説明

地下水浄化装置及び方法

【課題】設備が簡易かつコンパクトで、設備費及び維持管理費が低い地下水浄化装置及び方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、揮発性有機溶剤で汚染された地下水を浄化する地下水浄化装置であって、地中を流れる地下水を汲み上げるための地下水汲上手段16と、光透過性の材料で構成され前記地下水汲上手段により汲み上げられた地下水を送り込むための反応槽18と、光触媒を担持するとともに反応槽内に収納された多孔質担体22とを有し、前記反応槽18内において、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤が、該反応槽18を通過する光の作用により、前記多孔質担体22に担持された光触媒により分解されることを特徴とする地下水浄化装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機溶剤に汚染された地下水を浄化する地下水浄化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、揮発性有機溶剤に汚染された地下水の浄化方法として広く採用されている揚水曝気工法を示す。この工法は、有機溶剤に汚染された地下水を真空ポンプ1で汲み上げ、容器内で曝気し、曝気後の空気に移動した有機溶剤を活性炭に吸着させることで地下水を浄化する工法である。この工法には、揚水井戸2の他に真空ポンプ1、気液分離槽3、曝気槽4、ブロア5、活性炭吸着槽6が必要で、機器数が多いため設備費が高いとともに、比較的広い設置面積を必要とする。また、活性炭は、有機溶剤の吸着能力に限界があるので適宜交換することを要し、設備の導入及び維持に高い費用が必要であるという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1には、光触媒を用いて廃水を処理する従来技術が開示されている。光触媒は繰り返し使用が可能であるため、設備の維持に要する費用が低いというメリットがある。そして、この発明では、光触媒を担持させる担体として活性炭などの多孔質物質を選択している。
【特許文献1】特開平10−174882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、活性炭などの多孔質物質は光触媒を比較的大量に吸着できるものの、微細孔内部まで光が到達することはなく、微細孔内部に吸着した光触媒を機能させることができない。このため、揮発性有機溶剤に汚染された地下水を確実に浄化するためには、反応槽内に大量の多孔質担体に担持させた光触媒を収納することが必要で、この反応槽の容量を大きくせざるを得なかった。この結果、従来の揮発性有機溶剤汚染地下水の浄化工法では、設備の導入及び維持管理に比較的高い費用が必要であったり、設備の設置面積が大きくなったりという問題があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、設備が簡易かつコンパクトで、設備費及び維持管理費が低い地下水浄化装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、揮発性有機溶剤で汚染された地下水を浄化する地下水浄化装置であって、地中を流れる地下水を汲み上げるための地下水汲上手段と、光透過性の材料で構成され前記地下水汲上手段により汲み上げられた地下水を送り込むための反応槽と、光触媒を担持するとともに反応槽内に収納された多孔質担体とを有し、前記反応槽内において、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤が、該反応槽を通過する光の作用により、前記多孔質担体に担持された光触媒により分解されることを特徴とする地下水浄化装置を提供する。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、地下水に含まれる揮発性有機溶剤を分解するための光触媒が、光透過性の多孔質担体に担持され、多孔質担体の微細孔の内部に吸着した光触媒にまで光を到達させて、多孔質担体の外表面及び微細孔の内部に吸着した光触媒の機能を十分に発揮させることができる。このため、多孔質担体に担持された光触媒のうちで揮発性有機溶剤の分解に有効に作用するものの量を飛躍的に向上させることができる。この結果、地下水を確実に浄化するのに必要な量の光触媒を担持させた多孔質担体の使用量は減少し、反応槽内に収納すべき多孔質担体の量を少なくなり、反応槽を小型化することができる。そして、地下水浄化装置の構成を、単純かつ小型なものとすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は請求項1において、前記反応槽は、該反応槽内に送り込まれた地下水を攪拌するための攪拌手段をさらに有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、反応槽内において、揮発性有機溶剤を含む地下水と光触媒を多孔質担体とが攪拌され、揮発性有機溶剤と多孔質担体とが十分に混ざり合い、揮発性有機溶剤と光触媒とが十分に接触されるので、光触媒によって揮発性有機溶剤を確実に分解することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2のいずれかにおいて、前記多孔質担体は、光透過性の高分子材料であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、多孔質担体は、その微細孔に吸着した光触媒にまで確実に光を到達させ、地下水を確実に浄化するのに必要な量の光触媒を担持させた多孔質担体の使用量を減らし、反応槽を小型化することができるので、地下水浄化装置の構成を単純かつ小型なものとすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は請求項1から3のいずれかにおいて、前記反応槽は、発光手段を備えた筐体により覆われていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、反応槽は発光手段を備えた筐体におり覆われており、常時発光手段からの光が反応槽内の多孔質担体上の光触媒に安定して照射されるので、常時安定して光触媒により揮発性有機溶剤を分解することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は請求項4において、前記発光手段は、蛍光灯、白熱電球、紫外線ランプ、又は水銀灯であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、多孔質担体に担持された光触媒に紫外線を照射して、光触媒の機能を十分に発揮させ、地下水を確実に浄化するのに必要な量の光触媒を担持させた多孔質担体の使用量を減らし、反応槽を小型化することができるので、地下水浄化装置の構成を単純かつ小型なものとすることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、揮発性有機溶剤で汚染された地下水を浄化する地下水浄化方法であって、地中を流れる地下水を汲み上げる工程と、地中より汲み上げられた地下水を、光透過性の材料で構成された反応槽に流し込む工程と、前記反応槽内において、該反応槽を通過する光の作用により、光透過性の多孔質担体に担持された光触媒により、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解する工程とを含むことを特徴とする地下水浄化方法を提供する。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、地下水に含まれる揮発性有機溶剤を分解するための光触媒が光透過性の多孔質担体に担持されているので、多孔質担体に担持された光触媒のうちで揮発性有機溶剤の分解に有効に作用する光触媒の量を飛躍的に向上させることができる。この結果、揮発性有機溶剤を分解するのに要する装置構成を単純かつ小型なものとすることができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は請求項6において、前記反応槽内において、該反応槽内の地下水を攪拌しながら、該反応槽を通過する光の作用により、光透過性の多孔質担体に担持された光触媒により、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解する工程を含むことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、反応槽内において、揮発性有機溶剤を含む地下水と光触媒を担持した多孔質担体とが攪拌され、揮発性有機溶剤と多孔質担体とが十分に混ざり合い、揮発性有機溶剤と光触媒とが十分に接触されるので、光触媒によって揮発性有機溶剤を確実に分解することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は請求項6又は7のいずれかにおいて、前記反応槽内において、該反応槽を覆う筐体内に備えられた発光手段から発せられる光の作用により、光透過性の多孔質担体に担持された光触媒により、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解する工程を含むことを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、反応槽は発光手段を備えた筐体におり覆われており、常時発光手段からの光が反応槽内の多孔質担体上の光触媒に安定して照射されるので、常時安定して光触媒により揮発性有機溶剤を分解することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る地下水浄化装置及び方法によれば、設備が簡易かつコンパクトで、設備費及び維持管理費が低い地下水浄化装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る地下水浄化装置10の構成を示す概略図である。
【0025】
図1に示すように、地下水浄化装置10は、地中の地下水脈12を流れる揮発性有機溶剤で汚染された地下水を浄化するために用いられる装置である。
【0026】
ここで、揮発性有機溶剤とは、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼン、1,3−ジクロロプロペン等の有機塩素系化合物である。
【0027】
地下水浄化装置10は、揚水井戸14と水中ポンプ16と反応槽18を含む構成をとっている。
【0028】
揚水井戸14は、地表から地中を流れる地下水脈12に向けて鉛直方向に掘られている。この揚水井戸14により、地下水脈12を流れる地下水に地表からアクセスすることができる。
【0029】
揚水井戸14の底部付近には、水中ポンプ(地下水汲上手段)16が設けられており、この水中ポンプ16により、地下水脈12を流れる地下水を汲み上げられるようになっている。
【0030】
水中ポンプ16には、揚水井戸14の地表の開口部に到達する長さを有する配管20が接続されており、この配管20により、水中ポンプ16により汲み上げた地下水を地表まで導くことができる。
【0031】
配管20の他方の端部には、反応槽18が接続されており、この反応槽18により、水中ポンプ16により汲み上げられた地下水を一時的に貯蔵することができるようになっている。
【0032】
反応槽18は、光透過性の材料で構成されており、外部からその内部に光を取り込むことができる。ここで、反応槽18を構成する材料としては、ガラス、アクリル、透明塩化ビニル等であることが好ましい。その理由としては、これらの材料は、透明度が高く光の透過性が良好な材料であるからである。
【0033】
反応槽18の内部には、光触媒を担持し光透過性の多孔質担体22が収められている。この多孔質担体22に担持された光触媒は、反応槽18内に外部より入射した光(紫外線)があたると、その表面から電子が飛び出し強い酸化力を有する正孔が発生する。そして、この正孔の近傍で発生するOHラジカルが、地下水中に含まれる揮発性有機化合物から電子を奪い、この揮発性有機化合物を分解する。
【0034】
ここで、光触媒としては、二酸化チタン(TiO)、プラチナ担持型二酸化チタン(Pt/TiO)、ロジウム担持型二酸化チタン(Rh/TiO)、パラジウム担持型二酸化チタン(Pd/TiO)等を用いることができる。
【0035】
また、多孔質担体22の形状は、粒状、板状、円筒状、角柱状、円錐状、球状、ひょうたん型、ラグビーボール型、立方体型のものを用いることができるが、より好ましくは、一辺が1mm以上30mm以下の立方体型のものである。その理由としては、1mm未満であると浮遊しやすく、分離機構が複雑だからであり、一方、30mmを超えると単位体積あたりの表面積が少なくなり活性が低くなるからである。
【0036】
さらに、多孔質担体22を構成する材料としては、ポリエチレングリコール、メチルメタアクリレート、リン酸塩ガラスハイドロゲル等の光透過性の材料であることが好ましい。その理由としては、多孔質担体22が多孔質で、その微細孔の内部に光触媒が入り込んだ場合でも、光がその微細孔の内部にまで到達することができるので、微細孔の内部に入り込んだ光触媒の表面に強い酸化力を有する正孔を発生させることができるからである。
【0037】
さらにまた、光(紫外線)としては、太陽光、蛍光灯の光、白熱電球の光、紫外線ランプの光、水銀灯の光等を用いることができる。
【0038】
次に、地下水浄化装置10を用いて、地下水脈12を流れる地下水を浄化する方法について説明する。
【0039】
地下水浄化装置10を作動させると、水中ポンプ16により地下水脈12から地下水が汲み上げられ、配管20を介して、反応槽18に地下水が流れ込む。
【0040】
反応槽18内に流れ込んだ地下水は、反応槽18に予め収められていた多孔質担体22に担持された光触媒と接触する。
【0041】
このとき、光触媒は、反応槽18の外部から入射する光の作用により、地下水に含まれていた揮発性有機溶剤を分解し地下水を浄化する。
【0042】
そして、浄化された地下水を反応槽18から取り出す。
【0043】
以上説明した本実施の形態に係る地下水浄化装置10によれば、地下水に含まれる揮発性有機溶剤を分解するための光触媒が光透過性の多孔質担体22に担持され、多孔質担体22の微細孔の内部に吸着した光触媒にまで光を到達させて、多孔質担体22の外表面及び微細孔の内部に吸着した光触媒の機能を十分に発揮させることができる。このため、多孔質担体22に担持された光触媒のうちで揮発性有機溶剤の分解に有効に作用するものの量を飛躍的に向上させることができる。この結果、地下水を確実に浄化するのに必要な量の光触媒を担持させた多孔質担体22の使用量は減少し、反応槽18内に収納すべき多孔質担体22の量を少なくなり、反応槽18を小型化することができる。そして、地下水浄化装置10の構成を、単純かつ小型なものとすることができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る地下水浄化装置10によれば、光透過性の多孔質担体22に担持された光触媒を用いて、地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解するので、多孔質担体22に担持された光触媒のうちで揮発性有機溶剤の分解に有効に作用する光触媒の量を飛躍的に向上させることができる。この結果、地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を迅速に分解し、地下水を確実に浄化することができる。
【0045】
図2は、本発明の他の実施の形態に係る地下水浄化装置を示す概略図である。
【0046】
以下、上記実施の形態と共通する部分については同一の符号を付しその詳細な説明は省略する。
【0047】
図2に示すように、本実施の形態に係る地下水浄化装置10Aは、反応槽18が、発光手段24を内部に備えた筐体26に覆われている点において、図1に示す地下水浄化装置10と異なっている。この発光手段24により、反応槽18の内部には、常時安定して光を入射させることができる。
【0048】
ここで、発光手段24としては、蛍光灯、白熱電球、紫外線ランプ、水銀灯等を用いることができる。
【0049】
以上説明した本実施の形態に係る地下水浄化装置10Aによれば、反応槽18の内部には、常時安定して発光手段24から発せられる光が入射するので、天候や室内の明るさの影響を受けることなく光触媒により地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解して地下水を浄化することができる。
【0050】
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る地下水浄化装置の構成を示す概略図
【図2】本発明の他の実施の形態に係る地下水浄化装置の構成を示す概略図
【図3】従来の揚水曝気工法を示す概略図
【符号の説明】
【0052】
10…地下水浄化装置、12…地下水脈、14…揚水井戸、16…水中ポンプ、18…反応槽、20…配管、22…多孔質担体、24…発光手段、26…筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機溶剤で汚染された地下水を浄化する地下水浄化装置であって、
地中を流れる地下水を汲み上げるための地下水汲上手段と、
光透過性の材料で構成され前記地下水汲上手段により汲み上げられた地下水を送り込むための反応槽と、
光触媒を担持するとともに反応槽内に収納された多孔質担体と、
を有し、
前記反応槽内において、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤が、該反応槽を通過する光の作用により、前記多孔質担体に担持された光触媒により分解されることを特徴とする地下水浄化装置。
【請求項2】
前記反応槽は、該反応槽内に送り込まれた地下水を攪拌するための攪拌手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の地下水浄化装置。
【請求項3】
前記多孔質担体は、光透過性の高分子材料であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の地下水浄化装置。
【請求項4】
前記反応槽は、発光手段を備えた筐体により覆われていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の地下水浄化装置。
【請求項5】
前記発光手段は、蛍光灯、白熱電球、紫外線ランプ、又は水銀灯であることを特徴とする請求項4に記載の地下水浄化装置。
【請求項6】
揮発性有機溶剤で汚染された地下水を浄化する地下水浄化方法であって、
地中を流れる地下水を汲み上げる工程と、
地中より汲み上げられた地下水を、光透過性の材料で構成された反応槽に流し込む工程と、
前記反応槽内において、該反応槽を通過する光の作用により、光透過性の多孔質担体に担持された光触媒により、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解する工程と、
を含むことを特徴とする地下水浄化方法。
【請求項7】
前記反応槽内において、該反応槽内の地下水を攪拌しながら、該反応槽を通過する光の作用により、光透過性の多孔質担体に担持された光触媒により、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解する工程を含むことを特徴とする請求項6に記載の地下水浄化方法。
【請求項8】
前記反応槽内において、該反応槽を覆う筐体内に備えられた発光手段から発せられる光の作用により、光透過性の多孔質担体に担持された光触媒により、前記地下水中に含まれる揮発性有機溶剤を分解する工程を含むことを特徴とする請求項6又は7のいずれか1項に記載の地下水浄化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−161815(P2008−161815A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355551(P2006−355551)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】