説明

地中内構造物の構造、およびその施工方法

【課題】道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の施工時の地表面側の地盤沈下の抑制を薬液注入工法によらずに行う。
【解決手段】道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の施工で、施工する地中内に空間を形成する地中内構造物の上面側の両側面側に沿って、地表面側に向けて、板状部材530を埋設する板状部材埋設工程を設ける。かかる板状部材530を埋設することで、例えば補助工法としてのパイプルーフ工法で施工する際の周辺地盤の崩壊を抑制して、地表面側の沈下抑制を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中内に構造物を施工する際の地表面側の沈下を抑制する技術に関する。特に、道路・線路等の比較的に浅い深度での地下を横断する構造物の施工時に適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
道路・線路下横断構造物を構築する場合は、まず、道路・線路の脇に発進・到達縦坑を施工する。併せて、道路・線路下に横断構造物を施工する際の影響(地盤掘削による影響)を低減するため、補助工法を施工する。かかる補助工法には、地盤の剛性を上げるためのパイプルーフ工法、地盤改良などのために行う薬液注入工法等が適用される。
【0003】
パイプルーフ工法は、地上の建物や通路、鉄道などの構造物の直下にトンネルを建設する場合、それらの構造物が地盤沈下による破損、倒壊などの事故発生の原因となるのを防ぐため、防護工を施工するものである。例えば、特許文献1、2に記載がある。
【0004】
かかる工法では、防護を必要とする対象構造物の直下に上載荷重に適応できる鋼管を、場合によっては溶接で継ぎ足しながら油圧作動の掘進機を使って所定の長さ、幅、奥行きにわたって施工する。かかる鋼管内部には、例えば、生コンクリート・モルタル・セメン
を充填している。これにより、地中内の下方から地上部の構造物を支えるように防護する工法である。施工に際しては、例えば小口径推進工法の一つであるホリゾンタルオ−ガ工法等が適用される。
【0005】
一方、薬液注入工法は、地盤中の空洞、間隙、割れ目等にセメントミルクあるいは水ガラス系のグラウトを注入し、止水性の向上や地盤の強化を図る工法である。すなわち、掘削予定の周辺地盤を改良するものである。かかる工法については、例えば、特許文献3、4に記載がある。
【0006】
かかる補助工法の施工後、前記発進縦坑下部に横断工用のガイド導坑を施工する。併せて、発進縦坑側に反力壁を施工する。反力壁の施工後、横断工の躯体を構築し、ジャッキで推進しながら先端の刃口で掘削しながら徐々に施工し、到達縦孔側に貫通させて、横断構造物を施工する。
【特許文献1】特開平05−071292号公報
【特許文献2】特開2007−262680号公報
【特許文献3】特開2001−193383号公報
【特許文献4】特開2004−238981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く、道路・線路下横断構造物等のように比較的深度が浅い地中内にトンネル構造のものをつくるに際しては、実際の掘削を始める前に、パイプルーフ工法、あるいは薬液注入工法、あるいは両者を補助工法として併用する。しかし、これら補助工法のうち、薬液注入工法は、ときとして、地表側の既存構造物に被害を与える場合がある。
【0008】
例えば、地盤中に間隙が少なく透水性が悪い地盤(粘性土地盤)では、薬液の注入によって間隙水圧が上昇する。そのため、場合によっては、地盤が局部せん断破壊を起こす。局部せん断破壊の間隙に注入材が浸透して、割裂注入となることがある。このように割裂注入が発生すると、道路あるいは軌道を持ち上げ、車両や列車走行に支障をもたらす。併せて、不完全な注入箇所を作り周辺地盤の改良目的が達成できないのである。
【0009】
特に、薬液注入による地盤改良では、薬液の注入範囲が不明瞭なことと、注入圧による路面隆起抑制のため、注入圧がさほどあげられないことにより地盤改良の効果が小さいことも指摘されている。
【0010】
一方、地盤の剛性を上げる目的で行うパイプルーフ施工時には、パイプを通す孔を少し大きめに掘削するため、その分周辺土砂が崩れ、どうしても地表面沈下が少なからず発生する。かかる地盤沈下を、従来は薬液注入工法で抑えていた。しかし、上記のような不都合が発生する虞があった。そこで、薬液注入工法による地盤改良に基づくことなく、地盤沈下の抑制が図れる方法の開発が必要と、本発明者は考えた。
【0011】
本発明の目的は、道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の施工時の地表面側の地盤沈下の抑制を薬液注入工法を用いずに行うことにある。
【0012】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
本発明の地中内構造物の構造は、道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の構造であって、地中内に空間を形成する地中内構造物の上面側の両側面側に沿って、地表面側に向けて、板状部材が埋設されていることを特徴とする。かかる構成において、前記板状部材の間には、パイプルーフが設けられることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記地中内構造物、あるいは前記パイプルーフ、あるいは前記地中内構造物と前記パイプルーフは、予め施工予定前で、前記板状部材のみが埋設されていることを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記地中内構造物は、既設の前記道路・線路等の地表側通行路の下を横断することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の地中内構造物の施工方法は、道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の施工方法であって、地中内に空間を形成する地中内構造物の上面側の両側面側に沿って、地表面側に向けて、板状部材を埋設する板状部材埋設工程を有することを特徴とする。かかる構成において、前記板状部材埋設工程の後に、パイプルーフを埋設するパイプルーフ埋設工程を有することを特徴とする。かかる構成において、前記板状部材は、ワイヤーソーにより掘削された地中内の孔に埋設されることを特徴とする。かかる構成において、前記パイプルーフ埋設工程の後に、前記地中内構造物の施工を行うことを特徴とする。以上いずれかの構成において、前記地中内構造物は、既設の前記道路・線路等の地表側通行路の下を横断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0017】
本願発明においては、板状部材が埋設されているため、その後のパイプルーフ工法あるいは地中内構造物の施工においては、周辺地盤の崩壊による地盤沈下が抑制できる。そのために、従来のように薬液注入工法を用いなくても、極めて簡単に、且つ、低コストで、的確に地表面側の沈下抑制を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
本発明は、地中内構造物の構造、及びその施工方法に関するものである。特に、道路・線路下横断構造物等に適用して有効なものである。さらには、深度が地表側から少なくとも3m以下の浅い深度での横断用の地中内構造物に適用して特に有効である。深度が3mよりも深い箇所では、通常、周辺地盤の沈下に実質的に与える影響は少ない。
【0020】
本発明の特徴点の一つは、上記地中内構造物の施工に際して、予め地中内構造物の施工予定区域に、板状部材を埋設しておくことである。かかる板状部材を埋設することで、その後の補助工法、地中内構造物の施工等に際して、地中内の土砂崩落現象等を抑制して、地表面側の地盤沈下を抑制することができる。特に、砂質の場合に、顕著にその効果が確認できる。道路や、線路等では、砂質の盛土が多用されているため、かかる砂質の盛土を用いた道路、線路等の下を横断する地中内構造物の施工には有効である。
【0021】
すなわち、道路や、電車等の線路等の地表側通行路等では、一般に砂質の盛土がなされている。かかる砂質の盛土は崩落し易い。しかし、本発明は、かかる交通路の下側を横断する形で、地中内に通行路を設ける際に有効に適用できる。崩落し易い砂質土壌でも、効果的にその崩落を抑制して、平常交通を妨げることなく地中内構造物の施工が行えるのである。
【0022】
また、本発明は、実際には、地中内構造物の施工予定段階で、予め、板状部材を地中内構造物の施工予定区間に合わせて埋設しておいても構わない。その場合には、板状部材部材のみが埋設されているという極めて特異な構造を形成することとなる。
【0023】
以下、実施の形態1でその構造について、実施の形態2でその構造の施工方法について、詳細に説明する。説明に際しては、自動車の通行可能な道路下を、自動車の通行可能な道路が横断する構成を例に挙げて説明する。例えば、地中内構造物は、図1に示すような、完成イメージである。地表側を自動車の通行可能な既設の道路100が設けられている。かかる道路100の下側の地中内を横断的に掘削して、自動車の通行可能な道路200が設けられている。すなわち、地表面側に設けられた道路100と、道路100の下方の地中内を貫通して横断道路200が交差しているのである。
【0024】
尚、以下の実施の形態では、上記の如く、自動車の通行可能な道路100、200同士が地中内で交差する場合を例に挙げて説明するが、しかし、本発明の適用は、かかる例に限定されるものではない。すなわち、上記交差する道路の少なくとも一方が、自動車の通行不能な人専用の道路でも構わない。あるいは、線路が敷設された鉄道であっても構わない。あるいは、人と自動車、あるいは人と自動車と鉄道等が、それぞれ併用可能な道路であっても構わない。
【0025】
(実施の形態1)
上記図1に示す構成の地中内で交差する2本の道路100、200は、元々は、地表面側に道路100が設けられていたものである。かかる既設の道路100に対して、後に必要が生じ、既設の道路100の下をくぐる形で、地中内を貫通させて道路200を設けたものである。かかる道路200を横断方向に設けるに際しては、極力、道路100からの深度が浅いところを通すことが求められる。より深い深度であれば、それだけ掘削に係る費用、期間の問題等がかさむこととなる。そこで、現実的には、より浅い深度での掘削が求められるのである。例えば、通常は、地表面側から1〜3m程度の事例が多い。尚、図1では、道路200を、道路下横断構造物として捉えている。
【0026】
かかる道路200は、図2の道路下横断構造物施工状況の斜視図に示すように、地表面上に設けられた既設の道路100を挟んで縦坑を掘削する。一方は発進縦坑300であり、他方は到達縦坑400である。発進縦坑300から、到達縦坑400に向けて、すなわち道路100を横断する方向に下の地中内を掘削して、例えばコンクリート製のケーシング510を地中内構造物500の横断工躯体として設ける。かかるケーシング510内が、通行可能に構成される。
【0027】
また、図3(a)に示すように、補助工法として、パイプルーフ工法によりパイプルーフ520がケーシング510の上面側に設けられている。さらに、本発明に係る板状部材530は、ケーシング510の上面510aの位置から地表面側に向けて設けられている。ほぼ鉛直方向に向けて設けられている。かかる板状部材530は、ケーシング510の側面510b側に沿って設けられている。図2の斜視図では、分かり易いように、地中内構造物500を構成するケーシング510、パイプルーフ520、板状部材530は、一部のみ図示した。
【0028】
尚、ケーシング510を、予定方向に埋設するために、ケーシング510の底面510cの両端には、図3(a)に示すように、ガイド孔510dが予め設けられている。
【0029】
かかる地中内構造物500は、図3(a)に示すように、四角の筒型に形成されたケーシング510が、筒方向を道路100の横断方向に向けて埋設されている。かかるケーシング510の上面510aの上方には、パイプルーフ520が埋設されている。かかるパイプルーフ520は、例えば、図3(a)に示すように、上面510aに合わせて複数本設けられている。パイプルーフ520を構成する複数本のパイプ520aは、例えば鋼管等に形成され、図3(b)に示すように、ケーシング510の奥行き方向に合わせて設けられている。
【0030】
また、ケーシング510の上面510aの両端側には、複数本のパイプ520aから構成されたパイプルーフ520を挟むように、板状部材530が設けられている。板状部材530は、例えば図3(a)に示す場合には、下端側が上面520aの端から、上端側が地表面上に向けて埋設されている。かかる板状部材530は、図3(b)に示すように、小片530aが、複数枚連接して埋設されている。すなわち、小片530aに形成された板状部材530を、順次その端面同士が合わせられるようにして、ケーシング510の筒方向に押し込められている。
【0031】
例えば、図3(b)に示す場合には、4枚の小片530aが連接して埋設され、板状部材530が構成されている。勿論、板状部材530は、複数枚の小片530aから構成することなく、可能ならば一枚構成であっても構わない。板状部材530は、図3(a)に示す場合には、鉛直方向に埋設されているが、図3(c)、(d)に示すように、斜め上方等の地盤の崩壊が阻止できる範囲で、多少斜めに埋設しても構わない。
【0032】
かかる板状部材530の埋設には、例えば、ワイヤーソーを用いて肉圧の薄い孔をケーシング510の筒方向に向けて開けておき、その孔内に順次小片530aをその端面同士を合わせるようにして入れるようにすればよい。このように孔を先に切ってから入れるので、入れる方向が真っ直ぐにすることができる。また、入れるに際しては、孔は板状部材530の端面にほぼ合わせた大きさであるので、ジャッキ等を用いて押し込めるようにして入れることが必要である。
【0033】
かかる板状部材530は、パイプルーフ520のパイプ520aの埋設に際しての周辺土壌の崩壊を阻止する目的で設けられている。そこで、パイプルーフ520を設けることなく、ケーシング510を地中内に埋設する場合でも、その埋設に際しての周辺土壌の崩壊を阻止する目的で、板状部材530を埋設しても勿論構わない。
【0034】
また、周辺地盤の崩壊が阻止できる範囲内で、板状部材530の厚み、大きさ等は適宜に設定すればよい。また、埋設方向も、前述の如く、鉛直方向に限定されるものではなく、多少鉛直方向からずれても構わない。要は、周辺地盤の崩壊が効果的に阻止できればよいのである。
【0035】
また、図3(a)、(b)に示す場合は、上記説明の如く、板状部材530は、パイプルーフ520、ケーシング510と一緒に埋設されている状況を示した。しかし、予め、板状部材530のみ、埋設しておく方法も考えられる。例えば、図4(a)〜(c)に示すように、既設道路100の下方の地中内に板状部材530のみ埋設されている構造でも構わない。図4(a)に示す場合には、道路100側から地中内の板状部材530の埋設状況を平面的にみた場合を示している。
【0036】
図4(b)では、図4(a)のA−A線で示した断面方向での板状部材530の埋設状況を示している。図4(c)は、図4(b)のB−B線での断面方向での板状部材530の埋設状況を示している。図4に示す板状部材530は、その後にパイプルーフ520、ケーシング510を設けて道路100の下を横断する地中内構造物500を形成する場合に有効に役立てることができる。このように地中内構造物500の構造としては、板状部材530のみが埋設されている構造であっても構わない。埋設されている板状部材530は、少なくとも2枚が、所定間隔離されて埋設されている。
【0037】
かかる板状部材530のみを埋設する場合には、地上側の道路等の建設に合わせて、例えば、地上側からワイヤーソーで地中内の鉛直方向に掘削して、そこに板状部材530を埋め込んでおいても構わない。その後に、盛土等として、道路を地上側に施工すればよい。施工後、必要な時期に、縦坑を掘削して、この板状部材530を埋設した箇所での道路・線路下横断構造物の施工を行えばよい。勿論、地上側の道路施工後に、板状部材埋め込みのための縦坑を掘削して、さらに横坑を掘削することで、板状部材を埋設設置しておいても構わない。
【0038】
また、上記説明では、ケーシング510は角形筒状の形状を用いた場合について説明したが、それ以外の形状のものも使用できる。例えば、円筒形のものであっても構わない。円筒形の場合には、少なくとも、その直径方向の両端側から、板状部材530を地表面に向けて立ち上げて埋設しておけばよい。
【0039】
また、以上に説明の地中内構造物500の構造は、図1、2に示すような道路・線路下横断構造物にその適用を限定することはなく、例えば、図5に示すように、都市部の土被りが小さく、周辺地盤が軟弱な道路トンネル等の連絡坑、避難坑の補助工法としても適用可能である。すなわち、連絡坑、避難坑を掘削するに際して、周辺地盤の崩壊が起きないように板状部材530を埋設しておくのである。図5には、模式的にその様子を示した。勿論、パイプルーフ工法を併用しても一向に構わない。通常、避難坑トンネルでは、その深度は避難坑トンネルの外径をDとすると、図5に示すように、1D程度が想定される。
【0040】
また、前記説明では、板状部材530を、ケーシング510の両側に2箇所設けた場合について説明した。しかし、3箇所以上設けても構わない。例えば、ケーシング510の上面510aが、図2等に示す場合よりも幅が広い場合である。幅が広い場合には、例えば、パイプルーフ520の中央部分に1箇所追加しても一向に構わない。さらには、上面510aの幅がさらに広い場合には、パイプルーフ520の両端側と、パイプルーフ520の中間に複数箇所設けても一向に構わない。少なくとも板状部材530は、少なくとも2箇所は必要である。1箇所は、実際的にはあり得ないものと考えて構わない。
【0041】
(実施の形態2)
前記実施の形態では、地中内構造物の構造について、詳細に説明した。本実施の形態では、地中内構造物の施工方法について説明する。地中内構造物の構造については、前記実施の形態1で詳細に説明したが、かかる構成の構造をどのようにして施工するかについて説明する。勿論、以下に説明する施工方法は、一つの典型的な例であり、本発明は、かかる例に限定されるものではない。
【0042】
本発明の施工方法では、地中内を掘削する際に、周辺地盤の崩壊により地表面側の沈下が起きないように、対策を施す工程を有していることを特徴としている。かかる対策工程は、板状部材を埋設することを特徴とするとしている。すなわち、従来の如き薬液注入工法は使用しないのである。板状部材を埋設することで、その後の掘削に際しての過剰な掘削により生じた空間への周辺地盤のなだれ込みを防止するのである。なだれ込みを阻止して、地表面側の地盤沈下を抑制するのである。
【0043】
従って、その後の掘削は、板状部材の上記周辺地盤の崩壊現象を阻止できる範囲内で原則行う必要がある。例えば、パイプルーフ工法を補助工法として使用する場合は、パイプルーフ工法の適用範囲の両側に板状部材が埋設されている状態となるようにする必要がある。このようにして、周辺地盤の崩壊を抑制して、地表面側の地盤沈下を防ぐものである。
【0044】
かかる板状部材埋設工程が有効に機能する場合とは、パイプルーフ工法の鋼管径をdとした場合、土被りが3d以内の掘削が好ましい。3dより土被りが大きい場合では、その掘削による土砂崩壊は原則地表面側の地盤沈下には影響を殆ど与えないからである。さらには、砂質土壌、盛土等の地盤崩壊が起き易い場合に、その効果が顕著に現れる。
【0045】
かかる構成の板状部材埋設工程を含む一連の地中内構造物の施工方法は、例えば、図6に示すフロー図のようになる。すなわち、ステップS100に示すように、道路下を横断する地中内構造物の施工範囲の確認を行う。地表側の道路100のどのあたりを横断するのか、施工図面を見て確認する。
【0046】
地中内構造物の施工位置の確認が終了したら、ステップS200に示すように、地表側の道路横断位置の両端に縦坑を掘削する。縦坑は、道路100の横断位置の両端側に、例えば、図2に示すように、発進縦坑300と到達縦坑400とを掘削する。発進縦坑300側から、到達縦坑400側に向けて、横坑を掘削するのである。
【0047】
横坑の掘削では、先ず最初に、ステップS300で板状部材を埋設するための横坑を掘削する。かかる掘削に際しては、板状部材が埋設できる位の孔が開けられればよいので、例えば、ワイヤーソーを用いて行う。かかるワイヤーソーを用いれば、孔は、丁度板状部材の端面程度の孔を開けることができる。使用する板状部材の端面の厚み、高さ等に合わせて、適宜に使用するワイヤーソーの種類を選択すればよい。ワイヤーソーを用いて開ける孔の大きさは、用いる板状部材の端面程度の大きさがよい。余り大きい孔を開けると、周辺地盤の崩壊を阻止する目的で設ける板状部材により、周辺地盤の崩壊を起こしその設置の意味が無くなる。孔は、板状部材がやっとジャッキ等で押し込められる程度のものが好ましい。
【0048】
ワイヤーソーで孔を開ける前に、図7(a)、(b)に示すように、先ず、ボーリング孔10を開ける。発進縦坑から、到達縦坑側に向けて、地中内構造物の側面範囲に沿って、ワイヤーソー用ボーリングマシン11で、ボーリング孔10を開ける。ボーリング孔10を開け終わったら、到達縦坑側から、ボーリング孔10にワイヤーを通して、ワイヤーソー12を形成する。かかる形成したワイヤーソー12で、地盤を掘削する。かかるワイヤーソー12で開けられた孔は、例えば、図8(a)に示すように、細い縦長の孔13となる。掘削は、ボーリング孔10に沿って行われるので、地中内構造物の側面に沿って正確に行われる。
【0049】
かかるワイヤーソー12で開けた孔13に、図8(b)に示すように、鋼板等に構成された小片20aを板状部材20として差し込む。差し込みに際しては、ワイヤーソー12で開けた孔13は、小片20aの端面とほぼ同じ大きさなので、圧入用にジャッキ14を用いる。通常の発進縦坑の大きさでは、長い板状部材20は持ち込めない。そこで、小片20aに構成して、複数の小片20aを連接して押し込むことで、全体として長尺ものの板状部材20を挿入して埋設したと同様の効果が得られる。
【0050】
すなわち、板状部材20である小片20aを先ずジャッキ14により、図8(b)に示すように、ワイヤーソー12で開けた孔13に押し込む。その次に、また小片20aを、その端面が先に押し込んだ小片20aの端面と相対するようにして、ジャッキ14で押し込む。小片20aの端面同士が連接された状態で押し込まれた複数の小片20aは、到達縦坑側に向けて地中内に埋め込まれる。さらに小片20aを、その端面が先に入れた小片20aの端面に相対するようにして、ジャッキ14で押し込める。これを繰り返すことで、小片20aを埋設する。最初に挿入した小20aが到達縦坑側に現れた状態で押し込みを止める。このようにして、図8(c)に示すように、板状部材20を埋設する。埋設に際しては、地中内構造物の施工範囲の両側面に沿って行う。
【0051】
但し、かかる板状部材20の埋設に関しては、地中内構造物の施工範囲が広くなる場合には、例えば、道路で言えば、片側2車線以上の場合には、前記の如く、板状部材20を地中内構造物の両側面側と、その中央側等に、適宜に3箇所以上設定しても構わない。勿論、それぞれの板状部材20の埋設孔は、事前にボーリング孔を通し、その後にワイヤーソーで開けておけばよい。
【0052】
かかるステップS300の板状部材埋設工程での埋設は、少なくとも、板状部材20が互いに平行になるように2箇所に埋設することが必要である。周辺地盤の崩壊を止めるためには、少なくとも2箇所で行う必要があるからである。
【0053】
その後、ステップS400で、図9(a)に示すように、埋設した板状部材20の間に、パイプルーフ工法によりパイプルーフ30を埋設施工する。補助工法としてのパイプルーフを埋設する工程は、このように本願発明では、両板状部材20が埋設された中間に施工することを特徴とする。かかる構成にすることにより、パイプルーフ30の斜め上方からの、パイプルーフ工法施工時の余剰掘削による空間を埋めようとする周辺地盤の動きを抑制することができる。図9(b)は、図9(a)のA−A線での断面図である。
【0054】
パイプルーフ30は、図9(a)に示すように、鋼管等で形成されたパイプ30aを横に複数本埋設して構成されている。かかるパイプ30aは、先にパイプ30の径より少し大きめの掘削機がつけられ、それで掘削して横孔を形成する。その横孔に、一回り径の小さいパイプ30aが埋設されることとなる。そのため、横坑の孔径が、パイプ径より大きく、その分余剰掘削された形である。そこで、その余剰掘削された箇所に周辺の地盤がなだれ込むのを、先に埋設した板状部材20で抑制しているのである。
【0055】
ステップS500で、パイプルーフ30の下方を掘削しながら、横断工躯体40としての筒型のケーシング40aを掘削孔に連続して差し込んでゆく。その際には、ケーシング40aの差し込みが曲がらないように、図10(a)に示すように、ガイド孔50も掘削して行く。かかる掘削には、図10(b)に示すように、発進縦坑300内の壁面に、反力壁60を形成する。かかる反力壁60に、躯体推進用のジャッキ61を設ける。ジャッキ61の先端側にケーシング40aを設ける。最初に設けたケーシング40aの先端には、刃口70を設け、この刃口70で掘削する。
【0056】
掘削が進むにつれ、分割構成したケーシング40aをジャッキ61の先端側に継ぎ足して行く。これを繰り返すことにより、刃口70で掘削した背後には、ケーシング40aが複数連接された横坑が形成される。かかる様子を、例えば、図10(b)に模式的に示した。このようにして、発進縦坑300から到達縦坑400までにケーシング40aで構成された横断工躯体40を設けることができる。かかる様子を、図11(a)、(b)に示した。
【0057】
横断工躯体40を設けることにより、道路100を横断してくぐり抜けできるように貫通孔が形成される。その後、図示はしないが、発進縦坑300側、到達縦坑400側に、例えば、図1に示すような斜面を形成して、貫通孔への通り抜けが楽に行えるようにすればよい。このようにして、板状部材20と、パイプルーフ30と、ケーシング40aとを有する地中内構造物が施工されることとなる。
【0058】
以上に記載の地中内構造物の施工方法で施工した場合の地表面の沈下抑制効果を、数値解析により確認した。その結果を、図12に示した。また、数値解析モデルは、図13に示すものを用いた。
【0059】
解析条件は、FLAC(ver5.0)のITASCA社製の解析ソフトで、2次元有限差分分析を行った。ここでは、図13に示すように、モデルを単純化するために,パイプについてはその上半部のみの3本とし、実際のパイプルーフにおける余掘りを表現するためパイプをA1→A2→A3と各5cmずつ降下させることで再現した。尚、パイプルーフ上部の地盤の崩壊には、パイプA1、A2、A3の下半分は影響を及ぼさないものと判断して、上半分の半円形でモデルを構成した。
【0060】
解析ケースは、次の3ケースで行った。すなわち、無対策ケース:パイプルーフを設けただけの場合。薬液注入ケース:薬液を図示の範囲に1m×1mで注入した場合。薬液注入の効果としては、弾性係数×1.2倍と見積もった。板状部材埋設ケース:厚み20mm、高さ1mの鋼板を板状部材として埋設した場合。かかる鋼板の弾性係数を2100GPaと見積もった。地山条件としては、図13にも記載のように、密度γ=1.5tf/m、弾性係数E=80MPa、ポアソン比γ=0.3とした。
【0061】
解析結果では、図12に示すように、効果については最大沈下量で比較すると4.09mm(鋼板)、4.35mm(無対策・薬液注入)で0.26mmしか抑制効果がなかった。しかし、例えば、鋼板の施工位置より50cm左側が(図12の横軸で4mの位置)であれば、そこでの沈下量は、鋼板で0.98cm、無対策・薬液注入で2.28cmであり、鋼板を設置することで沈下量が半分以下になることが分かる。このように鋼板を埋設設置することで、例えば左右4m(図12横軸で4〜8mの範囲での沈下量を従来の薬液注入工法の場合と比べて抑制することができる。さらに、コストも、薬液注入工法に比べ低いため、沈下抑制効果が優れ、且つコストが抑えられる本発明の鋼板等の板状部材の埋設設置工法が有利であることが確認される。
【0062】
因みに、通常は、許容沈下量は5cmに設定されている。図12は、無対策、薬液注入、鋼板埋設の全てが、上記許容沈下量の基準を満たしてはいるが、そのコストと沈下抑制効果を合わせた場合には、本発明に係る工法が有利であると言えるのである。
【0063】
また、図12では、中央側の沈下量が大きくなっているが、これは、埋設した鋼板の上を超えて地盤崩壊が起きているためである。そのため、図12に示す場合には、鋼板の高さは1mであったが、より高い方が、抑制効果があると言える。例えば、1mよりも、1.5m、さらには1.8mの方が有利であると言える。実際に適用する現地地盤に基づいて、適宜に鋼板等の板状部材の高さは設定すればよい。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の道路・線路下等の通り抜け道路等の横断構造物の分野に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】道路・線路下横断構造物の施工完成状況を示す斜視図である。
【図2】道路・線路下横断構造物の施工状況を示す斜視図である。
【図3】(a)、(b)は地中内構造物における板状部材とパイプルーフ、横断工躯体との位置関係を示す説明図であり、図(c)、(d)は板状部材の埋設例の変形例を示す説明図である。
【図4】(a)〜(c)は、板状部材の埋設状況を示す説明図である。
【図5】地中内構造物の構造を連絡坑に適用した変形例の場合を示す説明図である。
【図6】板状部材の埋設工程を有する地中内構造物の施工方法の手順の一例を示すフロー図である。
【図7】(a)、(b)は、ボーリング孔を開ける様子を示す状況説明図である。
【図8】(a)〜(c)は、ワイヤーソーで横坑を掘削し、板状部材を圧入する状況を示す状況説明図である。
【図9】(a)、(b)は、パイプルーフを施工した場合の状況説明図である。
【図10】(a)、(b)は、横断工躯体を施工する場合の状況説明図である。
【図11】(a)、(b)は、横断工躯体を設置した場合の状況説明図である。
【図12】板状部材を埋設した場合の地盤沈下の解析結果を示す説明図である。
【図13】地盤沈下の様子を数値解析する場合に用いる解析モデルの説明図である。
【符号の説明】
【0067】
10 ボーリング孔
11 ワイヤーソー用ボーリングマシン
12 ワイヤーソー
13 孔
14 ジャッキ
20 板状部材
20a 小片
30 パイプルーフ
30a パイプ
40 横断工躯体
40a ケーシング
50 ガイド孔
60 反力壁
70 刃口
100 道路
200 道路
300 発進縦坑
400 到達縦坑
500 地中内構造物
510 ケーシング
510a 上面
510b 側面
510c 底面
510d ガイド孔
520 パイプルーフ
520a パイプ
530 板状部材
530a 小片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の構造であって、
地中内に空間を形成する地中内構造物の上面側の両側面側に沿って、地表面側に向けて、板状部材が埋設されていることを特徴とする地中内構造物の構造。
【請求項2】
請求項1記載の地中内構造物の構造において、
前記板状部材の間には、パイプルーフが設けられることを特徴とする地中内構造物の構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の地中内構造物の構造において、
前記地中内構造物、あるいは前記パイプルーフ、あるいは前記地中内構造物と前記パイプルーフは、施工前で、前記板状部材のみが埋設されていることを特徴とする地中内構造物の構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の地中内構造物の構造において、
前記地中内構造物は、既設の前記道路・線路等の地表側通行路の下を横断することを特徴とする地中内構造物の構造。
【請求項5】
道路・線路下横断構造物等の地中内構造物の施工方法であって、
施工する地中内に空間を形成する地中内構造物の上面側の両側面側に沿って、地表面側に向けて、板状部材を埋設する板状部材埋設工程を有することを特徴とする地中内構造物の施工方法。
【請求項6】
請求項5記載の地中内構造物の施工方法において、
前記板状部材は、ワイヤーソーにより掘削された地中内の孔に埋設されることを特徴とする地中内構造物の施工方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の地中内構造物の施工方法において、
前記板状部材埋設工程の後に、パイプルーフを埋設するパイプルーフ埋設工程を有することを特徴とする地中内構造物の施工方法。
【請求項8】
請求項7記載の地中内構造物の施工方法において、
前記パイプルーフ埋設工程の後に、前記地中内構造物の施工を行うことを特徴とする地中内構造物の施工方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の地中内構造物の施工方法において、
前記地中内構造物は、既設の前記道路・線路等の地表側通行路の下を横断することを特徴とする地中内構造物の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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