説明

地下不透水層の形成方法

【課題】 温度が100℃以上とされた地中空間内を、この空間を除いた岩体の内部に対して遮断することが可能な不透水層を容易かつ確実に形成することができる地下不透水層の形成方法を提供することにある。
【解決手段】 温度が100℃以上とされた地下透水層22内に少なくともCOとHOとを含有する反応剤を供給し、この反応剤と地下透水層22内に位置する岩体とを反応させて、炭酸塩および粘土鉱物を生成し、該炭酸塩および粘土鉱物により、地下透水層22内において、少なくとも一部を他部から遮断する不透水層23を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度が100℃以上とされた地下透水層内において、少なくとも一部を他部から遮断することができる不透水層を形成する地下不透水層の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱水および蒸気が共存する地熱流体貯蔵層の熱等を利用した地熱エネルギ利用システムとして様々な技術が提案されている。例えば、下記特許文献1に開示されているように、地熱流体貯蔵層から熱水や蒸気を地上に取り出し、これを地上で発電、暖房、融雪等に使用する方法が知られている。
【特許文献1】特公昭57−27282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この種の地熱エネルギ利用システムでは、地震等による地殻変動があった際に、地熱流体貯蔵層の熱水等が地上に湧出する場合があり、この際に地熱流体貯蔵層の周辺領域に位置する低温の地下水が前記熱水等の湧出分を補完するようにこの貯蔵層内に流入してその温度を低下させるという問題があった。
【0004】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、温度が100℃以上とされた地下透水層内において、少なくとも一部を他部から遮断することが可能な不透水層を容易かつ確実に形成することができる地下不透水層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、温度が100℃以上とされた地下透水層内に少なくともCOとHOとを含有する反応剤を供給し、この反応剤と前記地下透水層内に位置する岩体とを反応させて、炭酸塩および粘土鉱物を生成し、該炭酸塩および粘土鉱物により、前記地下透水層内において、少なくとも一部を他部から遮断する不透水層を形成することを特徴とする。
なお、反応剤のCO濃度は3%以上であることが好ましく、また地下透水層内の温度は100℃以上250℃以下であることが好ましい。さらに、反応剤に反応促進剤としてCa、Mg、Mn、FeまたはSrの塩化物あるいは酸化物が混入されるとより好ましい。
【0006】
この発明によれば、地下透水層内に供給された反応剤がこの透水層内の所定広さ領域および深さ領域に行き渡り、この過程で岩体と反応して順次炭酸塩および粘土鉱物が生成され、これにより地下透水層内において、少なくとも一部が他部から遮断される不透水層が形成されることになる。したがって、地下透水層内において、前記不透水層により他部から遮断された一部を液体物質若しくは気体物質を貯蔵するための貯蔵領域として使用した場合に、この領域が前記不透水層により他部から遮断されているので、地下透水層およびこの周辺領域に位置する地下水が前記貯蔵領域に流入することを抑制することができる。
特に本発明は、不透水層を形成する反応剤の主剤の1つとしてCOを採用するので、COの有効利用が図られ地球環境にも好適である。
【0007】
なお、反応剤のCO濃度を3%以上とするのは、HOに溶解可能なCO濃度が約3%であり、反応剤に、飽和状態でCOを含有するHOと、COガス若しくは超臨界COとを混在させるためである。すなわちこの場合、地下透水層内に供給された反応剤は、HO内に含有されたCOが前記岩体と反応することになるので、HO内のCO濃度はこの反応の進行に伴って順次低下することになるが、この濃度低下を補完するように順次COガス若しくは超臨界COがHO内に溶解していき、常にHO内にCOが飽和状態で含有されることになり、岩体と反応剤との反応速度を略一定に維持することができる。
また、岩体の温度を100℃以上250℃以下とすると、反応剤と岩体との反応が促進され、不透水層を早期に形成することができる。
さらに、反応剤にCa、Mg、Mn、FeまたはSrの塩化物あるいは酸化物を混入すると、不透水層をより早期に形成することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の地下不透水層の形成方法において、前記地下透水層は、温度が100℃以上とされた熱水および蒸気が共存する地熱流体貯蔵層とされていることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、地下透水層が、温度が100℃以上とされた熱水および蒸気が共存する地熱流体貯蔵層とされているので、この貯蔵層を用いた地熱エネルギ利用システムに地震等の地殻変動が作用した場合でもこのシステムが機能しなくなる事態の発生を抑制することができる。すなわち、前記不透水層により、地下透水層内において、少なくとも一部が他部から遮断されているので、前記地殻変動によって、地下透水層内の前記熱水等が地上に湧出し、この透水層の周辺領域に位置する低温の地下水が、前記熱水等の湧出分を補完するようにこの透水層内に流入するに際して、少なくとも前記一部から流入することを回避することが可能になり、地熱流体貯蔵層内の温度低下発生を抑制することができる。したがって、地震等の地殻変動に対する耐久性が良好な地熱エネルギ利用システムを提供することが可能になる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の地下不透水層の形成方法において、前記反応剤は、前記地下透水層に至らせて配設された休止坑井若しくは廃止坑井を介して前記地下透水層内に供給されることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、反応剤を休止坑井若しくは廃止坑井を介して地下透水層内に供給するので、地下不透水層を安価に形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る地下不透水層の形成方法によれば、温度が100℃以上とされた地下透水層内において、少なくとも一部を他部から遮断することが可能な不透水層を容易かつ確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。図1は、この発明の一実施形態として示した地下不透水層の形成方法を実施するための地下不透水層の形成システムを示す概略図である。
【0014】
この地下不透水層の形成システム10は、地表面21から地中に向って延在して埋設されるとともに、地表面21に開口したケーシング11と、ケーシング11内に後述する反応剤を供給するポンプ12と、HOを貯蔵し、かつポンプ12にHOを供給する貯水部13と、COガスを貯蔵し、かつポンプ12にCOガスを供給するCOガス貯蔵部14とを備える概略構成とされている。
【0015】
そして、貯水部13からのHOとCOガス貯蔵部14からのCOガスとは、ポンプ12で混合されて反応剤が形成されるとともに、この反応剤はケーシング11を介して地中に供給される構成となっている。
【0016】
ここで、反応剤は、飽和状態でCOを含有するHOと、COガス若しくは超臨界COとが混在されてなるものであり、HOに溶解可能なCO濃度が約3%であることから、反応剤全体に対するCO濃度は3%以上とされている。また、この反応剤には反応促進剤としてCa、Mg、Mn、FeまたはSrの塩化物あるいは酸化物が混入されている。
【0017】
ケーシング11の地中側先端部は、温度が100℃以上250℃以下とされた熱水および蒸気が共存する地熱流体貯蔵層(地下透水層)22内に位置しており、本実施形態では、この貯蔵層22はケーシング11を中心とした所定広さ領域および所定深さ領域に亙って位置している。したがって、ポンプ12からケーシング11内に供給された反応剤は、地熱流体貯蔵層22の内部に供給されるようになっている。
【0018】
次に、以上のように構成された地下不透水層の形成システム10により、地熱流体貯蔵層22において、この一部を他部から遮断する不透水層23を形成する地下不透水層の形成方法について説明する。
【0019】
まず、ポンプ12により反応剤をケーシング11内に供給し、このケーシング11の先端部に到達させ、この先端部から地熱流体貯蔵層22内に反応剤を供給する。ここで、反応剤は、ケーシング11の開口部から前記先端部に到達する過程で、地熱流体貯蔵層22の熱が伝導することにより徐々に加熱される。そして、地熱流体貯蔵層22内に供給された反応剤は、この貯蔵層22内のケーシング11を中心とした所定広さ領域および深さ領域に行き渡ることになる。この過程において、反応剤は地熱流体貯蔵層22内に位置する岩体の有するCa成分、Mg成分、Mn成分、Fe成分またはSr成分と反応することにより、順次炭酸塩および粘土鉱物が生成され、これにより地熱流体貯蔵層22内において、ケーシング11の地中側先端部を中心とした所定広さ領域および所定深さ領域が他部から遮断される不透水層23が形成されることになる。なお、反応剤と岩体との前記反応は具体的には下記式(1)および(2)で表される。
【0020】
CaAlSi(斜長石)+H+HCO+HO→CaCO(方解石)+AlSi(OH)(カオリナイト)・・・(1)
CaAlSi(斜長石)+Mg2++2HCO+HO→CaMg(CO(ドロマイド)+AlSi(OH)(カオリナイト)・・・(2)
これらの式(1)および(2)に示す生成物のうち、CaCO(方解石)およびCaMg(CO(ドロマイド)は、一般に、高温状態にあるほど溶解度が低いので、本実施形態のように100℃以上250℃以下とされた高温環境下では溶解し難く、したがって、確実に不透水層23を形成することが可能になる。さらに、このような高温環境下においては、反応剤と岩体との反応が促進され、不透水層23を早期に形成することも可能になる。
【0021】
ここで、前述した岩体と反応剤との反応は、反応剤中のCOのうちHO内に含有されたものによりなされ、このHO内に含有されたCOは、岩体と反応することにより炭酸塩および粘土鉱物としてHOから除去され、HO内のCO濃度は徐々に低下することになるが、反応剤全体に対するCO濃度が3%以上とされているので、この濃度低下を補完するように順次COガス若しくは超臨界COがHO内に溶解していき、常にHO内にCOが飽和状態で含有されることになり、岩体と反応剤との反応速度が略一定に維持されることになる。なお、前述したCOガス若しくは超臨界COのHO内への溶解は、ケーシング11内の圧力が10MPa以上であると確実に実現される。
【0022】
以上説明したように、本実施形態による地下不透水層の形成方法によれば、地熱流体貯蔵層22内に供給された反応剤がこの貯蔵層22内の所定広さ領域および所定深さ領域に行き渡り、この過程でこの貯蔵層22内に位置する岩体と反応して順次炭酸塩および粘土鉱物が生成され、これにより地熱流体貯蔵層22内において、ケーシング11の地中側先端部を中心とした所定広さ領域および所定深さ領域が他部から遮断される不透水層23が形成されることになる。したがって、地熱流体貯蔵層22内において、不透水層23により他部から遮断された部分を、液体物質若しくは気体物質を貯蔵するための貯蔵領域とした場合に、この領域が不透水層23により他部から遮断されているので、地熱流体貯蔵層22の周辺領域に位置する地下水が前記貯蔵領域に流入することを抑制することができる。
また、反応剤のCO濃度を3%以上とするので、反応剤のHO内に常にCOを飽和状態で含有させることが可能になり、岩体と反応剤との反応速度を略一定に維持することができ、不透水層23を早期に形成することができる。
【0023】
さらに、地下透水層が、温度が100℃以上とされた熱水および蒸気が共存する地熱流体貯蔵層22とされているので、この貯蔵層22を用いた地熱エネルギ利用システムに地震等の地殻変動が作用した場合でもこのシステムが機能しなくなる事態の発生を抑制することができる。すなわち、不透水層23により、地熱流体貯蔵層22内において、ケーシング11の前記先端部を中心とした所定広さ領域および所定深さ領域に亙った部分が他部から遮断されているので、前記地殻変動によって、地熱流体貯蔵層22内の熱水等が地上に湧出し、この貯蔵層22の周辺部に位置する低温の地下水が前記熱水等の湧出分を補完するようにこの貯蔵層22内に流入するに際して、少なくとも不透水層22で囲まれた部分から流入することを回避することが可能になり、地熱流体貯蔵層22内の温度低下発生を抑制することができる。したがって、地震等の地殻変動に対する耐久性が良好な地熱エネルギ利用システムを提供することが可能になる。
【0024】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態の地熱流体貯蔵層22に代えて、例えば熱水および蒸気が存在しない地下透水層にも適用可能である。
また、反応剤を休止坑井若しくは廃止坑井を介して前記地下領域等に供給してもよい。この場合、不透水層23をさらに容易かつ低コストで形成することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
温度が100℃以上とされた地下透水層内において、少なくとも一部を他部から遮断することが可能な不透水層を容易かつ確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態として示した地下不透水層の形成方法を実施するためのシステムを示す概略図である。
【符号の説明】
【0027】
10 地下不透水層の形成システム
22 地熱流体貯蔵層(地下領域)
23 不透水層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度が100℃以上とされた地下透水層内に少なくともCOとHOとを含有する反応剤を供給し、この反応剤と前記地下透水層内に位置する岩体とを反応させて、炭酸塩および粘土鉱物を生成し、該炭酸塩および粘土鉱物により、前記地下透水層内において、少なくとも一部を他部から遮断する不透水層を形成することを特徴とする地下不透水層の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の地下不透水層の形成方法において、
前記地下透水層は、温度が100℃以上とされた熱水および蒸気が共存する地熱流体貯蔵層とされていることを特徴とする地下不透水層の形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地下不透水層の形成方法において、
前記反応剤は、前記地下透水層に至らせて配設された休止坑井若しくは廃止坑井を介して前記地下透水層内に供給されることを特徴とする地下不透水層の形成方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−90698(P2006−90698A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235704(P2005−235704)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)