説明

地下灌漑システム

【構成】 地下灌漑システム10は、耕作地200の地中に埋設される遮水部材12を含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つ。遮水部材は、遮水性を有する材質によって細長い溝状に形成され、その長手方向が耕作地200の傾斜に沿うように地中に埋設される。遮水部材12内の底部には、吸水性および保水性を有する保水部材14が設けられ、この保水部材14を介して、給水部材16が配設される。この地下灌漑システム10では、灌漑時には、給水源30からの水が給水部材16によって保水部材14に給水される。そして、保水部材14が吸収して保水した水が上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて供給される。
【効果】 水位管理器等の設備を必要とすることなく、作土層の水分量を可及的均等に保つことが可能であるので、傾斜地にも好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下灌漑システムに関し、特にたとえば、地下から水を供給して土壌の水分量を適切に保つ、地下灌漑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、畑地などの灌水には、地表に這わせた孔あきホースやスプリンクラ等を用いて、地表面から土壌に水を供給する地表灌水が一般的に用いられている。ここで、地表灌水によって土壌に供給された水は、土壌表面や植物表面も潤すことになるが、これらの水の多くは大気中に蒸発(つまり表面蒸発)してしまうだけであるので、水の無駄遣いが生じる。また、土壌のぬかるみによって作業に支障が出たり、泥跳ねや土壌表面におけるクラスト(土膜)形成などの不具合を招いたりしてしまう。さらに、ハウス栽培の場合には、土壌表面から蒸発した水分によってハウス内の湿度が過剰に高くなり、植物の病気発生の原因となる場合もある。
【0003】
これに対して、地下から水を供給する地下灌漑では、供給した水が土壌表面から蒸発することがほとんど無いので、水の無駄遣いを低減でき、水資源を効率的に利用できる。また、土壌がぬかるんだり、ハウス内の湿度が過度に上昇したりする等の地表灌水に起因する不具合も生じない。このため、近年では、各種の地下灌漑システムが提案されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、従来の地下灌漑システムが開示される。この地下灌漑システムでは、上側開口の容器状に形成された遮水部材が耕作地などの地中に埋設される。そして、遮水部材の内部に水を供給して重力水状態の土壌部を形成し、その重力水状態の土壌部から毛細管現象によって植物根圏の土壌に水を供給するようにしている。一例として、上側に開口を設けた横管状(横長の容器状)の遮水部材が用いられる。
【特許文献1】特開2010−29072号公報 [A01G 25/00]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、上側開口の遮水部材内に重力水状態の土壌部を形成するので、遮水部材を傾けて設置すると、地下灌漑時に遮水部材内の重力水が開口からこぼれてしまう可能性があり、また、遮水部材内の重力水の量が場所によって偏ってしまうので、土壌の水分量を均等に保つことが困難であった。このため、特許文献1の技術では、遮水部材を水平に設置する必要があり、傾斜を有する耕作地(傾斜地)にシステムを適用する場合には、施工現場で遮水部材の正確な(厳密な)水平出しを行い、遮水部材を等高線に沿って設置しなければならなかった。つまり、特許文献1の技術では、遮水部材の配置態様に地理的な制約が大きいという問題があった。
【0006】
さらに、特許文献1の技術では、遮水部材内の重力水の水位管理を水位管理器によって行うようにしているが、この地下灌漑システムを傾斜地に適用する場合には、土壌に対して均等に給水できるように、各遮水部材内の重力水の水位を個別に調節できることが望ましい。しかしながら、そのために遮水部材ごとに水位管理器を設けると、コストが大幅にアップしてしまう。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、地下灌漑システムを提供することである。
【0008】
この発明の他の目的は、傾斜地にも好適に用いることができる、地下灌漑システムを提供することである。
【0009】
また、この発明のさらに他の目的は、水位管理器等の設備を用いなくても、土壌に対して均等に給水できる、地下灌漑システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0011】
第1の発明は、上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に傾斜させて埋設される遮水部材、および遮水部材内の少なくとも底部に設けられる保水部材、保水部材を介して遮水部材内に配設され、給水源から供給された水を保水部材に給水する給水部材を備える、地下灌漑システムである。
【0012】
第1の発明では、地下灌漑システム(10)は、耕作地(200)の地中に埋設される遮水部材(12)を含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つものである。遮水部材は、遮水性を有する材質によって上側開口の容器状に形成され、たとえば耕作地の傾斜に沿うように地中に埋設される。遮水部材内のたとえば底部には、保水部材(14)が設けられる。保水部材は、吸水性および保水性を有する材質からなり、たとえば遮水部材の長さ方向の全長に亘って設けられる。また、遮水部材の内部には、保水部材を介して、給水部材(16)が配設される。給水部材は、給水源(30)から供給された水を保水部材に供給する管路であり、たとえば保水部材の上側に載置される。このような地下灌漑システムでは、灌漑時には、給水源から給水部材に供給された水が保水部材に給水され、その水が保水部材に吸収される。そして、保水部材が保水した水が上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、上側の土壌に毛管水状態の土壌部(38)が形成される。
【0013】
第1の発明によれば、給水部材によって給水した水を保水部材に吸収ないし浸透させて、保水部材が保水した水を毛細管現象によって土壌に供給するようにしたため、遮水部材を傾斜させて設置していても、作土層の水分量を可及的均等に保つことが可能である。つまり、傾斜地に対しても地下灌漑システムを好適に用いることができる。
【0014】
また、水位管理器等の特別な設備を用いる必要もないので、設備コストや維持管理コスト等を削減できる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明に従属し、給水部材よりも下流側に設けられ、前記給水部材の内部の余剰水が流入する貯水手段をさらに備える。
【0016】
第2の発明では、給水部材(16)の下流側端部は、たとえば配水管(32)を介して、給水部材よりも下流側に設置された貯水手段(34)に接続される。実施例では、貯水手段は、貯水タンク(34)であり、給水部材から保水部材に給水されなかった余剰水が貯水タンクに排出され、貯水タンクは、給水部材から送られてきた水をその内部に貯留する。
【0017】
第2の発明によれば、給水しきれずに給水部材の内部に残った余剰水を貯水手段によって貯水するようにしたため、その水を再利用することにより、水資源を効率的に利用することができる。
【0018】
第3の発明は、第2の発明に従属し、貯水手段によって貯水した水を給水源に戻す循環手段をさらに備える。
【0019】
第3の発明では、地下灌漑システム(10)には、貯水手段(34)によって貯水した水を給水源(30)に戻す循環手段が設けられる。実施例では、貯水タンク(34)内に貯水した水をポンプ(40)によって給水源(30)に送水する。
【0020】
第4の発明は、第2または3の発明に従属し、給水部材は、管壁に形成される複数の貫通孔を有する有孔管を含み、有孔管は、遮水部材の内部の余剰水を集水する集水部材として兼用され、この集水部材によって集水された余剰水が貯水手段に排出される。
【0021】
第4の発明では、給水部材(16)は、集水部材(36)として兼用される有孔管(24)を含む。有孔管は、合成樹脂や合成ゴムなどによって形成され、その管壁には、複数の貫通孔(26)が形成される。灌漑時には、給水源(30)から有孔管に供給された水が貫通孔を通して保水部材に給水される。また、降雨等により土壌に水が過多の時には、遮水部材内に溜まった水が貫通孔を通して有孔管の内部に集水される。そして、有孔管の内部に集水された水が貯水手段(34)に排出され、貯水手段は、有孔管から送られてきた水をその内部に貯留する。
【0022】
第4の発明によれば、遮水部材の内部に留まった余剰水を貯水手段によって貯水するようにしたため、その水を再利用することにより、水資源をより効率的に利用することができる。
【0023】
第5の発明は、上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に埋設される遮水部材、遮水部材内の少なくとも底部に設けられる保水部材、保水部材を介して遮水部材内に配設され、給水源から供給された水を保水部材に給水する給水部材、および給水部材から保水部材に給水された水の水位を検知する水位検知手段、および水位検知手段の検知結果に基づいて給水部材から保水部材への給水を制御する給水制御手段を備える、地下灌漑システムである。
【0024】
第5の発明では、地下灌漑システム(10)は、耕作地(200)の地中に埋設される遮水部材(12)を含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つものである。遮水部材は、遮水性を有する材質によって上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に埋設される。遮水部材内のたとえば底部には、保水部材(14)が設けられる。保水部材は、吸水性および保水性を有する材質からなり、たとえば遮水部材の長さ方向の全長に亘って設けられる。また、遮水部材の内部には、保水部材を介して、給水部材(16)が配設される。給水部材は、給水源(30)から供給された水を保水部材に供給する管路であり、たとえば保水部材の上側に載置される。また、たとえば、給水部材の下流側の端には、給水部材から保水部材に給水された水の水位を検知する水位検知手段(62)が設けられ、給水部材の上流側の端には、水位検知手段の検知結果に基づいて給水部材から保水部材への給水を制御する水位制御手段(64)が設けられる。このような地下灌漑システムでは、灌漑時には、給水源から給水部材に供給された水が保水部材に給水され、給水部材の上流側から下流側に向けて遮水部材内でその水が保水部材に吸収される。このとき、保水部材が保水した水は、上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、上側の土壌に毛管水状態の土壌部(38)が形成される。また、たとえば給水部材の下流側の端において、給水部材から給水された水が保水部材に保水されると、保水部材が保水した水の水位を水位検知手段によって検知し、その検知結果に応じて給水部材からの給水を制御する。
【0025】
第5の発明によれば、給水部材によって給水した水を保水部材に吸収ないし浸透させて、保水部材が保水した水を毛細管現象によって土壌に供給するようにしたため、遮水部材を傾斜させて設置していても、作土層の水分量を可及的均等に保つことが可能である。つまり、傾斜地に対しても地下灌漑システムを好適に用いることができる。
【0026】
さらに、保水部材が保水した水の水位を水位検知手段によって検知し、その検知結果に応じて給水部材からの給水を制御することにより、システムより下流側への水の無駄な放流を防止できるので、水資源を無駄にしてしまうこともない。
【0027】
第6の発明は、第5の発明に従属し、遮水部材は、耕作地の地中に傾斜させて埋設され、水位検知手段は、遮水部材の傾斜下端に設置され、給水制御手段は、水位検知手段の検知結果に基づいて給水部材から保水部材への給水を停止させる給水停止手段を含む。
【0028】
第6の発明では、遮水部材(12)は、耕作地(200)の地中に傾斜させて埋設され、その傾斜下端に水位検知手段(62)が設けられる。そして、その水位検知手段の検知結果の水位が設定水位(W)よりも高い時などに、給水制御手段(64)によって給水部材(16)から保水部材(14)への給水を停止させる。
【0029】
第6の発明によれば、給水開始後、水が遮水部材の傾斜上端から傾斜下端までの保水部材全体に給水された時点で給水を停止させることができ、給水量の過不足を防止することができる。
【0030】
第7の発明は、上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に傾斜させて埋設される遮水部材、遮水部材内の少なくとも底部に設けられる保水部材、および遮水部材内の底部との間に保水部材を介在させた状態で遮水部材内に配設され、給水源から供給された水を保水部材に給水する給水部材を備える、地下灌漑システムである。
【0031】
第7の発明では、地下灌漑システム(10)は、耕作地(200)の地中に埋設される遮水部材(12)を含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つものである。遮水部材は、遮水性を有する材質によって上側開口の容器状に形成され、たとえば耕作地の傾斜に沿うように地中に埋設される。遮水部材内のたとえば底部には、保水部材(14)が設けられる。保水部材は、吸水性および保水性を有する材質からなり、たとえば遮水部材の長さ方向の全長に亘って設けられる。また、遮水部材の内部には、遮水部材内の底部との間に保水部材を介在させた状態で給水部材(16)が配設される。給水部材は、給水源(30)から供給された水を保水部材に供給する管路であり、たとえば保水部材の上側に載置される。
【0032】
第7の発明によれば、第1の発明と同様の効果を奏する。
【0033】
第8の発明は、第7の発明に従属し、耕作地の地中において、耕していない土の上に遮水部材を挟んで給水部材を載置することによって給水部材の上下方向位置を位置決めするようにした。
【0034】
第8の発明では、遮水部材(12)の少なくとも一部は、耕作地(200)の地中において、掘り起こされていない土の上側に配置され、給水部材(16)は、その遮水部材を挟んで掘り起こされていない土の上側に載置される。こうすることにより、地下灌漑システムの施工時などに、給水部材や土の重量によって給水部材の下側の保水部材が圧縮されて給水部材が下方に移動したりすることがなくなり、給水部材の上下方向の位置を確実に位置決めすることができる。
【0035】
第8の発明によれば、遮水部材の傾斜上端から傾斜下端にかけて遮水部材内の底部から給水部材までの距離が安定するので、保水部材に保水される水分量を均一化させることができる。したがって、毛管水状態の土壌部の水分量が偏ることがなく、作土層の水分量をより均等に保つことができるようになる。
【0036】
第9の発明は、遮水部材内の底部のうち最も低い第1位置よりも段差状に高くなった第2位置の上側に給水部材を載置するようにした。
【0037】
第9の発明では、たとえば、遮水部材(12)の一部には、遮水部材内の底部のうち最も低い底板(18)よりも段差状に高くなった第2の底板(60)が形成され、その第2の底板の上側に給水部材(16)が載置される。
【0038】
第9の発明によれば、給水部材の上下方向の位置を簡単かつ確実に位置決めすることができる。
【0039】
第10の発明は、第1ないし9の発明に従属し、遮水部材内の底部を当該遮水部材の設置方向に所定の間隔を隔てて仕切る仕切り部をさらに備える。
【0040】
第10の発明では、遮水部材(12)内の底部には、仕切り部(46)が形成される。仕切り部は、遮水性を有する材質からなり、たとえば遮水部材の底部の内面側から突出して形成され、遮水部材の設置方向に一定の間隔で配置される。仕切り部は、遮水部材の底部の内面側の空間を区画し、その仕切り部によって区画された各部分に、保水部材(14,14a)がそれぞれ設けられる。
【0041】
第10の発明によれば、有孔管から給水されて、仕切り部によって仕切られた各部分に溜まった水が、その各部分に設けた保水部材にそれぞれ吸収されるようになるので、各保水部材が吸収する水分量をほぼ均等に保つことができる。よって、作土層の水分量をより均等に保つことができる。
【0042】
第11の発明は、第1ないし10のいずれかの発明に従属し、保水部材は、耕作地の土を含む。
【0043】
第11の発明では、遮水部材(12)内の底部には、保水部材(14)として、たとえば、耕作地(100)の土壌と同様の成分によって構成される土が充填される。たとえば、給水部材(16)から給水された水は、遮水部材の内部の土中に浸透し、毛管水または重力水となって遮水部材の内部に留まり、遮水部材の内部には、毛管水状態または重力水状態の土壌部(50)が形成される。そして、この土壌部の水分が、その上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、上側の土壌に毛管水状態の土壌部(38)を形成する。
【0044】
第12の発明は、第1ないし11のいずれかの発明に従属し、給水部材は、遮水部材の内部の余剰水を集水する集水部材として兼用される有孔管を含み、この有孔管の上側に疎水部が設けられる。
【0045】
第12の発明では、給水部材(16)は、遮水部材(12)の内部の余剰水を集水する集水部材(36)として兼用される有孔管(24)を含み、この有孔管の上側、つまり有孔管の上部や上方には、疎水部(108)が設けられる。そして、耕作地(200)の地中から疎水部の中へ滲みだした水が有孔管に集められ、有孔管の中を流れた水がたとえば貯水タンク(34)などに排出される。
【0046】
第13の発明は、上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に埋設される遮水部材、および遮水部材内の底部に設けられる保水部材、遮水部材内に保水部材を介して配設され、給水源から供給された水を保水部材に給水する給水部材を備える、地下灌漑システム。
【0047】
第13の発明では、地下灌漑システム(10)は、耕作地(100)の地中に埋設される遮水部材(12)を含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つものである。遮水部材は、遮水性を有する材質によって上側開口の容器状に形成される。遮水部材内の底部には、保水部材(14)が設けられる。保水部材は、吸水性および保水性を有する材質からなり、たとえば遮水部材の長さ方向の全長に亘って設けられる。また、遮水部材の内部には、保水部材を介して、給水部材(16)が配設される。給水部材は、給水源(30)から供給された水を保水部材に供給する管路であり、たとえば保水部材の上側に載置される。このような地下灌漑システムでは、灌漑時には、給水源から給水部材に供給された水が保水部材に給水され、その水が保水部材に吸収される。そして、保水部材が保水した水が上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、上側の土壌に毛管水状態の土壌部(38)が形成される。
【0048】
第13の発明によれば、第1の発明と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0049】
この発明によれば、給水部材によって給水した水を保水部材に吸収ないし浸透させて、保水部材が保水した水を毛細管現象によって土壌に供給するようにしたため、遮水部材の配置態様に地理的な制約がなくなり、傾斜地に対しても地下灌漑システムを好適に用いることが可能である。
【0050】
また、水位管理器等の特別な設備を用いなくても土壌に対して均等に給水できるので、設備コストや維持管理コスト等を削減することが可能である。
【0051】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】この発明の一実施例の地下灌漑システムを示す図解図である。
【図2】図1の地下灌漑システムを示す図解図である。
【図3】図1の地下灌漑システムを示す図解図である。
【図4】図1の地下灌漑システムを示す図解図である。
【図5】(a)は、図1の地下灌漑システムにおける有孔管の給水時の水の流れを示す図解図であり、(b)は、図1の地下灌漑システムにおける有孔管の集水時の水の流れを示す図解図である。
【図6】有孔管の貫通孔から保水部材に給水する水の流れを示す図解図である。
【図7】図1の地下灌漑システムにおける貯水の循環時の水の流れを示す図解図であり、
【図8】この発明の他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図9】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図10】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図11】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図12】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図13】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図14】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図15】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図16】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図17】図16の地下灌漑システムを示す図解図である。
【図18】図16の地下灌漑システムの遮水部材を設置する様子を示す図解図である。
【図19】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図20】図19の地下灌漑システムを施工装置を利用して施工する様子を示す図解図である。
【図21】図19の地下灌漑システムの遮水部材および給水部材を設置する様子を示す図解図である。
【図22】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図23】図22の地下灌漑システムの遮水部材および給水部材を設置する様子を示す図解図である。
【図24】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図25】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図26】図25の地下灌漑システムの水位検知手段を示す図解図である。
【図27】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図28】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図29】図28の地下灌漑システムの水位管理器を示す図解図である。
【図30】図28の地下灌漑システムの水位管理器の動作を示す概略断面図であり、(a)は給水口が開いた状態を示し、(b)は給水口が閉じた状態を示す。
【図31】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【図32】この発明のさらに他の実施例である地下灌漑システムを示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1および図2を参照して、この発明の一実施例である地下灌漑システム10(以下、単に「システム10」ということもある。)は、傾斜を有する耕作地(傾斜地)200の地中に埋設される遮水部材12、および遮水部材12内の底部に設けられる保水部材14を含み、地下から水を供給して土壌中の水分を植物の生育にとって適切な状態に保つものである。詳細は後に説明するが、このシステム10では、給水部材16によって遮水部材12の内部に給水した水を保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水を毛細管現象によって土壌に供給する。
【0054】
図1−図3に示すように、遮水部材12は、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の合成樹脂やステンレス等の金属などの遮水性を有する材質によって、上側開口の容器状に形成され、耕作地200の傾斜に沿うように地中に埋設される。
【0055】
たとえば、この実施例では、遮水部材12は、底板18の両側端から側板20がやや外側に傾斜して立ち上がる細長い溝状に形成され、その長手方向が耕作地200の傾斜に沿うように地中に埋設される。遮水部材12としては、たとえば、上述のような、遮水性を有する材質からなる遮水シートを屈曲ないし湾曲させて細長い溝状に形成したものを用いるとよい。一例として、遮水部材12の底板18の幅は、たとえば120mmであり、側板20の高さ(遮水部材12の深さ)は、たとえば150mmである。また、遮水部材12の上側(天端)の開口22の幅は、底板18の幅よりも大きく設定され、たとえば300mmである。
【0056】
遮水部材12は、植物の根圏に沿うように、耕作地200の傾斜に沿って畝立てされた畝202ごとに配置されており、畝202に沿って耕作地200の両端付近まで延びる遮水部材12が、所定の間隔を隔てて並ぶように配置される。なお、図1では、図解のために、耕作地200内に4つの遮水部材12を並べて配置しているが、これは単なる例示であり、必要に応じて遮水部材12の配置個数は適宜変更され得る。また、必ずしも遮水部材12を畝202ごとに配置する必要もなく、複数の畝202がある耕作地200では、2−3本の畝202に1つの割合で遮水部材12を配置してもよい。
【0057】
一例として、隣り合う遮水部材12どうしの間隔は、たとえば500−2000mmとされる。また、遮水部材12の底板18から地表面までの距離は、たとえば100mm−800mmとされる。
【0058】
ただし、遮水部材12の大きさ、配置個数、配置深さおよび配置間隔などは、これらの数値に限定されず、このシステム10を適用する耕作地200の面積、土壌成分および気候条件などに応じて、適宜設定される。このことは、後述する他の各実施例においても同様である。
【0059】
遮水部材12内の底部には、保水部材14が設けられる。そして、この保水部材14を介して、遮水部材12内に給水部材16が配設される。ただし、上述のように、遮水部材12は上側開口の容器状に形成されるため、この場合の遮水部材12の内部とは、遮水部材12の上側に含まれる概念となり、遮水部材12内の底部とは、遮水部材12の底板18の上側に含まれる概念となることに留意されたい。
【0060】
図1、図3および図4に示すように、保水部材14は、吸水性および保水性を有する材質からなり、遮水部材12の長さ方向の全長に亘って遮水部材12内の底部、つまり底板18の上側に配置される。一例として、保水部材14には、ポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性高分子からなる汎用の保水剤や、そのような保水剤と土とを混合した混合物が用いられる。保水部材14の厚み(高さ)は、たとえば50−100mmである。
【0061】
また、給水部材16は、給水源30から供給された水を保水部材14に供給(給水)するためのものであり、遮水部材12内を通る水路を形成する有孔管24を含む。
【0062】
たとえば、この実施例では、有孔管24は、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の合成樹脂や合成ゴムなどによって形成され、保水部材14に沿ってその上側に載置される。有孔管24には、管壁全体に複数の貫通孔26がランダムに分散配置され、その貫通孔26を通して有孔管24内の水が保水部材14に給水される。一例として、有孔管24の外径は、たとえば5−30mmである。貫通孔26は、円形に形成され、その大きさは、たとえば直径1−5mmである。また、図示は省略するが、有孔管24の外面は、不織布などからなる防根シートによって覆われている。
【0063】
ただし、貫通孔26の形状、大きさ、形成位置および数などは、適用する耕作地200の土壌成分などに応じて適宜設定されるものであり、これらを調整変更することによって、有孔管24から保水部材14へ供給する水の量を制御することが可能である。
【0064】
図1および図2に示すように、有孔管24の上流側端部は、第1配水管28を介して、有孔管24よりも傾斜上側に配置された給水源30に接続される。第1配水管28は、給水源30から供給された水を有孔管24まで送る管路であり、複数の直管、可撓管および継手などを適宜連結して形成される。給水源30は、耕作地200に供給するための水を貯留する給水タンク30であり、たとえば地上に設置される。給水タンク30は、たとえば、農業用水配管(図示せず)などと接続されて、農業用水配管から送られてくる水をその内部に貯留する。給水タンク30に貯留される水量は、耕作地200の面積などによって適宜設定され、給水タンク30内には、常に一定量以上の水が貯留される。
【0065】
一方、有孔管24の下流側端部は、第2配水管32を介して、有孔管24よりも傾斜下側に配置された貯水手段34と接続される。第2配水管32は、有孔管24から送られてきた水を貯水手段34まで送る管路であり、複数の直管、可撓管および継手などを適宜連結して形成される。貯水手段34は、第2配水管32から送られてくる水をその内部に貯留する貯水タンク34であり、たとえば地上に設置される。詳細は後に説明するように、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水は、第2配水管32を介して貯水タンク34に排出される。また、このシステム10では、有孔管24が遮水部材12内の余剰水を集水するための集水部材36として兼用されるため、詳細は後に説明するように、有孔管24によって集水された遮水部材12内の余剰水が、第2配水管32を介して貯水タンク34に排出される。
【0066】
図3−図6を参照して、このようなシステム10では、灌漑時には、たとえば給水タンク30に設けられているバルブ(図示せず)を手動で開け閉めすること等によって、給水タンク30から第1配水管28に対して水が供給される。ただし、電磁弁やタイマ等を利用して、所定の時間帯に自動的に給水タンク30から水が供給されるようにしてもよいし、栽培作物の生理的状況をモニタリングして水分を補給するようにしてもよいし、給水タンク30からの取水量を適宜調整して、水が常時供給されるようにしてもよい。
【0067】
給水タンク30から第1配水管28に供給された水は、図5(a)に示すように、有孔管24に流れ込み、有孔管24内を通って遮水部材12の全長に亘るように搬送されるとともに、図6に示すように、各貫通孔26から有孔管24外に出て、遮水部材12の内部に供給(給水)される。有孔管24から遮水部材12の内部に給水されると、その水は土中に浸透して、遮水部材12内の底部に溜まる。そして、遮水部材12内の底部に溜まった水が保水部材14と混合して、その水が保水部材14に吸収される。それから、時間の経過とともに徐々に保水部材14が保水した(含んだ)水(水分)が上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、これによって、保水部材14よりも上側の土壌に、毛管水状態の土壌部38が形成される。
【0068】
ここで、毛管水状態の土壌部38の水分量は、遮水部材12内に保持される水の量によって変動するが、このシステム10では、遮水部材12の中に供給した水を一旦保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水を毛細管現象によって上側の土壌に吸い上げるようにしているので、遮水部材12を傾斜させて設置していても、遮水部材12内の水がこぼれたり、遮水部材12内に保持される水の量が傾斜の上側と下側とで偏ってしまったりすることがない。つまり、遮水部材12内に保持される水の量はほぼ均等に保たれる。よって、たとえば耕作地200で栽培する植物に合わせて、保水部材14に給水する(吸収させる)水の量を適量に保つことにより、その植物にとって最適な水分量を有する土壌部38を耕作地200に実現できる。
【0069】
また、このシステム10では、灌漑時に、給水タンク30から有孔管24(給水部材16)に余剰に水が供給されても、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水が第2配水管32に排出される。そして、第2配水管32は、有孔管24から送られてきた水を貯水タンク34まで送り、貯水タンク34は、第2配水管32から送られてきた水をその内部に貯留する。
【0070】
さらに、このシステム10では、有孔管24から遮水部材12内に余剰に水が供給された時や、自然降雨などによって土壌に余剰に水が与えられた時に、それらの余剰水が遮水部材12内に溜まって、保水部材14が水で飽和した状態になると、保水部材14に吸収されなかった水が貫通孔26を通して有孔管24(集水部材36)内に集水される。そして、有孔管24の内部に水が集水されると、図5(b)に示すように、その水は有孔管24内を通って第2配水管32に排出される。そして、第2配水管32は、有孔管24から送られてきた水を貯水タンク34まで送り、貯水タンク34は、第2配水管32から送られてきた水をその内部に貯留する。
【0071】
以上のように、この実施例によれば、遮水部材12内に供給した水を保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水(水分)を毛細管現象によって土壌に供給するようにしているので、遮水部材12が傾斜して埋設されていても、毛管水状態の土壌部32の水分量が偏ることがない。したがって、同一システム10の耕作地200において、作土層の水分量を可及的均等に保つことができるようになる。つまり、傾斜を有する耕作地200などに対してもシステム10を好適に用いることができる。
【0072】
しかも、たとえば、地下灌漑のシステムを傾斜地に適用する場合には、上述した特許文献1のように、各遮水部材内の重力水の水位を水位管理器によって個別に調節する必要があったが、この実施例によれば、水位管理器等の特別な設備を用いなくても、遮水部材12内に保持される水の量をほぼ均等に保つことができるので、設備コストや維持管理コスト等が低減できる。
【0073】
また、このシステム10では、有孔管24(給水部材16)の下流側に貯水タンク34が設けられ、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水が貯水タンク34に排出される。すなわち、通常であれば、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水は給水部材16の下流側末端などから地下深くに浸透させるが、このシステム10によれば、有孔管24内の余剰水を貯水タンク34内に貯留することが可能である。
【0074】
さらに、このシステム10では、有孔管24が集水部材36として兼用される。このため、遮水部材12内に余剰に供給された水や、自然降雨などによって土壌に余剰に与えられた水が遮水部材12内に溜まると、その水が有孔管24の内部に集水され、第2配水管32を通って貯水タンク34に排出される。すなわち、このシステム10によれば、有孔管24によって作土層の水分量の調整を行うとともに、遮水部材12内の余剰水を貯水タンク34内に貯留することが可能である。
【0075】
したがって、たとえば、図7に示すように、システム10に、貯水タンク34内に貯水した水を給水タンク30に送るポンプ40(たとえば、ソーラー型循環ポンプなど)を設けて、貯水タンク34内の水を同一システム10の給水タンク30に戻すようにしたり、貯水タンク34内に貯水した水を作業員がタンクローリー車等で給水タンク30に運搬するようにしたり、また、貯水タンク34内に貯水した水を耕作地200よりも傾斜下側の耕作地に適用した別のシステムの給水タンクに給水するようにすれば、貯水タンク34内に貯水した余剰水を再利用することが可能である。
【0076】
このように、このシステム10によれば、水の無駄遣いを低減でき、水資源を効率的に利用することができる。特に、離島などの圃場においては、雨水を逃がさないことで、海水の淡水化量を減らす事に繋げながら、栽培する植物に潤いをもたらすことができるので、システム10を利用する効果は大きい。
【0077】
なお、システム10の他の実施例として、図8に示すように、有孔管24内の全長に亘って給水ホース42を挿通させて、この給水ホース42から有孔管24内に放出された水を、有孔管24の各貫通孔26を通して遮水部材12の中に給水するようにしてもよい。たとえば、給水ホース42には、水圧をかけることによって内部の水が壁面の外部に染み出す、所謂、点滴チューブなどを利用し得る。こうすることによって、有孔管24の各貫通孔26から保水部材14への給水量の均等化を図ることができ、延いては、同一システム10の耕作地200において、作土層の水分量をより均等に保つことができるようになる。
【0078】
また、図示は省略するが、上述した有孔管24の代わりに、給水ホース42を給水部材16として遮水部材12内に配設するようにしてもよい。この場合には、給水部材16は排水パイプとして機能しない。
【0079】
さらにまた、図示は省略するが、上述した有孔管24を排水部材36として遮水部材12内に配設するとともに、その遮水部材12内に給水ホース42を給水部材16として配設するようにしてもよい。
【0080】
さらに、上述の実施例では、遮水部材12内の底部に保水部材14が設けられ、その保水部材14の上側に有孔管24が載置されたが、必ずしも有孔管24を保水部材14の上側に載置する必要はない。
【0081】
たとえば、図9に示すシステム10のさらに他の実施例のように、有孔管24の全部または一部を保水部材14の中に埋め込んで配設するようにしてもよい。この場合には、有孔管24は主として保水部材14への給水パイプとして機能する。また、遮水部材12内が保水部材14で満杯になるようにし、その保水部材14の中へ有孔管24を埋め込んで配設するようにしてもよい。要は、上述した各実施例のように、遮水部材12内の底部との間に保水部材14が介在された状態で有孔管24(給水部材16)が配設されていれば、システム10はその効果を発揮できる。
【0082】
さらにまた、図10に示すシステム10のさらに他の実施例のように、遮水部材12の上側の開口22に、鍔状部材44を設けるようにしてもよい。たとえば、鍔状部材44は、合成樹脂および金属などの遮水性を有する材質によって形成され、遮水部材12の全長に亘るように側板20の上端から鍔状に外側に延びて、その下方の土壌への水の浸透を遮断する。上述のように、保水部材14の水分は、その上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて、遮水部材12の上部およびその周辺の土壌へと浸透していくが、遮水部材12に鍔状部材44を設けておくと、鍔状部材44はその下方の土壌への水の浸透を遮断して、下方に向かって浸透していく水の量を低減させるので、浸透水は横方向ないし上方向に浸透していくことになる。これによって、使用する水の量を低減させつつ、横方向に広範囲に広がる毛管水状態の土壌部38を形成することができるようになる。さらに、降雨があったときには、地中に浸透した雨水を鍔状部材44によって下方の土壌へ浸透させずに遮水部材12内に導くことができる。すなわち、遮水部材12によって雨水を効率的に集水することが可能であるので、水資源をより効率的に利用できるようになる。
【0083】
さらに、図11に示すシステム10のさらに他の実施例のように、遮水部材12内の底部に複数の仕切り部46を形成し、その仕切り部46によって仕切られた各区画に保水部材14aを設けるようにしてもよい。
【0084】
仕切り部46は、合成樹脂および金属などの遮水性を有する材質からなり、遮水部材12の底板18の上面から上方に突出して形成される。仕切り部46は、遮水部材12の設置(傾斜)方向に一定の間隔で配置され、隣り合う仕切り部46どうしの間隔は、耕作地200の勾配に応じて適宜設定され、たとえば1000mmであり、その高さは、保水部材14の厚みと同程度の高さにされる。
【0085】
仕切り部46は、遮水部材12の内部の空間を区画し、その仕切り部46によって仕切られた各区画の底部に、保水部材14aがそれぞれ設けられる。こうすることにより、有孔管24から給水されて、仕切り部46によって仕切られた各区画の底部に溜まった水が、その各区画の底部に設けた保水部材14aにそれぞれ吸収されるようになるので、各々の保水部材14aが吸収する水分量をほぼ均等に保つことができる。すなわち、同一システム10の耕作地200において、作土層の水分量をより均等に保つことができるようになる。
【0086】
なお、遮水部材12内の底部に仕切り部46を形成する代わりに、遮水部材12の底板18を変形させる仕切り部材48を耕作地200の地中に埋設するようにしてもよい。
【0087】
具体的には、図12に示すように、耕作地200の傾斜に沿って、地中に一定の間隔で仕切り部材48を埋設する。たとえば、仕切り部材48は、矩形の板状に形成され、その幅方向の長さは、たとえば遮水部材12の開口22の幅と同程度になるように設定される。そして、仕切り部材48の上側に遮水部材12を埋設することにより、仕切り部材48の外形に沿って遮水部材12の底板18の形状を変形させて、底板18に凹凸形状を形成する。そして、その凹凸形状のうち上方に突き出す凸部を仕切り部46として機能させ、凸部によって仕切られた各区画に保水部材14aをそれぞれ設ける。こうすることにより、凸部によって仕切られた各区画の底部に溜まった水が、その各区画の底部に設けた保水部材14aにそれぞれ吸収されるようになるので、各々の保水部材14aが吸収する水分量をほぼ均等に保つことが可能である。
【0088】
さらにまた、上述の実施例では、有孔管24の管壁全体にランダムに分散配置した円形の貫通孔26を通して保水部材14に給水したが、これに限定される必要はない。上述したように、貫通孔26の形状、大きさ、形成位置および数などは、有孔管24から保水部材14への水の供給量を考慮して適宜設定すればよい。
【0089】
たとえば、有孔管24の管底部付近に管軸方向に所定の間隔を隔てて並ぶように貫通孔26を形成してもよい。この場合には、有孔管24がその内部の水を主として下方に供給することとなるので、水の供給源に向けて延びる植物の根が有孔管24の貫通孔26に侵入することによって、貫通孔26が閉塞されてしまうこと等の不具合が生じない。
【0090】
さらに、貫通孔26は、有孔管24の管壁を直線状に貫くものに限定されず、多孔質状や網目状のものでもよいし、貫通孔26をスリット状に形成するようにしてもよい。
【0091】
また、上述の実施例では、有孔管24(給水部材16)の下流側の端部に第2配水管32を介して貯水タンク34を接続したが、これに限定される必要はない。たとえば、有孔管24の下流側の端部を直接貯水タンク34に接続するようにしてもよい。また、貯水手段は、貯水タンク34に限定されず、給水部材16の下流側にため池などを形成しておき、それを貯水手段として利用してもよい。
【0092】
さらに、必ずしも貯水手段を設ける必要はなく、給水タンク30から有孔管24に必要水量だけ送水するのであれば貯水手段は不要である。さらにまた、有孔管24の下流側の端部を排水管に接続し、この排水管を介して有孔管24内の余剰水や、有孔管24の内部に集水した遮水部材12内の余剰水を下水処理施設などへ排出するようにしてもよい。
【0093】
さらに、上述の実施例では、給水タンク30は、農業用水配管などと接続されて、そこから送られてくる水を貯留するようにしたが、これに限定されない。たとえば、給水タンク30は必ずしも設ける必要は無く、農業用配水管などから直接給水部材16に水が供給されるようにしてもよい。この場合には、その農業用配水管が給水源となる。また、給水部材16に供給する水の中に肥料や農薬を溶かして、水とともに肥料や農薬を作物に投与するようにしてもよい。
【0094】
さらにまた、上述の実施例では、遮水部材12内の底部に、汎用の保水剤や、そのような保水剤と土とを混合した混合物からなる保水部材14を設けたが、これに限定される必要はない。保水部材14は、吸水性および保水性を有するものであれば、その材質は特に限定しない。
【0095】
たとえば、図13に示すシステム10のさらに他の実施例のように、耕作地200が保水力を有する土によって構成されている場合には、遮水部材12内の底部に耕作地200の土(または、耕作地200と土壌と同様の成分によって構成される土)を充填し、遮水部材12内の底部に形成した毛管水状態または重力水状態の土壌部50を保水部材14として用いるようにしてもよい。
【0096】
このシステム10では、有孔管24から遮水部材12の内部に供給された水は、遮水部材12内の底部に充填された土の中に浸透していき、土中に保水される。すなわち、土中に浸透した水が、毛管水または重力水となって遮水部材12の内部に留まることによって、遮水部材12内の底部に、毛管水状態または重力水状態の土壌部50が形成される。そして、遮水部材12内の底部の毛管水や重力水、つまり土壌部50の水分は、その上側の土壌に毛細管現象によって吸い上げられて浸透していき、上側の土壌に毛管水状態の土壌部38を形成する。
【0097】
ただし、耕作地200が保水力が弱い所謂ざる田や砂地などの場合には、予め保水力が高い土を準備しておいて、それを遮水部材12内の底部に充填するとよい。また、下層から順に、礫層、砂層、およびシルト層を形成するというように、遮水部材12内部に充填する土を複層状態にして、保水力を向上させるようにしてもよい。
【0098】
さらに、上述の実施例では、保水部材14は、遮水部材12の長さ方向の全長に亘って設けられたが、これに限定される必要もない。たとえば、灌漑を行いたい必要な場所にのみ保水部材14を設けるようにしてもよい。
【0099】
さらにまた、上述の実施例では、細長い溝状に形成される遮水部材12を耕作地200の畝202に沿うように規則正しく並べて配置したが、これに限定される必要はなく、遮水部材12は、不規則的な配置位置となっていてもよい。
【0100】
さらに、必ずしも遮水部材12をその長手方向が耕作地200の傾斜に沿うように設置する必要もない。遮水部材12を耕作地200の地中に傾斜させて埋設するのであれば、遮水部材12をその長手方向が耕作地200の傾斜方向からずれるように配置してもよいし、遮水部材12を耕作地200の勾配よりも大きいまたは小さい勾配で傾斜させて埋設するようにしてもよい。
【0101】
また、遮水部材12は、基本的には直線状に配置されるが、蛇行するように配置してもよい。さらに、耕作地200全体に万遍なく遮水部材12を配置することによって、耕作地200の作土層全体を毛管水状態の土壌部38とすることもできるし、耕作地200の一部の範囲に遮水部材12を配置することによって、耕作地200の作土層の一部の範囲のみ、つまり耕作者が望む範囲のみを毛管水状態の土壌部38とすることもできる。
【0102】
さらにまた、基本的には、このシステム10は遮水部材12を耕作地200の地中に所定勾配で傾斜させて設置する場合に好適に用いられるが、これに限定される必要はなく、遮水部材12を耕作地の地中に水平または略水平に設置する場合にシステム10を適用するようにしてもよい。その場合であっても、遮水部材12を地中に埋設する際に、耕作地200の多少の起伏(上り下り)に対し、施工現場で遮水部材12の正確な(厳密な)水平出しを行う必要がないので、このシステム10を利用する効果は大きい。
【0103】
一例を挙げると、図14に示すシステム10のさらに他の実施例では、傾斜に直交する方向(たとえば、等高線沿い)に畝立てした耕作地200にシステム10が適用され、遮水部材12が耕作地200の傾斜に直交する方向に沿うように水平に地中に埋設される。以下、先の実施例と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化する。
【0104】
図14に示すように、遮水部材12は、細長い溝状に形成され、その長手方向が耕作地200の傾斜に直交する方向に沿うように地中に埋設される。そして、耕作地200の両端付近まで延びる遮水部材12が、耕作地200の傾斜方向に所定の間隔を隔てて並ぶように配置される。遮水部材12内の底部には、保水部材14が設けられる。そして、この保水部材14を介して(つまり、遮水部材12内の底部との間に保水部材14が介在された状態で)有孔管24(給水部材16,集水部材36)が遮水部材12内に配設される。
【0105】
耕作地200の傾斜方向に所定の間隔を隔てて並ぶ遮水部材12どうしの間の区間では、それぞれの遮水部材12の内部に配設された有孔管24どうしが、管壁に貫通孔26や空隙などが形成されない第3配水管54によって接続される。
【0106】
また、耕作地200の最上部に設置された遮水部材12内に配設された有孔管24の上流側端部は、第1配水管28を介して、その遮水部材12よりも傾斜上側の地上に設置された給水タンク30に接続される。また、耕作地200の最下部に設置された遮水部材12内に配設された有孔管24の下流側端部は、第2配水管32を介して、その遮水部材12よりも傾斜下側の地上に設置された貯水タンク34に接続される。
【0107】
図14の実施例においても、図1の実施例と同様に、遮水部材12内に供給した水を保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水(水分)を毛細管現象によって土壌に供給するようにしているので、水位管理器等の特別な設備を用いなくても、各遮水部材12内に保持される水の量をほぼ均等に保つことができる。したがって、設備コストや維持管理コスト等が低減できる。
【0108】
さらに、傾斜地の傾斜に直交する方向に多少の起伏がある場合であっても、遮水部材12を地中に埋設する際に、施工現場で遮水部材12の正確な水平出しを行う必要がないので、システム10の施工性が向上する。
【0109】
また、このシステム10においても、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水や、有孔管24によって集水された遮水部材12内の余剰水を貯水タンク34内に貯留することができるので、水の無駄遣いを低減でき、水資源を効率的に利用することが可能である。
【0110】
さらにまた、傾斜に直交する方向に畝立てした耕作地200にシステム10を適用するのみならず、傾斜地に形成された段々畑や棚田などの平坦地部分の耕作地200にもシステム10を適用することが可能である。
【0111】
一例を挙げると、図15に示すシステム10のさらに他の実施例では、遮水部材12が段々畑の平坦地部分の耕作地200に沿うように水平に地中に埋設される。以下、先の実施例と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化する。
【0112】
図15に示すように、遮水部材12は、細長い溝状に形成され、その長手方向が段々畑の平坦地部分の耕作地200に沿うように地中に埋設される。そして、耕作地200の両端付近まで延びる遮水部材12が、所定の間隔を隔てて並ぶように配置される。遮水部材12内の底部には、保水部材14が設けられ、この保水部材14を介して(つまり、遮水部材12内の底部との間に保水部材14が介在された状態で)、有孔管24(給水部材16,集水部材36)が遮水部材12内に配設される。
【0113】
有孔管24の上流側端部は、第1配水管28を介して、耕作地200の地上に設置された給水タンク30に接続される。また、有孔管24の下流側端部は、第2配水管32を介して、耕作地200よりも下の段の平坦地部分に設置された貯水タンク34に接続される。なお、第2配水管32は、有孔管24から貯水タンク34への水の流れがスムーズになるように、有孔管24の下流側端部から貯水タンク34に向けてやや下り勾配になるように配管される。
【0114】
図15の実施例においても、図1の実施例と同様に、遮水部材12内に供給した水を保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水(水分)を毛細管現象によって土壌に供給するようにしているので、水位管理器等の特別な設備を用いなくても、各遮水部材12内に保持される水の量をほぼ均等に保つことができる。したがって、設備コストや維持管理コスト等が低減できる。
【0115】
さらに、段々畑の平坦地部分の耕作地200に多少の起伏がある場合であっても、遮水部材12を地中に埋設する際に、施工現場で遮水部材12の正確な水平出しを行う必要がないので、システム10の施工性が向上する。
【0116】
また、このシステム10においても、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水や、有孔管24によって集水された遮水部材12内の余剰水を貯水タンク34内に貯留することができるので、水の無駄遣いを低減でき、水資源を効率的に利用することが可能である。
【0117】
なお、上述の各実施例ではいずれも、底板18の両側端から側板20がやや外側に傾斜して立ち上がる細長い溝状の遮水部材12を例示しているが、これに限定される必要はなく、遮水部材12は、上側開口の容器状に形成されて貯水機能を有するものであれば、適宜の形状を適用可能である。
【0118】
たとえば、遮水部材12の上側(天端)の開口の幅を広げるようにすれば、その分だけ土壌に余剰に与えられた水が遮水部材12内に溜まりやすくなる。すなわち、遮水部材12の集水能力を増すことが可能であるので、水資源をより効率的に利用することが可能になる。また、遮水部材12の材質についても、合成樹脂や金属などに限定される必要はなく、遮水性を有する材質であれば適宜のものを適用可能である。
【0119】
図16および図17に示すシステム10のさらに他の実施例では、ゴムおよび合成樹脂などによって形成される遮水シート56を利用して遮水部材12を形成する。以下、先の実施例と同様の部分については、同じ参照番号を用い、その説明を省略或いは簡略化する。
【0120】
図16および図17に示すように、このシステム10では、傾斜を有する耕作地200の傾斜に沿って全面に広がるように、遮水シート56が耕作地200の地下に敷かれる。遮水シート56は、耕作地200の傾斜に直交する方向に凹凸を繰り返すように、波形状に(または、ジグザグ状に)に湾曲される。すなわち、遮水シート56には、耕作地200の傾斜方向に沿って延びる凹部58が、一定の間隔を隔てて並ぶように形成される。そして、このシステム10では、凹部58のそれぞれが遮水部材12として機能する。凹部58内の底部には、保水部材14が設けられ、この保水部材14を介して、有孔管24(給水部材16,集水部材36)が遮水部材12内に配設される。有孔管24の上流側端部は、第1配水管28を介して、給水タンク30に接続される。また、有孔管24の下流側端部は、第2配水管32を介して、貯水タンク34に接続される。
【0121】
このようなシステム10を耕作地200に形成する場合には、図18(a)に示すように、先ず、耕作地200の地面を掘削し、その底に耕作地200の傾斜に直交する方向に繰り返す凹凸部分60を形成する。そして、図18(b)に示すように、凹凸部分60の上側に遮水シート56を敷設する。すると、凹凸部分58の形状に合わせて遮水シート56が波形状に湾曲し、遮水シート56に凹部58が形成されるので、その凹部58内の底部に保水部材14を設け、保水部材14の上側に有孔管24を配設する。それから、掘削した地面を埋め戻す。
【0122】
このシステム10においても、凹部58内に供給した水を保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水を毛細管現象によって土壌に供給するようにしたため、図1のシステム10と同様に、作土層の水分量を可及的均等に保つことができる。また、水位管理器等の特別な設備を用いる必要もないので、設備コストや維持管理コスト等を削減できる。
【0123】
さらに、給水しきれずに有孔管24の内部に残った余剰水や、有孔管24によって集水された遮水部材12内の余剰水を貯水タンク34内に貯留することができるので、水の無駄遣いを低減でき、水資源を効率的に利用することが可能である。
【0124】
なお、遮水シート56は、必ずしも耕作地200の全面に設ける必要はなく、耕作地200の一部の範囲に形成することもできるし、耕作地200の地中に分散配置することもできる。また、図1の実施例と同じように、耕作地200の畝202ごとに遮水シート56を配置するようにしてもよい。
【0125】
また、必ずしも耕作地200の傾斜に直交する方向の全長に亘って遮水シート56に凹部58を形成する必要はなく、遮水シート56の一部に複数の凹部58を形成することもできる。つまり、遮水シート56の凹部58は、灌漑を行いたい必要な場所に設けてあればよく、遮水シート56は、凹部58が形成される波形状の部分の他に、凹部58が形成されない平面状の部分を有していてもよい。また、必ずしも耕作地200の傾斜方向に沿って延びる凹部58を形成する必要もない。
【0126】
さらにまた、上述の各実施例ではいずれも、遮水部材12内の底部の中央部、つまり底板18の幅方向の中央部に有孔管24が配設されたが、これに限定される必要はない。図19に示すシステム10のさらに他の実施例のように、有孔管24を底板18の幅方向の端で側板20に接するように配設してもよい。こうすることにより、システム10の施工時に有孔管24が上下方向ないし左右方向に位置ずれしにくくなり、有孔管24の位置決めを簡単かつ確実に行うことができるようになる。
【0127】
特に、保水力を有する土によって構成された耕作地200において、遮水部材12内の底部に耕作地200の土を充填し、遮水部材12内の底部に形成した土壌部50を保水部材14として用いるシステム10を施工する場合などには、有孔管24を底板18の幅方向の端で側板20に接するように配設することによって、施工性を向上させることができる。
【0128】
具体的には、本願出願人等は、平成24年2月23日付で特許出願された特願2012−037794号において、地下灌漑システムを耕作地に施工するための地下灌漑用部材(遮水部材12,給水部材16)の敷設装置を提案しているが、このような敷設装置200を利用してシステム10を施工する際などに、施工性を向上させることができる。
【0129】
以下には、図20および図21を参照して、敷設装置200を使用してシステム10を施工する方法を簡単に説明するが、このような敷設装置200を使用したシステム10の施工方法については、上述した特願2012−037794号において詳しく説明されているので、必要なら、この特許文献を参照されたい。
【0130】
先ず、耕作地200におけるシステム10の形成区間の一方端の地面を掘削して、耕作地200に立抗(図示せず)を設け、その立抗内に敷設装置204の本体部分206を配置する。
【0131】
次に、敷設装置200の第1ロール部208から引き出した合成樹脂シート210(遮水部材12)を溝形状に成形して立抗内に固定するとともに、合成樹脂シート210の上側に、第2ロール部212から引き出した可撓管214(有孔管24)を配設する。
【0132】
それから、合成樹脂シート210の先端部分と可撓管214の先端部分とを立抗内で固定した状態で、バックホーなどの作業機で牽引して敷設装置204を前進させることにより、立抗から本体部分206を耕作地200の地中に打ち込んで(挿入して)、地中で本体部分206を牽引方向に移動させる。
【0133】
すると、図21(a)に示すように、耕作地200の土が本体部分206によって上下に分断されて、地中に空隙216が形成される。そして、掘り起こした(耕した)土を本体部分16の内部に入り込ませて一旦持ち上げるとともに、図21(b)に示すように、空隙216に挟み込むようにして第1ロール部204から引き出した合成樹脂シート210を連続的に敷設する。そして、掘り起こした土を合成樹脂シート210の上側に埋め戻しつつ、合成樹脂シート210の上側に第2ロール部212から引き出した可撓管214を連続的に配設する。このとき、遮水部材12の底板18の幅方向の端に可撓管214を配設するようにしているので、掘り起こした土を埋め戻す際に、埋め戻す土が可撓管214に干渉することを可及的回避できる。
【0134】
これを耕作地200のシステム10の形成区間の他方端の地面に到達するまで行うことにより、耕作地200の地中に遮水部材12および有孔管24が埋設される。
【0135】
このように、遮水部材12の底板18の幅方向の端に有孔管24を配設するようにすれば、遮水部材12内の底部に耕作地200の土を充填し、遮水部材12内の底部に形成した土壌部50を保水部材14として用いるシステム10を施工する場合などに、有孔管24が埋め戻す土に干渉しにくくなる。したがって、たとえば大きい土塊なども有孔管24よりも下側に入り込みやすくなるので、遮水部材12内の底部に適切かつ確実に土を埋め戻すことが可能になる。
【0136】
さらに、上述の各実施例ではいずれも、有孔管24(給水部材16,集水部材36)を保水部材14に沿ってその上側に載置したり、有孔管24の全部または一部を保水部材14の中に埋め込んで配設したりしたが、これに限定される必要はなく、有孔管24を保水部材14から離間して設置するようにしてもよい。この場合であっても、上述したように、遮水部材12内に保水部材14を介して、つまり遮水部材12内の底部との間に保水部材14が介在された状態で有孔管24を配設するようにしていれば、システム10はその効果を発揮できる。
【0137】
一例を挙げると、図22に示すシステム10のさらに他の実施例では、遮水部材12内の底部のうち最も低い第1位置h1よりも段差状に高くなった第2位置h2の上側に有孔管24が載置される。
【0138】
図22に示すように、遮水部材12は、底板18の両側端から側板20がやや外側に傾斜して立ち上がる細長い溝状に形成され、その長手方向が耕作地200の傾斜に沿うように地中に埋設される。側板20のうち一方は、所定の高さで外側に屈曲して、そこに平坦な第2の底板60を形成する。第2の底板60は、遮水部材12内の底部のうち最も低い第1位置(高さ)h1の底板18よりも段差状に高くなった第2位置(高さ)h2に形成される。そして、第2の底板60に沿ってその上側に有孔管24が載置される。
【0139】
また、たとえば、このシステム10では、遮水部材12内の底部には、耕作地200の土が充填され、遮水部材12内の底部に形成された土壌部50が保水部材14として用いられる。そして、土壌部50つまり保水部材14の厚み(上下方向の長さ)は、第1位置h1から第2位置h2までの高さとほぼ同じかそれよりも低くなるように設定される。
【0140】
ここで、このようなシステム10を上述した敷設装置204を利用して施工する場合には、耕作地200の土が本体部分206によって分断されることにより、図23(a)に示すように、空隙216の下側の土(つまり、本体部分206によって掘り起こされていない土)には、遮水部材12の底板18が上側に載置される平面部分218が形成されるとともに、その第1平面部分218よりも所定高さ(第2位置h2と第1位置h1との高低差)高くなった位置に、第2の底板60が上側に載置される第2の平面部分220が形成されることとなる。それから、図23(b)に示すように、空隙216に挟み込むようにして遮水部材12を敷設し、掘り起こした土を遮水部材12の上側に埋め戻しつつ、遮水部材12の第2の底板60の上側に有孔管24を配設する。
【0141】
このように、図22に示すシステム10では、遮水部材12の最も低い第1位置h1よりも高い第2位置h2に第2の底板60を形成し、その第2の底板60の上側に有孔管24を載置するようにしているので、遮水部材12を挟んで掘り起こされていない(耕されていない)硬い土の上側に有孔管24を載置することが可能である。
【0142】
ここで、一度耕した土の上に有孔管24を配設すると、土が耕されたことで柔らかくなっているので、有孔管24や土の重量などで有孔管24の下の土、つまり土壌部50の土を圧縮して押しつぶして、有孔管24が下方に移動したりすることが懸念される。つまり、有孔管24の上下方向の位置が安定しないので、遮水部材12内の底部と有孔管24との距離が不均一になり、延いては、土壌部50に保水される水分量も不均一になってしまう。
【0143】
これに対し、この実施例のように、耕されていない土の上に遮水部材12を挟んで有孔管24を載置することによって、有孔管24の上下方向の位置決めを行うようにすれば、有孔管24の上下方向の位置を安定させることができるので、遮水部材12の傾斜上端から傾斜下端にかけて遮水部材12内の底部と有孔管24との距離を均一化させて、土壌部50に保水させる水分量も均一化させることができる。したがって、毛管水状態の土壌部38の水分量が偏ることがなく、作土層の水分量をより均等に保つことができるようになる。
【0144】
また、この実施例によれば、システム10の施工時に有孔管24の位置決めを簡単かつ確実に行うことができるようになる。
【0145】
なお、上では敷設装置200を利用してシステム10を施工した場合について説明したが、これに限定される必要はなく、トレンチャーなどの掘削用機械で地面を掘り起こし、そこに遮水部材12や有孔管24を設置した後で土を埋め戻す場合も同様である。
【0146】
また、図22の実施例では、遮水部材12の2つの側板20のうち一方の側板20を所定の高さで外側に屈曲させて第2の底板60を形成し、その第2の底板60の上に有孔管24を載置したが、これに限定される必要はない。底板18の第1位置h1よりも段差状に高くなった第2位置h2で上側に有孔管24を載置可能な部分(第2の底板60)を形成するのであれば、遮水部材12の形状は特に問わない。たとえば、図24に示すように、底板18の幅方向の中央部を段差状に立ち上げて、そこに第2の底板60を形成し、その第2の底板60の上に有孔管24を載置するようにしてもよい。
【0147】
ところで、上述の各実施例ではいずれも、遮水部材12内に供給した水を保水部材14に吸収させて、保水部材14が保水した水を毛細管現象によって土壌に供給するようにしているので、遮水部材12が傾斜して埋設されていても、毛管水状態の土壌部32の水分量が偏ることがなく、また、水位管理器等の特別な設備を用いなくても、遮水部材12内に保持される水の量をほぼ均等に保つことができた。
【0148】
しかしながら、傾斜上端側(つまり、有孔管24の上流側)で遮水部材12内の底部に溜まった水と同量の水が、傾斜下端側(つまり、有孔管24の下流側)で遮水部材12内の底部に溜まるまでにはどうしても時間差が生じてしまうので、遮水部材12の傾斜上端側では土壌部50が十分な水量を含んでいても、遮水部材12の傾斜下端側では土壌部50が含む水量が不足するという事態が発生することがある。
【0149】
特に、たとえば粘性が非常に高い(粘土質の)土によって耕作地200が構成されている場合などには、遮水部材12内の底部に形成した土壌部50を保水部材14として用いるようにすると、土の性質上、有孔管24から遮水部材12の内部に供給された水が土中に浸み込む速度が遅くなることにより、遮水部材12の傾斜上端側と傾斜下端側との水量の差が顕著になる。
【0150】
そこで、図25に示すシステム10のさらに他の実施例では、遮水部材12の傾斜下端に土壌部50の重力水の水位を検知する水位検知手段62を設置するとともに、その水位検知手段62の検知結果に基づいて、給水部材16から保水部材14への給水を給水制御手段64により制御することによって、遮水部材12の傾斜上端側と傾斜下端側とで土壌部50が含む水量、つまり土壌部50の重力水の水位を均一化させるようにしている。
【0151】
図25に示すように、遮水部材12は、底板18の両側端から側板20がやや外側に傾斜して立ち上がる細長い溝状に形成され、その長手方向が耕作地200の傾斜に沿うように地中に埋設される。そして、耕作地200の両端付近まで延びる遮水部材12が、所定の間隔を隔てて並ぶように配置される。
【0152】
たとえば、この実施例では、遮水部材12内の底部に耕作地200の土が充填され、そこに形成された土壌部50が保水部材14として用いられる。また、保水部材14を介して、遮水部材12内に有孔管24(給水部材16,集水部材36)が配設される。
【0153】
有孔管24の下流側端部は、詳細は後述する水位検知手段62を介して、第2配水管32に接続され、第2配水管32の下流側端部は、貯水タンク34に接続される。また、有孔管24の上流側端部は、第1配水管28を介して、耕作地200の地上に設置された給水タンク30に接続され、第1配水管28と給水タンク30との接続部には、水位検知手段62の検知結果に基づいて作動する給水制御手段64が設けられる。
【0154】
図26に示すように、水位検知手段62は、縦管部材66および水位検知器68を含み、遮水部材12の傾斜下端と隣接するように耕作地200の地中に埋設される。
【0155】
縦管部材66は、塩化ビニルなどの合成樹脂からなり、鉛直方向に立ち上がる側壁66aの下端に底板66bが設けられた有底円筒状に形成され、その底板66bが遮水部材12の傾斜下端の底板18よりも低い位置(高さ)になるように配置される。側壁66aには、遮水部材12の傾斜下端と連通する流入口70が形成されている。流入口70は、遮水部材12に対応した略台形の開口であって、この流入口70に遮水部材12の傾斜下端が差し込まれる(接合される)。このため、縦管部材66の内部の水位は、遮水部材12の傾斜下端の土壌部50の重力水の水位と連動している。
【0156】
また、遮水部材12と縦管部材66との接合部では、有孔管24の外側であってかつ遮水部材12の内側に、フィルター72が設けられており、このフィルター72によって、遮水部材12の内部の泥などが縦管部材66の内部に侵入することが防止されている。
【0157】
さらに、縦管部材66の側壁66aには、遮水部材12の傾斜下端の土壌部50の重力水の設定水位(土壌部50の重力水の適正な水位)Wに対応した位置に流出口74が形成される。たとえば、この実施例では、土壌部50の重力水の設定水位Wは、遮水部材12内に配設された有孔管24の管底の高さ位置と等しくなるように設定されており、流出口74は、その下端の高さが土壌部50の重力水の設定水位Wと等しくなる位置に配置されている。ただし、これに限定される必要はない。そして、流出口74には、第2配水管32が接続され、第2配水管32の下流側端部は、貯水タンク34に接続される。
【0158】
また、水位検知器68は、遮水部材12の傾斜下端の土壌部50の重力水の水位、つまりそれに連動した縦管部材66の内部の水位を検知する。たとえば、この実施例では、水位検知器68は、汎用の水位調整可変式ボールタップ68aを有し、このボールタップ68aによって縦管部材66の内部の水位が設定水位Wに対して高いか低いかを検知する。そして、縦管部材66の内部の水位が設定水位Wよりも高くなった時に、給水制御手段64にたとえばパイロット圧や電気信号などの制御信号を伝達する。
【0159】
図25に戻って、給水制御手段64は、給水タンク30と第1配水管28との間に設けられるパイロット弁や電磁弁などであって、縦管部材66の内部の水位が設定水位Wよりも高くなったという制御信号が水位検知器68から伝達されたときに、その制御信号に基づいて、給水タンク30から第1配水管28への給水を停止させる。
【0160】
なお、給水タンク30から第1配水管28への給水の開始のタイミングについては、上述の各実施例と同様に、タイマ等を利用して、所定の時間帯に自動的に給水タンク30から水が供給されるようにしたり、栽培作物の生理的状況をモニタリングして水分を補給するようにしたりして行う。ただし、それに代えて、縦管部材66の内部の水位が設定水位Wよりも低くなった時に、給水タンク30から第1配水管28への給水が自動的に開始されるようにし、縦管部材66の内部の水位が設定水位Wよりも高くなった時に、給水タンク30から第1配水管28への給水が自動的に停止されるようにしてもよい。
【0161】
このようなシステム10では、灌漑時には、有孔管24から遮水部材12内に給水される水は、有孔管24の上流側から下流側に向けて徐々に遮水部材12内で土壌部50に吸収される。そして、遮水部材12の傾斜下端において、有孔管24の給水した水が土壌部50に吸収されると、その土壌部50の重力水の水位を水位検知手段62によって検知し、その水位が設定水位Wよりも高い時に、給水タンク30から第1配水管28への給水を停止させる。
【0162】
すなわち、図25の実施例では、遮水部材12の傾斜下端の土壌部50の重力水の水位を基準として有孔管24への給水を制御するようにしているので、仮に粘性が非常に高い土によって耕作地200が構成されている場合などでも、遮水部材12の傾斜下端側で土壌部50が含む水量が不足してしまうことがない。したがって、遮水部材12の傾斜上端から傾斜下端に亘って土壌部50の重力水の水位を均一化させることができるようになる。
【0163】
さらに、給水開始後、有孔管24の給水した水が遮水部材12の傾斜上端から傾斜下端までの土壌部50全体に給水された時点、つまり遮水部材12の傾斜下端の土壌部50の重力水の水位が設定水位Wよりも高くなった時点で給水タンク30から第1配水管28への給水を停止させるようにしているので、給水量の過不足を防止することができる。そして、過剰な給水や、システム10より下流側への水の無駄な放流を防止できるので、水資源を無駄にしてしまうこともない。
【0164】
なお、必ずしも給水タンク30と第1配水管28との間に給水制御手段64を設ける必要はなく、第1配水管28の流路の途中や、第1配水管28と有孔管24との接続部分に給水制御手段64を設けるようにしてもよい。要は、水位検知手段62の検知結果に基づいて有孔管24から遮水部材12内への給水を制御することができればよい。
【0165】
また、水に混じった泥が縦管部材66の底部に溜まっていくことで、縦管部材66内の水位が遮水部材12の傾斜下端の土壌部50の重力水の水位と連動しなくなってしまうことを防止するために、縦管部材66の底部に泥排出手段を設け、この泥排出手段によって定期的に縦管部材66の底部に溜まった泥を排出するようにしてもよい。
【0166】
そのような泥排出手段の一例として、図27に示すように、縦管部材66の底部に上下動可能ないし取り外し可能な板部材76を設置するようにしてもよい。たとえば、板部材76は、その上端が設定水位W、つまり遮水部材12の傾斜下端の有孔管24の管底の高さ位置と等しくなるようにされ、流出口74の下に設けられる。そして、必要に応じて板部材76を上に移動させるないし取り外すことによって、縦管部材66の底部と第2配水管32とを連通させて、縦管部材66の底部に溜まった泥を第2配水管32に排出する。
【0167】
さらに、図25の実施例では、水位検知手段および給水制御手段を設けたシステム10を傾斜を有する耕作地200に適用して、耕作地200の地中に遮水部材12を傾斜させて設置するようにしたが、これに限定される必要はない。水位検知手段および給水制御手段を設けたシステム10を傾斜に直交する方向に畝立てした耕作地200や、傾斜地に形成された段々畑や棚田などの平坦地部分の耕作地200に適用して、耕作地200の地中に遮水部材12を水平または略水平に設置するようにしてもよい。こうすることにより、遮水部材12を地中に埋設する際に、施工現場で遮水部材12の正確な水平出しを行う必要がなくなり、施工性が向上する。ただし、この場合には、上述した“遮水部材12の傾斜上端側”を“有孔管24の上流端側”として、また、“遮水部材12の傾斜下端側”を“有孔管24の下流端側”として、システム10を構築するようにする。
【0168】
さらにまた、システム10を傾斜に直交する方向に畝立てした耕作地200や、傾斜地に形成された段々畑や棚田などの平坦地部分の耕作地200に適用して、耕作地200の地中に遮水部材12を水平または略水平に設置する場合には、必ずしも水位検知手段を遮水部材12の傾斜下端に設置する必要はなく、水位検知手段および給水制御手段をともに遮水部材12の傾斜上端に設けるようにしてもよい。
【0169】
一例を挙げると、図28に示すシステム10のさらに他の実施例では、遮水部材12は、底板18の両側端から側板20がやや外側に傾斜して立ち上がる細長い溝状に形成され、その長手方向が水平または略水平になるように耕作地200の地中に埋設される。そして、耕作地200の両端付近まで延びる遮水部材12が、所定の間隔を隔てて並ぶように配置される。
【0170】
たとえば、この実施例では、遮水部材12内の底部に耕作地200の土が充填され、そこに形成された土壌部50が保水部材14として用いられる。また、保水部材14を介して、遮水部材12内に有孔管24(給水部材16,集水部材36)が配設される。
【0171】
有孔管24の下流側端部は、第2配水管32に接続され、この第2配水管32が貯水タンク34に接続される。また、有孔管24の上流側端部には、図29に示すように、縦管部材78が接合され、この縦管部材78の内部に、水位管理器80が設置される。
【0172】
縦管部材78は、分岐継手82と立ち上がり管84とを含み、地中に埋設される。分岐継手82は、塩化ビニルなどの合成樹脂からなり、3方向へ向けて受口86が形成されたチーズ形状に形成され、それぞれの軸線が互いに一致する受口86aおよび86bならびにその軸線が受口86aおよび86bの軸線と直交する受口86cを有している。分岐継手82の受口86aには、この受口86aを封止する蓋体88が設けられ、受口86bには、径違いソケット(インクリーザ)90などを介して、有孔管24が接続される。なお、径違いソケット90と有孔管24との接合部では、有孔管24の外側であってかつ遮水部材12の内側に蓋体が設けられており、この蓋体によって、有孔管24から遮水部材12内に給水した水が遮水部材12の外部にこぼれてしまうことが防止されている。
【0173】
さらに、分岐継手82の受口86cには、立ち上がり管84が接続される。立ち上がり管84は、塩化ビニルなどの合成樹脂によって両端開口の円筒状に形成され、分岐継手82から地表面まで立ち上がる。立ち上がり管84の上端開口の上方には、給水タンク30に接続された第1給水管92の端部が配置され、この第1給水管92は、主として最初に遮水部材12内に土壌部50を形成する時など、多量の水を遮水部材12内に供給する際に利用される。また、立ち上がり管84の内部には、給水タンク30に接続された第2給水管94が挿入され、この第2給水管94は、主として遮水部材12内に形成した土壌部50の水位管理を行う際に利用される。
【0174】
また、水位管理器80は、水位検知手段ならびに給水制御手段として機能し、遮水部材12の内部の土壌部50の重力水の水位を検知して、その検知結果に応じて遮水部材12の内部への給水を制御するものである。このような簡易型の水位管理器80については、本願出願人等が先に出願した特開2010−029072号において詳しく説明されているので、必要なら、この特許文献を参照されたい。
【0175】
水位管理器80について簡単に説明すると、水位管理器80は、縦管96を含み、縦管96内の水位に応じて水の供給を調整する。縦管96は、塩化ビニルなどの合成樹脂によって両端開口の円筒状に形成され、縦管部材78の底部に立設される。縦管部材78縦管96の側壁の底部には、開口98が形成され、その開口98は、縦管96内の水を外部に流入・流出させる出入口となる。
【0176】
さらに、縦管96の内部には、水位設定具100およびフロート102が設けられる。図30に示すように、水位設定具100は、縦管96内に配置されて、その配置高さに基づいて縦管96内の水位設定値を規定するものであり、縦管96内で土壌部50の重力水の設定水位の位置(高さ)に固定される。つまり、詳細は後に説明するように、縦管96内の水位が重力水の設定水位になったときに、フロート102が上昇してその上面102a第2給水管94の端に当接し、給水口106が閉じられるような位置に水位設定具100が固定される。水位設定具100は、有底円筒状に形成され、その外径は、縦管96内の所望の位置(高さ)に配置可能な程度に、縦管96の内径とほぼ同じに設定される。また、水位設定具100の底面には、貫通孔104が形成される。
【0177】
また、縦管96の上端開口には、上述した第2給水管94の端部が挿入され、第2給水管94は、さらに水位設定具100の貫通孔104に挿通されて、水位設定具100から下方に向かって突出するように固定される。第2給水管94の端は、後述するフロート102の上面102aと当接する弁座として機能し、その開口は、縦管96内に水を供給する給水口106となる。
【0178】
フロート102は、ゴム等の弾性材および合成樹脂などによって中空円柱状に形成され、水位設定具100の下方に配置されて、縦管96内の水位変動に応じて上昇および下降し、その上面102aは、弁座と当接して給水口106を閉じる弁体としても機能する。ただし、フロート102の上面102aにおいて、少なくとも弁座と当接する部位は、フロート102の上昇する力が弱い場合でもフロート102の上面102a(弁体)と第2給水管94の端(弁座)とが隙間無く接触して、給水口106を適切に閉じることができるように、ゴム等の弾性材によって形成すると好適である。
【0179】
このようなシステム10では、システム10の施工後に、第1給水管92から縦管部材78の内部に給水し、縦管部材78から有孔管24に水を供給する。有孔管24に供給された水は、土中を浸透していき、重力水となって遮水部材12内に留まる。これによって、遮水部材12内に重力水状態の土壌部50が形成される。
【0180】
そして、遮水部材12内の底部の全長に亘って土壌部50が形成されると、第1給水管92からの給水を停止して、それから、水位管理器80によって土壌部50の重力水の水位を管理する。具体的には、図30(a)に示すように、第2給水管94を流れる水は、縦管96内に流入する。そして、縦管96内に流入した水は、開口98を通って縦管96の外部、つまり縦管部材78の内部に流出し、その水が縦管部材78から有孔管24に供給される。
【0181】
つまり、遮水部材12の土壌部50の重力水の水位Wと縦管96内の水位とは連動しており、土壌部50の重力水の水位が設定水位に達すると、図30(b)に示すように、給水口106が閉じられて、第2給水管94から縦管96内への給水が停止される。また、土壌部50の重力水が上側の土壌に吸い上げられて、重力水の水位が設定水位よりも低下すると、図30(a)に示すように、給水口106が開かれて、第2給水管94から縦管96内への給水が行われる。
【0182】
なお、図28のシステムでは、遮水部材12の外側に縦管部材78を設置し、その中に水位管理器80を設置するようにしたが、これに限定される必要はなく、遮水部材12の内部に水位管理器80を直接設置するようにしてもよい。
【0183】
また、必ずしも上述したような水位管理器80を用いる必要はなく、図25の実施例で使用した水位調整可変式ボールタップならびにパイロット弁などを水位管理器として利用してもよい。要は、水位検知手段と給水制御手段とを備える任意の水位管理手段を適用することができる。
【0184】
さらにまた、図25の実施例ならびに図28の実施例では、遮水部材12内の底部に耕作地200の土が充填され、そこに形成された土壌部50が保水部材14として用いられた。そして、水位検知手段は土壌部50の重力水の水位を検知したが、これに限定される必要はなく、保水部材14には、汎用の保水剤や、そのような保水剤と土とを混合した混合物を用いるようにしてもよく、その保水部材14が保有する水の水位を検知すればよい。
【0185】
なお、上述の各実施例ではいずれも、有孔管24を余剰水を集水するための集水部材36として兼用し、有孔管24によって集水した遮水部材12内の余剰水を第2配水管32を介して貯水タンク34に排出するようにしたが、それに加えて、有孔管24の上に疎水部108を形成し、この疎水部108ならびに有孔管24を集水部材36として機能させるようにしてもよい。
【0186】
一例として、疎水部108は、図31に示すように、石骨材などの無機質系材料や、もみ殻、木材チップ、貝殻、発泡スチロール等の周知の暗渠疎水材を成型することによって略直方体状に形成され、有孔管24の上に隣接して地中に埋設される。こうすることにより、耕作地200の地中から疎水部108の中へ滲みだした水が集められ、その水が有孔管24の上側の貫通孔26から有孔管24の内部に移動する。そして、有孔管24の中を流れた水が第2配水管32に流入し、貯水タンク34に排出される。
【0187】
また、必ずしも有孔管24と疎水部108とを別個に設ける必要はなく、図32に示すように、有孔管24の断面形状を上下方向に長い楕円形または楕円近似形のリング状になるように形成し、その上部の空間を疎水部38として機能させるようにしてもよい。
【0188】
なお、上述した径や高さ等の具体的数値は、いずれも単なる一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0189】
10 …地下灌漑システム
12 …遮水部材
14 …保水部材
16 …給水部材
24 …有孔管
38 …毛管水状態の土壌部
46 …仕切り部
50 …毛管水状態または重力水状態の土壌部
62 …水位検知手段
64 …給水制御手段
80 …水位管理器
200 …耕作地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に傾斜させて埋設される遮水部材、
前記遮水部材内の少なくとも底部に設けられる保水部材、および
前記保水部材を介して前記遮水部材内に配設され、給水源から供給された水を前記保水部材に給水する給水部材を備える、地下灌漑システム。
【請求項2】
前記給水部材よりも下流側に設けられ、前記給水部材の内部の余剰水が流入する貯水手段をさらに備える、請求項1記載の地下灌漑システム。
【請求項3】
前記貯水手段によって貯水した水を前記給水源に戻す循環手段をさらに備える、請求項2記載の地下灌漑システム。
【請求項4】
前記給水部材は、管壁に形成される複数の貫通孔を有する有孔管を含み、
前記有孔管は、前記遮水部材の内部の余剰水を集水する集水部材として兼用され、この集水部材によって集水された余剰水が前記貯水手段に排出される、請求項2または3記載の地下灌漑システム。
【請求項5】
上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に埋設される遮水部材、
前記遮水部材内の少なくとも底部に設けられる保水部材、
前記保水部材を介して前記遮水部材内に配設され、給水源から供給された水を前記保水部材に給水する給水部材、および
前記給水部材から前記保水部材に給水された水の水位を検知する水位検知手段、および
前記水位検知手段の検知結果に基づいて前記給水部材から前記保水部材への給水を制御する給水制御手段を備える、地下灌漑システム。
【請求項6】
前記遮水部材は、前記耕作地の地中に傾斜させて埋設され、
前記水位検知手段は、前記遮水部材の傾斜下端に設置され、
前記給水制御手段は、前記水位検知手段の検知結果に基づいて前記給水部材から前記保水部材への給水を停止させる給水停止手段を含む、請求項5記載の地下灌漑システム。
【請求項7】
上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に傾斜させて埋設される遮水部材、
前記遮水部材内の少なくとも底部に設けられる保水部材、および
前記遮水部材内の底部との間に前記保水部材を介在させた状態で前記遮水部材内に配設され、給水源から供給された水を前記保水部材に給水する給水部材を備える、地下灌漑システム。
【請求項8】
前記耕作地の地中において、耕していない土の上に前記遮水部材を挟んで前記給水部材を載置することによって前記給水部材の上下方向位置を位置決めするようにした、請求項7記載の地下灌漑システム。
【請求項9】
前記遮水部材内の底部のうち最も低い第1位置よりも段差状に高くなった第2位置の上側に前記給水部材を載置するようにした、請求項8記載の地下灌漑システム。
【請求項10】
前記遮水部材内の底部を当該遮水部材の設置方向に所定の間隔を隔てて仕切る仕切り部をさらに備える、請求項1ないし9のいずれかに記載の地下灌漑システム。
【請求項11】
前記保水部材は、前記耕作地の土を含む、請求項1ないし10のいずれかに記載の地下灌漑システム。
【請求項12】
前記給水部材は、前記遮水部材の内部の余剰水を集水する集水部材として兼用される有孔管を含み、この有孔管の上側に疎水部が設けられる、請求項1ないし11のいずれかに記載の地下灌漑システム。
前記給水部材
【請求項13】
上側開口の容器状に形成され、耕作地の地中に埋設される遮水部材、および
前記遮水部材内の底部に設けられる保水部材、
前記遮水部材内に前記保水部材を介して配設され、給水源から供給された水を前記保水部材に給水する給水部材を備える、地下灌漑システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−39125(P2013−39125A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−154416(P2012−154416)
【出願日】平成24年7月10日(2012.7.10)
【出願人】(596029085)株式会社パディ研究所 (28)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)