説明

地中孔の施工方法

【課題】掘削流体を用いて地中孔を掘削するにあたって、地中孔の土被りが小さくなる部位で掘削流体が地表に噴出したり、地中孔の周囲に不安定な地層が存在する区域で掘削流体が地中に散逸して、土壌や地下水や湖水や河水や海水等を汚染することを防止する。
【解決手段】掘削流体を用いて地中孔10を掘削するに当り、掘削流体が地中孔10の周囲の地中20に散逸するおそれのある区域または地表21に噴出するおそれのある部位に、掘削流体を抜取るボーリング孔41,42を予め設け、地中孔10を掘削して地中孔10とボーリング孔41,42とを連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中孔の施工方法に関し、さらに詳しくは、弧状推進工法等により掘削流体を用い地中に地中孔を形成する場合に、掘削流体、例えば、ベントナイト混入泥水等が地中孔の周囲の地中に散逸したり地表に噴出して、土壌、地下水、湖水、河水、海水等を汚染することを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に導水管路等の地中管を布設する技術として、地表から地中に任意の計画曲線の管路を掘削する弧状推進工技術がある(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
この技術によれば、ドリルパイプの先端に掘削ツールを装着して、地表から地中に進入する計画曲線に沿って、所望の孔の方位、傾斜、位置に応じて孔の軌跡を調整しながら、河川の下や海底下や山地の地中の岩石層を通る掘削孔を掘削することができる。
【0004】
弧状推進工の掘削流体は、通常、掘削ツールのドリルパイプ内側から先端の掘削ビットのノズルを通過して、地中孔内とドリルパイプ外側との間を通って発進点に戻り、循環利用する。
【0005】
このような地中孔の施工に当って、例えば到達点付近に代表される地中孔の土被りが小さくなる部位、あるいは、亀裂・破砕・風化・緩み・みずみち等がある不安定な地層が存在する区域では、地層中の間隙または弱点となる部分に掘削流体が侵入することにより、地中孔の周囲の地中に散逸したり地表に噴出することがあり、掘削流体の循環利用ができなくなることがある。また掘削流体による汚染によって、産業廃棄物処理の実施が必要となったり、地下水や海水の汚濁など環境汚染となることがある。
【0006】
このような問題を回避するための従来技術として、地中孔の計画コースの地質を安定固化させる地盤改良工法が知られている。地盤改良はセメント系改良材、薬液注入等により地盤を固化させ、掘削流体の散逸または噴出を防止する技術である。
【0007】
この技術は、施工可能な地域が限定されること、施工時間が長期となること、施工範囲が大規模となること等から工費も高く、実際に適用されることは非常に少ない。
【特許文献1】特開平10―317883号公報
【特許文献2】特許第3542108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、掘削流体を用いて地中孔を掘削するにあたって、地中孔の土被りが小さくなる部位で掘削流体が地表に噴出したり、地中孔の周囲に不安定な地層が存在する区域で掘削流体が地中に散逸して、土壌や地下水や湖水や河水や海水等を汚染することを防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、掘削流体を用いて地中孔を掘削するに当り、その掘削流体が地中孔の周囲の地中に散逸するおそれのある区域または地表に噴出するおそれのある部位に、上記掘削流体を抜取る手段を予め設け、上記地中孔を掘削してその地中孔と上記手段とを連通させることを特徴とする地中孔の施工方法である。
【0010】
上記本発明において、具体的手段として前記掘削流体を排出するボーリング孔または流体排出路を備えた空洞を採用すると好適である。
【0011】
具体的手段としてボーリング孔を採用する場合、地中孔の予定推進経路に複数本のボーリング孔を予め設けておき、弧状推進工で進行方向を制御しながらボーリング孔と交差するか又はその近傍を通るように地中孔をコントロール掘削し、ボーリング孔に到達する以前より不安定な地層中(亀裂・破砕・風化・緩み・みずみち等)からボーリング孔へ掘削流体を導く。この掘削流体を地表に自噴させたり、ポンプなどといった排出手段を設けて汲み上げることにより、掘削流体が地中孔の周囲の地中に散逸したり地表に噴出することが防止される。
【0012】
また、特に高所から低所に向う地中孔を施工する場合などでは、具体的手段として流体排出路を備えた空洞を予め設けておき、この空洞に到達するように地中孔の経路を調節し、掘削流体をこの空洞内に導入し、この空洞に設けた流体排出路から掘削流体を排出する。
【0013】
回収された掘削流体は、排水処理装置などによって処理され、掘削流体が環境を汚染することはなくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弧状推進工法等により地中孔を掘削する場合に、掘削流体が地中孔の周囲の地中に散逸するおそれがある区域または地表に噴出するおそれのある部位で、散逸または噴出を防止することが容易に可能となった。このため環境汚染等を生ずることなく、亀裂・破砕・風化・緩み・みずみち等がある不安定な地層等に地中孔を構築することが可能となり、寄与するところが大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施例を示す施工図であり、図2は、図1のC部拡大図であり、図3は、到達点B近傍の平面図である。
【0017】
この実施例は、海峡30下を横断する水道配水管を布設するための地中孔10の到達点B近傍の海岸付近において、海上部に掘削流体の漏出が懸念される地中孔10の施工例である。地中孔10の到達点B近傍に地表21からボーリング孔40を穿削し、この待ち受けボーリング孔40へ掘削流体を導き回収した。この結果、海上部への掘削流体の漏出を防ぐことが可能である。
【0018】
具体的には、まず、到達点Bから例えば10m発進点A側に戻った地表21に、内面コンクリートの排水ピット51を施工する。
【0019】
次に、排水ピット51から、例えば4本のボーリング孔41(例えばφ116mm、L=7.5m)を、地中孔10(例えばφ216mm)の掘削コース上に例えば200mmの間隔で横並び(千鳥状)に穿削する。
【0020】
また、到達点Bから例えば3m発進点A側に戻った地点に、例えば4本のボーリング孔42(例えばφ116mm、L=4m)を、地中孔10の掘削コース上に例えば200mmの間隔で横並び(千鳥状)に穿削する。尚、これら4本のボーリング孔42は地表21から施工する。また、これら4本のボーリング孔42を施工した地表21から排水ピット51に通じるコンクリート水路52を形成する。
【0021】
尚、ボーリング孔41,42は、上述したφ116mmに限らず、大口径のボーリング孔(φ200mm〜φ500mm)や小口径のボーリング孔(φ80mm〜φ150mm)であってもよい。
【0022】
次に、掘削流体を吸引するためのバキュームポンプ61をボーリング孔41,42の近傍に設置し、吸い込み用配管62をボーリング孔41,42内に入れ、バキュームポンプ61と連結する。
【0023】
このようにして施工したボーリング孔41,42は、地中孔10の掘削コースに対して4本で1.46mの幅を持つため、地中孔10は必ず1本もしくは2本のボーリング孔41,42を通過することとなる。
【0024】
以上説明した各工程は、準備工として、地中20を掘削してなる地中孔10が、ボーリング孔41,42に到達する前に行う。
【0025】
地中20を掘削してきた地中孔10が、到達点Bから10m発進点A側に戻った地点に予め施工した4本のボーリング孔41と交差するか又はその近傍を通るように調整することにより、まず、それら4本のボーリング孔41の1本もしくは2本に当たり、この1本もしくは2本のボーリング孔41を通して、掘削流体をバキュームポンプ61で排水ピット51へ汲み出す。
【0026】
さらに地中20を掘削してきた地中孔10が、上記4本のボーリング孔41よりも到達点B側に予め施工した4本のボーリング孔42と交差するか又はその近傍を通るように調整することにより、それら4本のボーリング孔42の1本もしくは2本に当たり、この1本もしくは2本のボーリング孔42を通して、掘削流体をバキュームポンプ61で地表21に汲み出し、汲み出した掘削流体をコンクリート水路52を通して排水ピット51ヘ導く。
【0027】
これら8本のボーリング孔41,42により、掘削流体は外部に流出することなく全て排水ピット51に回収される。
【0028】
このようにして排水ピット51に回収した掘削流体は、例えばサンドポンプ63でタンク70に導き、凝集剤(PAC)と混合させ濁質を凝集し沈殿させる。沈殿させた後のうわ水は、pH値を放流基準値(5.8〜8.6)に調整し放流する。タンク70に沈殿した掘りクズは、削孔終了後に土嚢袋に収容して回収処分する。尚、回収した掘削流体の処理方法は、このような、凝集剤と混合させ濁質を凝集し沈殿させた後のうわ水を放流基準値に調整し放流し、沈殿した掘りクズを土嚢袋に収容して回収処分する処理方法に限らず、例えば発進点Aに戻して再利用したり、薬液を混合して凝固させて回収処分してもよい。
【0029】
計8本のボーリング孔41,42は、弧状推進工の本管引き込み後にセメントミルク等で充填し閉塞させる。
【0030】
以上説明したように、地中孔10の到達点B付近手前の掘削コース上にボーリング孔41,42を複数本施工しておき、地中孔10内の掘削流体をボーリング孔41,42から導き回収することによって、外部へ漏出させない閉回路システムを構成した。
【0031】
図4,5は、標高差のある山岳地帯の高所側から低所側へ向う地中孔の施工に本発明を適用する例を示した図である。
【0032】
地中孔11の経路に標高差がある場合等は、図4に示すように到達点Eに密閉された空洞を有する箱型構造物81を設けておき、その箱型構造物81内に流入した掘削流体を回収したり、図5に示すように、地中孔11の到達点Eに密閉された空洞を有する箱型構造物81を設けるとともに、地中孔11の経路途中Fにボーリング孔43を設けておき、その箱型構造物81内に流入した掘削流体を回収したり、ボーリング孔43を通して掘削流体を回収する。
【0033】
ここで、図5に示す例における、経路途中Fに設けたボーリング孔43は、図2,図3を参照して説明したボーリング孔41,42と同様に施工されたものであり、経路途中Fにおける掘削流体は、ボーリング孔43を通してタンク70に汲み出される。尚、ボーリング孔43を通して掘削流体をタンク70に汲み出す手順は、図2,図3を参照して説明した、ボーリング孔41を通して掘削流体をタンク70に汲み出す手順と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。そして、経路途中Fにおいてタンク70に汲み出された掘削流体は、例えば、架設パイプ90を通して発進点Dに戻して再利用されたり、排水処理装置などによって処理されたり、薬液を混合して凝固させて回収処分される。
【0034】
以下、図6〜図8を参照して、箱型構造物81について詳細に説明する。
【0035】
図6は、図4,5に示す箱型構造物81の平面図であり、図7は、図6に示すG−G断面図である。また、図8は、地中孔11の箱型構造物81への到達手順を説明する図である、
図6,図7に示すように、箱型構造物81は、密閉された空洞811を有し、空洞811は、外部に通じる流体排出路812を備えている。また、流体排出路812には、排出流量を調整するコック8121が備えられている。また、箱型構造物81の近傍にタンク71を設置し、箱型構造物81に備えられた流体排出路812とタンク71とを配管72で連結する。
【0036】
この箱型構造物81の施工は、地中20を掘削してなる地中孔11が、箱型構造物81に到達する前に行う。
【0037】
箱型構造物81の施工が完了した後、図8に示すように、地中20を掘削してきた地中孔11を、その箱型構造物81に突き当て、さらに箱型構造物81を穿削して、地中孔11と箱型構造物81の空洞811とを連通させる。
【0038】
そして、掘削流体を箱型構造物81の密閉された空洞811内に導き、タンク71に通じる流体排出路812に備えられたコック8121を調整して、掘削流体の圧力を低下させることにより、外部へ掘削流体を漏出させることなくタンク71に掘削流体を回収することが可能となる。そして、到達点Eにおいてタンク71に回収された掘削流体は、例えば、発進点Dに運搬されて再利用されたり、排水処理装置などによって処理されたり、薬液を混合して凝固させて回収処分される。
【0039】
以上、図4〜図8を参照して説明した実施例は、例えば、水力発電所の導水管を山地の地中を通って施工する場合などに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例を示す施工図である。
【図2】図1のC部拡大図である。
【図3】到達点B近傍の平面図である。
【図4】標高差のある山岳地帯の高所側から低所側へ向う地中孔の施工に本発明を適用する例を示した図である。
【図5】標高差のある山岳地帯の高所側から低所側へ向う地中孔の施工に本発明を適用する例を示した図である。
【図6】図4,5に示す箱型構造物の平面図である。
【図7】図6に示すG−G断面図である。
【図8】地中孔の箱型構造物への到達手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
10,11 地中孔
20 地中
21 地表
30 海峡
40,41,42,43 ボーリング孔
51 排水ピット
52 コンクリート水路
61 バキュームポンプ
62 吸い込み用配管
63 サンドポンプ
70,71 タンク
72 配管
81 箱型構造物
811 空洞
812 流体排出路
90 架設パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削流体を用いて地中孔を掘削するに当り、該掘削流体が地中孔の周囲の地中に散逸するおそれのある区域または地表に噴出するおそれのある部位に、前記掘削流体を抜取る手段を予め設け、前記地中孔を掘削して該地中孔と前記手段とを連通させることを特徴とする地中孔の施工方法。
【請求項2】
前記手段は前記掘削流体を排出するボーリング孔または流体排出路を備えた空洞であることを特徴とする請求項1記載の地中孔の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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