説明

地下水の排水構造及びその排水構造を備えたトンネルの構築方法

【課題】自立可能な地山を掘削する際に、地下水の水圧が覆工体に作用しないようにすることが可能な地下水の排水構造及びその排水構造を備えたトンネルの構築方法を提供する。
【解決手段】地下水の排水構造1は、トンネル掘削面に沿って構築された覆工体5と、トンネル掘削面と覆工体5の外周との間に形成された空隙部4に充填された小石、砂等からなる骨材11と、覆工体5の内周面に接するように設けられた埋設型枠6と、覆工体5及び埋設型枠6の内外を貫通するように設けられた開口部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造及びその排水構造を備えたトンネルの構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地山内を掘削して覆工体を設置し、その覆工体の外周とトンネル掘削面との間に形成された空隙部に止水性の裏込材を充填して覆工体の周囲を覆っても、地下水がその裏込材を通過して覆工体の内方、すなわちトンネル内に浸入する場合がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、覆工体の内部にこの覆工体をトンネルの長手方向に貫通する導水路と、その導水路に連通するように、覆工体の外周に設けられ、覆工体の外周付近の地下水を導水路に通水するための溝とを設けて、裏込材を通過して覆工体の外周に到達した地下水を溝及び導水路を介して排水する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000−282799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、覆工体の周囲を裏込材で覆っているため、地下水の水圧が裏込材を介して覆工体に作用するので、この圧力に耐え得るように覆工体を厚くしなければならない。しかし、覆工体を厚くすると、掘削径が大きくなって掘削土量が増加するという問題点もあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、自立可能な地山を掘削する際に、地下水の水圧が覆工体に作用しないようにすることが可能な地下水の排水構造及びその排水構造を備えたトンネルの構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明のトンネルの構築方法は、地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造を備えたトンネルの構築方法において、シールド機の胴体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された余堀部に透水性裏込材を充填する充填工程と、前記シールド機の後部において、前記透水性裏込材の内側に所定の隙間を隔てて埋設型枠を設置する埋設型枠設置工程と、前記隙間にコンクリートを打設して覆工体を構築する覆工体構築工程と、前記覆工体を貫通して、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する開口部を形成する開口部形成工程とを備えることを特徴とする(第1の発明)。
【0007】
本発明によるトンネルの構築方法によれば、トンネルの周囲に存在する地下水は、透水性裏込材及び覆工体に形成された開口部を通過してトンネル内に流入するので、地下水の水圧が覆工体に作用しない。したがって、覆工体の厚さを薄くすることができる。
また、シールド機により掘削されたトンネル掘削面と覆工体の外周との間に、容易に通水可能な水みちが形成され、この水みちに地下水が流れるため、覆工体の接続部からの漏水が無くなる。
【0008】
本発明のトンネルの構築方法は、地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造を備えたトンネルの構築方法において、前記シールド機の後部において、当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面の内側に所定の隙間を隔てて埋設型枠を設置する埋設型枠設置工程と、前記隙間にコンクリートを打設して覆工体を構築する覆工体構築工程と、前記覆工体の切羽側端面に接するように、透水性を有する目地部を設置する目地部設置工程と、一端が前記目地部に接続され、前記目地部を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する通水手段を設置する通水手段設置工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によるトンネルの構築方法によれば、トンネルの周囲に存在する地下水は、覆工体間に設けられた目地部内及びこの目地部に接続された通水手段を通過してトンネル内に流入するので、地下水の水圧が覆工体に作用しない。したがって、覆工体の厚さを薄くすることができる。
また、覆工体間に、容易に通水可能な水みちが形成され、この水みちに地下水が流れるため、埋設型枠の接続部からの漏水が無くなる。
【0010】
本発明のトンネルの構築方法は、地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造を備えたトンネルの構築方法において、前記シールド機の後部において、前記シールド機の外殻の内側に所定の隙間を隔てて埋設型枠を設置する埋設型枠設置工程と、前記隙間にコンクリートを打設して覆工体を構築する覆工体構築工程と、前記シールド機の推進により、前記覆工体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された空間に透水性裏込材を充填する充填工程と、前記覆工体を貫通して、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する開口部を形成する開口部形成工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によるトンネルの構築方法によれば、トンネルの周囲に存在する地下水は、透水性裏込材及び覆工体に形成された開口部を通過してトンネル内に流入するので、地下水の水圧が覆工体に作用しない。したがって、覆工体の厚さを薄くすることができる。
また、シールド機により掘削されたトンネル掘削面と覆工体の外周との間に、容易に通水可能な水みちが形成され、この水みちに地下水が流れるため、覆工体の接続部からの漏水が無くなる。
【0012】
本発明の地下水の排水構造は、地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水の排水構造であって、前記トンネルを掘削するシールド機の胴体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された余堀部に充填された透水性裏込材と、前記透水性裏込材の内側に所定の隙間を隔てて設置された埋設型枠と、前記隙間にコンクリートを打設して構築された覆工体と、前記覆工体に、その内外を貫通するように設けられ、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する開口部とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明による地下水の排水構造によれば、トンネルの周囲に存在する地下水は、透水性裏込材内及び覆工体に形成された開口部を通過してトンネル内に流入するので、地下水の水圧が覆工体に作用しない。したがって、覆工体の厚さを薄くすることができる。
また、トンネル掘削面と覆工体の外周との間に、容易に通水可能な水みちが形成され、この水みちに地下水が流れるため、覆工体の接続部からの漏水が無くなる。
【0014】
本発明の地下水の排水構造は、地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水の排水構造であって、トンネル掘削面の内側に所定の隙間を隔てて設置された埋設型枠と、前記隙間にコンクリートを打設して構築された覆工体と、前記覆工体内に、前記トンネルの長手方向に所定の間隔で前記トンネル掘削面及び前記埋設型枠に接するように設けられ、透水性を有する目地部と、一端が前記目地部に接続され、前記目地部を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する通水手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明による地下水の排水構造によれば、トンネルの周囲に存在する地下水は、覆工体間に設けられた目地部内及びこの目地部に接続された通水手段を通過してトンネル内に流入するので、地下水の水圧が覆工体に作用しない。したがって、覆工体の厚さを薄くすることができる。
また、覆工体間に、容易に通水可能な水みちが形成され、この水みちに地下水が流れるため、埋設型枠の接続部からの漏水が無くなる。
【0016】
本発明の地下水の排水構造は、地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水の排水構造であって、前記トンネルを掘削するシールド機の外殻の内側に所定の隙間を隔てて設置された埋設型枠と、前記隙間にコンクリートを打設して構築された覆工体と、前記シールド機の推進により、前記覆工体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された空間に充填された透水性裏込材と、前記覆工体に、その内外を貫通するように設けられ、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水するための開口部とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明による地下水の排水構造によれば、トンネルの周囲に存在する地下水は、透水性裏込材内及び覆工体に形成された開口部を通過してトンネル内に流入するので、地下水の水圧が覆工体に作用しない。したがって、覆工体の厚さを薄くすることができる。
また、トンネル掘削面と覆工体の外周との間に、容易に通水可能な水みちが形成され、この水みちに地下水が流れるため、覆工体の接続部からの漏水が無くなる。
【0018】
本発明において、前記地山は、自立性を有することとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、自立性を有する地山、例えば、洪積砂礫層や硬岩等の地山内にトンネルを設けることで地山自体の支保能力が期待できるため、覆工体の厚さを薄くすることができる。
【0019】
本発明において、前記開口部は、前記トンネルのインバート部に設けられることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、開口部は、トンネルのインバート部に設けられるので、トンネルのインバート部よりも上方に存在する地下水をすべて排水することができる。したがって、地下水の水圧が覆工体に作用することを防止できる。
【0020】
本発明において、前記開口部内に設置され、土砂を捕捉して地下水のみを通過させるための濾過手段と、前記濾過手段を通過した地下水を排水するための排水手段とを更に備えることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、濾過手段を備えるので、土砂等を含まない地下水のみを通過させることができる。
【0021】
本発明において、前記排水手段は、前記トンネルの長手方向に沿って敷設され、地下水を前記トンネル外に送水するための幹線集排水管と、前記濾過手段を通過した地下水を集水するための集水管と、前記幹線集排水管から複数枝分かれして前記集水管に接続された支線集排水管とを備えることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、排水手段は、幹線集排水管と集水管と支線集排水管とを備えるので、トンネルの底盤付近を水浸しにすること無く、地下水を処理することができる。
【0022】
本発明において、前記透水性裏込材は、骨材が互いに接触するように充填されてなることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、小石、砂の骨材が互いに接触するように充填されているので、地山を確実に保持し、地山の崩落を防止することが可能となる。したがって、地表面が沈下することが無い。
また、骨材間には地下水が通過可能な隙間が存在するので、トンネルの周囲の地下水を通水することができる。
【0023】
本発明において、前記骨材は、時間の経過とともに消失する増粘材と混合して流動状態で充填されることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、時間の経過とともに消失する増粘材と骨材とを混合して流動状態で充填するので、一般的な裏込材の充填方法、例えば、ポンプ等を用いた圧入方法で充填することができる。したがって、充填作業を容易に行うことができる。
【0024】
本発明において、目地部は、伸縮可能な弾性体からなることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、シールド機のテールプレートの内側に伸縮可能な目地部を収縮した状態で設置することにより、テールプレートの進行によって目地部の外周面とトンネル掘削面との間に隙間が生じても、目地部が速やかに伸張してその隙間を埋めてトンネル掘削面に接地する。したがって、その隙間に異物が入り込むことなく、目地部がトンネル掘削面に接するので、地山内の地下水を目地部内に通水することができる。
【0025】
本発明において、前記通水手段は、前記トンネルのインバート部に設けられることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、通水手段は、トンネルのインバート部に設けられるので、トンネルのインバート部よりも上方に存在する地下水をすべて排水することができる。したがって、地下水の水圧が覆工体に作用することを防止できる。
【0026】
本発明において、前記通水手段は、前記トンネルの長手方向に沿って敷設され、地下水を前記トンネル外に送水するための幹線集排水管と、前記濾過手段を通過した地下水を集水するための集水管と、前記幹線集排水管から複数枝分かれして前記集水管に接続された支線集排水管とを備えることとしてもよい。
本発明による地下水の排水構造によれば、通水手段は、幹線集排水管と集水管と支線集排水管とを備えるので、トンネルの底盤付近を水浸しにすること無く、地下水を処理することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の地下水の排水構造を用いることにより、トンネルの周囲に存在する地下水の水圧が覆工体に作用しなくなるので、覆工体の厚さを薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る地下水の排水構造の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の第一実施形態に係る地下水の排水構造1を備えたトンネル3の長手方向に対して垂直な断面を示す図である。
図1に示すように、地下水の排水構造1は、シールド機22により掘削されたトンネル掘削面に沿って構築された覆工体5と、トンネル掘削面と覆工体5の外周との間に形成された空隙部4に充填された小石、砂等からなる骨材11と、覆工体5の内周面に接するように設けられた埋設型枠6と、覆工体5及び埋設型枠6の内外を貫通するように設けられた開口部13とを備える。
【0030】
トンネル3が構築されたこの地山2は、例えば、固結して堅固な洪積砂礫層や硬岩等からなり、自立可能である。洪積砂礫層や硬岩等は地下水をよく通すため、地下水がこの層内に存在する。
覆工体5は、コンクリートの打設により構築されるコンクリートセグメントであり、トンネル3内で構築される。
【0031】
骨材11は、空隙部4内に互いに接触するように密に充填されている。この骨材11は、地山2と同程度の圧縮強度を有するので、地山2を保持してその崩落を防止する。
骨材11は、目詰まりの式及び透水性の式(実例・経験に基づく掘削のための地下水調査法、高橋賢之助著、発行所:山海堂、1990年10月30日発行)を満たすものを選定して用いた。
【0032】
具体的には、まず、(1)式の目詰まりの式を満たす粒度分布の骨材11を選定した。目詰まりの式を(1)式に示す。
f15/De85 < 5・・・(1)
ここで、Df15:骨材11の粒径加積曲線における加積通過率が15%の粒径値、De85:地山2に存在する土砂の粒径加積曲線における加積通過率が85%の粒径値である。
この(1)式を満たす粒度分布の骨材11を用いることにより、地下水とともに流入してくる地山2の土砂分が少なくなり、骨材11間の目詰まりをほとんど生じない。
【0033】
次に、(1)式を満たす骨材11のなかから、さらに(2)式の透水性の式を満たす粒度分布の骨材11を選定した。透水性の式を(2)式に示す。
f15/De15 > 5・・・(2)
ここで、De15:地山2に存在する土砂の粒径加積曲線における加積通過率が15%の粒径値である。
この(2)式を満たす粒度分布の骨材11を用いることにより、地下水の流入を妨げることが無く、地下水は骨材11間の隙間12を容易に通過することができる。また、これら(1)式及び(2)式の両方を満たす範囲内で粒度分布を変更することによって、空隙部4内の通水量を調整することができる。
【0034】
(1)式及び(2)式の両方を満たす骨材11を、後述のように、時間の経過とともに消失する増粘材と混合して裏込材を作製し、空隙部4内に充填した。裏込材に含まれる増粘材は、水に希釈されて消失したり、生分解性を有するために水と空気に分解されて消失し、骨材11のみが残置される。この骨材11は、空隙部4に占める骨材11の体積割合が地山2内の土粒子の体積割合と同等になるように配合されている。つまり、裏込材に占める増粘材の体積割合が地山2の間隙率(例えば、一般的な砂層の場合約30〜60%程度)と同程度になるように混合した。
【0035】
このように、増粘材は、時間が経過すると消失し、空隙部4内に残存せず、環境に負荷をかけない。
こうして、増粘材が消失したことにより、骨材11間に形成された隙間12を地下水が通過可能となる。
【0036】
埋設型枠6は、止水性を有し、覆工体5を通過した地下水がトンネル3内に浸入することを防止する。
埋設型枠6には、例えば、高強度ビニロン繊維が配合されたセメントボード(株式会社大林組製のスムースボード)やPVA(ポリビニルアルコール)繊維が配合されたセメントボード(株式会社クラレ製のパワロンボード)等を用いる。なお、遮水性を有し、コンクリートの硬化時にコンクリートと一体化するものであれば、どのようなものでもよい。
【0037】
開口部13は、トンネル3の長手方向に所定の間隔で複数設けられている。この開口部13内には、骨材11間の隙間12内に流入した小石や土砂を捕捉して地下水のみを通過させるための濾過手段7が取り付けられている。
【0038】
図2は、本実施形態に係る開口部13内の濾過手段7を示す断面図である。
図2に示すように、濾過手段7は、小石、石等の流入を防止しつつ、地下水を通過させるための孔15を有するスクリーン保護用多孔板16と、該スクリーン保護用多孔板16のトンネル3の径方向内側に配置され、スクリーン保護用多孔板16の孔15を通過した土砂混じりの地下水を土砂と地下水とに分離するための箱型の固液分離スクリーン17と、該固液分離スクリーン17のトンネル3の径方向内側に配置され、耐圧性及び透水性を有し、内部に空隙を有するコア部19とから構成されている。
【0039】
スクリーン保護用多孔板16は、例えば、径30mmの孔15を40mm間隔で三角配置したパンチングメタル(開口換算率で51%)を用いたが、これに限定されるものではなく、地質等に応じた径のものを用いる。
【0040】
また、固液分離スクリーン17は、例えば、目合い0.2mmのスクリーンのアローキャッチ(製品名:東洋紡株式会社製、登録商標)を用いたが、これに限定されるものではなく、地質等に応じた目合いのものを用いる。
【0041】
そして、コア部19は、地下水が内部の空隙を容易に通過できるような立体網状構造で、濾過手段7が設置された深さ位置の水圧に対して、空隙を保持できる程度の耐圧性を有する。本実施形態においては、コア部19は、コスモジオ(製品名:東洋紡株式会社製、登録商標)を用いたが、これに限定されるものではなく、透水性及び耐圧性を有するものであれば他のものでもよい。
濾過手段7を通過した地下水は、トンネル3内の排水手段10にて坑外に排出される。
【0042】
図3は、本実施形態に係る排水手段10を示す平面図である。図3に示すように、排水手段10は、トンネル3内の底盤の中央に、トンネル3の長手方向に沿って敷設された幹線集排水管20と、各濾過手段7を通過した地下水を集水するための集水管46と、幹線集排水管20から複数枝分かれして集水管46に接続された支線集排水管21とを備えている。
【0043】
幹線集排水管20の一端は、トンネル3の坑外に設けられた排水設備(図示しない)に接続されている。
集水管46は、各開口部13に接続するように覆工体5の内周面に取り付けられている。
各開口部13内の濾過手段7を通過した地下水は、集水管46内及び支線集排水管21内を通過して幹線集排水管20内に集水される。幹線集排水管20内に集水された地下水は、坑外に設けられた排水設備に送水され、所定の方法で処理される。
【0044】
以下に、本実施形態に係る地下水の排水構造1の施工方法について説明する。まず、トンネル3を掘削するシールド機22について説明し、次に、当該シールド機22を用いてトンネル3を掘削し、地下水の排水構造1を構築する施工方法について説明する。
【0045】
図4は、シールド機22の側断面図である。なお、以下の図において、本発明の説明に不要な部分の図示は省略している。
図4に示すように、シールド機22は、土砂を掘削するためのカッターヘッド23と、カッターヘッド23の裏側に掘削土砂を取り込むためのシールドチャンバー24と、シールドチャンバー24内の土砂をシールド機22の後方へ排土するためのスクリューコンベア25及び土砂搬出コンベア26とを備える。なお、土砂を掘削し、この土砂を取り込む掘削機構及び掘削した土砂を排出する排出機構は、これらに限定されるものではなく、それぞれ他の機構を用いてもよい。
【0046】
また、シールド機22は、カッターヘッド23の外周から後方に延長する円筒状のスキンプレート27と、スキンプレート27の後端部内側に設置されたシールドジャッキ28及び妻枠ジャッキ29とを備える。
【0047】
スキンプレート27は、地山2の崩落を防止するとともに、地山2の土圧及び地下水の水圧に耐える役割を有する。
【0048】
シールドジャッキ28は、スキンプレート27の内周に沿って複数設けられており、掘進時には既設の内型枠32の切羽側端部32aにジャッキ後端28aを押し当てて伸長する(詳細は後述)。妻枠ジャッキ29は、シールドジャッキ28よりも外側の位置に複数設けられており、妻枠ジャッキ29の後端には妻枠リング30が取り付けられている。
【0049】
妻枠リング30は、スキンプレート27の内周面と内型枠32の背面との隙間31を塞いだ状態で、妻枠ジャッキ29の伸縮により前後に移動することが可能であり、この隙間31に打設するコンクリートを密閉するとともに加圧するためのものである(詳細は後述)。なお、妻枠リング30には、コンクリートを充填するための充填孔が形成されており、充填孔にはコンクリートポンプからコンクリートを圧送するコンクリート圧送管が接続されている(図示しない)。
【0050】
また、シールド機22は、シールド機22本体の後方に、内型枠32の脱型、移動、組み立てを行うエレクタ装置33を備える。エレクタ装置33は、エレクタ本体34とガイドレール35によって構成される。
【0051】
図5は、エレクタ装置33のトンネル3の長手方向に対して垂直な断面を示す図である。 図5に示すように、エレクタ本体34は、例えば、環状を有し、その内周に設けられる車輪等からなる駆動部36により、トンネル中央部に配置されるガイドレール35に沿って前後に移動可能に支持されている。
エレクタ本体34の外周には、複数の伸縮ジャッキ38が、エレクタ本体34の外周面に対して法線方向に伸縮するように設けられており、その先端は内型枠32を着脱できるようになっている。
【0052】
内型枠32は、その背面が地山2と隙間31(図4参照)を隔てて設置され、その隙間31にコンクリートを打設及び硬化させることにより覆工体5を形成するための金属製の型枠である。内型枠32は、円筒形状のリングを周方向に分割(本実施形態では8分割)した複数の湾曲状のピースから構成される。
内型枠32は、その背面側に埋設型枠6を着脱可能な吸着パットを有している。吸着パットには、外部の真空ポンプに繋がるホースが接続されており(図示しない)、真空ポンプを作動させることにより吸着パットに埋設型枠6を真空吸着し、真空ポンプを停止させることにより埋設型枠6を取り外すことができる。
これらの内型枠32を環状に組み立て、トンネル3の長手方向に複数連結して使用する。
【0053】
また、シールド機22のカッターヘッド23による掘削径はスキンプレート27の径よりもやや大きいために、スキンプレート27と地山2との間に空隙部4が生じる(図1参照)。この空隙部4を放置するとシールド機22周辺部の地山2が緩み、地盤沈下が生じる可能性がある。そこで、地盤沈下を防止するために、裏込材を空隙部4に圧入する。
【0054】
また、図4に示すように、シールド機22は、シールド機22本体内部から空隙部4に裏込材を注入するためにスキンプレート27を貫通する注入孔18aと、一端が注入孔18aに接続される注入管18bと、この注入管18bの他端に接続され、この注入管18b及び注入孔18aを介して空隙部4に裏込材を供給する注入装置18cと、注入孔18a付近に設けられ、空隙部4内の圧力を測定する圧力計18dとを備える。注入孔18aはスキンプレート27の上部及び下部にそれぞれ2箇所ずつ設けられる。
裏込材は、掘進の際にシールド機22と地山2との間に生じる摩擦力を低減する効果も有する。
【0055】
次に、当該シールド機22を用いてトンネル3を掘削するとともに、地下水の排水構造1を構築する施工方法について、施工手順にしたがって説明する。
【0056】
図6(A)及び図6(B)は、本実施形態に係る地下水の排水構造1を備えたトンネル3の施工手順を示す図である。
図6(A)及び図6(B)に示すように、本実施形態に係るトンネル3の施工方法では、内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S30と、充填工程S35及び覆工体構築工程S40と、開口部形成工程S50と、濾過手段設置工程S60と、排水手段設置工程S70とを繰り返すことによりトンネル3を構築していく。
【0057】
図6(A)の内型枠移動工程S20では、エレクタ装置33により、既設の内型枠32のうち最後尾の内型枠32を脱型する。具体的には、エレクタ本体34を最後尾の内型枠32付近に移動させて、伸縮ジャッキ38を伸長してその先端に最後尾の内型枠32を固定させ、最後尾の内型枠32の周方向及びトンネル3の長手方向のピース間を連結するボルト等を撤去する。その後、内型枠32が固定された伸縮ジャッキ38を収縮させることにより、最後尾における全周囲の内型枠32を脱型する。
そして、エレクタ本体34により脱型された内型枠32を、ガイドレール35上を移動させて前方の新たな設置位置まで搬送する。
【0058】
埋設型枠設置工程S30では、内型枠32を定位置に設置する前に、まず各内型枠32背面の吸着パットに埋設型枠6を吸着させる。
そして、伸縮ジャッキ38を伸長させて、背面に埋設型枠6を吸着させた各内型枠32を所定の位置に設置する。
【0059】
この際、上述したように内型枠32が固定された伸縮ジャッキ38を伸長させて、内型枠32の周方向及びトンネル3の長手方向のピース間をボルト等で連結する。これにより、既設の内型枠32の前方に新たな内型枠32が設置される。そして、新たな内型枠32の設置が完了した後、伸縮ジャッキ38の先端と内型枠32との固定を解除し、伸縮ジャッキ38を収縮させる。伸縮ジャッキ38を収縮したエレクタは、最後尾の内型枠32付近に移動させて次の内型枠移動工程S20に備える。
【0060】
充填工程S35では、シールド機22を掘進させると同時に、注入装置18cから吐出される上記裏込材を注入管18b及び注入孔18aを介して空隙部4に圧入する。
【0061】
既設の内型枠32の切羽側端部32aにシールドジャッキ28の後端28aを押し当てて伸長するとともに、カッターヘッド23を切羽に押し付けて回転させることにより、掘進する。ここで、掘進する距離は、例えば、内型枠32の幅と同程度になるようにする。
【0062】
裏込材を圧入する際は、注入圧を圧力計18dにて常時監視し、注入装置18cにて圧力を調整する。注入孔18aからそれぞれ裏込材が空隙部4に注入されるために、シールド機22の全外周にわたって良好に裏込材の注入が行われる。
【0063】
掘進の終了後には、シールドジャッキ28を収縮させて、シールドジャッキ28の後端28aと既設の内型枠32の切羽側端部32aとの間に、新たな内型枠32を設置するための空間を確保する。
【0064】
覆工体構築工程S40では、充填工程S35の作業を実施しつつ、コンクリートポンプからコンクリート圧送管を介して覆工体5の切羽側端面と妻枠リング30との間にコンクリートを打設し、この打設にともなって妻枠ジャッキ29を徐々に収縮させる。その際、妻枠ジャッキ29によって妻枠リング30を介して、コンクリートを加圧させながら収縮させることが好ましい。これにより、打設されるコンクリートを密実化することができる。コンクリートは、妻枠リング30を貫通する孔又は内型枠32及び埋設型枠6を貫通する孔を設け、この孔を介して注入する。
コンクリート打設後には、内型枠32の背面の吸着パットによる埋設型枠6の吸着を解除する。
【0065】
図6(B)の開口部形成工程S50では、ドリル等の削孔機で埋設型枠6及び覆工体5を貫通する開口部13を削孔する。開口部13は、進行方向に対して左右両側にそれぞれ設けられる。
【0066】
濾過手段設置工程S60では、開口部13内に濾過手段7を取り付ける。濾過手段7を構成するスクリーン保護用多孔板16、固液分離スクリーン17及びコア部19を予め坑内で組み立てて、開口部13内に挿入する。
【0067】
排水手段設置工程S70では、覆工体5内の底盤の中央に、トンネル3の長手方向に沿って幹線集排水管20を敷設する。そして、各濾過手段7を通過した地下水を集水するための集水管46を覆工体5の内周面に敷設し、その後、幹線集排水管20と集水管46とを接続する支線集排水管21を敷設する。
【0068】
裏込材内の増粘材が消失して骨材11のみになり、その骨材11間の隙間12を通過し、濾過手段7を介してトンネル3内に流入した地下水を、集水管46、支線集排水管21及び幹線集排水管20を介して排水する。
【0069】
このように、内型枠移動工程S20、埋設型枠設置工程S30、充填工程S35及び覆工体構築工程S40、開口部形成工程S50、濾過手段設置工程S60、排水手段設置工程S70を繰り返し実施しながらトンネル3を構築する。
【0070】
次に、本実施形態に係る地下水の排水構造1を備えたトンネル3の他の施工方法について説明する。
【0071】
図6(C)は、本実施形態に係る地下水の排水構造1を備えたトンネル3の他の施工手順を示す図である。
図6(C)に示すように、本実施形態に係るトンネル3の他の施工方法では、内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S35と、覆工体構築工程S40と、充填工程S15と、開口部形成工程S50と、濾過手段設置工程S60と、排水手段設置工程S70とを実施する。
まず、上記と同様に、内型枠移動工程S20を実施し、内型枠32をシールド機22の後部に移動させる。
【0072】
次に、埋設型枠設置工程S35では、伸縮ジャッキ38を伸長させて、背面に埋設型枠6を吸着させた各内型枠32を、埋設型枠6とシールド機22のスキンプレート27との間に設置する。そして、隣接する内型枠32同士を周方向及びトンネル3の長手方向に連結する。これにより、既設の内型枠32の前方に新たな内型枠32が設置される。
次に、上記と同様に、覆工体構築工程S40では、埋設型枠6とスキンプレート27との間にコンクリートを打設し、覆工体5を構築する。
【0073】
次に、充填工程S15では、シールド機22を掘進させると同時に、注入装置18c(図示しない)から吐出される上記裏込材をスキンプレート27に設けられた注入孔18eを介して、スキンプレート27の前進によってトンネル掘削面と覆工体5の外周面との間に生じる空間44に圧入する。
次に、上記と同様に、開口部形成工程S50と、濾過手段設置工程S60と、排水手段設置工程S70とを実施して、排水構造を構築する。
【0074】
このように、内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S35と、覆工体構築工程S40と、充填工程S15と、開口部形成工程S50と、濾過手段設置工程S60と、排水手段設置工程S70とを繰り返し実施しながらトンネル3を構築する。
【0075】
以上説明した本実施形態における地下水の排水構造1によれば、以下の効果が得られる。
【0076】
(1)トンネル3の周囲に存在する地下水は、空隙部4内に充填された骨材11間の隙間12を通過し、覆工体5及び埋設型枠6を貫通する開口部13を通過して、トンネル3内に流入するので、地下水の水圧が覆工体5に作用しない。したがって、覆工体5の厚さを薄くすることができる。
【0077】
(2)自立性を有する地山2、例えば、洪積砂礫層や硬岩等の地山2内にトンネル3を設けることで地山2自体の支保能力が期待できるため、覆工体5の厚さを更に薄くすることができる。
【0078】
(3)空隙部4内には、透水性の高い水みちが形成され、トンネル3の周囲に存在する地下水のほとんどは、この空隙部4内を通過して開口部13から排水されるので、覆工体5の接続部からの漏水が無くなる。
【0079】
(4)開口部13は、トンネル3のインバート部に設けられるので、トンネル3のインバート部よりも上方に存在する地下水をすべて排水することができる。したがって、地下水の水圧が覆工体5に作用しない。
【0080】
(5)開口部13内に濾過手段7を備えるので、土砂等を含まない地下水のみを通過させることができる。
【0081】
(6)排水手段10は、幹線集排水管20と集水管46と支線集排水管21とを備えるので、トンネル3のインバート部を水浸しにすること無く、地下水を処理することができる。
【0082】
(7)濾過手段7と排水手段10とをそれぞれ設けているので、各手段7、10を小型化することができ、トンネル3内での設置が容易となる。
【0083】
(8)空隙部4内に、小石、砂等の骨材11が互いに接触するように密に充填されているので、地山2を確実に保持し、地山2の崩落を防止することが可能となる。したがって、地表面が沈下することが無い。さらに、骨材11を地山2内の土粒子の体積割合と同等となるように、空隙部4内に充填するので、充填された骨材11は地山2と同程度の圧縮強度を有することとなり、これにより地山2を確実に保持することができる。
【0084】
(9)時間の経過とともに消失する増粘材と骨材11とを混合して流動状態で充填するので、一般的な裏込材の充填方法、例えば、ポンプ等を用いた圧入方法で充填することができる。したがって、充填作業を容易に行うことができる。
【0085】
なお、本実施形態に係るトンネル3の地下水の排水構造1は、主に、堅固で掘削後に切羽が自立するような地山2に覆工体5を構築する場合に適用される。
【0086】
また、本実施形態においては、埋設型枠6を覆工体5の内周面の全体に敷設した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、インバート部には埋設型枠6を設けずに、覆工体5の内周面上に直接、排水手段10を設置してもよい。このとき、開口部13を埋設型枠6の設けられていないインバート部に形成することにより、埋設型枠6を削孔する手間が省ける。
【0087】
また、本実施形態に係るトンネル3の地下水の排水構造1の施工方法では、覆工体5を構築した後に、開口部13を形成する方法について説明したが、この順番に限定されるものではなく、例えば、埋設型枠6を設置(埋設型枠設置工程S30)した後に、埋設型枠6を貫通して裏込材に到達するパイプを設置してからコンクリートを打設して覆工体5を(構築覆工体構築工程S40)してもよい。
【0088】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の地下水の排水構造41は、覆工体5内に透水性の目地部8を設けたものである。以下の説明において、第一実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0089】
図7は、本発明の第二実施形態に係る地下水の排水構造41を備えたトンネル3の水平断面図である。図8及び図9は、それぞれ図7のA−A断面図、B−B断面図である。
図7及び図8に示すように、地下水の排水構造41は、覆工体5と、埋設型枠6と、覆工体5内に、トンネル3の長手方向に所定の間隔でトンネル掘削面及び埋設型枠6に接するように設けられ、透水性を有する目地部8と、一端が目地部8に接続され、目地部8内の地下水をトンネル3内に通水する通水手段14とを備える。
【0090】
通水手段14は、覆工体5内の底盤の中央に敷設された幹線集排水管20と、各目地部8を通過した地下水を集水するための集水管46と、幹線集排水管20から複数枝分かれして集水管46に接続された支線集排水管21とを備えている。
【0091】
図9に示すように、目地部8は、断面形状が略C型で、両端間の開口部がトンネル3のインバート部に位置するように設けられている。目地部8の両端間には、覆工体5が構築されている。
【0092】
埋設型枠6も、断面形状が略C型で、両端間の開口部がトンネル3のインバート部に位置するように設けられている。埋設型枠6は、目地部8の内周面、及びインバート部を除いた覆工体5の内周面を覆うように設けられる。したがって、目地部8内を通過した地下水は、埋設型枠6に止水され、トンネル3内に湧水することは無い。なお、埋設型枠6は、目地部8内の地下水がトンネル3内に流入しないように、少なくとも目地部8の内周面を覆うように(集水管46の設置されている部分を除く)敷設されていればよい。
【0093】
目地部8内を通過した地下水は、集水管46及び支線集排水管21内を通過して幹線集排水管20内に集水される。
【0094】
図10は、覆工体5内に目地部8の設置されている状態を示す水平断面図である。
図10に示すように、目地部8は、トンネル掘削面に接し、伸縮可能な弾性体39と、弾性体39の内周を覆うように設けられ、通水性を有する不織布40とから構成される。
【0095】
本実施形態においては、弾性体39として、発泡ポリエチレンを用いたが、この材料に限定されるものではなく、伸縮可能で、覆工体5のコンクリートと化学反応をしない材料であればよい。
【0096】
目地部8の弾性体39内に流入した地下水は、弾性体39内及び不織布40内を通過して、目地部8の下端部へ流れる。目地部8の下端部に流入した地下水は、上述したように、集水管46及び支線集排水管21内を通過して幹線集排水管20内に集水されて、坑外に設けられた排水設備に送水され、所定の方法で処理される。
【0097】
次に、本実施形態に係る排水構造41を備えたトンネル3の施工方法について、施工手順にしたがって説明する。
【0098】
図11(A)及び図11(B)に示すように、本実施形態に係るトンネル施工方法では、内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S30と、覆工体構築工程S40と、目地部設置工程S80と、覆工体インバート部構築工程S90と、通水手段設置工程S100とを繰り返すことによりトンネル3を構築していく。
【0099】
まず、第一実施形態と同様に、図11(A)の内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S30と、覆工体構築工程S40とを実施する。
次に、目地部設置工程S80では、スキンプレート27と埋設型枠6との間に、覆工体5の切羽側端面5aに接するように、目地部8を設置する。このとき、弾性体39を収縮した状態で設置する。
【0100】
目地部8を設置後、シールド機22が掘進するとともにスキンプレート27が進行すると、トンネル掘削面と目地部8との間に隙間が生じるが、弾性体39が収縮された状態で設置されているので、隙間が生じると同時に、その隙間を埋めるように弾性体39が伸張してトンネル掘削面に接する。
【0101】
図11(B)の覆工体インバート部構築工程S90では、目地部8の両端間のインバート部にコンクリートを打設し、インバート部の覆工体5を構築する。その際、覆工体5の幅が目地部8の幅と同一となるようにコンクリートを打設し、覆工体5を構築する。
そして、第一実施形態と同様に、通水手段設置工程S100では、覆工体5の内側の底盤上に、トンネル3の長手方向に沿って幹線集排水管20を敷設する。そして、目地部8を通過した地下水を集水するための集水管46を覆工体5の内周面に敷設し、その後、幹線集排水管20と集水管46とを接続する支線集排水管21を敷設する。
【0102】
このように、内型枠移動工程S20、埋設型枠設置工程S30、覆工体構築工程S40、目地部設置工程S80、覆工体インバート部構築工程S90、通水手段設置工程S100を繰り返し実施することにより、トンネル3を構築する。
【0103】
なお、本実施形態においては、断面形状が略C型の目地部8を用いたが、この形状に限定されるものではなく、環状の目地部8を用いてもよい。
【0104】
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態は、第二実施形態の目地部8を透水性を有するコンクリートの現場打設により形成するものである。
【0105】
図12は、本発明の第三実施形態に係る地下水の排水構造51を備えたトンネル3の水平断面図である。
図12に示すように、地下水の排水構造51は、覆工体5と、埋設型枠6と、覆工体5内に、トンネル3の長手方向に所定の間隔で現場打設により形成された目地部9と、通水手段14とを備える。
【0106】
目地部9は、第二実施形態と同様に、トンネル掘削面と埋設型枠6の外周面との間に、コンクリートの現場打設により形成される。この目地部9は、透水性を有する充填部37と、充填部37の内周を覆う不織布40とから構成され、断面形状が略C型である。
充填部37は、例えば、ポーラスコンクリートやヘチマ構造体を内部に含む遮水シートからなり、透水性を有するものであれば他の材料でもよい。
目地部9内に流入した地下水は、第二実施形態と同様に、目地部9の下端部及び支線集排水管21内を通過して幹線集排水管20内に集水されて、坑外に設けられた排水設備に送水され、所定の方法で処理される。
【0107】
次に、本実施形態に係る地下水の排水構造51を備えたトンネル3の施工方法について、施工手順にしたがって説明する。
【0108】
図13は、本実施形態に係る地下水の排水構造51を備えたトンネル3の施工手順を示す図である。
図13に示すように、本実施形態に係るトンネル3の施工方法では、内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S30と、覆工体構築工程S40と、目地部設置工程S85と、覆工体インバート部構築工程S90と、通水手段設置工程S100と、目地部追加充填工程S120とを繰り返すことにより排水構造を備えたトンネル3を構築していく。
【0109】
まず、第二実施形態と同様に、内型枠移動工程S20と、埋設型枠設置工程S30と、覆工体構築工程S40とを実施する。
次に、目地部設置工程S85では、妻枠ジャッキ29を収縮させて、妻枠リング30と覆工体5の切羽側端面5aとの間に、目地部9を形成するための空間を確保する。そして、その空間にポーラスコンクリートを圧入して、目地部9を構築する。目地部9は、スキンプレート27と埋設型枠6との間に構築される。なお、目地部9の構築は、ポーラスコンクリートを打設し、この打設にともなって妻枠ジャッキ29を徐々に収縮させながら行っても良い。
次に、第二実施形態と同様に、覆工体インバート部構築工程S90では、目地部9の両端間のインバート部にコンクリートを打設し、覆工体5を構築する。
【0110】
このように、内型枠移動工程S20、埋設型枠設置工程S30、覆工体構築工程S40、目地部設置工程S80、覆工体インバート部構築工程S90、通水手段設置工程S100を繰り返し実施することにより、トンネル3を構築する。
【0111】
なお、本実施形態においては、目地部9を断面形状が略C型になるように構築したが、この形状に限定されるものではなく、環状の目地部9を構築してもよい。
【0112】
以上説明した第二及び第三実施形態における地下水の排水構造41、51によれば、以下の効果が得られる。
【0113】
(1)トンネル3の周囲に存在する地下水は、目地部8、9内の空隙を通過し、支線集排水管21内を通過して幹線集排水管20内に集水されて、トンネル3内に流入するので、地下水の水圧が覆工体5に作用しない。したがって、覆工体5の厚さを薄くすることができる。
【0114】
(2)自立性を有する地山2、例えば、洪積砂礫層や硬岩等の地山2内にトンネル3を設けることで地山2自体の支保能力が期待できるため、覆工体5の厚さを更に薄くすることができる。
【0115】
(3)目地部8、9は透水性が高いので、トンネル3の周囲に存在する地下水のほとんどは、目地部8、9内を通過し、さらに、通水手段14を通過して排水されるので、埋設型枠6の接続部からの漏水が無くなる。
【0116】
(4)通水手段14は、トンネル3のインバート部に設けられるので、トンネル3のインバート部よりも上方に存在する地下水をすべて排水することができる。したがって、地下水の水圧が覆工体5に作用しない。
【0117】
(5)通水手段14は、幹線集排水管20と集水管46と支線集排水管21とを備えるので、トンネル3のインバート部付近を水浸しにすること無く、地下水を処理することができる。
【0118】
なお、上述した各実施形態においては、自立性を有する地山2として、洪積砂礫層や硬岩等からなる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、安定した地質の層であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の第一実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの長手方向に対して垂直な断面を示す図である。
【図2】本実施形態に係る開口部内の濾過手段を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係る排水手段を示す平面図である。
【図4】シールド機の側断面図である。
【図5】エレクタ装置のトンネルの長手方向に対して垂直な断面を示す図である。
【図6A】本実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの施工手順を示す図である。
【図6B】本実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの施工手順を示す図である。
【図6C】本実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの他の施工手順を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの水平断面図である。
【図8】図7のA−A断面図である。
【図9】図7のB−B断面図である。
【図10】覆工体内に目地部の設置されている状態を示す水平断面図である。
【図11A】本実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの施工手順を示す図である。
【図11B】本実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの施工手順を示す図である。
【図12】本発明の第三実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの水平断面図である。
【図13】本実施形態に係る地下水の排水構造を備えたトンネルの施工手順を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
1 地下水の排水構造 2 地山
3 トンネル 4 空隙部
5 覆工体 5a 切羽側端面
6 埋設型枠 7 濾過手段
8 目地部 9 目地部
10 排水手段 11 骨材
12 隙間 13 開口部
14 通水手段 15 孔
16 スクリーン保護用多孔板 17 固液分離スクリーン
18a 注入孔 18b 注入管
18c 注入装置 18d 圧力計
19 コア部 20 幹線集排水管
21 支線集排水管 22 シールド機
23 カッターヘッド 24 チャンバー
25 スクリューコンベア 26 土砂搬出コンベア
27 スキンプレート 28 シールドジャッキ
28a 後端 29 妻枠ジャッキ
30 妻枠リング 31 隙間
32 内型枠 32a 切羽側端部
33 エレクタ装置 34 エレクタ本体
35 ガイドレール 36 駆動部
37 充填部 38 伸縮ジャッキ
39 弾性体 40 不織布
41 地下水の排水構造 44 空間
46 集水管 51 地下水の排水構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造を備えたトンネルの構築方法において、
シールド機の胴体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された余堀部に透水性裏込材を充填する充填工程と、
前記シールド機の後部において、前記透水性裏込材の内側に所定の隙間を隔てて埋設型枠を設置する埋設型枠設置工程と、
前記隙間にコンクリートを打設して覆工体を構築する覆工体構築工程と、
前記覆工体を貫通して、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する開口部を形成する開口部形成工程とを備えることを特徴とするトンネルの構築方法。
【請求項2】
地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造を備えたトンネルの構築方法において、
前記シールド機の後部において、当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面の内側に所定の隙間を隔てて埋設型枠を設置する埋設型枠設置工程と、
前記隙間にコンクリートを打設して覆工体を構築する覆工体構築工程と、
前記覆工体の切羽側端面に接するように、透水性を有する目地部を設置する目地部設置工程と、
一端が前記目地部に接続され、前記目地部を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する通水手段を設置する通水手段設置工程とを備えることを特徴とするトンネルの構築方法。
【請求項3】
地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水を排水するための排水構造を備えたトンネルの構築方法において、
前記シールド機の後部において、前記シールド機の外殻の内側に所定の隙間を隔てて埋設型枠を設置する埋設型枠設置工程と、
前記隙間にコンクリートを打設して覆工体を構築する覆工体構築工程と、
前記シールド機の推進により、前記覆工体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された空間に透水性裏込材を充填する充填工程と、
前記覆工体を貫通して、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する開口部を形成する開口部形成工程とを備えることを特徴とするトンネルの構築方法。
【請求項4】
地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水の排水構造であって、
前記トンネルを掘削するシールド機の胴体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された余堀部に充填された透水性裏込材と、
前記透水性裏込材の内側に所定の隙間を隔てて設置された埋設型枠と、
前記隙間にコンクリートを打設して構築された覆工体と、
前記覆工体に、その内外を貫通するように設けられ、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する開口部とを備えることを特徴とする地下水の排水構造。
【請求項5】
地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水の排水構造であって、
トンネル掘削面の内側に所定の隙間を隔てて設置された埋設型枠と、
前記隙間にコンクリートを打設して構築された覆工体と、
前記覆工体内に、前記トンネルの長手方向に所定の間隔で前記トンネル掘削面及び前記埋設型枠に接するように設けられ、透水性を有する目地部と、
一端が前記目地部に接続され、前記目地部を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水する通水手段とを備えることを特徴とする地下水の排水構造。
【請求項6】
地山内に構築されたトンネルの周囲に存在する地下水の排水構造であって、
前記トンネルを掘削するシールド機の外殻の内側に所定の隙間を隔てて設置された埋設型枠と、
前記隙間にコンクリートを打設して構築された覆工体と、
前記シールド機の推進により、前記覆工体の外周面と当該シールド機により掘削されたトンネル掘削面との間に形成された空間に充填された透水性裏込材と、
前記覆工体に、その内外を貫通するように設けられ、前記透水性裏込材を通じて前記トンネルの周囲の地下水を前記トンネル内に通水するための開口部とを備えることを特徴とする地下水の排水構造。
【請求項7】
前記地山は、自立性を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の地下水の排水構造。
【請求項8】
前記開口部は、前記トンネルのインバート部に設けられることを特徴とする請求項4又は6に記載の地下水の排水構造。
【請求項9】
前記開口部内に設置され、土砂を捕捉して地下水のみを通過させるための濾過手段と、
前記濾過手段を通過した地下水を排水するための排水手段とを更に備えることを特徴とする請求項4、6、8のいずれか1項に記載の地下水の排水構造。
【請求項10】
前記排水手段は、
前記トンネルの長手方向に沿って敷設され、地下水を前記トンネル外に送水するための幹線集排水管と、
前記濾過手段を通過した地下水を集水するための集水管と、
前記幹線集排水管から複数枝分かれして前記集水管に接続された支線集排水管とを備えることを特徴とする請求項9に記載の地下水の排水構造。
【請求項11】
前記透水性裏込材は、骨材が互いに接触するように充填されてなることを特徴とする請求項4又は6に記載の地下水の排水構造。
【請求項12】
前記骨材は、時間の経過とともに消失する増粘材と混合して流動状態で充填されることを特徴とする請求項11に記載の地下水の排水構造。
【請求項13】
前記目地部は、伸縮可能な弾性体からなることを特徴とする請求項5に記載の地下水の排水構造。
【請求項14】
前記通水手段は、前記トンネルのインバート部に設けられることを特徴とする請求項5に記載の地下水の排水構造。
【請求項15】
前記通水手段は、
前記トンネルの長手方向に沿って敷設され、地下水を前記トンネル外に送水するための幹線集排水管と、
前記濾過手段を通過した地下水を集水するための集水管と、
前記幹線集排水管から複数枝分かれして前記集水管に接続された支線集排水管とを備えることを特徴とする請求項5又は14に記載の地下水の排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−101062(P2010−101062A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273424(P2008−273424)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】