説明

地中梁における人通孔回りの補強構造

【課題】製造コストのかからない簡単な構成で施工が容易であり、人通孔の周囲どの部分においても十分な強度を得ることができ、施工後も特別な処置を施さなくても長期間にわたって強度を保つことができるように地中梁における人通孔回りの補強構造を提供する。
【解決手段】地中梁3に形成される人通孔5の両側に2本1組でX字状に配筋され、人通孔側の端部が梁主筋にフックで緊結され、他端部がコンクリートに定着され、且つ、梁幅方向に間隔を隔てて対向配置される4組の斜め補強筋8と、人通孔の両側で且つせん断補強の有効な範囲に上下の梁主筋群にわたって巻掛け配筋される孔周囲せん断補強筋11とを備える孔周囲補強筋と、人通孔の上部および下部に梁主筋と平行に配筋される複数本の軸方向補強筋13と最外側の梁主筋とにわたって巻掛け配筋される孔上下部あばら筋14とを備える上下一対の孔部補強筋をコンクリートに埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の地中梁に形成される人通孔回りの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多層集合住宅などの大きな建物においては、最下階の床スラブの下部空間がス
パン毎に地中梁(基礎梁)で分割されるので、設備配管等のメンテナンスに備えて、地中
梁の一部に作業員が通過できる大きな開口(人通孔)が形成される。しかしながら、梁を
貫通する人通孔などの開口の直径は梁の強度確保のために梁の大きさに合わせて制限され
ており、鉄筋コンクリート造の梁においては、梁成の1/3以下に抑制することが望まれ
ている。従って、開口が大きいほど梁成が大きくなり、元々梁成が大きな地中梁に、人通
孔のような大開口を形成すれば地中梁の高さが著しく高くなって、地盤掘削量やコンクリ
ート量が増し、コスト高となることは避けられなかった。そこで、梁成を抑えて人通孔を
できるだけ大きく形成できるように種々の補強構成が考えられている。
【0003】
特許文献1には、地中梁を対象にしたものではないが、大きな開口を有する鉄筋コンク
リート梁において、開口の内側に鋼管が嵌挿され、鉄筋コンクリート梁の剪断補強筋が鋼
管の外周面に接合されている鉄筋コンクリート梁の補強構造が記載されている。
【0004】
特許文献2には、上端の梁主筋及び下端の梁主筋と、せん断補強筋が配筋された鉄筋コ
ンクリート造の梁に開口を形成し、この開口の回りに複数の補強用の斜め筋を配筋するに
あたり、斜め筋を2本一組で互いに交差させて配筋し、斜め筋の両端に形成されたフック
の一方を上端の梁主筋に、他方のフックを下端の梁主筋に係合させるように配置すること
が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−51533号公報
【特許文献2】特開2006−183311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のものでは、鋼管と剪断補強筋を溶接する工程が必要があ
って、コストが高く付くという問題がある。また、鋼管と剪断補強筋が溶接されているの
で、コンクリートと鋼管の間に、結露などによって生じた水分が染み込むなどして溶接部
分に錆を発生させ、鉄筋コンクリート梁の強度低下を招く可能性があり、これを防止する
処置を必要とし、これがコストアップの要因ともなっていた。
【0007】
特許文献2のものでは、梁を貫通する開口の上部および下部におけるコンクリートにあ
ばら筋となる鉄筋による補強がなく、コンクリートの肉厚も薄いので、この部分の強度低
下が発生することは避けられなかった。つまり、開口の上下における上端の梁主筋と下端
の梁主筋が上下に歪むような変形が生じやすいという問題があった。
【0008】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであって、製造コストの安い簡単な構
成にして施工が容易であり、人通孔の周囲どの部分においても十分な強度を得ることがで
き、かつ、施工後も特別な処置を施さなくても長期間にわたって強度を保つことができる
ようにした地中梁における人通孔回りの補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、
請求項1に記載の発明による地中梁における人通孔回りの補強構造は、地中梁に形成され
る人通孔の梁長手方向両側に夫々2本1組でX字状に配筋され、人通孔側の端部が梁主筋
にフックで緊結され、他端部がコンクリートに定着され、且つ、梁幅方向に間隔を隔てて
対向配置される4組の斜め補強筋と、人通孔の梁長手方向両側で且つせん断補強の有効な
範囲に夫々上下の梁主筋群にわたって巻掛け配筋される孔周囲せん断補強筋とを備える孔
周囲補強筋と、人通孔の上部および下部に夫々梁主筋と平行に配筋される複数本の軸方向
補強筋と最外側の梁主筋とにわたって巻掛け配筋される孔上下部あばら筋とを備える上下
一対の孔部補強筋が埋設されたことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の地中梁における人通孔回りの補強構造であ
って、孔部補強筋が、軸方向補強筋と最外側の梁主筋とをフックで緊結して配筋されるキ
ャップタイ形状の拘束筋を備えることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の地中梁における人通孔回りの補強構
造であって、孔周囲補強筋が、孔周囲せん断補強筋のうち人通孔に最も近く配筋される孔
周囲せん断補強筋を2本束ね筋とすることで構成される孔際せん断補強筋を備えることを
特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、人通孔の上下のコンクリート部分に、人通孔の上部お
よび下部に夫々梁主筋と平行に配筋される複数本の軸方向補強筋と最外側の梁主筋とにわ
たって巻掛け配筋される孔上下部あばら筋とを備える上下一対の孔部補強筋が埋設される
ので、人通孔を設けたことによる梁主筋の曲がりを確実に防ぐことができる。また、人通
孔の梁長手方向両側には、夫々、斜め補強筋と、上下の梁主筋群にわたって巻掛け配筋さ
れる孔周囲せん断補強筋とを備える孔周囲補強筋が埋設されるので、上下の軸方向補強筋
の変形や位置ずれを防ぐと共に、人通孔の側面を補強することができる。つまり、人通孔
はその周囲どの部分においても補強されるので、強度的な問題を発生させることなく人通
孔の大きさを大きくすることができる。
【0013】
前記斜め補強筋は、一端だけ、つまり、人通孔側の端部だけをフックに形成して梁主筋
に係合させる形状であるため、配筋作業が容易であり、施工が容易となり、それだけ製造
コストを削減することができる。
【0014】
前記孔部補強筋は、複数本の軸方向補強筋と最外側の梁主筋とにわたって巻掛け配筋さ
れる孔上下部あばら筋とで構成してもよいが、請求項2に記載の発明のように、全てを軸
方向補強筋と梁主筋とにわたって巻き掛けるのではなく、孔上下部あばら筋ほどの拘束力
を要求されない人通孔両側方の箇所(軸方向補強筋の両端側)には、孔上下部あばら筋に
代え、軸方向補強筋と最外側の梁主筋とをフックで緊結して配筋されるキャップタイ形状
の拘束筋を加えて構成することが、配筋作業を容易にすると共に、鉄筋量の低減を可能と
する点で、望ましい。
【0015】
前記孔周囲補強筋は、斜め補強筋と、人通孔の梁長手方向両側で且つせん断補強の有効
な範囲に夫々上下の梁主筋群にわたって巻掛け配筋される孔周囲せん断補強筋とで構成し
てもよいが、孔際が最も応力的に耐力を必要とするため太径の鉄筋で補強することも考え
られるが、コンクリートのかぶり厚さ確保の問題もある為、請求項3に記載の発明のよう
に、孔周囲せん断補強筋のうち人通孔に最も近く配筋される孔周囲せん断補強筋を2本束
ね筋とすることで構成される孔際せん断補強筋を加えて構成することが、細径の鉄筋を用
いて、せん断補強の効果を高め得る点で、望ましい。
【0016】
尚、梁主筋に対する斜め補強筋の角度は約45度〜60度であること望ましい。前記軸
方向補強筋の長さは、後述する通り、梁成をDとしたとき、≧Dとすることが望ましい。
また、各鉄筋は所定のかぶり厚を確保するように梁コンクリートの内部に埋設されるもの
であり、外気に接することがないので錆などの問題が発生することはない。
【0017】
上述したように、本発明によれば、簡単な構成でありながら人通孔の周囲における地中
梁の補強を十分に行うことができるので、製造コストを削減しながら比較的大きな人通孔
を形成できると共に、永く安定した地中梁を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る地中梁における人通孔回りの補強構造が採用された地中梁の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る地中梁における人通孔回りの補強構造の構成を示す要部の透視斜視図である。
【図3】図2の人通孔回りの補強構造を人通孔の軸芯方向から見た側面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図3のB−B断面図である。
【図6】斜め補強筋の配筋状態を説明する側面図と正面図である。
【図7】孔周囲補強筋の配筋状態を説明する側面図と正面図である。
【図8】孔部補強筋の配筋状態を説明する側面図である。
【図9】孔部補強筋の配筋状態を示し、(A)は図8のA−A断面図、(B)は図8のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、多層集合住宅などの大きな建物を構築する場合、基礎1として各柱
2の脚部間を連結するように鉄筋コンクリート造の地中梁3,4を形成することが多い。
また、地中梁3には作業者が通り抜けできると共に配管を通すことができるように人通孔
5を形成することが行なわれている。
【0020】
前記人通孔5は、作業性を考慮すると大きくすることが好ましいが、強度的には地中梁
3の長さおよび高さに合わせて、その大きさが制限されている。そこで、地中梁3内に配
筋する鉄筋により人通孔回りの補強構造を形成し、人通孔5を形成した部分における補強
を施す。
【0021】
本発明の実施形態においては、人通孔回りの補強構造6が次の通りに構成されている。
即ち、図2〜図5に示すように、地中梁3に形成される人通孔5の梁長手方向両側に夫々
2本1組でX字状に配筋され、人通孔5側の端部が梁主筋7a,7bにフックで緊結され
、他端部がコンクリートに定着され、且つ、梁幅方向に間隔を隔てて対向配置される4組
の斜め補強筋8と、人通孔5の両側に配筋される孔周囲補強筋9と、人通孔5の上部と下
部に配筋される上下一対の孔部補強筋10とで構成されている。
【0022】
孔周囲補強筋9は、人通孔5の梁長手方向両側で且つせん断補強の有効な範囲Cに夫々
上下の梁主筋7a,7b群にわたって巻掛け配筋される孔周囲せん断補強筋11と、孔周
囲せん断補強筋11のうち人通孔5に最も近く配筋される孔周囲せん断補強筋11を2本
束ね筋とすることで構成される孔際せん断補強筋12とで構成されている。
【0023】
孔部補強筋10は、人通孔5の上部および下部に夫々最外側の梁主筋7a,7bと平行
に配筋される2本の軸方向補強筋13と最外側の梁主筋7a,7bとにわたって巻掛け配
筋される複数本の孔上下部あばら筋14と、人通孔5より両側方に位置する軸方向補強筋
10の両端側と最外側の梁主筋7a,7bとをフックで緊結して配筋される複数組のキャ
ップタイ形状の拘束筋15とで構成されている。斜め補強筋8の人通孔5側とは反対側の
端部(コンクリートに定着される側の端部)は、図6に示すように、適当長さ(鉄筋径を
dとしたとき≧10dとなる長さ)だけ水平方向に屈曲して定着長を確保している。また
、斜め補強筋8の人通孔5側とは反対側の端部については、前述の定着手段の他に端部に
135度あるいは180度のフックを形成する様にしても良い。
【0024】
尚、梁主筋7a,7bに対する斜め補強筋の角度は約60度に設定されているが、約4
5度〜60度の範囲で適宜設定される。前記軸方向補強筋13の長さは、梁成をDとした
とき、≧Dとすることが望ましい。また、各鉄筋は所定のかぶり厚を確保するように梁コ
ンクリートの内部に埋設される。せん断補強の有効な範囲Cとは、図7に示すように、人
通孔5の中心から垂直、水平に延びる軸線に対して45度の斜線を延ばし、地中梁の上,
下端の梁主筋7a,7bと交差する位置までの範囲である。従って、人通孔5を梁成の中
心から下方へ偏心して形成する場合、梁下端ではせん断補強の有効な範囲Cが狭くなり、
梁上端では逆にせん断補強の有効な範囲Cが広がることになる。
【0025】
上記の構成によれば、人通孔5の上下のコンクリート部分に、人通孔5の上部および下
部に夫々梁主筋7a,7bと平行に配筋される2本の軸方向補強筋13と最外側の梁主筋
7a,7bとにわたって巻掛け配筋される孔上下部あばら筋14および拘束筋15とを備
える上下一対の孔部補強筋10が埋設されるので、人通孔5を設けたことによる梁主筋7
a,7bの曲がりを確実に防ぐことができる。また、人通孔5の梁長手方向両側には、夫
々、斜め補強筋8と、上下の梁主筋群にわたって巻掛け配筋される孔周囲せん断補強筋1
1および孔際せん断補強筋12から成る孔周囲補強筋9が埋設されるので、上下の軸方向
補強筋13の変形や位置ずれを防ぐと共に、人通孔5の側面を補強することができる。つ
まり、人通孔5はその周囲どの部分においても補強されるので、強度的な問題を発生させ
ることなく人通孔5の大きさを大きくすることができ、人通孔5の直径Hを地中梁3の梁
成Dの1/2.4まで大きくすることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
3 地中梁
5 人通孔
6 人通孔回りの補強構造
7a,7b 梁主筋
8 斜め補強筋
9 孔周囲補強筋
10 孔部補強筋
11 孔周囲せん断補強筋
12 孔際せん断補強筋
13 軸方向補強筋
14 孔上下部あばら筋
15 拘束筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中梁に形成される人通孔の梁長手方向両側に夫々2本1組でX字状に配筋され、人通
孔側の端部が梁主筋にフックで緊結され、他端部がコンクリートに定着され、且つ、梁幅
方向に間隔を隔てて対向配置される4組の斜め補強筋と、人通孔の梁長手方向両側で且つ
せん断補強の有効な範囲に夫々上下の梁主筋群にわたって巻掛け配筋される孔周囲せん断
補強筋とを備える孔周囲補強筋と、人通孔の上部および下部に夫々梁主筋と平行に配筋さ
れる複数本の軸方向補強筋と最外側の梁主筋とにわたって巻掛け配筋される孔上下部あば
ら筋とを備える上下一対の孔部補強筋が埋設されたことを特徴とする地中梁における人通
孔回りの補強構造。
【請求項2】
孔部補強筋が、軸方向補強筋と最外側の梁主筋とをフックで緊結して配筋されるキャッ
プタイ形状の拘束筋を備えることを特徴とする請求項1に記載の地中梁における人通孔回
りの補強構造。
【請求項3】
孔周囲補強筋が、孔周囲せん断補強筋のうち人通孔に最も近く配筋される孔周囲せん断
補強筋を2本束ね筋とすることで構成される孔際せん断補強筋を備えることを特徴とする
請求項1又は2に記載の地中梁における人通孔回りの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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