説明

地上タンクの施工方法および地上タンク

【課題】タンク大型化、PC導入力の増加にも適応できる技術であって、簡易かつ安価に品質信頼性の高い地上タンクを構築することを可能とした地上タンクの施工方法および地上タンクを提案する。
【解決手段】底版10および側壁20を形成する本体部形成工程と、突設部材40を側壁20の外面に沿って配置する突設部形成工程と、側壁20の内部に配設されたPCケーブル32を緊張する緊張工程とを備える地上タンクの施工方法であって、緊張工程では、側壁20の外側に突出して突設部材40を貫通した二つのPCケーブル32の端部を側壁20の外側において繋ぐとともに緊張する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上タンクの施工方法および地上タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
LNGやLPG、工業用水等を貯蔵するための従来の地上タンクは、底版と、底版に剛結合される側壁と、側壁の上端に接続する平板状またはドーム状の外槽屋根とから構成されている。
側壁は防液堤とも称され、その下端近傍、すなわち、底版と接合する箇所からその上方の一定の範囲においては、側壁の他の部位に比べて大きな断面力(曲げモーメントやせん断力など)が生じるために、該下端近傍の部材断面を他の部位に比べて相対的に大きくしたり、過密に配筋するなどの措置が講じられている。この地上タンクは、その用途や規模によって構成材料や構造形式が多様に存在するものの、LNG貯蔵用タンク等の比較的大規模で耐久性が要求される場合においては、鉄筋コンクリート構造物として現場施工されているのが一般的である。そして、このLNG貯蔵用タンクの場合にはさらに、底版や側壁(防液堤)、外槽屋根の内側に保冷材層が形成され、その内側に内槽板層などが形成されてタンクの液密性と保冷性が保証されている。
【0003】
このような地上タンクは、PCケーブルなどの緊張材が側壁や底版の内部に配設されて所望する緊張力が導入されていることで効果的に鉄筋量を低減することができ、ひびわれを防止することができる。緊張力の導入方法としては、底版や側壁などに予めシース管を埋設しておき、底版や側壁の構築後にシース管内にPCケーブルを挿入するとともにPCケーブルの端部を引っ張ることで、緊張力(プレストレス力)を該シース管に導入し、底版や側壁に圧縮力を作用させるポストテンション方式の他、予めプレストレス力が導入されたPCケーブルを底版や側壁内部に埋め込んでおき、底版や側壁などの構築後にPCケーブルからプレストレス力を解放することで側壁などに圧縮力(軸力)を作用させる、プレテンション方式などがある。
【0004】
ここで、側壁に埋設されるPCケーブルとしては、縦方向(鉛直方向)のPCケーブルと周方向のPCケーブルがある。
【0005】
縦方向のPCケーブルは、例えば側壁断面の中央付近にその上端から底版まで延びる態様で埋設されて緊張されるものであり、側壁に対して鉛直方向の圧縮力を付与して該側壁に作用する曲げモーメントに抗する曲げ耐力を高めるためのものであり、側壁下端の過大な曲げモーメントに抗するべく側壁下方で外側に張り出す段部を有する形態においては、この段部の断面にも短尺のPCケーブルが埋設され、緊張力が導入されている。
【0006】
一方、周方向のPCケーブルは、側壁内においてたとえば縦方向のPCケーブルの外側に配設されて緊張され、側壁に周方向の圧縮力を付与することにより、地上タンク内にLNGやLPG等の液体が収容された際にその液圧で側壁の周方向に生じ得る引張力を解消しようとするものである。
【0007】
周方向のPCケーブルを緊張する方法は、たとえば特許文献1で開示されるように側壁の外側に突出するいわゆるピラスターに対し、その左右方向から延びてきたPCケーブルを交差させてピラスターの左右側面に定着板を介して緊張固定するのが一般的である。
【0008】
ピラスターの内部には、その左右端面に臨むようにシース管(トランペットシース管)が埋設され、ここを挿通したPCケーブルが緊張されるとともにシース管内にはグラウトが充填され、この緊張力が支圧板を介してピラスターに反力となる圧縮力を付与した状態でPCケーブルの緊張定着が図られている。
【0009】
また、ピラスターの配筋構造としては、ピラスター筋と称されるひび割れ防止筋や幅止め筋を配し、さらには、圧縮力によってシース管周りのコンクリート内に割裂応力が作用してひび割れが誘発されるのを抑制するべく、シース管の周囲にスパイラル筋を配した構造が一般に適用されている。
【0010】
しかし、このようなピラスターでは、左右から交差姿勢で進入する2つのPCケーブル用のシース管とその周りのスパイラル筋、ピラスター筋などが密に埋設されていることから、施工に手間がかかるとともに、コンクリートの充填不良箇所が発生するおそれがある。
【0011】
なお、ピラスターの内部では、左右の定着板の間に圧縮領域が形成されるため、ピラスターは、この圧縮力に対して十分な耐力を備えたものである必要があった。
【0012】
また、ピラスターにおけるPCケーブルの緊張は、PCケーブルの端部を一方向に緊張するため、PCケーブルの端部周辺のピラスターコンクリートには、過度な圧縮力が導入されて、ひいては、過度な応力集中が発生してしまう。
【0013】
また、ピラスターは、一方のPCケーブルの端部は上方向に緊張し、他方のPCケーブルの端部は下方向に緊張しているのが一般的である。そのため、ピラスターの内部には、力のねじれが生じてしまい、構造上不利となる。ゆえに、ピラスターは、ねじれ方向の力(曲げモーメント)に対する補強も必要となる。
【0014】
さらに、左右方向からのびてきたPCケーブルを上下に交差させることで、PCケーブルの端部同士の間に高さ方向の段差が生じる。そのため、このPCケーブルの端部同士の段差により、PCケーブルの高さ方向の配設ピッチが制限される場合があった。
【0015】
一方、特許文献2には、側壁に凹部を形成し、この凹部内において定着装置を介して二つのPCケーブルの端部を繋ぐ地上タンクが開示されている。この地上タンクによれば、ピラスターを形成することなく、周方向のPCケーブルを緊張することができる。
【0016】
ところが、特許文献2の地上タンクは、凹部による側壁の断面欠損が懸念される。また、PCケーブルの本数が増えると、ケーブルの二つの端部を繋ぐための広さ(凹部の深さ方向の面積)が必要となる。そのため、タンクの内空側に側壁の増厚部分を形成するなどして補強する必要があるが、タンク内側に増厚部分を設けると、タンク内空断面積が小さくなり、タンク容量が小さくなるので、好ましくない。
【0017】
また、緊張用ジャッキを用いて周方向のPCケーブルを緊張する際には、ジャッキを移動させながら緊張力を導入していくため、凹部の長手方向の寸法には、ジャッキの移動量を考慮した長さが必要であるが、タンク容量が大型化すると、PC導入力も大きくなり、ジャッキの移動量も大きくなる。
ジャッキの移動量が大きくなると、必要な凹部の長手方向の寸法が大きくなり、その分、側壁断面の欠損領域が大きくなる。そのため、特許文献2の地上タンクは、大型タンクには適さない。
【0018】
また、凹部における側壁の断面積が他の部分よりも小さいため、過度な緊張力が導入され、ひいては、過度な圧縮力が欠損部のコンクリート断面に発生することとなる。
さらに、凹部の空隙をモルタル等で充填するものの、モルタル充填箇所には周ケーブルの緊張力が導入されていない。つまり、凹部(欠損部)にモルタルが充填された領域では、圧縮力が導入されていないため、側壁に弱部が存在することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2006−291582号公報
【特許文献2】特開昭50−58841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、タンク大型化、PC導入力の増加にも適応できる技術であって、簡易かつ安価に品質信頼性の高い地上タンクを構築することを可能とした地上タンクの施工方法および地上タンクを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、本発明の地上タンクの施工方法は、底版および側壁を形成する本体部形成工程と、突設部材を前記側壁の外面に沿って配置する突設部形成工程と、前記側壁の内部に配設されたPCケーブルを緊張する緊張工程とを備えており、前記緊張工程では、前記側壁の外側に突出して前記突設部材を貫通した二つのPCケーブルの端部を、前記側壁の外側において繋ぐとともに緊張することを特徴としている。
【0022】
かかる地上タンクの施工方法によれば、PCケーブルの端部同士を繋いで緊張するため、突設部材に作用する応力は小さくなる。そのため、突設部材の構造は従来のピラスターのように複雑ではなく、簡易かつ安価に突設部材を製造することができる。
【0023】
また、別部材である突設部材を側壁の外面に配置することで、簡易にPCケーブルの接合部を形成するものであるため、施工性に優れている。
さらに、側壁に凹部(欠損部)を形成しないため、構造的にも優れている。つまり、過度な圧縮力がコンクリート断面に発生する欠損部を備えていないため、局所的な応力集中の発生を防止できる。また、側壁に対して一様な圧縮力を導入することができ、側壁に弱部が存在することも防止できる。
【0024】
ここで、「二つのPCケーブルの端部」とは、1本のPCケーブルを側壁の周方向に沿って配設する場合には当該PCケーブルの両端部、複数本のPCケーブルを側壁の周方向に沿って配設する場合には隣り合う2本のPCケーブルの各端部を意味する。
【0025】
前記地上タンクの施工方法は、前記突設部形成工程において、前記突設部材を前記側壁の外面に仮固定し、前記緊張工程において、前記突設部材を前記PCケーブルの緊張力の分力により前記側壁の外面に密着するものであってもよい。
【0026】
かかる地上タンクの施工方法によれば、突設部材を配置する際の仮固定手段を最小限に抑えることができる。
【0027】
また、本発明の地上タンクは、コンクリート製の底版と、円筒状もしくは略円筒状を呈するコンクリート製の側壁と、前記側壁の外面に固定された突設部材と、前記側壁の周方向に沿って当該側壁の内部に配設されたPCケーブルとを備えるものであって、二つのPCケーブルの端部が、前記突設部材を貫通して前記側壁の外側において繋がれており、前記突設部材は、前記PCケーブルの緊張力の分力により前記側壁の外面に密着されていることを特徴としている。
【0028】
かかる地上タンクは、側壁に凹部を形成しないため、構造的に優れている。また、突設部材は、PCケーブルの緊張力により側壁に固定されるものであるため、突設部材を側壁に固定するため部材を省略することができ、施工性に優れ、かつ、安価である。
【0029】
前記地上タンクは、複数の前記突設部材が、高さ方向に間隔をあけて配置されており、前記各突設部材の高さ方向中間部に対応する高さ位置に前記PCケーブルが配設されているものであってもよい。
このようにすれば、突設部材の小型化が可能となり、施工性がより向上する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の地上タンクの施工方法および地上タンクによれば、タンク大型化、PC導入力の増加にも適応できる技術であって、簡易かつ安価に品質信頼性の高い地上タンクを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第一の実施形態に係る地上タンクを示す図であって、(a)は立面図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【図2】図1に示す地上タンクの平面図である。
【図3】(a)は側壁の拡大断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図4】突設部材の取り付け状況を示す断面図である。
【図5】(a)および(b)は、PCケーブルの配置を示す断面図である。
【図6】(a)は図5の(a)のB−B断面図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【図7】(a)はアンカープレートの正面図、(b)は(a)のD−D断面図である。
【図8】第二の実施形態に係る地上タンクを示す立面図である。
【図9】(a)は第三の実施形態に係る地上タンクの部分拡大断面図、(b)は突設部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第一の実施形態>
第一の実施形態の地上タンク1は、図1に示すように、底版10と、側壁20と、PCケーブル30と、突設部材40と、屋根50とを備えている。
【0033】
地上タンク1の内部空間(底版10、側壁20および屋根50により囲まれた空間)には、液体等が収容される。なお、地上タンク1の収容物は限定されるものではなく、例えばLNG、LPG、工業用水等を収容することができる。
【0034】
本実施形態の地上タンク1は、底版10、側壁20および屋根50の内側に内槽板60が設けられた二重構造により構成する。底版10、側壁20および屋根50と内槽板60との間には、保冷材61が充填されている。なお、地上タンク1は、必ずしも二重構造である必要はない。
【0035】
底版10は、地盤上に形成された鉄筋コンクリート製の版状部材であって、直接基礎を兼ねている。
なお、底版10は、必ずしも基礎を兼ねるものである必要はなく、底版10とは別に基礎構造を構築してもよい。また、地上タンク1の基礎構造として、杭基礎やパイルドラフト基礎を適用してもよい。
【0036】
底版10は、側壁20の外形状と同等以上の平面形状を有している。なお、底版10の平面形状は限定されるものではなく、例えば円形や正方形等であってもよい。
底版10の厚さは、基礎地盤の土質や、上載荷重(地上タンク1の自重等)に応じて適宜設定する。
【0037】
底版10には、図示しない放射状のPCケーブルと、リング状のPCケーブルとが、緊張力が導入された状態で配設されている。
なお、底版10内のPCケーブルは、必要に応じて配置すればよい。
【0038】
側壁20は、防液堤を構成する鉄筋コンクリート製部材であって、底版10の上面に立設されている。側壁20の下端は底版10に剛結合されている。本実施形態の側壁20は、図2に示すように、円筒状に形成されている。なお、側壁20の形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば楕円形をなす筒状(略円筒状)であってもよい。また、側壁20の下端部に段部(壁厚部)を具備するものであってもよい。
【0039】
側壁20には、図3の(a)および(b)に示すように、周方向で所定のピッチで配筋された縦筋21と、上下方向で所定のピッチで配筋された横筋22とを備えている。
縦筋21および横筋22は、側壁の外面から所定の被りを確保して配筋されている。
なお、必要に応じて、せん断補強筋を配筋してもよい。
【0040】
側壁20の内部には、図1に示すように、PCケーブル30が埋設されている。
PCケーブル30は、PC鋼より線により構成されている。なお、PCケーブル30を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、PC鋼線やPC鋼棒を使用してもよい。
【0041】
側壁20に埋設されるPCケーブル30としては、縦方向(鉛直方向)のPCケーブル(以下、「縦ケーブル」という)31と、周方向のPCケーブル(以下、「周ケーブル」という)32とがある。
【0042】
縦ケーブル31は、側壁20の厚さ方向の中央付近において上下方向に連続して配設されている。縦ケーブルの下端は、底版10に定着している。側壁20には、側壁20の周方向に間隔をあけて複数本の縦ケーブル31,31,…が配設されている。
【0043】
縦ケーブル31には、緊張力が導入されていて、側壁20に対して鉛直方向の圧縮力を付与している。こうすることで、側壁20の曲げ耐力が高められる。
【0044】
周ケーブル32は、側壁20内において縦ケーブル31の外側に配設されている。
周ケーブル32には、緊張力が導入されており、側壁20に周方向の圧縮力を付与している。こうすることにより、地上タンク1内の液圧等により側壁20の周方向に生じ得る引張力を解消、あるいは、低減することが可能となる。
【0045】
周ケーブル32は、側壁20の内部に配設されたシース管23(図3の(b)参照)に挿通されているが、周ケーブル32の配設方法は限定されるものではない。
【0046】
周ケーブル32の端部は、側壁20から突出していて、側壁20の外側に配設されたPC定着部70に向けて延びている。
【0047】
側壁20から突出した周ケーブル32の端部は、突設部材40を貫通したうえでPC定着部70に固定されている。
【0048】
本実施形態では、図5の(a)および(b)に示すように、同一の高さレベルに配設された2本の周ケーブル32,32の端部同士をPC定着部70において繋ぎ合わせることにより、側壁20に対して周方向の圧縮力を付与している。
【0049】
なお、同一の高さレベルに配設される周ケーブル32の本数は限定されるものではなく、例えば、1本の周ケーブル32を配設して、その両端を一つのPC定着部70により繋いでもよいし、3本以上の周ケーブル32,32,…を配設して、隣接する周ケーブル32,32の端部同士をPC定着部70で繋いでもよい。
【0050】
周ケーブル32を挿通したシース管23には、周ケーブル32の緊張後にグラウトが充填される。
【0051】
突設部材40は、図4に示すように、周ケーブル32の端部(側壁20から突出した部分)を挿通させた状態で、側壁20の外面に固定されている。
本実施形態の突設部材40は、図1に示すように、側壁20に沿って上下方向に連続しているが、突設部材40は、上下方向に対して複数に分割されていて(図8参照)、周ケーブル32の高さ位置に応じて形成されていてもよい。
【0052】
本実施形態の突設部材40は、側壁20の外面に設置されたプレキャスト製のコンクリート部材である(図4参照)。
【0053】
図4に示すように、突設部材40は、PC定着部70を挟んで両側にそれぞれ形成されている。左右の突設部材40は、PC定着部70を配設するための溝状の空間を形成している。
【0054】
突設部材40には、周ケーブル32を挿通するための貫通孔41が形成されている。本実施形態では、突設部材40の内部にシース管を埋設することで、貫通孔41が形成されている。
【0055】
周ケーブル32が突設部材40の貫通孔41を挿通することで、周ケーブル32と側壁20の外面との間に隙間が形成される。こうすることで、PC定着部70を、側壁20の外面から離隔させている。
【0056】
突設部材40は、突設部材40に挿通された周ケーブル32の緊張力により側壁20の外面に密着している。つまり、周ケーブル32に緊張力を導入すると、側壁20方向に作用する分力が突設部材40に作用するため、突設部材40が側壁20に押し付けられる。
【0057】
突設部材40の外面には、平面部42とすり付け部43が形成されている。
平面部42は、PC定着部70の位置において、側壁20の外面に接する平面(設平面)と平行である。PC定着部70を挟む二つの突設部材40,40の平面部42,42は、同一平面上に形成されている。
【0058】
すり付け部43は、平面部42から側壁20の外面に至る平面(接平面)である。
平面部42とすり付け部43との交点の内角は、なるべく大きい方が望ましい。
【0059】
本実施形態では、PC定着部70により周ケーブル32を固定した後、突設部材40,40の間の空間をモルタル等により充填する。
突設部材40,40の間の空間が間詰めされることで、突設部材40,40により形成された凸部が流線形に近い形となる。
【0060】
PC定着部70は、図4に示すように、側壁20の外側に配設されている。本実施形態では、同じ高さ位置に配設された2本の周ケーブル32,32に対して、2つのPC定着部70,70が配設されている。つまり、2つのPC定着部70,70は、地上タンク1の内空を挟んで対向する位置にそれぞれ配置されている(図5参照)。
【0061】
任意の周ケーブル32の高さレベルに応じて配設されたPC定着部70(図5の(a)参照)と、この周ケーブル32の上方または下方の周ケーブル32の高さレベルに応じて配設されたPC定着部70(図5の(b)参照)とは、地上タンク1を平面視した際に、異なる平面位置となるように配置されている。
なお、PC定着部70の数量や配設ピッチは限定されるものではなく、周ケーブル32の本数等に応じて適宜設定すればよい。
【0062】
PC定着部70は、図6の(b)に示すように、PC定着部70を挟んで両側から突出した周ケーブル32,32の端部同士を連結している。
【0063】
PC定着部70は、図6の(a)および(b)に示すように、プレート状のアンカーヘッド71を備えて構成されている。
【0064】
アンカーヘッド71には、その両側から延びてきた周ケーブル32,32の端部が固定される。2本の周ケーブル32,32は、アンカーヘッド71を介して繋がれる。
アンカーヘッド71には、図7の(a)および(b)に示すように、双方の周ケーブル32,32の端部が挿通される複数の挿通孔72,72,…が形成されている。
【0065】
アンカーヘッド71への周ケーブル32に固定は、一方の周ケーブル32の端部を挿通孔72に挿通して固定し、次いで他方の周ケーブル32の端部を他の挿通孔72に挿通するとともに、この端部を緊張してアンカーヘッド41に固定することにより行う。こうすることで、所望する緊張力を容易に周ケーブル32,32に導入して、双方の端部同士を緊張姿勢で繋ぐことができる。
【0066】
屋根50は、図1に示すように、側壁20の上部で支持されるドーム状のコンクリート製もしくは鋼製の部材である。屋根50を構成する材料は限定するものではない。また、屋根50の形状も限定されるものではなく、例えば平板状に形成する等、側壁20の形状や収容物等に応じて適宜形成すればよい。
【0067】
次に、本実施形態の地上タンクの施工方法について説明する。
地上タンクの施工方法は、本体部形成工程と、突設部形成工程と、緊張工程とを備えている。
【0068】
本体部形成工程は、底版10および側壁20を形成する工程である。
底版10および側壁20は、現場施工により構築する。
【0069】
底版10は、地盤上に必要な配筋を行うとともに型枠を設置し、コンクリートを打設することにより形成する。
このとき、側壁20との接合部に、側壁20の脚部の主筋をあらかじめ植設させておく。また、側壁20に埋設される縦ケーブル31の下端部も底版10に埋め込んでおくか、縦ケーブル31の取付部を形成しておく。
【0070】
側壁20は、底版10の縁部に、必要な配筋を行うとともに型枠を設置した後、コンクリートを打設することにより形成する。
このとき、周ケーブル32を挿通させるためのシース管23も配置しておく。シース管23は、予め周ケーブル32が内挿された状態で配置してもよいし、内部が空の状態で配置してもよい。
【0071】
また、縦ケーブル31は、壁厚方向の中央部に配設する。
【0072】
なお、側壁20は、複数のプレキャスト製のピースを組み合わせることにより構築してもよい。
【0073】
突設部形成工程は、プレキャスト製の突設部材40を側壁20の外面に沿って配置する工程である。
【0074】
本実施形態では、側壁20を構築した後に、側壁20のシース管23の開口部の位置に合わせて突設部材40を配置する。
なお、突設部材40は、側壁20の構築後に現場施工により側壁20の外面に沿って形成してもよい。
【0075】
突設部形成工程では、まず、突設部材40を側壁20に仮固定しておく。なお、突設部材40の仮固定方法は限定されるものではないが、例えば、側壁20の外面に植設されたアンカー等を利用して行えばよい。
ここで、突設部材40の仮固定とは、突設部材40の自重を支えることが可能な程度に固定することを意味する。
【0076】
緊張工程は、側壁20の内部に配設された周ケーブル32を緊張する工程である。
緊張工程では、PC定着部70の左右からPC定着部70に向って側壁20の外側に突出するとともに突設部材40を貫通した二つのPCケーブルの端部を、側壁20の外側において繋ぐとともに緊張する。
【0077】
周ケーブル32への緊張力の導入は、二つの周ケーブル32の端部のうちの一方をアンカーヘッド71に固定した後、他方の周ケーブル32の端部をアンカーヘッド71に挿通した状態で緊張することにより行う。
【0078】
周ケーブル32に緊張力を導入すると、緊張力の分力により突設部材40に側壁20方向の力が作用するため、突設部材40が側壁20の外面に密着する。
【0079】
周ケーブル32の緊張後、左右の突設部材40,40の間の溝をモルタル等により充填する。また、側壁20のシース管23および突設部材40の貫通孔41もグラウト等により充填する。
【0080】
本実施形態の地上タンク1によれば、突設部材40により周ケーブル32と側壁20との間に隙間が形成されるため、周ケーブル32の緊張に伴ってPC定着部70が側壁20に近づいたとしても側壁20と接触することがない。そのため、PC定着部70との接触により側壁20が損傷することがない。
【0081】
突設部材40として、プレキャスト部材を使用しているため、施工期間の短縮を図ることができる。
突設部材40は、周ケーブル32を覆っているため、周ケーブル32の錆等を防止することができる。
【0082】
周ケーブルの32の本数や、周ケーブル32のPC導入力に応じて突設部材40の形状を決定することが可能である。そのため、タンクの大型化やPC導入力の増加に適用可能である。
【0083】
突設部材40により、周ケーブル32の端部同士の接合部(PC定着部)が略流線形に形成されているため、側壁の周囲に風の吹き溜まり部分が形成されることがない。そのため、例えば、海に近い場所に地上タンク1を形成した場合であっても、塩分を含んだ砂等が局所的に堆積することはなく、したがって、部分的に劣化が進行することを防止することができる。
【0084】
側壁20に凹部(欠損部)を形成しないため、構造的に優れている。また、側壁20の外面に突設部材40が形成された簡易な構成のため、施工性に優れており、かつ、安価である。また、タンクの内空部に増厚部分を形成する必要がないため、タンクの容量が小さくなることもない。
【0085】
また、周ケーブル32の緊張力を導入することで、側壁20のコンクリートに対して圧縮力を一様に導入することが可能となる。
つまり、従来の凹部(欠損部)を有した地上タンクの場合は、凹部における側壁の断面積が他の部分よりも小さいことにより、過度な圧縮力が欠損部のコンクリート断面に発生することとなるが、本実施形態の地上タンク1によれば、このような局所的な応力集中が発生することがない。
また、従来の凹部を有した地上タンクは、圧縮力が導入されていない部分が発生し、側壁に弱部が存在することとなるが、本実施形態の地上タンク1は、側壁20全断面に対して圧縮力を一様に導入しているため、このような弱部が存在することもない。
【0086】
上下に隣接する周ケーブル32,32は、端部同士の繋ぎ箇所(PC定着部70の配置)が鉛直方向で同一箇所に集中しないように配置されているため、不要な偏心が生じることが防止されている。
【0087】
周ケーブル32は、端部同士を互いに繋ぎ合わせた状態で緊張力が導入されているため、突設部材40への負担は小さい。そのため、突設部材40は、従来のピラスターのように、鉄筋等が密に配設された構造とする必要がなく、簡易に構築することができる。
【0088】
周ケーブル32の端部同士をPC定着部70を介して水平に連結して緊張するため、両方向に緊張する形となり、過度な応力集中が発生することがない。なお、従来のピラスター構造による周受けケーブルの緊張のように、端部を一方向に緊張すると、周ケーブルの端部周辺のピラスターコンクリートには過度な応力集中が発生してしまう。
【0089】
二つの周ケーブル32の端部同士は、PC定着部70を介して水平に連結されているため、周ケーブル32の連結部において力のねじれが生じることがない。
また、周ケーブル32の端部同士の間に高さ方向の段差が生じることもないため、周ケーブル32の高さ方向の配設ピッチが周ケーブル32の端部同士の接合部により制限されることもない。
【0090】
本実施形態の地上タンク1は、2本(複数本)の周ケーブル32,32の端部同士を連結することで、周ケーブル32,32が1つの輪として形成される。そのため、側壁に対して、局所的に圧縮力が異なることがなく、一様な大きさの圧縮力を導入することが可能となる。そのため、高品質な地上タンク1(側壁20)を形成することができる。
なお、従来のピラスター構造の地上タンクでは、周ケーブルの端部はピラスターにおいて個別に緊張しているため、二つの周ケーブルの端部は、2系統に分断した状態となる。そのため、側壁に導入される周方向の圧縮力が局所的に異なってしまう。
【0091】
<第二の実施形態>
第二の実施形態の地上タンク2は、図8に示すように、複数の突設部材40が、高さ方向に間隔をあけて配置されている点で、側壁20に沿って上下に連続した突設部材40が形成された第一の実施形態の地上タンク1と異なっている。
【0092】
突設部材40は、周ケーブル32の高さ位置であって、周ケーブル32の端部が側壁20から突出している位置(側壁20のシース管23の位置)に、それぞれ配設されている。
【0093】
突設部材40は、側壁20とは別体に形成された部材であって、側壁20の外面に固定されている。突説部材40の高さ方向中間部には、周ケーブル32を挿通するための貫通孔が形成されている。貫通孔は、突設部材40の内部にシース管を埋設することで形成されている。なお、貫通孔の形成方法は限定されるものではない。
【0094】
本実施形態では、工場等において形成されたプレキャスト部材を側壁20の外面に設置することで突設部材40を形成するが、突設部材40の形成方法は限定されるものではない。例えば、側壁20の外面に現場施工により形成してもよい。
また、突設部材40の材質は限定されるものではなく、例えばコンクリート部材であってもよいし、鋼板や形鋼等を組み合わせて形成した鋼製部材であってもよい。
【0095】
突設部材40には、周ケーブル32が挿通されており、突設部材40は、周ケーブル32の緊張力の分力により側壁20の外面に密着している。
突設部材40は、側壁20の外面に強固に固定されておらず、自重を支える程度に仮固定されている。
【0096】
この他の第二の実施形態に係る地上タンク2の構成は、第一の実施形態で示した地上タンク1の構成と同様なため、詳細な説明は省略する。また、地上タンク2の施工は、第一の実施形態で示した地上タンク1の施工と同様の手順により行えばよい。
【0097】
本実施形態の地上タンク2によれば、突設部材40を上下方向で複数に分割することで、突設部材40の形状を小さくし、材料費を低減させることができる。
この他の第二の実施形態の地上タンク2の作用効果は、第一の実施形態の地上タンク1の作用効果と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0098】
<第三の実施形態>
第三の実施形態の地上タンク3は、図9に示すように、PC定着部70を配置する空間が一つの突設部材40によって形成される点で、PC定着部70を配置する空間を二つの突設部材40,40によって形成する第二の実施形態の地上タンク2と異なっている。
【0099】
図9の突設部材40は、PC定着部70を配置するための凹部44を備えている。
なお、本実施形態の地上タンク3は、周ケーブル32の高さ位置に対応して、高さ方向に間隔をあけて複数の突設部材40,40,…を配置するものとするが、側壁20の高さ方向に対して連続した一つの突設部材を配置してもよい。
【0100】
この他の地上タンク3の構成は、第二の実施の形態で示した地上タンク2の構成と同様なため詳細な説明は省略する。また、地上タンク3の施工は、第一の実施形態で示した地上タンク1の施工と同様の手順により行えばよい。
【0101】
以上、地上タンク3によれば、1つの突設部材40を配置(形成)することで、PC定着部70を配置するための空間(周ケーブル32の端部同士の接合部)が形成されるため、施工が容易である。
この他の第三の実施形態の地上タンク3の作用効果は、第二の実施形態の地上タンク2の作用効果と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0102】
以上、本発明に係る実施の形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0103】
周ケーブル32は、側壁20下端から上端に向って均一なピッチで配設してもよいし、高さレベルに応じて異なるピッチで配設してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1,2,3 地上タンク
10 底版
20 側壁
32 周ケーブル(PCケーブル)
40 突設部材
41 貫通孔
70 PC定着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底版および側壁を形成する本体部形成工程と、
突設部材を前記側壁の外面に沿って配置する突設部形成工程と、
前記側壁の内部に配設されたPCケーブルを緊張する緊張工程と、を備える地上タンクの施工方法であって、
前記緊張工程では、前記側壁の外側に突出して前記突設部材を貫通した二つのPCケーブルの端部を、前記側壁の外側において繋ぐとともに緊張することを特徴とする、地上タンクの施工方法。
【請求項2】
前記突設部形成工程において、前記突設部材を前記側壁の外面に仮固定し、
前記緊張工程において、前記PCケーブルの緊張力の分力により前記突設部材を前記側壁の外面に密着することを特徴とする、請求項1に記載の地上タンクの施工方法。
【請求項3】
コンクリート製の底版と、円筒状もしくは略円筒状を呈するコンクリート製の側壁と、前記側壁の外面に固定された突設部材と、前記側壁の周方向に沿って当該側壁の内部に配設されたPCケーブルと、を備える地上タンクであって、
二つのPCケーブルの端部が、前記突設部材を貫通して前記側壁の外側において繋がれており、
前記突設部材は、前記PCケーブルの緊張力の分力により前記側壁の外面に密着されていることを特徴とする、地上タンク。
【請求項4】
複数の前記突設部材が、高さ方向に間隔をあけて配置されており、
前記各突設部材の高さ方向中間部に対応する高さ位置に前記PCケーブルが配設されていることを特徴とする、請求項3に記載の地上タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−91984(P2013−91984A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234984(P2011−234984)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【特許番号】特許第4909445号(P4909445)
【特許公報発行日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】