説明

地中支保構造体およびその施工方法ならびにトンネル工法

【課題】 地中空洞の築造に際してその周囲の支保性能と止水性能を確保する。
【解決手段】 地中空洞を築造するに際してその周囲地山を支保しかつ止水を行うために地中空洞の施工予定位置の外側に地中支保構造体3を設ける。地中支保構造体は、築造するべき地中空洞の延長方向に沿ってその周囲に設けられる複数の導坑(シールドトンネル6)と、それら導坑間に所定間隔で配列されて設けられて施工予定位置を取り囲む複数の鋼管先受工7と、隣接する鋼管先受工間に設けられる遮水膜壁8とからなる。鋼管先受工は導坑内から施工したボーリング孔内に鋼管を挿入することで施工する。遮水膜壁は隣接する鋼管先受工間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成してそこに止水シート37を配設することで施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル等の地中空洞を築造する際にその周囲に構築する地中支保構造体、およびその施工方法、ならびに分岐合流部の施工に際して上記の地中支保構造体を構築するトンネル工法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、大深度・大断面のトンネルを構築するためのトンネル工法としてはNATM(New Austrian Tunneling Method)あるいはシールド工法が代表的であるが、たとえば都市圏における道路トンネルの施工に際しては、地表および地中の既存構造物に対する悪影響を回避するべく地山に対する高度の支保性能が要求され、また施工中および完成後の止水性能と地下水保全性能が高度に要求されることから、シールド工法の採用が最も一般的である。また、近年においては様々な新工法も提案され、たとえば特許文献1には本坑掘削に先立って導坑から人工地山アーチを先行施工するという鯨骨工法(WBR工法)が提案されている。
【特許文献1】特開平11−159275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、道路トンネルをシールド工法により施工するに際しては本線トンネルの他にランプトンネルを設け、それら双方のトンネルを要所にて接合して分岐合流部を施工する必要があるが、そのような分岐合流部の施工は必ずしも容易ではない。すなわち、本線トンネルおよびランプトンネルはそれぞれ在来のシールド工法により地山を安定に支保しつつかつ止水性を確保しつつ支障なく施工できるが、分岐合流部では断面を漸次変化させつつ双方のシールドトンネルどうしを接合する必要があるため、分岐合流部の施工に際しては在来のシールド工法をそのまま適用できるものではなく、何らかの補助工法の採用が不可欠である。そのため、たとえば分岐合流部を上記の鯨骨工法により施工することも考えられるが、鯨骨工法によることでは止水性能の確保は期待できないし、支保性能も必ずしも充分に確保できるものではない。
【0004】
いずれにしても、各種の地中空洞の築造に際しては支保性能と止水性能の確保が最重要ともいうべき課題であり、都市圏に道路トンネルを築造する場合のみならず、様々な用途、規模の地中空洞を築造する場合に広く適用可能な有効適切な手法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記事情に鑑み、請求項1の発明は、地中空洞を築造するに際して、その周囲地山を支保しかつ止水を行うために地中空洞の施工予定位置の外側に構築される地中支保構造体であって、築造するべき地中空洞の延長方向に沿ってその周囲に設けられる複数の導坑と、それら導坑間に所定間隔で配列されて設けられて地中空洞の施工予定位置を取り囲む複数の鋼管先受工と、隣接する鋼管先受工間に設けられる遮水膜壁とからなることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明の地中支保構造体であって、地中空洞の施工予定位置の端部付近においては、鋼管先受工の内側に端部遮水壁が設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明の地中支保構造体を構築するための施工方法であって、築造するべき地中空洞の施工予定位置の周囲にその延長方向に沿う複数の導坑を設け、導坑内から隣接する他の導坑に向けてボーリングを行い、そのボーリング孔内に鋼管を挿入して鋼管先受工を施工し、隣接する鋼管先受工間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、その掘削溝内に止水シートを配設して遮水膜壁を施工し、地中空洞の施工予定位置の端部付近における鋼管先受工の内側に端部遮水壁を設けることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項3の発明の地中支保構造体の施工方法であって、導坑をシールド工法によるシールドトンネルとして施工することを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項3または4の発明の地中支保構造体の施工方法であって、鋼管先受工の施工に際しては、導坑内から鋼管先受工の施工予定位置を地盤改良した後、パイロットボーリング孔を削孔し、パイロットボーリング孔を拡径掘削して鋼管を挿入可能なボーリング孔を施工し、そのボーリング孔内に、短尺の単位鋼管を継ぎ足しつつ鋼管を挿入することを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、請求項5の発明の地中支保構造体の施工方法であって、パイロットボーリング孔を曲がりボーリングによってアーチ状に削孔するとともに、そのパイロットボーリング孔を拡径掘削してアーチ状のボーリング孔を施工し、そのボーリング孔内に、短尺の単位鋼管を継ぎ足しつつアーチ状に湾曲させた曲がり鋼管を挿入してアーチ状の鋼管先受工を施工することを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は、請求項3,4,5または6の発明の地中支保構造体の施工方法であって、遮水膜壁の施工に際しては、鋼管先受工間の地山に対するスリット状の掘削をワイヤーソーにより行うことを特徴とする。
【0012】
請求項8の発明は、請求項7の発明の地中支保構造体の施工方法であって、ボーリング孔内に挿入する鋼管の内側もしくは外側に、ワイヤーソーをガイドしかつ止水シートを装着するためのガイド管を予め取り付けておくことを特徴とする。
【0013】
請求項9の発明は、請求項3,4,5,6,7または8の発明の地中支保構造体の施工方法であって、端部遮水壁の施工に際しては、導坑の端部付近の内側地山を地盤改良した後、その改良地盤に所定間隔でガイド管を配設し、それらガイド管により案内しつつワイヤーソーにより改良地盤をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、その掘削溝内に止水シートを配設することを特徴とする。
【0014】
請求項10の発明は、道路トンネルの分岐合流部の施工に際して請求項2の発明の地中支保構造体を構築するもので、シールド工法により本線シールドトンネルとランプシールドトンネルをそれぞれ施工するとともに、それら本線シールドトンネルとランプシールドトンネルを要所で接合して分岐合流部を施工するに際し、分岐合流部の施工予定位置の外側に請求項2記載の地中支保構造体を以下の(a)〜(d)の工程により構築するとともに、その地中支保構造体の構築と並行して本線シールドトンネルを掘進し、本線シールドトンネルが地中支保構造体の内側を通過した後、地中支保構造体の内側において本線シールドトンネルを拡幅してその拡幅部にランプシールドトンネルの先端部を接合して分岐合流部の覆工壁を施工するとともに、その覆工壁と鋼管先受工との間には所定厚さの地山を残すことを特徴とするものである。
(a)分岐合流部の施工予定位置に達したランプシールドトンネルあるいは本線シールドトンネルのいずれかシールド機を発進させることにより、分岐合流部の延長方向に沿う複数のシールドトンネルを分岐合流部の外側に導坑として施工する工程。
(b)導坑から隣接する他の導坑に向けて曲がりボーリングを行って小径のパイロットボーリング孔をアーチ状に形成し、パイロットボーリング孔を拡径掘削してアーチ状のボーリング孔を形成し、ボーリング孔内に、短尺の単位鋼管を継ぎ足しつつアーチ状に湾曲させた曲がり鋼管を挿入してアーチ状の鋼管先受工を施工する工程。
(c)ボーリング孔内に挿入される曲がり鋼管の内側または外側にガイド管を予め取り付けておいて、そのガイド管によりワイヤーソーを案内して隣接する鋼管先受工の間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、そのス掘削溝内に止水シートを配設して遮水膜壁を施工する工程。
(d)分岐合流部の施工予定位置の端部付近の内側地山を地盤改良して端部遮水壁を形成した後、さらにその改良地盤に所定間隔でガイド管を配設し、ガイド管により案内しつつワイヤーソーにより改良地盤をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、その掘削溝内に止水シートを配設して端部遮水壁を施工する工程。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明の地中支保構造体によれば、地中空洞の築造に際してそれを取り囲むように構築されることにより、鋼管先受工による優れた支保効果と遮水膜壁による優れた止水効果が得られ、地表あるいは地中の既存構造物に対する万全な沈下防止と万全な地下水保全を図ることができる。しかも、遮水膜壁によって恒久的な止水性能が得られるので、完成後の地中空洞に作用する地下水圧を軽減できてその構造を簡略化する効果も得られる。
【0016】
請求項2の発明の地中支保構造体によれば、地中空洞の施工予定位置の端部付近において鋼管先受工の内側に端部遮水壁を設けるので、より優れた止水性能が得られる。
【0017】
請求項3の発明の地中支保構造体の施工方法によれば、導坑内からボーリング孔内に鋼管を挿入することで鋼管先受工を施工し、鋼管先受工間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成してそこに止水シートを配設することで遮水膜壁を施工するので、上記の地中支保構造体を効率的に施工することが可能である。
【0018】
請求項4の発明の施工方法によれば、導坑をシールド工法によるシールドトンネルとして施工するので、導坑を容易にかつ精度良く施工できるし、その施工に際しての支保性能と止水性能を自ずと確保することができる。
【0019】
請求項5の発明の施工方法によれば、鋼管先受工の施工に際して小径のパイロットボーリングを行い、それを拡径掘削してボーリング孔を形成し、そのボーリング孔内に短尺の単位鋼管を継ぎ足しながら鋼管を施工するので、ボーリング孔を高精度で形成でき、それへの鋼管の挿入を容易に行うことができる。
【0020】
請求項6の発明の施工方法によれば、鋼管先受工を曲がり鋼管によりアーチ状とするので特に優れた支保効果が自ずと得られるし、その施工に際しては曲がりボーリングを行うことにより、アーチ状の鋼管先受工を容易にかつ精度良く施工することができる。
【0021】
請求項7の発明の施工方法によれば、遮水膜壁の施工に際して地山をワイヤーソーによりスリット状に掘削するので、その施工を精度良く効率的に行うことができる。
【0022】
請求項8の発明の施工方法によれば、ワイヤーソーのガイドとなりかつ止水シートを装着するためのガイド管を鋼管に予め取り付けておくので、遮水膜壁の施工を特に効率的に行うことができる。
【0023】
請求項9の発明の施工方法によれば、端部遮水壁を止水シートにより施工するので、鋼管先受工間の遮水膜壁と同様に恒久的な止水性能を確保することができる。
【0024】
請求項10の発明のトンネル工法によれば、地中空洞としての道路トンネルにおける分岐合流部の施工に際してその外側に上記の地中支保構造体を構築するので、上記効果を奏することに加え、ランプシールドトンネルまたは本線シールドトンネルのいずれか一方から地中支保構造体の施工に早期着手でき、それとの並行作業により本線シールドトンネルを掘進することにより、特に効率的な施工が可能であり全体工期の短縮を充分に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を、地中空洞に相当するものとして、都市圏における大深度・大断面の道路トンネルの分岐合流部の築造に適用する場合の一実施形態を図1〜図12を参照して説明する。本実施形態は、図1〜図3にその概要を示すように、本線シールドトンネル1とランプシールドトンネル2とをいずれも在来のシールド工法により施工するとともに、それらの分岐合流部には予め地中支保構造体3を構築し、その内側で本線シールドトンネル1を拡幅することで分岐合流部を施工することを主眼とする。なお、本実施形態では本線シールドトンネル1の直径がたとえば17m程度、ランプシールドトンネル2の直径がたとえば11m程度であることを想定している。また、本実施形態では、図2に示すように分岐合流部において本線シールドトンネル1を側方に3段階にわたって拡幅し、その内側に最終的に構築する覆工壁4の断面形状を前方に向かって漸次縮小するような横長楕円形状としている。
【0026】
本実施形態においては本線シールドトンネル1よりもランプシールドトンネル2を先行掘進し、図2に示すようにそのランプシールドトンネル2が分岐合流部の施工予定位置に達するまで掘進し、停止させる。そして、ランプシールドトンネル2の先端部付近の側壁部から小径のシールド機(図示せず)を発進させ、図3に示すように分岐合流部の施工予定位置の外側に複数(図示例では上下および左右両側の位置に全4本)のシールドトンネル(導坑)6をほぼ等間隔かつ平行に施工し、それら複数のシールドトンネル6間に多数の鋼管先受工7をリング状に密に配列して設けるとともに、鋼管先受工7間には遮水膜壁8を設け、さらに各シールドトンネル6の端部の位置には端部遮水壁9(図2参照)を設けて、それらシールドトンネル6、鋼管先受工7、遮水膜壁8、端部遮水壁9によって分岐合流部の施工予定位置全体を取り囲み、それによりその内側での分岐合流部の施工に際して支保性能と止水性能を確保するものである。
【0027】
地中支保構造体3の構成とその施工手順を図4〜図12を参照して具体的に説明する。
【0028】
(a)シールドトンネル(導坑)の施工
まず、図2および図4に示すように、ランプシールドトンネル2の先端部付近を地盤改良して改良地盤10とし、そこからシールド機を発進させ、4本のシールドトンネル6を順次あるいは同時に施工する。具体的には、シールドトンネル6をたとえば直径3.5m程度のものとして、そのような小径のシールド機をランプシールドトンネル2の先端部付近のトンネル側壁部から発進させた後に前方に向けて急旋回させ、分岐合流部の延長方向(トンネル軸方向)に沿うように施工する。
【0029】
それらシールドトンネル6の施工に際しては1台のシールド機をランプシールドトンネル2から発進させ、分岐合流部の先端部に達したらそのシールド機のスキンプレート等の外殻装置を残置して内部装置のみを回収し、回収した内部装置をランプシールドトンネル2内において新たな外殻装置に組み込むことで新たなシールド機を組み立て、それを再び発進させ、それを繰り返して4本のシールドトンネル6を順次施工すれば良い。あるいは、2台のシールド機を用意してそれらを上記のように使用して2本ずつシールドトンネル6を施工しても良いし、4台のシールド機によって4本のシールドトンネル6を同時に施工することでも良く、さらには分岐合流部の先端部に達したシールド機をそこからUターンさせてそのまま他のシールドトンネル6を逆方向から掘進してランプシールドトンネル2に到達するようにして連続的に施工することも考えられる。また、ランプシールドトンネル2の側壁部からシールド機を発進あるいは到達させるための手法としては、在来のシールドトンネルの側壁部からのシールド機の発進手法、および在来のシールドトンネルどうしのT字接合技術をそのまま採用可能である。
【0030】
(b)鋼管先受工の施工
図5に示すように、シールドトンネル6内から薬液注入用のボーリングを行い、鋼管先受工7の施工予定位置に薬液注入による予備的な改良地盤11を施工する。また、その内側の要所にも同様に薬液注入により改良地盤12を施工する。なお、地山状況によってはこれらの予備的な改良地盤11,12の施工は省略することも可能である。
【0031】
次に、図6に示すようにシールドトンネル6内から隣接する他のシールドトンネル6に向けてアーチ状のパイロットボーリングを行う。具体的には、図9に示すように、たとえば頂部のシールドトンネル6内に曲がりボーリングマシン20を設置し、短尺の単位ロッド21aを順次継ぎ足してアーチ状のロッド21を延長しながら先端部のビット22により地山を削孔して小径(たとえば250mmφ)のパイロットボーリング孔23を削孔する。
【0032】
ビット22が側部のシールドトンネル6に到達したら、図10に示すようにビット22を拡径ビット24に取り替え、今度は単位ロッド21aを順次取り外していきながら拡径ビット24を引き上げていくことにより、パイロットボーリング孔23を拡径掘削してたとえば1200mm程度のアーチ状のボーリング孔25を掘削する。そのような拡径掘削に際しては、図10(b)に示すように拡径ビット24にスイベルジョイント26を介して送泥管27および排泥管28を接続し、拡径ビット24周辺にのみ泥水を供給して掘削ずりを泥水搬送すると良い。このように、曲がりボーリングによりまず小径のパイロットボーリング孔23を削孔し、それを拡径掘削することにより本来のボーリング孔25を形成することにより、アーチ状のボーリング孔25を高精度でしかも容易に形成することができる。
【0033】
上記のボーリング孔25の施工に並行してそのボーリング孔25内に曲がり鋼管を挿入していき、図7に示すように隣接するシールドトンネル6間にアーチ状の鋼管先受工7を施工することにより、それら鋼管先受工7により分岐合流部の施工予定位置全体を周方向に取り囲む。なお、最終的には鋼管先受工7の内部にはコンクリートやモルタルを充填するとともに、図8に示すように側部のシールドトンネル6内において上下の鋼管先受工7の端部どうしを連結コンクリート29により一体に連結する。
【0034】
ボーリング孔25への曲がり鋼管の挿入は、図10に示した拡径ビット24によるボーリング孔25の施工に追随して同時に行えば良い。すなわち、図10(a)における側部のシールドトンネル6内において短尺の単位鋼管(図示せず)をアーチ状に連結しながらボーリング孔25内に押し込んでいき、その先端を頂部のシールドトンネル6に到達させれば良い。なお、鋼管先受工7となる曲がり鋼管の外径はボーリング孔25の内径より僅かに小さくすれば良く、それによりボーリング孔25に対する曲がり鋼管の押し込みを容易に行うことができるし、それらの間に大きな隙間が生じることもないので後段での隙間充填の手間も少なくて済む。また、鋼管先受工7の配列ピッチは充分に密にすることが好ましく、たとえば鋼管先受工7の径が1200mm程度の場合には配列ピッチを1500mm程度とすると良い。また、後段の遮水膜壁8の施工の準備として、図11(b)に示すように鋼管先受工7の内部には小径の鋼管からなるガイド管35を予め取り付けておき、そのガイド管35および鋼管先受工7にはワイヤーソー36を通しかつ止水シート37を装着するためのスリット38を予め形成しておく。
【0035】
(c)遮水膜壁の施工
上記工程によりシールドトンネル6間に密に配列した鋼管先受工7の間の地山を、図11に示すようにワイヤーソー36によりスリット状に掘削して掘削溝34を形成し、その掘削溝34内に止水シート37を配設して遮水膜壁8を施工する。具体的には、いわゆるアースカット工法を採用し、隣接する鋼管先受工7内に予め取り付けておいたガイド管35にワイヤーソー36を通し、シールドトンネル6内に設置した対のウインチ39によりワイヤーソー36を所定ストロークで往復動させながら引き込んでいくことにより、鋼管先受工7間の地山をたとえば50mm程度の厚みでスリット状に掘削して掘削溝34を形成し、それと同時に、ガイド管35内に柔軟な止水シート37の縁部を装着してその止水シート37をスリット状の掘削溝34内に引き込んでいけば良い。
【0036】
なお、本実施形態では止水シート37を内外に二重に設けることとしており、したがって鋼管先受工7内には両側に2本ずつ計4本のガイド管35を取り付けてある。止水シート37としては二重膜による袋状のものを採用し、最終的にはその内部に充填材を注入して膨張させた状態で硬化させることが良く、それにより止水シート37を地山に対して確実に密着させることができ、かつガイド管35からの脱落やその周囲に隙間が生じることを確実に防止することができ、優れた止水性能とその信頼性を確保することができる。
【0037】
(d)端部遮水壁の施工
地中空洞の施工予定位置に相当する分岐合流部拡幅施工区間の端部外側付近に、シールドトンネル6あるいは構築が済んだ本線シールドトンネル1壁面から、鋼管先受工7で囲まれた内側地盤で拡幅掘削部分に相当する領域に、パイプを差し込んで薬液注入等による地盤改良を施して端部遮水壁(図示なし)を仮設的に形成したあと、分岐合流部拡幅施工区間の掘削にとりかかる。その後、拡幅施工区間の掘削の進行にともなって、拡幅施工区間の支保された掘削壁面から、図12に示すように鋼管先受工7の地盤改良された内側地盤にガイド管40を打ち込み、それをガイドとしてワイヤーソーによりガイド管40の間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、そこに止水シート41を全面的に配設して端部遮水壁9を形成する。この端部遮水壁9により、分岐合流部の完全な止水が図れる。
【0038】
以上の工程による地中支保構造体3の構築と、本線シールドトンネル1の掘進とを並行して行い、地中支保構造体3が完成してその内側を本線シールドトンネル1が通過した後、その内部において本線シールドトンネル1を拡幅して最終的に図8や図12に示すように分岐合流部の覆工壁4を施工する。具体的には、地中支保構造体3の内側において、例えば本線シールドトンネル1の拡幅側の側壁の一部を撤去し、そこからバックホー等の掘削機械を搬入し、その掘削機械によって分岐合流部の拡幅部分を上方から下方に向かって掘削するとともに、本線シールドトンネル1の側壁の不要部分を撤去し、分岐合流部の覆工壁4を順次築造すれば良い。
【0039】
なお、覆工壁4の施工に際しては、覆工壁4を鋼管先受工7の内側に構造的に一体化した状態で設けることにより、鋼管先受工7を本設の覆工壁4の一部として機能させることも考えられ、そのようにすることを妨げるものではないが、それよりも図示例のように鋼管先受工7と本設の覆工壁4との間に所定厚さの地山を残し、鋼管先受工7を仮設の支保構造体として機能させることが現実的であり好ましい。
【0040】
本実施形態の工法によれば、分岐合流部の施工に際してその外側に地中支保構造体3を構築し、その内側において本線シールドトンネル1を拡幅することで分岐合流部を施工するので、分岐合流部の施工に際して地山に対する充分な支保性能と止水性能を確保でき、地表あるいは地中の既存構造物に対する万全な沈下防止と、万全な地下水保全を図ることができる。
【0041】
特に、本実施形態における地中支保構造体3は、シールドトンネル6間に多数の鋼管先受工7をアーチ状に密に設けた構造であるので、充分に高剛性であって優れた支保性能を確保できるものである。また、地中支保構造体の周部には止水シート37による遮水壁膜8を設け、端部にも同じく止水シート41による端部遮水壁9を設けているので、安定かつ優れた止水性能を施工中のみならず恒久的に確保することが可能である。したがって、この地中支保構造体3を本設の止水構造体としても機能させることができ、そのため完成後に覆工壁4に作用する水圧を軽減することが可能であるから覆工壁4の構造を簡略化することも可能である。
【0042】
また、本実施形態のトンネル工法では、ランプシールドトンネル2を本線シールドトンネル1に先行させることにより、そのランプシールドトンネル2が分岐合流部の施工予定位置に達した時点で地中支保構造体3の施工に早期着手できるとともに、ランプシールドトンネル2の延長が最小限で済み、また地中支保構造体3の構築との並行作業により本線シールドトンネル1の掘進が可能であるので、特に効率的な施工が可能であり、全体工期の短縮を充分に図ることができる。さらに、本実施形態の工法は、基本的にはいずれも多くの実績のある在来のシールド工法や遮水膜工法、掘削工法を有機的に組み合わせるものであるから、安全性や信頼性に優れるばかりでなく、比較的低コストでの施工が可能であり、特に都市圏における大深度・大断面の道路トンネルを施工する際に適用して最適な工法であるといえる。
【0043】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されることなくたとえば以下に列挙するように様々な変形や応用が可能である。
【0044】
上記実施形態は都市圏における道路トンネルの築造に際しての適用例であるが、本発明は道路トンネルに限らず、様々な用途、形態、規模の地中空洞の築造に際して広く適用できるものであり、地中支保構造体の構造や形態も築造するべき地中空洞の規模や形態に対応してを最適に設定すれば良い。
【0045】
上記実施形態では導坑としてシールド工法によるシールドトンネル6を採用し、それにより導坑の施工に際しての支保性能と止水性能を自ずと確保できる利点があるが、地山条件等によって導坑は必ずしもシールドトンネルとして施工することはなく、適宜の掘削工法によって適宜施工すれば良く、必要であれば導坑掘削のために予備的な地盤改良を行うことも考えられる。また、上記実施形態では導坑としてのシールドトンネル6を上下左右に計4本設けたが、その本数や位置は築造すべき地中空洞の規模や形態によって適宜増減し変更して良く、たとえば図14に示すように少なくとも2本の導坑(シールドトンネル6)を設ければ上記実施形態と同様の手順での施工が可能であるし、必要に応じてより多数の導坑を設けても勿論良い。なお、上記実施形態では導坑としてのシールドトンネル6をランプシールドトンネル2から発進させるようにしたが、全体工程によってはそれを本線シールドトンネル1から、あるいは本線シールドトンネル1とランプシールドトンネル2の双方から発進させることでも同様に工期短縮が図れる。
【0046】
上記実施形態では鋼管先受工7の施工に際して曲がりボーリングを行い、小径のアーチ状のパイロットボーリング孔23を拡径掘削することで曲がり鋼管を挿入するためのアーチ状のボーリング孔25を施工するものとし、それによりアーチ状のボーリング孔25を高精度で効率的に施工することが可能であるが、それに限るものではなく、パイロットボーリングを省略してボーリング孔25を直接施工したり、あるいはボーリング孔25を施工することなく鋼管を推進工法により地山に直接的に押し込むことで鋼管先受工7を施工することも考えられる。
【0047】
上記実施形態では鋼管先受工7をアーチ状としたので、そのアーチ効果により自ずと優れた支保性能が得られるが、鋼管先受工7はアーチ状とすることに限るものでもなく、たとえば図15に示すように鋼管先受工7を直線的に設けることでも良く、その場合は曲がりボーリングや曲がり鋼管が不要であるので鋼管先受工7の施工を簡略することができる。図15は8本のシールドトンネル6(導坑)間にそれぞれ鋼管先受工7を直線的に設けることで地中支保構造体3の横断面形状を八角形とした場合の例であるが、導坑の増減により横断面形状を四角形や六角形あるいはさらに多角形とすることも考えられる。
【0048】
上記実施形態では、遮水膜壁8の施工に際してはワイヤーソー36によって地山をスリット状に掘削するものとし、それにより遮水膜壁8の施工を効率的に行い得るが、それに限るものでもなく、スリット状の掘削は他の掘削手段ないし切削手段により適宜行えば良い。また、上記実施形態では遮水膜壁8としての止水シート37を鋼管先受工7の内外に二重に設けるようにしたが、図13(a)に示すように一重とすることでも良い。さらに、上記実施形態では鋼管先受工7の内側に予めガイド管35を取り付け、そのガイド管35および鋼管先受工7にはワイヤーソー36を通しかつ止水シート37を装着するためのスリット38を予め形成しておくものとしたが、図13(b)に示すようにガイド管35を鋼管先受工7の外側に取り付けても良く、そのようにすればガイド管35にのみスリット38を形成して鋼管先受工7にはスリットを形成する必要はないし、あるいはこの場合においてはガイド管35として塩ビ管等の切削可能な素材を採用してワイヤーソー36により地山をスリット状に掘削していく際に同時にガイド管35を切り込んでいくことも考えられる。また、同じく図13(b)に示しているように、鋼管先受工7の外径寸法をボーリング孔25よりも小径としてそれらの隙間に固化泥水等の止水材50を充填したり、さらにはその止水材50中に透水マット51を取り付けて万一の際には透水マット51を通して積極的に排水することも考えられる。
【0049】
上記実施形態では、地中支保構造体3の端部に設ける端部遮水壁9も、鋼管先受工7間に設ける遮水膜壁8と同様に止水シート41によるものとし、それによりそこでも恒久的な止水性能を確保できるが、地山状況等によっては止水シート41によることなくたとえば薬液注入等による改良地盤だけで端部遮水壁9を形成することでも良い。また、上記実施形態では、鋼管先受工7と遮水膜壁8は、基本的に地中空洞の施工予定位置の全周にわたって取り囲むように閉合して設けられるものであるが、地盤の状態あるいは地下水の状態によっては、鋼管先受工7のみの部分、あるいは鋼管先受工7が閉合しない場合があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態である地中支保構造体およびそれによるトンネル工法の概要を示す図である。
【図2】同、分岐合流部の平面図である。
【図3】同、分岐合流部の正断面図および側断面図である。
【図4】同、導坑の施工工程を示す図である。
【図5】同、鋼管先受工の施工において予備地盤改良工程を行った状態を示す図である。
【図6】同、鋼管先受工の施工においてパイロットボーリングを行った状態を示す図である。
【図7】同、鋼管先受工の施工においてボーリング孔内に鋼管を挿入した状態を示す図である。
【図8】同、鋼管先受工の完成状態を示す図である。
【図9】同、鋼管先受工の施工におけるパイロットボーリング工程を示す図である。
【図10】同、鋼管先受工の施工における拡径掘削工程を示す図である。
【図11】同、遮水膜壁の施工工程を示す図である。
【図12】同、端部遮水壁を示す図である。
【図13】同、遮水膜壁の他の構成例を示す図である。
【図14】同、地中支保構造体の他の構成例を示す図である。
【図15】同、地中支保構造体の他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 本線シールドトンネル
2 ランプシールドトンネル
3 地中支保構造体
4 覆工壁
6 シールドトンネル(導坑)
7 鋼管先受工
8 遮水膜壁
9 端部遮水壁
10,11,12 改良地盤
20 曲がりボーリングマシン
21 ロッド
21a 単位ロッド
22 ビット
23 パイロットボーリング孔
24 拡径ビット
25 ボーリング孔
26 スイベルジョイント
27 送泥管
28 排泥管
29 連結コンクリート
34 掘削溝
35 ガイド管
36 ワイヤーソー
37 止水シート
38 スリット
39 ウインチ
40 ガイド管
41 止水シート
50 止水材
51 透水マット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中空洞を築造するに際して、その周囲地山を支保しかつ止水を行うために地中空洞の施工予定位置の外側に構築される地中支保構造体であって、
築造するべき地中空洞の延長方向に沿ってその周囲に設けられる複数の導坑と、それら導坑間に所定間隔で配列されて設けられて地中空洞の施工予定位置を取り囲む複数の鋼管先受工と、隣接する鋼管先受工間に設けられる遮水膜壁とからなることを特徴とする地中支保構造体。
【請求項2】
請求項1記載の地中支保構造体であって、
地中空洞の施工予定位置の端部付近においては、鋼管先受工の内側に端部遮水壁が設けられていることを特徴とする地中支保構造体。
【請求項3】
請求項2記載の地中支保構造体を構築するための施工方法であって、
築造するべき地中空洞の施工予定位置の周囲にその延長方向に沿う複数の導坑を設け、
導坑内から隣接する他の導坑に向けてボーリングを行い、そのボーリング孔内に鋼管を挿入して鋼管先受工を施工し、
隣接する鋼管先受工間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、その掘削溝内に止水シートを配設して遮水膜壁を施工し、
地中空洞の施工予定位置の端部付近における鋼管先受工の内側に端部遮水壁を設けることを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項4】
請求項3記載の地中支保構造体の施工方法であって、
導坑をシールド工法によるシールドトンネルとして施工することを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の地中支保構造体の施工方法であって、
鋼管先受工の施工に際しては、導坑内から鋼管先受工の施工予定位置を地盤改良した後、パイロットボーリング孔を削孔し、パイロットボーリング孔を拡径掘削して鋼管を挿入可能なボーリング孔を施工し、そのボーリング孔内に、短尺の単位鋼管を継ぎ足しつつ鋼管を挿入することを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項6】
請求項5記載の地中支保構造体の施工方法であって、
パイロットボーリング孔を曲がりボーリングによってアーチ状に削孔するとともに、そのパイロットボーリング孔を拡径掘削してアーチ状のボーリング孔を施工し、そのボーリング孔内に、短尺の単位鋼管を継ぎ足しつつアーチ状に湾曲させた曲がり鋼管を挿入してアーチ状の鋼管先受工を施工することを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項7】
請求項3,4,5または6記載の地中支保構造体の施工方法であって、
遮水膜壁の施工に際しては、鋼管先受工間の地山に対するスリット状の掘削をワイヤーソーにより行うことを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項8】
請求項7記載の地中支保構造体の施工方法であって、
ボーリング孔内に挿入する鋼管の内側もしくは外側に、ワイヤーソーをガイドしかつ止水シートを装着するためのガイド管を予め取り付けておくことを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項9】
請求項3,4,5,6,7または8記載の地中支保構造体の施工方法であって、
端部遮水壁の施工に際しては、導坑の端部内側地山を地盤改良した後、その改良地盤に所定間隔でガイド管を配設し、それらガイド管により案内しつつワイヤーソーにより改良地盤をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、その掘削溝内に止水シートを配設することを特徴とする地中支保構造体の施工方法。
【請求項10】
シールド工法により本線シールドトンネルとランプシールドトンネルをそれぞれ施工するとともに、それら本線シールドトンネルとランプシールドトンネルを要所で接合して分岐合流部を施工するに際し、
分岐合流部の施工予定位置の外側に請求項2記載の地中支保構造体を以下の(a)〜(d)の工程により構築するとともに、その地中支保構造体の構築と並行して本線シールドトンネルを掘進し、
本線シールドトンネルが地中支保構造体の内側を通過した後、地中支保構造体の内側において本線シールドトンネルを拡幅してその拡幅部にランプシールドトンネルの先端部を接合して分岐合流部の覆工壁を施工するとともに、その覆工壁と鋼管先受工との間には所定厚さの地山を残すことを特徴とするトンネル工法。
(a)分岐合流部の施工予定位置に達したランプシールドトンネルあるいは本線シールドトンネルのいずれかシールド機を発進させることにより、分岐合流部の延長方向に沿う複数のシールドトンネルを分岐合流部の外側に導坑として施工する工程。
(b)導坑から隣接する他の導坑に向けて曲がりボーリングを行って小径のパイロットボーリング孔をアーチ状に形成し、パイロットボーリング孔を拡径掘削してアーチ状のボーリング孔を形成し、ボーリング孔内に、短尺の単位鋼管を継ぎ足しつつアーチ状に湾曲させた曲がり鋼管を挿入してアーチ状の鋼管先受工を施工する工程。
(c)ボーリング孔内に挿入される曲がり鋼管の内側または外側にガイド管を予め取り付けておいて、そのガイド管によりワイヤーソーを案内して隣接する鋼管先受工の間の地山をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、そのス掘削溝内に止水シートを配設して遮水膜壁を施工する工程。
(d)分岐合流部の施工予定位置の端部付近の内側地山を地盤改良して端部遮水壁を形成した後、さらにその改良地盤に所定間隔でガイド管を配設し、ガイド管により案内しつつワイヤーソーにより改良地盤をスリット状に掘削して掘削溝を形成し、その掘削溝内に止水シートを配設して端部遮水壁を施工する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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