説明

地下構造体へのシールド機通過方法

【課題】 安価な無筋コンクリートを使用したセグメントを用いても、地下構造体への土水圧に耐えることができ、地下構造体の溶断や撤去を行うことなく容易に地下構造体へシールド機を通過させることができる、地下構造体へのシールド機通過方法を提供する。
【解決手段】補強部材19の牽引及び切断を繰り返して、補強部材19がシールド通過部5から外れ、かつ、補強部材19が止水パッカ17bから抜ける前に、補強部材19の牽引を止める。このまま補強部材19を止水パッカ17bから抜いてしまうと、エントランスルーム69内の泥水73が、止水パッカ17bからシールドトンネル1内部に漏れ出すためである。この状態で、補強部材19と止水パッカ17bとを接合する。また、補強部材19からワイヤ75を撤去する。補強部材19は、止水パッカ17bを塞ぎ、止水蓋の役割を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネルやケーソン立坑などの地下構造体へのシールド機通過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シールドトンネルなどの地下構造物内よりシールド機を発進させる方法としては、発進部の地下構造物外側に薬液注入などにより地盤改良を施し、発進部の補強等を実施後、発進部のセグメントを解体、溶断等により撤去して、シールド機を発進させていた。このため、シールド機発進部は、シールド機を発進させる前に、多くの時間を要し、また、セグメントの撤去や溶断などは危険を伴う作業であった。
【0003】
このような、地下構造物からのシールド機の発進方法としては、例えば、立坑のシールド機発進部を、高強度繊維製シート等で補強されたコンクリートで構築する方法がある(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
また、鋼製セグメントに高靱性コンクリートを組み合わせ、シールド機の発進口に該当するセグメントの一部を補強するとともに、発進口を高靱性コンクリートで構成する方法がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−68294号公報
【特許文献2】特開平11−200761号公報
【特許文献3】特開2003−253992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、特許文献2に記載された発明では、シールド機発進部に該当する地下構造物の一部を、溶断や撤去する必要はないものの、高靱性シート等は非常に高価であるため、施工費用がかさむという問題がある。
【0007】
また、特許文献3に記載された発明では、特殊な構造のセグメントを使用する必要があるとともに、高靱性コンクリートは非常に高価であるため、費用がかさむという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、安価な無筋コンクリートを使用したセグメントを用いても、地下構造体への土水圧に耐えることができ、地下構造体の溶断や撤去を行うことなく容易に地下構造体へシールド機を通過させることができる、地下構造体へのシールド機通過方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、本発明は、地下構造体にシールド機を通過させる方法であって、前記地下構造体のシールド通過部を無筋コンクリートで形成するとともに、前記シールド通過部に補強部材を設ける工程aと、前記シールド通過部を囲うように枠体を設ける工程bと、前記地下構造体と前記枠体との間に液体を注入し、前記枠体内の水圧を、前記地下構造体外部の土水圧と略同等とする工程cと、前記補強部材を抜き取る工程dと、前記シールド通過部をシールド機で掘削する工程eと、を具備し、前記工程aでは、前記補強部材の一方の端部近傍に第1の止水部材が設けられ、前記工程dでは、前記補強部材の先端が前記第1の止水部材から抜ける前に、前記補強部材を前記第1の止水部材へ固定することを特徴とする地下構造体へのシールド機通過方法である。
【0010】
前記工程aでは、前記補強部材の他方の端部近傍に第2の止水部材が更に設けられ、前記工程dでは、前記補強部材の先端が前記第2の止水部材内にある状態で、前記第2の止水部材の端に止水蓋を設けることが望ましい。
【0011】
前記地下構造体はシールドトンネルであり、前記工程aは、シールド機により前記シールドトンネルを構築しながら、前記シールドトンネルの前記シールド通過部へ無筋コンクリート部を有するセグメントを設置する工程であり、前記工程dは、前記シールドトンネルの周方向に前記補強部材を抜き取ってもよく、または、前記地下構造体はケーソン立坑であり、前記工程aは、ケーソンの前記シールド通過部を無筋コンクリートで形成する工程であり、前記工程aの後に前記ケーソンを沈設させる工程fを更に具備し、前記工程dは、前記ケーソン立坑内で略鉛直方向または略水平方向に前記補強部材を抜き取ってもよい。
【0012】
前記工程aでは、前記補強部材と前記地下構造体との間に荷重伝達部材が設けられてもよく、前記工程aでは、前記補強部材のガイドが設けられてもよい。
【0013】
本発明によれば、シールド機の通過部が無筋コンクリートで形成されるため、セグメントの溶断や撤去を行うことなく、シールド機を発進することができる。また、補強部材が設けられるため、高価な高靱性コンクリートなどを使用しなくとも、外部からの土圧に耐えることができる。
【0014】
また、補強部材を撤去する前に構造物の内面に泥水等の液体を充填し、外部からの土水圧と同等の圧力とすれば、補強部材撤去時にも、シールド通過部が構造物外部からの土水圧に耐えることができる。さらに、補強部材と地下構造物との間に荷重伝達部材を設置すれば、効率よく地下構造物からの荷重を補強部材が受けることができ、また、補強部材のガイドを設ければ、補強部材の撤去時に補強部材が倒れたりすることがない。従って、特殊な高靱性コンクリートを使用することなく、外部からの土水圧に耐え、シールド機通過部の地下構造物の溶断や撤去等をすることなく、容易にシールド機を通過させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価な無筋コンクリートを使用したセグメントを用いても、地下構造体への土水圧に耐えることができ、地下構造体の溶断や撤去を行うことなく容易に地下構造体へシールド機を通過させることができる、地下構造体へのシールド機通過方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シールドトンネル1の外観を示す図。
【図2】シールドトンネル1の内面から見た、シールド通過部5近傍を示す図。
【図3】無筋コンクリートセグメント7を示す図で、(a)は無筋コンクリートセグメント7aを示す図、(b)は無筋コンクリートセグメント7bを示す図。
【図4】補強スチールセグメント9を示す図。
【図5】無筋コンクリートセグメント7内面に補強部材19を設けた状態を示す図。
【図6】枠体65によりエントランスルーム69が設けられた状態を示す図。
【図7】エントランスルーム69に泥水73が注入された状態を示す図。
【図8】補強部材19を引抜く状態を示す図。
【図9】止水パッカ17aに止水蓋79が設けられた状態を示す図。
【図10】補強部材19を切断しながら牽引する状態を示す図。
【図11】補強部材19が止水パッカ17bに固定された状態を示す図。
【図12】ケーソン立坑85からシールド機71を発進させる状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるシールドトンネル1を示す図である。
【0018】
地下構造体としてのシールドトンネル1は、複数のセグメントから構成される。シールドトンネル1の側方には、分岐シールド予定部3に分岐シールドが設けられ、シールド通過部5でシールドトンネル1と接続される。
【0019】
シールド通過部5に該当する部位には、通常のセグメントに代えて、無筋コンクリートセグメント7が設けられる。シールド通過部5に設置された無筋コンクリートセグメント7の両サイド(シールドトンネル1の軸方向)には、側部補強セグメント11が設けられる。また、無筋コンクリートセグメント7と周方向に隣接する部位には、補強スチールセグメント9が設けられる。
【0020】
図2は、シールドトンネル1の内部から見た、シールド通過部5近傍を示した図である。シールド通過部5に該当する部位は、無筋コンクリートセグメント7が設けられており、無筋コンクリートセグメント7のトンネル周方向には、補強スチールセグメント9が接合される。シールド通過部5に設けられた無筋コンクリートセグメント7のトンネル軸方向には、側部補強セグメント11が設けられており、その他の部位は一般セグメント13が設けられる。
【0021】
なお、側部補強セグメント11は、シールド通過時の補強機能を有するセグメントであり、一般セグメント13よりもやや幅は狭く、リブ等で補強が施されている。また、一般セグメント13は、鋼製セグメント、RCセグメント、合成セグメント等従来使用されているセグメントでよい。
【0022】
補強スチールセグメント9には、ブラケット15が設けられる。無筋コンクリートセグメント7の内面には、補強部材19が、シールド通過部5を覆うように、シールドトンネル1の軸方向に複数並列して設けられる。補強部材19は、棒状の部材であり、シールドトンネル1の円周方向内面に沿った円弧状の部材である。補強部材19の両端は、無筋コンクリートセグメント7の両側それぞれに接続された補強スチールセグメント9のブラケット15で固定される。
【0023】
無筋コンクリートセグメント7と補強スチールセグメント9との接合部近傍には、止水パッカ17が設けられる。補強部材19は止水パッカ17を貫通する。止水パッカ17は、補強部材19に沿って水が補強スチールセグメント9側に浸入することを防止する。
【0024】
図3は、無筋コンクリートセグメントを示す図で、図3(a)は無筋コンクリートセグメント7aを示す図、図3(b)は無筋コンクリートセグメント7bを示す図である。
【0025】
無筋コンクリートセグメント7としては、図3(a)に示すような無筋コンクリートセグメント7aが使用できる。無筋コンクリートセグメント7aは、無筋コンクリート21からなる。なお、シールド通過部に該当する部位以外は、鉄筋等が埋設されることが望ましい。特にリング間継手の補強のため、継手部には配筋が必要である。無筋コンクリートセグメント7aの内面側および側面には、曲がりボルト穴23a、23bが設けられる。曲がりボルト穴23a、23bは、曲がりボルトによって、隣接するセグメントと接合する際に使用される。なお、シールド通過部5に設けられるセグメント同士の継手は、シールド機で切断可能な材質であるか、曲がりボルトのように鋼製継手板が不要で、かつシールド通過前にボルトを撤去することができるものとする。シールド通過部5以外の継手部には通常のボルトや継手板を設けることもできる。
【0026】
また、無筋コンクリートセグメント7としては、図3(b)に示すような無筋コンクリートセグメント7bを使用することもできる。無筋コンクリートセグメント7bは、スキンプレート29、継手板33、側板31、縦リブ35等からなる通常の鋼製セグメントに対して、シールド通過部に該当する部位が枠板41で区画される。枠板41で区画された部位には無筋コンクリート25が設けられる。継手板33および側板31には、接合穴37、継手穴39がそれぞれ設けられる。また、無筋コンクリート25には、曲がりボルト穴27が設けられる。接合穴37、継手穴39、曲がりボルト穴27は、隣接するセグメントとの接合部である。
【0027】
図4は、補強スチールセグメント9を示す図である。補強スチールセグメント9は、スキンプレート43、側板45、継手板47、縦リブ49等により構成される通常の鋼製セグメントに対して、ブラケット15、および止水パッカ17等が設けられる。補強スチールセグメント9の一方の継手板53は、補強スチールセグメント9の高さよりも高く、補強部材用穴59が設けられる。
【0028】
補強部材用穴59は補強部材19が貫通する穴である。補強部材用穴59の継手板53の背面には、止水パッカ17が設けられる。止水パッカ17は、筒状部材であり、内面がシールされている。このため、補強部材19が止水パッカ17に挿入されると、継手板53の表側から止水パッカ17の背面へは水が浸入しない。
【0029】
止水パッカ17の後方にはブラケット15が設けられる。ブラケット15は補強部材19の端部を固定するための部材である。すなわち、補強部材19は補強部材用穴59および止水パッカ17を貫通して、端部がブラケット15に固定される。
【0030】
継手板47、53、側板45には、それぞれ接合穴57、継手穴51が設けられ、隣接するセグメント同士の接合に用いられる。なお、補強スチールセグメント9の形態は図4に示したものに限られず、必要に応じて、止水パッカ17、ブラケット15の設置位置や設置個数は適宜変更可能であり、また、補強の程度に応じて、縦リブ49の形状を変更したり、側板45に平行なリブ等を別途設けることもできる。
【0031】
次に、本実施の形態にかかるシールド機通過方法を説明する。図5から図11は本実施の形態にかかるシールド機通過方法を示す図であり、図2のA−A矢視図である。
【0032】
まず、図5に示すように、無筋コンクリートセグメント7及び補強スチールセグメント9等によってシールドトンネル1を構築する。シールド通過部5は無筋コンクリートで構成されるが無筋コンクリートのみでは、シールドトンネル1の外部からの土水圧に耐えることができないため、無筋コンクリートセグメント7の内面には、補強部材19が設けられる。すなわち、無筋コンクリートセグメント7が型枠であるとすると、補強部材19が支保工の役割を有する。
【0033】
補強部材19の設置方法は、以下の通りである。例えば、下方の補強スチールセグメント9を先に設置した場合には、無筋コンクリートセグメント7を接合後、補強部材19の端部を止水パッカ17aに通す。その後、上方の補強スチールセグメント9を設置する際に、補強部材19の端部が、止水パッカ17bに挿入されるように設置する。次いで、補強部材19の両端をそれぞれブラケット15に固定する。なお、補強部材19とブラケット15との接合は、溶接でもボルト固定でも良い。
【0034】
補強部材19と無筋コンクリートセグメント7との隙間がある場合には、無筋コンクリートセグメント7がシールドトンネル1の外部より受ける荷重を補強部材19が効率よく受けることができない。この場合には、補強部材19と無筋コンクリートセグメント7との間に荷重伝達部材61を設けることが望ましい。荷重伝達部材61としては、楔状の一対の部材を、所定間隔で補強部材19と無筋コンクリートセグメント7との隙間に打ち込んでも良く、また、隙間をモルタル等で埋めても良い。
【0035】
次に、図6に示すように、継手板53近傍(または補強スチールセグメントの一部)に枠体65を設ける。枠体65は例えば鋼板であり、溶接等により固定される。枠体65は、シールド通過部5を囲むように設けられる。すなわち、枠体65はシールド通過部5を囲むように筒状に設けられ、枠体65および無筋コンクリートセグメント7とで囲まれた空間にシールド機のエントランスルーム69が形成される。
【0036】
枠体65の端部には、エントランスルーム69の開口部側に向けてパッキン67が設けられる。パッキン67はゴム製や樹脂製であり、エントランスルーム69にシールド機が侵入した際に、エントランスルーム69からの泥水等がシールドトンネル1内へ浸入することを防ぐ。なお、枠体65の形状は、図6に示すようにL字状以外でもよく、たとえば平板状であってもよい。
【0037】
無筋コンクリートセグメント7には、必要に応じてガイド63が設けられる。ガイド63は補強部材19がシールドトンネル1の軸方向にぶれたり、内部に倒れたりするのを防ぐためのものである。ガイド63としては、例えば半割のリング状部材であり、補強部材19を挟み込み、一部を無筋コンクリートセグメント7に固定すれば良い。なお、ガイド63は、シールド機で掘削可能な樹脂製、コンクリート製等であることが望ましい。
【0038】
次に、図7に示すように、エントランスルーム69にシールド機71の先端を挿入し、シールド機71の先端が補強部材19に当たる前の位置で停止する。シールド機71の先端は、枠体65で囲まれたエントランスルーム69内に収まり、周囲はパッキン67で止水される。なお、シールド機71がエントランスルーム69に挿入される前に、シールド通過部5に該当する無筋コンクリートセグメント7同士の接合部に使用されていた曲がりボルト等は撤去される。曲がりボルトがシールド機71の掘削に影響を与えない場合には、曲がりボルトを撤去する必要はない。
【0039】
シールド機71の周囲が、パッキン67によりシールされた状態で、エントランスルーム内に液体として泥水73を注入する。この際、エントランスルーム69内の泥水73の圧力を、シールドトンネル1外部からの土水圧とほぼ同等となるように調整する。シールド機71の外周面はパッキン67で止水されているため、エントランスルーム69からシールドトンネル1の内部へ泥水73が漏れ出すことはない。なお、液体としては泥水73に代えて、加泥材等を使用することもできる。
【0040】
次に、図8に示すように、補強部材19を抜き取る。補強部材19を抜き取る方法は以下の通りである。まず、補強部材19両端に接合されていたブラケット15を撤去する。次いで、補強部材19の上端にワイヤ75を接合する。また、必要に応じて、補強部材19の下端部にジャッキ77を設置する。ワイヤ75を図中B方向へ牽引するとともに、ジャッキ77により補強部材19を図中矢印 C方向に押出すことで、補強部材19は、ガイド63及び止水パッカ17a、17bに沿って移動する。なお、ある程度補強部材19が移動したら、ジャッキ77は撤去し、ワイヤ75の牽引のみによって補強部材19を抜き取る。ワイヤ75の牽引は、必要に応じて滑車等を使用し、レバーブロック(登録商標)等で行う。
【0041】
図9は、補強部材19が移動し、補強部材端部81が止水パッカ17a内に収まっている状態を示す図である。補強部材端部81が止水パッカ17a内に収まっている状態で、ワイヤ75の牽引を一旦止める。補強部材端部81が止水パッカ17aより抜けると、止水パッカ17aより内部の泥水73がシールドトンネル1内へ漏れ出すためである。
【0042】
止水パッカ17aからの泥水73の漏れを防止するため、補強部材端部81が止水パッカ17a内部にある状態で、止水パッカ17aの端部に止水蓋79を設ける。止水蓋79は、止水パッカ17aから泥水73が漏れなければ良く、例えば鋼製等でよく、溶接やボルト止めで固定される。
【0043】
次に、図10に示すように、補強部材19をワイヤ75で牽引し引抜く。なお、補強部材19は一度に抜き取ることが困難である場合が多い。この場合には、所定長さの補強部材19を引抜くたびに、補強部材19を切断し、切断部にワイヤ75を改めて固定して、ワイヤ75を牽引する工程を繰り返す。なお、補強部材19が引抜かれる際に、荷重伝達部材61は自然と外れて、エントランスルーム69内に沈降する。
【0044】
補強部材19を切断する際には、止水パッカ17bと切断部との間の補強部材19に、落下防止金具83を設けることが望ましい。切断した際に、補強部材19がエントランスルーム69内に落下することを防止するためである。なお、落下防止金具83は、例えばリング状の鋼製部材であり、ボルトで補強部材19へ固定すれば、補強部材19の切断のたびに、落下防止金具83をずらしながら補強部材19を切断していくことができる。この場合、落下防止金具83から突出した部分が切断部85となる。また、落下防止金具83にワイヤ75を接続することもできる。
【0045】
図11は、補強部材19の端部が止水パッカ17aから抜ける前の状態を示す図である。補強部材19の牽引及び切断を繰り返して、補強部材19がシールド通過部5から外れ、かつ、補強部材19が止水パッカ17bから抜ける前に、補強部材19の牽引を止める。このまま補強部材19を止水パッカ17bから抜いてしまうと、エントランスルーム69内の泥水73が、止水パッカ17bからシールドトンネル1内部に漏れ出すためである。
【0046】
補強部材19がシールド通過部5から外れた状態で、補強部材19が止水パッカ17bから抜ける前に補強部材19の牽引を止めて、この状態で、補強部材19と止水パッカ17bとを接合する。また、補強部材19からワイヤ75を撤去する。補強部材19は、止水パッカ17bを塞ぎ、止水蓋の役割を有する。
【0047】
その後、シールド機71を発進し、無筋コンクリートセグメント7を通過させる。シールド通過部5は、無筋コンクリート等の掘削可能な材質のみであり、掘削部に鋼製部材がないため、容易に掘削することができる。すなわち、シールド機71がシールドトンネル1を容易に通過することができる。
【0048】
本発明にかかる地下構造体へのシールド機通過方法によれば、シールド機の通過部外部の地盤改良を行う必要がなく、また、セグメントの溶断や撤去を行う必要がないため、効率よくシールド機をシールドトンネルに通過させることができる。また、シールド通過部に高靱性コンクリートなどを使用しないため、シールド機の通過が安価である。
【0049】
また、補強部材19を撤去する前にエントランスルーム69内に泥水73を充填し、外部からの土水圧と同等の圧力とすれば、補強部材撤去時にも、無筋コンクリートセグメント7が土水圧によって破損することがない。さらに、補強部材19と無筋コンクリートセグメント7との間に荷重伝達部材61を設置すれば、効率よく地下構造物からの荷重を補強部材が受けることができ、また、補強部材19のガイド63を設ければ、補強部材19の引抜き時に補強部材19がずれることがない。
【0050】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
例えば、本実施の形態においては、シールドトンネル1の内部からシールド機71を発進させる場合を示したが、シールドトンネル1へシールド機71を到達させる場合にも同様の方法が使用できる。この場合、エントランスルーム69を別途封鎖して、同様に内部に泥水を注入して土水圧を外部の土水圧と同等にした後に補強部材を抜き取ればよい。
【0052】
また、本実施の形態においては、地下構造体として、シールドトンネル1の例を示したが、その他の地下構造体でも良い。例えば、図12はケーソン立坑85からシールド機71が発進する場合を示す図である。ケーソン立坑81の場合には、シールド通過部5を予め無筋コンクリートで形成しておき、内部に補強部材19を設けておく。補強部材19の両端は止水パッカ17a、17bが設けられる。以下、同様の手順でエントランスルーム69を枠体65により形成し、エントランスルーム69内に泥水を注入後、補強部材19を抜き取り、シールド機71を発進させることもできる。
【符号の説明】
【0053】
1………シールドトンネル
3………分岐シールド予定部
5………シールド通過部
7………無筋コンクリートセグメント
9………補強スチールセグメント
11……側部補強セグメント
13……一般セグメント
15……ブラケット
17……止水パッカ
19……補強部材
21……無筋コンクリート
23……曲がりボルト穴
25……無筋コンクリート
27……曲がりボルト穴
29……スキンプレート
31……側板
33……継手板
35……縦リブ
37……接合穴
39……継手穴
41……枠板
43……スキンプレート
45……側板
47……継手板
49……縦リブ
51……継手穴
53……継手板
57……接合穴
59……補強部材用穴
61……荷重伝達部材
65……枠板
67……パッキン
69……エントランスルーム
71……シールド機
73……泥水
75……ワイヤ
77……ジャッキ
79……止水蓋
81……補強部材端部
83……落下防止金具
85……ケーソン立坑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造体にシールド機を通過させる方法であって、
前記地下構造体のシールド通過部を無筋コンクリートで形成するとともに、前記シールド通過部に補強部材を設ける工程aと、
前記シールド通過部を囲うように枠体を設ける工程bと、
前記地下構造体と前記枠体との間に液体を注入し、前記枠体内の水圧を、前記地下構造体外部の土水圧と略同等とする工程cと、
前記補強部材を抜き取る工程dと、
前記シールド通過部をシールド機で掘削する工程eと、
を具備し、
前記工程aでは、前記補強部材の一方の端部近傍に第1の止水部材が設けられ、
前記工程dでは、前記補強部材の先端が前記第1の止水部材から抜ける前に、前記補強部材を前記第1の止水部材へ固定することを特徴とする地下構造体へのシールド機通過方法。
【請求項2】
前記工程aでは、前記補強部材の他方の端部近傍に第2の止水部材が更に設けられ、
前記工程dでは、前記補強部材の先端が前記第2の止水部材内にある状態で、前記第2の止水部材の端に止水蓋を設けることを特徴とする請求項1記載の地下構造体へのシールド機通過方法。
【請求項3】
前記地下構造体はシールドトンネルであり、
前記工程aは、シールド機により前記シールドトンネルを構築しながら、前記シールドトンネルの前記シールド通過部へ無筋コンクリート部を有するセグメントを設置する工程であり、
前記工程dは、前記シールドトンネルの周方向に前記補強部材を抜き取ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地下構造体へのシールド機通過方法。
【請求項4】
前記地下構造体はケーソン立坑であり、
前記工程aは、ケーソンの前記シールド通過部を無筋コンクリートで形成する工程であり、
前記工程aの後に前記ケーソンを沈設させる工程fを更に具備し、
前記工程dは、前記ケーソン立坑内で略鉛直方向または略水平方向に前記補強部材を抜き取ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地下構造体へのシールド機通過方法。
【請求項5】
前記工程aでは、前記補強部材と前記地下構造体との間に荷重伝達部材が設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の地下構造体へのシールド機通過方法。
【請求項6】
前記工程aでは、前記補強部材のガイドが設けられることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の地下構造体へのシールド機通過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−52416(P2012−52416A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274292(P2011−274292)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2008−40499(P2008−40499)の分割
【原出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】