説明

地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法。

【課題】
崩壊地・地すべり地が活動中に監視を行なう場合、人が現地に立ち入り観測点などを設置する必要があり、崩壊や落石での危険性が高かった。また、デジタルカメラ計測では実測距離を測定していないため誤差が大きく、解析に時間が必要であった。さらに、レーザー測量で対象斜面全体を観測・解析するのは長時間必要で、警報などの発令が難しかった。
【解決手段】
崩壊地・地すべり地内の転石や崩壊面などターゲットとして利用することで、人工的にターゲットを設置しない変動の監視を行なうため、作業の安全を確保することが出来、観測対象毎に観測対象スキャン範囲をそれぞれ設定することで短時間に多数点を自動的に監視できるようになった。さらに、観測対象物の変位を特定に観測地とすることで、解析データ量が減少したため、リアルタイムでの警報発信や解析が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法に関するもので、崩壊地・地すべり、さらには、落石、土石流発生等が発生し、或いは、発生する斜面において、観測対象となる危険な斜面への立ち入りしないで、危険性のある斜面の監視を安全に、且つ、リアルタイムで監視する斜面の監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の斜面の監視方法は、崩壊地・地すべり地などに発生した亀裂に伸縮計(非特許文献1)などの変動観測器を設置し監視をする、あるいは、GPS測量(非特許文献2)、測距儀(3Dレーザースキャナー、トータルステーション等)(特許文献1)やカメラ測量等で動態観測や監視を行っていた。これらの方法は、いずれの場合も危険な斜面内に立ち入っての観測点や機器の設置が必要であった。特に、崩壊・地すべり地などの発生直後は、その後の活動状況が不明であり、非常に危険な状態での機器設置・観測作業となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4256890号の公報(発明の名称:地盤変状監視方法)
【非特許文献1】地すべり観測便覧 社団法人地すべり対策技術協会 平成8年10月 P111〜119
【非特許文献2】地すべり観測便覧 社団法人地すべり対策技術協会 平成8年10月 P440〜456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
崩壊地・地すべり地での監視を行なう場合、崩壊地や地すべりが活動中や災害直後において、崩壊地・地すべり地内に監視点や観測点を設けるには、人が現地に立ち入り観測点などを設置する必要があったため、設置時に崩壊や落石の危険性が高かった。
また、観測点自体が落石などで破損することもあった。
【0005】
斜面の変動を観測する場合、デジタルカメラ計測での多数の監視は可能であるが、実測距離ではないため精度の誤差が大きく、解析に時間が必要であった。また、レーザー測量でも特定点(設置ターゲット)を設定して、観測は出来ているが、設置ターゲット無しで、多数点を自動的に観測し、解析できるシステムはなかった。
【0006】
従来レーザースキャナーで斜面全体をスキャンし、その後再度同様にスキャンしていたためデータ量が多量になり、データ転送に長時間を要し、斜面の変動を解析が遅れるため、迅速に斜面の危険判断を行うことが出来なかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記従来発明の課題を解決し、且つ発明の目的を達成するために提供するものである。
【0008】
本発明の第1は、地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法において、地上3Dレーザースキャナーを用いることによって、観測対象斜面の崩壊地や地すべり等の危険性の高い斜面の移動を観測する場合でも、観測対象斜面内に観測点を設置することなく崖面や崩壊地、地すべり地内の転石などの観測対象物を利用して、観測対象斜面の活動を観測できるようにしたものである。
すなわち、崩壊地・地すべり等の崩壊の危険性の高い斜面での移動を観測する場合、人工的なターゲットを崩壊地・地すべり地内に設置する必要があったが、崩壊地・地すべり地内の転石や崩壊面などターゲットとして利用することで、人工的にターゲットを設置せず、斜面の変動の監視を行なえるよう観測対象物を設定した。
【0009】
本発明の第2は、地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法において、観測対象斜面となる崩壊地や地すべり地内の観測対象物を地上3Dレーザースキャナーで測定した全観測スキャニング範囲内から多数点を選定し、その後時間をおいて選定した観測対象物を再度地上3Dレーザースキャナーでスキャニングし、そのレーザー波の観測変動量にから観測対象斜面の動態を監視するようにしたものである。
すなわち、観測対象毎に観測対象スキャン範囲をそれぞれ設定することで、斜面全体を観測する必要をなくし、また、観測対象を崩壊地内の転石や崩壊面にすることで、観測対象スキャン範囲でのレーザー反射の最も速いものだけを対象に解析し、さらに、多数点を自動的に監視するようにしたものである。
【0010】
本発明の第3は、地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法において、地上3Dレーザースキャナーを観測制御プログラムによって自動および半自動測定を行なわせることで、観測対象物の変動をリアルタイムで観測し、警報器により崩壊地・地すべり地に警戒を発信できる。また、観測対象物をリアルタイムで観測した結果をグラフ化や数値表を作成することにより、監視局で監視対象斜面の動態をリアルタイムで監視できるようにしたものである。
すなわち、観測対象を崩壊地内の転石や崩壊面などに限定し、観測対象スキャン範囲でだけを連続的に監視し、定期的な自動測定によるデータを観測局や監視局へ転送するデータ量が減少させた。また、解析をするデータを最速反射データに絞ることで、各観測対象の変動をリアルタイムで時系列変動グラフ化や数値表を作成し、迅速に斜面の危険判断を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
従来は、崩壊や地すべり発生直後の危険な現地への立ち入りは、再崩落等の危険性が非常に高いため、十分な注意や監視などを行い作業する必要があった。しかし、崩壊地・地すべり地に観測用のターゲットを設置することなく、崩壊地・地すべり地に点在する転石や崩壊面を利用し、地上3Dレーザースキャナーを安全な対岸部に設置・観測することで、崩壊地・地すべり地の崩壊斜面内に立ち入らずに安全を確保した上で監視・観測することが可能となった。
【0012】
観測対象毎に観測対象スキャン範囲をそれぞれの範囲で設定することで、観測に長時間を要しなくなった。また、観測対象を観測対象スキャン範囲でのレーザー反射の最も速いものだけを対象に解析することで、さらに解析時間が短縮され、観測対象物を多数点監視することが可能となった。
【0013】
観測対象を崩壊地内の転石や崩壊面などに限定したことで、観測対象スキャン範囲でだけを連続的に監視するだけでよいため、定期的な自動測定によるデータを観測局や監視局へ転送するデータ量が減少した。さらに、解析をするデータを最速反射データだけに限定することで解析時間が短縮されるため、各観測対象の変動をリアルタイムで時系列変動グラフ化や数値表を作成する時間ができ、迅速に斜面の危険判断を行うことが可能となった。
【実施例】
【0014】
図1において、大雨などにより崩壊や地すべりが発生した場合は、観測局10で監視対象斜面13が安全に見渡せる地点に設置し、さらに、地上3Dレーザースキャナー1をセットする。監視対象斜面13の崩壊地・地すべり地外の周辺の安全な場所で地上3Dレーザースキャナー1が観測できる範囲内に基準ターゲット2を3点程度設置し、これを不動の基準点とする。
【0015】
次に、観測局10には必要に応じ、観測ユニット(電源装置、データ発信装置、観測制御装置)11などを設置する。
【0016】
セット完了後、地上3Dレーザースキャナー1を用いて、全観測スキャン範囲3内を測定する。全観測スキャン範囲3の計測後、測定結果を距離、水平角、垂直角などにデータ化し、必要に応じ3D画像などして表現する。
【0017】
崩壊地・地すべり等の崩壊の危険性の高い斜面での移動を観測する場合、人工的なターゲットを崩壊地・地すべり地内に設置する必要があったが、崩壊地・地すべり地内の転石や崩壊面などターゲットとして利用することで、人工的にターゲットを設置せず、斜面の変動の監視を行なえるよう観測対象物を仮選定する。
【0018】
仮選定完了後、地上3Dレーザースキャナー1を用いて、全観測スキャン範囲3内を測定する。全観測スキャン範囲3の計測後、測定結果を距離、水平角、垂直角などにデータ化し、必要に応じ3D画像などして表現する。
【0019】
図2において、4は観測対象物であり、監視対象斜面13内に点在する転石や崩壊面になる。5は観測対象スキャン範囲であり、観測対象斜面13の変動観測を繰り返して行う場合の観測範囲となる。観測対象物4は、全観測スキャン範囲3の中から数個から数十個を選定し、観測対象斜面13の変動を解析する。なお、全観測スキャン範囲3の任意点を座標の原点とし基準点の座標を決定し、観測対象物4となる転石や崩壊面などのポイントを座標から特定し、その観測対象物4を包括するように観測対象スキャン範囲5の座標を選定する。
【0020】
図3において、観測対象スキャン範囲5の中の観測対象物について、4aは移動前の観測対象物、4bは移動後の観測対象物である。6は観測レーザー光で、6aは移動前の観測対象物の最近観測レーザー光、6bは移動後の観測対象物の最近観測レーザー光である。観測対象スキャン範囲5において、移動前の観測対象物4aを観測した場合、もっとも速く反射してくるレーザー光は移動前の観測対象物の最近観測レーザー光6aとなり、移動後の観測対象物4bを観測した場合、もっとも速く反射してくるレーザー光は移動後の観測対象物の最近観測レーザー光6bとなる。この移動前の観測対象物の最近観測レーザー光6aと移動後の観測対象物の最近観測レーザー光6bの差から観測対象4が移動しているかを解析する。さらに、選定した観測対象物4についてすべて移動の解析を行なうことにより、監視対象斜面13の全体が移動しているか、一部が移動しているかを確認する。
【0021】
2回目以降の地上3Dレーザースキャナー1による観測は、観測対象物4の観測対象スキャン範囲だけを観測していく。図4において、2回目以降の地上3Dレーザースキャナー1による観測は、パソコンによる観測制御プログラム7により解析を行ない、観測対象物4の観測変化量が事前に設定しておいた警報発信値に達したときは、観測管理機器8を介して、道路14やその周辺の適宜の場所に設置した警報器9で周辺の現地作業員や住民に警告を発信する。また、観測局10で収集したデータは観測ユニット11から、現地および周辺を管理・統括している監視局12に送信し、監視局では詳細に解析等を行い緊急事態に備えるなどの対応を行う。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】地上3Dレーザースキャンでの現地観測・観測装置状況を示す図である。
【図2】監視対象斜面内の観測対象物と観測対象スキャン範囲を示す図である。
【図3】観測対象スキャン範囲内の観測対象物の変動観測の方法を示す図である。
【図4】斜面の観測データの送信と変動観測時の警報を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1……地上3Dレーザースキャナー
2……基準ターゲット
3……全観測スキャン範囲
4……観測対象物
4a……移動前の観測対象物
4b……移動後の観測対象物
5……観測対象スキャン範囲
6……観測レーザー光
6a……移動前の観測対象物の最近観測レーザー光
6b……移動後の観測対象物の最近観測レーザー光
7……観測制御プログラム(パソコン)
8……警報管理機器
9……警報器
10……観測局
11……観測ユニット(電源装置、データ発信装置、観測制御装置)
12……監視局
13……監視対象斜面(崩壊地・地すべり地など)
14……道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上3Dレーザースキャナー(1)を用いることによって、観測対象斜面(13)の崩壊地や地すべり等の危険性の高い斜面の移動を観測する場合でも、観測対象斜面(13)内に観測点を設置することなく崖面や崩壊地、地すべり地内の転石などの観測対象物(4)を利用して、観測対象斜面(13)の活動を観測できる地上3D レーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法。
【請求項2】
観測対象斜面(13)を地上3Dレーザースキャナー(1)で測定した全観測スキャニング範囲(3)内から多数点の崩壊地地すべり地内の観測対象物(4)を選定し、その後時間をおいて選定した観測対象物(4)を再度地上3Dレーザースキャナー(1)でスキャニングし、そのレーザー波の観測変動量にから観測対象斜面(13)の動態を自動的に監視する地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法。
【請求項3】
地上3Dレーザースキャナー(1)を観測制御プログラム(7)によって自動および半自動測定を行なわせることで、観測対象物(4)の変動をリアルタイムで観測し、警報器(9)により崩壊地・地すべり地に警戒を発信できる。また、観測対象物(4)をリアルタイムで観測した結果をグラフ化や数値表を作成することにより、監視局(12)で監視対象斜面(13)の動態をリアルタイムで監視できる地上3Dレーザースキャナーを用いた、ターゲット無設置による斜面の変動監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−83237(P2012−83237A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230234(P2010−230234)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】