説明

地下構造物構築工法

【課題】車両走行路の下方に地下構造物を構築するにあたり、掘削作業やコンクリートの打設作業を不要とし、施工性及び安全性に優れた工法を提供する。
【解決手段】車両走行路の下方の地山に函体21を設置して地下構造物を構築する工法であって、函体21の発進側2と到達側3との間の地山に、上下床鋼板及び1対の側壁鋼板であって少なくとも下床鋼板及び1対の側壁鋼板が内鋼板8及び外鋼板9の2枚重ねからなるものを函体21の外形形状と同形状をなすように挿入した後、各内鋼板8の発進側の端部間を妻土留め板26で閉塞して、各内鋼板8を到達側から牽引して地山から抜き出すことにより、各内鋼板8で囲まれた土砂を土塊27として排出し、土塊27の排出部分に函体21を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下構造物構築工法に関し、さらに詳細には、例えば鉄道線路や道路などの車両走行路の下方の地盤に該走行路を横断する地下構造物を構築する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
小断面の線路下横断構造物(トンネル)を構築する工法の1つとして、COMPASS工法が知られている。この工法は、この出願の出願人らによって開発されたもので、計画構造物の外形形状に沿って地盤をワイヤソーにより切削し、その後方から防護用の鋼板を挿入したのち、防護用鋼板で囲まれた内部の土砂を刃口を用いて掘削しながら支保工を建て込み、支保工を巻き込んでコンクリートを打設する工法である。この工法の詳細、すなわち地盤切削及び防護鋼板の挿入については特許文献1,2に記載され、また防護用鋼板挿入後の掘削については特許文献3に記載されている。
【0003】
防護鋼板は、厚さが22mm程度のものである。したがって、このような防護鋼板を挿入して地山を保護する上記工法は、地山の変状ひいては線路の変状をきたすことがなく、また土被りを小さくしてトンネルの設計自由度を大きくすることができるというような大きな利点がある。
【0004】
しかしながら、その一方、次のような問題を指摘することができる。すなわち、上記工法は防護鋼板で囲まれた狭隘箇所での内部土塊の掘削作業や、閉鎖空間への高流動コンクリートの打設作業を必要とし、施工効率が悪く、明かり区間に比べて施工管理が困難という問題がある。
【0005】
特許文献4には、鋼板を2枚重ねにして地山に挿入し、発進側に設置した函体を到達側から牽引することにより、各内鋼板及びそれによって囲まれた土砂を到達側に排出し、同時に函体を地山に挿入する工法が開示されている。しかしながら、この従来工法は、内鋼板を函体によって後方から押し出すことになるので、内鋼板に曲げ変形が生じるおそれがある。このため、各内鋼板の方向性が不安定となるだけでなく、周辺地山の変状をきたし、車両走行路に悪影響を与えるおそれがある。
【0006】
この出願の発明に関連する先行技術情報としては次のようなものがある。
【特許文献1】特開2004−204624号公報
【特許文献2】特開2005−336865号公報
【特許文献3】特開2005−336866号公報
【特許文献4】特開2008−38523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、車両走行路の下方に地下構造物を構築するにあたり、掘削作業やコンクリートの打設作業を不要とし、施工性及び安全性に優れ、コストダウンを図れる工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、車両走行路の下方の地山に函体を設置して地下構造物を構築する工法であって、
前記函体の発進側と到達側との間の地山に、上下床鋼板及び1対の側壁鋼板であって少なくとも前記下床鋼板及び前記1対の側壁鋼板が内鋼板及び外鋼板の2枚重ねからなるものを前記函体の外形形状と同形状をなすように挿入した後、
前記各内鋼板の前記発進側の端部間を妻土留め板で閉塞して、各内鋼板を到達側から牽引して地山から抜き出すことにより、各内鋼板で囲まれた土砂を土塊として排出し、
前記土塊の排出部分に前記函体を挿入することを特徴とする地下構造物の構築工法にある。
【0009】
上記工法において、前記土塊を排出しながら同時にその排出部分に前記函体を挿入する態様を採ることができる。また、前記函体を到達側から牽引することによって地山に挿入する態様を採ることができる。この場合、前記各内鋼板及び前記函体を同一の牽引ジャッキにより牽引する態様を採ることができる。
【0010】
前記各内鋼板及び前記函体を牽引するための設備として、前記到達側に地山面に対して前後に往復移動自在であって開口を有する押し輪と、この押し輪を移動させる前記牽引ジャッキを設置するとともに、前記発進側において前記函体の後端に受圧部材を設置し、
前記各内鋼板の端部を前記押し輪の前記開口を通して該押し輪の前面に係合させ、また前記押し輪と前記受圧部材との間を地山を貫通する引張材を介して連結する態様を採ることができる。
【0011】
また、前記到達側に、地山から抜き出した前記各内鋼板を保持するための支保部材を設置する態様を採ることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、函体の外形形状と同形状をなすように挿入した2枚重ねの鋼板のうち各内鋼板を抜き出すことにより、各内鋼板で囲まれた土砂を土塊として排出し、その土塊排出部分に函体を挿入するので、掘削作業やコンクリートの打設作業が全く不要となり、地下構造物構築の施工性及び安全性を優れたものとすることができ、またコストダウンを図ることができる。
【0013】
また、各内鋼板は到達側から牽引することによって地山から抜き出すので、内鋼板を後方から押し出す場合とは異なり、曲げ変形が生じることはなく、したがって各内鋼板の方向性が安定して確実なものとなり、周辺地山や車両走行路に悪影響を及ぼすこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1〜図4は、この発明による地下構造物構築工法の実施形態を示す施工手順図である。線路下の地山1の両側に発進立坑2及び到達立坑3がそれぞれ設置されている。まず、図1(a)に示すように、発進立坑2と到達立坑3との間の地山1に鋼板4〜7を挿入する。地山1に挿入する鋼板4〜7は、図5に示すように、上下床鋼板4,5及び1対の側壁鋼板6,7である。
【0015】
これら上下床鋼板4,5及び側壁鋼板6,7は、断面矩形をなすように、具体的には、後述する函体の外形形状と同形状をなすように地山1に挿入される。上下床鋼板4,5及び側壁鋼板6,7は、いずれも内鋼板8及び外鋼板9の2枚重ねからなるものであり、内鋼板8と外鋼板9との間には潤滑剤が介在されている。鋼板4〜7の厚みは、2枚重ねでt=22mm程度である。
【0016】
鋼板4〜7は、例えば特許文献1,2に記載された方法で地山に順に挿入される。すなわち、その概略を記載すると、鋼板4〜7によって形成される矩形形状に沿って複数のガイド管10を地山に設置する。そして、これらガイド管10内に管軸方向に移動自在にプーリを収容し、プーリにガイド管10間の地山1を横切るようにしてワイヤソーを巻き掛け、このワイヤソーにより地山を切削しながら同時にその切削部に各鋼板4〜7を挿入する。なお、ガイド管10については図面の複雑化を避けるために、図1(b)以降の手順図においては図示を省略する。
【0017】
鋼板4〜7の地山1への挿入後、図1(b)に示すように、発進立坑2及び到達立坑3にそれぞれ発進架台11及び到達架台12を設置する。また、発進立坑2側の地山面には引き止め部材13を設置し、この引き止め部材13に各外鋼板9の端部を定着具15によって固定する。また、各内鋼板8の発進立坑2側の端部間は、妻土留め板26を溶接等により固定して閉塞する。なお、発進立坑2及び到達立坑3は、通常、その地山面を保護するために土留め部材13,14が設置され、土留め部材13が外鋼板9を地山に定着させるための引き止め部材の役割をする。同様に、妻土留め板26も土留め部材13の一部を切断して利用することができる。
【0018】
到達立坑3には牽引設備として地山面に対して前後に往復移動自在に押し輪16を設置する。押し輪16は各内鋼板8によって形成される矩形形状と同形状の開口17を有している。各内鋼板8は延長鋼板8aを溶接等により固定して延長する。そして、延長鋼板8aの端部は押し輪16の開口17を通して、係合具18によって押し輪16の前面に係合させる。押し輪16と土留め部材14との間には、押し輪16を移動させる複数の牽引ジャッキ19を配置する。土留め部材14には内鋼板8及び後述する土塊を通過させるための開口20が設けられ、牽引ジャッキ19は押し輪16の開口17の外周と土留め部材14の開口20の外周との間に設置される(図6も併せて参照)。
【0019】
さらに、図2(c)に示すように、発進立坑2には複数の函体21を直列に設置する。函体21は、地下構造物の構築に使用される周知のもので、断面が矩形でコンクリート製のものである。これら函体21の後端には受圧部材22を設置する。そして、押し輪16と受圧部材22との間を複数の引張材、例えばPC鋼棒23で連結する。PC鋼棒23は図1(a)に示したガイド管10を通して地山1内を貫通し、その両端は定着具24によって押し輪16及び受圧部材22にそれぞれ定着される。なお、PC鋼棒23の受圧部材22側の定着部には図示しないが方向修正のための修正ジャッキを設置するようにしてもよい。
【0020】
また、到達立坑3には押し輪16の前方に支保部材25を設置する。この支保部材25は地山1から抜き出された各内鋼板8を矩形形状に保持するためのもので、各内鋼板8が内部に進入可能となっている。以上までが牽引準備作業であり、以下牽引方法について説明する。
【0021】
図2(d)に示すように、牽引ジャッキ19を伸長作動させることにより、押し輪16を前進移動させる。この押し輪16の前進移動により、各内鋼板8が牽引され地山1から抜き出される。それに伴い各内鋼板8で囲まれた土砂が土塊27として到達立坑3側に排出される。このとき、各内鋼板8は各外鋼板9に接し、しかも潤滑剤が介在された状態で牽引されるので、摩擦力が小さく各内鋼板8を円滑に抜き出すことができる。
【0022】
また、各内鋼板8の牽引と同時に、函体21もPC鋼棒23を介して牽引されることから、函体21は各外鋼板9で囲まれた土塊27の排出部分に挿入される。このとき、函体21は外周が各外鋼板9に接した状態で地山1に挿入されるので、摩擦力が小さく函体21を円滑に地山1に挿入することができる。なお、函体の21の方向修正が必要な場合、前記した方向修正牽引ジャッキにより調整を行う。
【0023】
以上は、牽引ジャッキ19の1ストローク分の牽引であり、この1ストローク分の牽引後、図3(e)に示すように、牽引ジャッキ19を短縮作動させることにより、押し輪16を後退移動させる。この結果、各内鋼板8が押し輪16から突出するので、内鋼板8の先端の係合具18と押し輪16との間にストラット28を設置する。このストラット28を設置することにより段取り替え時間を短縮することが可能である。
【0024】
次に、図3(f)に示すように、再び牽引ジャッキ19を1ストローク分、伸長作動させ、各内鋼板8を牽引して土塊27を排出するとともに、排出部分に函体21を挿入する。各内鋼板8は地山からの抜き出し長さが長くなるにつれて、支保部材25の内部に徐々に進入し、この支保部材25によって矩形形状が保持される。以下、図4(g)に示すように、牽引ジャッキ19の伸長及び短縮作動を繰り返し、同図(h)に示すように、各内鋼板8を地山1から完全に抜き出して土塊27も完全に排出し、これと同時に函体21の全体を地山1内に挿入する。そして、抜き出された各内鋼板8及び土塊27は、到達立坑3の長さに応じて、各内鋼板8の抜き出し後あるいは抜き出しに伴って随時撤去する。
【0025】
上記のように、この発明によれば、函体の外形形状と同形状をなすように挿入した2枚重ねの鋼板のうち各内鋼板を抜き出すことにより、各内鋼板で囲まれた土砂を土塊として排出し、その土塊排出部分に函体を挿入するので、掘削作業やコンクリートの打設作業が全く不要となり、地下構造物構築の施工性及び安全性を優れたものとすることができる。
【0026】
また、各内鋼板は到達側から牽引することによって地山から抜き出すので、内鋼板を後方から押し出す場合とは異なり、曲げ変形が生じることはなく、したがって各内鋼板の方向性が安定して確実なものとなり、周辺地山や車両走行路に悪影響を及ぼすこともない。
【0027】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は以下に記すように種々の形態を採ることができる。
(1) 上記実施形態では、上下床鋼板及び1対の側壁鋼板のいずれも2枚重ねの鋼板としたが、地山の地質状況(例えば粘土質)によっては上床鋼板は1枚でもよい。この場合、いうまでもないが、下床鋼板及び1対の側壁鋼板の各内鋼板のみを抜き出すことになる。
【0028】
(2) 上記実施形態では、各内鋼板及び函体をいずれも牽引することにより、各内鋼板を地山から抜き出して土塊を排出し、同時に函体を地山に挿入している。これに限らず、函体は発進側から推進することにより地山に挿入するようにしてもよい。
【0029】
(3) 上記実施形態では、各内鋼板を地山から抜き出しながら同時に函体を地山に挿入しているが、土塊の排出部分の周囲は外鋼板で保護されているので、函体の地山への挿入は必ずしも同時でなくともよい。
【0030】
(4) 上記実施形態では、鋼板を地山に挿入した後、到達側で内鋼板に延長鋼板を固定し延長しているが、鋼板の長さを初めから長くして地山に挿入し、所要長さ分が到達側に突出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施形態を示し、施工手順を示す側面図である。
【図2】図1に引き続く施工手順を示す側面図である。
【図3】図2に引き続く施工手順を示す側面図である。
【図4】図3に引き続く施工手順を示す側面図である。
【図5】地山に挿入された鋼板の正面図である。
【図6】図1(b)のA−A線矢視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 地山
2 発進立坑
3 到達立坑
4 上床鋼板
5 下床鋼板
6,7 側壁鋼板
8 内鋼板
8a 延長鋼板
9 外鋼板
10 ガイド管
11, 発進架台
13 引き止め部材(土留め部材)
14 土留め部材
15 定着具
16 押し輪
17 開口
18 係合具
19 牽引ジャッキ
20 開口
21 函体
22 受圧部材
23 PC鋼棒
25 支保部材
26 妻土留め板
27 土塊
30 定着具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行路の下方の地山に函体を設置して地下構造物を構築する工法であって、
前記函体の発進側と到達側との間の地山に、上下床鋼板及び1対の側壁鋼板であって少なくとも前記下床鋼板及び前記1対の側壁鋼板が内鋼板及び外鋼板の2枚重ねからなるものを前記函体の外形形状と同形状をなすように挿入した後、
前記各内鋼板の前記発進側の端部間を妻土留め板で閉塞して、各内鋼板を到達側から牽引して地山から抜き出すことにより、各内鋼板で囲まれた土砂を土塊として排出し、
前記土塊の排出部分に前記函体を挿入することを特徴とする地下構造物の構築工法。
【請求項2】
前記土塊を排出しながら同時にその排出部分に前記函体を挿入することを特徴とする地下構造物の構築工法。
【請求項3】
前記函体を到達側から牽引することによって、地山に挿入することを特徴とする請求項1又は2記載の地下構造物の構築工法。
【請求項4】
前記各内鋼板及び前記函体を同一の牽引ジャッキにより、牽引することを特徴とする請求項3記載の地下構造物構築工法。
【請求項5】
前記各内鋼板及び前記函体を牽引するための設備として、前記到達側に地山面に対して前後に往復移動自在であって開口を有する押し輪と、この押し輪を移動させる前記牽引ジャッキを設置するとともに、前記発進側において前記函体の後端に受圧部材を設置し、
前記各内鋼板の端部を前記押し輪の前記開口を通して該押し輪の前面に係合させ、また前記押し輪と前記受圧部材との間を地山を貫通する引張材を介して連結することを特徴とする請求項4記載の地下構造物構築工法。
【請求項6】
前記到達側に、地山から抜き出した前記各内鋼板を保持するための支保部材を設置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1記載の地下構造物構築工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43454(P2010−43454A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207702(P2008−207702)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(592145268)ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社 (53)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(399101337)株式会社ジェイテック (20)
【Fターム(参考)】