説明

地下シェルター

【課題】地震に対する強度が高く、津波が押し寄せても浸水したり破損したりしない。
【解決手段】地下シェルター2は、地中に埋設されていて、プレキャスト構造からなる側版5と頂版6と底版4とを組み立ててなり、水密性の地下空間22を有する。頂版6に開閉可能なハッチ17を取り付け、地下空間22には床面23につながる階段を形成した。頂版6に開口部18を設け、進退可能な潜望鏡20またはカメラを水密に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や洪水等が起きたときに緊急避難可能な耐震性と水密性を備えた地下シェルターに関する。
【背景技術】
【0002】
東日本大震災では、予想を超える大津波の発生により、沿岸部や低地に住む人々は高台や海岸から離れた地域に避難するのに時間がかかり、逃げ遅れた人も多く、犠牲になった人は行方不明者を含めて2万人を超えるという大被害になった。日本各地では今後も地震の発生が予測され、大地震の際には津波が発生することが予想される。
一般的には、大地震が発生したらすぐに高台や海岸から遠く離れた地域に逃げることが必要であるが、車で逃げようとすると渋滞を引き起こして間に合わないおそれがあり、徒歩で逃げるとしても時間がかかり、年寄りや足の不自由な人等の病人を家族や身内に抱えている場合には、徒歩での高台や遠隔地への迅速な避難は一層困難である。
【0003】
このような問題に対処するため、例えば防波堤や防潮堤を高く建設して津波をブロックすることが提案されているが、規模が大きく費用が膨大になり実現は困難である。
また、例えば特許文献1に記載されたように地下シェルターを設置した提案もなされているが、これはコンピューターのバックアップ施設であり、シェルター内に重量のある大型のホストコンピューターを設置するために地盤への杭打ちをした上で耐圧盤を設置してシェルターを設置する必要があった。しかも、このシェルターは入口として地上に建屋を設けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3836111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、企業、官庁、病院、銀行等がホストコンピューターを大地震等の災害時に地震で壊れたり津波で浸水したりすることを防止するためのものであり、人を避難させるためのものではない。しかも、特許文献1に記載された地下シェルターは入り口が地上の建屋に設置されていて地下に主室と副室を備えており、地上室が浸水しても地下の主室に水が流れ込まないとしているが、地上室が津波で破壊されて入口の上に倒れた場合に地下室が塞がれ、地下から地上へ出入りすることができないおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて、地震に対する強度が高く、津波が押し寄せても浸水したり破損したりすることのない水密性を有する地下シェルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による地下シェルターは、地中に埋設されていて、プレキャスト構造からなる側版と頂版と底版とが組み立てられて水密性の地下空間を形成してなり、頂版には開閉可能なハッチが取り付けられ、地下空間にはハッチから床面につながる階段が形成されており、頂版には開口部が設けられていて該開口部に進退可能な潜望鏡またはカメラが水密に設けられていることを特徴とする。
本発明による地下シェルターは、地震等で津波が発生した場合にハッチから地下空間内に避難することができ、高台や海岸から離れた地域に移動しなくても瞬時に避難することができ、地下空間は水密性であるから安全を確保できる。しかも、地下シェルターは地下に埋設されていることで津波にさらわれることもなく、避難した後、潜望鏡またはカメラによって外部の様子を観察できるから、安全性を確認してから外にでることができる。しかも、側版と頂版と底版がプレキャスト構造であるから現地での組立が容易で簡単である。
【0008】
また、頂版には突出部が設けられ、突出部の頂面に潜望鏡またはカメラとハッチが設けられていてもよい。
頂版の一部に突出部を設けて、突出部の頂面に潜望鏡またはカメラとハッチを設けるようにすれば、突出部以外の頂版を地中に埋設することができる。
【0009】
また、頂面は地上に露出されていてもよく、ハッチを開放した出入りや潜望鏡またはカメラを通した外部の観察を簡単且つ確実に行える。
【発明の効果】
【0010】
本発明による地下シェルターは、平常時は例えば倉庫として使用することができ、地震が発生した際には、ハッチを通して迅速に避難することができ、しかも、地中に設置されていて耐震性が強く水密性を備えているため、津波が押し寄せても破損したり地下空間内に浸水したり流失したりすることがなく安全で高強度である。
【0011】
そして、津波が引いて地上の海水等がなくなったかどうか等を確認するためには、地下シェルターの地下空間内から潜望鏡やカメラを開口部から地上に延ばして観察すればよく、危険を冒すことなく外部の様子を観察できる。
また、津波が襲来している時間は短いのでせいぜい半日から1日程度地下シェルター内に避難すればよく、津波が引いて収まった後は潜望鏡やカメラで地上の安全を確認した後、外に出ることができ、その後の生活において、断水等で水洗便所が使用できない場合には地下シェルターを非常用便槽として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一の実施形態による地下シェルターの一部破断説明図である。
【図2】(a)、(b)、(c)は図1に示す地下シェルターの製造方法を示す図である。
【図3】本発明の第二の実施形態による地下シェルターを示す図であり、(a)は地下シェルターの一部破断説明図、(b)は同図(a)のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による地下シェルターについて説明する。
図1において、地上に住宅または事務所等の家屋1が設置されている。そして、家屋1の近傍には、地中に津波シェルターとして地下シェルター2が埋設されている。地下シェルター2は家屋1の下側に設けても良いし、或いは庭等の家屋1に近接した位置に設けても良い。
地下シェルター2は、例えば略円筒状に形成されており、円盤状の底版4と略円筒状の側版5と側版5の上面に設けられた頂版6とを備えたプレキャスト構造とされている。頂版6の一部には例えば円筒状の突出部7が形成されており、突出部7の頂面8は地上に露出しているが、頂面8以外の頂版6は地中で土被りとなっている。突出部7は頂面8以外が地中に埋設されているが、突出部7の一部または全部が地上に突出して設けられていてもよい。
【0014】
底版4は例えば現場打ちの鉄筋コンクリート板からなり、その下側に基礎コンクリート10と砕石及び割栗石11が積層されており、底板4の上面には防水モルタル12が施工されて床面23が形成されている。
側版5は例えば略円筒状をなす鉄筋コンクリート製であってリング状の下部セグメント14と上部セグメント15が連結されて構成されている。頂版6は例えば板状の鉄筋コンクリート板からなり、突出部7の頂面8には人が出入りできるようにハッチ17がヒンジ等で開閉可能とされている。
頂面8にはハッチ17の近傍に開口部18が形成され、この開口部18にはパッキン等で潜望鏡20が水密に装着され、潜望鏡20は水密性を維持しながら開口部18から上下方向に上下動可能とされている。潜望鏡20を頂面8の開口部18から外部に上昇させることで、地上の状況を目視確認できるようになっている。潜望鏡20を下方に降下させることで開口部18を液密に閉鎖させることができる。
【0015】
このように底版4、側版5及び頂版6で形成される略円筒状の地下シェルター2は、その内部が密閉された地下空間22を構成しており、突出部7のハッチ17の下部には底版4に設けた床面23まで降下する階段24が形成されている。地下空間22内には非常食としての食料や水等の飲料、酸素ボンベや乾電池、非常電源等を収納できる。特に非常食や飲料等は非常袋等のパックにまとめて収納しておくとよい。
また、平常時には、地下シェルター2は地下倉庫として使用することができる。
【0016】
地下シェルター2が個人住宅用であれば、地下空間22は例えば15.9m(9畳程度)の広さとなり、7〜8名程度が一時的に避難可能である。また、地下シェルター2が集合住宅や事業所、或いは避難場所用であれば、地下空間22は例えば29.2m(17畳程度)の広さとなり、14〜16名程度が一時的に避難可能である。
【0017】
このような地下シェルター2は、大地震等の際に津波に襲われた場合にその浮力よりも大きな自重を有する必要がある。本実施形態では、地下シェルター2が鉄筋コンクリート製或いは鋼製であり、浮力よりも建物の重量を大きく設定できるよう各面の部材厚みを決定している。或いは、建物の重量にその上に載置させた土被りの重量を加えたものの重さが浮力より大きければよい。そのため、地下シェルター2が津波に呑まれても浮力より自重の方が大きいので浮いたり移動したりせず、安全である。
【0018】
次に地下シェルター2の組立方法の一例について図2により説明する。
図2(a)において、地下シェルター2の外径より大きな内径の穴26を掘削して先堀りし、その中で側版5であるプレキャスト構造の下部セグメント14と上部セグメント15を連結して組み立てる。連結部は例えばセグメント同士の接合部に設けたボルトボックス27に雄ねじを挿通して雌ねじと螺合する。
そして、図2(b)に示すように、各セグメントの接合部のボルトボックス27に無収縮モルタルを充填して止水処理を内外の目地に施す。
【0019】
次いで、図2(c)に示すように、略円筒状の側版5の内面を油圧ショベル28で掘削して土を除去し、側版5が所定の深さになるまで自重で沈下させる。その後、底部に砕石及び割栗石11を敷設し、その上に基礎コンクリート10を打設して鉄筋コンクリートからなる底板4を施工し、その上面に防水モルタル12を施工することで、底版4を形成する。そして、床面23や階段24等の内装施工を行ったあと、頂版6を側版5に連結して地下シェルター2を組み立て、頂版6の上に土を盛る。こうして、突出部7の頂面8を地表に露出させる。
なお、地下シェルター2は、底版4、側版5、頂版6をプレキャスト構造で形成したが、現場で型枠を形成して現場打ちで製作するようにしてもよいし、或いはプレキャスト構造と現場打ちの混合で製作してもよい。
【0020】
上述のように本実施形態による地下シェルター2は、平常時は例えば倉庫として使用することができる。そして、大地震が発生した場合には、高台や海岸から離れた所まで避難することなく、ハッチ17を開けて地下シェルター2の地下空間22内に退去すればよく、短時間で避難できる。
ハッチ17を頂面8に閉蓋した状態で、地下シェルター2は水密性を確保できると共に、高強度であるために耐震性が高いから、地震で地下シェルター2が損壊することはほとんどなく、しかも防水性があるため地上の家屋が津波に襲われて破損したり流失したとしても、地下空間22が津波によって浸水等することがない。
【0021】
また、地下シェルター2は自身の浮力よりも大きな重量を備えており、しかも地中に埋設されて頂面8が地上に露出しているにすぎないから、津波によって地下シェルター2が流動したり、流失させられることも防止できる。
そして、津波が引いて地上の海水がなくなったかどうか等を確認するためには、地下シェルター2の地下空間22内から潜望鏡20を頂面8の開口部18から地上に延ばして観察すればよく、危険を冒すことなく外部の様子を潜望鏡20を通して観察できる。
また、津波が襲来している時間は短いのでせいぜい半日から1日程度地下シェルター2内に避難すればよく、津波が引いて収まった後は潜望鏡20で地上の安全を確認した後、ハッチ17を開けて外に出ることができる。その後の生活において、断水等で水洗便所が使用できない場合には地下シェルター2を非常用便槽として利用できる。
【0022】
なお、本発明は上述した第一の実施形態による地下シェルター2に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
図3は本発明の第二の実施形態による地下シェルター30を示すものであり、上述した第一の実施形態と同一または同様な部材、部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図3に示す地下シェルター30において、第一の実施形態との相違点として、頂面8の開口部18に、潜望鏡20に代えて上下動可能な筒部31の先端に撮影カメラ32が設けられている。筒部31を地下シェルター30の外部に進出させて周囲の状況を撮影できる。この場合、筒部31は回転操作できることが好ましい。或いは、筒部31を回転させないで内部の撮影カメラ32を回転可能にしてもよい。
【0023】
撮影した外部環境の画像は筒部31に取り付けたディスプレイ33で観察してもよいし、或いはパソコンやその他のディスプレイ画面を通して観察してもよい。
この場合、撮影カメラ32やディスプレイ33等は、震災で停電していても、電池や非常用電源等を用いて避難者が外部の様子を観察できる。
【0024】
なお、ハッチ17や頂面8、或いは頂版6等の、平常時に地表に露出する面に窓を設けて外部環境を観察できるようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、地下シェルター2,30の頂面8は地上に露出されている構成としたが、この構成に代えて頂面8もその上に土が被せられ、地中に埋設されていてもよい。
また、上述の各実施形態では、地下シェルター2、30の頂版6に突出部7を設けてその頂面8を地上に露出させる構成としたが、頂版6に突出部7を設けなくてもよく、その際、頂版6が地上に露出していてもよいし、埋設されていてもよい。その際、頂版6に窓を設けて外部を観察できるようにしてもよい。
【0025】
なお、上述の各実施形態では、底版4は現場施工のコンクリート製である構成としたが、これに代えて底版4もプレキャスト構造としてもよく、この場合には、底版4,側版5、頂版6について予め工場で製造できるから、現場での組立施工が一層容易になる。また、地下シェルター2、30を構成する底版4,側版5、頂版6は鉄筋コンクリート製に限定されることはなく、鋼製セグメントや合成セグメントで構成されていてもよい。
また、上述の各実施形態では、地下シェルター2、30は略円筒形状に形成されているが、本発明はこのような構成に限定されることなく、直方体や立方体等、適宜形状の立体形状であればよい。
【符号の説明】
【0026】
2、30 地下シェルター
4 底版
5 側版
6 頂版
8 頂面
17 ハッチ
18 開口部
20 潜望鏡
23 床面
31 筒部
32 撮影カメラ
33 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設されていて、プレキャスト構造からなる側版と頂版と底版とが組み立てられて水密性の地下空間を形成してなり、前記頂版には開閉可能なハッチが取り付けられ、前記地下空間にはハッチから床面につながる階段が形成されており、前記頂版には開口部が設けられていて該開口部に進退可能な潜望鏡またはカメラが水密に設けられていることを特徴とする地下シェルター。
【請求項2】
前記頂版には突出部が設けられ、該突出部の頂面に前記潜望鏡またはカメラと前記ハッチが設けられている請求項1に記載された地下シェルター。
【請求項3】
前記頂面は地上に露出されている請求項2に記載された地下シェルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14898(P2013−14898A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147196(P2011−147196)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000198307)石川島建材工業株式会社 (139)
【Fターム(参考)】