説明

地中壁の構築方法、及び地中壁の芯材の引抜き方法

【課題】セメント系固化材で形成された壁体から該壁体に埋設された芯材を引抜く際における、芯材の引抜きに対する壁体の摩擦抵抗力を低下させることができる方法を提供する。
【解決手段】セメント系固化材で壁体2が形成され、該壁体2に鋼製の芯材3が埋設された土留め壁1を構築する方法であって、セメント系固化材が硬化する前に、引抜き対象の芯材3に直流電源14の負極を、他の芯材3又は地盤に埋設した鋼材11に直流電源14の正極を接続し、直流電源14により引抜き対象の芯材3と、他の芯材3又は鋼材11との間に直流電圧を印加する工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系固化材で壁体が形成され、該壁体に鋼製の芯材が埋設された地中壁の構築方法、該地中壁の芯材の引抜き方法、該引抜き方法を用いる地下水流路の形成方法、及びシールド機の進路の開放方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設されている複数の鋼材を引抜く方法として、引抜き対象の鋼材に直流電源の負極を、他の鋼材に直流電源の正極を接続してこれらに直流電圧を印加してから、引抜き対象の鋼材を引抜く方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この鋼材の引抜き方法では、直流電圧を印加された一対の鋼材の間に電気浸透流が生じ、引抜き対象の鋼材の周囲に水分が集まることにより、鋼材の引抜きに対する地盤の摩擦抵抗力が低下し、鋼材の引抜きが容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3198598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ソイルセメント地下連続壁工法(以下、SMW工法という)を用いて構築された地中壁から芯材を引抜くことがある。この場合に、上述の引抜き方法を適用すると、引抜き対象の芯材に直流電源の負極を接続し、地中壁から離れた位置に打設した鋼材あるいは引抜き対象ではない芯材に直流電源の正極を接続して、これらに直流電圧を印加することになる。しかしながら、ソイルセメントで形成された止水性の高い壁体により、正極から負極への水分の移動が妨げられるため、芯材の引抜きに対する壁体の摩擦抵抗力を低下させることができない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セメント系固化材で形成された壁体から該壁体に埋設された芯材を引抜く際における、芯材の引抜きに対する壁体の摩擦抵抗力を低下させることができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、地中壁の構築方法は、セメント系固化材で壁体が形成され、該壁体に鋼製の芯材が埋設された地中壁を構築する方法であって、前記セメント系固化材が硬化する前に、引抜き対象の芯材に直流電源の負極を、他の芯材又は地盤に埋設した電極に直流電源の正極を接続し、前記直流電源により前記引抜き対象の芯材と、前記他の芯材又は前記電極との間に直流電圧を印加する工程を実施することを特徴とする。
【0007】
また、地中壁の芯材の引抜き方法は、前記の地中壁の構築方法を用いて構築された前記地中壁から前記引抜き対象の芯材を引く抜くことを特徴とする。
【0008】
また、地下水流路の形成方法は、前記の地中壁の芯材の引抜き方法を用いて、前記地中壁の一部の前記芯材を前記壁体から引抜き、前記地中壁の前記芯材を引抜いた部分の前記壁体を切除することにより、前記地中壁に地下水流路を形成することを特徴とする。
【0009】
また、シールド機の進路の開放方法は、前記の地中壁の引抜き方法を用いて、シールドトンネルの発進立坑の壁面を構成する前記地中壁の一部の芯材を、シールド機の前記発進立坑からの進路から引き上げることにより、前記進路を開放することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント系固化材で形成された壁体から該壁体に埋設された芯材を引抜く際における、芯材の引抜きに対する壁体の摩擦抵抗力を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態に係る地中壁の構築方法を用いて構築する土留め壁を示す立面図である。
【図2】土留め壁を示す平面図である。
【図3】土留め壁の切除対象部分内の芯材を引抜いている状態を示す立面図である。
【図4】土留め壁の切除対象部分の壁体を切除した状態を示す立面図である。
【図5】他の実施形態に係る地中壁の構築方法を説明するための平面図である。
【図6】他の実施形態に係る地中壁の構築方法を用いて構築する土留め壁を示す立面図である。
【図7】土留め壁の切除対象部分をシールド機の進路から引上げている状態を示す立面図である。
【図8】土留め壁の切除対象部分の芯材を引き抜いた後の状態を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る地中壁の構築方法を用いて構築する土留め壁1を示す立面図であり、図2は、当該土留め壁1を示す平面図である。これらの図に示すように、土留め壁1は、SMW工法を用いて構築されており、セメント系固化材としてのセメントミルクと土とを混合攪拌して形成されたソイルセメント製の壁体2と、壁体2に埋設された多数の鋼製の芯材3とにより構成されている。
【0013】
芯材3は、H型鋼であり、多数の芯材3は、所定間隔おきに横方向に配されている。また、壁体2及び芯材3は、地盤4の粘土層5まで延びており、止水壁である壁体2と粘土層5とにより地下水の流れが塞き止められる。
【0014】
ここで、土留め壁1よりも地下水流の下流側における地下水位が、土留め壁1よりも地下水流の上流側における地下水位よりも低くなるところ、該下流側に井戸が存在するような場合には、該下流側における地下水位を一定以上に保つ必要がある。このため、例えば、地下鉄線路等に沿って土留め壁1を構築する場合等、土留め壁1を長距離に亘って構築するような場合には、地下鉄線路等の工事終了後に、土留め壁1の一部を切除することにより、土留め壁1の一部に地下水流路を形成する。そこで、土留め壁1の一部を切除する工程の施工性を向上させることを目的として、以下に説明する方法を用いて土留め壁1を構築する。
【0015】
まず、現位置攪拌方式や置換方式や安定液固化方式等の方法を用いて、地中にソイルセメント製の壁体2を造成し、ソイルセメントが硬化する前の壁体2に芯材3を挿入する。そして、以下の工程をソイルセメントの硬化前に実施する。
【0016】
当該工程では、まず、鋼製の長尺部材である断面形状がハット型の鋼材11を、土留め壁1の切除対象部分6から所定間隔の位置に、土留め壁1の下端が位置する深さまで延びるように打設する。また、鋼材11を、土留め壁1の切除対象部分6の幅方向中央部に対向するように打設する。
【0017】
また、土留め壁1の切除対象部分6に含まれる複数の芯材3の上端に、鋼製の棒材12を取り付け、複数の芯材3を棒材12により電気的に結線する。また、鋼材11には、直流電源14の正極を接続し、土留め壁1の切除対象部分6に含まれる複数の芯材3には、直流電源14の負極を接続する。そして、直流電源14により、鋼材11と切除対象部分6に含まれる互いに導通可能な複数の芯材3との間に、直流電圧を印加する。
【0018】
ここで、通常の地盤は、相当量の水分と相当量の電解質とを含んでいる。このため、正極に接続された鋼材11と負極に接続された切除対象部分6内の複数の芯材3との間に直流電圧を印加すると、鋼材11から切除対象部分6内の複数の芯材3への電気浸透流が生じ、鋼材11と切除対象部分6との間の水分が、切除対象部分6内の芯材3の周囲に集まる。
【0019】
これにより、切除対象部分6内の芯材3と壁体2との境界部に、水分層が形成される。即ち、壁体2のソイルセメントが硬化することにより土留め壁1の構築が完了した後に、切除対象部分6内の芯材3が壁体2から縁切りされた状態となる。その後、土留め壁1の片側を掘削して所定の基礎工事を実施し、次に、土を埋め戻し、最後に、切除対象部分6の芯材3を引抜く。その時、切除対象部分6内の芯材3と壁体2との付着力が低下され、切除対象部分6内の芯材3の引抜きに対する壁体2の摩擦抵抗力が低下される。なお、電圧値、電圧印加時間や鋼材11と土留め壁1との間隔等は、土留め壁1の打設深さ、切除対象部分6の幅、ソイルセメント及び地盤の水分量や電解質の含有量等を考慮して設定する。ここで、ソイルセメントが硬化するまでの時間や、電気浸透流の発生度合いを予め実験で求めておき、その実験結果に応じて、電圧値や電圧印加時間等を設定する。
【0020】
図3は、土留め壁1の切除対象部分6内の芯材3を引抜いている状態を示す立面図である。この図に示すように、切除対象部分6に含まれる芯材3を、ソイルセメントが硬化した状態の壁体2から1本ずつ引抜く。この際、芯材3は、不図示の油圧式圧入機(サイレントパイラー)や不図示のクレーン等を用いて引抜く。なお、クレーンを用いて芯材3を引抜く場合には、芯材3の頭部にクレーンのフックを引掛けるための孔を空けておく必要がある。
【0021】
図4は、土留め壁1の切除対象部分6の壁体2を切除した状態を示す立面図である。この図に示すように、壁体2における芯材3が引抜かれた部分を、機械式掘削工法等により掘削して切除する。これにより、土留め壁1に地下水流路が形成される。
【0022】
ここで、本実施形態では、土留め壁1を構築する際、壁体2のソイルセメントが硬化する前に、切除対象部分6の近傍に打設された鋼材11から切除対象部分6内の芯材3への電気浸透流を生じさせた。これにより、切除対象部分6内の芯材3を、ソイルセメントが硬化した状態の壁体2から引抜く工程を、芯材3と壁体2との付着力が低下され、芯材3の引抜きに対する壁体2の摩擦抵抗力が低下された状態で実施できる。従って、土留め壁1の切除対象部分6に含まれる芯材3を壁体2から引抜く作業を容易化できる。
【0023】
また、土留め壁1の一部を切除する工程を、壁体2の切除部分に芯材3が存在せずにソイルセメントのみが存在するという状態で実施でき、当該工程では、ソイルセメントを掘削して切除するのみで足り、芯材3を切断したりする作業を不要にできる。従って、土留め壁1の一部を切除する作業を容易化できる。
【0024】
図5は、他の実施形態に係る地中壁の構築方法を説明するための平面図である。この図に示すように、本実施形態に係る土留め壁1の構築方法では、壁体2のセメントが硬化する前に以下の工程を実施する。
【0025】
当該工程では、まず、土留め壁1の切除対象部分6に含まれる複数の芯材3の上端に、鋼製の棒材12を取り付け、複数の芯材3を棒材12により電気的に結線する。また、土留め壁1の切除対象部分6に含まれる複数の芯材3に直流電源14の負極を接続し、土留め壁1の切除対象部分6の外側の芯材3に直流電源14の正極を接続する。そして、直流電源14により、切除対象部分6の外側の芯材3と切除対象部分6に含まれる互いに導通可能な複数の芯材3との間に、直流電圧を印加することによって、切除対象部分6の外側の芯材3から切除対象部分6内の複数の芯材3への電気浸透流を生じさせる。
【0026】
これにより、切除対象部分6内の複数の芯材3が壁体2から縁切りされた状態となる。その後、壁体2のソイルセメントが硬化することにより土留め壁1の構築が完了すると、土留め壁1の片側を掘削して所定の基礎工事を実施し、次に、土を埋め戻し、最後に、切除対象部分6の芯材3を引抜く。その時、切除対象部分6内において、芯材3と壁体2との付着力が低下され、芯材3の引抜きに対する壁体2の摩擦抵抗力が低下される。
【0027】
図6は、他の実施形態に係る地中壁の構築方法を用いて構築する土留め壁101を示す立面図である。この図に示すように、土留め壁101は、ソイルセメント製の壁体2と、壁体2に埋設された多数の鋼製の芯材3とにより構成されており、シールドトンネルの工事で構築されるシールド機(不図示)の発進立坑7の壁面を構成する。ここで、土留め壁101の芯材の一部は、シールド機の進路8を塞いでおり、本実施形態では、土留め壁101の一部を切除することによりシールド機の進路8を開放する。そこで、土留め壁101の一部を切除する工程の施工性を向上させることを目的として、土留め壁101を構築する際であって、壁体2のソイルセメントが硬化する前に以下の工程を実施する。
【0028】
まず、土留め壁101の外周側の壁面に面して鋼製の長尺部材である鋼材111を打設する。また、鋼材111を、土留め壁101の引上げ対象部分から所定間隔の位置に、土留め壁101の下端が位置する深さまで延びるように打設する。また、鋼材111を、土留め壁101の引上げ対象部分の幅方向(横方向)中央部に面して打設する。
【0029】
また、鋼材111には、直流電源14の正極を接続し、土留め壁101の引上げ対象部分内の芯材3には、直流電源14の負極を接続する。そして、直流電源14により、鋼材111と土留め壁101の引上げ対象部分に挿入された芯材3との間に、直流電圧を印加することによって、鋼材111から土留め壁101の引上げ対象部分に挿入された芯材3への電気浸透流を生じさせる。
【0030】
これにより、土留め壁101の引上げ対象部分において芯材3が壁体2から縁切りされた状態となる。その後、壁体2のソイルセメントが硬化することにより土留め壁101の構築が完了すると、土留め壁101の内側を掘削して発進立坑7を構築し、次に、引上げ対象部分6の芯材3を引抜く。その時、土留め壁101の引上げ対象部分において、芯材3と壁体2との付着力が低下され、芯材3の引抜きに対する壁体2の摩擦抵抗力が低下される。
【0031】
図7は、土留め壁101の切除対象部分をシールド機の進路8から引上げている状態を示す立面図である。この図に示すように、土留め壁101の引上げ対象部分内の芯材3を1本ずつシールド機の進路8から引上げる。この際、芯材3は、油圧式圧入機(サイレントパイラー)やクレーン等を用いて引上げる。
【0032】
図8は、土留め壁101の切除対象部分の芯材3を引き抜いた後の状態を示す立面図である。この図に示すように、壁体2における芯材3が引抜かれることにより、シールド機の進路8が開放され、シールド機による掘進が開始される。
【0033】
ここで、本実施形態では、土留め壁101を構築する際、壁体2のソイルセメントが硬化する前に、引上げ対象部分の近傍に埋設された鋼材111から切除対象部分内の芯材3への電気浸透流を生じさせた。これにより、引上げ対象部分内の芯材3を、ソイルセメントが硬化した状態の壁体2から引上げる工程を、芯材3と壁体2との付着力が低下され、芯材3の引抜きに対する壁体2の摩擦抵抗力が低下された状態で実施できる。従って、土留め壁101の引上げ対象部分に含まれる芯材3をシールド機の進路8から引上げる作業を容易化できる。
【0034】
また、土留め壁101の一部を切除する工程を、壁体2の切除部分に芯材3が存在せずにソイルセメントのみが存在するという状態で実施でき、当該工程では、ソイルセメントをシールド機により掘削して切除するのみで足り、芯材3を切断したりする作業を不要にできる。従って、土留め壁101の一部を切除する作業を容易化できる。
【0035】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、ソイルセメントにより形成された壁体2にH型鋼である芯材3が埋設された構成の土留め壁1、101を例に挙げて本発明を説明したが、壁体2を形成するセメント系固化材の組成や鋼製の芯材3や鋼材11の形状は適宜選択すればよい。また、上述の実施形態では、電極として鋼材を用いたが、他の金属や炭素等の材料で形成された部材を電極として用いてもよい。さらに、上述の実施形態では、鋼材を地中壁の打設深さまで打設したが、鋼材の打設深さは、地中壁の打設深さより浅くてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 土留め壁、2 壁体、3 芯材、4 地盤、5 粘土層、6 切除対象部分、7 発進立坑、8 進路、11 鋼材(電極)、12 棒材、14 直流電源、101 土留め壁、111 鋼材(電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系固化材で壁体が形成され、該壁体に鋼製の芯材が埋設された地中壁を構築する方法であって、
前記セメント系固化材が硬化する前に、引抜き対象の芯材に直流電源の負極を、他の芯材又は地盤に埋設した電極に直流電源の正極を接続し、前記直流電源により前記引抜き対象の芯材と、前記他の芯材又は前記電極との間に直流電圧を印加する工程を実施することを特徴とする地中壁の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地中壁の構築方法を用いて構築された前記地中壁から前記引抜き対象の芯材を引く抜くことを特徴とする地中壁の芯材の引抜き方法。
【請求項3】
請求項2に記載の地中壁の芯材の引抜き方法を用いて、前記地中壁の一部の前記芯材を前記壁体から引抜き、前記地中壁の前記芯材を引抜いた部分の前記壁体を切除することにより、前記地中壁に地下水流路を形成することを特徴とする地下水流路の形成方法。
【請求項4】
請求項2に記載の地中壁の引抜き方法を用いて、シールドトンネルの発進立坑の壁面を構成する前記地中壁の一部の芯材を、シールド機の前記発進立坑からの進路から引き上げることにより、前記進路を開放することを特徴とするシールド機の進路の開放方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−214980(P2012−214980A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79241(P2011−79241)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】