説明

地下水中の揮発性物質の除去システム及び除去方法

【課題】エネルギーの有効利用を図ることのできる地下水中の揮発性物質の除去システム及び除去方法を提供する。
【解決手段】地下水中の揮発性物質の除去システム1は、揮発性物質を含有する地下水を揚水する揚水ポンプ2と、揚水ポンプ2で揚水された地下水を加熱するヒートポンプ6と、ヒートポンプ6で加熱された地下水に空気を接触させることによって地下水に含有されている揮発性物質を空気に移行させて処理水を得る曝気装置10と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水中の揮発性物質の除去システム及び除去方法に関し、特に地下水を揚水し、曝気処理によって地下水中の揮発性物質を除去するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有機塩素系化合物、あるいはベンゼン等の炭化水素系化合物は土壌及び地下水汚染の原因物質として対策が求められている。これらの化合物は揮発性を有することから揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、以下、VOCという場合がある)とも呼ばれる。土壌、特に地下水からVOCを除去する方法として、曝気を利用した方法が知られている(特許文献1)。この方法によれば、VOCを含有する地下水を揚水し、揚水した地下水に送風機で空気を供給し気液接触(曝気)させる。地下水に含まれるVOCは空気に移行し、地下水から分離され、活性炭などに吸着される。VOCの除去効率は曝気装置入口での地下水の温度と相関関係があり、地下水の温度が高いほど揮発が促進され、VOCが効率的に除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3214978号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
揚水した地下水を加熱するためにはヒータを用いることが一般的であるが、動力費(電気、石油等)が莫大であり、廃熱もそのまま大気放出されるため、エネルギーの有効利用の観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、エネルギーの有効利用を図ることのできる地下水中の揮発性物質の除去システム及び除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の地下水中の揮発性物質の除去システムは、揮発性物質を含有する地下水を揚水する揚水ポンプと、揚水ポンプで揚水された地下水を加熱するヒートポンプと、ヒートポンプで加熱された地下水に空気を接触させることによって地下水に含有されている揮発性物質を空気に移行させて処理水を得る曝気装置と、を有している。
【0007】
本発明の地下水中の揮発性物質の除去方法は、揮発性物質を含有する地下水を揚水することと、揚水された地下水をヒートポンプで加熱することと、ヒートポンプで加熱された地下水に空気を接触させることによって、地下水に含有されている揮発性物質を空気に移行させて処理水を得ることと、を有している。
【0008】
ヒートポンプはヒータなどの加熱装置と比べエネルギー効率が高いため、エネルギーの有効利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エネルギーの有効利用を図ることのできる地下水中の揮発性物質の除去システム及び除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る地下水中の揮発性物質の除去システムの概略構成図である。
【図2】揚水井戸の概略断面図である。
【図3】ヒートポンプの概略構成図である。
【図4】曝気装置の概略構成図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る地下水中の揮発性物質の除去システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る地下水中の揮発性物質の除去システムの概略構成図を示す。
【0012】
地下水中の揮発性物質の除去システム1は、揮発性物質を含有する地下水を揚水する揚水ポンプ2を有している。揚水ポンプ2は、揚水井戸3の内部に設置され、配管22に接続されている。図2は、揚水井戸3の概略断面を示す。揚水井戸3は、ボーリングによって地盤に縦坑31を設け、その内側に概ね中空円筒形のケーシング32を設けることによって形成される。ケーシング32は鉄鋼、ステンレス鋼、塩ビ等より形成され、ケーシング32の側壁は、地下水の連通を可能とするため、多数の貫通孔33を有している。縦坑31の内壁とケーシング32の側壁との空間は、ケーシング32の固定および地下水の連通を促進するため、砂利、砕石、硅砂34等が充填されている。地下水の存在している地盤の領域は帯水層35と呼ばれ、ケーシング32内部の水位は周囲の帯水層35の水位WLとほぼ一致している。本実施形態による揚水ポンプ2はケーシング32内部の地下水位よりも下方の位置に設置されるが、揚水ポンプを地上に置き、地上からケーシング32内に、帯水層35まで地下水吸入管を降ろしてもよい。ケーシング32の帯水層35より上方の側壁はセメントなどの遮水構造とすることもできる。
【0013】
除去システム1は、揚水ポンプ2で揚水された地下水を加熱するヒートポンプ6を有している。図3は、ヒートポンプ6の概略構成図である。ヒートポンプ6は本実施形態では蒸気圧縮式を用いている。ヒートポンプ6は、アンモニア、二酸化炭素、フロン類やR410Aを始めとする代替フロン類などの冷媒を蒸発させる蒸発器6aと、冷媒を圧縮するコンプレッサ6bと、冷媒を凝縮させる凝縮器6cと、冷媒を膨張させる膨張弁6d、とを備え、これらの要素がこの順で閉ループ6e上に配置されている。冷媒は、閉ループ6e内を循環しながら、蒸発、圧縮、凝縮、膨張の熱サイクルを受ける。凝縮器6cと配管22との隣接部は熱交換部7を形成しており、蒸発器6aと熱源8との隣接部は熱交換部9を形成している。蒸発器6aで冷媒が蒸発した際の気化熱によって、熱交換部9を介して熱源8から熱QCが奪われる。蒸発した冷媒はコンプレッサ6bで圧縮され、高温高圧の気相となる。冷媒は次に凝縮器6cに送られる。凝縮の際に放出された凝縮熱QHが熱交換部7を介して配管22を流れる地下水に与えられる。凝縮した冷媒は膨張弁6dを通って減圧冷却される。このようにしてヒートポンプ6の1サイクルの運転の間に、熱源8からの吸熱と配管22内の地下水の加熱が行われる。
【0014】
ヒートポンプ6によって加熱できる地下水温度の上限は特にないが、一般的なヒートポンプ6では60℃程度まで地下水を加熱することができる。
【0015】
ヒートポンプ6は蒸気圧縮式に加えて、熱電子式、化学式、吸着式または吸収式のヒートポンプ6を用いることも可能である。
【0016】
除去システム1は、ヒートポンプ6で加熱された地下水に空気を接触させることによって地下水に含有されている揮発性物質を空気に移行させる曝気装置10を有している。図4に、2種類の曝気装置10a,10bの概略構成図を示す。
【0017】
図4(a)に示す曝気装置10aは、充填塔11と、充填塔11に空気を供給する送風機(ブロア)12と、を有している。充填塔11の上部からスプレイノズル13によって地下水が噴霧される。充填塔11の内部には充填層14が設けられており、地下水は充填層14の表面に薄い被膜となって保持される。充填塔11の下部から送風機12によって空気が供給される。被膜状態の地下水は下方から上方に吹き上げられる空気(白抜き矢印で示す)と接触し、VOCは空気に移行する。VOCを除去された地下水は充填塔11の底部14aに滞留し、ポンプ15によって充填塔11から排出される。VOCを吸収した空気は充填塔11の上部から排出される。排出された空気は、活性炭が充填された活性炭処理装置17に送られ、VOCが活性炭に吸着される。
【0018】
図4(b)に示す曝気装置10bは、本体容器19と、本体容器19に空気を供給する送風機(ブロア)12と、を有している。本体容器19の内部には、複数の平面状のトレイ20が配置されている。各トレイ20上には、トレイ20の底面に保持された側壁によって、2次元状に延びる流路(図示せず)が形成されている。地下水は本体容器19の上部から最上段のトレイ20に供給され、最上段のトレイ20上の流路に沿って流れる。最上段のトレイ20の出口に達した地下水は一つ下のトレイ20に落下し、同様にしてトレイ20上の流路に沿って流れる。このようにして、地下水は最上段のトレイ20から最下段のトレイ20へと流れ、最終的に本体容器19の底部19aに滞留し、ポンプ15によって本体容器19から排出される。
【0019】
一方、各トレイ20の底面には多数の曝気孔21が形成されており、送風機12によって下方から上方に吹き上げられる空気(白抜き矢印で示す)は、曝気孔21を通ってトレイ20の流路に進入する。この際、各トレイ20に進入した空気はトレイ20の流路を流れる地下水と気液接触し、VOCは空気に移行する。このようにして、空気は各トレイ20を流れる地下水と気液接触してVOCを吸収しながら、最下段のトレイ20から最上段のトレイ20まで上昇し、最終的に本体容器19の上部から排出される。排出された空気、活性炭が充填された活性炭処理装置17に送られ、VOCが活性炭に吸着される。
【0020】
ヒートポンプ6の熱源8としては、様々なものが利用可能である。図1を参照すると、一例では、曝気装置10を通過し加熱された地下水を熱源8として利用することができる(熱源1)。ヒートポンプ6で加熱され曝気装置10を通過した地下水は、曝気装置10で多少温度が低下するものの、依然として高温状態にある。地下水の温度は一般的に年間を通して15〜17℃の間にあり、加熱され曝気装置10を通過した地下水は地下水の加熱源として有効に利用することができる。従来は曝気装置10で処理された地下水はそのまま下水などに排出されていたが、ヒートポンプ6で熱回収することにより、エネルギーの有効利用を図ることができる。また、ヒートポンプ6はそれ自体エネルギー効率が高く、電熱ヒータ、ボイラ等を用いた従来の加熱装置と比べて、低いエネルギーで地下水の加熱を行うことができる。
【0021】
送風機12から供給され地下水に接触した後の空気をヒートポンプ6の熱源8として利用することもできる(熱源2)。送風機12から供給される空気はモータの発熱等によって加熱されるため、曝気装置10を出た排ガスは高温状態にあり、地下水の加熱源として有効に利用することができる。曝気装置10と活性炭処理装置17とを結ぶ配管23の一部をヒートポンプ6と熱的に接触させることによって、排ガスのエネルギーを利用することができる。
【0022】
ヒートポンプ6は大気を熱源8として利用することもできる(熱源3)。夏季などには外気温が30〜35℃に達することがあるため、地下水の加熱源として有効に利用することができる。ヒートポンプ6の冷媒の吸熱側配管をコイル状に形成し、コイル状の部分を直接外気に曝すことによって効率的に大気の熱エネルギーを回収することができる。熱源8として利用された空気は冷却用に再利用することもできる。
【0023】
ヒートポンプ6は温排水を熱源8として利用することもできる(熱源4)。温排水の供給源は特に限定されないが、工場、発電所等が隣接している場合、これらの設備で発生した温排水を利用することができる。
【0024】
以上述べた各実施形態は、任意のパターンで組み合わせることができる。例えば、曝気装置10を通過した地下水(熱源1)と送風機12から出た排ガス(熱源2)は同時にヒートポンプ6の熱源として用いることができる。これらの熱源8とヒートポンプ6の冷媒との熱交換部9は直列に設けてもよいし並列に設けてもよい。また、大気や温排水を熱源とする場合(熱源3,4)、切り替え装置(図示せず)を設け、外気温の高低や温排水の供給状況によって、熱源として使用するモードと使用しないモードとを切り替えてもよい。
【0025】
以上の各実施形態において、曝気装置10を通過した地下水を熱源とする第2のヒートポンプ23を設けることもできる。曝気装置10の排水を利用しない場合(熱源2〜4を利用する場合)は、排水の全量または一部を、熱交換部24を介して第2のヒートポンプ26の熱源とすることができる。第2ヒートポンプ26で回収された熱の利用方法は特に限定されないが、熱交換部25を介して空気、水等を加熱し、暖房、給湯等の用途に用いることができる。曝気装置10の排水を利用する場合(熱源1を利用する場合)は、曝気装置10の一部を地下水の加温のためにヒートポンプ6に供給し、残余の地下水の一部または全量を第2のヒートポンプ26の熱源として利用することができる。
【0026】
さらに、図5に示すように、揚水ポンプ2とヒートポンプ6の間に熱交換器27を設け、曝気装置10を通過した地下水の少なくとも一部とヒートポンプ6に供給される前の地下水との間で熱交換させることもできる。これによって、ヒートポンプ6に供給される前の地下水を加熱することができ、ヒートポンプ6の負荷を低減することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 揮発性物質の除去システム
2 揚水ポンプ
3 揚水井戸
6 ヒートポンプ
8 熱源
10,10a,10b 曝気装置
12 送風機(ブロア)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性物質を含有する地下水を揚水する揚水ポンプと、
前記揚水ポンプで揚水された地下水を加熱するヒートポンプと、
前記ヒートポンプで加熱された前記地下水に空気を接触させることによって前記地下水に含有されている前記揮発性物質を前記空気に移行させて処理水を得る曝気装置と、
を有する、地下水中の揮発性物質の除去システム。
【請求項2】
前記ヒートポンプは前記処理水を熱源として利用する、請求項1に記載の除去システム。
【請求項3】
前記曝気装置は前記空気を供給する送風機を有し、前記ヒートポンプは、前記送風機から供給され前記地下水に接触した後の前記空気を熱源として利用する、請求項1または2に記載の除去システム。
【請求項4】
前記ヒートポンプは大気を熱源として利用する、請求項1から3のいずれか1項に記載の除去システム。
【請求項5】
前記ヒートポンプは前記除去システムの外部から供給された温排水を熱源として利用する、請求項1から4のいずれか1項に記載の除去システム。
【請求項6】
前記処理水を熱源とする第2のヒートポンプを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の除去システム。
【請求項7】
前記処理水の少なくとも一部と前記ヒートポンプに供給される前の前記地下水との間で熱交換し、前記ヒートポンプに供給される前の前記地下水を加熱する熱交換器を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の除去システム。
【請求項8】
揮発性物質を含有する地下水を揚水することと、
揚水された前記地下水をヒートポンプで加熱することと、
前記ヒートポンプで加熱された前記地下水に空気を接触させることによって、前記地下水に含有されている前記揮発性物質を前記空気に移行させて処理水を得ることと、
を有する、地下水中の揮発性物質の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75262(P2013−75262A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216781(P2011−216781)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】