析をうけることを余儀なくされ、これを解消するには最終的には腎移植しかないのが現状である。
【0003】
近年の在宅看護、在宅医療の進展の中で、透析患者の通院の問題を解消する方法として、在宅で患者自身が透析を行う在宅人工透析装置が開発され、臨床応用の可能性が高まっている。このため、在宅で人工透析を行うためには、従来病院では、医師や看護婦、臨床工学技師などの医療スタッフが行っていた透析中の患者の医療データ管理や、透析装置の機器管理を患者自身、あるいは介助者が行う必要があるが、完全に行うことは不可能であり、装置や医療情報の管理を遠隔監視することが必要となってくる。しかし、現状は在宅での人工透析療法自体が試行段階であり、それを監視するシステムは現在のところ存在しない。
【0004】
近年、病院の血液透析治療においては、特開平7−132141号公報や特開平11−342198号公報に記載のように、治療機器である血液透析装置を複数台まとめて中央監視装置で監視する中央監視システムが導入されつつある。これは、病院内に設置された中央監視システムの通信網に、通信機能を有した血液透析装置および中央監視装置を接続し、治療記録等を集中管理するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平7−132141号公報
【特許文献2】特開平11−342198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の血液透析治療に関する中央監視システムは、病院内での運用が前提とされており、在宅にて血液透析治療を実施しようとした場合には、改良すべき難点を有していた。
【0007】
まず第1に、通常、病院内における血液透析装置の保守は、看護婦や臨床工学技師等の医療スタッフに代表されるような人手を用いた保守が行われるが、在宅治療の場合は、実際の治療現場に医療スタッフが立ち会うことはない。よって、サービススタッフが各患者宅を定期的に巡回し、保守、点検を行うのであるが、巡回の間隔が長すぎて、機器が仕様を満足しない状態での治療を余儀なくされる場合や、巡回の間隔が短すぎて、コストの増大を招く場合が多々存在した。
【0008】
第2として、在宅治療では患者自身もしくは介助者が血液透析装置の操作を行うため、後日、透析実行予定と実際の透析実行に関する治療実績を医師が照らし合わせる必要があるが、透析実行に関する治療実績は、患者自身もしくは介助者が記入する必要があり、記入する手間が発生するのみならず、誤記入の恐れもあった。
【0009】
第3として、患者宅と病院を直接接続するようなシステムの場合は、病院側でシステムの管理、保守もする必要が発生し、多忙な医療現場への負担が更に増える恐れもあった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、在宅治療における血液透析装置の保守の最適化と透析実行に関する治療実績の管理を支援する在宅人工透析支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、かかる課題に対して鋭意検討した結果、医療情報および機器情報を送信できる人工透析装置と、その情報を受信し、医療情報は病院へ、機器情報は機器管理センターへ配信し、効率的かつ安全な在宅人工透析を支援するシステムを見出したものである。
【0012】
即ち本発明は、各患者宅に配置されて、透析に関する医療情報を入力するための医療情報入力手段と、透析中及び/または透析準備中における透析機器情報を検出する機器情報検出手段と、該透析機器情報が正常か異常かを判定する機器情報判定手段と、該医療情報、該機器情報及び該機器情報判定手段の判定結果を中央情報収集センターへ送信するための送信手段を具備した在宅治療用人工透析装置と、中央情報収集センターに配置されて、患者宅から送信された情報を受信するための受信手段と、受信された情報を診断用医療情報及び機器管理情報として図表および文字に変換する情報変換手段と、該診断用医療情報を患者を担当する病院へ伝送するための送信手段を具備する中央情報収集装置と、病院内に配置されて、中央情報収集センターから送信された診断用医療情報を受信するための受信手段を具備する医療情報受信装置を備えた在宅人工透析支援システムを提供するものである。
【0013】
また本発明は、該医療情報入力手段が、人工透析の透析条件の設定値を入力する透析実行情報入力手段を備え、該機器情報検出手段が、人工透析中の透析条件の実測値を検出する透析実行情報検出手段を備え、該機器情報判定手段が、該透析実行情報検出手段の検出結果が正常か異常かを判断する透析実行情報判定手段を備えることを特徴とするものであり、特にかかる医療情報入力手段が、透析実施予定スケジュール、透析時間設定値、透析中の血液流速設定値、および透析液流速設定値の少なくとも一つの情報を入力する手段を備え、該透析実行情報検出手段が実際に透析が行われた時間(時刻を含む)、透析中に計測された血液流速、および透析液流速の少なくとも一つの情報を検出する手段を備えることを特徴とする在宅人工透析支援システムを提供するものである。
【0014】
また本発明は、該医療情報入力手段が、患者の透析前後の体重、透析前後の体温を入力する手段を備えることを特徴とする在宅人工透析支援システムを提供するものである。
【0015】
また本発明は、かかる機器情報検出手段が、透析器の試験値、体外血液回路の試験値、パイロジェンフィルタの試験値、逆浸透膜の試験値、血液ポンプ流量の校正値および除水ポンプ流量の校正値のうちの少なくとも一つの情報を検出する手段を備えることを特徴とする在宅人工透析支援システムであり、該機器情報判定手段が、予め設定された警報動作点および/または予報動作点と該機器情報検出手段の検出結果とを比較する比較手段を備え、在宅治療用人工透析装置の稼動状態が正常状態、予報状態、および警報状態のいずれかに該当するかを判定する手段であることを特徴とする在宅人工透析支援システムを提供するものである。
【0016】
更に本発明は、該中央情報収集装置が、該機器管理情報を機器管理センターに伝送するための送信手段を備え、かつ、機器管理センターに配置されて、該機器管理情報を受信するための受信手段を具備する機器管理情報受信装置を備えることを特徴とする在宅人工透析支援システムを提供するものである。
【0017】
また本発明は、各患者宅に配置されて、透析に関する医療情報を入力するための医療情報入力手段と、透析中及び/または透析準備中における透析機器情報を検出する機器情報検出手段と、該透析機器情報が正常か異常かを判定する機器情報判定手段と、該医療情報、該機器情報及び該機器情報判定手段の判定結果を中央情報収集センターへ送信するための送信手段を具備した在宅治療用人工透析装置を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を用いて説明する。
本発明は、患者が入力した医療情報と、実際に透析を実施したかどうかの情報と透析装置自身が判断した構成機器の経時変化に関する情報を送信できる人工透析装置と、送られてきた情報を受信し、医療情報は病院へ送信し、構成機器の経時変化に関する情報は機器管理センターへ送信することができる中央集中センターからなる在宅人工透析支援システムである。
【0019】
かかる中央情報収集センターと機器管理センターは、物理的な場所は同一であっても構わないが、機器管理作業を切迫しないように、システム全体の運用は中央情報収集センターの担当者が行うことが好ましい。また、病院内に設置される受信装置も、医療現場の負担を増やさないために、FAXに代表されるような保守、管理が容易な機器が望ましく、医師が望む場合のみ、中央情報収集センターに蓄積された情報を参照できるようにするのが好ましい。
【0020】
図1及び図2に本発明の実施例を示す。図1は、全体の構成を示すものであり、図2は、在宅に設置される通信機能を有した人工透析装置(10)の詳細を示したものである。
図1において、(1)は患者が居住する家庭であり、患者は、人工透析装置(10)より在宅人工透析を実施する。
【0021】
詳細は後述するが、人工透析装置では、透析実施中の情報の他、タッチパネルを有する医療情報入力インターフェイス(15)が備えられ、透析時間設定値、透析前後の体重、透析前後の体温、透析中の血液流速設定値、および透析液流速設定値が入力される。これらの情報は、送信手段としてのモデム(12)により、公衆電話回線(51)を介して、中央情報収集センター(20)に設置されたコンピュータ(21)へ送信される。
【0022】
かかる通信手段に関しては、この例では公衆電話回線を使用しているが、データ通信ができる手段であれば、有線、携帯電話、PHSなどの電話回線に限らず、インターネットやCATV回線など各種通信手段を使用することが出来る。ただし医療情報は個人情報であり、かつデータを元に医師が診断治療を行うためのデータとしても使用されるため、データの信頼性とセキュリティ問題が担保される必要があり、公衆電話回線での患者宅の人工透析装置と中央情報センターを直接接続するのが好ましい。
【0023】
中央情報処理装置にはモデム(22)が接続されており、これにより各家庭との通信を行うことができる。各家庭から送信されてきた情報は大容量の記憶装置(24)に記録・管理される。ここで、記憶された情報は、目的用途に応じて、概略、医師診断用と機器管理用各々次の3種類の報告書が作成される。即ち、緊急報告書、定期報告書、月度報告書である。
【0024】
家庭から送られてくる情報の形態は、文字列であるか、或いは、血液流速変動等を量子化した数値列である。そのため、医療情報は、前記の報告書様式に画像変換されてコンピュータに接続されたファクシミリ機能付モデム(23)から公衆電話回線(52)を介して、患者が通院する病院(30)に設置されたファクシミリ(31)へ送信され、担当医師の手元へ届けられる。また、機器情報は、同様に報告書様式に変換された後、公衆電話回線(53)を介して機器管理センター(40)に送信され、機器管理情報センターに設置されたコンピュータ(41)はモデム(42)により受信したデータを報告書様式に変換し、プリンタ(43)から出力する。
【0025】
次に図2により通信機能を有した人工透析装置(10)を説明する。この人工透析装置は、CPU(11)と中央情報収集センターのコンピュータと公衆電話回線を介してデータ通信を行うモデム(12)と、人工透析回路(13)と回路中の圧力センサ、流量センサ、温度センサ等のセンサ類(14)と、患者が透析時間、透析前後の体重、透析前後の体温、透析中の血液流速、および透析液流速設定値等の医療情報を入力するためのタッチパネルを有するインターフェイス(15)と、時刻管理を行うためのカレンダー機能部(16)と、ブザー等の音響発生部(17)から構成される。
【0026】
人工透析装置は、カレンダー機能により定時刻になると音響発生部より、測定の時刻になったことを患者へ知らせ、必要な入力項目を入力するよう督促をする。患者は、液晶表示器に表示された透析時間や体重、体温等をタッチパネルを操作しながら入力する。その後、続けて液晶表示画面の指示に従って、実際の透析を開始する。透析終了後、液晶表示器に表示に従い、透析後の体重や体温等をタッチパネルを操作しながら入力する。結果を医師の手元に緊急で届けるか否かを入力することで一回の医療データ測定が終了する。
【0027】
一方、人工透析装置の人工透析回路からの運転情報は、常時、CPUに取り込まれており、透析中の血液流速や透析液流速の経時変化情報が作成される。在宅治療用の人工透析装置では、人工透析終了後は、次回の透析に備えて自動的に透析前準備を開始し、透析液回路内の洗浄と殺菌、透析器やパイロジェンフィルタ、逆浸透膜等の試験、透析液作製を行う。これらの透析前準備中に測定したデータ、計算した校正値はCPUに取りこまれており、透析回路を構成する機器の経時変化情報が作成される。
【0028】
かかる透析器の試験値とは、例えば透析器を構成する中空糸膜の中側、例えばを水で満たし、外側を規定の圧力まで空気加圧し、一定時間保持したあとの圧力値であり、正常でも加えた圧力値よりは若干下がるが、穴があいていれば大幅に低くなることを利用し、中空糸膜型の透析器の信頼性を確認する試験値である。パイロジェンフィルタの試験値についても、方法は透析器の試験値と同様である。
【0029】
また体外血液回路の試験値とは、例えば体外血液回路を空気で満たし、ある一定圧力まで加圧し、一定時間保持した後の圧力値であり、体外血液回路が正常かどうかを確認する試験値である。
【0030】
また逆浸透膜の試験値とは、透析に使用する水を精製するための逆浸透膜の試験値であり、例えば、逆浸透膜を通して逆浸透水を一定量生成し、生成にかかった時間を測定し、所定範囲より短ければ、穴開き、所定時間より長ければ目詰まりを起こしているなどの判断材料となる。
【0031】
また血液ポンプ流量の校正値、除水ポンプ流量の校正値とは、透析中に血液を循環させるための血液ポンプ、透析中に水を除去するための除水ポンプの校正を行う為に試験値であり、例えば、ポンプを一定回転数で回転させて、一定量の水を送液するまでにかかった時間を測定し、1回転あたりの送液量を算出することにより校正を行う。
従って、本発明の機器情報検出手段は、上記試験を行うための検出手段であり、各種圧力センサー、流量センサー、タイマー手段などが使用される。
【0032】
次に、報告書について説明を行う。
緊急報告書は、判定結果により予報に相当する状態または警報に相当する状態であった場合に緊急に医師の手元もしくは機器管理者へ届ける場合に対応するものである。中央情報収集センターのコンピュータは、この予報または警報を受け取ると、記憶装置に記録した後、直ちに、ファクシミリを介して医師へ、もしく機器管理センターのコンピュータによって機器管理者へ、この結果に関する緊急報告書を送信する。この時、直前の医療情報および機器情報を数日分付与して報告書を作成することにより、医師および機器管理者はより適切な診断や処置、対処が実施できる。
【0033】
定期報告書は、人工透析装置からの受信した情報を一定期間分集約して報告書にまとめ、医療情報は医師の勤務時間帯(通常、翌朝の午前中)に医師へ送信し、機器管理情報は機器管理センターへ送信する。期間は患者の症状に応じて個々に取り決めるが、通常、一日周期であり、安定した患者は3〜7日周期としてもよい。
【0034】
月度報告書は、人工透析装置からの受信した情報を一ケ月分集約した内容で、一ケ月分の経時的変化が把握できるような、例えば、透析前後の体重や透析器の圧テストの結果などを含んだ報告書である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の在宅人工透析支援システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】在宅に設置される通信機能を有した人工透析装置(10)の詳細を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各患者宅に配置されて、透析に関する医療情報を入力するための医療情報入力手段と、透析中及び/または透析準備中における透析機器情報を検出する機器情報検出手段と、該透析機器情報が正常か異常かを判定する機器情報判定手段と、該医療情報、該機器情報及び該機器情報判定手段の判定結果を中央情報収集センターへ送信するための送信手段を具備した在宅治療用人工透析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−34543(P2009−34543A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270736(P2008−270736)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【分割の表示】特願2000−174998(P2000−174998)の分割
【原出願日】平成12年6月12日(2000.6.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】