説明

地上交通路の下に地下空間を形成する方法

【課題】地上交通路の下に地下空間を形成する方法として、工事の際に設置する迂回路をより小さくすると共に、地上道路を閉鎖してから開通させるまでの時間を短縮することができる方法を提供する。
【解決手段】地上道路12の下に地下空間18、19を形成する方法であって、地上道路12を構成する上部工20を支持する下部工22、24、26を地盤中に構築する工程と、下部工22、24、26を構築した後、上部工20を地盤上に構築する工程と、上部工20の下を掘削することにより地下空間18、19を形成する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上交通路の下に地下空間を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
護岸に地中連続壁や杭等の下部工を構築し、該下部工に上部工を剛結する橋梁の構築方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この方法によれば、狭隘な用地でも橋梁を構築できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−23713号公報
【特許文献2】特開2006−63534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1、2に記載の橋梁は、河川上に架設するものであるが、道路等の地上交通路の下に地下空間を形成して該地下空間に地下道路等の地下構造物を構築する場合(例えば、立体交差道路を構築する場合)には、現状、地下空間を形成した後に、その上に橋梁を架設している。
【0005】
ここで、立体交差道路を構築する場合は、まず、地下道路の深さまでの大深度の掘削を行ってから、下部工を構築し、該下部工に上部工を剛結又は支承を介して接合しているが、掘削深さが大きくなるほど、掘削のり面が大きくなることにより、掘削面積も広くなる。従って、掘削領域の周りに大きく迂回する迂回路を設けざるを得なくなる。
【0006】
また、掘削を開始してから上部工を構築するまでの時間が長くなることにより、地上道路を閉鎖してから開通させるまでの時間が長くなる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、地上交通路の下に地下空間を形成する方法として、工事の際に設ける迂回路をより小さくすると共に、地上道路を閉鎖してから開通させるまでの時間を短縮することができる方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る地上道路の下に地下空間を形成する方法は、 地上交通路を構成する上部工を支持する下部工を地盤中に構築する工程と、前記下部工を構築した後、前記上部工を地盤上に構築する工程と、前記上部工の下の地盤を掘削することにより地下空間を形成する工程と、を備える。
【0009】
前記地上道路の下に地下空間を形成する方法において、前記下部工は、前記地上交通路と交差する方向に連続する地中連続壁、又は、前記地上交通路と交差する方向に配列された複数の杭であってもよい。
【0010】
前記地上道路の下に地下空間を形成する方法において、前記上部工を構築する工程では、前記上部工を構築するための型枠を支持する型枠支持体を、地盤上に設置してもよい。
【0011】
前記地上道路の下に地下空間を形成する方法において、前記下部工を地盤中に構築する前に1次掘削を実施し、前記地下空間を構築する工程において2次掘削を実施してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地上交通路の下に地下空間を形成する工事において、その際に設ける迂回路をより小さくすると共に、地上道路を閉鎖してから開通させるまでの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態に係る構築方法によって構築された立体交差道路を示す平面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】立体交差道路を構築する手順を示す断面図である。
【図4】立体交差道路を構築する手順を示す断面図である。
【図5】立体交差道路を構築する手順を示す断面図である。
【図6】立体交差道路を構築する手順を示す断面図である。
【図7】比較例に係る立体交差道路の作用を示す断面図である。
【図8】本実施形態に係る立体交差道路の下部工を示す平断面図である。
【図9】他の実施形態に係る立体交差道路の下部工を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る構築方法によって構築された立体交差道路10を示す平面図であり、図2は、図1の2−2断面図である。図1に示すように、立体交差道路10は、図中左右方向に延びる地上道路12と、地上道路12と交差する地下道路14、15とを備える。この立体交差道路10は、既設の地上道路を閉鎖し、立体交差する領域を迂回する迂回路16を設けてから、立体交差する領域を通過する地上道路12を構築し、その下の地下空間18、19及び地下道路14、15を構築することによって得られる。
【0015】
図2に示すように、立体交差道路10は、地上道路12を構成する上部工20と、上部工20を支持する下部工22、24、26とを備えるラーメン橋である。上部工20は、プレストレストコンクリート製の床版であり、路面がグランドレベルGLに設定されている。また、下部工22、24、26は、鉄筋コンクリート製の地中連続壁であり、下部工22、26は、上部工20の長手方向一端又は他端に結合され、下部工24は、上部工20の長手方向の中間部に結合されている。なお、下部工22、24、26と上部工20との結合は、剛結又はピン結合である。また、下部工22、24、26は、地盤の支持層まで打設され、両端の下部工22、26は、土留壁としての機能も有している。
【0016】
また、上部工20、下部工22、24及び掘削底面により囲まれる地下空間18と、上部工20、下部工24、26及び掘削底面により囲まれる地下空間19とが形成されており、地下空間18の掘削底面を舗装することにより地下道路14が構築され、地下空間19の掘削底面を舗装することにより地下道路15が構築されている。
【0017】
図3〜図6は、立体交差道路10を構築する手順を示す断面図である。まず、図3に示すように、1次掘削を実施する。ここで、1次掘削の深さは、上部工20を構築するための型枠(図示省略)とそれを支える枠組支保工30(図5参照)とを設置するに足りるだけの深さとする。また、1次掘削の面積は、上記型枠を設置するに足りるだけの面積とし、掘削領域の周囲には掘削のり面32を形成する。
【0018】
次に、図4に示すように、地中連続壁である下部工22、24、26を地盤中に打設する。この工程では、公知の掘削機を使用して、地中連続壁を構築するための断面矩形状の孔を支持層まで掘削し、孔内に鉄筋籠又は鋼材を挿入した後に、孔内にコンクリートを打設する。なお、1次掘削と下部工22、24、26の打設との順序は逆にしてもよく、ヤードの広さや地下水位等の施工条件によって適宜決めればよい。
【0019】
次に、図5に示すように、上部工20を構築する。この工程では、枠組支保工30を1次掘削した領域の底面上に設置し、その上に型枠を設置した後に、型枠内に鉄筋を配筋してコンクリートを打設する。この際、上部工20と下部工22、24、26とを結合する。
【0020】
次に、図6に示すように、枠組支保工30を撤去し、上部工20と掘削のり面32との間に土を埋め戻した後、2次掘削を実施して地下空間18、19を形成する。ここで、2次掘削は、下部工22、26の間を地下道路14、15の深さまで実施する。その後、掘削底面を舗装することにより、地下空間18、19に地下道路14、15を構築する。なお、土の埋め戻しと2次掘削との順序は逆にしてもよく、地上道路12を早期に開通させたい場合には、本実施形態のように土の埋め戻しを優先させればよい。
【0021】
以上説明したように、本実施形態に係る立体交差道路10の構築方法では、地中連続壁である下部工22、24、26を地盤中に打設する工程を実施した後に、上部工20を構築する工程を実施し、その後、下部工22、24、26で上部工20を支持した状態で、地下空間18、19を形成するために最深部まで掘削(2次掘削)する。これにより、グランドレベルGLからの掘削(1次掘削)の深さを、上部工20を構築するための型枠とそれを支える枠組支保工30とを設置するに足りるだけの深さに抑えることができる。従って、グランドレベルGLから最深部まで掘削して下部工及び上部工を構築する場合と比して、掘削面積を狭くすることができ、迂回路16の迂回を小さくすることができる。
【0022】
また、上部工20を構築し、上部工20の周囲を埋め戻した後、地上道路12を開通させることができる。即ち、2次掘削を実施しながら、地上道路12を開通させることができるため、地上道路12を閉鎖してから開通させるまでの時間を短縮できる。
【0023】
また、本実施形態に係る立体交差道路10の構築方法では、上部工20を構築するための型枠とそれを支える枠組支保工30とを設置するに足りるだけの深さの1次掘削をし、その掘削底面を利用して枠組支保工30を設置する。ここで、最深部まで掘削した後に上部工を構築する場合には、枠組支保工の他に枠組支保工を支える支柱が必要になるが、本実施形態によれば、枠組支保工30のみで足り、上部工20を構築するための支保工を小規模にすることができ、コストを低減できる。
【0024】
また、本実施形態に係る立体交差道路10の構築方法では、地下空間18、19の両側の下部工22、26を地下道路14、15に沿って連続する地中連続壁としたことにより、地下空間18、19の両側の下部工22、26を土留壁として機能させることができ、別途の土留壁の施工を不要にできる。
【0025】
ここで、図7には、比較例に係る立体交差道路200の作用を示している。この図に示すように、上部工220は気温に応じて伸縮するが、下部工222、224、226の基礎が直接基礎である等、下部工222、224、226の曲げに対する拘束が強くなるほど、下部工222、224、226による上部工220の伸縮の拘束が強くなり、上部工220に生じる曲げモーメントが大きくなる。このため、上部工220の長さによっては、中央の下部工224と上部工220との間にゴム支承を設置したり、上部工220の伸縮を許容する機構を設置したりする必要が生じ、これらの維持管理が必要になる。
【0026】
これに対して、本実施形態に係る立体交差道路10の構築方法では、下部工22、24、26を、上記基礎部分が存しないことから地盤中で曲げ変形し易い地中連続壁としたことにより、上記比較例と比して、下部工22、24、26の曲げに対する拘束を低減でき、下部工22、24、26による上部工20の伸縮の拘束を低減でき、上部工20に生じる曲げモーメントを低減できる。従って、中央の下部工24と上部工20とを、これらの間にゴム支承等を設置することなく結合することが可能となり、ゴム支承等の維持管理を不要にできる。
【0027】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、図8に示すように、下部工22、24、26を地下道路14、15に沿って連続する地中連続壁としたが、図9に示すように、地下道路14、15に沿って配列された複数の杭122、124、126としてもよい。この場合、地下空間18、19の両側の杭122、126を、間隔を空けずに配列したり、杭122、126の間隔を狭くしたりすることにより、杭122、126に土留壁としての機能を発揮させることができる。なお、杭122、126の間隔を広くして、別途、これらの両側に土留壁を構築してもよい。
【0028】
また、上述の実施形態では、1次掘削した際の掘削底面に、型枠支持体としての枠組支保工30を設置したが、該掘削底面に、型枠支持体としての鉄板を敷設して、その上に上部工20を構築するための型枠を設置してもよい。また、上述の実施形態では、地上道路12をグランドレベルGLに一致させるために、1次掘削を実施したが、地上道路12をグランドレベルGLより高い位置に設置する場合には、1次掘削を実施せずに下部工22、24、26を構築する工程を実施してもよい。
【0029】
さらに、上述の実施形態では、地上交通路が地上道路12であり、地下空間が地下道路14、15を構築するための地下空間18、19である立体交差道路10を例に挙げて本発明を説明した。しかし、地上交通路としては、列車の線路、歩道、水路等も挙げられ、地下空間に構築する地下構造物としては、地下街、地下施設、他の地下交通路等も挙げられる。また、地上道路12と地下道路14、15とが直交する立体交差道路10を例に挙げたが、地上道路と地下道路とが斜めに交差する立体交差道路にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 立体交差道路、12 地上道路(地上交通路)、14、15 地下道路、16 迂回路、18、19 地下空間、20 上部工、22、24、26 下部工、30 枠組支保工(型枠支持体)、32 掘削のり面、122、124 126 下部工、200 立体交差道路、220 上部工、222、224、226 杭(下部工)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上交通路を構成する上部工を支持する下部工を地盤中に構築する工程と、
前記下部工を構築した後、前記上部工を地盤上に構築する工程と、
前記上部工の下の地盤を掘削することにより地下空間を形成する工程と、
を備える地上交通路の下に地下空間を形成する方法。
【請求項2】
前記下部工は、前記地上交通路と交差する方向に連続する地中連続壁、又は、前記地上交通路と交差する方向に配列された複数の杭である請求項1に記載の地上交通路の下に地下空間を形成する方法。
【請求項3】
前記上部工を構築する工程では、前記上部工を構築するための型枠を支持する型枠支持体を、地盤上に設置する請求項1又は請求項2に記載の地上交通路の下に地下空間を形成する方法。
【請求項4】
前記下部工を地盤中に構築する前に1次掘削を実施し、前記地下空間を構築する工程において2次掘削を実施する請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の地上交通路の下に地下空間を構築する方法。

【図1】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87516(P2013−87516A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229936(P2011−229936)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】