説明

地上PCタンク

【課題】地上PCタンクにおける側壁に対して合理的にプレストレスを導入する。
【解決手段】基礎版1上に筒状の側壁2を一体に形成して立ち上げ、側壁には周方向に延在する第1のPC鋼材4と上下方向に延在する第2のPC鋼材5を配設してプレストレスを導入し、かつ側壁の下端部と基礎版との間に上下方向に延在する第3のPC鋼材6を配設して側壁の下端部に対する上下方向のプレストレスを増強する地上PCタンクにおいて、第3のPC鋼材6を側壁2の外層部に配設し、その内側に第2のPC鋼材5を配設し、さらにその内側に第1のPC鋼材4を配設する。隣り合って配設される第3のPC鋼材の両端部の定着部の位置を上下方向にずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばLNGやLPG等の液化ガスを貯蔵するためのタンクに係わり、特に側壁にPC鋼材によるプレストレスを導入してなる地上PCタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の地上PCタンクの構造として特許文献1,2に示すものが知られている。これらはいずれもタンクの側壁に周方向(水平方向)のPC鋼材と上下方向(鉛直方法)のPC鋼材を配設するとともに、側壁の下端部にはさらに他のPC鋼材を配設してプレストレスの増強を図ったものである。
【0003】
この種のタンクの構造について図3〜図5を参照して説明する。
図中、符号1は基礎版、2はその基礎版1の外周縁部に一体に形成されてそこから立ち上げられた円筒状の側壁、3はそれら基礎版1および側壁2に埋設されている鉄筋であり、これら基礎版1および側壁2は頑強な鉄筋コンクリート造とされてタンクの躯体を構成するものである。
側壁2の下端部にはその外側方向に壁厚が下方に向かって若干増大するハンチ部2aが形成されており、それにより側壁2の下端部の壁厚は下方に向かって漸次厚くなるようにされている。
【0004】
側壁2には周方向に沿う第1のPC鋼材4が所定間隔で配設され、また、上下方向に沿う第2のPC鋼材5がその下端部をU状に折り曲げた状態で所定間隔で側壁2の全高にわたって配設されており、それら第1のPC鋼材4および第2のPC鋼材5がそれぞれ緊張されて定着されることにより側壁2全体に周方向および鉛直方向のプレストレスが導入されている。
【0005】
さらに、側壁2の下端部においては図3(b)に示すように上下方向に沿う短尺の第3のPC鋼材6が密に配設されており、それら第3のPC鋼材6は緊張されて上端部が側壁2に対して定着されるとともに下端部が基礎版1に対して定着されている。
これら第3のPC鋼材6は隣り合う第2のPC鋼材5の間に多数(図示例では10本)配設されることからそれらの相互間隔を十分に確保できないことが通常であり、そのため、特許文献2においては図示例のように第3のPC鋼材6を1本ごとに交互に上下方向にずらすことでそれぞれの両端部の定着強度を確保するようにしている。
【0006】
なお、第1のPC鋼材4および第2のPC鋼材5はPC鋼撚り線をシース管内に通してポストテンション工法により緊張して定着した構造とされるが、第3のPC鋼材6はPC鋼棒をコンクリート中に直接埋設して直接緊張し定着する構造とされる。
また、図示例のように基礎版1の外周縁部にも周方向に沿ってPC鋼材7を配設してそこにもプレストレスを導入することが好ましい。
【0007】
上記従来の地上PCタンクにあっては、側壁2全体に対して周方向の第1のPC鋼材4と上下方向の第2のPC鋼材5を配設することに加えて、側壁2の下端部に対して第3のPC鋼材6を配設して側壁2の下端部に対する上下方向のプレストレス力を増強することにより、側壁2全体に対するひび割れ防止効果を合理的に得られるものである。
そのことについて図5を参照して説明する。図5は側壁2においてひび割れが発生する状況を概念的に示すもので、横軸は側壁2の外面での発生応力、縦軸はひび割れ発生に対する限界応力であり、グラフが縦軸よりも右側にあれば発生応力が限界応力を超えて許容幅以上のひび割れが発生し、左側にあればひび割れが発生しないことをイメージとして示すものである。
【0008】
図中のグラフ(1)は第2のPC鋼材5がない場合である。通常、側壁2の高さ方向中間部は自重による圧縮応力が生じているのでひび割れが発生するような限界応力を超えることはない(グラフが縦軸の左側にある)が、側壁2の下端部および上端部は基礎版1および屋根により変形が拘束されることからそこでは発生応力が限界応力を超えてひび割れが発生してしまう(そこではグラフが縦軸の右側にある)場合がある。
グラフ(2)はその対策のために第2のPC鋼材5を配設した場合であり、この場合は第2のPC鋼材5によるプレストレス力によって側壁全体に大きな圧縮応力を生じさせ(グラフ(1)全体を左側に大きく平行移動させる)、側壁2の下端部および上端部が縦軸の左側にくるようにプレストレス力を導入すればそこでのひび割れの発生を防止できる。しかし、そのためには第2のPC鋼材5に対して大きなプレストレス力を導入する必要があるし、側壁2の中間部に対しては無駄にプレストレスを導入して必要以上の圧縮応力が生じることになり、不合理である。
そこで、側壁2の下端部に第3のPC鋼材6を配設してグラフ(3)のようにその第3のPC鋼材6によって下端部に対するプレストレス力を局所的に増強したうえで、第2のPC鋼材5によるプレストレス力を全体的に低減する(グラフ(2)を右側にずらす)ことにより、側壁2各部での発生応力を限界応力以下に維持(グラフ(3)全体を縦軸の左側に収める)しつつ、第2のPC鋼材5による無駄なプレストレス力を軽減でき、したがって第2のPC鋼材5の所要本数やその緊張力を低減でき、全体として合理的にひび割れ防止効果が得られるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−270901号公報
【特許文献2】特開2009−269648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように上記従来の地上PCタンクは優れたひび割れ防止効果が得られるのであるが、側壁2の下端部においては第1〜第3のPC鋼材4,5,6が複雑に錯綜してしまうことが不可避であり、その点では改善の余地を残している。
特に、図4に示しているように、第1のPC鋼材4を側壁2の外層部にタガのように配設してその内側に第2のPC鋼材5を配設し、それら第1、第2のPC鋼材4,5の間の狭隘な隙間に第3のPC鋼材6をさらに配置しなければならず、またその周辺には多くの鉄筋3も配筋されることから、第3のPC鋼材6を設置するためのスペースを確保してそれを精度良く施工することは設計的にも施工的にも容易ではなく、その点で有効な改善策が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は基礎版上に筒状の側壁を一体に形成して立ち上げ、該側壁には周方向に延在する第1のPC鋼材と上下方向に延在する第2のPC鋼材を配設してプレストレスを導入し、かつ前記側壁の下端部と前記基礎版との間に上下方向に延在する第3のPC鋼材を配設して、該第3のPC鋼材によって前記側壁の下端部に対する上下方向のプレストレスを増強してなる地上PCタンクであって、前記第3のPC鋼材を前記側壁の外層部に配設するとともに、その内側に前記第2のPC鋼材を配設し、さらにその内側に前記第1のPC鋼材を配設してなることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、隣り合って配設される第3のPC鋼材の両端部の定着部の位置を上下方向にずらして配設することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第3のPC鋼材を側壁の外層部に配置したことにより、その第3のPC鋼材のタンク中心軸からの偏心距離が従来の場合よりも大きくなり、これに導入する鉛直プレストレス力が同じであっても従来よりも大きな外面圧縮偏心曲げモーメントが発生し、したがってひび割れを防止するために必要な所要曲げモーメントが同じ場合であれば第3のPC鋼材の所要本数を削減することが可能である。その結果、第3のPC鋼材の本数削減によるコスト削減を図ることができるばかりでなく、側壁の下端部における各PC鋼材や配筋の納まりが容易となるので設計的に有利であるし、施工性を大きく改善することができ、施工精度を確保するうえでも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の地上PCタンクの実施形態を示すもので、側壁の断面図および部分正面図である。
【図2】同、側壁下端部(図1(a)におけるII部)の拡大断面図である。
【図3】従来の地上PCタンクの一例を示すもので、側壁の断面図および部分正面図である。
【図4】同、側壁下端部(図3(a)におけるIV部)の拡大断面図である。
【図5】同、PC鋼材によるひび割れ抑制効果についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の地上PCタンクの実施形態を図1〜図2に示す。側壁(防液堤)2の外形は図3,図4に示した従来の側壁2と基本的に変わりはなく、側壁2内に配設される第1のPC鋼材、第2のPC鋼材、第3のPC鋼材の位置関係を変更したものであるので、従来のものと共通する構成要素には同一符号を付してその説明は省略する。
【0016】
図4に示したように、従来の地上PCタンクにあっては、側壁2の外層部に周方向の第1のPC鋼材4を配設してその内側に上下方向の第2のPC鋼材5を配設し、それら第1のPC鋼材4と第2のPC鋼材5との間に第3のPC鋼材6を配設していたのであるが、本実施形態では図2に示すように側壁2の下端部の外層部でハンチ部2aに第3のPC鋼材6を配設し、その内側で側壁2のハンチ部2aおよびその上部の一般部における外層部に、側壁2の上端部に定着部を有し、その上端部から基礎版1に至る第2のPC鋼材5を配設し、さらにその内側に第1のPC鋼材4を配設している。第3のPC鋼材6の下部定着部は基礎版1内に設け、上部定着部はハンチ部2a内の適宜のコンクリート打継部付近またはハンチ部2a上部のコンクリート打継部付近に設ける。
なお、側壁2の外層部とは、側壁2の壁厚方向中心位置よりもタンクに対して外側にある部分、内層部とは逆にタンクに対して内側にある部分をいう。
【0017】
このように第2のPC鋼材5や第3のPC鋼材6を外層部に配設することにより、これらのPC鋼材のタンク中心軸からの偏心距離が従来の場合よりも大きくなり、したがってその第3のPC鋼材6に導入する鉛直プレストレス力を従来と同じとした場合であっても、1本当たりが発生する外面圧縮偏心曲げモーメントは従来よりも大きくなり、その結果、ひび割れを防止するために必要となる所要曲げモーメントが同じであれば第3のPC鋼材6の所要本数を削減することが可能となる。
たとえば、一設計例によれば、図3(b)に示したように従来において第2のPC鋼材5の間に第3のPC鋼材6を10本配置する必要がある場合において、本発明のように第3のPC鋼材6を従来より外側に位置させたのでその所要本数を図1(b)に示すように8本にまで削減することが可能となる。
【0018】
したがって本発明によれば、第3のPC鋼材6の所要本数を削減することによるコスト削減を図ることができるばかりでなく、側壁2の下端部における各PC鋼材4,5,6や各鉄筋3の配筋上の納まりが容易となるので設計的にも有利であり、また施工性を大きく改善できるし、施工精度を確保するうえでも有利であり、ひいては側壁2の壁厚を削減することも可能である。
【0019】
なお、上記のように各PC鋼材4,5,6の位置を変更し、特に第1のPC鋼材4の位置を従来のように側壁2の外層部から内層部に変更して第2、第3のPC鋼材5,6の内側に配置しても、それによるプレストレス力によって側壁2に発生する断面力は変化しないので構造上の特性は変わりがなく、ひび割れ性能に悪影響を及ぼすようなことはない。
いずれにしても、第1のPC鋼材4の配設位置によって側壁2に発生する断面力は変わることはないので、第2のPC鋼材5の内側に位置する限りにおいて、第2のPC鋼材5の外層部における配設位置や側壁2の壁厚によっては、第1のPC鋼材4も側壁2の外層部や壁厚方向中心位置に配設されていてもよい。
【0020】
また、本発明においても、図1(b)に示すように従来と同様に第3のPC鋼材6を1本ごとに上下にずらして配置することが好ましいが、それらの所要本数を十分に削減し得て定着強度を支障なく確保できる程度の十分な相互間隔を確保できる場合には、必ずしも上下にずらす必要はなく、特許文献1に示されるように上下を揃えて配置することでも良い。
【0021】
いずれにしても、以上の説明で明らかなように第3のPC鋼材6によるプレストレス力を有効に活用するためにはその位置を可及的に側壁2の最外層部に配置することが好ましいが、第3のPC鋼材6と側壁表面との間には所定のかぶり寸法を確保する必要があることはいうまでもなく、図2に示すように側壁2の外面側に配筋される鉄筋3の内側とすることが現実的であり、そのようにすべきである。
また、第2のPC鋼材5の配設位置は、側壁2においてハンチ部2aやその上部の一般部においては外層部であり第1のPC鋼材4の外側であるが、第1のPC鋼材4が側壁2の外層部で第2のPC鋼材5が側壁2の内層部に配設されていた従来例に比べれば、側壁2の外面側における圧縮力が効率的に加えられる(その結果、第2のPC鋼材5の量が削減できる。具体的には小径化が図れる)ことになるので、上述してきた発明において第3のPC鋼材6がない場合も考えられる。
それから、ハンチ部2aとして図2の鎖線で示すように段階的に壁厚を増大させることが考えられる。この場合、個々の段階的増大部2a’における下部では、各PC鋼材5,6の配設位置が側壁2の外層部とはなるが、上部では外層部とはならない。このような場合でも外層部配置になる。つまり、段階的増大部2a’のようにすることは工事施工上の関係もあることから、外層部配置かどうかは、側壁2にかかる応力状態を実質的に考慮して判断するものである。
【符号の説明】
【0022】
1 基礎版
2 側壁
2a ハンチ部
2a’ 段階的増大部(ハンチ部)
3 鉄筋
4 第1のPC鋼材
5 第2のPC鋼材
6 第3のPC鋼材
7 PC鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎版上に筒状の側壁を一体に形成して立ち上げ、該側壁には周方向に延在する第1のPC鋼材と上下方向に延在する第2のPC鋼材を配設してプレストレスを導入し、かつ前記側壁の下端部と前記基礎版との間に上下方向に延在する第3のPC鋼材を配設して、該第3のPC鋼材によって前記側壁の下端部に対する上下方向のプレストレスを増強してなる地上PCタンクであって、
前記第3のPC鋼材を前記側壁の外層部に配設するとともに、その内側に前記第2のPC鋼材を配設し、さらにその内側に前記第1のPC鋼材を配設してなることを特徴とする地上PCタンク。
【請求項2】
請求項1記載の地上PCタンクであって、
隣り合って配設される第3のPC鋼材の両端部の定着部の位置を上下方向にずらして配設してなることを特徴とする地上PCタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219139(P2011−219139A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91391(P2010−91391)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】