説明

地中埋設物の引き抜き装置

【課題】構造簡単で保守管理が容易な低コストの地中埋設物の引き抜き装置を提供する。
【解決手段】昇降装置2により昇降される掘削用モータ7の回転子側に接続される筒状ケーシング11に、埋設物Pと干渉しない退避位置と、埋設物Pを支持する支持位置との間で変位できるように、支持部材21が変位可能に取り付けられる。ケーシング11に対して支持部材21を変位させるアクチュエータ30がモータ7の固定子側に取り付けられる。アクチュエータ30の作動部の動きによりケーシング11の回転軸方向に変位する第1伝動部材31と、回転軸方向に変位可能かつ回転軸まわりに同行回転可能にケーシング11に取り付けられる第2伝動部材32は、回転軸方向に同行移動可能かつ回転軸まわりに相対回転可能に互いに押し付けられるように、相対向して配置されている。ケーシング11に対する第2伝動部材32の変位に伴いケーシング11に対する支持部材21の変位が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基礎杭のような地中埋設物を地中から引き抜くための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中埋設物の引き抜き装置として、昇降装置により昇降される掘削用モータの回転子側に、前記モータと同行して昇降するように取り付けられる筒状ケーシングと、そのモータによりケーシングを回転させることで地中埋設物の周囲領域を掘削できるように、ケーシングに取り付けられる掘削部材と、そのケーシング内の埋設物と干渉しない退避位置と、その退避位置よりもケーシングの内方において前記埋設物を支持する支持位置との間で変位できるように、ケーシングに変位可能に取り付けられる支持部材と、この支持部材をケーシングに対して変位させる油圧アクチュエータとを備えたものが用いられている。その掘削の後にケーシングを引き上げることで、支持位置に位置する支持部材により支持された埋設物が地中から引き抜かれる。
【0003】
従来、ケーシングに対して支持部材を変位させる油圧アクチュエータは、ケーシングに取り付けられていた(特許文献1、2参照)。しかし、掘削用モータの回転子側に接続されるケーシングに油圧アクチュエータを取り付けた場合、油圧アクチュエータへ作動油を供給するためには、掘削用モータの固定子側と回転子側との間に作動油供給用のスイベルジョイントを設ける必要がある。しかし、そのようなスイベルジョイントを設けるとコストが増大し、また、油漏れに対処する必要があるため保守管理が面倒になる。
【0004】
そこで、ケーシングに油圧アクチュエータを取り付けるだけでなく、作動油タンク、ポンプ、ポンプ駆動用モータ、電磁弁、制御部等もケーシングに取り付けることで、スイベルジョイントを不要にすることが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3052135号公報
【特許文献2】特公平3−57247号公報
【特許文献3】特許第3955873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載の技術においては、ケーシングに設けた電磁弁や制御部に電力を供給するため、掘削用モータの固定子側のトロリー線とケーシング側の接触子とを滑り接触させている。そのため、電気系統の構造が複雑になって故障が生じ易くなる。また、回転するケーシングは掘削時に衝撃を受けやすく、そのようなケーシングに設けた制御部等は破損や故障を生じ易くなり、保守管理が面倒になる。本発明は、そのような問題を解決できる地中埋設物の引き抜き装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、昇降装置により昇降される掘削用モータの回転子側に、前記モータにより回転駆動されると共に前記モータと同行して昇降するように接続される筒状ケーシングと、前記モータにより前記ケーシングを回転させることで地中埋設物の周囲領域を掘削できるように、前記ケーシングに取り付けられる掘削部材と、前記ケーシング内の前記埋設物と干渉しない退避位置と、前記退避位置よりも前記ケーシングの内方において前記埋設物を支持する支持位置との間で変位できるように、前記ケーシングに変位可能に取り付けられる支持部材と、前記ケーシングに対して前記支持部材を変位させるアクチュエータとを備え、前記掘削の後に前記ケーシングを引き上げることで、前記支持位置に配置された前記支持部材によって支持された前記埋設物を地中から引き抜く地中埋設物の引き抜き装置に適用される。
本発明の地中埋設物の引き抜き装置においては、前記アクチュエータは前記モータの固定子側に取り付けられ、前記アクチュエータの作動部の動きにより前記ケーシングの回転軸方向に変位するように、前記作動部に接続される第1伝動部材と、前記回転軸方向に変位可能かつ前記回転軸まわりに同行回転可能に、前記ケーシングに取り付けられる第2伝動部材と、前記ケーシングに対する前記第2伝動部材の変位に伴い前記支持部材が前記退避位置と前記支持位置との間で変位できるように、前記第2伝動部材と前記支持部材とを接続する接続機構とを備え、前記第1伝動部材と前記第2伝動部材は、前記回転軸方向に同行移動可能かつ前記回転軸まわりに相対回転可能に互いに押し付けられるように、相対向して配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、アクチュエータの作動部の動きにより第1伝動部材がケーシングの回転軸方向に変位すると、第1伝動部材に押し付けられた第2伝動部材がケーシングに対して回転軸方向に変位する。このケーシングに対する第2伝動部材の変位に伴い支持部材がケーシングに対して退避位置と支持位置との間で変位できる。この際、第1伝動部材と第2伝動部材とは回転軸まわりに相対回転可能なので、ケーシングの回転が阻害されることはない。すなわち、ケーシングに対して支持部材を変位させるアクチュエータを掘削用モータの固定子側に取り付けても、ケーシングの回転を阻害することなく、支持部材を退避位置と支持位置との間で変位させることができる。よって、アクチュエータを作動させるための作動油や電力等は掘削用モータの固定子側に供給すれば足りるので、その固定子側と回転子側との間にスイベルジョイントを設ける必要はない。
【0008】
前記第1伝動部材と前記第2伝動部材とが転がり接触するように、両伝動部材の中の少なくとも一方は転動体を有するのが好ましい。これにより、円滑に支持部材をケーシングに対して変位させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構造が簡単で保守管理が容易な低コストの地中埋設物の引き抜き装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る地中埋設物の引き抜き装置を示す側面図
【図2】本発明の実施形態に係る地中埋設物の引き抜き装置におけるアクチュエータの配置を示す正面図
【図3】本発明の実施形態に係る地中埋設物の引き抜き装置におけるアクチュエータの配置を示す側面図
【図4】本発明の実施形態に係る地中埋設物の引き抜き装置における要部の構成説明用断面図
【図5】本発明の実施形態に係る地中埋設物の引き抜き装置における支持部材の構成説明用断面図
【図6】図4のVI−VI線断面図
【図7】図5のVII−VII線断面図
【図8】本発明の第1変形例に係る構成説明図
【図9】本発明の第2変形例に係る構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す本発明の実施形態に係る引き抜き装置1は、トラッククレーンにより例示する走行可能な昇降装置2に掘削用モータ7を介して取り付けられるケーシング11を備え、既設杭等の地中埋設物Pを引き抜くために用いられる。トラッククレーンは、車体3に縦軸まわりに回転駆動可能に取り付けられる旋回台4を有し、旋回台4にブーム5が先端部が上下するように横軸回りに揺動駆動可能かつ伸縮可能に取り付けられている。掘削用モータ7はブーム5の先端部に横軸まわりに揺動可能に取り付けられ、ブーム5が揺動および伸縮することで上下に昇降される。
【0012】
図2、図3に示すように、掘削用モータ7は、固定子と一体のハウジング7aと、回転子と一体の出力シャフト7bを有し、固定子側のハウジング7aがブーム5にカバー8を介して相対揺動可能に連結されている。
【0013】
図4、図5に示すように、ケーシング11は段付き円筒状であって、複数の筒状部材11a、11b、11c、11dを結合することで構成され、上端部に連結シャフト12が補強部材13を介して溶接等により取り付けられている。連結シャフト12がモータ7の出力シャフト7bに同行回転可能かつ軸方向に同行移動可能に連結される。例えば、連結シャフト12が六角柱状とされ、出力シャフト7bに形成された六角孔に挿入され、連結ピンが連結シャフト12と出力シャフト7bに挿通されることで、連結シャフト12と出力シャフト7bは連結される。これにより、ケーシング11はモータ7の回転子側に、モータ7と同行して昇降するように接続されると共に、自身の中心軸を回転軸としてモータ7により回転駆動される。モータ7によりケーシング11を回転させることで埋設物Pの周囲領域を掘削できるように、ケーシング11の下端に掘削部材14として掘削刃が取り付けられている。これにより、ケーシング11は回転軸まわりに回転しつつ埋設物Pを囲むように地中に進入することができる。本実施形態では、連結シャフト12の軸心からケーシング11の外周下部に到る配管15が設けられ、ケーシング11の下端近傍に水等を供給することで、埋設物Pの周囲領域の軟弱化が可能とされている。なお、ケーシング11の地中での推進を補助するため、ケーシング11の外周に螺旋状の羽根16を図5において鎖線で示すように設けてもよい。
【0014】
図5、図7に示すように、ケーシング11の周壁に支持部材21が変位可能に取り付けられている。支持部材21は単一でも複数でもよく、本実施形態では3つとされ、周方向において等間隔で配置されている。各支持部材21は、ケーシング11に固着されたブラケット22に、その両端間において支持シャフト23の軸まわりに揺動可能に取り付けられている。支持シャフト23の軸は、ケーシング11の中心軸の直交面に平行とされている。支持部材21が揺動時にケーシング11と干渉しないように、ケーシング11に開口11′が形成されている。これにより、各支持部材21はケーシング11に対して揺動することで退避位置と支持位置との間で変位可能とされている。その退避位置における支持部材21は、図において鎖線で示すように先端側がケーシング11の周壁に沿い、基端側がケーシング11の外部に位置する姿勢となり、そのケーシング11内の埋設物Pと干渉しない。その支持位置における支持部材21は、図において実線で示すように先端側がケーシング11の内部に突出し、基端側がケーシング11の外部に位置する姿勢となり、掘削の後にケーシング11により囲まれた埋設物Pの端面に対向し、退避位置よりもケーシング11の内方において埋設物Pを支持する。なお、支持位置において支持部材21を埋設物Pの外周面に押し当て、摩擦力により埋設物Pを支持して引き上げるようにしてもよい。
【0015】
図2、図3に示すように、ケーシング11に対して支持部材21を変位させるアクチュエータが、モータ7の固定子側であるハウジング7aに一体化されたカバー8に取り付けられている。本実施形態のアクチュエータは、モータ7を挟むように配置される一対の油圧シリンダ30により構成される。油圧シリンダ30を伸縮させる油圧制御装置(図示省略)は、モータ7の固定子側や昇降装置2側に設けられる。アクチュエータの本体を構成する各油圧シリンダ30のシリンダチューブ30aが、カバー8と一体のブラケット9にリンクピン9aを介して上記回転軸方向に同行移動可能に連結される。
【0016】
アクチュエータの作動部を構成する油圧シリンダ30のピストンロッド30bに第1伝動部材31が、ピストンロッド30bの動きによりケーシング11の回転軸方向に往復変位するように接続されている。すなわち、本実施形態の第1伝動部材31は、偏平な箱形の連結部31aと、連結部31aの下面にボルトにより取り付けられる偏平な円筒状の中間部31bと、中間部31bの下面に溶接等により取り付けられる円筒状延設部31cを有し、連結部31aの上面に一体化されたブラケット31′にピストンロッド30bがリンクピン31″を介して連結される。各油圧シリンダ30のピストンロッド30bの移動方向は上記回転軸方向に沿うものとされる。これにより、第1伝動部材31はアクチュエータ30を介してモータ7の固定子側により支持され、ピストンロッド30bの動きにより上記回転軸方向に変位する。図4に示すように、連結シャフト12と補強部材13は第1伝動部材31と干渉しないように、第1伝動部材31に形成される通孔31eに挿通される。本実施形態では、図3に示すように、油圧シリンダ30の伸縮により第1伝動部材31が円滑に上記回転軸方向に変位するように、カバー8に取り付けられたガイド8aに相対摺動する案内部31dが連結部31aに設けられているが、そのようなガイド8aや案内部31dは必須ではない。また、油圧シリンダ30のシリンダチューブ30aをモータ7の固定子側のハウジング7a等に固定してもよい。
【0017】
図4、図6に示すように、第2伝動部材32がケーシング11の上部に、ケーシング1上記回転軸方向に往復変位可能かつ上記回転軸まわりに同行回転可能に取り付けられている。すなわち、本実施形態の第2伝動部材32は、円筒状の嵌合部32aと、嵌合部32aの内周に取り付けられる規制部32bと、嵌合部32aの上部外周から張り出す上部フランジ32cと、嵌合部32aの下部外周から張り出す下部フランジ32dを有する。嵌合部32aは、ケーシング11の外周に上記回転軸方向に摺動可能に嵌め合わされている。ケーシング11に開口11fが形成されている。開口11fは、単一でも複数でもよく、本実施形態では3つとされ、周方向において等間隔で配置されている。規制部32bは、開口11fと同数とされ、嵌合部32aをケーシング11へ嵌め合わせた後に、開口11f内に嵌め合わされると共に嵌合部32aにボルト、ナットと補強板32eを介して固定される。上記回転軸方向における開口11fの寸法L1は規制部32dの寸法L2よりも大きくされ、ケーシング11の周方向における開口11fの寸法と規制部32dの寸法とは略等しくされている。これにより、上記回転軸方向における開口11fの寸法L1と規制部32dの寸法L2との差に対応する距離L3だけ、第2伝動部材32はケーシング11に対して上記回転軸方向に変位可能とされ、かつ、開口11fの内面と規制部32dの外面とが接することで、第2伝動部材32はケーシング11と上記回転軸まわりに同行回転可能とされている。
【0018】
図4、図5、図7に示すように、ケーシング11に対する第2伝動部材32の上記回転軸方向への変位に伴い支持部材21が前記退避位置と前記支持位置との間で変位できるように、第2伝動部材32と支持部材21とを接続する接続機構40が設けられている。本実施形態の接続機構40は、ケーシング11に対する第2伝動部材32の上記回転軸方向への変位をケーシング11に対する支持部材21の変位に変換するもので、第2伝動部材32の下部フランジ32dに固定された第1連結ロッド40aと、この第1連結ロッド40aの下端にリンクピン40bを介して上端部が連結される第2連結ロッド40cと、第2連結ロッド40cの下端部にリンクピン40dを介して上端部が連結される第3連結ロッド40eを有し、第3連結ロッド40eの下端部が支持部材21の基端側にリンクピン40fを介して連結されている。これにより、第2伝動部材32のケーシング11に対する上記回転軸に沿った一方向(図示例では上方)への変位に伴い、支持部材21はケーシング11に対して退避位置から支持位置へ変位し、上記回転軸に沿った第2伝動部材32の他方向(図示例では下方)への変位に伴い、支持部材21はケーシング11に対して支持位置から退避位置へ変位する。なお、ケーシング11の筒状部材11a、11bを連結するためのフランジに形成された通孔11a′、11b′に第2連結ロッド40cが挿通され、筒状部材11b、11cを連結するためのフランジに形成された通孔11b″、11c″に第3連結ロッド40eが挿通される。各通孔11a′、11b′、11b″、11c″の内面により各連結ロッド40c、40dは上記回転軸方向へ変位するように案内され、また、支持シャフト23の軸まわりに支持部材21が揺動する際に各連結ロッド40c、40dの径方向への僅かの変位が許容されるように、各通孔11a′、11b′、11b″、11c″の内面と各連結ロッド40c、40eとの間に隙間が設けられる。
【0019】
図4、図6に示すように、第1伝動部材31は第1押し付け部31fを有し、第2伝動部材32は第2押し付け部32fを有する。
【0020】
第1押し付け部31fは、複数の第1転動体31f′と複数の第2転動体31f″により構成されている。第1転動体31f′の数は本実施形態では3つとされ、周方向において等間隔で配置されている。各第1転動体31f′は円筒形ローラとされ、第1伝動部材31の中間部31bの下面に取り付けられた保持部材31gに、ケーシング11の径方向に沿う軸回りに回転可能に保持シャフト31hを介して取り付けられている。第2転動体31f″の数は本実施形態では3つとされ、周方向において等間隔で配置されている。各第2転動体31f″は円筒形ローラとされ、第1伝動部材31の延設部31cの下端にボルト等により取り付けられた保持部材31iに、ケーシング11の径方向に沿う軸回りに回転可能に保持シャフト31jを介して取り付けられている。
【0021】
第2押し付け部32fは、第2伝動部材32の上部フランジ32cの上面32f′と下面32f″により構成されている。上部フランジ32cの上面32f′は第1転動体31f′に対向し、上部フランジ32cの下面32f″は第2転動体31f″に対向する。これにより、第1伝動部材31と第2伝動部材32は相対向して配置され、上記回転軸に沿って同行移動可能かつ上記回転軸まわりに相対回転可能に押し付け部31f、32fを介して互いに押し付けられる。本実施形態では、図4に示すように、第1押し付け部31fと第2押し付け部32fとの間には上記回転軸方向の間隔Sが設けられ、第1伝動部材31と第2伝動部材32の相対回転の円滑化が図られているが、そのような間隔Sはなくてもよい。
【0022】
上記引き抜き装置1により地中埋設物Pを引き抜くには、まず、モータ7によりケーシング11を回転させ、そのモータ7を昇降装置2により下降させる。これにより、掘削部材14により埋設物Pの周囲領域を掘削しつつ、ケーシング11を埋設物Pの周囲流域に進入させる。
その掘削に際して油圧シリンダ30が伸長するようにピストンロッド30bを作動させ、このピストンロッド30bの動きにより第1伝動部材31をケーシング11に対して上記回転軸方向に沿って下方へ変位させる。この第1伝動部材31の下方への変位に同行して第2伝動部材32が下方へ変位する。この際、第2伝動部材32の内周とケーシング11の外周との間の摩擦により第2伝動部材32が自重により下方変位しない場合、第1伝動部材31における第1転動体31f′の外周面が、第2伝動部材32における上部フランジ32cの上面32f′に押し付けられた状態で、第2伝動部材32が下方へ変位する。また、第2伝動部材32の内周とケーシング11の外周との間に大きな摩擦が作用しなければ、第1伝動部材31における第2転動体31f″の外周面が、第2伝動部材32における上部フランジ32cの下面32f″に押し付けられた状態で、第2伝動部材32が自重により下方へ変位する。このケーシング11に対する第2伝動部材32の下方変位に伴い支持部材21がケーシング11に対して変位することで、支持部材21を退避位置に配置できる。第2伝動部材32の下方への変位は規制部32bが開口11fの内周下面に接することで規制され、この際、第1転動体31f′の外周面が上部フランジ32cの上面32f′に押し付けられ、規制部32bが開口11fの内周下面に押し付けられることで、支持部材21が退避位置から変位するのを規制できる。
掘削の後に油圧シリンダ30が縮小するようにピストンロッド30bを作動させ、このピストンロッド30bの動きにより第1伝動部材31をケーシング11に対して上記回転軸方向に沿って上方へ変位させる。これにより、第1伝動部材31における第2転動体31f″の外周面を、第2伝動部材32における上部フランジ32cの下面32f″に押し付け、第2伝動部材32を第1伝動部材31と同行してケーシング11に対して上記回転軸方向に沿って上方へ変位させる。このケーシング11に対する第2伝動部材32の上方変位に伴い支持部材21がケーシング11に対して変位することで、支持部材21を支持位置に配置できる。第2伝動部材32の上方への変位は規制部32bが開口11fの内周上面に接することで規制され、この際、第2転動体31f″の外周面が上部フランジ32cの下面32f″に押し付けられ、規制部32bが開口11fの内周上面に押し付けられることで、支持部材21が支持位置から変位するのを規制できる。しかる後に昇降装置2によりモータ7と共にケーシング11を引き上げることで、支持位置に配置された支持部材21によって支持された埋設物Pを地中から引き抜く。
【0023】
上記引き抜き装置1によれば、油圧シリンダ30のピストンロッド30bの動きにより第1伝動部材31がケーシング11の回転軸方向に変位すると、第1伝動部材31に押し付けられた第2伝動部材32がケーシング11に対して回転軸方向に変位する。このケーシング11に対する第2伝動部材32の一方向への変位に伴い支持部材21がケーシング11に対して退避位置から支持位置へ変位でき、また、ケーシング11に対する第2伝動部材32の他方向への変位に伴い支持部材21がケーシング11に対して支持位置から退避位置へ変位できる。この際、第1伝動部材31と第2伝動部材32とは回転軸まわりに相対回転可能なので、ケーシング11の回転が阻害されることはない。すなわち、ケーシング11に対して支持部材21を変位させる油圧シリンダ30を掘削用モータ7の固定子側に取り付けても、ケーシング11の回転を阻害することなく、支持部材21を退避位置と支持位置との間で変位させることができる。よって、油圧シリンダ30を作動させるための作動油は掘削用モータ7の固定子側に供給すれば足りるので、その固定子側と回転子側との間にスイベルジョイントを設ける必要はない。また、第1伝動部材31と第2伝動部材32は転動体31f′、31f″を介して転がり接触するので、円滑に支持部材21をケーシング11に対して変位させることができる。
【0024】
本発明は上記実施形態に限定されない。
例えば、支持部材は揺動するものに限定されず、図8の第1変形例に示すように、支持部材21が上記回転軸に直交する方向(図8における矢印α方向)への直線的移動により支持位置と退避位置との間で変位するようにケーシング11により支持されてもよい。この場合の接続機構40は、例えば支持部材21と同行移動するラック40hと、第2伝動部材と同行して上記回転軸方向へ変位するように第3連結ロッド40eに連結されるラック40iと、両ラック40h、40iに噛み合うようケーシング11に取り付けられるピニオン40jを有するものにより構成できる。他は上記実施形態と同様とすることで、第2伝動部材32の上記回転軸方向に沿う上方変位に伴い支持部材21が退避位置に変位し、第2伝動部材の上記回転軸方向に沿う下方変位に伴い支持部材21が支持位置に変位する。
また、上記実施形態の接続機構40においては、第2伝動部材32と支持部材21の基端側とを連結ロッド40a、40c、40eを介して連結するが、そのような連結ロッド40a、40c、40eに代えて、図9の第2変形例に示すように、第2伝動部材32と支持部材21の基端側とをワイヤ40mにより連結してもよい。他は上記実施形態と同様とすることで、第2伝動部材32の上記回転軸方向に沿う上方変位に伴い支持部材21の基端側にワイヤ40mにより上方への引っ張り力を作用させ、支持部材21を支持位置に変位させることができる。また、第2伝動部材の上記回転軸方向に沿う下方変位に伴い支持部材21の基端側にワイヤ40mにより作用させていた引っ張り力を緩めることで、支持部材21を自重やワイヤ40mの重量等により退避位置に変位させるとができる。なお、図9の(1)は、ワイヤ40mにより上方への引っ張り力を作用させた支持部材21を埋設物Pの外周面に押し当て、支持部材21と埋設物Pとの間の摩擦力により支持した埋設物Pを地面Gの上方まで引き上げた状態を示す。図9の(2)は、ワイヤ40mにより作用させていた引っ張り力を緩めた状態を示す。図9の(2)の状態で、支持部材21が埋設物Pに食い込んで退避位置に変位できない場合がある。そこで、ワイヤ40mを用いて支持部材21を埋設物Pの外周面に押し当てて埋設物Pを支持する場合、埋設物Pの先端がケーシング11の下端よりも下方に突出した状態で支持するのが好ましい。これにより、図9の(2)の状態で昇降装置によりケーシング11を下降させ、埋設物Pを地面Gに衝突させることで、ケーシング11に対して埋設物Pを押し上げる力が作用し、その力により埋設物Pへの支持部材21の食い込みを解除し、支持部材21を退避位置に変位させることができる。
本発明による引抜き対象は地中埋設物であれば既設杭に限定されず、例えば地中に埋設された障害物を本発明の引き抜き装置により引き抜いてもよい。
アクチュエータは油圧シリンダに限定されず、例えば回転シャフトを有する油圧モータでもよく、この場合、その回転シャフトに接続されるピニオンに噛み合うラックを第1伝動部材に取り付け、ピニオンの回転をラックに伝達することで第1伝動部材をケーシングの回転軸方向に変位させてもよい。そのアクチュエータを油圧アクチュエータでなく電動アクチュエータとしてもよい。
上記実施形態では第1伝動部材が転動体を有するが、第2伝動部材が転動体を有するようにしてもよいし、両伝動部材が転動体を有するようにしてもよく、第1伝動部材と第2伝動部材とが転がり接触するように、両伝動部材の中の少なくとも一方が転動体を有するのが好ましい。
昇降装置は掘削用モータを昇降させるものであればトラッククレーンに限定されず、例えばクローラークレーン、三点杭打機、バックホー等を昇降装置として用いてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1…引き抜き装置、2…昇降装置、7…掘削用モータ、11…ケーシング、14…掘削部材、21…支持部材、30…油圧シリンダ(アクチュエータ)、30b…ピストンロッド(作動部)、31…第1伝動部材、31f′、31f″…転動体、32…第2伝動部材、40…接続機構、P…地中埋設物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降装置により昇降される掘削用モータの回転子側に、前記モータにより回転駆動されると共に前記モータと同行して昇降するように接続される筒状ケーシングと、
前記モータにより前記ケーシングを回転させることで地中埋設物の周囲領域を掘削できるように、前記ケーシングに取り付けられる掘削部材と、
前記ケーシング内の前記埋設物と干渉しない退避位置と、前記退避位置よりも前記ケーシングの内方において前記埋設物を支持する支持位置との間で変位できるように、前記ケーシングに変位可能に取り付けられる支持部材と、
前記ケーシングに対して前記支持部材を変位させるアクチュエータとを備え、
前記掘削の後に前記ケーシングを引き上げることで、前記支持位置に配置された前記支持部材によって支持された前記埋設物を地中から引き抜く地中埋設物の引き抜き装置において、
前記アクチュエータは前記モータの固定子側に取り付けられ、
前記アクチュエータの作動部の動きにより前記ケーシングの回転軸方向に変位するように、前記作動部に接続される第1伝動部材と、
前記回転軸方向に変位可能かつ前記回転軸まわりに同行回転可能に、前記ケーシングに取り付けられる第2伝動部材と、
前記ケーシングに対する前記第2伝動部材の変位に伴い前記支持部材が前記退避位置と前記支持位置との間で変位できるように、前記第2伝動部材と前記支持部材とを接続する接続機構とを備え、
前記第1伝動部材と前記第2伝動部材は、前記回転軸方向に同行移動可能かつ前記回転軸まわりに相対回転可能に互いに押し付けられるように、相対向して配置されていることを特徴とする地中埋設物の引き抜き装置。
【請求項2】
前記第1伝動部材と前記第2伝動部材とが転がり接触するように、両伝動部材の中の少なくとも一方は転動体を有する請求項1に記載の地中埋設物の引き抜き装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−31569(P2012−31569A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169084(P2010−169084)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【特許番号】特許第4748692号(P4748692)
【特許公報発行日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(510206132)株式会社山縣建設 (1)
【Fターム(参考)】