説明

地下収納庫の外壁の検査方法及び地下収納庫

【課題】地下に埋設された収納庫の外壁の検査方法及び当該検査をするのに適した構造の地下収納庫に関し、鉄板と、断熱層と、最外側のFRP層とを備えた外壁のFRP層のピンホールやクラックを検出する方法、及び当該方法を実施するのに適した構造の地下収納庫を提供する。
【解決手段】外壁の一箇所に基端を鉄板31に気密に溶接した接続管(ソケット)を地下収納庫の内側に向けて立設し、このソケットの中空孔に連通する貫通孔を鉄板及び断熱層に設け、断熱層の外側にFRP層を形成して硬化させたあと、ソケット38に加圧空気源及び圧力計を接続してソケットに加圧空気を供給し、その後の圧力計の検出圧力の変化を読取る。加圧空気の供給を停止した後も検出圧力が低下しなければ、FRP層にはピンホールやクラックが存在しないと判定する。ソケット及び貫通孔は、そのまま残しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下に埋設された収納庫の外壁の検査方法及び当該検査をするのに適した構造を備えた地下収納庫の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、下記特許文献1において、横置き円筒形の地下収納庫を提案している。当該地下収納庫は、中に人が入って立った姿勢で作業をすることが可能な程度の直径を備えた横置き円筒形の収納庫で、その両円弧側壁部分の内側に設けられた収納スペース22と、当該収納庫の頂部に設けられたハッチ14とを備えている。この収納庫は、住宅の床下の地下に埋設して設置するというものである。
【0003】
この地下収納庫の外壁は、強度部材となる鉄板と、当該鉄板を地下水などから保護するための樹脂層によって形成される。樹脂層としては、通常、繊維強化樹脂層(FRP層)が使用される。更に庫内の好適な環境を確保するためには、外壁に断熱層を設けるのが好ましい。好ましい断熱層は、前記鉄板とFRP層の間に設けられた発泡樹脂の層である。このような構造で設けられる断熱層の外側にFRP層をスプレイアップによって形成するときは、噴霧された樹脂が断熱層の断熱性能を低下させるのを防止するために、断熱層の外面に遮蔽フィルムを貼り、その上にスプレイアップによってFRP層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐56609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような外壁、すなわち強度部材としての鉄板と、断熱層と、最も外側に配置されたFRP層とを備えた外壁のFRP層は、地下水などから鉄板や断熱層を保護するためのものである。このFRP層は、通常、スプレイアップ法やハンドレイアップ法によって形成するが、形成したFRP層にピンホールやクラックが存在すると、地下水が当該ピンホールやクラックを通ってFRP層の内側に浸入するので、鉄板や断熱層の保護を図ることができない。
【0006】
FRP層は、ピンホールやクラックが生じないように十分な注意を払って形成するが、目視では形成したFRP層にピンホールやクラックがあるかどうかを判別することができない。地下に設置される燃料タンクなどの外殻は、鉄板の外側にFRP層を設けた構造であるが、このような外殻のFRP層のピンホールやクラックの存在は、外殻の内側と外側とに電圧をかけるという方法で検出することができる。しかし、所望の断熱効果を得るのに必要な厚さの断熱層を設けた地下収納庫の外壁の場合には、上記の電圧をかける方法でFRP層のピンホールやクラックを検出することができない。
【0007】
スプレイアップされたFRP層にピンホールやクラックが存在することは皆無に近いが、もし存在すると、収納庫の耐久性が著しく低下する。従って、FRP層を形成した後に、当該FRP層にピンホールやクラックが存在しないことを確認する検査を行うことができれば、より信頼性の高い地下収納庫を提供することができる。
【0008】
この発明は、強度部材となる鉄板と、断熱層と、最外側に配置されたFRP層とを備えた地下収納庫の外壁の、当該FRP層のピンホールやクラックを検出する簡単な方法、及び、当該方法を実施するのに適した構造の地下収納庫を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の地下収納庫の外壁の検査方法は、鉄板31と、断熱層32と、それらの外側に位置するFRP層34とを備えた地下収納庫の外壁3の検査方法であって、外壁3の一箇所に基端を鉄板31に気密に溶接した接続管(ソケット)38を地下収納庫の内側に向けて立設し、このソケットの中空孔37に連通する貫通孔36を鉄板31及び断熱層32に設け、当該貫通孔を遮蔽フィルム33で塞いだ状態で鉄板31及び断熱層32の外側にFRP層34を形成して硬化させたあと、ソケット38に加圧空気源42及び圧力計41を接続して、当該ソケットを通してFRP層34の内側に加圧空気を供給し、その後の圧力計41の検出圧力の変化を読取るというものである。
【0010】
加圧空気の供給を停止した後も圧力計41の検出圧力が低下しなければ、FRP層34にはピンホールやクラックが存在せず、検出圧力が経時的に低下すれば、FRP層34にピンホールやクラックが存在すると判定する。この発明の方法で検査を行ったあと、ソケット38の中空孔37をプラグで閉止しておくのが好ましい。ソケット38及び鉄板と断熱層に設けた貫通孔36は、そのまま残しておく。
【0011】
ソケット38及び貫通孔36を設ける位置は、外壁のどこであってもよいが、外壁3の底部に設けるときは、収納庫の底部に設ける床板23の下面に達しない短い長さでソケット38を設ける。また、ソケット38を設ける他の好ましい位置は、庫内に設ける収納棚27の下の部分である。
【0012】
上記の検査のために設けたソケット38や貫通孔36を残しておけば、数年後に当該ソケットに加圧空気源42と圧力計41を接続して、使用している間にFRP層34のピンホールやクラックの発生及びFRP層の端縁の剥離を検出することが可能である。
【0013】
外壁3にハッチ14などの開口部や吊金具53などが設けられている部分では、FRP層34に端縁が生ずる。断熱層32の外面に遮蔽フィルム33を張った上にFRP層34を形成した外壁では、この端縁は、鉄板31や断熱層32に接着されておらず、従ってこの端縁からFRP層34の内側に地下水などが浸入し、また上記の検査の際に空気が漏出してピンホールやクラックを検出できない。
【0014】
この問題を解決するため、この発明の地下収納庫では、FRP層34の端縁の気密を完全にするために、当該端縁部分で所定幅(端縁における縁の方向と直交する方向の寸法)で断熱層32及び遮蔽フィルム33が存在しない領域A、Bを設け、この領域A部分でFRP層34が鉄板31の外面に密着した状態で形成する。FRP層34の樹脂は、鉄板との親和性が高く、所定幅の領域を取ることでFRP層34の内側を完全に密封することができる。
【0015】
FRP層34を鉄板31に直接密着させた領域A、B部分には、断熱層32が形成されないことになる。この部分にも断熱層を形成したいのであれば、鉄板31に密着したFRP層34の外側に断熱層32aを形成し、必要な場合には、更にその外側に第2のFRP層34aを形成してやればよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したこの発明によれば、鉄板31と断熱層32とを備えた地下収納庫の外壁3の保護層となっているFRP層34のピンホールやクラックを確実に検出することができ、そのために必要とする費用も極めて僅かである。また、この発明の地下収納庫は、必要があればいつでもこの発明の方法による検査を容易に行うことができ、長年の使用によるピンホールやクラック及び剥離の発生を検出することが可能であり、品質の安定した地下収納庫を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】設置された地下収納庫の正面図
【図2】建物の床の一部と共に示す地下収納庫の断面側面図
【図3】同断面正面図
【図4】外壁の一部拡大断面図
【図5】ハッチを設けた部分の拡大断面図
【図6】吊り金具を設けた部分の拡大断面図
【図7】検査方法を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明の地下収納庫及び検査方法を説明する。地下収納庫1は、横置き円筒形で、長手方向両端下方両側から斜め外側下方に延びる脚51により地下に設けたコンクリート基礎52に定着されている。収納庫の上部には、出入口となるハッチ14が設けられ、設置時にクレーンで収納庫を吊上げるための吊金具53が設けられている。更に必要により、換気のために地上に突出する通気パイプ16、17なども適宜設けられる。外壁3の外側に突出するこれらの部材は、外壁の強度部材となっている鉄板31に溶接して設けられている。
【0019】
収納庫1の外壁3は、筒状の胴11の両端を鏡板12で閉鎖した横円筒状で、その頂部13の一部に平面矩形の出入口となるハッチ14が設けられている。ハッチ14は低い周壁15とその上端のフランジ18とを備え、フランジ18の上面は、建物の床板の下面との間に僅かに間隔を隔てた水平面上に位置している。両側の鏡板12の頂部には、通気パイプ16、17がその基端を外壁の鉄板31に溶着して設けられている。
【0020】
胴11及び鏡板12は、内側から鉄板31、下塗り塗装層、断熱層32、プラスチックシートからなる遮蔽フィルム33、FRP層34及び仕上塗装層からなる多層構造である。FRP層34は、ガラス繊維を混入した不飽和ポリエステル樹脂の吹きつけ(スプレイアップ)により形成した層で、強度部材となっている鉄板31の腐食、特に電食を防止するための層となっている。FRP層の下層の遮蔽フィルム33は、FRPを吹付けたときに断熱層32の気泡が埋まって断熱性能が低下するのを防止するために設けたものである。
【0021】
収納庫1の内部は、胴11の中央部に筒軸方向の作業スペース21が設けられ、その両側の円弧側壁の内側部分及び作業スペース21の両端部が収納スペース22となっている。作業スペース21には、廊下状に床板23が設けられ、ハッチ14の周壁に上端を着脱自在ないし揺動自在に係止した梯子24が架設されている。収納スペース22には、棚枠25が設けられ、この棚枠に棚板26を架け渡すことによって収納棚27が形成されている。
【0022】
収納庫の外壁3は、図4に示すように、強度部材となる鉄板31の外側に発泡ポリエチレン製の断熱層32を設け、スプレイアップ時にFRPの樹脂が断熱層の断熱性を低下させるのを防止するための遮蔽フィルム33を介して断熱層32の外側に形成されたFRP層34を備えている。外壁の鉄板31の一箇所には、鉄板31と断熱層32とを貫通する貫通孔36が設けられ、この貫通孔に中空孔37を連通させてソケット(先端にパイプ接続手段を備えた短円筒管)38がその基端を鉄板31に気密に溶着して植立されている。ソケット38の中空孔37の先端側には、管用テーパねじが設けられて、圧力計41や加圧空気源42に繋がるホース44(図7)を接続できるようになっている。
【0023】
FRP層34は、貫通孔36を設けたあと、遮蔽フィルム33で当該貫通孔が塞がれている状態で遮蔽フィルム33の上にスプレイアップにより形成される。断熱層32は、接着剤によって鉄板31に接着されているが、遮蔽フィルム33は、接着されていないので、空気は内側から外側へと通過可能である。
【0024】
図5は、ハッチ14部分におけるFRP層34の端縁の処理を、また図6は、吊金具53が取り付けられた部分のFRP層34の端縁の処理を示した図である。外壁を形成する断熱層32や遮蔽フィルム33は、ハッチ14や吊金具53が鉄板31に溶接されて立ち上がっている箇所から所定幅の領域A、Bには設けられておらず、この領域においては、スプレイアップされたFRP層34が鉄板31の上に直接吹き付けられて形成されている。そのためFRP層34の端縁は、所定幅で鉄板31と密着することにより、鉄板31との間が密封されている。
【0025】
図5に示すハッチ14の部分では、鉄板31に密着したFRP層34の上に部分的な断熱層32aが形成され、その断熱層の上に更に部分的な第2のFRP層34aが形成されている。鉄板31に密着したFRP層34は、ハッチ14の上部のフランジ18の部分にまで延びており、部分的な断熱層32aは、このフランジ18の部分には設けられておらず、第2の部分的なFRP層34aが鉄板31に密着しているFRP層34の上に密着した状態となっている。
【0026】
一方、吊金具53の部分においては、鉄板31に密着したFRP層34の上にウレタン樹脂の断熱層32bが形成されているのみである。これはハッチ14の部分に比べて吊金具53の部分の断熱性の要求が比較的低いためである。それは、断熱層32が設けられていない領域Bの面積が小さいことによる。
【0027】
なお、図1に示した脚51は、基端を鉄板31に溶着した帯状の鉄板製であり、この鉄板製の脚51の外側には、ウレタンの断熱層32b(図1)が設けられている。
【0028】
次に図7を参照して、上述した地下収納庫の外壁の検査方法を説明する。外壁にFRP層34を形成して硬化させたあと、ソケット38に圧力計41と加圧空気源42とを接続する。加圧空気源42に接続する管路には遮蔽弁43を設ける。そして、遮蔽弁43を開いてソケット38に加圧空気を供給する。前述したように、遮蔽フィルム33は、気密構造で設けられていないので、ソケット38に供給された加圧空気は、貫通孔36を経てFRP層34と遮蔽フィルムないし断熱層32との間の隙間に流入する。圧力計41の検出圧力が所定の圧力になった所で遮蔽弁43を閉じる。そして、圧力計41の検出圧力の経時変化を観察する。
【0029】
遮蔽弁43を閉じたあと、圧力計41の検出圧力が維持されていれば、FRP層34にピンホールやクラックが存在せず、またその端縁部からも空気漏れがないことが判る。一方、圧力計41の検出圧力が時間が経つに従って低下するようであれば、FRP層34にピンホールやクラックがあるか、又はFRP層の端縁が鉄板31から剥離して気密が完全でないことが判る。
【0030】
この実施例の収納庫では、FRP層34の端縁を気密性が十分確保できる構造で鉄板31と密着させているので、検出圧力の低下はFRP層のピンホールやクラックが原因であると判断することができる。そこで、検出圧力の低下が認められたときは、当該収納庫のFRP層34を更に重ねて設けて再度検査を行い、ピンホールやクラックがないことを確認した上で地下に埋設する。
【符号の説明】
【0031】
1 地下収納庫
3 外壁
23 床板
26 棚板
31 鉄板
32 断熱層
32a 外側断熱層
33 遮蔽フィルム
34 FRP層
34a 外側FRP層
36 貫通孔
37 中空孔
38 接続管(ソケット)
41 圧力計
42 加圧空気源
A、B 突出部の周囲の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄板(31)と断熱層(32)とそれらの外側に位置するFRP層(34)とを備えた地下収納庫の外壁(3)の検査方法であって、外壁(3)の一箇所に基端を鉄板(31)に気密に溶接した接続管(38)を地下収納庫の内側に向けて立設し、この接続管の中空孔(37)に連通する貫通孔(36)を鉄板(31)及び断熱層(32)に設け、当該貫通孔を遮蔽フィルム(33)で塞いだ状態で鉄板(31)及び断熱層(32)の外側にFRP層(34)を形成して硬化させたあと、接続管(38)に加圧空気源(42)及び圧力計(41)を接続して、当該接続管を通してFRP層(34)の内側に加圧空気を供給し、その後の圧力計(41)の検出圧力の変化を読取ることを特徴とする、地下収納庫の外壁の検査方法。
【請求項2】
地下空間を区画する外壁であって強度部材である鉄板(31)と断熱層(32)の外側にFRP層(34)を備えた外壁(3)と、
この外壁の鉄板及び断熱層を貫通してFRP層の内側に達する貫通孔(36)と、
この貫通孔に中空孔(37)を連通してその基端を前記鉄板に気密に固定して植立された接続管(38)とを備え、当該接続管は収納庫内の床板(23)ないし棚板(26)と干渉せずかつ収納庫内の人の動作を阻害しない短い長さで設けられている、地下収納庫。
【請求項3】
前記鉄板(31)に溶接されて外壁(3)のFRP層(34)の外側に突出する突出部(15,53)を備えた地下収納庫において、
これら突出部の周囲に断熱層(32)を設けてない領域(A,B)が設けられ、当該領域において、前記鉄板の表面と前記FRP層とが直接接着することにより、当該鉄板とFRP層の間の空間が密封されている、請求項2記載の地下収納庫。
【請求項4】
前記鉄板に直接接着している領域(A)のFRP層(34)の外側に、外側断熱層(32a)と外側FRP層(34a)とが更に設けられている、請求項3記載の地下収納庫。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−214294(P2011−214294A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82694(P2010−82694)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(593140956)玉田工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】