説明

地下標高モデル作成方法、排水処理領域分割方法、排水処理能力評価方法および装置

【課題】排水処理能力評価方法および装置に関し、評価の信頼性が高く、取得が容易 な情報を基にして評価を行うことができると共に、様々な排水処理に関係する 要素を用いて評価を行うことを目的とする。
【解決手段】評価対象領域1内の既知のマンホール管底高2と前記マンホール管底高2と 略同位置の地表標高3との差分をマンホール管底標高4として演算した後、 前記各マンホール管底標高4から地下標高モデルを作成し、次いで、前記地下標高モデル内の標高差から流水方向6を演算し、この後、前記流水方向6を下流側にたどって各マンホール7が所属する排水施設8を決定した後、前記評価対象領域1を排水施設8と排水施設8に所属するマンホール7により形成する排水処理領域9を分割し、 この後、前記各排水処理領域9に、排水との因果関係により選択される排水能力を表す代表値を割り当てて評価対象領域1内の排水処理能力を前記排水処理領域9単位で評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下標高モデル作成方法、排水処理領域分割方法、排水処理能力評価方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管設計支援装置としては、特許文献1に記載されるものが知られている。この従来例は、入手した管設計に必要なデータおよび地図データを用いて配管をつなぎ合わせて対象地域内の配管ネットワークを設計する。
【0003】
対象地域内の排水処理能力の評価をする場合、前記従来例を用いて配管ネットワークから配管ごとの排水能力を算出すれば排水処理能力を評価することができる。
【特許文献1】特開2003-150656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来例において、対象地域内で処理される配管データの量は膨大であり、排水処理能力の評価に到るまでの排水能力の算出に手間がかかる。
【0005】
また、データの欠損がある場合は欠損以外の部分で欠損部分を代替することになるため、対象地域全体の評価に大きなぶれがでたり、評価自体が全く成立しなくなったりするため信頼性が低い。
【0006】
さらに、精度の向上を図るために既設の配管情報を新たに得るには、実際の配管を測量等しなければならない。既設の配管の測量作業は、配管が暗渠にあるため通常地上から容易に行えるものではなく、したがって、既設の配管情報の取得には、特殊な測量装置などが必要なため膨大な費用と手間がかかる。
【0007】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、評価の信頼性が高く、取得が容易な情報を基にして評価を行うことができると共に、様々な排水処理に関係する要素を用いて評価を行うことができる排水処理能力評価方法および装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
排水処理能力評価を上述した従来方法で行った場合、データの欠損により個別のばらつきが顕著になり、対象領域全体の評価に大きく影響するために評価精度の信頼性が低下する。
【0009】
そこで、対象領域内を一定の傾向を持つ領域に分けて、個々のばらつきの影響を抑えた排水処理能力評価を行う。一定の傾向を持つ領域として、地表に降った雨水を最終的に川などに放流する排水施設8に地表に降った雨水を供給する管の集合、すなわち管路網に着目した。管路網は、連なる管が排水施設8毎に枝葉状に分岐する形で地下に張り巡らされ、それぞれの管路網毎に地表の領域を分担している。したがって、対象領域の排水処理能力を評価するにあたって、対象領域を排水施設8を頂点とする枝葉状という一定の傾向を持った領域に分けることができると考えられる。
【0010】
しかし、縦横に張り巡らされた管路網を形成するために必要な情報は管単体の情報や管同士の連結情報など膨大であるため、入手等に費用がかかる。そして、仮に情報を入手したとしても、これらの情報を処理して管路網を形成するには、手間がかかる。
【0011】
上記の問題点を解消するために、限られた管情報等から擬似的な管路網を形成して、排水処理能力の評価を行うことも可能である。擬似的な管路網の形成にあたって、膨大な管情報に代わるものとして、管同士の連結点であると共に、枝葉状に分かれる管路網の分岐点でもあるマンホール7に着目した。マンホール7は、地表と地下の管を繋ぐ雨水の流入口であるため暗渠にある管とは異なり測量等が容易であり、既設の情報が得やすい。したがって、マンホール7によって、容易に擬似的な管路網を形成することができる。
【0012】
また、マンホール7間の管の連結、すなわちマンホールの連結は、管の敷設方法と同様の方法で行うことにより可能となる。管の敷設は、通常特殊な装置等を用いないようにするため標高の高い所を流入口とし、標高の低い所に流出口がくるように設定される。このように管を敷設すれば、管内を流れる雨水は、自然に流入口から入り流出口へと移動する。言い換えれば、管内の雨水の移動は、自然の法則に逆らわないように水を標高の高いところから標高の低いところに流すことで行われている。したがって、マンホール7間に敷設されている管を、マンホール7の管底の標高を基にして連結することにより、疑似的な管路網を形成できる。
【0013】
そして、各マンホール7から排水施設8まで連結して擬似的な管路網を形成して管路網単位で判断したり、あるいは管路網を形成せずに各マンホール7がどの排水施設8に所属しているかだけで判断することも可能であり、このようにすれば排水処理能力を評価する一定の傾向を持った領域に対象領域を分けることができ、対象領域の排水処理能力の評価が可能になる。
【0014】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、
評価対象領域1内のマンホール管底高2と前記マンホール管底高2と略同位置の地表標高3との差分をマンホール管底標高4として演算した後、
各々に位置する前記各マンホール管底標高4から地下標高モデルを作成し、
次いで、前記地下標高モデル内の標高差から流水方向6を演算し、
この後、前記流水方向6を下流側にたどって各マンホール7が所属する排水施設8を決定した後、
評価対象領域1を排水施設8と排水施設8に所属するマンホール7により形成する排水処理領域9に分割し、
この後、前記各排水処理領域9に、排水との因果関係により選択される排水能力を表す代表値を割り当てて評価対象領域1内の排水処理能力を前記排水処理領域9単位で評価する排水処理評価方法によって構成することにより達成できる。
【0015】
本発明において、評価対象領域1は、評価を行うための対象となる領域で、例えば、入手したGISデータ20から地図情報を基にして指定する。
【0016】
前記地下標高モデルは、マンホール管底標高4を地下標高として、評価対象領域1内に点在する各マンホール7の地下標高を基にマンホール7間を適宜の方法により補間して地下地形を擬似的に再現したものである。
【0017】
流水方向6は、任意の点から標高の高低を判断して等高線に対して最短に引かれる線、すなわち落水線を利用して方向を割り出す落水線処理等によって決められる方向である。
【0018】
排水処理領域9は、排水施設8とその排水施設8に属する各マンホール7に基づいて決定される領域である。例えば、マンホール7から流入した雨水がどの排水施設8まで流れるかで、全てのマンホール7の排水施設8への所属を決定することにより、全領域が排水処理領域ごとに分割される。
【0019】
したがって、排水施設8に所属するマンホール7の位置によって評価対象領域1を分割して排水処理領域9を決定することで一定の傾向を持つ領域を形成することができ、排水処理に基づいた一群の領域間での評価を行うことができる。このため評価自体が成り立たなくなるようなぶれは生じなくなり、個別の配管情報の集合としてではなく、排水処理領域9の集合として評価対象領域1内の評価が行える。
【0020】
さらに、排水処理領域9を形成する際、領域の分割をメッシュ10単位で行えば、領域の境界を容易に決定することできる。この場合、最終的な排水処理領域9の分割を見越して、地下標高モデルに排水処理領域9のメッシュ10と対応が取れる形、すなわち地下標高値を代表値とする平面群としてメッシュ10を設定すれば、地下標高モデルの作成段階からメッシュ10で扱えるため以降の処理も容易になる。
【0021】
また、排水処理領域9を代表し排水と因果関係のある値(以下、排水処理能力値という。)としては、管径、排水施設の排水量、そして排水施設までの距離など定量的なものに限らず、管種や過去の内水氾濫の回数などの定性的なものも要素として選ぶことができる。また、複数の要素である場合は、多変量解析等によって統計的に扱われる値も排水処理能力値とすることができるし、個々の要素が排水処理にどれだけ寄与しているか等の判断により重み付けをして指数化することによって得られた値も排水処理能力値とすることができる。排水処理能力値として扱う要素選びは、シミュレーション等により排水処理能力を評価できることを検討した上で決定する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、評価の信頼性が高く、取得が容易な情報を基にして評価を行うことができると共に、様々な排水処理に関係する要素を用いて評価を行うことができる排水処理能力評価方法および装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に本発明の排水処理評価装置を示す。この排水処理評価装置は、入力部22と、必要なデータを格納する格納部11と、格納部11から情報を取り出し演算処理を行う処理部23と、処理部23での演算結果をディスプレイ、プリンタ等に出力する出力部25とを有する。また、処理部23は、メッシュ設定部24、地下標高モデル形成部12、流水方向設定部13、排水処理領域形成部14、排水処理能力設定部15、排水処理能力評価部16とを有する。
【0024】
上記格納部11には、入力部22から入力されたGIS(Geographical Information System、地理情報システム)データ20、下水道台帳データ26、排水施設情報データ27が格納される。
【0025】
GISデータ20は、評価対象領域1内の位置情報とこの位置情報に対応する標高データを伴った地図情報として利用される。下水道台帳データ26は、公共団体等で管理される下水道台帳をもとに作成され、評価対象領域1内のマンホール7の位置、マンホール管底高2、マンホール7間を連結する下水道管の深さ・管径・管種に関する情報を含むマンホールデータ28からなる。例えば、マンホール管底高情報等、一部の情報が欠損するデータが含まれている場合には、この欠損の事実が分かるよう、対応する下水道台帳データにフラグを立てることにより他のデータと識別される。排水施設情報データ27は、各排水施設の位置及び排水能力値データを記憶している。
【0026】
また、格納部11にはGISデータ20の位置情報に対応する位置に下水道台帳データ26のマンホールデータ28を付与した合成データ(GIS合成データ)が格納される。このマンホールデータ28は、位置情報の他に位置情報に対応したマンホール管底高2等の情報を含んでいる。
【0027】
そして、メッシュ設定部24では、格納部11からGIS合成データを抽出して、GIS合成データ上にメッシュ10を設定する。メッシュサイズは、マンホールデータ28の配置状況に合わせて適宜設定する。
【0028】
地下標高モデル形成部12では、格納部11に格納されるGIS合成データから各マンホール7のマンホール管底標高4を演算し、各マンホール管底標高4から地下標高モデルを作成する。
【0029】
地下標高モデル形成部12では、評価対象領域1内のマンホール管底高2と略同位置の地表標高との差分を取ることによりマンホール管底標高4が演算される。マンホール管底標高4の演算は、まず格納部11に格納されるGIS合成データから、各マンホールデータ28に対応するマンホール管底高2と各マンホールデータ28の位置に対応する地表標高を抽出し、次いで、マンホールデータ28のマンホール管底高2と地表標高との差分を取ることにより行われる。
【0030】
また、地下標高モデル形成部では、前記演算されたマンホール管底標高4から階段状の平面群で表される地下標高モデルが作成される。地下標高モデルの作成は、まず、評価対象領域1内の各マンホールデータ28の間に位置するマンホール管底標高4を求めることにより行われる。各マンホールデータ28の間に位置するマンホール管底標高4は、各マンホールデータ28のマンホール管底標高4をTIN補間することにより求められる。この補間により高さ情報を位置情報と併せて表示すると各マンホールデータ28の位置を頂点として高さがマンホール管底高4となる面が形成されることになり、様々な角度で連結した多面体により地形形状を表した図示しない暫定地下標高モデルが作成される。
【0031】
そして、この暫定地下標高モデルに対して、各メッシュ内の代表値がマンホール管底標高4、すなわち地下標高となるメッシュ10を設定する。この結果、隣接するメッシュ10が地下標高に応じて上下に配置された階段状の平面群で表される地下標高モデルが形成される。なお、各メッシュのメッシュ代表値は、各メッシュ内のマンホール管底標高4の平均値とする。また、作成された地下標高モデルは、格納部11に格納されて後述する流水方向などの情報が適宜追加されるようになる。
【0032】
流水方向設定部13では、地下標高モデル形成部12で作成したデータから地下標高モデル内の流水方向6を決定し、各マンホール7を通過した流水がどの排水施設8に流れ込むかを決定したデータを作成する。
【0033】
流水方向設定部13では、地下標高モデル内の標高差から流水方向を演算する。流水方向の処理は、後に詳細する落水線処理により行われ、まず、格納部11から地下標高モデルの流水方向を決定する対象となるメッシュ10の位置情報とメッシュ代表値、すなわち地下標高を抽出する。
【0034】
そして、対象メッシュ10の周囲に隣接しているメッシュ10の位置情報とメッシュ代表値をそれぞれ抽出する。さらに、対象メッシュ10に隣接する全ての隣接メッシュ10について、そのメッシュ代表値を対象メッシュ10のメッシュ代表値から差し引く。得られた差分値の中から、値が最も大きく、かつ、正となる隣接メッシュ10を決定する。
【0035】
次に、決定された隣接メッシュ10が対象メッシュ10に対してどの方向に位置しているかを対象メッシュ10と隣接メッシュ10の位置情報をもとに割り出して、その方向に向かう流水方向6を決定する。
【0036】
そして、これらの演算をマンホールデータ28が属するメッシュ10(以下、マンホールデータメッシュとし、便宜上マンホールデータと同様の符号を付与する。)について行う。
【0037】
さらに、決定される流水方向6に従って、流水方向の先となる隣接メッシュ10について順次流水方向6を決定して、最終的に排水施設8が属するメッシュ10(以下、排水施設メッシュとし、便宜上排水施設と同様の符号を付与する。)まで行う。また、地下標高モデル内の各メッシュ10に対して、決定した流水方向6の情報が追加される。
【0038】
排水処理領域形成部14では、地下標高モデル形成部12で作成したデータから評価対象領域1を排水処理領域9に分割したデータを作成する。
【0039】
排水処理領域形成部14では、まず、流水方向6を下流側にたどって各マンホールデータメッシュ28が所属する排水施設メッシュ8を決定する。マンホールの排水施設への所属決定は、格納部11の地下標高モデル内から所属を決定したいマンホールデータメッシュ28を抽出する。
【0040】
そして、このマンホールデータメッシュ28の流水方向6を出発点として各メッシュ10に与えられている流水方向6をたどって、順次上流側から下流側のメッシュ10を割り出す。最終的に、対象メッシュ10からたどった流水方向6の先が排水施設メッシュ8にたどりつくことで所属する排水施設メッシュ8が特定される。
【0041】
また、排水処理領域形成部14では、評価対象領域1を排水施設8と排水施設8に所属するマンホール7により排水処理領域9に分割する。評価対象領域1の排水処理領域9への分割は、まず、各マンホールデータメッシュ28が所属する排水施設メッシュ8ごとに各マンホールデータメッシュ28および排水施設メッシュ8とで包囲されるメッシュを特定して各排水施設メッシュ8に属する領域に分割する。この際、前記流水方向をもとにして地下標高モデル内の全メッシュの領域を分割しても良い。
【0042】
次に、各排水施設メッシュ8毎に領域分割された地下標高モデルの位置情報とGIS合成データの位置情報とが合致するように位置合わせを行い地下標高モデルとGIS合成データの合成を行う。
【0043】
そして、図5(b)に示すように、地下標高モデルの領域に合わせてGIS合成データを排水処理領域9A、9B、9Cに分割、すなわち評価対象領域1全体を各排水処理領域9A、9B、9Cに分割することにより行われる。この際、GIS合成データには、地下標高モデルと同様のメッシュサイズのメッシュが設定され、合成が行われる。また、排水処理領域9の分割は、地下標高モデルとGIS合成データとを合成する前に地下標高モデルで予め行うこともできるが、合成した後に地下標高モデルの流水方向の情報をもとにして評価対象領域1全体を各排水処理領域9A、9B、9Cに分割することも可能である。そして、排水処理領域9の情報を持ったGIS合成データは、格納部11に格納される。
【0044】
排水処理能力設定部15では、格納部11に格納される排水施設情報データ27から排水能力値データを抽出して、領域毎に排水処理領域形成部14で作成されたデータに追加する。
【0045】
排水処理能力設定部15では、前記排水処理領域に排水との因果関係により選択される排水能力を表す代表値を割り当てる。排水能力を表す代表値の割り当ては、まず格納部11に格納される排水施設情報データ27から後述する演算式等により導かれる排水能力値データを抽出する。次に、排水能力値データを格納部11のGIS合成データの各排水処理領域9A、9B、9Cに追加する。
【0046】
排水処理能力評価部16では、排水処理能力設定部15で作成したデータから評価対象領域1の排水処理能力を評価したデータを作成する。
【0047】
排水処理能力評価部16では、格納部11から各排水処理領域9A、9B、9Cに追加された排水能力値データをもとにして、後述する評価対象領域1全体の評価を行う。そして、評価に関する情報は、GIS合成データに追加される。
【0048】
次に、図2を用いて上記装置の動作を説明する。
【0049】
まず、メッシュ設定工程をメッシュ設定部で実行する。(ステップS1)。図3(a)に示すように、上述した方法により作成したGIS合成データを格納部11から抽出してGIS合成データ全体に所定の長さに区切られたメッシュ10を設定する。
【0050】
次いで、地下標高モデル作成工程を地下標高モデル形成部12で実行する(ステップS2-1〜S2-3)。ステップS2-1では、まず、格納部11から地表標高が未知のマンホール(標高未知マンホール)データ28Aを抽出して、標高未知マンホールデータ28Aの地表標高3を設定するために、未知データの推計を行う。未知データの推計では、図3(a)に示すように、標高未知マンホールデータ28A(二重丸)の属するメッシュ10内において地表標高が既知のマンホール(標高既知マンホール)データ28B(一重丸)を検索する。同一メッシュ10内に標高既知マンホールデータ28Bが検索されれば、その地表標高3を標高未知マンホールデータ28Aの地表標高3とする。同一メッシュ内に複数の標高既知マンホールデータ28Bが検索された場合は、検索されたすべての標高既知マンホールデータ28B、あるいは標高未知マンホールデータ近傍の標高既知マンホールデータの地表標高の平均値を取って標高未知マンホールデータ28Aの地表標高3とする。あるいは、最も標高未知マンホールデータ28Aに近い標高既知マンホールデータ28Bの値で代用してもよい。
【0051】
また、標高既知マンホールデータ28Bが同一メッシュ内に検索されない場合は、各メッシュ10間で補間して標高未知マンホールデータ28Aの属するメッシュの地表標高を算出し、このメッシュの地表標高を標高未知マンホールデータ28Aの地表標高とする。これと同様の処理を全ての標高未知マンホールデータ28Aに対して行う。
【0052】
そして、図3(b)に示すように、マンホールの地表標高3とマンホール管底高2との差分を演算して、各マンホールのマンホール管底標高4を算出する(ステップS2-1)。なお、既知マンホールデータ28Bが少ない場合には、市販の標高データを用いて標高未知マンホールデータ28Aの地表標高を推定してもよい。上記推計の情報は、格納部11のマンホールデータ28に追加される。
【0053】
次に、S2-1で作成した各マンホールデータ28のマンホール管底標高4を格納部11から抽出し、各マンホールデータ28間をTIN補間することにより、様々な角度で連結した多面体により地形形状を表した暫定地下標高モデルを作成する(ステップ2-2)。
【0054】
次いで、暫定地下標高モデルにステップS1と同一のサイズのメッシュ10を設定し、各メッシュ10のメッシュ内を代表するマンホール管底標高、すなわち地下標高を決定する。メッシュ内を代表する地下標高は、例えば、メッシュ内の所定の地点から複数の地下標高を取り出し、その地下標高の平均値とすることにより決定する。上記のようにして各メッシュ内の代表地下標高が決定され、各メッシュに隣接するメッシュがその代表地下標高に応じて上下に配置された階段状の平面群で表される地下標高モデルを作成し、格納部11に格納する(ステップS2-3)。
【0055】
次に、流水方向設定工程を流水方向設定部13で実行する(ステップS3-1〜S3-3)。ステップS3-1では、まず、図4(a)に示すように、マンホール7の属するメッシュ10(マンホールデータメッシュ28)と排水施設8が属するメッシュ10(排水施設メッシュ28)を特定する。メッシュ10の特定は、例えば格納部11からマンホールデータメッシュ28を抽出して、このデータにフラグを立てるなどの情報を追加して行われる。本実施例では、マンホールデータメッシュ28にはメッシュ内に丸のマークを、排水施設メッシュ8には四角のマークを付す。また、メッシュ内にマンホールデータ28と排水施設8が共に存在する場合は、排水施設メッシュ8をマンホールデータメッシュ28に優先させ、このメッシュ10を排水施設メッシュ8として特定する。
【0056】
また、排水施設メッシュ8に隣接するメッシュ(ハッチングで示した部分)については、隣接するメッシュのうちの何れかのメッシュ10に流水先が指定、すなわち流水方向6が向いている場合は、排水施設8に属しているものとする等の条件を設定する。そして、これらの情報を格納部11の地下標高モデルの該当するメッシュ10に追加する(ステップS3-1)。
【0057】
次に、前記条件に従って、落水線処理を行う。図3(a)の一部を抜き出して示した図4(a)、(b)に示すように、格納部11から当該箇所を抽出して、この箇所のマンホールデータメッシュ28に対して、マンホールデータメッシュ28と隣接する周囲のメッシュ10との地下標高の差分を演算し、その差分値が最も大きな値で、かつ、正の値を持つメッシュ10を決定する。メッシュ10の周囲には、最大8カ所のメッシュ10が隣接するため8つの方向が決定される。これらの処理を全メッシュ10に対して行う。また、隣接しているメッシュ10のすべての標高が同じで流水方向6が決定できない場合は、方向を決定するメッシュ10を特定メッシュ10周囲の8ヵ所のメッシュ10のさらに周囲の16ヵ所のメッシュ10というように方向を決定できるまで隣接するメッシュ10の範囲を拡大する。
【0058】
そして、マンホールデータメッシュ28の流水方向として前記決定したメッシュ10の位置する方向を特定する。この特定は、例えば各メッシュ上に流水方向6を向いた矢印をマークすることにより行われる。次いで、前記決定したメッシュ10に対して、前記落水線処理を行う。順次この処理を各メッシュ10に対して行い、最終的に流水方向6を決定すべきメッシュがなくなるまでこの処理を行う。
【0059】
また、排水施設メッシュ8と連結しないマンホールデータメッシュ28、すなわちマンホールデータメッシュ28からの流水方向6が最終的に排水施設8を指定しない場合は、ステップS3-1の条件を適用し、所属する排水施設8を決定する。(S3-2)。
【0060】
次に、各マンホール7の属するメッシュ10がどの排水施設8に所属しているかを決定する。ステップS3-3では、各マンホール7の属するメッシュ10から流水方向6を下流側にたどって、どの排水施設8に流れ込むかを決定し、そして、これらの情報を格納部11の地下標高モデルの該当するメッシュ10に追加する(ステップS3-3)。
【0061】
次に、排水処理領域決定工程を排水処理領域形成部14で実行する(ステップS4)。ステップS4では、格納部11から地下標高モデルを抽出して、便宜上地下標高モデルの一部を示した図4(c)に示すように、黒塗りの四角印で示した排水施設メッシュ8Aと排水施設メッシュ8Aに所属する黒塗りの丸印で示したマンホールデータメッシュ28Aとで排水処理領域9Aを形成し、白抜きの四角印で示した排水施設メッシュ8Bと排水施設メッシュ8Bに所属する白抜きの丸印で示したマンホールデータメッシュ28Bとで排水処理領域9Bを形成する。この処理を各排水施設メッシュ8毎に行って、地下標高モデルを分割する。上述したように各排水処理領域9に分割した地下標高モデルを作成し、格納部11に格納する。
【0062】
次に、図5(a)、(b)に示すように、前記地下標高モデルを評価対象領域1が表されるGIS合成データに合成して、評価対象領域1の排水処理領域9への分割を行う。すなわち、格納部11からに各排水処理領域9に分割した図5(a)に示す地下標高モデルと評価対象領域1が表されるGIS合成データを抽出する。そして、GIS合成データには地下標高モデルと同一のメッシュサイズのメッシュを設定する。
【0063】
さらに、地下標高モデルとGIS合成データの各メッシュが持つ位置情報をもとにして地下標高モデルとGIS合成データとの合成を行う。図5(b)に示すように、GIS合成データ上に地下標高モデルの排水処理領域9が合成される。そして、地下標高モデルの排水処理領域9をもとにしてGIS合成データ内の評価対象領域1の排水処理領域9への分割が行われ、合成されたGIS合成データは、格納部11へ格納される。
【0064】
次に、排水処理能力設定工程を排水処理能力設定部15で実行する(ステップS5)。ステップS5では、ステップS4で作成された排水処理領域9A、9B、9Cを格納部11から抽出し、各排水処理領域9A、9B、9Cに排水処理能力値をそれぞれ設定する。
【0065】
排水処理能力値は、各排水処理領域9A、9B、9Cにおける地下流水の排水能力を代表する値であり理論的、実験的に決定される。排水処理能力値は、単一の要素で代表したり、あるいは複数の要素の各々が排水に与える影響である排水処理貢献度を予め試験等により算出し、これにより重み付けをして結合させることにより定義できる。また、管径、排水施設8の排水量(排水能力値)、そして排水施設8までの距離など定量的なものに限らず、管種や過去の内水氾濫の回数などの定性的なものも要素として選ぶことができる。
【0066】
今、排水処理能力値が管径、管種及び排水施設8の排水能力値で定まると仮定する。管径をa、a、a・・・a(a<a<a<・・・<a)で表し、管径の排水処理貢献度をαとする。そして、管種を、b、b、b・・・b(b<b<b<・・・<b)で表し、管種の排水処理貢献度をβとする。更に、排水能力値をc、c、c・・・c(c<c<c<・・・<c)で表し、排水能力値の排水処理貢献度をγとする。なお、管径、管種及び排水能力値は、値が大きいほど排水処理能力が高いものとし、またα+β+γ=1の関係があるものする。
【0067】
排水施設8の排水処理能力の評価値(y)は、排水処理貢献度により重み付けされた管径に、排水処理貢献度により重み付けされた管径及び排水処理貢献度により重み付けされた排水能力値を乗じたものとなる。すなわち、
y=α・a×β・b×γ・c
(但し、1≦i≦l、1≦j≦m、1≦k≦n)
となる。
【0068】
排水処理領域9Aでは管径がa、管種がb、排水能力値がc、排水処理領域9Bでは管径がa、管種がb、排水能力値がc、排水処理領域9Cでは管径がa、管種がb、排水能力値がc、という値がそれぞれの排水処理領域9に対して与えられたとする。この場合、排水処理領域9Aの評価値(y)は、
y9A=α・a×β・b×γ・c
となる。同様に排水処理領域9Bの評価値は、
y9B=α・a×β・b×γ・c
排水処理領域9Cの評価値は、
y9C=α・a×β・b×γ・c
となる。
【0069】
なお、ここでは排水処理貢献度で重み付けされた管径、管種及び排水能力値の積として評価値を表したが、これらの和で表現することも可能である。また、過去の内水氾濫回数のように値と排水処理能力が反比例の関係にある場合には、除算や差として評価値算出式に組み込む。また、上記例では各排水処理領域において管径及び管種を一定として評価値を求めたが、管路を構成する配管の種別が分かっている場合には、各排水処理領域内の全配管長に占める各配管種別の長さの割合に応じて按分し、これらの和として管径や管種を求めても良い。
【0070】
次に、排水処理評価部で排水処理能力評価工程を実行する(ステップS6)。ステップS6では、ステップS5で設定された排水処理能力値を持つ各排水処理領域9から評価対象領域1を評価して、この評価情報を格納部11のGIS合成データに追加する。
【0071】
そして、ステップS6で評価された評価対象領域1のGIS合成データを格納部11から抽出して、表示装置などの出力部25に各排水処理領域9毎に例えば排水処理能力にしたがって色分けして表示する(ステップS7)。
【0072】
本発明を出力部25でGISレイヤーデータとして利用可能に作成すれば、例えば、避難場所等がわかる地図レイヤーに位置情報に基づいて本発明で作成された排水処理能力評価結果レイヤーを重ね合わせて地域を評価することで、ハザードマップとして利用することができる。そして、豪雨や洪水等の災害時に単に近隣の避難場所に避難するのではなく、排水処理能力の高い避難場所や排水処理能力の高い排水処理領域9内のいずれかの場所に避難するといった新たな災害の回避手段も提案できる。
【0073】
また、出力部25によってGISレイヤーデータとして出力し、管の排水量の情報を持つデータを合成することにより、排水処理領域9内の排水量を表示したデータを作成することができ、降雨などの雨水量との比較が行えるようになる。したがって、排水領域内で雨水量と排水量の差分から排水領域毎の内水氾濫を判定することができる。
【0074】
さらに、内水氾濫を判定する要素を組み込むなどすれば内水氾濫の判定を行うことができる。そして、降雨の情報と連動させて経時的に降雨量と排水量などを比較することにより降雨状況に合わせた内水氾濫の予測を行うことができる。この際、地表面の形状等による雨水のマンホール7への流れ込みなど地表面の情報と組み合わせることにより判定精度を向上させることができる。
【0075】
なお、格納部11に格納される各種データにさらに新しく入手したデータを入力部22から追加することでデータが更新され、より精度の高い排水処理能力評価を行うことができる。また、上述するこれらの排水処理能力評価方法は、上記ステップS1以下の手順を順次実行するプログラムが稼動するコンピュータにより実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明のブロック図を示す図である。
【図2】本発明の動作を示すフローチャートである。
【図3】地図情報等を合成したデータを表す図で、(a)は平面図で、(b)は断面図である。
【図4】領域分割の過程を示す図で、(a)は地下標高を代表値としてメッシュを配置した図であり、(b)は各メッシュ毎に流水方向を決定した図で、(c)は分割された領域を示す図である。
【図5】評価対象領域における排水処理領域の分割の過程を示す図で、(a)は地下標高モデルにおける排水処理領域を示す図で、(b)は排水処理領域毎に分割された評価対象領域を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 評価対象領域
2 マンホール管底高
3 地表標高
4 マンホール管底標高
6 流水方向
7 マンホール
8 排水施設
9 排水処理領域
10 メッシュ
11 格納部
12 地下標高モデル形成部
13 流水方向設定部
14 排水処理領域形成部
15 排水処理能力設定部
16 排水処理能力評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象領域内のマンホール管底高と前記マンホール管底高と略同位置の地表標高との差分をマンホール管底標高として演算した後、
前記各マンホール管底標高から地下標高モデルを作成する地下標高モデル作成方法。
【請求項2】
評価対象領域内のマンホール管底高と前記マンホール管底高と略同位置の地表標高との差分をマンホール管底標高として演算した後、
前記各マンホール管底標高から地下標高モデルを作成し、
次いで、前記地下標高モデル内の標高差から流水方向を演算し、
この後、前記流水方向を下流側にたどって各マンホールが所属する排水施設を決定した後、
前記評価対象領域を排水施設と排水施設に所属するマンホールにより形成する排水処理領域に分割する排水処理領域分割方法。
【請求項3】
前記排水処理領域への分割が、流水方向の演算後に排水処理領域に設定されたメッシュ単位で行われ、
前記地下標高モデルが前記メッシュを単位として各メッシュに付与される標高値を代表値とする平面群により定義される請求項2に記載の排水処理領域分割方法。
【請求項4】
評価対象領域内のマンホール管底高と前記マンホール管底高と略同位置の地表標高との差分をマンホール管底標高として演算した後、
前記各マンホール管底標高から地下標高モデルを作成し、
次いで、前記地下標高モデル内の標高差から流水方向を演算し、
この後、前記流水方向を下流側にたどって各マンホールが所属する排水施設を決定した後、
前記評価対象領域を排水施設と排水施設に所属するマンホールにより形成する排水処理領域に分割し、
この後、前記各排水処理領域に、排水との因果関係により選択される排水能力を表す代表値を割り当てて評価対象領域内の排水処理能力を前記排水処理領域単位で評価する排水処理能力評価方法。
【請求項5】
前記排水処理領域への分割が、流水方向の演算後に排水処理領域に設定されたメッシュ単位で行われ、
前記地下標高モデルが前記メッシュを単位として各メッシュに付与される標高値を代表値とする平面群により定義される請求項4記載の排水処理能力評価方法。
【請求項6】
評価対象領域内のマンホール管底高データと地表標高データを格納する格納部と、
前記格納部から抽出した略同位置の前記マンホール管底高データと地表標高データとの差分からマンホール管底標高を演算し、前記各マンホール管底標高データから地下標高モデルを作成する地下標高モデル作成部と、
前記地下標高モデル内の標高差から流水方向を演算する流水方向設定部と、
前記流水方向を下流側にたどって各マンホールが所属する排水施設を決定し、前記評価対象領域を排水施設と排水施設に所属するマンホールにより排水処理領域に分割する排水処理領域形成部と、
前記排水処理領域に排水との因果関係により選択される排水能力を表す代表値を割り当てる排水処理能力設定部と、
前記排水処理領域内の代表値により評価対象領域の排水処理能力を評価する排水処理能力評価部を備える排水処理能力評価装置。
【請求項7】
前記排水処理領域形成部は、流水方向の演算後に排水処理領域に設定されたメッシュ単位で分割し、
前記地下標高モデル作成部は、前記メッシュを単位として各メッシュに付与される標高値を代表値とする平面群により定義される請求項6記載の排水処理能力評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−204932(P2007−204932A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21953(P2006−21953)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】