説明

地下構造物

【課題】工期短縮および工事費の低減化を図ることを可能とした鋼殻躯体と鉄筋コンクリート梁との合成構造を備える地下構造物を提供する。
【解決手段】複数の鋼製セグメント20を縦断方向で連結することにより形成された鋼殻躯体Bと、縦断方向に沿って鋼殻躯体Bの内面に形成された鉄筋コンクリート梁Cとを備える地下構造物であって、複数の鋼製セグメント20同士は、互いの縦リブ24同士が縦断方向において連続した構造部材となるように接合されており、鉄筋コンクリート梁Cは、鋼殻躯体Bに挿入された埋設部C1と鋼殻躯体Bから突出する突出部C2とを備えており、突出部C2のみに当該鉄筋コンクリート梁Cの主筋61が配筋されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を構築する場合において、鋼製部材を主体に形成された床版と、この床版の上面に沿って形成された鉄筋コンクリート梁とを一体に構成した合成構造を採用する場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のスタッドが突設された鋼板上に鉄筋コンクリート梁を形成することにより、スタッドを介して鋼板と鉄筋コンクリート梁とを一体にした合成構造が開示されている。このような合成構造では、鋼板を鉄筋コンクリート梁の補強材(下側の主筋)とみなして設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−180420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、本願発明者は、地下構造物を構築する場合において、コンクリート躯体を構築した後、その下側の地盤を掘り下げ、床付面上に鋼製セグメントを並設することで床版を構築する技術を開発した。
【0006】
セグメントを組み合わせることにより構成された床版は、セグメント同士の接合部においてセグメントの各構成部材が分断されている。
そのため、セグメントを組み合わせることにより構成された床版と鉄筋コンクリート梁との合成構造を構築する場合は、床版(セグメント)を鉄筋コンクリート梁の補強材(主筋)としてみなすことはできず、鉄筋コンクリート梁の上下の主筋を床版に沿って配筋する必要がある。
【0007】
鉄筋コンクリート梁の下側の主筋を配筋する際には、セグメントに貫通孔を形成し、この貫通孔に主筋を通す必要があり、この作業に手間を要するとともに、セグメントに穴を形成することによる断面欠損が懸念される。また、このような貫通孔に主筋を通す作業は、主筋が太径になるにつれ、困難なものとなる。
【0008】
一方、床版の上面に鉄筋コンクリート梁を形成することで、下側の梁を床版の上面に沿って配筋すれば、前記の問題点が解消するが、梁せいが高くなり、コンクリート量が増加するとともに、梁の突出により内空断面が損なわれてしまう。また、梁に生じる断面力を床版に伝達させるための接合構造を、別途構築する必要がある。
【0009】
このような観点から、本発明は、工期短縮および工事費の低減化を図ることを可能とした鋼殻躯体と鉄筋コンクリート梁との合成構造を備える地下構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のセグメントピースを縦断方向で連結することにより形成された鋼殻躯体と、縦断方向に沿って前記鋼殻躯体の内面に形成された鉄筋コンクリート梁とを備える地下構造物であって、前記複数のセグメントピース同士が、互いの縦リブ同士が縦断方向において連続した構造部材となるように接合されており、前記鉄筋コンクリート梁は、前記鋼殻躯体に挿入された埋設部と前記鋼殻躯体から突出する突出部とを備えており、前記突出部のみに当該鉄筋コンクリート梁の主筋が配筋されていることを特徴としている。
【0011】
かかる地下構造物によれば、セグメントピースの縦リブが、鉄筋コンクリート梁の補強部材として機能する。そのため、鉄筋コンクリート梁の下側の主筋の配筋を省略することができ、作業の手間および鋼材量を省略することができる。
【0012】
縦断方向で隣り合う前記セグメントピース同士が、互いの主桁同士を突き合わせた状態で、前記縦リブの近傍において前記主桁を貫通したボルトにより接合されていれば、簡易に縦リブの剛性一様を確保することができる。
【0013】
また、前記鉄筋コンクリート梁のスターラップの端部が、前記縦リブに係止されていれば、鉄筋コンクリート梁と鋼殻躯体との一体化が可能となる。
【0014】
また、本発明に係る第二の地下構造物は、上部に形成された上部躯体と、前記上部躯体の下側に形成された下部躯体と、前記下部躯体の上面に沿って形成された鉄筋コンクリート梁とを有していて、前記下部躯材は、複数のセグメントピースを並設し、隣接する前記セグメントピース同士を接合することで形成されており、縦断方向に隣り合う前記セグメントピース同士が、互いの縦リブ同士が縦断方向において連続した構造部材となるように接合されており、前記鉄筋コンクリート梁は、前記鋼殻躯体に挿入された埋設部と前記鋼殻躯体から突出する突出部とを備えており、前記突出部のみに当該鉄筋コンクリート梁の主筋が配筋されていることを特徴としている。
【0015】
かかる地下構造物によれば、下部躯体と鉄筋コンクリート梁とを合成構造とすることで、梁せいを抑制するなど、合理化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の地下構造物によれば、鋼殻躯体と鉄筋コンクリート梁との合成構造を早期かつ安価に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る地下構造物の横断面図である。
【図2】コンクリート躯体の配筋図である。
【図3】コンクリート躯体の鉄骨配置図である。
【図4】本発明の実施形態に係る地下構造物の破断斜視図である。
【図5】床版用鋼製セグメントおよび隅角部用鋼製セグメントの平面図である。
【図6】床版用鋼製セグメントおよび隅角部用鋼製セグメントの横断面図である。
【図7】(a)は側壁用鋼製セグメントの側面図、(b)は(a)のX−X断面図である。
【図8】(a)および(b)は鉄筋コンクリート梁と鋼殻躯体との取付部を示す横断面図である。
【図9】鉄筋コンクリート梁と鋼殻躯体との取付部を示す縦断面図である。
【図10】(a)は一次掘削工程を示す横断面図、(b)は第一の躯体構築工程を示す横断面図である。
【図11】(a)は図9の(b)に続く工程を示す横断面図、(b)は二次掘削工程を示す横断面図である。
【図12】(a)および(b)は第二の躯体構築工程を示す横断面図である。
【図13】(a)は図12の(b)に続く工程を示す横断面図、(b)は第三の躯体構築工程を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る地下構造物は、図1に示すように、開削工法によって構築されたカルバートであり、山留め支保工を兼ねるコンクリート躯体Aと、コンクリート躯体(上部躯体)Aの下側に形成された鋼殻躯体(下部躯体)Bと、鋼殻躯体Bの上面に形成された鉄筋コンクリート梁Cと、コンクリート躯体Aと鉄筋コンクリート梁Cとの間に形成されたコンクリート柱Dとを備えている。
【0019】
<コンクリート躯体A>
コンクリート躯体Aは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設躯体であるが、鋼殻躯体Bとの接合部以外は、鋼殻躯体B、鉄筋コンクリート梁Cおよびコンクリート柱Dに先立って構築され、山留壁W,W間を掘り下げる際には山留め支保工として機能する。本実施形態のコンクリート躯体Aは、頂版部A1と、山留壁Wに沿う側壁部A2と、縦断方向に延在する縦梁部A3とを備えている。
【0020】
コンクリート躯体Aは、鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC構造)であり、場所打ちコンクリートと鉄骨11〜13や鉄筋(図示略)などの補強鋼材とによって構成されている。本実施形態では、横断鉄骨11、側壁芯鉄骨12、縦断鉄骨13などのほか、図2に示すように、スラブ主筋14、側壁主筋15、縦梁主筋16、せん断補強筋17、ハンチ筋18などによってコンクリートが補強されている。なお、コンクリート躯体Aをプレキャスト化しても勿論差し支えない。
【0021】
横断鉄骨11は、図3に示すように、前後方向(縦断方向)に間隔を置いて複数並設されている。なお、図3では、鉄筋の図示を省略している。各横断鉄骨11は、その材軸方向が横方向(左右方向)となるように配置にされている。本実施形態の横断鉄骨11は、H形鋼からなるが、I形鋼や溝形鋼に変更してもよい。
【0022】
隣り合う横断鉄骨11,11は、複数の繋ぎ材11a,11a,…によって連結されている。なお、繋ぎ材11aの端部は、横断鉄骨11のスチフナーに接続されている。図2に示すように、横断鉄骨11の端部は、山留壁Wの芯材W1に設けたブラケットW2に載置されており、横断鉄骨11の端面と山留壁Wの内壁面との間には、サポート部材11bが介設されている。
【0023】
側壁芯鉄骨12は、側壁部A2に配置された補強鋼材であり、材軸方向が上下方向となるように配置されている。側壁芯鉄骨12の上端部は、横断鉄骨11の端部の下面に接合されている。横断鉄骨11と側壁芯鉄骨12の接合部の内隅には、三角形状の補強リブ12aが配置されている。本実施形態の側壁芯鉄骨12は、H形鋼からなるが、I形鋼や溝形鋼などに変更してもよい。
【0024】
縦断鉄骨13は、縦梁部A3の上半部分に配置された補強鋼材であり、材軸方向が縦断方向となるように配置されている(図3参照)。縦断鉄骨13の端部は、横断鉄骨11のウェブから張り出すブラケットに接続されている。本実施形態の縦断鉄骨13は、溝形鋼からなるが、H形鋼、I形鋼、山形鋼などに変更してもよい。
【0025】
スラブ主筋14は、頂版部A1の上面および下面に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が横方向となるように配筋にされている。スラブ主筋14は、縦梁部A3を貫通しており、スラブ主筋14の両端部は、側壁部A2,A2のコンクリートに定着されている。
【0026】
側壁主筋15は、側壁部A2の外壁面(山留壁W側の壁面)および内壁面(内空側の壁面)に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が上下方向となるように配筋されている。なお、側壁主筋15は、鋼殻躯体Bに入り込んでいる。
【0027】
縦梁主筋16は、縦梁部A3の上面および下面に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が縦断方向となるように配筋されている。
【0028】
せん断補強筋17は、スラブ主筋14若しくは側壁主筋15と交差する方向に配筋された補強鋼材である。
【0029】
ハンチ筋18は、ハンチ部分に配筋された補強鋼材であり、ハンチ筋18の上半部は、頂版部A1のコンクリートに定着されている。
【0030】
<鋼殻躯体B>
図1に示す鋼殻躯体Bは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設躯体である。鋼殻躯体Bは、床付面T2に沿う鋼殻構造の床版部B1と、山留壁Wに沿う鋼殻構造の側壁部B2とを有し、横断面視U字状を呈している。
【0031】
図1に示すように、床版部B1は、地下部分の床を構成するものである。また、側壁部B2は、地下部分の側壁の一部を構成するものであり、上コンクリート躯体Aの側壁部A2に接合されている(側壁接合部J)。
【0032】
本実施形態の鋼殻躯体Bは、図4に示すように、床版用鋼製セグメント20と、隅角部用鋼製セグメント30と、二種類の側壁用鋼製セグメント40,50とによって構成されている。すなわち、鋼殻躯体Bは、複数の鋼製セグメント(床版用鋼製セグメント20,隅角部用鋼製セグメント30および側壁用鋼製セグメント40,50)によって形成されている。
【0033】
なお、以下の説明においては、四つの鋼製セグメント20,30,40,50からなるU字状のユニットを、シールドトンネルに倣って「リング」と称する。また、同一のリングに属する鋼製セグメント同士の継手部分(接合部分)を「セグメント継手」と称し、縦断方向に隣接するリング同士の継手部分(接合部分)を「リング継手」と称する。
また、「前後左右」は、図4の状態を基準とする。
【0034】
床版用鋼製セグメント20、隅角部用鋼製セグメント30および側壁用鋼製セグメント40,50は、イモ組み状態となるように並設されていて、セグメント継手が縦断方向に連続している。すなわち、一のリングのセグメント継手の位置が隣接する他のリングのセグメント継手の位置と一致している。
【0035】
床版用鋼製セグメント20は、その前後左右に他の鋼製セグメントが配置される普通タイプの鋼製セグメントであり、上面が開口した有底箱状を呈している。図5および図6に示すように、床版用鋼製セグメント20は、スキンプレート21と、前後一対の主桁プレート22,22と、左右一対の継手プレート23,23と、主桁プレート22,22の間に設けられた複数の縦リブ24,24,…とを備えている。床版用鋼製セグメント20は、各継手プレート23を介して、同一のリングに属する二つの鋼製セグメント(他の床版用鋼製セグメント20や隅角部用鋼製セグメント30)に接合され、各主桁プレート22を介して、隣接する他のリングに属する床版用鋼製セグメント20に接合される。なお、図示は省略するが、主桁プレート22と継手プレート23の外面には、シール材が貼着されている。
【0036】
スキンプレート21は、床版用鋼製セグメント20の外殻(底)となるものであり、平面視矩形状を呈する鋼板からなる。
【0037】
主桁プレート22は、スキンプレート21の前縁および後縁に立設されており、縦断方向に隣接する他の床版用鋼製セグメント20の主桁プレート22に突き合わされる。主桁プレート22には、リング継手用の固定ボルトb1が挿通される。本実施形態では、固定ボルトb1を利用して、主桁プレート22同士を接合する。
固定ボルトb1は、左右に隣り合う縦リブ24,24の中間または左右に隣り合う継手プレート23と縦リブ24の中間において、主桁プレート22同士を接合している。
【0038】
なお、鉄筋コンクリート梁Cが形成される位置では、図5および図6に示すように、縦リブ24の近傍において、主桁プレート22を貫通した固定ボルトb3により、引張接合方式により主桁プレート22同士を接合している。つまり、固定ボルトb3は、固定ボルトb1よりも縦リブ24に近い位置において、主桁プレート22同士を接合するとともに、縦断方向に並設された縦リブ24同士を接合している。縦断方向で接合された縦リブ24,24,…は、剛性一様の構造部材として機能する。
【0039】
固定ボルトb3には、初期導入軸力として、固定ボルトb3の降伏軸力の75%に相当する軸力を導入する。また、固定ボルトb3は、縦リブ24の位置において主桁プレート22同士が離隔(目開き)することのないように、コーベル理論に基づいて、縦リブ24を挟んで両側において主桁プレート22同士を接合している。
本実施形態では、固定ボルトb3の縦リブ24からの離れが、主桁プレート22の厚みよりも小さくなるように固定ボルトb3を配置している。なお、固定ボルトb3による固定方法は、これに限定されるものではない。
【0040】
引張接合方式とは、ボルトに強い締付け力を加えて鋼製セグメント間に大きな圧縮力を生じさせ、ボルト軸方向に作用する引張外力がこれと打ち消し合う形で応力の伝達を行う接合方式である。なお、引張接合を行う場合には、高力ボルトを使用することが多いが、普通ボルトであっても差し支えない。引張接合方式を採用すれば、継手部での剛性低下を抑制することが可能となり、さらには、継手部の目開きを抑制することが可能となる。
【0041】
継手プレート23は、スキンプレート21に立設された止水用の端面板23aと、端面板23aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板23b,23bとを備えている。端面板23aは、同一のリング内において隣接する他のセグメントの継手プレートに突き合わされる。端面板23aは、スキンプレート21と主桁プレート22,22に固着されている。補強板23bは、主桁プレート21の左右の縁部に配置されており、主桁プレート21および端面板23aの内面に固着されている。端面板23aおよび補強板23bには、セグメント継手用の固定ボルトb2が挿通される。本実施形態では、固定ボルトb2を利用して、引張接合方式により主桁プレート22(32)同士を連続させる。つまり、固定ボルトb2は、セグメント継手において、端面板23a(32a)同士を接合するとともに、主桁プレート22(32)同士を連結している。なお、固定ボルトb2には、初期導入軸力として、固定ボルトb2の降伏軸力の75%に相当する軸力を導入する。固定ボルトb2による固定方法は、これに限定されるものではない。
【0042】
なお、セグメント継手に目開きを生じさせるような力が作用した場合、主桁プレート22と固定ボルトb2との間の荷重伝達は、主として補強板23bを介して行われるようになる。「てこ反力」の支点を超えた部分(端面板23aだけの部分)は、上記荷重伝達に寄与しないので、端面板23aの薄肉化を図ることができ、ひいては、継手構造の合理化を図ることができる。
【0043】
縦リブ24は、継手プレート23と平行に配置されている。縦リブ24は、スキンプレート21に立設されており、スキンプレート21と主桁プレート22,22に固着されている。
【0044】
隅角部用鋼製セグメント30は、図4に示すように、床版部B1と側壁部B2とが交差する隅角部に配置されるものであり、床版用鋼製セグメント20と側壁用鋼製セグメント40との間に介設されている。なお、本実施形態では、イモ組み状態となるように隅角部用鋼製セグメント30を並設しているので、複数の隅角部用鋼製セグメント30,30,…の上端面は、面一となる。
【0045】
本実施形態の隅角部用鋼製セグメント30は、図5および図6に示すように、外殻となるスキンプレート31と、スキンプレート31の前縁および後縁に設けられた主桁プレート32,32と、スキンプレート31の側縁および上縁に設けられた継手プレート33,33と、主桁プレート32,32の間に設けられた縦リブ34,34を備えている。また、図示は省略するが、主桁プレート32と継手プレート33の外面には、シール材が貼着されている。
【0046】
スキンプレート31は、床付面T2(図1参照)に沿うように配置される鋼板と山留壁W(図1参照)に沿うように配置される鋼板とを繋ぎ合わせたものであり、断面L字状を呈している。
【0047】
主桁プレート32は、スキンプレート31に対応してL字状を呈している。図5に示すように、主桁プレート32は、縦断方向に隣接する他の隅角部用鋼製セグメント30の主桁プレート32に突き合わされる。
【0048】
継手プレート33,33は、いずれも、止水用の端面板33aと、端面板33aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板33b,33bとを備えている。端面板33aは、同じリング内の床版用鋼製セグメント20または側壁用鋼製セグメント40に突き合わされる。
【0049】
下段の側壁用鋼製セグメント40は、図4に示すように、その前後上下に他の鋼製セグメントが配置される普通タイプの鋼製セグメントであり、内側面(内空側の側面)が開口した箱状を呈している。
【0050】
下段の側壁用鋼製セグメント40は、普通タイプの床版用鋼製セグメント20と同様の構成を具備するものであり、図7の(a)および(b)に示すように、外殻となるスキンプレート41と、前後一対の主桁プレート42,42と、上下一対の継手プレート43,43と、主桁プレート42,42の間に設けられた複数の縦リブ44,44,…とを備えている。なお、図示は省略するが、主桁プレート42と継手プレート43の外面には、シール材が貼着されている。
【0051】
下段の側壁用鋼製セグメント40は、各継手プレート43を介して、同一のリングに属する二つの鋼製セグメント(隅角部用鋼製セグメント30および上段の側壁用鋼製セグメント50)に接合され、各主桁プレート42を介して、隣接する他のリングに属する側壁用鋼製セグメント40に接合される。
【0052】
上段の側壁用鋼製セグメント50は、図4に示すように、上コンクリート躯体の側壁部A2と鋼殻躯体Bの側壁部B2との境界部分に設置される境界設置タイプの鋼製セグメントであって、内側面が開口した箱状の本体部5Aと、上面が開口した有底角筒状の筒状部5Bとを備えている。本体部5Aは、同一のリングに属する第一の側壁用鋼製セグメント40に接合されるとともに、隣接する他のリングに属する側壁用鋼製セグメント40の本体部5Aに接合される。また、筒状部5Bは、隣接する他のリングに属する側壁用鋼製セグメント50の筒状部5Bに接合される。なお、図示は省略するが、主桁プレート52と継手プレート53の外面には、シール材が貼着されている。
【0053】
上段の側壁用鋼製セグメント50は、図7の(a)に示すように、スキンプレート51、主桁プレート52、継手プレート53および縦リブ54に加えて、仕切プレート55と、応力伝達プレート56と、孔あき鋼板ジベル57,57,…と、貫通鉄筋58,58,…とを備えている。
【0054】
スキンプレート51、主桁プレート52,52、継手プレート53および縦リブ54は、普通タイプの側壁用鋼製セグメント40のものと同様の構成を具備している。
すなわち、スキンプレート51は、本体部5Aおよび筒状部5Bの外殻となるものであり、主桁プレート52は、スキンプレート51の前縁および後縁に立設されている。また、継手プレート53は、スキンプレート51に立設された止水用の端面板53aと、端面板53aの前縁および後縁に配置された構造用の補強板53b,53bとを備えており、縦リブ54は、継手プレート53と平行に配置されている。
【0055】
仕切プレート55は、本体部5Aと筒状部5Bとの境界に配置されるものである。本実施形態の仕切プレート55は、縦リブ54の上方に配置されており、かつ、継手プレート53と平行である。仕切プレート55は、補強板53bと同等の厚さを有する一枚の鋼板からなり、スキンプレート51と主桁プレート52,52とに固着されている。
【0056】
応力伝達プレート56は、筒状部5Bの内側面を構成するものであり、スキンプレート51の上半部(筒状部5Bの外側面)に対向して配置されている。応力伝達プレート56は、鋼板からなる。応力伝達プレート56の前縁部および後縁部は、複数のボルトb4を利用して、第一接続板52a,52aに接合され、応力伝達プレート56の下縁部は、複数のボルトb4を利用して、第二接続板55aに接合される。なお、第一接続板52aは、主桁プレート52の側端に固着されており、第二接続板55aは、仕切プレート55の側端に固着されている。
【0057】
孔あき鋼板ジベル57,57,…は、せん断伝達部材として機能するものであり、仕切プレート55よりも上側に配置されていて、筒状部5Bの内周面(スキンプレート51、主桁プレート52または応力伝達プレート56)に固着されている。スキンプレート51および応力伝達プレート56には、上下方向に延在する孔あき鋼板ジベル57,67,…が複数(本実施形態では四つ)並設されており、主桁プレート52には、横方向に延在する孔あき鋼板ジベル57,57,…が複数(本実施形態では三つ)並設されている。なお、同一面に配置された複数の孔あき鋼板ジベル57,57,…は、それぞれに設けた透孔が一直線上に並ぶように配置されている。
【0058】
貫通鉄筋58は、孔あき鋼板ジベル57の透孔に挿通されている。スキンプレート51に沿って配置される複数の貫通鉄筋58,58,…は、いずれも前後方向(水平方向)に配筋されており、スキンプレート51に突設された複数の孔あき鋼板ジベル57,57,…と交差している。図示は省略するが、応力伝達プレート56に沿って配置される複数の貫通鉄筋についても同様である。主桁プレート52に沿って配筋される複数の貫通鉄筋58,58,…は、いずれも上下方向(鉛直方向)に配筋されており、主桁プレート52に突設された複数の孔あき鋼板ジベル57,57,…と交差している。
【0059】
<上コンクリート躯体Aと鋼殻躯体Bとの接合部>
側壁接合部J(上コンクリート躯体Aから鋼殻躯体Bへと遷移する区間)は、側壁主筋15やせん断補強筋17を筒状部5Bの内部空間(スキンプレート51と一対の主桁52,52と応力伝達プレート56とで囲まれた空間)に配筋した状態で、筒状部5Bの内部空間にコンクリート(図示略)を充填することによって形成されている。
【0060】
すなわち、側壁接合部Jは、図2に示すように、側壁用鋼製セグメント50の筒状部5B(スキンプレート51、一対の主桁52,52および応力伝達プレート56)と、筒状部5Bの内部空間に至る複数の側壁主筋15,15,…と、側壁主筋15と交差する方向に配筋された複数のせん断補強鉄筋17,17,…と、筒状部5Bの内部空間に充填されたコンクリートとによって構成されている。
なお、側壁接合部Jの構成は、これに限定されるものではない。
【0061】
<鉄筋コンクリート梁C>
鉄筋コンクリート梁Cは、床版部B1の上面(内面)において縦断方向に延在する鉄筋コンクリート部材であって、コンクリート躯体Aの縦梁部A3の真下において、縦梁部A3と平行に形成されている。
鉄筋コンクリート梁Cは、場所打ちコンクリートと鉄筋等の補強鋼材とによって構成されている。本実施形態では、図8および図9に示すように、梁主筋61、スターラップ62、床版部B1の縦リブ24などによって、コンクリートが補強されている。
【0062】
鉄筋コンクリート梁Cは、床版部B1に挿入された埋設部C1と床版部B1の上面から突出する突出部C2とを備えている。
埋設部C1は、頂版部B1の縦リブ24により補強されており、突出部C2は、梁主筋61により補強されている。
【0063】
埋設部C1は、縦リブ24をコンクリートの補強部材として設計し、埋設部C1への梁主筋61の配筋は省略されている。縦リブ24は、隣り合う床版用鋼製セグメント20同士を、縦リブ24に近接して配置された固定ボルトb3を利用した引張接合により、縦断方向に連続した剛性一様な構造体として設計することが可能に構成されている。
一方、突出部C2は、梁主筋61により補強されている。
【0064】
梁主筋61は、床版部B1の上面に沿って配筋された補強鋼材であり、長手方向が前後方向となるように、突出部C2に配筋されている。
梁主筋61は、突出部C2の上部において、左右方向に所定の間隔をあけて配筋されているとともに上下2段に配筋されている。
【0065】
スターラップ62は、鉄筋コンクリート梁Cの外周面に沿って配筋された補強鋼材であり、本実施形態では門型を呈している。スターラップ62は、図8の(a)に示すように、主筋61と縦リブ24,24の外側を覆うように配筋されている。
本実施形態では、3本の鉄筋を組み合わせることによりスターラップ62を形成するが、例えば、1本の鉄筋を折り曲げることにより形成するなど、スターラップ62の形成方法は限定されるものではない。
【0066】
スターラップ62の両端部62a,62aは、他方の端部62a側に折り曲げられており、鉄筋コンクリート梁Cの補強部材となる縦リブ24に形成された穴を貫通している。端部62aは、鉄筋の標準フックの定着長相当以上の長さが、縦リブ24を貫通するように形成されている。
スターラップ62が縦リブ24を所定の定着長を確保した状態で貫通しているため、鉄筋コンクリート梁Cが、床版部B1に一体に係止されている。
【0067】
鉄筋コンクリート梁Cの横断方向中央には、上下に延設された補助係止筋63が配筋されている。補助係止筋63は、一方の端部がスターラップ62の上側の辺の中央に係止されており、他方の端部63aが中央の縦リブ24に形成された穴を貫通している。端部63aは、スターラップ62の端部62aと同様に、鉄筋の標準フックの定着長相当以上の長さが、縦リブ24を貫通するように形成されている。
鉄筋コンクリート梁Cは、補助係止筋63により、床版部B1との一体性が増強されている。
【0068】
鉄筋コンクリート梁Cには、埋設部C1と突出部C2との境界付近に、補助鉄筋64,64,…が縦断方向に沿って配筋されている。なお、補助鉄筋64は、必要に応じて配筋すればよい。
【0069】
<コンクリート柱D>
コンクリート柱Dは、土水圧や上載荷重に耐え得るように設計された本設構造体である。図1に示すように、本実施形態のコンクリート柱Dは、上コンクリート躯体Aの縦梁部A3と鉄筋コンクリート梁Cとの間に立設されており、上コンクリート躯体Aを支持している。なお、本実施形態のコンクリート柱Dは、場所打ちコンクリートと鉄筋等の補強鋼材とによって構成された鉄筋コンクリート構造である。本実施形態では、図8および図9に示すように、柱主筋71、フープ筋72などによって、コンクリートが補強されている。
【0070】
コンクリート柱Dは、図8の(a)に示すように、下端部が鉄筋コンクリート梁Cに挿入されている。
【0071】
柱主筋71は、鉛直方向に配筋された補強鋼材であり、下端部が鉄筋コンクリート梁C内(床版部B1内)に挿入されている。
【0072】
フープ筋72は、口字状に形成されていて、複数本の柱主筋71の外周囲に沿って配筋されている。フープ筋72は、上下方向に間隔を空けて多数配筋されている。
本実施形態では、フープ筋72を、鉄筋コンクリート梁Cの突出部C2内にも配筋している。
【0073】
本実施形態では、図示は省略するが、コンクリート柱Dの頭部の柱主筋71およびフープ筋72を、脚部と同様に縦梁部A3の内部に挿入させている。
なお、コンクリート柱Dは、補強部材として鉄骨が配設された鉄骨鉄筋コンクリート構造としてもよい。また、コンクリート柱Dは、プレキャスト部材を配設することにより構成してもよい。
<地下構造物の構築方法>
【0074】
本実施形態に係る地下構造物の構築方法は、図11に示すように、本設躯体の一部分となる上コンクリート躯体Aを形成し、上コンクリート躯体Aを山留め支保工として利用しつつ地盤を掘り下げた後、図12に示すように、上コンクリート躯体Aの下側に複数の鋼製セグメント20〜50を並設し、隣接する鋼製セグメント20〜50を接合することで、本設躯体の他の部分となる鋼殻躯体Bを形成し、さらに、図13に示すように、鉄筋コンクリート梁Cとコンクリート柱Dを形成する、というものである。
【0075】
以下、図10乃至図13を参照して、本実施形態に係る地下構造物の構築方法をより詳細に説明する。
本実施形態に係る地下構造物の構築方法は、一次掘削工程と、第一の躯体構築工程と、二次掘削工程と、第二の躯体構築工程と、コンクリート柱構築工程と、を含むものである。
【0076】
一次掘削工程は、図10の(a)に示すように、山留壁W,Wの間の地盤を、コンクリート躯体Aの構築予定位置の下側まで掘り下げる工程である。なお、山留壁Wは、いわゆる柱列式連続地中壁である。山留壁Wを構築するには、地盤をアースオーガで掘削しつつ、原位置にて掘削土とセメントスラリーを混合・攪拌してソイルセメントを形成し、掘削孔からアースオーガを引き上げた後、ソイルセメントが固まらないうちに、芯材W1を地中(掘削孔)に建て込めばよい。
【0077】
地盤を掘削する際には、芯材W1の内側にあるソイルセメントを削り取り、芯材W1を露出させる。芯材W1を露出させたならば、芯材W1にブラケットW2を設置する。
【0078】
地盤を床付面T1まで掘り下げたら、山留壁W,Wの間に中間杭Mを構築し、図10の(b)に示すように、中間杭Mの芯材の上端部にプレロード用のジャッキM1を設置する。なお、中間杭Mは、上コンクリート躯体Aの中間部分を仮受けするものであり、H形鋼を芯材とするソイルセメント杭からなる。
【0079】
第一の躯体構築工程は、コンクリート躯体Aを形成する工程である。第一の躯体構築工程では、まず、床付面T1上にスラブ型枠や梁型枠などを設置し、その上に下側のスラブ主筋14や縦梁主筋15(図2参照)などを配筋する。次に、横断鉄骨11をブラケットW2,W2間に架設し、横断鉄骨11の端面と山留壁の内壁面との間に、サポート部材11b(図2参照)を設置し、横断鉄骨11の横移動を拘束する。なお、側壁芯鉄骨12は、横断鉄骨11に予め接合しておく。
【0080】
複数の横断鉄骨11,11,…を設置したら、縦断鉄骨13および繋ぎ材11a(図3参照)を設置し、さらに、図2に示す上側のスラブ主筋14、側壁主筋15、上側の縦梁主筋16、せん断補強筋17、ハンチ筋18などを配筋する。その後、コンクリートを打設し、所定強度に達するまで養生する。
【0081】
なお、コンクリート躯体Aには、コンクリート柱Dの位置に対応して、予めコンクリート柱Dの主筋71およびフープ筋72の縦梁部A3への埋設部分を配筋しておく。このとき、主筋71の一部を縦梁部A3の下面から突出させておく。
【0082】
而して、コンクリートが中間杭MのジャッキM1をジャッキアップしつつ型枠を脱型すると、図11の(a)に示すように、山留め支保工を兼ねる上コンクリート躯体Aが出現する。なお、既設構造物の下方に地下構造物を構築する場合には、既設構造物を上コンクリート躯体Aに受け替える。
【0083】
二次掘削工程は、図11の(b)に示すように、上コンクリート躯体Aの下側の地盤を床付面T2まで掘り下げる工程である。二次掘削工程では、上コンクリート躯体Aを山留め支保工として利用する。本実施形態では、上コンクリート躯体Aの下方に切梁Kを設置しているが、切梁Kの有無や段数等は、掘削深さ掘削幅等に応じて適宜設定すればよい。
【0084】
床付面T2まで掘削したら、図示は省略するが、床付面T2および山留壁Wの内壁面に沿って防水シートを敷設し、防水シート上に保護モルタルおよび基礎コンクリートを打設する。
【0085】
第二の躯体構築工程は、図12に示すように、上コンクリート躯体Aの下側に複数の鋼製セグメント20、30,40,50を並設し、これらを互いに接合することで鋼殻躯体Bを形成する工程である。第二の躯体構築工程には、鋼床版構築工程、鉄筋コンクリート梁構築工程、鋼壁構築工程などが含まれている。
【0086】
鋼床版構築工程は、図12の(a)に示すように、左右の床付面T2の上に鋼殻構造の床版部B1を形成する工程である。鋼床版構築工程では、複数の床版用鋼製セグメント20および複数の隅角部用鋼製セグメント30をイモ組み状態となるように並設し、これらを互いに接合することで床版部B1を形成する。鋼製セグメントの設置作業は、例えば、セグメントを把持した状態で床付面T2上を自走可能なハンドリングマシンを利用して行うか、あるいは、セグメントを吊持可能な小型の揚重機械を利用して行えばよい。
【0087】
セグメントを「イモ組み」する場合には、組立順序が制約され難くなるので、様々な組立順序を採用することできるが、例えば、二種類の鋼製セグメント20,30を横一列に並設し、横方向に隣接する鋼製セグメント20,30を互いに接合して横長の構造体を形成した後に、その前側または後側において他の鋼製セグメント20,30を横一列に並設し、横方向に隣接する鋼製セグメント20,30を接合するとともに、縦断方向に隣接する同種のセグメント同士を接合すればよい。なお、一種類のセグメントを縦断方向に並設した後に、その横において他種のセグメントを縦断方向に並設してもよい。
【0088】
隣接するセグメント同士は、固定ボルトb1,b2(図5参照)を利用して接合する。本実施形態では、横断方向に隣接するセグメント同士(セグメント継手)を、固定ボルトb2を使用した引張接合方式により接合することで、セグメント継手における剛性低下を生じ難くさせて、剛性一様とみなしうる構造体を実現している。
また、鉄筋コンクリート梁Cが形成される位置では、縦リブ24の両側の近接した位置において、縦断方向に隣接する床版用鋼製セグメント20の主桁プレート22同士を、固定ボルトb3を利用した引張接合方式により接合すると、縦断方向で隣り合う縦リブ24同士が縦断方向に連続する剛性一様な構造部材(引張力に抵抗する構造部材)として設計することができる。
【0089】
次に、隅角部用鋼製セグメント30と山留壁Wとの間の隙間にモルタルなどの裏込材81(図12の(b)参照)を注入する。裏込材81が硬化すると、鋼製セグメント20,30を連設してなる構造体が山留め支保工として機能し得るようになるので、切梁Kを撤去することができる。
【0090】
鉄筋コンクリート梁構築工程は、図13の(a)に示すように、コンクリート躯体Aの縦梁部A3の下方に、床版部B1と一体に形成された鉄筋コンクリート梁Cを形成する工程である。
【0091】
鉄筋コンクリート梁構築工程では、まず、梁主筋61やスターラップ62等を配筋する。次に、図示しない梁型枠を設置し、梁主筋61、スターラップ62および縦リブ24を巻き込むようにコンクリートを打設し、所定強度に達するまで養生する。
【0092】
スターラップ62は、端部62a,62aを縦リブ24に貫通させた状態で配筋する。このとき、補助係止筋63も端部63aを縦リブ24に貫通させた状態で配筋しておく。
梁主筋61は、床版部B1の上方に所定の間隔をあけて縦断方向に配筋する。
【0093】
また、鉄筋コンクリート梁Cには、コンクリート柱Dの位置に対応して、予めコンクリート柱Dの主筋71およびフープ筋72の縦梁部A3への埋設部分を配筋しておく。このとき、主筋71の一部を、鉄筋コンクリート梁Cの上面から突出させておく。
【0094】
鉄筋コンクリート梁Cのコンクリート打設に伴ない、図13の(a)に示すように、床版用鋼製セグメント20の内部および隅角部用鋼製セグメント30の内部に、間詰め材82を打設する。なお、間詰め材82の種類や材質に制限はないが、本実施形態では、低コスト化を図るべく、非構造材料(例えば、貧配合のコンクリートや流動化処理土など)を使用している。間詰め材82を打設することで、床版部B1の上面が平滑になり、以後の作業性が向上する。
【0095】
而して、型枠を脱型すると、図13の(a)に示すように、鉄筋コンクリート梁Cが出現する。なお、鉄筋コンクリート梁Cの施工は、側壁部B2,B2の構築後に行ってもよく、鉄筋コンクリート梁構築工程と鋼壁構築工程との施工順序は限定されるものではない。
【0096】
鋼壁構築工程は、山留壁Wに沿って鋼殻構造の側壁部B2を形成する工程である。鋼壁構築工程では、複数の側壁用鋼製セグメント40,50をイモ組み状態となるように並設し、これらを互いに接合することで側壁部B2,B2を形成する。隣接するセグメント同士は、固定ボルトb1,b2(図7参照)にて接合する。
【0097】
鋼製セグメントの設置作業は、例えば、セグメントを把持した状態で間詰め材82上を自走可能なハンドリングマシンを利用して行うか、あるいは、セグメントを吊持可能な小型の揚重機械を利用して行えばよい。床版部B1の上面が平坦に均されており、かつ、施工機械の移動を妨げる切梁K(図12の(a)参照)が既に撤去されているので、鋼製セグメントの設置作業をスムーズに行うことができる。
【0098】
なお、下段の側壁用鋼製セグメント40は、隅角部用鋼製セグメント30の上端面(図6に示す上側の継手プレート33)に載置する。本実施形態では、複数の隅角部用鋼製セグメント30,30,…の上端面の高さ位置が揃っているので(図4参照)、側壁用鋼製セグメント40を容易に設置することができる。
【0099】
図示は省略するが、セグメントを千鳥組みにする場合には、複数の隅角部用鋼製セグメント30,30,…の上端面の高さ位置に高低差が生じ、低い方の隅角部用鋼製セグメント30の上に側壁用鋼製セグメント40を設置する際には、その両側の隅角部用鋼製セグメント30,30の間に挿入する必要があるので、両セグメントに設けたシール材が剥離等しないよう注意する必要がある。
【0100】
上段の側壁用鋼製セグメント50は、応力伝達プレート56を取り付けない状態で、下段の側壁用鋼製セグメント40の上端面(図7に示す上側の継手プレート43)に載置する。本実施形態では、下段の側壁用鋼製セグメント40,40,…の上端面の高さ位置が揃っているので(図4参照)、上段の側壁用鋼製セグメント50を容易に設置することができる。
【0101】
側壁用鋼製セグメント40,50を設置したら、図13の(b)に示すように、側壁用鋼製セグメント40,50と山留壁Wとの間の隙間にモルタルなどの裏込材83を注入し、側壁部B2の側部を拘束する。
【0102】
続いて、側壁用鋼製セグメント50の筒状部5Bを形成する(筒状部形成工程)とともに、筒状部5Bの内側に側壁主筋15やせん断補強筋を配筋し、筒状部5Bの内部空間にコンクリートを充填する(コンクリート充填工程)。コンクリートを打設する際には、上コンクリート躯体Aを上下に貫通するコンクリート注入孔(図示略)を使用する。なお、コンクリートは、筒状部5Bの上縁まで打設する。
【0103】
コンクリートが硬化したら、コンクリートの上面と上コンクリート躯体Aの下面との間に、無収縮モルタル19を充填する。無収縮モルタル19を充填する際には、上コンクリート躯体Aを上下に貫通するモルタル注入孔(図示略)を使用する。なお、既設構造物を上コンクリート躯体Aに受け替えた場合には、既設構造物の重量が上コンクリート躯体Aを介して山留壁Wに作用することになるが、上コンクリート躯体Aと鋼殻躯体Bとが接合されると、上コンクリート躯体A、鋼殻躯体Bによって矩形枠状の構造体が形成されるようになり、当該構造体を介して既設構造物の重量の一部が床付面T2等に作用するようになるので、山留壁Wの負担を低減することが可能になる。
【0104】
コンクリート柱構築工程は、図13の(b)に示すように、コンクリート柱Dを形成する工程である。
コンクリート柱構築工程では、まず、柱主筋71やフープ筋72を配筋する。
【0105】
柱主筋71は、縦梁部A3の下面や鉄筋コンクリート梁Cの上面に突設された鉄筋に鉄筋を連結することにより鉛直方向に配筋する。
フープ筋72は、柱主筋71を拘束するように、柱主筋71の周囲を覆うように配筋する。
【0106】
柱主筋71およびフープ筋72の配筋後、図示しない型枠を設置してコンクリートを打設する。所定強度に達するまでコンクリートを養生して、型枠を脱型すると、図13の(b)に示すように、コンクリート柱Dが出現する。
【0107】
コンクリート柱Dの構築後、中間杭Mを撤去し、上コンクリート躯体Aの上側の空間に地盤材料を埋め戻すと、図1の状態となる。
【0108】
本実施形態に係る地下構造物によれば、床版部B1の縦リブ24を、鉄筋コンクリート梁Cの補強部材(下側の主筋)として利用するため、鉄筋コンクリート梁Cの下側の主筋の配筋を省略することができる。その結果、作業の手間を省略し、鋼材量を削減することができるため、施工性に優れているとともに、経済的である。
【0109】
縦リブ24は、縦リブ24を挟んで配設された複数の固定ボルトb3による引張接合により接合されているため、剛性一様が確保されており、縦断方向に連続した構造部材として設計することができる。
また、鉄筋コンクリート梁Cの下側の主筋に代えて縦リブ24を利用することで、下側の主筋を配筋するための貫通孔を床版用鋼製セグメント20の主桁プレート22に形成する必要がなく、その手間を省略することができる。
【0110】
鉄筋コンクリート梁Cを、その一部が床版部B1に埋設された(埋設部C1)状態で形成することで、梁せいを抑制し、合理的な構造が形成される。つまり、梁せいを抑制することで、コンクリート量の低減化を図るとともに、梁の突出により内空断面が損なわれることを防止する。また、梁に生じる断面力を床版に伝達させるための接合構造を別途構築する必要もない。
【0111】
また、鉄筋コンクリート梁Cのスターラップ62の端部62aが、縦リブ24に係止されているため、床版部B1と鉄筋コンクリート梁Cが一体に構成されている。床版部B1と鉄筋コンクリート梁Cとの一体化を、新たな接合部材を配設することなく、スターラップ62の端部62aを縦リブ24に貫通させるのみで行うため、施工性に優れている。
【0112】
図4に示すように、本設躯体の一部を鋼殻構造としているので、本設躯体の全体をコンクリート構造とする場合に比べて、コンクリートの使用量を削減することが可能となり、ひいては、鉄筋や型枠の数量を削減することが可能となる。
【0113】
また、本実施形態に係る地下構造物の構築方法によれば、コンクリート、型枠、鉄筋等の数量を削減することができるので、コンクリートの打設時間帯に制約があるような状況下であっても、あるいは、大型の揚重機械を使用できないような作業空頭であっても、工期の長期化を招き難くなる。
【0114】
本実施形態では、鋼製セグメント20,30,40,50を、イモ組み状態となるように並設しているので、組立順序の自由度が高まり、ひいては、施工効率を向上させることが可能となる。なお、本実施形態では、隣接する鋼製セグメント同士を引張接合方式により接合することで、セグメント継手やリング継手での剛性低下を抑制することが可能となり、さらには、継手部の目開きを抑制することが可能となる。
【0115】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0116】
A コンクリート躯体
B 鋼殻躯体
C 鉄筋コンクリート梁
C1 埋設部
C2 突出部
20 床版用鋼製セグメント(セグメントピース)
22 主桁プレート(主桁)
24 縦リブ
30 隅角部用鋼製セグメント
40,50 側壁用鋼製セグメント
61 梁主筋
62 スターラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセグメントピースを縦断方向で連結することにより形成された鋼殻躯体と、
縦断方向に沿って前記鋼殻躯体の内面に形成された鉄筋コンクリート梁と、を備える地下構造物であって、
前記複数のセグメントピース同士は、互いの縦リブ同士が縦断方向において連続した構造部材となるように接合されており、
前記鉄筋コンクリート梁は、前記鋼殻躯体に挿入された埋設部と前記鋼殻躯体から突出する突出部とを備えており、前記突出部のみに当該鉄筋コンクリート梁の主筋が配筋されていることを特徴とする、地下構造物。
【請求項2】
縦断方向で隣り合う前記セグメントピース同士が、互いの主桁同士を突き合わせた状態で、前記縦リブの近傍において前記主桁を貫通したボルトにより接合されていることを特徴とする、請求項1に記載の地下構造物。
【請求項3】
前記鉄筋コンクリート梁のスターラップの端部が、前記縦リブに係止されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の地下構造物。
【請求項4】
上部に形成された上部躯体と、
前記上部躯体の下側に形成された下部躯体と、
前記下部躯体の上面に沿って形成された鉄筋コンクリート梁と、を有する地下構造物であって、
前記下部躯材は、複数のセグメントピースを並設し、隣接する前記セグメントピース同士を接合することで形成されており、
縦断方向に隣り合う前記セグメントピース同士が、互いの縦リブ同士が縦断方向において連続した構造部材となるように接合されており、
前記鉄筋コンクリート梁は、前記鋼殻躯体に挿入された埋設部と前記鋼殻躯体から突出する突出部とを備えており、前記突出部のみに当該鉄筋コンクリート梁の主筋が配筋されていることを特徴とする、地下構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−162891(P2012−162891A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22980(P2011−22980)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成22年8月5日に社団法人土木学会により発行された「土木学会平成22年度全国大会第65回年次学術講演会講演概要集」にて発表 (2)社団法人土木学会が平成22年9月1日〜3日に開催した「土木学会平成22年度全国大会」にて発表
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】