説明

地下水流動保全対策工法

【課題】 透水係数を調整した土のうを用いることで地下水の流速を調整可能にし、これまでの置換工法で生じていた細粒砂の流失や地下河川の形成等を防ぐことができる地下水流動保全対策工法を提供する。
【解決手段】 構造物躯体下部を通水ゾーンとして利用する地下水流動保全対策工法において、透水係数が小さい上流の現地盤1と透水係数が小さい下流の現地盤2との間の置換層3に土のう袋のメッシュサイズと土の粒径を調整することで透水係数を調整した土のう4を配置し、地下水の流動方向および構造物縦断方向に透水係数を変化させて、前記土のう4で置換した部分の地下水流動をコントロールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水流動保全対策工法に係り、特に、構造物躯体下部を通水ゾーンとして利用する地下水流速を調整可能な地下水流動保全対策工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長大な地下構造物、例えば、鉄道のトンネル等の構築によって、流れのある地下水を堰きとめてしまうと、地下水の上流側では水位が上昇し、下流側では地下水が低下する現象が起こることがある。この地下水の上昇・低下により、建物が傾いたり、地盤沈下が起こるといった深刻な問題が生じる。
【0003】
図5は従来の地下水流動保全対策工法とそれによる地下水の流動状態を示す模式図である。
【0004】
この図において、101は透水係数が小さい上流の現地盤(帯水層)、102は透水係数が小さい下流の現地盤(帯水層)、103は上流の現地盤101と下流の現地盤102との間に配置される置換層である。
【0005】
構造物の躯体下部を通水ゾーンとして利用する従来の地下水流動保全対策工法では、置換層103に透水性の高い埋め戻し材を用いて地盤を置換する方法が取られていた(下記非特許文献1参照)。
【0006】
かかる透水性の高い埋め戻し材を用いた置換層103の場合、図5の下部に示すように、上流の現地盤101と置換層103の境界部104で地下水の流速が急激に速くなるため、細粒砂が流失し、地盤沈下が発生することがあった。一方、置換層103と下流の現地盤102の境界部105では、地下水の流速が急激に遅くなるため、細粒砂が沈降する。するとその細粒砂が目詰まりを起こして置換層103の通水機能が低下し、定期的なメンテナンスが必要となるといった問題があった。
【0007】
また、地下水の集水・涵養による地下水流動保全対策工法として、図6に示すような対策工法が用いられている。
【0008】
集水・涵養による地下水流動保全対策工法は、(1)土留壁の一部201を撤去〔図6(a)〕、(2)集水パイプ301及び涵養パイプ302を設ける〔図6(b)〕、(3)集水・涵養機能(集水部402及び涵養部403)付きの土留壁401を設ける〔図6(c)〕、(4)集水井戸501と涵養井戸502を設ける〔図6(d)〕など、集水・涵養の方法により分類される。
【非特許文献1】「地下水流動保全のための環境影響評価と対策−調査・設計・施工から管理まで−」地盤工学・実務シリーズ19,社団法人地盤工学会,pp.122−131(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、構造物の躯体下部を置換する従来の工法では、置換箇所の透水係数が一定となるため流速の変化が急激に起こり、周辺地盤の細粒砂の流失による地盤沈下や細粒砂の沈降により発生する通水装置の目詰まりによる機能低下を生じていた。また、構造物縦断方向に流れが卓越して地下河川となるなどの問題が生じる。さらに、置換を行う箇所は掘削底面のため、置換材料の搬入および締め固めの作業が煩雑であった。
【0010】
このように、従来の工法では、躯体下部を一様に置き換えることに問題点があった。また、深い掘削溝底面に置換材料を搬入する作業が煩雑であった。
【0011】
本発明は、上記状況に鑑みて、透水係数を調整した土のうを用いることで、地下水の流速を調整可能にし、これまでの置換工法で生じていた細粒砂の流失や地下河川の形成等を防ぐことができる地下水流動保全対策工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕構造物躯体下部を通水ゾーンとして利用する地下水流動保全対策工法において、透水係数が小さい上流の現地盤と透水係数が小さい下流の現地盤との間の置換層に土のう袋のメッシュサイズと土の粒径を調整することで透水係数を調整した土のうを配置し、地下水の流動方向および構造物縦断方向に透水係数を変化させて、前記土のうで置換した部分の地下水流動をコントロールすることを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記〔1〕記載の地下水流動保全対策工法において、前記置換層の前記現地盤と接する箇所に透水係数が小さい第1の土のうを、この第1の土のうの内側に透水係数が中ほどの第2の土のうを、この第2の土のうの内側に透水係数の大きい第3の土のうを配置することにより、前記置換層の前記現地盤との境界部における前記地下水の流速の急変を避けることを特徴とする。
【0014】
〔3〕上記〔2〕記載の地下水流動保全対策工法において、前記第1の土のうで前記置換層の外側を囲むように配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透水係数を調整した土のうを用いることで、地下水の流速を調整可能にし、これまでの置換工法で生じていた、細粒砂の流失や、地下河川の形成等を防ぐことができる。
【0016】
また、置換材料が土のうであるため、従来よりも施工性が向上し、より経済的な施工が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の地下水流動保全対策工法は、透水係数が小さい上流の現地盤と透水係数が小さい下流の現地盤との間の置換層に土のう袋のメッシュサイズと土の粒径を調整することで透水係数を調整した土のうを配置し、地下水の流動方向および構造物縦断方向に透水係数を変化させて、前記土のうで置換した部分の地下水流動をコントロールする。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の地下水流動保全対策工法とそれによる地下水の流動状態を示す模式図である。
【0020】
この図において、1は透水係数が小さい上流の現地盤(帯水層)、2は透水係数が小さい下流の現地盤(帯水層)、3は上流の現地盤(帯水層)1と下流の現地盤(帯水層)2との間に配置される置換層である。
【0021】
置換層3には地下水の流速を調整可能にする土のう4を配置するようにしている。ここでは、透水係数の小さい第1の土のう4A,4Aが現地盤1,2に隣接する置換層3の外側に、透水係数が中ほどの第2の土のう4B,4Bが土のう4A,4Aの内側に、透水係数が大きい第3の土のう4Cが置換層3の中央に配置されている。
【0022】
ここで、透水係数の小さい第1の土のうとは隣接する帯水層に対して透水係数が1〜2オーダー大きいもの、透水係数が中ほどの第2の土のうとは隣接する第1の土のうに対して透水係数が1〜2オーダー大きいもの、透水係数の大きい第3の土のうとは隣接する第2の土のうに対して透水係数が1〜2オーダー大きいものをいう。なお、帯水層の流量によっては、土のうの透水度は2段または4段とすることができる。
【0023】
また、各種の土のうの形状・重量としては、例えば、長尺状であり、2トン以下の重量のものを挙げることができる。
【0024】
このように構成したので、図1の下部に示すように、地下水は、上流の現地盤1と置換層3の境界部5及び置換層3と下流の現地盤2との境界部6において流速を穏やかに変化させることができ、細粒砂の移動が生じ難い。そのため、細粒砂の流出による地盤沈下や、細粒砂の沈降により発生する通水装置の目詰まり等を防止することができる。
【0025】
また、置換材料が土のうであるため、従来よりも施工性が向上し、より経済的な施工が可能である。
【0026】
図2は本発明の実施例を示す構造物の躯体下部を通水ゾーンとして利用する地下水流動保全対策工法の施工状態を示す模式図、図3はその地下水流動保全対策工法による置換層の模式図である。
【0027】
これらの図において、11は透水係数が小さい上流の現地盤、12は透水係数が小さい下流の現地盤、13は上流の現地盤11と下流の現地盤12の間にあって透水係数が大きい地下水流速を調整可能な置換層、14はその置換層に配置される土のう、15は地下に構築される構造物躯体である。
【0028】
置換層に配置される土のう14は、土のう袋のメッシュサイズと土の粒径を調整することで透水係数を変えるようにしている。図3に示すように、置換層13の上流側及び下流側(置換層の外側)には透水係数が小さく流速が小さくなる第1の土のう21を、その内側には透水係数が中ほどで流速も中ほどとなる第2の土のう22を、中央には透水係数が大きく流速も大きくなる第3の土のう23をそれぞれ配置するようにしている。
【0029】
図4は本発明の実施例を示す地下水流動保全対策工法の置換層における土のうの他の配置例を示す平面図である。
【0030】
ここでは、置換層30の外側を囲むように透水係数が小さく流速が小さくなる第1の土のう31を、その内側には透水係数が中ほどで流速も中ほどとなる第2の土のう32を、中央には透水係数が大きく流速も大きくなる第3の土のう33をそれぞれ配置するようにしている。この配置例では、特に、構造物縦断方向に配置された第1の土のう31−1〜31−3が構造物縦断方向に流れが卓越して地下河川が形成されることを防止する機能を有する。
【0031】
このように、本発明によれば、配置位置によって土のうの透水係数を変化させることで、置換層における地下水の流速を調整することができる。特に、置換層の境界部における流速の急変がないので、細粒砂の流出に伴う地盤変化や、細粒砂の沈降による通水装置の目詰まり等を避けることができる。
【0032】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の地下水流動保全対策工法は、地盤変化や、通水機能の低下のない地下水流動阻害対策として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の地下水流動保全対策工法とそれによる地下水の流動状態を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す構造物の躯体下部を通水ゾーンとして利用する地下水流動保全対策工法の施工状態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例を示す地下水流動保全対策工法による置換層の模式図である。
【図4】本発明の実施例を示す地下水流動保全対策工法の置換層における土のうの他の配置例を示す平面図である。
【図5】従来の地下水流動保全対策工法とそれによる地下水の流動状態を示す模式図である。
【図6】従来の地下水の集水・涵養による地下水流動保全対策工法を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1,11 透水係数が小さい上流の現地盤(帯水層)
2,12 透水係数が小さい下流の現地盤(帯水層)
3,13,30 置換層
4,14 土のう
4A,21,31,33−1〜33−3 透水係数が小さい第1の土のう
4B,22,32 透水係数が中ほどの第2の土のう
4C,23,33 透水係数が大きい第3の土のう
5 上流の現地盤と置換層の境界部
6 置換層と下流の現地盤との境界部
15 地下に構築される構造物躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物躯体下部を通水ゾーンとして利用する地下水流動保全対策工法において、透水係数が小さい上流の現地盤と透水係数が小さい下流の現地盤との間の置換層に土のう袋のメッシュサイズと土の粒径を調整することで透水係数を調整した土のうを配置し、地下水の流動方向および構造物縦断方向に透水係数を変化させて、前記土のうで置換した部分の地下水流動をコントロールすることを特徴とする地下水流動保全対策工法。
【請求項2】
請求項1記載の地下水流動保全対策工法において、前記置換層の前記現地盤と接する箇所に透水係数が小さい第1の土のうを、該第1の土のうの内側に透水係数が中ほどの第2の土のうを、該第2の土のうの内側に透水係数の大きい第3の土のうを配置することにより、前記置換層の前記現地盤との境界部における前記地下水の流速の急変を避けることを特徴とする地下水流動保全対策工法。
【請求項3】
請求項2記載の地下水流動保全対策工法において、前記第1の土のうで前記置換層の外側を囲むように配置することを特徴とする地下水流動保全対策工法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−77640(P2010−77640A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245729(P2008−245729)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】