説明

地中埋設温度成層型蓄熱水槽

【課題】製造コストの安価な、蓄熱性能の高い地下埋設温度成層型蓄熱水槽を提供する。
【解決手段】建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中に回転圧入して埋設し、回転圧入鋼管杭の先端または中途に底蓋を設け密閉し、貯水可能とし、回転圧入鋼管杭の内部に注水配管・取水配管を設置し、鋼管杭または鋼管製水槽の内径以下の直径に設定された開端穴が回転羽根の中心部に設けられ、内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管杭または鋼管製水槽が回転圧入で埋設され、前記の鋼管杭または鋼管製水槽の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、上記開端穴を介して侵入された掘削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水等の蓄熱媒体を使用した蓄熱利用システムにおいて、蓄熱効率が高い地中埋設温度成層型蓄熱水槽に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水を蓄熱媒体とする蓄熱水槽は、安価に築造するために、建物の地下ピットを利用することが多い。地下ピットは、一般的に水深が2m以下であり、高温側の水と低温側の水が混合しやすい構造(連結完全混合型蓄熱水槽)となるため、蓄熱性能が低くならざるを得ない。高い蓄熱性能が要求される場合は、温度成層型蓄熱水槽が用いられるが、温度成層を確実に形成するためには、かなりの水深(一般的に単一型で6m以上、連結型で3m以上)が必要とされ、建物構造的な要求から必要な地下ピット水槽水深を越えるため、地下掘削量を増やし、必要水深以上の地下ピット水槽を築造するか、ステンレスパネル水槽等の独立した高水深蓄熱水槽の設置が必要となるため、その築造は高コストになる。また、蓄熱水槽としてある程度の容量が必要な場合、水深が浅いため、平面的にかなりの面積を必要とする。さらに、地上設置のパネル水槽はもとより、地下ピット水槽の場合も水深が浅いため、外気温度の影響を受けやすく、熱エネルギーのロスが大きく、ランニングコストの増加を招くため、外気の影響を受けないように断熱工事が必要となり、蓄熱水槽の製作コストが高くなる。
【0003】
安価に温度成層型蓄熱水槽を築造する技術として、特開平8−4350号公報に開示されたものがある。これは,基礎杭の中空部を蓄熱水槽として利用するものである。予め地中に杭孔を掘削し、掘削された杭孔に、底蓋を設けた既製鋼管杭を挿入し、杭孔の孔壁と既製鋼管杭の外周との環状空間にグラウト材を充填して地中に設置するものであるが、杭孔掘削による地盤の緩みにより高い支持力が得られず基礎杭としての利用範囲が限定されると共に、施工に伴い発生する掘削土砂や掘削泥水の処理が必要となり、施工コストが高くなる。
【特許文献1】特開平8−4350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の蓄熱水槽の持つ問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の地中埋設温度成層型蓄熱水槽は、建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中に回転圧入して埋設し、回転圧入鋼管杭の先端または中途に底蓋を設け密閉し、貯水可能とし、回転圧入鋼管杭の内部に注水配管・取水配管を設置し、鋼管杭の内径以下の直径に設定された開端穴が回転羽根の中心部に設けられ、内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管杭が回転圧入で埋設され、前記の鋼管杭の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、上記開端穴を介して侵入された掘削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の地中埋設温度成層型蓄熱水槽は、先端に掘削羽根を取付けた大口径の鋼管製水槽に回転力と下向きの力を付加して地中に回転圧入させて埋設し、底部に底蓋を設け密封し、貯水可能とし、内部に注水配管・取水配管を設置し、鋼管製水槽の内径以下の直径に設定された開端穴が回転羽根の中心部に設けられ、内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管製水槽が回転圧入で埋設され、前記の鋼管製水槽の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、上記開端穴を介して侵入された掘
削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の地中埋設温度成層型蓄熱水槽は、請求項1または請求項2に記載の発明において、回転羽根が螺旋状羽根であって、回転羽根の始端切断面と終端切断面との開き角度が10度から90度に設定されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の地中埋設温度成層型蓄熱水槽は、先端に掘削歯を取付けた大口径の鋼管製水槽を内部に侵入する土砂を排除しながら回転力と下向きの力を付加して地中に回転圧入させて埋設し、底部に底蓋を設け密封し、貯水可能とし、内部に注水配管・取水配管を設置し、内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管製水槽が回転圧入で埋設され、前記の鋼管製水槽の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、内部に侵入された掘削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする。
【0009】
本願の構成により、前記の課題を次のように解決できる。本発明の底部に掘削羽根を溶接した鋼管製水槽は、回転圧入により地中に埋設することができるため、地下掘削の必要がなく、施工時間を短縮でき、施工コストが安価となる。本発明の建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中埋設温度成層型蓄熱水槽として使用する場合には、さらに施工コストが安価になるとともに、基礎杭として高い支持力が得られる。本発明の底部先端に掘削羽根を取付けた鋼管製水槽と回転圧入鋼管杭からなる蓄熱水槽の地中への埋設には、事前に孔を掘削する必要がないため、掘削土砂や掘削泥水が発生せず、その処理コストがないので、施工コストが安価になる。また、埋設時と逆回転させれば撤去も容易であるため、リサイクルも可能である。本発明の底部先端に掘削羽根または掘削歯を有する鋼管製水槽は、回転圧入鋼管杭を蓄熱槽とする場合に比べ、構造的な支持力が必要ないため、鋼管の厚さが薄くてよく、材質的に低強度だが耐食性の高いステンレス等を使用することも可能である。さらに、大口径の鋼管の埋設が可能なため、大容量の蓄熱水槽を安価に製作することが可能である。本発明の底部先端に掘削歯を有する鋼管製水槽は、内部に浸入する土砂の排除が必要なものの、掘削羽根付きの鋼管を排土なしで圧入する場合に比べて、回転耐力が小さくてよいため、鋼管の厚さがさらに薄くてもよい。また、さらに大口径の鋼管の埋設が可能である。本発明の温度成層型蓄熱水槽は、地中深く埋設され、地中深くは外気の影響を受けず、その周囲が土砂で覆われており、断熱効果が期待できるため熱エネルギーのロスが少なく、断熱に要するコストは安価になる。本発明の底部先端に掘削羽根または掘削歯を取付けた鋼管製水槽と回転圧入鋼管杭からなる蓄熱水槽は、地中に深く埋設可能であるため、平面的に少ない設置面積で大量の水を蓄えることができる。例えば、1000m3の蓄熱水槽を構築する場合、連結型の温度成層型蓄熱水槽では、水深3mで約330m2の平面的設置面積が必要であるが、本発明の底部に羽根を溶接した鋼管製蓄熱水槽では、直径2m、有効水深20mの蓄熱水槽1本で容量は60m3であるから、約16本の温度成層型蓄熱水槽を構築すればよく、3〜4mのピッチで温度成層型蓄熱水槽を地中に埋設した場合でも、約半分の平面的専有面積程度で済む。本発明における地中埋設温度成層型蓄熱水槽は、建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭の一部または全部を蓄熱水槽として利用すると共に、建物の屋外または前記建物の基礎杭の間の鋼管製蓄熱水槽を配置し、連結使用することもできる構成としているため、地下を有効に活用して大量の蓄熱媒体としての水を蓄えることができるとともに、その上部空間も他用途に有効に活用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成により以下のような効果が得られる。
(1)蓄熱性能の高い地下埋設温度成層型蓄熱水槽を安価に構築できる。
(2)建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を蓄熱水槽として利用すれば、より安価に地下埋設温度成層型蓄熱水槽を構築できる。
(3)蓄熱性能の高い地下埋設温度成層型蓄熱水槽を、平面的に少ない面積で構築でき、
蓄熱水槽が全て地下に埋設されるため、上部空間を有効に活用できる。
(4)回転圧入鋼管杭は、高い支持力が得られるため、建物の基礎杭としての本来の性能を損なわない。
(5)地下埋設温度成層蓄熱水槽は、回転圧入により地中に埋設されるので、事前に孔を掘削する必要がなく、掘削土砂・掘削泥水の処理を必要としない。
(6)地下深く埋設されるため、断熱効果が期待でき蓄熱水槽の熱エネルギーロスを低減でき、断熱にようするコストを安価にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態を図により説明する。図1は、建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭1を温度成層型蓄熱水槽として利用した例を示すものである。鉛直力を支持する場合の回転圧入鋼管杭1の直径は1.2〜1.5m程度のものであり、水平力を支持する場合の鋼管杭はより大口径のものも考えられる。回転圧入鋼管杭1の下部には、掘削羽根3が設けられる。
【0012】
図2に回転圧入鋼管杭1を示す。この回転圧入鋼管杭1が単管では蓄熱水槽の水深が不足する場合は、現場での円周溶接等によって継ぎ足すことで対応できる。なお、回転圧入鋼管杭1に外面防食が必要な場合にはポリエチレンやウレタン等で外面被覆を施してもよく、内面防食が必要な場合には硬質塩化ビニルやエポキシ等で内面被覆を施してもよい。
【0013】
図2(a)に示すように、回転圧入鋼管杭1の下端は螺旋状に切り欠かれており、この螺旋状切り欠きの始端部と終端部とは段差部分を介して接続されている。そして、螺旋状に切り欠かれた回転圧入鋼管杭1の下端面に沿って、掘削羽根3が回転圧入鋼管杭1に対して同心状に固定されている。
【0014】
掘削羽根3は、図3に示すように円盤状(リング状)の鋼板を半径方向に一部切欠いて形成されており、掘削羽根3の始端切断面31には掘削刃32が溶接により固着されている。掘削羽根3はその始端切断面31から徐々に回転圧入鋼管杭1の下端部から離れながら螺旋状に上昇し、終端切断面33までほぼ1周程度周回するように形成されている。
【0015】
掘削羽根3の始端切断面31と終端切断面33との開き角度34は、図3の例では45度程度であるが、10度から90度の範囲で設定することができる。なお回転羽根2を延長して開き角度34を0度の位置にした場合には、破線で示す仮想終端切断面33aと始端切断面31とが平行となる。
【0016】
また掘削羽根3の中心部には開端穴4が開口されている。図2、図3の例では開端穴4の直径Dが回転圧入鋼管杭1の内径の0.6倍程度に設定されているが、本発明の開端穴4の直径は回転圧入鋼管杭1の内径以下であればいかなる直径であってもよく、また回転圧入鋼管杭1に開端穴4を設けなくともよい。
【0017】
上記のような開き角度34、開端穴4を備えた掘削羽根3は、回転圧入鋼管杭1の優れた貫入性を確保し、施工効率向上によるコストの低減に寄与する。また、上記形状の掘削羽根3は、管内部への土壌の侵入を管直径の1.5倍程度から管体長さの半分程度までの間に調節することができ、回転圧入鋼管杭1の内部空間の有効利用が可能となる。なお、図1,図2では、掘削羽根は、螺旋状羽根として示されているが、回転圧入に適したものであれば、掘削羽根の形状、その設置位置は、他のどのようなものでもよい。
【0018】
回転圧入鋼管杭1を回転圧入する過程で、掘削羽根3で掘削された土砂の一部は、回転圧入鋼管杭1の周囲に排土され、回転圧入鋼管杭1の回転により、その外周に圧密される。また、掘削土砂の一部は、掘削羽根3の内側開放部4から杭内に浸入する。地盤・土壌
の状況により異なるが、土砂の浸入は、図1の5で示した範囲(概ね杭全長の40〜50%)である。土砂浸入上部を蓋で密閉し、蓄熱水槽の底蓋7とすることにより、蓄熱水槽の水深は図1の6で示される範囲(概ね杭全長の50〜60%)となる。より深い水深を確保したい場合は、杭内部に浸入した土砂を排除して確保してもよい。回転圧入鋼管杭1の上部には、建物の下部構造としてのフーチング2が構築される。鋼管杭蓄熱水槽の内部には、注水配管9、取水配管10を設置する。蓄熱水槽の配管端部は、温度成層を形成した熱媒体としての水から効率良く蓄熱および蓄熱回収を行うため、一方は蓄熱水槽底部近傍、他方は蓄熱水槽の高水位レベル近傍に配置する。
【0019】
図4は、掘削羽根付きの鋼管製水槽を地中に回転圧入して埋設し、温度成層型蓄熱水槽を構築した一例を示すものである。鋼管製水槽8とする大径の鋼管の一端に、掘削用の羽根3を取り付ける。掘削羽根3の形状、設置位置については、回転圧入に適するものであれば、図2、図3に示すような螺旋状羽根をはじめとして、どのようなものでもよい。この鋼管製水槽8に回転力と下向きの付勢力を加え、先端の掘削羽根3によって地盤を掘削しながら地中に回転圧入して埋設し、底部を底蓋7で密閉し、地中埋設温度成層型蓄熱水槽を構築する。単管では蓄熱水槽の水深が不足する場合は、鋼管杭の施工と同様に、現場円周溶接により鋼管を継ぐことで対応する。蓄熱水槽の内部には、建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を温度成層型蓄熱水槽として利用する場合と同様に、注水配管9、取水配管10を設置する。
【0020】
同様に、図6は掘削歯付きの鋼管製水槽を地中に回転圧入して埋設し、温度成層型蓄熱水槽を構築した一例を示すものである。図11は、掘削歯付きの鋼管製水槽を地中に回転圧入する施工法の一例を示すもので、底部先端に掘削歯23を有する大口径の鋼管8を、内部に侵入する土砂をハンマーグラブ25で排除しながら、ケーシングジャッキ24で回転揺動させ地中に圧入する。鋼管の回転は、回転揺動ではなく全旋回連続回転でもよい。
【0021】
図13〜図16は、鋼管杭および鋼管製水槽の底蓋の施工方法の実施例を示したものである。図13は、鋼管杭および鋼管製水槽の底蓋取付部内面に予め突起物としての鋼輪26を溶接しておき、鋼管杭および鋼管製水槽の埋設・据付後に鋼管杭および鋼管製水槽に内接する円盤状の落し蓋7を前記鋼輪26に係合させ、周囲を溶接27して底蓋を形成する例である。
【0022】
図14は、鋼管杭および鋼管製水槽内部に土壌があまり侵入してこない場合において底蓋7を回転圧入後に形成する態様の一例である。図14の例では、予め鋼管杭および鋼管製水槽内周の土壌侵入位置上部(底蓋形成位置)に鋼輪26を溶接しておく。次に鋼管杭および鋼管製水槽の回転圧入後に、鋼管に内接する落し蓋7を投下した上で、防水目地を鋼管との取合部に取ったシンダーコンクリート35を打設する。そして目地部をシール36した後に塗膜防水37を行い底蓋7を形成する。
【0023】
図15の例は、鋼管杭および鋼管製水槽の内面の所定の位置に予め底蓋7を取付けておく例を示したものである。この実施例において、硬質地盤等で貫入抵抗が大きい場合には、先端から浸入する土壌38により底蓋7下部の空間で圧縮される空気を抜くために空気抜き孔29を形成して貫入抵抗を減少させるのが好ましい。
【0024】
図15(a),(b)は、底蓋7に空気抜き孔29を設け、鋼管杭および鋼管製水槽の回転圧入後に空気抜き孔29をプレート30で塞ぐことで底蓋7の形成を完了する例である。また図15(c)は空気抜き孔29を底蓋7直下の鋼管杭および鋼管製水槽の側壁部に開口した例である。この場合には回転圧入後に空気抜き孔29を塞ぐ必要はない。
【0025】
また図16は、鋼管杭および鋼管製水槽の内部に土壌がある程度侵入してくる場合にお
いて底蓋7を回転圧入後に形成する態様の一例である。図16の例では、予め鋼管内周の土壌侵入位置上部(底蓋形成位置)にコンクリート定着用の輪状鉄筋26aを溶接しておく。次に鋼管杭および鋼管製水槽の回転圧入後にコンクリート28を流し込み、さらに防水目地を鋼管との取り合い部に取ったシンダーコンクリート35を打設する。以下、図14の上記例と同様の工程で底蓋7が形成される。なお、底蓋形成位置より地下水位が浅い場合でも、水中コンクリートを打設することにより底蓋7の形成が可能である。
【0026】
また図17は、鋼管杭および鋼管製水槽の内側に内挿管39を配置した例である。内挿管39はその外径が鋼管の内径よりも小さく設定されており、内挿管39の先端はキャップなどによって閉塞されている。鋼管と内挿管39との間隙には空気、または気体を含む断熱材40が充填されている。そして、内挿管39の内側には2本の配管41,42が配置され、水またはその他の熱媒が内挿管39の内部を循環するように構成されている。なお、図17は、冷水の蓄熱運転時または温水の蓄熱回収(放熱)運転時の例であって、配管41を注水配管とし、配管42を取水配管としているが、冷水の放熱運転時または温水の蓄熱運転時に切り替えた場合には、配管42が注水配管となり、配管41が取水配管に切り替わる[図示を省略する]。
【0027】
また図18は、単管では蓄熱水槽の水深が不足する場合において、鋼管杭および鋼管製水槽の鋼管と内挿管39とを継ぎ足して温度成層型蓄熱水槽を延長する例である。
【0028】
図18の蓄熱水槽の設置作業では、まず先端部の羽根付鋼管43の内側に先端が閉塞された小径の内挿管39を挿入する。羽根付鋼管43と内挿管39との間隙には気体を含む断熱材40が充填されており、必要に応じて冶具等を用いることによって羽根付鋼管43内に内挿管39が固定されている。
【0029】
次に、羽根付鋼管43を所定位置まで回転圧入し、継ぎ足し用鋼管44を吊り込んで羽根付鋼管43と継ぎ足し用鋼管44とを接合する。継ぎ足し用鋼管44の内側にも内挿管39が固定されており、継ぎ足し用鋼管44と内挿管39の間隙においても気体を含む断熱材40が充填されている。ここで、内挿管39同士の接合は、水密性、可撓性および伸縮性に優れた継手45によって行い、羽根付鋼管43と継ぎ足し用鋼管44との接合は、現場円周溶接等により行なわれる。
【0030】
上記の羽根付鋼管43と継ぎ足し用鋼管44との接合が完了した後、一体化した羽根付鋼管43および継ぎ足し用鋼管44を回転圧入する。必要に応じて上記の継ぎ足し作業を繰り返すことで、所望の長さまで蓄熱水槽を延長することができる。そして、回転圧入の完了後に内挿管39の内側に2本の配管41,42を配置して蓄熱水槽が完成する。ここで、図18(b)は、冷水の蓄熱運転時または温水の蓄熱回収(放熱)運転時の例であって、配管41を注水配管とし、配管42を取水配管としているが、冷水の放熱運転時または温水の蓄熱運転時に切り替えた場合には、配管42が注水配管となり、配管41が取水配管に切り替わる[図示を省略する]。
【0031】
なお、上記の設置作業はあくまで1例であって、図示の例に限定されることはない。例えば、継ぎ足し用鋼管44に予め内挿管39を固定することなく、継ぎ足し用鋼管44と内挿管39とを同時に吊り込んで各々接合してもよい。また、内挿管39の固定を冶具のみによって行い、羽根付鋼管43および継ぎ足し用鋼管44の埋設が完了した後で鋼管43,44と内挿管39との間隙を閉鎖して、空気による断熱層を形成するようにしてもよい[ともに図示を省略する]。
【0032】
図1、図4および図6には、回転圧入鋼管杭及び回転圧入鋼管製水槽で構築された地下埋設温度成層型蓄熱水槽において、冷水の蓄熱時および温水の熱回収時の運転状態を示し
ている。さらに、図5は、掘削羽根付きの回転圧入鋼管製水槽で構築された地中埋設温度成層型蓄熱水槽における、冷水の熱回収時および温水の蓄熱時の運転状態を示す。この場合、注水配管9と取水配管は、図1および図4の運転状態の逆になる。回転圧入鋼管杭および掘削歯付きの回転圧入鋼管製水槽により構築される地中埋設温度成層型蓄熱水槽においても同様である。
【0033】
図7〜図10は、本発明による地中埋設温度成層型蓄熱水槽を複数並列に連結して利用する場合の空調システムを簡略化した一例の概略図である。熱源機11で製造した冷水または温水は、蓄熱時は、蓄熱ポンプ13を運転し、地下埋設温度成層型蓄熱水槽との間で循環する。空調時には、冷温水ポンプ14を運転し、負荷側に循環する。蓄熱回収時には、蓄熱回収1次ポンプ15と蓄熱回収2次ポンプ16を運転し、地下埋設温度成層型水槽内の冷水または温水を熱交換器12に循環し、同時に負荷側の冷水または温水も熱交換器12に循環しながら熱交換して熱回収する。
【0034】
熱源機11〜地中埋設温度成層型蓄熱水槽8の蓄熱循環系統には、温度成層型蓄熱水槽を効率良く利用するために、冷水運転・温水運転の切替バルブ17a、17bが設けられている。地中埋設温度成層型蓄熱水槽8〜熱交換器12の蓄熱回収循環系統にも、同様に冷水運転・温水運転の切替バルブ18a、18bが設けられている。空調時には、熱源系統と蓄熱回収循環系統を併用して空調を行うため、それぞれの冷水または温水は、送水ヘッダー19で合流し、負荷側の空調機20に供給され、熱利用された後、還水ヘッダー21で分岐し、それぞれの系統に戻る。
【0035】
冷水の蓄熱運転時には、図7に示されるように切替バルブ17bを開き、図1および図4に示されるように、蓄熱水槽上部の熱媒水を取水配管10で取水し、熱源機11に送り、熱源機11で冷却された冷水を蓄熱水槽の下部に注水配管9で注水する。蓄熱水槽内の熱媒体としての水は、槽形状により温度成層を形成し、底部より徐々に冷却され、蓄熱水槽上部の水まで所定の温度まで冷却されたところで蓄熱が完了する。
【0036】
冷水の蓄熱回収(放熱)運転時には、図8に示されるように切替バルブ18bを開き、図5に示されるように、蓄熱水槽8の下部の冷水を取水配管10で取水し、熱交換器12に送り、負荷側の空調を行ない、熱交換器12により熱を与えられた冷水を、注水配管9で蓄熱水槽8の上部に戻す。蓄熱水槽内の熱媒体としての水は、槽形状により温度成層を形成し、その底部から常に一定温度の冷水の供給が可能で、効率よく蓄熱回収ができる。蓄熱水槽8内は、戻りの冷水により上部から徐々に温度が上がり、蓄熱水槽8の底部の冷水まで温度が上昇し、所定温度の冷水が取り出せなくなったところで蓄熱回収が完了する。
【0037】
温水の蓄熱運転時には、図9に示されるように切替バルブ17aを開き、図5に示されるように、蓄熱水槽8の下部から熱媒体としての水を取水配管10により取水し、熱源機11に送り、熱源機11で加熱した温水を蓄熱水槽8の上部に注水配管9により注水する。蓄熱水槽8内の熱媒体としての水は、槽形状により温度成層を形成し、蓄熱水槽8の上部より徐々に昇温され、蓄熱水槽8の底部まで所定の温度に昇温されたところで蓄熱が完了する。
【0038】
温水の蓄熱回収(放熱)運転時には、図10に示されるように切替バルブ18aを開き、図1および図4に示されるように、蓄熱水槽8の上部の水を取水配管10で取水し、熱交換器12に送り、負荷側の空調を行ない、熱交換器12により熱を奪われた温水を、注水配管9で蓄熱水槽8の下部に戻す。蓄熱水槽内の熱媒体としての水は、槽形状により温度成層を形成し、その上部から常に一定温度の温水の供給が可能で、効率よく蓄熱回収ができる。蓄熱水槽8内は、戻りの温水により底部から徐々に温度が下がり、蓄熱水槽8の
上部の温水まで温度が低下し、所定温度の温水が取り出せなくなったところで蓄熱回収が完了する。
【0039】
図11は、建物内の杭の間に複数設置した鋼管製蓄熱水槽と建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭の一部を蓄熱水槽として連結利用する地下埋設温度成層型蓄熱水槽の一例を示すものである。図11(a)は平面図、図11(b)は断面図である。4箇所のフーチング2ので囲まれた空所に、回転圧入工法により地中に埋設された鋼管製蓄熱水槽8が設置される。4箇所のフーチング2にそれぞれ2本ずつ接続された回転圧入鋼管杭のうち1本ずつの計4本を蓄熱水槽1として利用している。蓄熱水槽として利用するものは、その上端をフーチング2の床レベルの上に突き出させ、注水配管9、取水配管10を設置し、蓄熱水槽として利用しない回転圧入鋼管杭22は、その杭頭をフーチング2内に埋め込む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】回転圧入鋼管杭を地下埋設温度成層型蓄熱水槽として使用した一例を示す図である。
【図2】回転圧入鋼管杭の正面図およびその断面図である。
【図3】回転圧入鋼管杭先端に設けられた掘削羽根の平面図および斜視図である。
【図4】掘削羽根付鋼管製水槽を地下埋設温度成層型蓄熱水槽として使用した一例を示す図である。
【図5】地下埋設温度成層型蓄熱水槽の冷水の蓄熱回収時および温水の蓄熱時の運転状況を示す図である。
【図6】掘削歯付鋼管製水槽を地下埋設温度成層型蓄熱水槽として使用した一例を示す図である。
【図7】冷水の蓄熱時の運転状況を示す図である。
【図8】冷水の蓄熱回収時の運転状況を示す図である。
【図9】温水の蓄熱時の運転状況を示す図である。
【図10】温水の蓄熱回収時の運転状況を示す図である。
【図11】建物のフーチングの間に回転圧入鋼管杭と回転圧入鋼管製水槽を配置した図である。
【図12】掘削歯付鋼管製水槽を地中に圧入する施工法の一例を示す図である。
【図13】本願発明の底蓋の取付け状態の一例を示す図である。
【図14】本願発明の底蓋の取付け状態の一例を示す図である。
【図15】本願発明の底蓋の取付け状態の一例を示す図である。
【図16】本願発明の底蓋の取付け状態の一例を示す図である。
【図17】鋼管杭等の内側に内挿管を配置した例を示す図である。
【図18】鋼管杭等の鋼管と内挿管とを継ぎ足して温度成層型蓄熱水槽を延長する例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 回転圧入鋼管杭
2 フーチング
3 掘削羽根
4 回転圧入鋼管杭の下端中央部空所(開端穴)
5 回転圧入鋼管杭の土砂浸入範囲
6 回転圧入鋼管杭の貯水範囲
7 底蓋
8 回転圧入鋼管製水槽
9 注水配管
10 取水配管
11 熱源機
12 熱交換器
13 蓄熱ポンプ
14 冷温水ポンプ
15 蓄熱回収1次ポンプ
16 蓄熱回収2次ポンプ
17a 切替バルブ
17b 切替バルブ
18a 切替バルブ
18b 切替バルブ
19 送水ヘッダー
20 空調機
21 還水ヘッダー
22 蓄熱槽として利用しない回転圧入鋼管杭
23 掘削歯
24 ケーシングジャッキ
25 ハンマーグラブ
26 鋼輪
26a 輪状鉄筋
27 溶接
28 コンクリート
29 空気抜き孔
30 プレート
31 始端切断面
32 掘削刃
33 終端切断面
33a 仮想終端切断面
34 開き角度
35 シンダーコンクリート
36 シール
37 防水塗膜
38 土壌
39 内挿管
40 断熱材
41 配管
42 配管
43 羽根付鋼管
44 継ぎ足し用鋼管
45 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中に回転圧入して埋設し、回転圧入鋼管杭の先端または中途に底蓋を設け密閉し、貯水可能とし、回転圧入鋼管杭の内部に注水配管・取水配管を設置し、鋼管杭の内径以下の直径に設定された開端穴が回転羽根の中心部に設けられ、内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管杭が回転圧入で埋設され、前記の鋼管杭の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、上記開端穴を介して侵入された掘削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする地中埋設温度成層型蓄熱水槽。
【請求項2】
先端に掘削羽根を取付けた大口径の鋼管製水槽に回転力と下向きの力を付加して地中に回転圧入させて埋設し、底部に底蓋を設け密封し、貯水可能とし、内部に注水配管・取水配管を設置し、鋼管製水槽の内径以下の直径に設定された開端穴が回転羽根の中心部に設けられ、内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管製水槽が回転圧入で埋設され、前記の鋼管製水槽の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、上記開端穴を介して侵入された掘削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする地中埋設温度成層型蓄熱水槽。
【請求項3】
回転羽根が螺旋状羽根であって、回転羽根の始端切断面と終端切断面との開き角度が10度から90度に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地中埋設温度成層型蓄熱水槽。
【請求項4】
先端に掘削歯を取付けた大口径の鋼管製水槽を内部に侵入する土砂を排除しながら回転力と下向きの力を付加して地中に回転圧入させて埋設し、底部に底蓋を設け密封し、貯水可能とし、内部に注水配管・取水配管を設置し、
内周の底蓋形成位置に予め突起物が取り付けられた鋼管製水槽が回転圧入で埋設され、前記の鋼管製水槽の埋設・据付後に鋼管内の底蓋形成位置に充填された経時性硬化材と、内部に侵入された掘削土砂とにより底蓋が形成されてなることを特徴とする地中埋設温度成層型蓄熱水槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−103441(P2009−103441A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299943(P2008−299943)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【分割の表示】特願2002−354514(P2002−354514)の分割
【原出願日】平成14年12月6日(2002.12.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】