説明

地中挿入用具

【課題】
地中に貫入された試錐管内で頻繁に移動させることなく汚染土壌の浄化作業等を行うことができる地中挿入用具を提供することを目的とする。
【解決手段】
地中に貫入された試錐管23内に地中挿入用具1を挿入して汚染土壌の浄化作業等を行う。地中挿入用具1は、1本の外管3と、外管3に嵌合された複数の膨張管5a,5b,5c,5dと、外管3内に挿入された複数の第1内管7a,7b,7cと第2内管とを備える。複数の膨張管と外管3とのそれぞれの間隙に外部と気密に区画された区画室13a,13b,13c,13dをそれぞれ形成する。外管3内と外部とを連通する第1連通孔15aを各膨張管の間の外管3にそれぞれ穿設する。各膨張管に対応する外管3の部位に、各区画室と外管3内とを連通する第2連通孔をそれぞれ穿設する。複数の第1内管と各第1連通孔とをそれぞれ個別に連通させる。各第2連通孔を介して各区画室と第2内管とをそれぞれ連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に貫入された試錐管内に挿入して汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の少なくとも何れか一方の作業を行うための地中挿入用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されている従来の地中挿入用具は、1本の流体流通管と1本のエアー供給管とを並列に配置し、その両管に複数の風船室を上下に離間させて設けた移動体ユニットとして構成され、該移動体ユニットは、浄化用パイプ内に挿入したのち、浄化用パイプの長手方向に所定の間隔を隔てて設けられた複数の連通孔のうち何れか所望の連通孔の位置に移動体ユニットを移動させて浄化作業を行い、その連通孔の位置での浄化作業が終了すると、他の連通孔の位置に移動体ユニットを再び移動させて浄化作業を行うようにしている。
【特許文献1】特開2007−61663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の地中挿入用具を使用して地中の汚染土壌の浄化作業を行うには、浄化用パイプの複数の連通孔のうち何れか所望の連通孔の位置に移動体ユニットを移動させて浄化作業を行った後、他の連通孔の位置で浄化作業を行うには該連通孔の位置に移動体ユニットを再び移動させなければならず、浄化作業が面倒であるという問題があった。
【0004】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、地中に貫入された試錐管内に地中挿入用具を挿入して汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の少なくとも何れか一方の作業を行うときに、試錐管内で地中挿入用具を頻繁に移動させることなく作業を行うことができる地中挿入用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明に係る地中挿入用具は、地中に貫入された試錐管内に挿入され、前記試錐管の長手方向中途部に穿設された貫通孔を介して汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の少なくとも何れか一方の作業を行うための地中挿入用具において、外管と、前記外管の長手方向に所定の間隔を隔てて前記外管の外周に嵌合され、拡径可能な弾性材料からなる複数の膨張管と、前記外管内に挿入された複数の第1内管と、前記外管内に挿入された第2内管とを備え、前記複数の膨張管のそれぞれの両端部が前記外管の外周に気密に緊縛され、かつ、前記複数の膨張管と前記外管とのそれぞれの間隙に外部と気密に区画された区画室がそれぞれ形成され、前記外管の長手方向において前記各膨張管が隣り合う間の前記外管の部位に、前記外管内と外部とを連通する第1連通孔がそれぞれ穿設され、前記各膨張管に対応する前記外管の部位に、前記各区画室と前記外管内とを連通する第2連通孔がそれぞれ穿設され、前記複数の第1内管と前記各第1連通孔とをそれぞれ個別に連通させる一方、前記各第2連通孔を介して前記各区画室と前記第2内管とをそれぞれ連通させたものである。
【0006】
請求項2に記載した発明に係る地中挿入用具は、請求項1に記載の地中挿入用具において、前記複数の第1内管と前記第2内管とを前記外管内に挿入したのち、前記両内管と前記外管との間隙に樹脂等からなる充填材を充填して、前記充填材が固化することで前記複数の第1内管と前記第2内管と前記外管とを一体化し、その後、前記各第1連通孔と前記各第2連通孔とを孔開け工具によりそれぞれ穿設すると共に、前記各第1連通孔に対してそれぞれ同軸に第3連通孔を孔開け工具により前記第1内管にそれぞれ穿設して前記複数の第1内管と前記各第1連通孔とをそれぞれ個別に連通させる一方、前記各第2連通孔に対してそれぞれ同軸に第4連通孔を孔開け工具により前記第2内管にそれぞれ穿設して前記各区画室と前記第2内管とをそれぞれ連通させるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の第1内管と各第1連通孔とをそれぞれ個別に連通させたので、地中に貫入された試錐管内に地中挿入用具を挿入して汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の少なくとも何れか一方の作業を行うときに、該作業を各第1内管ごとに個別に行うことができる。このため、複数の第1内管のうちの1つの第1内管を選択して浄化剤の供給等の作業を行ったのち、他の第1内管に切り替えて同作業を行うようにすることで、試錐管内で地中挿入用具を頻繁に移動させることなく同作業を地中の一定の深さに亘って行うことができるため、同作業が煩雑にならなくて済む。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、外管内の間隙に樹脂等からなる充填材を充填して複数の第1内管と第2内管と外管とを一体化した後、各第1連通孔に対してそれぞれ同軸に第3連通孔を孔開け工具により第1内管にそれぞれ穿設する一方、各第2連通孔に対してそれぞれ同軸に第4連通孔を孔開け工具により第2内管にそれぞれ穿設するようにしたので、各第1連通孔と複数の第1内管とをそれぞれ個別に連通させ、また、各区画室と第2内管とをそれぞれ連通させる製造工程が単純になり、その分、製造コストを安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る地中挿入用具の構成を示す側面図であり、図2の(a),(b)は図1における矢視A−A,矢視B−Bにそれぞれ沿う拡大断面図であり、図2の(c)は図1における矢視C1−C1,矢視C2−C2,矢視C3−C3,矢視C4−C4に沿う拡大断面図であり、図3の(d),(e),(f)は図1における矢視D−D,矢視E−E,矢視F−Fにそれぞれ沿う拡大断面図であり、図4は図2の(a)の矢視G−Gに沿う断面図である。図1において符号1で示すものは、この実施の形態による地中挿入用具を示している。なお、この地中挿入用具1は長尺であるので、作図の都合上、図1では長手方向中途部で二分割して左右にずらして図示している。
【0010】
この地中挿入用具1は、鉄製の円筒状の1本の外管3と、この外管3の長手方向に所定の間隔を隔てて外管3の外周に嵌合された4個の膨張管5a,5b,5c,5dと、3本の第1内管7a,7b,7cと、1本の第2内管9とを備えている。4個の膨張管5a,5b,5c,5dの、外管3の長手方向における配置間隔は、後述する試錐管23の貫通孔23a…が穿設された間隔と同一とされている。第1内管7a,7b,7cと第2内管9とは、それぞれの一端側が外管3の一端側から突出した状態で他端側がそれぞれ外管3内に挿入されている。第1内管7a,7b,7cおよび第2内管9は、それぞれの内径および外径が同一の寸法からなる鉄製の円筒状の管からなる。膨張管5a,5b,5c,5dは、拡径可能な弾性材料たるゴム材からなり、膨張管5a,5b,5c,5dのそれぞれの両端部は円環状の締め付け部材11によって外管3の外周に気密に緊縛され、かつ、膨張管5a,5b,5c,5dと外管3とのそれぞれの間隙に外部と気密に区画された円環状の区画室13a,13b,13c,13dがそれぞれ形成されている(図2の(c)および図7を参照)。
【0011】
外管3の長手方向において各膨張管5a,5b,5c,5dが隣り合う間の外管3の部位には、外管3内と外部とを連通する第1連通孔15a,15b,15cがそれぞれ穿設されている。一方、各膨張管5a,5b,5c,5dに対応する外管3の部位には、前記各区画室13a,13b,13c,13dと外管3内とを連通する第2連通孔16a,16b,16c,16dが各区画室13a,13b,13c,13dに対応してそれぞれ穿設されている。第1内管7a,7b,7cと各第1連通孔15a,15b,15cとはそれぞれ対応して個別に連通されている。詳しくは、第1内管7aに穿設された第3連通孔17aを介して第1内管7aと第1連通孔15aとが連通され、第1内管7bに穿設された第3連通孔17bを介して第1内管7bと第1連通孔15bとが連通され、第1内管7cに穿設された第3連通孔17cを介して第1内管7cと第1連通孔15cとが連通されている(図3を参照)。
【0012】
また、前記各第2連通孔16a,16b,16c,16dを介して前記各区画室13a,13b,13c,13dと第2内管9とがそれぞれ連通されている。詳しくは、第2内管9に穿設された第4連通孔18aを介して第2内管9と第2連通孔16aおよび区画室13aとが連通され、第2内管9に穿設された第4連通孔18bを介して第2内管9と第2連通孔16bおよび区画室13bとが連通され、第2内管9に穿設された第4連通孔18cを介して第2内管9と第2連通孔16cおよび区画室13cとが連通され、第2内管9に穿設された第4連通孔18dを介して第2内管9と第2連通孔16dおよび区画室13dとが連通されている(図2の(c)を参照)。
【0013】
外管3の他端側(図1では下端側)には、塩化ビニル等の樹脂材料からなる円柱状の栓部材19が接着剤により接着された状態で嵌合され、外管3の他端側の開口部が密栓されている(図4を参照)。また、第1内管7a,7b,7cおよび第2内管9のそれぞれの他端側(図1では下端側)には、塩化ビニル等の樹脂材料からなる円柱状の栓部材21が接着剤により接着された状態でそれぞれ嵌合され、各内管7a,7b,7c,9の他端側の開口部がそれぞれ密栓されている(図4を参照)。
【0014】
(地中挿入用具1の製造工程)
前記地中挿入用具1は、以下のような工程によって製造される。
(1)地中挿入用具1の第1内管7a,7b,7cおよび第2内管9を構成することになる同一長さの4本の細管を準備する。
(2)4本の細管のそれぞれの一端の開口内に、栓部材21を接着剤を塗布してそれぞれ嵌合し、4本の細管の一端の開口部をそれぞれ密栓する。
(3)栓部材21により一端が密栓された4本の細管を、それぞれの一端同士の長手方向における位置を揃えた状態で針金で縛って束ねる。このとき、4本の細管を平行に並べると共に、それらの細管の軸芯に沿う方向から見て、4つの軸芯によって略正方形の頂点が構成されるように4本の細管を束ねる。そして、これらの4本の細管をその長手方向中途部の数箇所に接着剤を塗布して互いに接合して一体化したのち、針金を取り外す。
なお、4本の細管を針金で縛って束ねて接合する代わりに、図5に示すように、4本の細管Sで囲まれた空間の形状に略沿った形状に形成された保持部材22を使用し、該保持部材22の4箇所の溝部22a…に4本の細管を接着剤によりそれぞれ接着して保持部材22と4本の細管とを一体化するようにしてもよい。この場合、保持部材22は4本の細管より少し短い長さに形成して4本の細管の長手方向の略全域に亘って1つの保持部材22を配置するようにしてもよいが、短片に形成された複数の保持部材22を4本の細管の長手方向に一定の間隔を隔てて数箇所に散点させて配置するようにしてもよい。
【0015】
(4)地中挿入用具1の外管3を構成することになる1本の太管の内部に、前記(3)の工程で一体化した4本の細管を、その長手方向中途部の数箇所に接着剤を塗布しながら挿入したのち、太管の内壁に4本の細管を接着させて仮止めする。この工程においては、太管の一端側から挿入する4本の細管の一端側(栓部材21によって密栓された側)の先端は、太管の他端の開口内に前記栓部材19が嵌合されることを見越して、該栓部材19の嵌合長さより少し長い寸法だけ太管の他端から余裕を持たせた位置まで挿入する一方、4本の細管の他端側が太管の一端側から突出した状態とされる。
(5)太管の一端側から突出した4本の細管の他端側と太管の他端側の開口から見える4本の細管の一端側との太管に対するそれぞれの位置から、太管の外周面側から見た4本の細管の軸芯の位置を太管の外周面に筆記具により線引きしたのち、前記第1連通孔15a,15b,15cと前記第2連通孔16a,16b,16c,16dとを穿設すべき太管の外周面の位置に筆記具により印を付ける。
(6)太管の他端の開口内に、栓部材19を接着剤を塗布して嵌合し、太管の他端の開口部を密栓する。
【0016】
(7)太管の一端の開口から、エポキシ系樹脂等の樹脂等からなる充填材Qを注入して4本の細管と太管との間隙に充填材Qを充填し、該充填材Qが固化することで4本の細管と太管との間隙が充填材Qによって気密に保持され、かつ、4本の細管と太管とが強固に一体化される。
(8)前記(5)の工程で印を付けた太管の外周面の各位置に、孔開け工具のドリルの先端を位置付け、太管および細管を貫通して細管内までドリルの先端を進入させることで、第1連通孔15a,15b,15cと第3連通孔17a,17b,17cとをそれぞれ一度に同軸に穿設し、第2連通孔16a,16b,16c,16dと第4連通孔18a,18b,18c,18dとを一度に同軸に穿設する。而して、太管が外管3として構成され、4本の細管が第1内管7a,7b,7cと第2内管9としてそれぞれ構成される。
(9)第2連通孔16a,16b,16c,16dが穿設されたそれぞれの部位における外管3の外周に膨張管5a,5b,5c,5dを嵌合する。そして、膨張管5a,5b,5c,5dのそれぞれの両端部に締め付け部材11を嵌合したのち、各締め付け部材11の外周面に、圧縮機により圧縮力を加えて膨張管5a,5b,5c,5dのそれぞれの両端部を外管3の外周に気密に緊縛させる。以上の工程によって地中挿入用具1が製造される。
(10)最後に、第1内管7a,7b,7cと第2内管9とにそれぞれ高圧の空気を供給して、膨張管5a,5b,5c,5dのそれぞれの両端部や第1内管7a,7b,7cと第2内管9との外周部等から異常な空気漏れがないか否か検査を行う。この検査は、地中挿入用具1を水中に入れて行うことで、想定していない箇所からの気泡の発生の有無により異常な空気漏れか否かを容易に判断することができる。
【0017】
(地下水の採取方法)
次に、前記地中挿入用具1を使用して、地中の土壌の汚染の程度を調査するために地下水を採取する方法の一例について図6ないし図9により説明する。図6は地下水を採取している状態を、一部を破断して示した一部断面図であり、図7は後述する試錐管23内に地中挿入用具1を挿入して膨張管5a,5b,5c,5dを拡径した状態を、試錐管23を破断して示した一部断面図であり、図8の(h)は図7における矢視H1−H1,矢視H2−H2,矢視H3−H3,矢視H4−H4に沿う拡大断面図であり、図8の(j)は図8の(h)に対応する図であって膨張管5a,5b,5c,5dを拡径する前の状態を示した拡大断面図であり、図9は図7の矢視K−K線に沿う拡大断面図である。なお、作図の都合上、図7では長手方向中途部で二分割して左右にずらして図示している。
【0018】
汚染の程度を調査するために試錐装置により地面に穿った穴内に試錐管23を挿入して地中Mに試錐管23を貫入したのち、該試錐管23内に地中挿入用具1を挿入する。試錐管23には、その長手方向に所定の間隔を隔てて複数の貫通孔23a…が穿設されており、各膨張管5a,5b,5c,5dのうちの隣り合う膨張管間に貫通孔23aが位置するように試錐管23内に地中挿入用具1を挿入する。
地中挿入用具1の第2内管9には管継手を介して空気供給管27の一端部が接続され、空気供給管27の他端部には空気供給装置29が接続される。地中挿入用具1の第1内管7a,7b,7cには、それぞれ管継手を介して流通管31a,31b,31cの各一端部が接続され、流通管31a,31b,31cの各他端部は吸水装置30に接続される。吸水装置30は流通管31a,31b,31cの3本の流通管のうちの何れか1つの流通管を任意に選択して、その選択した流通管だけを介して吸水することができる。
【0019】
而して、空気供給装置29を作動させて、空気供給管27と第2内管9内と第4連通孔18a,18b,18c,18dと第2連通孔16a,16b,16c,16dとを介して、膨張管5a,5b,5c,5dと外管3とのそれぞれの間隙に形成された区画室13a,13b,13c,13dに所定の高圧の空気を供給し、区画室13a,13b,13c,13d内を所定の圧力に保持する。これによって、膨張管5a,5b,5c,5dが拡径され、膨張管5a,5b,5c,5dのそれぞれの外周面が試錐管23の内周面に圧接された状態で保持される。次に、吸水装置30を作動させて、まず流通管31aを選択して該流通管31aを介して地下水の採取を行い、その採取に引き続いて、流通管31bを選択して該流通管31bを介して地下水の採取を行ったのち、流通管31cを選択して該流通管31cを介して地下水の採取を行う。図6は、膨張管5b,5c間に位置する試錐管23の貫通孔23aと第1内管7bと流通管31bとを介して地下水の採取を行っている状態を示している。
地中Mの深度のさらに深い部位の地下水を採取する場合は、空気供給装置29の作動を停止して、前記区画室13a,13b,13c,13d内の空気圧を低下させ、膨張管5a,5b,5c,5dを縮径させる。
【0020】
次に、流通管31cを介して地下水の採取を行ったときに膨張管5c,5d間に位置する試錐管23の貫通孔23aより1つだけ下方の貫通孔23aに膨張管5a,5b間が位置するように試錐管23内で地中挿入用具1を下方に移動させる。この場合、地中挿入用具1を下方に移動させることができるように、試錐管23は地中挿入用具1より長尺のものを使用することが前提であるのは言うまでもない。このような地下水の採取によって、地中Mの深度の浅い部位から深い部位までの地下水が採取され、その採取された地下水は、地中Mの深度ごとに別個の容器に入れられる。
なお、地中Mに地下水が殆ど存在しない場合は、地中挿入用具1の第1内管7a,7b,7cのうちの少なくとも何れか1つの内管を介して、地上に設置した給水装置(図示せず)から水を供給し、その供給した水を第1内管7a,7b,7cのうちの少なくとも何れか1つの内管を介して吸水装置30により吸水するようにする。このとき、水の供給と吸水とは、水の供給ののち一定の時間が経過した後に吸水するか、または、第1内管7a,7b,7cのうちの何れか一部の内管を介して水の供給を行うと同時に他の内管を介して吸水を行うようにしてもよい。
地下水の採取が終了したら、地中挿入用具1を試錐管23内から一旦抜き取ることとするが、この後の浄化作業を考慮して挿入したままにしておいてもよい。
トリクロロエチレンやテトラクロロエチレン等を含む汚染物質によって土壌が汚染されている地中Mから採取された地下水には該汚染物質が溶解しているので、地下水に溶解している該汚染物質の濃度を計測装置によって測定することで、地中Mの深度ごとの土壌汚染の状態を把握することができる。
【0021】
(汚染土壌の浄化方法)
次に、前記地中挿入用具1を使用して、地中の汚染土壌を浄化する方法の一例について図10により説明する。図10は地中Mを浄化している状態を、一部を破断して示した一部断面図である。
採取した地下水における汚染物質の濃度の計測で地中Mの深度ごとの土壌汚染の状態が把握できたのち、前記流通管31a,31b,31cの各他端部を吸水装置30から取り外し、該吸水装置30に代えて浄化装置33に流通管31a,31b,31cの各他端部を接続する。該浄化装置33は、組成ガスとしてオゾンを含む浄化用ガスを地中Mに供給するための装置である。浄化装置33は流通管31a,31b,31cの3本の流通管のうちの何れか1つの流通管を任意に選択して、その選択した流通管だけを介して浄化用ガスを供給することができる。
【0022】
空気供給装置29の作動を停止して膨張管5a,5b,5c,5dを縮径させた状態で、汚染された地中Mの深度に位置する試錐管23の貫通孔23aの部位まで地中挿入用具1を試錐管23内に挿入する。そして、空気供給装置29を作動させて、膨張管5a,5b,5c,5dと外管3とのそれぞれの間隙に形成された区画室13a,13b,13c,13dに所定の高圧の空気を供給し、区画室13a,13b,13c,13d内を所定の圧力に保持して膨張管5a,5b,5c,5dを拡径する。次に、浄化装置33を作動させて、汚染された地中Mの深度に位置する試錐管23の貫通孔23aを介して浄化用ガスを地中Mに供給する。図10では、汚染された地中Mの深度に位置する試錐管23の貫通孔23aを膨張管5b,5c間に位置付けて、その間に位置する外管3の第1連通孔15bと、該第1連通孔15bに連通する第1内管7bと流通管31bとを介して浄化用ガスを供給している状態を示している。
地中Mの広範の深度に亘って土壌が汚染されている場合は、上述した地下水の採取の作業と同様に地中挿入用具1を試錐管23内で適宜移動させて、浄化用ガスを供給するようにする。
【0023】
また、面積の広い領域に亘って地中Mの土壌が汚染されている場合は、汚染された領域に、適当な間隔を隔てて複数の試錐管23…を貫入したのち、それらの試錐管23…にそれぞれ地中挿入用具1を挿入すると共に空気供給管27および流通管31a,31b,31cを介して空気供給装置29および浄化装置33をそれぞれ各地中挿入用具1に接続し、流通管31a,31b,31cおよび地中挿入用具1を介して浄化用ガスを地中Mに供給する。そのとき、地中Mの地点や深度によって土壌汚染の程度が異なる場合は、供給する浄化用ガスの単位時間当たりの供給量または供給時間を各地中挿入用具1ごとにまたは各地中挿入用具1の流通管31a,31b,31cごとに適宜調整して浄化用ガスを供給するようにする。
【0024】
上述したように構成された地中挿入用具1によれば、3本の第1内管7a,7b,7cと各第1連通孔15a,15b,15cとをそれぞれ個別に連通させたので、地中Mに貫入された試錐管23内に地中挿入用具1を挿入して汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の少なくとも何れか一方の作業を行うときに、該作業を各第1内管7a,7b,7cごとに個別に行うことができる。このため、3本の第1内管7a,7b,7cのうちの1つの第1内管を選択して浄化剤の供給等の作業を行ったのち、他の第1内管に切り替えて同作業を行うようにすることで、試錐管23内で地中挿入用具1を頻繁に移動させることなく同作業を地中Mの一定の深さに亘って行うことができるため、同作業が煩雑にならなくて済む。
【0025】
また、この実施の形態による地中挿入用具1によれば、外管3内の間隙にエポキシ系樹脂等の樹脂等からなる充填材Qを充填して3本の第1内管7a,7b,7cと1本の第2内管9と外管3とを一体化した後、各第1連通孔15a,15b,15cに対してそれぞれ同軸に第3連通孔17a,17b,17cを孔開け工具により第1内管7a,7b,7cにそれぞれ穿設する一方、各第2連通孔16a,16b,16c,16dに対してそれぞれ同軸に第4連通孔18a,18b,18c,18dを孔開け工具により第2内管9にそれぞれ穿設するようにしたので、第1連通孔15a,15b,15cと複数の第1内管7a,7b,7cとをそれぞれ個別に連通させ、また、各区画室13a,13b,13c,13dと第2内管9とをそれぞれ連通させる製造工程が単純になり、その分、製造コストを安価にすることができる。
【0026】
なお、上述した実施の形態は本発明を説明するための一例であり、本発明は、前記の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲と明細書との全体から読み取れる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更後の地中挿入用具もまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
例えば、上述した実施の形態においては、4個の膨張管5a,5b,5c,5dを外管3に取り付けた例を示したが、本発明は、このような構成に囚われることなく、膨張管や第1内管の個数を1つずつ少なくした構造のものでもよい。また、逆に、外管3をさらに長尺な管材を使用して、該外管3の外周部に5個以上の膨張管を取り付け、かつ、その個数に応じて、外管3および第2内管9にそれぞれ穿設する第2連通孔および第4連通孔の各個数を5個以上にすると共に、外管3内に配置する第1内管の本数と外管3および第1内管にそれぞれ穿設する第1連通孔および第3連通孔の各個数とをそれぞれ4つ以上にするようにしてもよい。この場合、第1内管と第2内管とを外管3内に平行に並べると共に、それらの管の軸芯に沿う方向から見て、各軸芯によって略正多角形の頂点が構成されるように第1内管と第2内管とを外管3の内周面に沿って配置する。このようにすることで、各第1連通孔に対してそれぞれ同軸に第3連通孔を孔開け工具により第1内管にそれぞれ穿設することができ、かつ、各第2連通孔に対してそれぞれ同軸に第4連通孔を孔開け工具により第2内管にそれぞれ穿設することができる。
このように地中挿入用具1を構成することで、汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の作業において適宜選択して使用することができる第1内管の個数が多くなり、試錐管23内で地中挿入用具1を移動させる頻度が一層低減される。
【0027】
また、上述した実施の形態においては、膨張管5a,5b,5c,5dと外管3とのそれぞれの間隙に形成された区画室13a,13b,13c,13d内に空気を供給して膨張管5a,5b,5c,5dを拡径する例を示したが、本発明は、このような構成に囚われることなく、空気に代えて窒素ガス等の他の気体または水もしくは作動油等の液体を供給して各膨張管5a,5b,5c,5dを拡径するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る地中挿入用具の構成を示す側面図である。
【図2】図2の(a),(b)は図1における矢視A−A,矢視B−Bにそれぞれ沿う拡大断面図であり、図2の(c)は図1における矢視C1−C1,矢視C2−C2,矢視C3−C3,矢視C4−C4に沿う拡大断面図である。
【図3】図3の(d),(e),(f)は図1における矢視D−D,矢視E−E,矢視F−Fにそれぞれ沿う拡大断面図である。
【図4】図4は図2の(a)の矢視G−Gに沿う断面図である。
【図5】図5は保持部材を介在させて第1内管と第2内管とを固定する例を示す拡大断面図である。
【図6】図6は地下水を採取している状態を、一部を破断して示した一部断面図である。
【図7】図7は試錐管内に地中挿入用具を挿入して膨張管を拡径した状態を、試錐管を破断して示した一部断面図である。
【図8】図8の(h)は図7における矢視H1−H1,矢視H2−H2,矢視H3−H3,矢視H4−H4に沿う拡大断面図であり、図8の(j)は図8の(h)に対応する図であって膨張管を拡径する前の状態を示した拡大断面図である。
【図9】図9は図7の矢視K−K線に沿う拡大断面図である。
【図10】図10は地中を浄化している状態を、一部を破断して示した一部断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 試錐装置
3 外管
5a 膨張管
5b 膨張管
5c 膨張管
5d 膨張管
7a 第1内管
7b 第1内管
7c 第1内管
13a 区画室
13b 区画室
13c 区画室
13d 区画室
15a 第1連通孔
15b 第1連通孔
15c 第1連通孔
16a 第2連通孔
16b 第2連通孔
16c 第2連通孔
16d 第2連通孔
17a 第3連通孔
17b 第3連通孔
17c 第3連通孔
18a 第4連通孔
18b 第4連通孔
18c 第4連通孔
18d 第4連通孔
23 試錐管
23a 貫通孔
M 地中
Q 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に貫入された試錐管内に挿入され、前記試錐管の長手方向中途部に穿設された貫通孔を介して汚染土壌への浄化剤の供給または地下水の回収の少なくとも何れか一方の作業を行うための地中挿入用具において、
外管と、
前記外管の長手方向に所定の間隔を隔てて前記外管の外周に嵌合され、拡径可能な弾性材料からなる複数の膨張管と、
前記外管内に挿入された複数の第1内管と、
前記外管内に挿入された第2内管とを備え、
前記複数の膨張管のそれぞれの両端部が前記外管の外周に気密に緊縛され、かつ、前記複数の膨張管と前記外管とのそれぞれの間隙に外部と気密に区画された区画室がそれぞれ形成され、
前記外管の長手方向において前記各膨張管が隣り合う間の前記外管の部位に、前記外管内と外部とを連通する第1連通孔がそれぞれ穿設され、
前記各膨張管に対応する前記外管の部位に、前記各区画室と前記外管内とを連通する第2連通孔がそれぞれ穿設され、
前記複数の第1内管と前記各第1連通孔とをそれぞれ個別に連通させる一方、
前記各第2連通孔を介して前記各区画室と前記第2内管とをそれぞれ連通させたことを特徴とする地中挿入用具。
【請求項2】
請求項1に記載の地中挿入用具において、
前記複数の第1内管と前記第2内管とを前記外管内に挿入したのち、前記両内管と前記外管との間隙に樹脂等からなる充填材を充填して、前記充填材が固化することで前記複数の第1内管と前記第2内管と前記外管とを一体化し、
その後、前記各第1連通孔と前記各第2連通孔とを孔開け工具によりそれぞれ穿設すると共に、前記各第1連通孔に対してそれぞれ同軸に第3連通孔を孔開け工具により前記第1内管にそれぞれ穿設して前記複数の第1内管と前記各第1連通孔とをそれぞれ個別に連通させる一方、前記各第2連通孔に対してそれぞれ同軸に第4連通孔を孔開け工具により前記第2内管にそれぞれ穿設して前記各区画室と前記第2内管とをそれぞれ連通させるようにしたことを特徴とする地中挿入用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−95700(P2009−95700A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267362(P2007−267362)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(591211711)カルト株式会社 (20)
【Fターム(参考)】