説明

地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法

【課題】地下構造物を構築するに際して標準桁高が小さいエレメントを使用する場合であっても、作業者がエレメント内部に入ることなく、エレメント内部側の継手部の止水・防水、グラウト漏出防止を図ることができる、継手部シール方法を提供する。
【解決手段】地山に後行して挿入されるエレメントの継手のうち、地山に先行して挿入されたエレメントの継手6,9に嵌合される継手10に、エレメント内部側に露出する遊間23を覆うように押さえ板22の端部を予め固定しておき、先行エレメントの継手6,9と後行エレメントの継手10との嵌合後、継手部のシールすべき遊間23付近を清掃し、押さえ板22と継手部との間に膨張性を有するチューブ26を挿入し、その内部に充填材27を注入して、該チューブを押さえ板22と継手部との間で膨張させることによって遊間23をシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法に関し、さらに詳細には、覆工エレメントを用いて鉄道線路や道路の下方に地下構造物を構築する際に適用される継手部シール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路や道路の下方に立体交差する地下構造物を構築する工法の1つとして、長尺の多数の鋼製エレメントを地山に挿入して覆工を行うHEP&JES(High Speed Element Pull & Jointed Element Structure) 工法が知られている。
【0003】
この工法は、図1に示すように、例えば線路1下の地山に構造物の断面を区画するように、長尺の多数の覆工エレメント2,3を牽引又は推進により並列させて地山に順次挿入し、エレメント内部にコンクリートを打設して覆工壁4を構築した後、覆工壁4内方の地山を掘削して、覆工壁4を箱形ラーメン形式又は円形等の構造物とする工法である。
【0004】
このような工法に使用する覆工エレメントとして、断面が四角形の基準覆工エレメントと、その側部に順次連設される断面コ字形の一般部覆工エレメントとを用い、さらに各エレメント間の継手を全強状態に接合することができる構造とした工法について既に提案がされている(特許文献1,2参照)。
【0005】
これらの基準覆工エレメント及び一般部覆工エレメントは、いずれも鋼製のもので、その構造が図2及び図3に示されている。すなわち、基準覆工エレメント2は、図2に示すように、4枚のプレート5によって断面四角形に形成され、各隅角部には断面略C字形の継手6が長手方向に沿って設けられている。
【0006】
また、一般部覆工エレメント3は、図3に示すように、3枚のプレート7,8によって断面コ字形に形成され、各隅角部及びプレート7の開放側端部には上記継手6と同形状の継手9,10が長手方向に沿ってそれぞれ設けられている。基準覆工エレメント2は最初に地山に挿入され、次いで、基準覆工エレメント2の両側部の地山に一般部覆工エレメント3が挿入される。
【0007】
その際、図4に一方側のみを示すように、一般部覆工エレメント3は、その開放部側の継手10を基準覆工エレメント2の継手6に嵌合させながら地山に挿入される。先行して地山に挿入された一般部覆工エレメント3に並列させて、さらに後行する一般部覆工エレメント3が地山に挿入され、この後行する一般部覆工エレメント3は、その開放部側の継手10を先行する一般部覆工エレメントの隅角部側の継手9に嵌合させながら地山に挿入される。このようにして、一般部覆工エレメント3を順次地山に挿入し、図1に示したような覆工壁4が構築される。なお、各エレメントの先端には掘削機が収容されたほぼ同形状の掘削エレメントが連結され、各エレメントは地山を掘削しながら推進又は牽引により発進側から到達側に向けて地山に挿入される。
【0008】
継手6,9,10は、いずれも鋼製のものであり、図5に拡大して示すように、基部11と、基部11からそれぞれ延びる板状部12及び湾曲部13とからなっている。板状部12は、湾曲部13から離れる方向に幾分か傾斜した傾斜板状部となっていて、先端には膨出部14が形成されている。継手どうしが嵌合する嵌合溝15は、板状部12と湾曲部13との内面によって略C字形に規定され、一方の継手の膨出部14が他方の継手の嵌合溝15に嵌合されることにより、両継手が接合される。
【0009】
このような継手を有する覆工エレメントからなる覆工壁4を本体構造物として利用する場合、部材に発生する引張力はエレメント間の継手により伝達されるため、継手部は十分な強度を必要とする。このため、嵌合時には十分な遊びが有るが、嵌合完了後、継手部遊間にグラウトを注入することにより固定し、引張力を負担させるようにしている。
【0010】
ところで、エレメントの地山への挿入時、嵌合溝15に土砂等の異物を噛み込んだり、あるいはグラウト注入時にこれが漏出したりすると、グラウト注入が不完全となり、継手は十分な強度を発現することができない。このため、特許文献3で提案されているように、従来、図8,図9に示すようなシーリング対策を施している。
【0011】
すなわち、図8に示すように、先行して地山に挿入されるエレメントの継手6,9に樹脂製のダミー継手50を嵌合しておく。また、継手6,9の基部11の外面(地山に露出する面)に鋼板からなる遮蔽板51の端部を溶接等により固定し、他端部をダミー継手50に係止させておく。そして、後行する覆工エレメント3の地山への挿入時において、図9に示すように、ダミー継手50を継手10により到達立坑側に押し出し、このダミー継手50と継手10とを置換するようにしている。このような方法によれば、嵌合溝15に異物が入ることがなく、また遮蔽板51により、継手部遊間52が遮蔽されるのでグラウト材を遊間52に確実に注入することができる。
【0012】
上記は継手部の地山側についてのシーリング対策であるが、継手部のエレメント内部側(地山と反対側)についても、防水あるいは止水のための、また注入するグラウト材の漏出防止のためのシーリングが必要である。このシーリング対策として、従来、次のような方法が採用されている。すなわち、図9(a)に示すように、継手6,9と継手10との嵌合後、エレメントの内部側に露出する遊間52を塞ぐように継手部にパッキン材53を押し当て、接着系シーリング材54を塗り付けるか、あるいは同図(b)に示すように、継手部にシート状のシーリング材55を貼り付けている。
【0013】
上記のようなエレメント内部側の継手部のシーリング施工は、エレメント内部に作業者が入り、人手によって行われている。エレメントは標準桁高が850mmであり、800mm未満になるとエレメント内部での人手による作業は制限される。このようなことから、標準桁高が小さいエレメントを使用する場合の、エレメント内部側の継手部の止水・防水、グラウト漏出防止を図る方法の開発が求められていた。
【特許文献1】特開2000−120372号公報
【特許文献2】特開2000−179282号公報
【特許文献3】特開2001−122200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、地下構造物を構築するに際して標準桁高が小さいエレメントを使用する場合であっても、作業者がエレメント内部に入ることなく、エレメント内部側の継手部の止水・防水、グラウト漏出防止を図ることができる、継手部シール方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、断面略C字形の継手を長手方向に沿って有する多数の長尺のエレメントを、隣接するものどうしの前記継手を嵌合させながら並列させて順次地山に挿入し、エレメント列によって地下構造物を構築する工法において、前記継手の嵌合によって形成された継手部のエレメント内部側に露出する遊間をシールする方法であって、
地山に後行して挿入されるエレメント(以下、後行エレメント)の前記継手のうち、地山に先行して挿入されたエレメント(以下、先行エレメント)の前記継手に嵌合されるものに、前記エレメント内部側に露出する遊間を覆うように押さえ板の端部を予め固定しておき、
先行エレメントの継手と後行エレメントの継手との嵌合後、前記継手部のシールすべき前記遊間付近を清掃し、
その後、前記押さえ板と前記継手部との間に膨張性を有するチューブを挿入し、その内部に充填材を注入して、該チューブを前記押さえ板と前記継手部との間で膨張させることによって前記遊間をシールすることを特徴とする地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法にある。
【0016】
より具体的には、先行エレメントの継手と後行エレメントの継手との嵌合後、清掃前に前記押さえ板と前記継手部との間にガイドワイヤを挿入する。そして、前記ガイドワイヤに水噴射ノズル又はブラシを取り付け、前記ガイドワイヤを継手長手方向に引き出すことにより、前記遊間付近を清掃する。チューブの挿入に際しても、前記ガイドワイヤに前記チューブを取り付け、前記ガイドワイヤを継手長手方向に引き出すことにより、前記チューブを前記押さえ板と前記継手部との間に挿入する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、継手嵌合後、後行エレメントの継手に予め固定した押さえ板と継手部との間に膨張性を有するチューブを挿入し、チューブ内に充填材を注入して膨張させることにより、エレメント内部側に露出する遊間をシールするので、作業者がエレメント内部に入ることなく、エレメント内部側の継手部の止水・防水、グラウト漏出防止を図ることができる。したがって、地下構造物を構築するに際し、設計上は桁高が800mm未満でもよい小さなエレメントを適用することが可能となり、構造物構築の合理性とコストダウンを図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。地下構造物を構築するにあたり、覆工エレメントとしては、図2及び図3に示したような基準覆工エレメント2及び一般部覆工エレメント3を用いることができる。そして、図4を参照して説明したように、隣接するエレメントどうしの継手6,10及び継手9,10を嵌合させながらこれらのエレメントを並列させて順次地山に挿入し、図1に示したような地下構造物を構築する。以上の点は、従来と同様である。
【0019】
図6,図7は、この発明によるシール方法の手順を示している。図示の状態は、先行エレメントの継手6,9に後行エレメントの継手10が嵌合した状態を示している。符合20,21はそれぞれ地山側及びエレメント内部側を示している。継手10の基部11には、そのエレメントの地山への挿入前に、押さえ板22の端部が予め溶接等により固定されている。この押さえ板22は継手10の長手方向に沿って延びる鋼板等からなる板であり、継手10が継手6,9に嵌合したとき、継手部のエレメント内部側21に露出する遊間23を覆うように基部11の内面すなわちエレメント内部側21に固定されている。
【0020】
なお、先行エレメントの継手6,9に設けられた地山側20の遮蔽板51は、図8,図9を参照して説明した従来と同様のものである。ただし、この発明は、継手部のエレメント内部側21のシール方法に係るものであり、この遮蔽板51を適用することには限定されない。
【0021】
さて、図6(a)に示すように、先行エレメントの継手6,9に後行エレメントの継手10を嵌合させたら、同図(b)に示すように、押さえ板22と継手部との間にガイドワイヤ24を挿入する。そして、同図(c)に示すように、ガイドワイヤ24にブラシ25を取り付けて、ガイドワイヤ24を継手長手方向に引き出し、これによりシールすべき遊間23付近を清掃する。この清掃は、ガイドワイヤ24にノズルを取り付け、水を噴射することにより行ってもよい。あるいは、ブラシによる清掃と、水噴射による清掃とを併用してもよい。あるいは、同図(a)に示されるように、押さえ板22の他端自由端部と継手部との間に隙間30が形成されるようにし、エレメント内部を走行する台車に搭載したノズルから隙間30を通して水を噴射するようにしてもよい。
【0022】
シールすべき遊間23付近の清掃後、図7(d)に示すように、ガイドワイヤ24にゴムチューブ26を付け替え、ガイドワイヤ24を継手長手方向に引き出すことにより、ゴムチューブ26を押さえ板22と継手部との間に挿入する。なお、ガイドワイヤ24はエレメント長よりも十分に長いワイヤであり、再度挿入することなく、ゴムチューブ26を付け替えて挿入することができる。
【0023】
ゴムチューブ26は天然ゴムからなり、膨張性の高いチューブである。したがって、ゴムチューブ26の挿入後、その内部にセメントミルク等の充填材27を注入すると、図7(d)に示すように、ゴムチューブ26が膨張し、押さえ板22及び継手部に圧接し、エレメント内部側21に露出する遊間23をシールする。このシールによりエレメント内部側の継手部の止水・防水、また遊間23に注入されるグラウトの漏出防止を図ることができる。
【0024】
上記のような作業は、作業者がエレメントの内部に入ることなく遂行することができ、したがって、地下構造物を構築するに際し桁高が800mm未満の小さなエレメントを適用することが可能になる。
【0025】
上記実施形態は例示にすぎず、使用するエレメント及び継手等は種々の形態をとることができる。また、この発明のシール方法は、作業が迅速に済み、簡易であることから、桁高が小さいエレメントに限らず、標準桁高のエレメントに適用するのも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】地下構造物の全体を示す正面図である。
【図2】使用するエレメントの一例を示す正面図である。
【図3】使用するエレメントの一例を示す正面図である。
【図4】継手の嵌合により接合されたエレメントを示す図である。
【図5】継手を拡大して示す図である。
【図6】この発明によるシール方法の実施形態を示す手順図である。
【図7】図6の手順に続く手順図である。
【図8】継手部の地山側の止水・防水、グラウト漏出防止対策を示す図である。
【図9】継手部のエレメント内部側の、従来の止水・防水、グラウト漏出防止対策を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
2 基準覆工エレメント
3 一般部覆工エレメント
4 覆工壁
6,9,10 継手
11 基部
12 板状部
13 湾曲部
14 膨出部
15 嵌合溝
22 押さえ板
23 遊間
24 ガイド
25 ブラシ
26 ゴムチューブ
27 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面略C字形の継手を長手方向に沿って有する多数の長尺のエレメントを、隣接するものどうしの前記継手を嵌合させながら並列させて順次地山に挿入し、エレメント列によって地下構造物を構築する工法において、前記継手の嵌合によって形成された継手部のエレメント内部側に露出する遊間をシールする方法であって、
地山に後行して挿入されるエレメント(以下、後行エレメント)の前記継手のうち、地山に先行して挿入されたエレメント(以下、先行エレメント)の前記継手に嵌合されるものに、前記エレメント内部側に露出する遊間を覆うように押さえ板の端部を予め固定しておき、
先行エレメントの継手と後行エレメントの継手との嵌合後、前記継手部のシールすべき前記遊間付近を清掃し、
その後、前記押さえ板と前記継手部との間に膨張性を有するチューブを挿入し、その内部に充填材を注入して、該チューブを前記押さえ板と前記継手部との間で膨張させることによって前記遊間をシールすることを特徴とする地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法。
【請求項2】
先行エレメントの継手と後行エレメントの継手との嵌合後、清掃前に前記押さえ板と前記継手部との間にガイドワイヤを挿入することを特徴とする請求項1記載の地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法。
【請求項3】
前記ガイドワイヤに水噴射ノズル又はブラシを取り付け、前記ガイドワイヤを継手長手方向に引き出すことにより、前記遊間付近を清掃することを特徴とする請求項2記載の地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法。
【請求項4】
前記ガイドワイヤに前記チューブを取り付け、前記ガイドワイヤを継手長手方向に引き出すことにより、前記チューブを前記押さえ板と前記継手部との間に挿入することを特徴とする請求項2又は3記載の地下構造物構築工法におけるエレメントの継手部シール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−144498(P2008−144498A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334212(P2006−334212)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(592145268)ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社 (53)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【Fターム(参考)】