説明

地中推進機の水平位置検出方法

【課題】 地中を推進してトンネルを掘削する推進機の水平位置を、推進機内部に電磁コイル等の信号発信器を搭載せずに簡易に検出可能な地中推進機の水平位置検出方法を提供する。
【解決手段】 地表5の異なる位置A,B,Cに配置した複数の振動センサ6,7,8を用いて、推進機4が地中推進時に発生する振動波の初動振動波形を異なる地表位置A,B,Cで測定し、初動振動波形の各地表位置A,B,Cにおける到達時間の差に基づいて、推進機4の水平位置を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中を推進してトンネルを掘削する推進機の水平位置を検出する地中推進機の水平位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
管埋設位置の起点と終点に発進坑及び到達坑を設けて、発進坑から地中に設定された推進計画線に沿って推進機を推進させトンネルを掘削する非開削工法が適用されている。このような非開削工法で良好な施工を実現するためには、推進機の推進時における高精度な位置検知が重要である。従来は、100m以上の距離を推進する大型の推進機が用いられていたため、推進機内部に設置された電磁コイルから発生する電磁界強度を地上で測定し、推進機の位置を検出していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許3441650号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上記非開削工法において、10m程度の距離を推進するハンマーヘッドモールと呼ばれるタイプの小型の推進機が導入されつつある。このような小型の推進機の場合、大型の推進機に搭載されていた電磁コイル等の位置検出用の信号発信器を搭載することがスペース上の制約から困難であった。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、地中を推進してトンネルを掘削する推進機の水平位置を、推進機内部に電磁コイル等の信号発信器を搭載せずに簡易に検出可能な地中推進機の水平位置検出方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、地表の異なる位置に配置した複数の振動センサを用いて、前記推進機が地中推進時に発生する振動波の振動波形を前記異なる地表位置で測定し、前記異なる地表位置における複数の前記振動波形を比較した比較結果に基づいて、前記推進機の水平位置を検出することを第1の特徴とする。
【0007】
更に、本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、上記第1の特徴に加えて、前記複数の振動センサを用いて、前記推進機が地中推進時に発生する振動波の初動振動波形を前記異なる地表位置で測定し、前記初動振動波形の前記各地表位置における到達時間の差に基づいて、前記推進機の水平位置を検出することを第2の特徴とする。
【0008】
更に、本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、上記何れかの特徴に加えて、前記複数の振動センサの少なくとも2つを、推進計画線の左右に振り分けて配置することを第3の特徴とする。
【0009】
更に、本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、上記第3の特徴に加えて、前記推進計画線の左右に振り分けて配置する2つの振動センサを、前記推進計画線に対して左右対称位置に配置することを第4の特徴とする。
【0010】
更に、本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、上記何れかの特徴に加えて、前記複数の振動センサは個数が3以上であることを第5の特徴とする。
【0011】
更に、本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、上記第5の特徴に加えて、地表面に設定された基準点を座標原点とする前記複数の振動センサの各位置座標と、前記推進機の推進距離から推定される暫定的な現在位置の位置座標に基づいて前記推進機から前記複数の振動センサまでの各推定距離を算出し、前記各推定距離の差と前記複数の振動センサで測定された前記到達時間の差に基づいて前記初動振動波形の推定伝播速度を算出し、前記到達時間の差と前記推定伝播速度に基づいて前記推進機の水平位置を検出することを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記第1の特徴の地中推進機の水平位置検出方法によれば、ハンマーヘッドモール等の推進機が地中を前進する際に地盤を打撃すること等によって発生する振動波を、地表の異なる位置に配置した複数の振動センサを用いて測定するだけで、推進機と各振動センサ間の相対的位置関係の相違によって生じる測定振動波形の相違の比較結果から、各振動センサの設置位置に対する当該相対的位置関係の相違が分かるため、推進機内部に電磁コイル等の信号発信器を搭載せずとも簡易に推進機の水平位置を検出することができる。
【0013】
上記第2の特徴の地中推進機の水平位置検出方法によれば、各振動センサで測定される振動波形の振動強度(振幅)が一定でなく、また、振動波の発生タイミングが分からなくても、推進機と各振動センサ間の相対的位置関係の相違を反映した初動振動波形の各地表位置における到達時間の差が測定されるため、推進機の水平位置を検出することができる。
【0014】
上記第3の特徴の地中推進機の水平位置検出方法によれば、推進機の位置が推進計画線に対して左右の何れか一方に外れた場合に、推進計画線の左右に振り分けて配置された2つの振動センサと推進機の各距離が、一方が短くなり他方が長くなる関係となり、当該2つの振動センサで測定される到達時間が顕著に相違するため、推進機の水平位置、特に、推進計画線に対する左右のズレを精度よく検出することができる。
【0015】
上記第4の特徴の地中推進機の水平位置検出方法によれば、推進機の推進方向に沿った座標位置や深さ方向の座標位置の推定値と実際値との誤差が、推進計画線の左右に振り分けて配置された2つの振動センサに対して略等しく影響するため、当該誤差の影響を抑制したより高精度な推進機の水平位置の検出が可能となる。
【0016】
上記第5の特徴の地中推進機の水平位置検出方法によれば、振動センサが3つあるため、1つの振動センサの測定した振動波形を基準波形として、他の2つの振動センサの測定した振動波形との比較を行うことができ、当該2つの比較結果の差が、他の2つの振動センサと推進機との間の相対的な位置関係の差となって測定されるため、少ない振動センサの数で高精度な推進機の水平位置の検出が可能となる。
【0017】
上記第6の特徴の地中推進機の水平位置検出方法によれば、上記第2の特徴の地中推進機の水平位置検出方法を、簡易な計算手順で具体的に実現でき、上記作用効果を奏することができる。
【0018】
特に、上記第5の特徴の地中推進機の水平位置検出方法との組み合わせとなるので、1つの振動センサの測定した到達時間を基準に他の2つの振動センサの測定した到達時間との差が2つ求まり、測定された2つの到達時間の差に基づいて、他の2つの振動センサと推進機と距離の差が求まるため、高精度な推進機の水平位置の検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法(以下、適宜「本発明方法」と略称する)の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、管埋設位置の起点Sと終点Eに発進坑1及び到達坑2を設けて、発進坑1から地中3に設定された推進計画線Lに沿って推進機4を推進させトンネルを掘削する非開削工法に本発明方法を適用した場合における、本発明方法に使用する3つの振動センサ6,7,8と上記各部の位置関係を模式的に示す平面図(A)と垂直断面図(B)である。
【0021】
本実施形態では、推進機4として小型のハンマーヘッドモールの使用を想定し、推進機4の先端部のハンマーヘッドが、コンプレッサ(図示せず)から送入される圧縮空気により地盤を打撃し、この打撃により地中を掘削して推進するとともに、打撃毎に断続的に発生する振動波を、地表面5に設置した3つの振動センサ6,7,8で観測する。
【0022】
以下の説明の便宜のために、推進計画線Lの延伸方向をX軸方向、X軸方向と直交し地表面5に平行な方向をY軸方向、地表面5に直交する鉛直方向(深さ方向)をZ軸方向、推進計画線L上の中間点の真上に位置する地表面5上の基準点Pを座標原点とする3次元の直交座標系(X,Y,Z)を想定する。
【0023】
3つの振動センサ6,7,8は、地表面5上の3地点A,B,Cに夫々配置されている。地点Aは推進計画線Lの真上で基準点Pより起点S寄り、つまり、+X方向に設定され、地点Bは基準点Pより推進方向に向かって左側、つまり−Y方向に設定され、地点Cは基準点Pより推進方向に向かって右側、つまり+Y方向に設定されている。ここで、3地点A,B,Cと基準点Pとの間は何れも距離dだけ離間しているものとする。従って、3地点A,B,Cの位置座標は、夫々、A:(+d,0,0)、B:(0,−d,0)、C:(0,+d,0)となる。
【0024】
以下に、推進機4の先端Hの位置座標を(x,y,z)として、本発明方法による推進機4の水平位置の検出手順について説明する。ここでは、推進機4の先端Hが、基準点Pより起点S寄り、つまり、+X方向に存在する場合を想定する。つまり、3つの振動センサ6,7,8は、何れも推進機4より終点E側に位置している。
【0025】
先ず、3つの振動センサ5,6,7で夫々の配置点A,B,Cにおける推進機4が発生する振動波の初動振動波形を測定して記録する。図2と図3に、記録された初動振動波形の2つの測定例を示す。図2と図3ともに、3地点での測定波形を重ねて示している。図2と図3では、本発明方法の検出精度を調べるために推進機4の位置を故意に推進計画線Lからずらせた2通りの場合の測定結果である。
【0026】
図2と図3に示すように、配置点Aが推進機4の先端Hに最も近いため、初動振動波形の最初のピークPaが、他の配置点B,Cの最初のピークPb,Pcより早く出現している。図2では、配置点BのピークPbが配置点CのピークPcより遅く出現していることから、配置点Bの方が配置点Cより推進機4の先端Hからの距離が長いことが分かる。つまり、推進機4は推進計画線Lより右側に位置していることが初動振動波形より分かる。また、図3では、配置点BのピークPbが配置点CのピークPcより早く出現していることから、配置点Bの方が配置点Cより推進機4の先端Hからの距離が短いことが分かる。つまり、推進機4は推進計画線Lより左側に位置していることが初動振動波形より分かる。
【0027】
次に、初動振動波形の測定結果より、配置点A,B,Cにおける初動振動波の到達時間の差を、ピークPaからピークPbまでの時間差Δab、及び、ピークPaからピークPcまでの時間差Δacによって求める。
【0028】
ところで、推進機4の先端Hと3地点A,B,Cの距離Da,Db,Dcは、夫々下記の数1、数2、数3で求まる。
【0029】
(数1)
Da={(x−d)+y+z}1/2
(数2)
Db={x+(y+d)+z}1/2
(数3)
Dc={x+(y−d)+z}1/2
【0030】
ここで、推進機4の先端Hの概略の位置は、推進機4の起点Sからの推進距離によって推定できる。そこで、推進機4が推進計画線Lに沿って直進したと仮定すると、推進計画線L上での暫定的な現在位置H’を推定できる。この暫定的な推定位置H’の位置座標を(h,0,f)とする。座標値hは、起点Sと基準点Pの距離から推進距離を差し引いて求まり、座標値fは起点Sの深さより求まる。
【0031】
暫定的な推定位置H’の各座標値を上記数1〜数3に代入して、3地点A,B,Cの距離差を求めると、下記の数4に示すようになる。尚、暫定的な推定位置H’が推進計画線Lにあるため、推進機4の実際の位置とは関係なく、距離差(Db−Da)と距離差(Dc−Da)は同じ値Dになる。
【0032】
(数4)
D=Db−Da=Dc−Da=(h+d+f)1/2−{(h−d)+f}1/2
【0033】
次に、数4で求めた距離差Dと、初動振動波形の測定結果より求めた到達時間差ΔabとΔacから振動波の地中伝播速度Fを算出する。到達時間差ΔabとΔacは、推進機4の実際の位置を反映して異なる値となっているため、距離差Dと到達時間差Δabで求まる伝播速度Fab(=D/Δab)と、距離差Dと到達時間差Δacで求まる伝播速度Fac(=D/Δac)の平均により、数5に示すように、地中伝播速度Fを算出する。
【0034】
(数5)
F=(Fab+Fac)/2=(D/Δab+D/Δac)/2
【0035】
次に、推進機4の暫定的な推定位置H’に対して推進計画線Lからの乖離を考慮して、推進機4が推進計画線Lから外れた場合の第2の暫定的な推定位置H”を想定する。ここで、推定位置H”は第1の暫定的な現在位置H’からY軸方向に移動していると仮定すると、その位置座標は(h,y,f)となる。ここで、座標値hと座標値fは既知であり、座標値yが算出すべき変数である。
【0036】
ここで、再度、第2の暫定的な推定位置H”の座標値を上記数1〜数3に代入して、3地点A,B,Cの距離差を求めると、下記の数6及び数7に示すようになる。尚、暫定的な推定位置H”が必ずしも推進計画線L上には位置しないため、推進機4の実際の位置に応じて、距離差(Db−Da)と距離差(Dc−Da)は異なる値となる。
【0037】
(数6)
Db−Da={h+(y+d)+f}1/2−{(h−d)+y+f}1/2
【0038】
(数7)
Dc−Da={h+(y−d)+f}1/2−{(h−d)+y+f}1/2
【0039】
ここで、距離差(Db−Da)と距離差(Dc−Da)の差ΔDは、初動振動波形の測定結果において、振動センサ6,7の配置点B,Cにおける初動振動波の到達時間の差、つまり、ピークPbとピークPcの到達時間差Δbcとして観測されるため、到達時間差Δbcに数5で算出した地中伝播速度Fを乗じて求まる長さとして求まる。従って、下記の数8に示す距離差ΔDと到達時間差Δbcの関係を示す変数yの方程式より推進機4の位置座標を近似的に求めることができる。
【0040】
(数8)
ΔD=(Db−Da)−(Dc−Da)
={h+(y+d)+f}1/2−{x+(y−d)+z}1/2
=Δbc×F
【0041】
尚、本実施形態では、数8に示す方程式が、変数yの2次式の平方根で表され、解法が困難なため、簡易的な解法手法として、パソコン上で、市販の表計算ソフトを用いて作成される変数yの早見表を使用する。
【0042】
当該早見表は、以下の要領で作成される。先ず、値d、値h、値fと、到達時間差Δab、Δac、Δbcの6つの値を入力し、値d、値h、値fと、到達時間差Δab、Δacから、数4と数5に基づいて地中伝播速度Fを算出する。次に、一定の刻み幅で予め設定した複数の変数yの設定値y(i)に対して、入力された値d、値h、値fを用いて数8に基づいて距離差ΔD(i)を各別に算出する。次に、算出した各距離差ΔD(i)を先に算出した地中伝播速度Fで除して、変数yの設定値y(i)毎の到達時間差Δbc(i)を算出し、変数yの設定値y(i)と到達時間差Δbc(i)を並べて表示することで早見表が作成される。
【0043】
例えば、初動振動波形の測定結果から測定されるピークPbとピークPcの到達時間差Δbcが、到達時間差Δbc(i)とΔbc(i+1)の間にある場合は、推進機4の位置座標のY座標値yは、設定値y(i)とy(i+1)の間にあると分かる。Δbcの到達時間差Δbc(i)とΔbc(i+1)の間の位置関係によって、設定値y(i)とy(i+1)を補間することで、推進機4の位置座標のY座標値yを簡易且つ精度良く求めることができる。
【0044】
次に、図2及び図3に示した2つの初動振動波形の測定結果に基づいて、本発明方法の2つの実施例を説明する。
【0045】
〈実施例1〉
図4(A)に示すように、推進計画線Lの起点Sと終点Eの距離が5.9m、推進計画線L及び推進機4の先端Hの深さfが1m(f=1)、3つの振動センサ6,7,8の配置点A,B,Cの基準点Pからの距離dが0.5m(d=0.5)、起点Sと基準点Pの距離が3m、推進機4の推進距離が2m(つまり、推進機4の先端HのX座標値hが1m)(h=1)の場合において、推進機4を故意に推進計画線Lより右側に0.3mだけずらして2m推進させた状態を想定する。
【0046】
本実施例では、振動センサ6,7,8として圧電型の1軸加速度センサを地表面に対して垂直方向に設置し、推進機4の発生する振動の加速度の変化を振動波形として測定した。振動センサ6,7,8の電気的仕様としては、電圧感度5mV(m/s)、周波数範囲がDC〜5kHzのものを使用した。
【0047】
図2の初動振動波形の測定結果より、ピークPa、ピークPb、ピークPcの任意の測定開始時点からの到達時間は、図4(B)に示すように、夫々、273.31ms、275.27ms、274.77msと測定され、到達時間差Δab、Δac、Δbcが、夫々、1.96ms、1.46ms、0.5msと求まる。尚、図2の測定波形のサンプリング間隔は10μsである。
【0048】
この結果、地中伝播速度Fが229m/sと算出され、図4(C)に示す早見表が生成される。この早見表より、到達時間差Δbcが0.5msであるので、推進機4の位置座標のY座標値y(推進計画線Lから右側へ乖離した距離)は、0.15mと0.2mの間で約0.17mであると推定できる。本実施例1では、到達坑2での推進機4の位置座標のY座標値yが0.25mでZ座標値(深さ)が1.06mであったので、推定誤差は10cm以内に収まっている。
【0049】
〈実施例2〉
図5(A)に示すように、推進計画線Lの起点Sと終点Eの距離が5.9m、推進計画線L及び推進機4の先端Hの深さfが1m(f=1)、3つの振動センサ6,7,8の配置点A,B,Cの基準点Pからの距離dが0.5m(d=0.5)、起点Sと基準点Pの距離が3m、推進機4の推進距離が2m(つまり、推進機4の先端HのX座標値hが1m)(h=1)の場合において、推進機4を故意に推進計画線Lより左側に0.25mだけずらして2m推進させた状態を想定する。振動センサ6,7,8は実施例1と同じものを同様に設定して使用した。
【0050】
図3の初動振動波形の測定結果より、ピークPa、ピークPb、ピークPcの任意の測定開始時点からの到達時間は、図5(B)に示すように、夫々、310.75ms、312.50ms、313.70msと測定され、到達時間差Δab、Δac、Δbcが、夫々、1.75ms、2.95ms、−1.2msと求まる。尚、図3の測定波形のサンプリング間隔は10μsである。
【0051】
この結果、地中伝播速度Fが174m/sと算出され、図5(C)に示す早見表が生成される。この早見表より、到達時間差Δbcが−1.2msであるので、推進機4の位置座標のY座標値yの絶対値(推進計画線Lから左側へ乖離した距離)は、0.3mと0.35mの間で約0.32mであると推定できる。本実施例2では、到達坑2での推進機4の位置座標のY座標値yが−0.25mでZ座標値(深さ)が1.4mであったので、推定誤差は10cm以内に収まっている。
【0052】
以上、2つの実施例の測定結果から、本発明方法により推進機4の水平位置が10cm以内の推定誤差で簡易に検出できることが分かる。
【0053】
次に、本発明方法の別実施形態について説明する。
【0054】
〈1〉上記実施形態では、推進機4が推進計画線Lに沿って直進したと仮定した暫定的な現在位置H’を用いて、推進機4の位置座標のY座標値yに無関係な地中伝播速度Fを算出した後に、数8で計算される早見表により推進機4の位置座標のY座標値yを求めたが、以下に示す手順により、Y座標値yと地中伝播速度Fを同時に算出しても構わない。
【0055】
先ず、一定の刻み幅で予め設定した複数の変数yとFの設定値y(i)とF(j)に対して、入力された値d、値h、値fを用いて計算された数6及び数7をF(j)で除算し、到達時間差Δab(i、j)及びΔac(i、j)を各別に算出する。次に、算出した到達時間差Δab(i、j)と初動振動波形の測定結果から測定される到達時間差Δabの二乗誤差、及び、算出した到達時間差Δac(i、j)と初動振動波形の測定結果から測定される到達時間差Δacの二乗誤差を、全ての設定値y(i)とF(j)の組毎に計算し、二つの二乗誤差の和が最小となるy(i)とF(j)を決定する。以上の手順により、推進機4の位置座標のY座標値yを求めることができる。
【0056】
或いは、以下に示す手順により、Y座標値yを算出しても構わない。つまり、地中伝播速度Fを変数yの関数として導出するに当たり、数6と数7によって求まる距離差(Db−Da)と距離差(Dc−Da)、及び、到達時間差ΔabとΔacから、2つの地中伝播速度Fab(=(Db−Da)/Δab)とFac(=(Dc−Da)/Δac)を求め、これらが等しい(Fab=Fac)として変数yの方程式を導出して、この方程式より推進機4のY座標値yを算出するようにしても構わない。
【0057】
〈2〉上記実施形態では、3つの振動センサ6,7,8は、1つが推進計画線Lの真上で基準点Pより起点S寄り、他の2つは、推進計画線Lに対して左右対称に振り分けて配置したが、振動センサの設置点は、上記実施形態の設置位置に限定されるものではない。また、振動センサの設置数も4以上であっても構わない。また、推進機4が発生する振動の発生タイミングが独立して検出できる場合は、振動センサの設置数は2であっても構わない。
【0058】
〈3〉上記実施形態では、測定波形の到達時間の差に基づいて、推進機4の水平位置を検出する場合を説明したが、測定波形の振幅差や振幅比から振動波の減衰係数を推定して、推進機4の水平位置を検出するようにしてもよい。
【0059】
〈4〉本発明方法で使用する振動センサは、上記実施例で使用したタイプ及び電気的仕様のものに限定されるものではない。同様の振動波形を測定できるものであればよい。尚、上記実施形態のように測定波形の到達時間の差を用いる場合は、振動センサにおける測定波形の振幅の測定精度は特に問題とならない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法は、非開削工法における推進機の水平位置の検出に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法を非開削工法に適用する場合の振動センサ及び推進機の位置関係を模式的に示す平面図(A)と垂直断面図(B)
【図2】本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法の実施例1において3つの振動センサで測定した初動振動波形を示す波形図
【図3】本発明に係る地中推進機の水平位置検出方法の実施例2において3つの振動センサで測定した初動振動波形を示す波形図
【図4】地中推進機の水平位置検出方法の実施例1の振動センサ及び推進機の位置関係を模式的に示す平面図(A)と、3つの振動センサで測定した初動振動波形の測定結果を示す表(B)と、測定結果に基づいて生成される早見表の一例(C)
【図5】地中推進機の水平位置検出方法の実施例2の振動センサ及び推進機の位置関係を模式的に示す平面図(A)と、3つの振動センサで測定した初動振動波形の測定結果を示す表(B)と、測定結果に基づいて生成される早見表の一例(C)
【符号の説明】
【0062】
1: 発進坑
2: 到達坑
3: 地中
4: 推進機
5: 地表面
6,7,8: 振動センサ
A,B,C: 振動センサの設置点
E: 終点
H: 推進機の先端
L: 推進計画線
P: 基準点
Pa: 設置点Aの振動センサで測定した初動振動波形の最初のピーク
Pb: 設置点Bの振動センサで測定した初動振動波形の最初のピーク
Pc: 設置点Cの振動センサで測定した初動振動波形の最初のピーク
S: 起点
d: 振動センサの設置点と基準点の間の距離
f: 推進機の深さ
h: 推進機の先端と基準点の間の距離
Δab:ピークPaからピークPbまでの時間差
Δac:ピークPaからピークPcまでの時間差
Δbc:ピークPbからピークPcまでの時間差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中を推進してトンネルを掘削する推進機の水平位置を検出する地中推進機の水平位置検出方法であって、
地表の異なる位置に配置した複数の振動センサを用いて、前記推進機が地中推進時に発生する振動波の振動波形を前記異なる地表位置で測定し、
前記異なる地表位置における複数の前記振動波形を比較した比較結果に基づいて、前記推進機の水平位置を検出することを特徴とする地中推進機の水平位置検出方法。
【請求項2】
前記複数の振動センサを用いて、前記推進機が地中推進時に発生する振動波の初動振動波形を前記異なる地表位置で測定し、
前記初動振動波形の前記各地表位置における到達時間の差に基づいて、前記推進機の水平位置を検出することを特徴とする請求項1に記載の地中推進機の水平位置検出方法。
【請求項3】
前記複数の振動センサの少なくとも2つを、推進計画線の左右に振り分けて配置することを特徴とする請求項1または2に記載の地中推進機の水平位置検出方法。
【請求項4】
前記推進計画線の左右に振り分けて配置する2つの振動センサを、前記推進計画線に対して左右対称位置に配置することを特徴とする請求項3に記載の地中推進機の水平位置検出方法。
【請求項5】
前記複数の振動センサは個数が3以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の地中推進機の水平位置検出方法。
【請求項6】
地表面に設定された基準点を座標原点とする前記複数の振動センサの各位置座標と、前記推進機の推進距離から推定される暫定的な現在位置の位置座標に基づいて、前記推進機から前記複数の振動センサまでの各推定距離を算出し、前記各推定距離の差と前記複数の振動センサで測定された前記到達時間の差に基づいて、前記初動振動波形の推定伝播速度を算出し、
前記到達時間の差と前記推定伝播速度に基づいて、前記推進機の水平位置を検出することを特徴とする請求項5に記載の地中推進機の水平位置検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−224569(P2007−224569A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45823(P2006−45823)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】