説明

地下構造物用の函体と函体間の継手部の止水方法

【課題】確実で安価に函体間の継手部の止水を行う。
【解決手段】函体の一面にはトンネル軸方向と平行なガイド溝を形成し、函体の他面には前記ガイド溝に嵌合可能な突条を突設する。突条の先端にはリモネンなどで溶解が容易な発泡ポリスチレンを帯状に配置して構成する。この帯状の発泡ポリスチレンを、リモネンを注入して溶解して帯状の空洞を作り、この空洞に止水材を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物用の函体と函体間の継手部の止水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大断面トンネルを縦横3〜4m程度の小型トンネルによって格子状に等分割し、それぞれのトンネルを小型の泥土圧式矩形シールド機を複数回使用し、隣り合うトンネルに接触させながら地中に複数の函体をブロックを積み上げるように掘進を行い大断面のトンネルを掘削する工法が「ハーモニカ工法」などの名称で知られている。
この工法では、掘削機は矩形断面の掘削に対し未切削部分を極力少なくするため、カッタは揺動式を採用する。
また、小型トンネルの函体間に隙間を生じさせないために、元押しジャッキによる推進方式を採用している。
この工法は、先行する函体に接触させて後函体を施工すること特徴としており、函体間の接触状態を維持して施工する。
そのために、一方の函体の面には突条を、他方の函体の面には溝を形成して継手部として構成し、一方の突条を、他方の溝内にスライドさせて掘進する方法を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3762603号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の工法は、多数の小型トンネルの函体を平行に構築するものであることから、次のような問題点がある。
<1> 函体間からの漏水を阻止するために、函体間を接続する継手部の止水性の高さが重要な条件となる。
<2> しかし、継手部には裏込材や掘削土砂が侵入して固化している場合が多く、そのままの状態で止水材を充填した場合には継手部への止水材の充填が不完全になりやすい。
<3> そのために土砂や固化した裏込材を除去する方法として、継手部に高圧水を噴射するパイプやホースを挿入し、そこから噴射した高圧水で土砂や裏込材を除去する方法が採用されている。
<4> しかし実際には高圧水による洗浄で土砂や裏込材を完全に除去することは困難であり、どうしても除去できない場合には継手部に設けた洗浄孔から洗浄を行ったり、切断した鋼殻間に補助的に二次止水を行う、という方法を採用していた。
<5> しかし継手部に設けた洗浄孔からの洗浄は手間と時間がかかり後記的にも経済的にも負担の大きいものであった。
<6> 補助的に行う二次止水も、切断した鋼板の狭い間に挟まっている固化した裏込材を人力で掘削して洗浄を行い、そこへポリマー系セメントなどを原料とする止水材を注入する、という非常に工期、コストのかかる作業であった。
<7> その他に、函体間に袋状資材を配置し、この中に止水材を充填する方法や、止水板を配置する方法、余掘り部を掘削し、ここに充填材を注入して止水構造を設ける方法などが提案されているが、材料の設置手段が複雑で、材料費が高価であり、機械コストが高くなる、などの問題があった。
<8> 従来は以上のような問題が存在することから、函体間の継手部の洗浄を簡単でかつ確実に行い、止水性能を確保できる方法、構造が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の地下構造物用の函体は、平行して設置した複数本のトンネル函体を接合して地下構造物を構築する方法に使用する函体であって、函体の一面にはトンネル軸方向と平行なガイド溝を形成し、函体の他面には前記ガイド溝に嵌合可能な突条を突設し、突条の先端には、リモネンなどで溶解が容易な発泡ポリスチレンを帯状に配置して構成したものである。
そして前記突条の先端は、帯状の発泡ポリスチレンを収納できる形状の樋を形成したものである。
また本発明の函体間の継手部の止水方法は、先行して推進させた前記のトンネル函体のガイド溝あるいは突条に、後行するトンネル函体の突条あるいはガイド溝を嵌合して掘進させ、掘進の終了後に、突条の先端に設置した帯状の発泡ポリスチレンを、リモネンを注入して溶解して帯状の空洞を作り、この空洞に止水材を充填して行う、函体間の継手部の止水方法を特徴としたものである。
また、前記の空洞を利用して高圧水洗浄を行い、洗浄後の空洞内に止水材を充填して行う、函体間の継手部の止水方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の函体間の継手部の止水方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> トンネルの軸方向と平行なガイド溝内に発泡ポリスチレンを配置することができ、この発泡ポリスチレンを溶解してトンネルの両坑口間を結ぶ貫通空洞を形成することができる。
<2> このように帯状の発泡ポリスチレンが溶解して消滅した貫通空洞内に止水材を充填するから、両坑口間の継手部の全延長内に止水材を確実に充填することができる。
<3> 両函体の間に注入した裏込材が継手部に侵入してきても、突条の先端には帯状の発泡ポリスチレンが存在しているからその部分の空間が裏込材で侵されることなく、溶解することによって完全な貫通空洞を形成することができる。
<4> 貫通した空洞を利用して高圧水による洗浄を行って空洞を拡張し、その内部に止水材を充填すれば、その止水効果はより確実である。
<5> 空洞を形成するために使用するのは帯状の発泡ポリスチレンであるから安価であり経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の函体を平行に掘進する状態の説明図。
【図2】函体の継手部に空洞を形成した状態の説明図。
【図3】函体の継手部の空洞を拡大した状態の説明図。
【図4】函体の継手部の空洞に止水材を充填した状態の説明図。
【図5】函体を継手部で連結して完成した大断面トンネルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>前提条件。
本発明の構築方法は、図5に示すように小トンネルaを複数隣接して構築してこれらを接続して一体化して大型のトンネルbを構築する方法を前提にしたものである。
小型トンネルaでは、掘進機2とトンネルの函体1との寸法差を形成しないように、函体1は掘進機2の内部から押し出されるシールドトンネルの構成ではなく、函体1の尾端を立坑から加圧して推進させ、他端の立坑に到達させる構成を採用する。
本発明は、そのような構築に際して函体1間の継手部cの止水性を向上させる構成、方法を提供するものである。
【0010】
<2>函体。
函体1は矩形の筒体であり、トンネル軸方向の複数本の主桁間を、断面方向のリブで連結し、その外周を鋼板の外殻で包囲したものである。
小型トンネルaの構築に際してはこれらの函体1群の前端に掘進機2を位置させ、掘進機2前面のビット群で掘削し、後方から推進ジャッキで函体1の尾端を加圧して地中に圧入して他端の立坑まで推進させる。
これらの函体1の構造とトンネルの構築方法は公知である。
【0011】
<3>継手部。
函体1の一面にはトンネル軸方向と平行なガイド溝3を形成する。
また函体1の他面には前記ガイド溝3に嵌合可能な突条4を突設する。
ひとつの函体1のガイド溝3に、隣接する函体1の突条4を嵌合して推進させれば、両函体1は平行して地中に位置することになる。
【0012】
<4>発泡ポリスチレン配置。
突条4は函体1群の側面に、トンネルの軸方向と平行に全長にわたって突設して位置する。
この突条4は断面をY字状に形成する。
そして突条4の先端は分岐させてほぼ半円形の樋状に形成する。
そして突条4の樋状の溝の内部に、帯状の発泡ポリスチレン5を配置する。
発泡ポリスチレン5は安価であり、経済的である。
この発泡ポリスチレン5は、リモネンなどによって容易に溶解する材料である。
リモネンは、柑橘類から生成した材料である。
【0013】
<5>先行トンネルの構築。
発信立坑にジャッキを設置し、函体1の先端に掘進機を配置し、尾端からジャッキで加圧して函体1を順次、地中に圧入してトンネルを構築する。
この函体1群のトンネルが到達立坑まで貫通したら掘進を終了する。
【0014】
<6>後行トンネルの構築。
先行トンネルの函体1Aの側面のガイド溝3に、後行トンネルの函体1Bの突条4を嵌合させた状態で、同様に推進を行う。
各函体1は、その突条4の先端に帯状の発泡ポリスチレン5を設置した状態で、発進立坑から順次、地中に圧入する。
後行トンネルの函体1Bの前進にともなって、トンネルの全長にわたって継手部cが形成され、その継手部cの内部には帯状の発泡ポリスチレン5が敷設されることになる。
発泡ポリスチレン5の硬度をある程度持たせておけば、先行トンネルの函体1Aのガイド溝3内の掘削土砂を排除することができる。
【0015】
<7>裏込材の注入。
トンネルの掘進の終了後に、函体1の内部から外周の地山に裏込材6を注入する。
この裏込材6が、函体1と函体1の間に流入し、継手部cのガイド溝3と突条4の隙間にも流入し固化する。
この場合も、ガイド溝3と突条4の隙間に帯状の発泡ポリスチレン5が位置しているから、その部分だけは裏込材6の侵入を排除することができる。
【0016】
<8>空洞の形成。(図2)
掘進の終了後に、突条4の先端に設置した帯状の発泡ポリスチレン5を、リモネンを注入して溶解する。
すると発泡ポリスチレン5の跡は、帯状の空洞7を形成し、この空洞7は発進立坑から到達立坑まで貫通することになる。
発泡ポリスチレン5とリモネンは同じ分子構造を持つから、発泡ポリスチレン5は容易にリモネンによって溶解することが知られている。
またリモネンは柑橘類から生成するから、安全な薬品としても知られている。
【0017】
<9>止水材の充填。
このように空洞7は発進立坑から到達立坑まで貫通しているから、その内部にいずれかの立坑から止水材8を充填して、帯状の止水材8の帯を形成することができる。
突条4とガイド溝3との間に形成した空洞7の断面が大きければ、そこへ止水材8を充填するだけで完全な継手部cの止水を行うことができる。
この場合には従来のような洗浄作業が不要であるから、その手間が省略できて止水工の工期の大幅な短縮を図ることができる。
【0018】
<10>空洞を利用した洗浄。
さらに前記の空洞7を利用して高圧水のノズルを挿入し、ノズルから噴射する洗浄を行うこともできる。
特に空洞7の断面が、突条4の先端とガイド溝3の隙間に比較して十分に大きくない場合には高圧水の洗浄によって、突条4の先端とガイド溝3の隙間に侵入した裏込材6を除去することに意味がある。
こうして洗浄した後の空洞7内に止水材8を注入して、突条4の先端とガイド溝3との隙間に完全な充填を行う。
【符号の説明】
【0019】
a:小型トンネル
b:大型トンネル
c:継手部
1:函体
1A:先行トンネルの函体
1B:後行トンネルの函体
2:掘削機
3:ガイド溝
4:突条
5:発泡ポリスチレン
6:裏込材
7:貫通空洞
8:止水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行して設置した複数本のトンネル函体を接合して地下構造物を構築する方法に使用する函体であって、
函体の一面にはトンネル軸方向と平行なガイド溝を形成し、
函体の他面には前記ガイド溝に嵌合可能な突条を突設し、
突条の先端には、リモネンなどで溶解が容易な発泡ポリスチレンを帯状に配置して構成した、
地下構造物用の函体。
【請求項2】
前記突条の先端は、
帯状の発泡ポリスチレンを収納できる形状の樋を形成した、
請求項1記載の地下構造物の函体。
【請求項3】
請求項1記載の函体を使用し、
先行して推進させた函体のガイド溝あるいは突条に、
後行するトンネル函体の突条あるいはガイド溝を嵌合して掘進させ、
掘進の終了後に、
突条の先端に設置した帯状の発泡ポリスチレンを、
リモネンを注入して溶解して帯状の空洞を作り、
この空洞に止水材を充填して行う、
地下構造物用の函体間の継手部の止水方法。
【請求項4】
前記の空洞を利用して高圧水洗浄を行い、
洗浄後の空洞内に止水材を充填して行う、
請求項3記載の地下構造物用の函体間の継手部の止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117239(P2011−117239A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277380(P2009−277380)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】