説明

地上補強型衛星航法システム、該システムに用いられる衛星異常検出方法及び衛星異常検出プログラム

【課題】空港周辺の所定距離内の空域で航空機の進入着陸誘導を行う地上補強型衛星航法システム中で、衛星の異常を検出する精度を向上させる。
【解決手段】各測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、擬似距離補正値補正手段(擬似距離補正値補正部23a)により、同測位信号に対応した擬似距離補正値に対して、対応する測位衛星(GPS衛星10)の測位手段(GPSアンテナ21、GPS受信機22)に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成される。衛星異常検出手段(インテグリティモニタ23b)により、擬似距離補正値補正部23aで生成された各検定統計量を用いて各GPS衛星10の異常の有無が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地上補強型衛星航法システム、該システムに用いられる衛星異常検出方法及び衛星異常検出プログラムに係り、たとえば、空港周辺の所定距離内の空域で航空機の進入着陸誘導を行う際、衛星の異常を高精度で検出する場合に用いて好適な地上補強型衛星航法システム、該システムに用いられる衛星異常検出方法及び衛星異常検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の運行に対しては、高い安全性と信頼性が要求され、これらの要求に対しては、精度、完全性、サービスの継続性及び利用可能性が必要であるが、GPS(Global Positioning System 、汎世界測位システム)衛星を使用した航法では、電離層の影響により、精度に不十分なものがあり、補強システムが必要となる。この補強システムとして、たとえば地上補強型衛星航法システム(Ground Based Augmentation System、GBAS)が構築されている。GBASは、地上システムと、機上システムとから構成されている。地上システムでは、空港内に設置された基準局により、測位衛星から放送される信号電波が受信されて収集及び解析され、同信号電波に含まれる誤差を推定することにより補正データが生成され、機上システムの移動局へ送信される。機上システムでは、移動局により、地上システムから送信された補正データに基づいて、同機上システムでの測位データを補正することにより、ディファレンシャル測位が行われ、規定飛行ルートに対する変位が算出されてパイロットなどに提供される。
【0003】
また、移動局の測位データを補正するGBASとしては、位置補正方式及び擬似距離補正方式がある。位置補正方式のGBASでは、位置が既知の基準局により、移動局と同じ衛星の信号電波を使用して同基準局の測位演算が行われ、この測位演算の結果と同基準局の既知の位置とから補正データが算出され、この補正データに基づいて移動局の測位データが補正される。また、擬似距離補正方式のGBASでは、たとえば図6に示すように、GPS衛星1,2から放送される各信号電波が地球上のGPS受信機3により受信される。図示しないデータ処理装置により、GPS受信機3により受信された各信号電波に含まれる、各GPS衛星1,2の軌道を示すエフェメリス情報に基づいて、各GPS衛星1,2毎にGPS受信機3との間の第1の擬似距離が計算される。そして、上記各信号電波に含まれる測位信号に基づいて、各GPS衛星1,2毎にGPS受信機3との間の第2の擬似距離が計算され、各第1の擬似距離と各第2の擬似距離との差分が各GPS衛星1,2毎に計算されて各差分に基づく各擬似距離補正値が生成される。
【0004】
この種の擬似距離補正方式のGBASでは、擬似距離補正が必要となる要因の主要なものとして、測位信号の電離層の通過による遅延がある。測位信号の遅延量は、衛星の仰角が低くなるほど大きくなる。たとえば、図6では、GPS受信機3に対する衛星1の仰角(直角)よりも衛星2の仰角cが低いため、GPS衛星1の測位信号の電離層の通過距離aよりも、GPS衛星2の測位信号の電離層の通過距離bのほうが長くなっている。このため、GPS衛星1の測位信号よりもGPS衛星2の測位信号のほうが遅延量が大きい。この場合、擬似距離補正値を検定統計量として使用しても、遅延量の仰角依存性により、同擬似距離補正値のヒストグラムの分布が正規分布にならないので、衛星の異常を判定するための閾値の設定や、衛星の異常検出の失敗の確率の見積もりを高精度で行うことができない。このため、空港周辺の所定距離内の空域で航空機の進入着陸誘導を高精度で行うことができないという課題がある。
【0005】
上記の擬似距離補正方式のGBASの他、この種の関連技術としては、たとえば、特許文献1に記載された電離層遅延量算出方法がある。
この電離層遅延量算出方法では、所定の時間に同じ衛星を用いて算出した、GPSモデルによる電離層遅延量と2周波による電離層遅延量との差から、擬似距離の観測量に含まれる受信機固有の周波数間バイアス(IFB、Inter Frequency Bias)が算出される。そして、IFBを除去した擬似距離を使った2周波による電離層遅延量とGPSモデルによる電離層遅延量とから、これらの値のいずれかを選択、あるいは加重平均することにより、測位演算時に使用する電離層遅延量が算出される。
【0006】
また、特許文献2に記載された航法データ更新通知システムでは、地上システムにより、測位衛星から受信したレンジング信号に含まれる誤差が推定され、その誤差を修正するための補正情報がフォーマッティングされて送信される。そして、機上システムにより、測位衛星から受信したレンジング信号及び上記フォーマッティングされた補正信号に基づいてディファレンシャルGPS測位演算され、規定ルートからの変位が表示される。上記地上システムでは、上記補正情報を生成する際に使用したSBAS(Satellite Based Augmentation System 、衛星回線による広域補強システム)航法データが更新された際に航法データの更新を上記補正情報に付加して通知する。上記機上システムでは、送信されるSBAS航法データの更新が検出され、更新されたSBAS航法データに切り替えてディファレンシャルGPS測位演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−187592号公報
【特許文献2】特開2009−250798号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】坂井丈泰他、「広域ディファレンシャルGPSにおける電離層遅延補正情報のグリッド間隔による影響」、電子研報告、電子航法研究所、2008.1、No.119、P.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記関連技術では、次のような課題があった。
すなわち、特許文献1に記載された電離層遅延量算出方法では、GPSモデルによる電離層遅延量と、2周波による電離層遅延量とを混合して使用し、正確な電離層遅延量が算出されるが、この発明とは構成や処理方法が異なる。
【0010】
特許文献2に記載された航法データ更新通知システムでは、地上システムと機上システムとで使用する航法データを一致させて測位精度の悪化を回避することにより安全性を図るが、この発明とは構成や処理方法が異なる。
【0011】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、衛星の異常を判定するための閾値の設定や、衛星の異常検出の失敗の確率の見積もりを高精度で行う地上補強型衛星航法システム、該システムに用いられる衛星異常検出方法及び衛星異常検出プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、所定数の測位衛星から放送される各信号電波を受信する測位手段と、該測位手段により受信された前記各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第1の擬似距離を計算すると共に、前記各信号電波に含まれる前記各測位衛星の測位信号に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第2の擬似距離を計算し、前記各第1の擬似距離と前記各第2の擬似距離との差分を前記各測位衛星毎に計算して前記各差分に基づく各擬似距離補正値を生成する擬似距離補正値生成手段とを有する地上補強型衛星航法システムに係り、前記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、該測位信号に対応した前記擬似距離補正値に対して、対応する前記測位衛星の前記測位手段に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する擬似距離補正値補正手段と、該擬似距離補正値補正手段で生成された前記各検定統計量を用いて前記各測位衛星の異常の有無を検出する衛星異常検出手段とを備えてなることを特徴としている。
【0013】
この発明の第2の構成は、所定数の測位衛星から放送される各信号電波を受信する測位手段と、該測位手段により受信された前記各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第1の擬似距離を計算すると共に、前記各信号電波に含まれる前記各測位衛星の測位信号に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第2の擬似距離を計算し、前記各第1の擬似距離と前記各第2の擬似距離との差分を前記各測位衛星毎に計算して前記各差分に基づく各擬似距離補正値を生成する擬似距離補正値生成手段とを有する地上補強型衛星航法システムに用いられる衛星異常検出方法に係り、前記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、擬似距離補正値補正手段が、該測位信号に対応した前記擬似距離補正値に対して、対応する前記測位衛星の前記測位手段に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する擬似距離補正値補正処理と、衛星異常検出手段が、前記擬似距離補正値補正手段で生成された前記各検定統計量を用いて前記各測位衛星の異常の有無を検出する衛星異常検出処理とを行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
この発明の構成によれば、各測位衛星の異常の有無を高精度で検出する地上補強型衛星航法システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の一実施形態である地上補強型衛星航法システムの要部の電気的構成及び同システムが用いられる環境を模式的に示すブロック図である。
【図2】図1中の基準局20の動作を説明するフローチャートである。
【図3】擬似距離補正値が正規分布に近付くように補正された状態の例を示す図である。
【図4】擬似距離補正値の補正前及び補正後の状態の例を示す図である。
【図5】擬似距離補正値の補正前及び補正後の検定統計量のヒストグラムの例を示す図である。
【図6】関連する地上補強型衛星航法システムの問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記擬似距離補正値補正手段(擬似距離補正値補正部)は、上記擬似距離補正値を上記電離層傾斜係数で除して上記検定統計量とする構成とされている地上補強型衛星航法システムを実現する。
【0017】
また、上記電離層傾斜係数は、
電離層傾斜係数Fpp(El)
=[1−{Re cosEl/(Re +hI )}2 -1/2
ただし、
El;衛星仰角
e ;地球赤道半径
I ;電離層高度
として定義される。
【0018】
また、上記衛星異常検出手段(インテグリティモニタ)は、上記各検定統計量に基づいて上記擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差を求め、上記平均値及び標準偏差に基づいて、上記測位衛星の異常を判定するための閾値を設定する構成とされている。また、上記衛星異常検出手段(インテグリティモニタ)は、上記平均値及び標準偏差に基づいて、上記測位衛星の異常検出の失敗の確率を見積もる構成とされている。
【実施形態】
【0019】
図1は、この発明の一実施形態である地上補強型衛星航法システムの要部の電気的構成及び同システムが用いられる環境を模式的に示すブロック図である。
この形態の環境では、同図に示すように、GPS衛星10,10,…,10と基準局20とが無線接続されている。この基準局20により、地上補強型衛星航法システムが構成されている。基準局20は、空港などの所定の位置に設置され、GPSアンテナ21と、GPS受信機22と、データ処理装置23とを備えている。GPS受信機22は、GPS衛星10から放送される各信号電波をGPSアンテナ21を介して受信する。
【0020】
データ処理装置23は、GPS受信機22により受信された上記各信号電波に含まれる、GPS衛星10の軌道を示すエフェメリス情報に基づいて、各GPS衛星10毎にGPSアンテナ21との間の第1の擬似距離を計算すると共に、上記各信号電波に含まれるGPS衛星10の測位信号に基づいて、各GPS衛星10毎にGPS受信機22との間の第2の擬似距離を計算し、上記各第1の擬似距離と上記各第2の擬似距離との差分をGPS衛星10毎に計算して各差分に基づく各擬似距離補正値(Pseudo Range Correction 、PRC)を生成する。特に、この実施形態では、データ処理装置23は、擬似距離補正値補正部23aと、インテグリティモニタ23bとを有している。
【0021】
擬似距離補正値補正部23aは、上記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、同測位信号に対応した擬似距離補正値(PRC)に対して、対応するGPS衛星10のGPSアンテナ21に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する。この場合、擬似距離補正値補正部23aは、擬似距離補正値(PRC)を上記電離層傾斜係数で除した値を上記検定統計量とする。上記電離層傾斜係数は、次式(1)で定義される。なお、この電離層傾斜係数は、非特許文献1に記載されている。
電離層傾斜係数Fpp(El)
=[1−{Re cosEl/(Re +hI )}2 -1/2 ・・・(1)
ただし、
El;衛星仰角
e ;地球赤道半径
I ;電離層高度
【0022】
インテグリティモニタ23bは、擬似距離補正値補正部23aで生成された各検定統計量を用いてGPS衛星10の異常の有無を検出する。この場合、インテグリティモニタ23bは、上記各検定統計量に基づいて上記擬似距離補正値(PRC)の正規分布の平均値及び標準偏差を求め、同平均値及び標準偏差に基づいて、GPS衛星10の異常を判定するための閾値を設定する。この場合、閾値は、擬似距離補正値の正規分布のグラフに基づいて、上記平均値及び標準偏差が含まれる領域から外れる値に設定される。また、インテグリティモニタ23bは、上記平均値及び標準偏差に基づいて、GPS衛星10の異常検出の失敗の確率を見積もる。この場合、異常検出の失敗の確率は、擬似距離補正値のサンプル数の総数に対し、上記設定された閾値以上の擬似距離補正値のサンプル数の占める割合を求めることにより算出される。この地上補強型衛星航法システムは、衛星異常検出プログラムに基づいて動作するコンピュータで構成されている。
【0023】
図2は、図1中の基準局20の動作を説明するフローチャート、図3は、擬似距離補正値が正規分布に近付くように補正された状態の例を示す図、図4は、擬似距離補正値の補正前及び補正後の状態の例を示す図、及び図5が、擬似距離補正値の補正前及び補正後の検定統計量のヒストグラムの例を示す図である。
これらの図を参照して、この形態の地上補強型衛星航法システムに用いられる衛星異常検出方法の処理内容について説明する。
この地上補強型衛星航法システムでは、図2に示すように、測位衛星(GPS衛星10)から放送される各信号電波が測位手段(GPSアンテナ21、GPS受信機22)で受信される(ステップA1)。擬似距離補正値生成手段(データ処理装置23)により、測位手段(GPSアンテナ21、GPS受信機22)により受信された各信号電波に含まれるデータが収集及び解析され(ステップA2)、同各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、各測位衛星(GPS衛星10)毎に測位手段(GPSアンテナ21、GPS受信機22)との間の第1の擬似距離が計算され(ステップA3)、また、上記各信号電波に含まれる各測位衛星(GPS衛星10)の測位信号に基づいて、各測位衛星(GPS衛星10)毎に測位手段(GPSアンテナ21、GPS受信機22)との間の第2の擬似距離が計算される(ステップA4)。そして、上記各第1の擬似距離と上記各第2の擬似距離との差分が各測位衛星(GPS衛星10)毎に計算されて各差分に基づく各擬似距離補正値が生成される(ステップA5)。
【0024】
さらに、各測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、擬似距離補正値補正手段(擬似距離補正値補正部23a)により、同測位信号に対応した上記擬似距離補正値に対して、対応する測位衛星(GPS衛星10)の測位手段(GPSアンテナ21、GPS受信機22)に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成される(擬似距離補正値補正処理、ステップA6)。上記擬似距離補正値補正処理では、擬似距離補正値補正手段(擬似距離補正値補正部23a)により、擬似距離補正値を上記電離層傾斜係数で除して検定統計量とされる。電離層傾斜係数は、上記式(1)で定義される。
【0025】
そして、衛星異常検出手段(インテグリティモニタ23b)により、擬似距離補正値補正手段(擬似距離補正値補正部23a)で生成された各検定統計量を用いて各測位衛星(GPS衛星10)の異常の有無が検出される(衛星異常検出処理、ステップA7)。上記衛星異常検出処理では、衛星異常検出手段(インテグリティモニタ23b)により、上記各検定統計量に基づいて擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差が求められ、同平均値及び標準偏差に基づいて、測位衛星(GPS衛星10)の異常を判定するための閾値が設定される。また、衛星異常検出処理では、衛星異常検出手段(インテグリティモニタ23b)により、上記平均値及び標準偏差に基づいて、測位衛星(GPS衛星10)の異常検出の失敗の確率が見積もられる。
【0026】
図3及び図4では、縦軸にサンプル数、及び横軸に擬似距離補正値がとられている。擬似距離補正値補正部23aでは、図3に示すように、擬似距離補正値が正規分布に近付くように補正され、GPS衛星10との距離の観測値が正しい可能性がある確率を求めるための閾値の設定が容易となり、インテグリティモニタ23bによるGPS衛星10の異常検出の精度が高められる。また、擬似距離補正値の補正前の状態でインテグリティモニタ23bによるGPS衛星10の異常検出を行う場合、図4に示すように、擬似距離補正値の補正前の正規分布のグラフ上で閾値を設定することにより、GPS衛星10の異常を検出する領域は、補正前の閾値の左側の部分となる。このとき、実際の擬似距離補正値の分布が補正後の正規分布のグラフとなる場合、領域B内にある擬似距離補正値は、補正後の閾値内にあるため、インテグリティモニタ23bにより正しい結果が得られるが、補正前のグラフでは閾値外となるため、インテグリティモニタ23bがGPS衛星10の異常と見なしてしまい、GPS衛星10の異常検出の失敗となる。このように、インテグリティモニタ23bでは、補正を行った正規分布のグラフを用いることにより、GPS衛星10の異常検出の失敗の確率を正しく見積もることが可能となる。
【0027】
図5(a),(b)では、縦軸にサンプル数、及び横軸に擬似距離補正値(単位;m)がとられている。縦軸のサンプル数の合計は、たとえば数千乃至一万である。擬似距離補正値の補正前の検定統計量のヒストグラムは、図5(a)に示すように、擬似距離補正値の“0”を基準として左右非対称となり、電離層における信号電波の遅延の影響が表れている。また、擬似距離補正値の補正後の検定統計量のヒストグラムは、図5(b)に示すように、擬似距離補正値の“0”を基準として略左右対称となり、電離層における信号電波の遅延の影響を受けていない。このように、インテグリティモニタ23bによるGPS衛星10の異常検出のための擬似距離補正値の閾値が容易に設定され、検出失敗の確率も正しく見積もることが可能になっていることがわかる。
【0028】
以上のように、この実施形態では、各GPS衛星10の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、擬似距離補正値補正部23aにより、同測位信号に対応した擬似距離補正値に対して、対応するGPS衛星10の仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成され、インテグリティモニタ23bにより、各検定統計量に基づいて擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差が求められ、同平均値及び標準偏差に基づいて、GPS衛星10の異常を判定するための閾値が設定されるので、この地上補強型衛星航法システムの継続性が向上する。また、インテグリティモニタ23bにより、上記平均値及び標準偏差に基づいて、GPS衛星10の異常検出の失敗の確率が見積もられるので、この地上補強型衛星航法システムの安全性が向上する。これにより、空港周辺の所定距離内の空域で航空機の進入着陸誘導を高精度で行うことができる。
【0029】
以上、この発明の実施形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成は同実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、この発明に含まれる。
たとえば、測位衛星は、GPS衛星10,10,…,10に限定されず、たとえば、ヨーロッパで計画されている「Galileo」や、日本で計画されている「準天頂衛星」が実用化されたとき、これらを用いても良い。
【0030】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限定されない。
【0031】
(付記1)所定数の測位衛星から放送される各信号電波を受信する測位手段と、該測位手段により受信された前記各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第1の擬似距離を計算すると共に、前記各信号電波に含まれる前記各測位衛星の測位信号に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第2の擬似距離を計算し、前記各第1の擬似距離と前記各第2の擬似距離との差分を前記各測位衛星毎に計算して前記各差分に基づく各擬似距離補正値を生成する擬似距離補正値生成手段とを有する地上補強型衛星航法システムであって、前記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、該測位信号に対応した前記擬似距離補正値に対して、対応する前記測位衛星の前記測位手段に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する擬似距離補正値補正手段と、該擬似距離補正値補正手段で生成された前記各検定統計量を用いて前記各測位衛星の異常の有無を検出する衛星異常検出手段とを備えてなる地上補強型衛星航法システム。
【0032】
(付記2)前記擬似距離補正値補正手段は、前記擬似距離補正値を前記電離層傾斜係数で除して前記検定統計量とする構成とされている付記1記載の地上補強型衛星航法システム。
【0033】
(付記3)前記電離層傾斜係数は、
電離層傾斜係数Fpp(El)
=[1−{Re cosEl/(Re +hI )}2 -1/2
ただし、
El;衛星仰角
e ;地球赤道半径
I ;電離層高度
として定義される付記1又は2記載の地上補強型衛星航法システム。
【0034】
(付記4)前記衛星異常検出手段は、前記各検定統計量に基づいて前記擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差を求め、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常を判定するための閾値を設定する構成とされている付記1、2又は3記載の地上補強型衛星航法システム。
【0035】
(付記5)前記衛星異常検出手段は、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常検出の失敗の確率を見積もる構成とされている付記4記載の地上補強型衛星航法システム。
【0036】
(付記6)所定数の測位衛星から放送される各信号電波を受信する測位手段と、該測位手段により受信された前記各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第1の擬似距離を計算すると共に、前記各信号電波に含まれる前記各測位衛星の測位信号に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第2の擬似距離を計算し、前記各第1の擬似距離と前記各第2の擬似距離との差分を前記各測位衛星毎に計算して前記各差分に基づく各擬似距離補正値を生成する擬似距離補正値生成手段とを有する地上補強型衛星航法システムに用いられる衛星異常検出方法であって、前記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、擬似距離補正値補正手段が、該測位信号に対応した前記擬似距離補正値に対して、対応する前記測位衛星の前記測位手段に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する擬似距離補正値補正処理と、衛星異常検出手段が、前記擬似距離補正値補正手段で生成された前記各検定統計量を用いて前記各測位衛星の異常の有無を検出する衛星異常検出処理とを行う衛星異常検出方法。
【0037】
(付記7)前記擬似距離補正値補正処理では、前記擬似距離補正値補正手段が、前記擬似距離補正値を前記電離層傾斜係数で除して前記検定統計量とする付記6記載の衛星異常検出方法。
【0038】
(付記8)前記電離層傾斜係数を、
電離層傾斜係数Fpp(El)
=[1−{Re cosEl/(Re +hI )}2 -1/2
ただし、
El;衛星仰角
e ;地球赤道半径
I ;電離層高度
として定義する付記6又は7記載の衛星異常検出方法。
【0039】
(付記9)前記衛星異常検出処理では、前記衛星異常検出手段が、前記各検定統計量に基づいて前記擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差を求め、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常を判定するための閾値を設定する付記6、7又は8記載の衛星異常検出方法。
【0040】
(付記10)前記衛星異常検出処理では、前記衛星異常検出手段が、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常検出の失敗の確率を見積もる付記9記載の衛星異常検出方法。
【0041】
(付記11)コンピュータを、付記1乃至5のいずれか一に記載の地上補強型衛星航法システムとして機能させる衛星異常検出プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明は、空港周辺の所定距離内の空域で航空機の進入着陸誘導を行う地上補強型衛星航法システム全般に適用でき、また、船舶等に対する誘導を行うシステムにも適用できる。
【符号の説明】
【0043】
10,10,…,10 GPS衛星(測位衛星)
20 基準局(地上補強型衛星航法システム)
21 GPSアンテナ(測位手段の一部)
22 GPS受信機(測位手段の一部)
23 データ処理装置(擬似距離補正値生成手段)
23a 擬似距離補正値補正部(擬似距離補正値補正手段)
23b インテグリティモニタ(衛星異常検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定数の測位衛星から放送される各信号電波を受信する測位手段と、
該測位手段により受信された前記各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第1の擬似距離を計算すると共に、前記各信号電波に含まれる前記各測位衛星の測位信号に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第2の擬似距離を計算し、前記各第1の擬似距離と前記各第2の擬似距離との差分を前記各測位衛星毎に計算して前記各差分に基づく各擬似距離補正値を生成する擬似距離補正値生成手段とを有する地上補強型衛星航法システムであって、
前記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、該測位信号に対応した前記擬似距離補正値に対して、対応する前記測位衛星の前記測位手段に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する擬似距離補正値補正手段と、
該擬似距離補正値補正手段で生成された前記各検定統計量を用いて前記各測位衛星の異常の有無を検出する衛星異常検出手段とを備えてなることを特徴とする地上補強型衛星航法システム。
【請求項2】
前記擬似距離補正値補正手段は、
前記擬似距離補正値を前記電離層傾斜係数で除して前記検定統計量とする構成とされていることを特徴とする請求項1記載の地上補強型衛星航法システム。
【請求項3】
前記電離層傾斜係数は、
電離層傾斜係数Fpp(El)
=[1−{Re cosEl/(Re +hI )}2 -1/2
ただし、
El;衛星仰角
e ;地球赤道半径
I ;電離層高度
として定義されることを特徴とする請求項1又は2記載の地上補強型衛星航法システム。
【請求項4】
前記衛星異常検出手段は、
前記各検定統計量に基づいて前記擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差を求め、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常を判定するための閾値を設定する構成とされていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の地上補強型衛星航法システム。
【請求項5】
前記衛星異常検出手段は、
前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常検出の失敗の確率を見積もる構成とされていることを特徴とする請求項4記載の地上補強型衛星航法システム。
【請求項6】
所定数の測位衛星から放送される各信号電波を受信する測位手段と、
該測位手段により受信された前記各信号電波に含まれるエフェメリス情報に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第1の擬似距離を計算すると共に、前記各信号電波に含まれる前記各測位衛星の測位信号に基づいて、前記各測位衛星毎に前記測位手段との間の第2の擬似距離を計算し、前記各第1の擬似距離と前記各第2の擬似距離との差分を前記各測位衛星毎に計算して前記各差分に基づく各擬似距離補正値を生成する擬似距離補正値生成手段とを有する地上補強型衛星航法システムに用いられる衛星異常検出方法であって、
前記各信号電波の測位信号のうちで、傾斜した電離層を越えて伝搬する測位信号があるとき、擬似距離補正値補正手段が、該測位信号に対応した前記擬似距離補正値に対して、対応する前記測位衛星の前記測位手段に対する仰角の関数で表される電離層傾斜係数を用いて正規分布に近付くように補正して各検定統計量として生成する擬似距離補正値補正処理と、
衛星異常検出手段が、前記擬似距離補正値補正手段で生成された前記各検定統計量を用いて前記各測位衛星の異常の有無を検出する衛星異常検出処理とを行うことを特徴とする衛星異常検出方法。
【請求項7】
前記擬似距離補正値補正処理では、
前記擬似距離補正値補正手段が、前記擬似距離補正値を前記電離層傾斜係数で除して前記検定統計量とすることを特徴とする請求項6記載の衛星異常検出方法。
【請求項8】
前記電離層傾斜係数を、
電離層傾斜係数Fpp(El)
=[1−{Re cosEl/(Re +hI )}2 -1/2
ただし、
El;衛星仰角
e ;地球赤道半径
I ;電離層高度
として定義することを特徴とする請求項6又は7記載の衛星異常検出方法。
【請求項9】
前記衛星異常検出処理では、
前記衛星異常検出手段が、前記各検定統計量に基づいて前記擬似距離補正値の正規分布の平均値及び標準偏差を求め、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常を判定するための閾値を設定することを特徴とする請求項6、7又は8記載の衛星異常検出方法。
【請求項10】
前記衛星異常検出処理では、
前記衛星異常検出手段が、前記平均値及び標準偏差に基づいて、前記測位衛星の異常検出の失敗の確率を見積もることを特徴とする請求項9記載の衛星異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−242296(P2011−242296A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115623(P2010−115623)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】