説明

地上走行式掘削機の走行安定化機構

【課題】ニューマチックケーソン工法を用いて掘削作業を行う際に、地上走行式掘削機の転倒を防止するとともに走行不能状態から復旧させる。
【解決手段】ケーソン作業室10の天井にレール120を固定し、このレール120にプレーントロリ130を設置する。また、地上走行式掘削機110には、伸縮管150を設置する。そして、プレーントロリ130と伸縮管150とを、転倒防止チェーン140で繋ぐ。さらに、地上走行式掘削機110にウインチ170を設置し、プレーントロリ130に繋がれた復旧ワイヤ160を巻き取れるようにする。地上走行式掘削機110が大きく傾斜したときは、転倒防止チェーン140及び伸縮管150の引っ張り力で転倒を防止できる。地上走行式掘削機110が大きく傾く等して走行不能になったときは、ウインチ170で復旧ワイヤ160を巻き取ることで地上走行式掘削機110を上方向に引っ張り、穴から脱出し易くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソン工法等を用いて掘削作業を行う際に、地上走行式掘削機が、転倒したり、ケーブル切断のために走行不能になったりすることを、防止する技術に関する。さらには、本発明は、かかる地上走行式掘削機の走行装置が大きく傾く等して走行不能状態となった際に、復旧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橋脚基礎構造や、立坑、地下構造物等を水底地盤中に構築する際の工法として、例えばニューマチックケーソン工法(潜函工法とも称される)が知られている。ニューマチックケーソン工法では、筒状のケーソン本体の底部分に、ケーソン作業室が設けられる。ケーソン作業室は、側面を刃口部で覆われ、且つ、上面を天井スラブ(すなわち、ケーソン本体の底部に貼られたコンクリート板)で覆われる。そして、ケーソン作業室内の気圧を圧縮空気で調整することで水位を調節しながら、水底地盤を掘削していくことにより、ケーソン本体を徐々に地中深くまで沈下させていく。ニューマチックケーソン工法は、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【0003】
上述のように、ニューマチックケーソン工法では、ケーソン作業室内の気圧を調整することによって、水位が調整される。このため、ケーソン本体を深く沈下させていくほど、ケーソン作業室内の気圧を高くしていく必要がある。この結果、ケーソン本体を非常に深くまで沈下させた場合、ケーソン作業室内の気圧が非常に高くなることから、長時間の掘削作業によって作業員が潜函病等を煩うおそれがある。したがって、気圧が所定値よりも高い場合は、通常、ケーソン作業室内を無人状態にし、地上から掘削機を遠隔操作することによって掘削作業を行う。
【0004】
遠隔操作で掘削作業を行う場合、掘削機として、天井走行式のものを使用する場合が多い。天井走行式掘削機は、天井スラブに敷設されたレールに案内されてケーソン作業室内を移動しつつ、水中地盤を掘削する。天井走行式掘削機は、例えば下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−098823号公報
【特許文献2】特開2007−205128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天井走行式掘削機には、該掘削機が水中地盤の穴や段差のために転倒等して走行不能になるおそれが無いという利点がある。その反面、天井走行式掘削機は、非常に高価であるとともに、ニューマチックケーソン工法等の限られた工法でしか使用できないという欠点がある。また、天井走行式掘削機はサイズが大きいため、ケーソン本体の径が小さい場合(したがって、ケーソン作業室の掘削作業面積が小さい場合)には、使用できないという欠点もある。
【0007】
これに対して、遠隔操作の地上走行式掘削機を使用すれば、汎用の掘削機を流用することができ、小型の汎用機も既に存在することから、ケーソン本体の径の大小に拘わらず、非常に安価に掘削作業を行うことができる。しかしながら、ケーソン作業室内で遠隔操作型の地上走行式掘削機を使用する場合、以下のような欠点が生じる。
【0008】
地上走行式掘削機を使用する場合、該掘削機が段差に乗り上げてしまって転倒するおそれや、大きく傾く等して走行不能になるおそれがある。走行不能に陥った場合、作業員がケーソン作業室内に入って、復旧作業を行う必要がある。
【0009】
また、掘削機を遠隔操作するためには、かかる掘削機と地上の遠隔操作システムとを、制御ケーブルで接続する必要がある。また、ケーソン作業室内では電動式掘削機を使用するため(エンジン駆動式を使用するとケーソン作業室内に排気ガスが充満するため)、かかる掘削機と地上の電源とを電源ケーブルで接続する必要もある。しかしながら、地上走行式掘削機を使用する場合、これらケーブルは水中地盤上を引きずることになるため、ケーブルの切断事故が発生しやすい。ケーブルが切断された場合、作業員がケーソン作業室内に入って、ケーブルの交換等を行う必要がある。
【0010】
このように、地上走行式掘削機を使用する場合には、作業員が作業室内に入らなければならないことが多くなり、このため、作業員が潜函病等を煩う危険性が高くなる。
【0011】
本発明の課題は、地上走行式掘削機が転倒やケーブル切断して走行不能になることを防止することができ、さらには、地上走行式掘削機が大きく傾く等して走行不能状態となった際に無人で復旧することができる、地上走行式掘削機の走行安定化機構を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、作業室内で掘削作業を行う地上走行式掘削機の走行安定化機構であって、前記作業室の天井に固定されたレールと、該レールに案内されて移動するプレーントロリと、一端側が前記地上走行式掘削機に接続され且つ他端側が前記プレーントロリに接続された転倒防止用索状部材とを有する転倒防止機構を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記地上走行式掘削機に、上方向への引っ張り力に応じて伸延する伸縮部材が固定され、且つ、該伸縮部材の上端部に、前記転倒防止用索状部材の前記他端側が接続されたことを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加えて、前記伸縮部材が、外筒部と、該外筒部の内側に設けられ、該外筒部から露出する方向に相対移動することによって該伸縮部材を延伸させる内筒部と、該伸縮部材の延伸に対して応力を発生させるバネ機構とを備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の構成に加えて、一端側が前記地上走行式掘削機に接続され且つ他端側が前記プレーントロリに接続された復旧用索状部材と、該復旧用索状部材を巻き取ることにより、前記地上走行式掘削機に引っ張り力を加えるウインチとを有する復旧機構をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の構成に加えて、複数の前記地上走行式掘削機に対応する複数の前記プレーントロリが1本の前記レールに配設され、且つ、該複数のプレーントロリの移動範囲を個別に制限することによって該地上走行式掘削機の走行範囲をそれぞれ制限するための、1又は複数のストッパが、該レールに設けられたことを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れかに記載の構成に加えて、前記作業室の室外の装置と前記地上走行式掘削機とを接続するケーブルと、前記レールに案内されて移動し、該ケーブルを所定間隔で保持して吊り下げるための複数のケーブルリールとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、プレーントロリと地上走行式掘削機とを転倒防止用索状部材で接続することとしたので、該地上走行式掘削機の転倒を防止することができる。また、作業室の天井にレールを固定し、このレールによって該プレーントロリを案内する構造としたので、転倒防止用索状部材が地上走行式掘削機の移動を妨げることはない。
【0019】
請求項2の発明によれば、上方向への引っ張り力に応じて伸延する伸縮部材を該地上走行式掘削機に固定し、該伸縮部材の上端部に転倒防止用索状部材を接続することとしたので、該地上走行式掘削機が転倒するおそれはさらに低くなる。
【0020】
請求項3の発明によれば、伸縮部材を外筒部、内筒部及びバネ機構を用いて構成したので、地上走行式掘削機の上方向への引っ張り力に応じて伸延する伸縮部材を、簡単な構成で安価に得ることができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、地上走行式掘削機とプレーントロリとを復旧用索状部材で接続するとともに、該復旧用索状部材を巻き取るウインチを設けたので、復旧時に該地上走行式掘削機を引き上げる方向に力を加えることができ、したがって、復旧作業が容易になる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、レールにストッパを設けることで複数のプレーントロリの移動範囲を個別に制限し、これによって地上走行式掘削機の走行範囲をそれぞれ制限することができる。したがって、複数の地上走行式掘削機を同時に遠隔操作する際の、操作が容易になる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、地上走行式掘削機に接続されたケーブルを、ケーブルリールで吊り下げ、該ケーブルリールがレールに案内されて移動するようにしたため、該ケーブルの断線を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施の形態に係る走行安定化機構を備えた地上走行式掘削機の全体構成を概略的に示す側面図である。
【図2】図1に示したレール及びプレーントロリの構成を概略的に示す正面図である。
【図3】図1に示したレールの構成を概略的に示す平面図である。
【図4】(a)、(b)ともに、図1に示した伸縮部材の構成を概略的に示す側面図である。
【図5】図1に示した走行安定化機構に係るケーブルリールの構成を示す概念図である。
【図6】図1に示した走行安定化機構の原理を説明するための概念図である。
【図7】図1に示した走行安定化機構の原理を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る走行安定化機構100を備えた地上走行式掘削機110の全体構成を概略的に示す側面図である。
【0027】
図1に示したように、本実施形態に係る走行安定化機構100は、レール120、プレーントロリ130、転倒防止チェーン140及び伸縮管150を有する転倒防止機構と、復旧ワイヤ160及びウインチ170を有する復旧機構と、ケーブル180とを備えている。
【0028】
レール120としては、例えばI型綱を使用することができる。図2の正面図に拡大して示したように、レール120は固定金具211に固定されており、さらに、この固定金具211はアンカーボルト212を用いてケーソン作業室10の天井スラブ201に固定されている。また、図3の概念的平面図に示したように、本実施形態では、このレール120をリング状に構成する。そして、レール120の所定位置には、ストッパ301,302,303,304が取り付けられている。これらストッパ301〜304により、プレーントロリ130の走行範囲を制限することができる。例えば、1本のレール120に二台のプレーントロリ130を設置して二台の地上走行式掘削機110を同時に使用する場合、図3にA,Bで示した範囲に、対応するプレーントロリ130の移動範囲を制限できる。このようにして移動可能範囲を制限することにより、各地上走行式掘削機110の遠隔操作が容易になる。
【0029】
プレーントロリ130は、4個の車輪132(図2では2個のみ示されている)を備える。車輪132は、I型レール120の左右両側に2個ずつ配置され、それぞれ本体部131に回転自在に支持されている。これらの車輪132により、プレーントロリ130は、レール120に案内されて、天井スラブ201上を移動することができる。チェーン取り付け金具133には、転倒防止チェーン140が取り付けられる。また、ワイヤ取り付け金具134には、復旧ワイヤ160が取り付けられる。プレーントロリ130は、自走機構(電動モータ等)を備えていない。このため、プレーントロリ130は、地上走行式掘削機110の移動に伴って転倒防止チェーン140に引っ張られることで、移動する。車輪132は、ストッパ301〜304を越えて移動することはできない。したがって、プレーントロリ130は、例えばストッパ301,302の間又はストッパ303,304の間のみを、移動することができる。
【0030】
転倒防止チェーン140は、一端側が地上走行式掘削機110(本実施形態では伸縮管150の上端部分)に接続され且つ他端側がプレーントロリ130に接続されている。後述するように、この転倒防止チェーン140は、地上走行式掘削機110の転倒を防止するために使用される。なお、転倒防止チェーン140に代えて、例えばワイヤやロープ等、他の種類の索状部材を使用することも可能である。地上走行式掘削機110の重量に耐え得る強度を有するものであれば、転倒防止用の索状部材として使用できる。
【0031】
伸縮管150は、地上走行式掘削機110上に設置される。この伸縮管150は、地上走行式掘削機110の上方向への引っ張り力に応じて、伸延する。本実施形態の伸縮管150は、延伸長さに応じてバネ定数が増大するように構成される。伸縮管150の詳細構造については、後述する。
【0032】
復旧ワイヤ160は、一端側が地上走行式掘削機110に接続され且つ他端側がプレーントロリ130に接続されている。本実施形態では、復旧ワイヤ160の一端側は、ウインチ170に接続される。後述するように、この復旧ワイヤ160は、地上走行式掘削機110が走行不能になったときの復旧に使用される。なお、復旧ワイヤ160に代えて、例えばチェーンやロープ等、他の種類の索状部材を使用することも可能である。地上走行式掘削機110の重量に耐え得る強度を有するものであれば、復旧用の索状部材として使用できる。
【0033】
ウインチ170は、復旧ワイヤ160を巻き取るために使用される。この巻き取り動作により、地上走行式掘削機110を持ち上げる方向に引っ張り力を加えることができる。本実施形態では、ウインチ170を伸縮管150に固定してるが、他の場所でも良い。本実施形態では、ウインチ170の駆動力は、地上走行式掘削機110が水中地盤に与える荷重を減らせる程度或いは地上走行式掘削機110の一方の走行装置を浮き上がらせる程度でもよい。
【0034】
ケーブル180は、地上の遠隔操作システムや電源を地上走行式掘削機110に電気接続するために使用される。後述するように、本実施形態では、ケーブル180が水中地盤に接触しないようにすることで、該ケーブル180の切断事故を防止する。
【0035】
次に、伸縮管150の詳細構造について、図4を用いて説明する。
【0036】
図4(a)は、伸縮管150の内部構造を示す概念的側面図である。図4(a)に示したように、伸縮管150は、外筒部151と、内筒部152と、バネ機構153とを備えている。内筒部152は、外筒部151の内側に配置されている。そして、外筒部151から露出する方向に内筒部152を相対移動させることによって、伸縮管150を延伸させることができる。また、内筒部152の上端部分には、転倒防止チェーン140が取り付けられる。
【0037】
バネ機構153は、このような伸縮管150の延伸に対して、応力を発生させる。バネ機構153は、心棒401と、スプリング402a,402b,403と、留め板404,405と、位置決め板406,407とを備えている。心棒401は、外筒部151の底板151aに固定されている。スプリング402a,402bとスプリング403とは、バネ定数が異なっている。図4(a)の例では、2個のスプリング402a,402bと、これらスプリング402a,402bよりもバネ定数が大きい1個のスプリング403とを、使用している。これらのスプリング402a,402b,403は、心棒401を貫通させて、それぞれ直列に配置される。各スプリング402a,402b,403は、留め板404,405及び位置決め板406,407に挟まれた状態で、それぞれ配置される。留め板404は、心棒401の上端付近に固定される。一方、留め板405は、内筒部152の底部に固定される。また、位置決め板406,407は、スプリング402a,402b,403の間に上下動自在に配置される。位置決め板406,407により、内筒部152の内壁面とスプリング402a,402b,403との距離を略均一に保つことができる。
【0038】
図4(b)は、伸縮管150を延伸させた状態を示している。図4(b)に示したように、転倒防止チェーン140に引っ張られて内筒部152が上昇すると、これに伴って、下側の留め板405も上昇する。これに対して、上側の留め板404は、心棒401に固定されているため、上昇しない。また、位置決め板406,407は、上述のように上下動自在である。したがって、内筒部152が上昇したとき、留め板404,405の間隔が狭まり、その結果、スプリング402a,402b,403が圧縮される。これによって、バネ機構153に、応力が発生する。
【0039】
上述したように、スプリング402a,402bのバネ定数は、スプリング403のバネ定数よりも小さい。このため、伸縮管150の延伸長さが小さいときはスプリング402a,402bの圧縮が支配的となり、スプリング402a,402bがある程度圧縮されるとスプリング403も圧縮されるようになる。したがって、延伸管150全体としてのバネ定数も、伸縮管150の延伸長さが小さいときはスプリング402a,402bのバネ定数に近い値になり、伸縮管150がある程度延伸するとこれよりも大きい値になる。このようにして、本実施形態の伸縮管150は、延伸長さに応じてバネ定数が増大する。この結果、正常な移動や掘削作業の最中(すなわち、伸縮管150の延伸長さが小さいとき)は、バネ定数が小さいために該移動等を妨げられることが無く、その一方で、地上走行式掘削機110が傾斜等したとき(すなわち、伸縮管150の延伸長さが大きくなったとき)には、バネ定数も大きくなるために該地上走行式掘削機110の転倒等を有効に防止することができる(後述)。
【0040】
図5は、本実施形態で使用するケーブルリールを示す概念図である。
【0041】
図5に示したように、本実施形態では、レール120に、複数のケーブルリール501を設置する。そして、これらのケーブルリール501に、ケーブル180を、任意の間隔で保持させる。すなわち、ケーブル180は、ケーブルリール501を介して、レール120に吊り下げられた状態になる。ケーブル180の保持間隔は、該ケーブル180が水中地盤に接触しないように、決定される。これらケーブルリール501は、レール120に案内されて、移動することができる。これにより、ケーブル180が水中地盤面で引きずられて切断されたり絡まったりするといった、不都合を回避できる。
【0042】
次に、本実施形態に係る転倒防止機構及び復旧機構の動作について説明する。図6は、本実施形態に係る転倒防止機構の動作を説明するための概念図である。また、図7は、本実施形態に係る普及機構の動作を説明するための概念図である。
【0043】
地上走行式掘削機110が水中地盤上に正常状態(すなわち、実質的に傾斜していない状態)にあるとき、転倒防止チェーン140及び復旧ワイヤ160は、レール120と地上走行式掘削機110との距離に比較して十分に長く、弛んだ状態となる(図1参照)。このため、地上走行式掘削機110が、転倒防止チェーン140や復旧ワイヤ160によって引っ張られることはなく、したがって、これら転倒防止チェーン140等が掘削作業の障害になることはない。
【0044】
また、地上走行式掘削機110が正常に移動するとき、転倒防止チェーン140に引っ張られて、プレーントロリ130がレール120上を移動する。このため、地上走行式掘削機110は、所定の移動範囲内で自由に移動することができる。
【0045】
さらには、掘削作業時や走行時等に、地上走行式掘削機110がわずかに傾く等したために転倒防止チェーン140に引っ張り力が生じて、伸縮管150がわずかに延伸したとしても、このときの伸縮管150の応力は小さいので(上述)、掘削作業等の妨げになることはない。
【0046】
これに対して、例えば、水中地盤601の傾斜等のために地上走行式掘削機110が大きく傾いた場合(図6参照)、転倒防止チェーン140が伸縮管150を強く引っ張ることになり、したがって、この伸縮管150は大きく延伸する。この場合、上述したような理由から、伸縮管150の応力は非常に大きくなる。これにより、地上走行式掘削機110の転倒を有効に防止することができる。
【0047】
また、例えば、一方の走行装置111が水中地盤701の穴702内に入り込んでしまった場合等には、地上走行式掘削機110が走行不能状態に陥る場合がある(図7参照)。このような場合、地上の操作者は、ウインチ170を遠隔操作することによって復旧ワイヤ160を巻き取る。これにより、復旧ワイヤ160が、地上走行式掘削機110に引っ張り力を与える。この際、ウインチ170は、地上走行式掘削機110を完全に釣り上げる必要は無く、水中地盤に与える荷重を減らせる程度或いは地上走行式掘削機110の一方の走行装置を浮き上がらせる程度でもよい。これにより、他方の走行装置112を駆動させたときに、走行装置111を穴702から脱出させ易くなる。
【0048】
また、地上走行式掘削機110が走行できないほど傾斜した場合にも、ウインチ170で復旧ワイヤ160を巻き取ることで該地上走行式掘削機110を起こし、正常な状態となる場所に移動させることが可能である。
【0049】
さらには、地上走行式掘削機110が完全に転倒してしまった場合にも、ウインチ170で復旧ワイヤ160を巻き取ることで該地上走行式掘削機110を起こすことができる場合がある。
【0050】
一方、走行装置111を穴702から脱出させることができず、作業員がケーソン作業室10内に入って復旧作業を行う場合でも、復旧ワイヤ160とウインチ170とを用いて地上走行式掘削機110を引っ張ることにより、作業員の作業時間や負担を軽減して、潜函病等のおそれを低減できる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、プレーントロリ130と地上走行式掘削機110とを転倒防止チェーン140で接続することとしたので、地上走行式掘削機110の転倒を防止することができる。また、ケーソン作業室10の天井にレール120を固定し、このレールによってプレーントロリ130を案内する構造としたので、転倒防止チェーン140によって地上走行式掘削機の移動が妨げられることがない。
【0052】
本実施形態によれば、伸縮管150を地上走行式掘削機110に搭載して、該伸縮管150の上端部分に転倒防止チェーン140を繋ぐこととしたので、地上走行式掘削機110が転倒するおそれを、さらに低くすることができる。
【0053】
本実施形態によれば、伸縮管150を、外筒部151、内筒部152及びバネ機構153を用いて構成した。これにより、伸縮管150を、簡単な構成で安価に構成できる。
【0054】
本実施形態によれば、伸縮管150の延伸長さに応じてバネ定数が増大するので、正常な掘削作業や移動を妨げることが無く、且つ、地上走行式掘削機110が傾斜等したときには転倒を有効に防止できる。
【0055】
本実施形態によれば、地上走行式掘削機110とプレーントロリ130とを復旧ワイヤ160で接続するとともに、この復旧ワイヤ160をウインチ170で巻き取ることができるので、復旧時に、地上走行式掘削機110を引っ張り上げる方向に力を加えて復旧作業を容易にすることができる。ウインチ170はプレーントロリ130側に取り付ける場合もある。
本実施形態によれば、プレーントロリにプレーントロリの自走装置を取り付けて遠隔操作する場合は、地上走行式掘削機110の走行装置に頼ることなしに地上走行式掘削機110の水平移動ができる。
【0056】
本実施形態によれば、レール120にストッパ301〜304を設けることで各プレーントロリ130の移動範囲を個別に制限し、これによって地上走行式掘削機110の走行範囲をそれぞれ制限することができる。したがって、複数の地上走行式掘削機110を同時に遠隔操作する際の、操作が容易になる。
【0057】
加えて、本実施形態によれば、地上走行式掘削機110に接続されたケーブル180を、ケーブルリール501で吊り下げ、これらのケーブルリール501がレール120に案内されて移動するようにしたため、ケーブル180の断線や絡まりを防止することができる。
【0058】
以上、本実施形態では、ニューマチックケーソン工法を用いた掘削作業を例に採って説明したが、本発明は他の工法にも適用することができる。
【0059】
また、本実施形態では、バネ機構153において、3個のスプリング402a,402b,403を使用し、且つ、バネ定数を二種類としたが(図4参照)、スプリングの個数やバネ定数の種類は任意に決定できる。
【0060】
さらに、本実施形態では、4個のストッパ301〜304を使用して、プレーントロリ130の移動範囲を二種類設定したが、一種類或いは三種類以上でも良い。
【0061】
本実施形態では、転倒防止チェーン140と伸縮管150とを用いて地上走行式掘削機110の転倒を防止することとしたが、索状部材を用いる方法や、上方向に伸縮する伸縮部材と索状部材とを組み合わせる方法であれば、他の構造を採用することも可能である。
【0062】
本実施形態では、レール120をリング状に構成したが、例えば直線状等、他の構造としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、地上走行式掘削機を使用することができる分野、すなわち土木建築分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 ケーソン作業室
100 走行安定化機構
110 地上走行式掘削機
120 レール
130 プレーントロリ
131 本体部
132 車輪
133 チェーン取り付け金具
134 ワイヤ取り付け金具
140 転倒防止チェーン
150 伸縮管
160 復旧ワイヤ
170 ウインチ
180 ケーブル
201 天井スラブ
211 固定金具
212 アンカーボルト
301,302,303,304 ストッパ
401 心棒
402a,402b,403 スプリング
404,405 留め板
406,407 位置決め板
501 ケーブルリール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業室内で掘削作業を行う、地上走行式掘削機の走行安定化機構であって、
前記作業室の天井に固定されたレールと、
該レールに案内されて移動するプレーントロリと、
一端側が前記地上走行式掘削機に接続され且つ他端側が前記プレーントロリに接続された転倒防止用索状部材と、
を有する転倒防止機構を備えることを特徴とする地上走行式掘削機の走行安定化機構。
【請求項2】
前記地上走行式掘削機に、該地上走行式掘削機の上方向への引っ張り力に応じて伸延する伸縮部材が固定され、且つ、
該伸縮部材の上端部に、前記転倒防止用索状部材の前記他端側が接続された、
ことを特徴とする請求項1に記載の地上走行式掘削機の走行安定化機構。
【請求項3】
前記伸縮部材が、
外筒部と、
該外筒部の内側に設けられ、該外筒部から露出する方向に相対移動することによって該伸縮部材を延伸させる内筒部と、
該伸縮部材の延伸に対して応力を発生させるバネ機構と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の地上走行式掘削機の走行安定化機構。
【請求項4】
一端側が前記地上走行式掘削機に接続され且つ他端側が前記プレーントロリに接続された復旧用索状部材と、
該復旧用索状部材を巻き取ることにより、前記地上走行式掘削機に引っ張り力を加えるウインチと、
を有する復旧機構をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地上走行式掘削機の走行安定化機構。
【請求項5】
複数の前記地上走行式掘削機に対応する複数の前記プレーントロリが1本の前記レールに配設され、且つ、
該複数のプレーントロリの移動範囲を個別に制限することによって該地上走行式掘削機の走行範囲をそれぞれ制限するための、1又は複数のストッパが、該レールに設けられた、
ことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の地上走行式掘削機の走行安定化機構。
【請求項6】
前記作業室の室外の装置と前記地上走行式掘削機とを接続するケーブルと、
前記レールに案内されて移動し、該ケーブルを所定間隔で保持して吊り下げるための複数のケーブルリールと、
を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の地上走行式掘削機の走行安定化機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−21281(P2012−21281A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158176(P2010−158176)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000207780)大豊建設株式会社 (77)
【Fターム(参考)】