説明

地中構造物および地中構造物の構築方法

【課題】山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物であって、芯材の露出作業を簡易迅速に実施することが可能な地中構造物を提供すること。
【解決手段】山留壁Wの芯材1にRC躯体Sを接続してなる地中構造物であって、芯材1は、鉄筋挿通孔を有する躯体側フランジ11と、躯体側フランジ11に対峙する地山側フランジ12と、地山側フランジ12に固定された芯材用鉄筋2と、芯材用鉄筋2に装着された機械式継手用のカプラー3とを備えており、カプラー3は、躯体側フランジ11と地山側フランジ12との間に配置されており、RC躯体Sは、芯材1に至る定着用鉄筋4を備えており、定着用鉄筋4は、鉄筋挿通孔を通ってカプラー3に接続されている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物に関し、さらには、この種の地中構造物を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、山留壁の芯材にRC躯体(鉄筋コンクリート製の躯体)を接続し、RC躯体に作用する力の一部を山留壁に負担させる場合がある。
【0003】
特許文献1に開示された技術は、芯材用鉄筋が組み込まれた芯材を地中に建て込んで山留壁を構築し、地盤を掘り下げて芯材を露出させた後、芯材用鉄筋に機械式継手用のカプラーを装着し、カプラーを介してRC躯体の鉄筋と芯材用鉄筋とを連結する、というものである。なお、芯材用鉄筋は、芯材の地山側フランジおよび躯体側フランジに貫設されており、芯材用鉄筋の一端は、地山側フランジに固定されている。また、芯材用鉄筋の他端は、躯体側フランジから突出していて、当該突出部分にカプラーが接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2673634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、躯体側フランジを露出させる作業(芯材を取り巻く土砂やソイルセメント等を取り除く作業)を行う必要があるところ、躯体側フランジから突出した芯材用鉄筋が前記作業の妨げになる虞がある。
【0006】
このような観点から、本発明は、山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物であって、芯材を露出させる作業を簡易迅速に実施することが可能な地中構造物を提供することを課題とし、さらには、このような地中構造物の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地中構造物は、山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物であって、前記芯材は、鉄筋挿通孔を有する躯体側フランジと、当該躯体側フランジに対峙する地山側フランジと、当該地山側フランジに固定された芯材用鉄筋と、当該芯材用鉄筋に装着された機械式継手用のカプラーとを備えており、前記カプラーは、前記躯体側フランジと前記地山側フランジとの間に配置されており、前記RC躯体は、前記芯材に至る定着用鉄筋を備えており、前記定着用鉄筋は、前記鉄筋挿通孔を通って前記カプラーに接続されている、ことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る地中構造物を構築する際には、カプラー(スリーブと称される場合もある)と芯材用鉄筋とを組み込んだ芯材を地中に建て込み、当該芯材を利用して山留壁を構築した後、RC躯体の定着用鉄筋をカプラーに接続することになるが、芯材用鉄筋およびカプラーが躯体側フランジから突出していないので、躯体側フランジを露出させる作業(芯材を取り巻く土砂やソイルセメント等を取り除く作業)を行うにあたり、芯材用鉄筋およびカプラーが前記作業の妨げになることはない。
【0009】
本発明に係る地中構造物においては、前記カプラーと前記躯体側フランジとの間にシール材を介設してもよい。このようにすると、鉄筋挿通孔からの漏水を防ぐことが可能となる。
【0010】
前記カプラーに雌ネジが形成されており、前記定着用鉄筋に雄ネジが形成されている場合には、前記躯体側フランジよりも前記RC躯体側の前記雄ネジに止水用ナットを螺合し、前記止水用ナットと前記躯体側フランジとの間にシール材を介設するか、あるいは、前記止水用ナットおよび前記定着用鉄筋に対して吹付け防水処理を施すとよい。このようにすると、鉄筋挿通孔からの漏水を防ぐことが可能となる。なお、止水用ナットと躯体側フランジとの間に加えて、カプラーと躯体側フランジとの間にもシール材を介設すれば、どちらか一方のみにシール材を配置した場合に比べて、止水性能が向上するようになる。
【0011】
本発明に係る地中構造物の構築方法は、山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物を構築する方法であって、前記芯材の躯体側フランジと地山側フランジとの間に機械式継手用のカプラーを配置するとともに、前記カプラーから前記地山側フランジに至る芯材用鉄筋を前記地山側フランジに固定しておき、前記躯体側フランジに形成した鉄筋挿通孔に仮ボルトの軸部を挿通するとともに、当該軸部を前記カプラーに螺入し、前記仮ボルトで前記カプラーを塞いだ状態で前記芯材を地中に建て込み、地盤を掘り下げて前記躯体側フランジを露出させた後、前記仮ボルトに換えて、前記RC躯体に至る定着用鉄筋を前記鉄筋挿通孔に挿通して前記カプラーに接続し、その後、前記RC躯体のコンクリートを打設する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、芯材用鉄筋および機械式継手用のカプラーが躯体側フランジから突出していないので、躯体側フランジを露出させる作業を行うにあたり、芯材用鉄筋およびカプラーが前記作業の妨げになることはない。なお、本発明においては、仮ボルトの頭部が躯体側フランジから突出するものの、その突出量は僅かであるため、前記作業に大きな影響を及ぼすことはない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、躯体側フランジを露出させる作業を簡易迅速に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る地中構造物の横断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図2】芯材の構成を説明するための平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る地中構造物の構築手順を説明するための図であって、(a)は山留壁を構築した状態を示す横断面図、(b)は芯材を露出させた状態を示す横断面図である。
【図4】同じく(a)はRC躯体である頂版を構築した状態を示す横断面図、(b)は頂版の下方を掘り下げた状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る地中構造物は、図1の(a)および(b)に示すように、山留壁Wの芯材1にRC躯体Sを接続してなるものである。なお、図1の(a)は、図1の(b)のA−A線断面図である。
【0016】
山留壁Wは、一般的には仮設構造物であるが、本実施形態では、本設構造物として利用する。RC躯体Sを山留壁Wと一体化し、山留壁Wを本設構造物とみなしてRC躯体Sを設計すれば、RC躯体Sのスリム化を図ることができ、ひいては、工期や工費を削減することが可能となる。
【0017】
本実施形態の山留壁Wは、図1の(b)に示すように、いわゆる柱列式連続地中壁であり、複数の芯材1,1,…とソイルセメントとにより構成されている。
【0018】
芯材1は、H型鋼からなる芯材本体に、芯材用鉄筋2と機械式継手用のカプラー3とを組み込んで形成したものである。すなわち、芯材1は、芯材本体を構成する躯体側フランジ11、地山側フランジ12およびウェブ13のほか、地山側フランジ12に固定された芯材用鉄筋2と、芯材用鉄筋2に装着されたカプラー3とを備えている。本実施形態では、一の芯材本体につき四つの芯材用鉄筋2,2,…が配置されており、四つの芯材用鉄筋2,2,…のそれぞれにカプラー3が装着されている。なお、I型鋼、溝型鋼、角鋼管などを芯材本体としても勿論差し支えない。
【0019】
躯体側フランジ11は、掘削領域(RC躯体Sが構築される領域)に面するように配置されていて、躯体側フランジ11の表面は、RC躯体Sの側面に当接している。
【0020】
地山側フランジ12は、掘削領域外の地山Gに面するように配置されている。すなわち、地山側フランジ12は、躯体側フランジ11よりも地山G側に位置していて、躯体側フランジ11と対峙している。
【0021】
図2に示すように、躯体側フランジ11には、鉄筋挿通孔1aが形成されている。また、地山側フランジ12には、躯体側フランジ11の鉄筋挿通孔1aに対応して、鉄筋挿通孔1bが形成されている。鉄筋挿通孔1a,1bは、芯材用鉄筋2およびカプラー3の設置位置に合わせて形成されている。
【0022】
ウェブ13は、躯体側フランジ11と地山側フランジ12との間に介在していて、両フランジ11,12の幅方向中央部同士を繋いでいる。
【0023】
芯材用鉄筋2は、地山側フランジ12と交差するように配置されている。本実施形態の芯材用鉄筋2は、ネジ節鉄筋からなり、地山側フランジ12と直角に交差し、かつ、ウェブ13と平行となるように配置されている。
【0024】
本実施形態の芯材用鉄筋2は、地山側フランジ12の鉄筋挿通孔1bに挿通されており、芯材用鉄筋2の地山G側の端部(以下「基端部」という。)は、地山側フランジ12の外側(地山G側)に突出している。芯材用鉄筋2の基端部は、地山側フランジ12を挟持する一対の固定用ナット21,22によって地山側フランジ12に固定されている。固定用ナット21,22と地山側フランジ12との間には、座金23,24が介設されている。なお、図示は省略するが、溶接等の手段により、芯材用鉄筋2を地山側フランジ12に固定してもよい。この場合、地山側フランジ12の鉄筋挿通孔1b、固定用ナット21,22および座金23,24は不要となる。
【0025】
芯材用鉄筋2の長さは、躯体側フランジ11と地山側フランジ12との離隔距離よりも短く、芯材用鉄筋2のRC躯体S側の端部(以下「先端部」という。)は、躯体側フランジ11と地山側フランジ12との間に位置している。
【0026】
カプラー3は、芯材用鉄筋2の先端部に装着された状態で、躯体側フランジ11と地山側フランジ12との間に配置されている。
【0027】
カプラー3は、両端が開口した筒状を呈している。カプラー3の内部には、その全長に亘って雌ネジが形成されている。カプラー3の雌ネジには、地山G側から芯材用鉄筋2の雄ネジが螺入される。芯材用鉄筋2の先端部は、カプラー3の内部に留まっており、カプラー3のうち、芯材用鉄筋2の先端面よりも躯体RCS側には、仮ボルト33または定着用鉄筋4を挿入するための空間が確保されている。なお、図示は省略するが、溶接等の手段により、芯材用鉄筋2の先端部をカプラー3の内部に固定してもよい。
【0028】
カプラー3は、躯体側フランジ11に隣接するように配置されていて、カプラー3のRC躯体S側の端面(以下「先端面」という。)は、躯体側フランジ11の裏面に突き合わされている。カプラー3を躯体側フランジ11に突き合わせると、カプラー3の雌ネジが鉄筋挿通孔1aと連通するようになる。
【0029】
カプラー3を挟んで躯体側フランジ11の反対側には、ロックナット31が配置されている。
ロックナット31は、カプラー3の緩み止めであり、芯材用鉄筋2に装着されている。ロックナット31は、カプラー3に近づく方向に締め付けられていて、カプラー3の地山G側の端面(以下「基端面」という。)に密着している。
【0030】
カプラー3と躯体側フランジ11との間には、シール材32が介設されている。
シール材32は、鉄筋挿通孔1aからの漏水を防ぐ目的で配置されるものであり、リング状を呈していて、鉄筋挿通孔1aを囲むように配置される。シール材32は、カプラー3の締結力によって押し潰され、カプラー3の先端面に密着するとともに、鉄筋挿通孔1aの開口縁部(躯体側フランジ11の裏面)に密着する。
【0031】
仮ボルト33は、カプラー3の雌ネジ内に土砂や固化材等が浸入することを防ぐ目的で配置されるものであり、最終的には取り外される。仮ボルト33の軸部は、RC躯体S側から鉄筋挿通孔1aに挿入され、カプラー3の雌ネジに螺入される。
【0032】
仮ボルト33の軸部には、リング状のシール材34が嵌められる。
シール材34は、鉄筋挿通孔1aからの漏水を防ぐ目的で配置されるものであり、リング状を呈していて、鉄筋挿通孔1aを囲むように配置される。シール材34は、仮ボルト33の締結力によって押し潰され、仮ボルト33の頭部の座面に密着するとともに、鉄筋挿通孔1aの開口縁部(躯体側フランジ11の表面)に密着する。
【0033】
RC躯体Sは、図1の(a)に示すように、鉄筋コンクリート製のボックスカルバートであり、頂版S1や側壁S2のほか、図示は省略するが、底版などを備えている。頂版S1には、図示せぬ主筋や配力筋のほか、芯材1に至る定着用鉄筋4が配筋されている。
【0034】
定着用鉄筋4は、大きな曲げモーメントが発生するRC躯体Sの隅角部に配筋されていて、鉄筋挿通孔1a(図2参照)を通ってカプラー3に接続されている。なお、定着用鉄筋4は、仮ボルト33(図2参照)を取り外した後に配筋される。定着用鉄筋4は、ネジ節鉄筋であり、その全長に亘って雄ネジが形成されている。定着用鉄筋4の雄ネジは、カプラー3の雌ネジに螺入されている。ここで、折れ曲がりの無い直線状の定着用鉄筋4を使用すると、定着用鉄筋4の位置が芯材1の施工精度に制約されることとなり、施工精度が悪い場合には、RC躯体Sの配筋に影響を及ぼす虞がある。このような場合には、屈曲部を有する定着用鉄筋4’(図1の(b)参照)を使用するとよい。なお、屈曲部は、鉄筋加工の際に予め形成しておくとよい。定着用鉄筋4’を使用すれば、カプラー3に回転挿入する際に、正規の位置に調整することができる。
【0035】
図2に示すように、定着用鉄筋4には、止水用ナット41とシール材42とが装着される。
【0036】
止水用ナット41は、躯体側フランジ11よりもRC躯体S側において、定着用鉄筋4の雄ネジに螺合していて、止水用ナット41の座面は、シール材42に密着する。
【0037】
シール材42は、鉄筋挿通孔1aからの漏水を防ぐ目的で配置されるものであり、リング状を呈していて、鉄筋挿通孔1aを囲むように配置される。シール材42は、止水用ナット41の締結力によって押し潰され、止水用ナット41の座面に密着するとともに、鉄筋挿通孔1aの開口縁部(躯体側フランジ11の表面)に密着する。
【0038】
定着用鉄筋4に作用する軸力は、躯体側フランジ11と地山側フランジ12に伝達される。すなわち、定着用鉄筋4に螺合させたカプラー3と止水用ナット41とで躯体側フランジ11を挟持しているので、定着用鉄筋4は、躯体側フランジ11に固定(定着)されることとなり、したがって、定着用鉄筋4に作用する軸力は、躯体側フランジ11に伝達されるようになる。また、定着用鉄筋4は、カプラー3を介して芯材用鉄筋2に接続されているところ、芯材用鉄筋2は、地山側フランジに固定(定着)されているので、定着用鉄筋4に作用する軸力は、地山側フランジ12にも伝達されるようになる。
【0039】
本実施形態に係る地中構造物の構築方法は、次のとおりである。なお、本実施形態においては、逆巻き工法によりRC躯体Sを構築する場合を例示するが、RC躯体Sの構築順序を限定する趣旨ではない。
【0040】
図3の(a)に示すように、まず、掘削領域Kの外縁に沿って山留壁Wを構築する。具体的には、掘削領域に隣接する位置をアースオーガで掘削しつつ、原位置にて掘削土とセメントスラリーを混合・攪拌してソイルセメントを形成し、掘削孔からアースオーガを引き上げた後、ソイルセメントが固まらないうちに、芯材1を地中(掘削孔)に建て込めばよい。
【0041】
なお、芯材1を地中に建て込む前に、芯材本体であるH型鋼に芯材用鉄筋2およびカプラー3を組み込み、さらに、仮ボルト33の軸部を躯体側フランジ11の鉄筋挿通孔1a(図2参照)に挿通し、当該軸部をカプラー3に螺入することで、カプラー3の雌ネジを塞いでおき、芯材1を地中に建て込む際には、仮ボルト33でカプラー3を塞いだ状態で芯材1をソイルセメント内に沈設する。
【0042】
山留壁Wが構築されたならば、図3の(b)に示すように、床版S1を構築できる深さまで掘削領域Kを掘り下げるとともに、躯体側フランジ11の前側にあるソイルセメントを削り取り、躯体側フランジ11を露出させる。本実施形態では、仮ボルト33の頭部が僅かに躯体側フランジ11から突出しているものの、芯材用鉄筋2およびカプラー3が躯体側フランジ11よりも地山G側に位置し、躯体側フランジ11から突出していないので、躯体側フランジ11を露出させる作業を行うにあたり、芯材用鉄筋2およびカプラー3が前記作業の妨げになることはない。
【0043】
躯体側フランジ11が露出したならば、仮ボルト33をカプラー3から取り外し、仮ボルト33に換えて、RC躯体Sの隅角部に至る定着用鉄筋4をカプラー3に接続する。具体的には、止水用ナット41およびシール材42を定着用鉄筋4に装着した後、定着用鉄筋4の端部を鉄筋挿通孔1a(図2参照)に挿通し、カプラー3に螺入すればよい。なお、必要に応じて、カプラー3の内部にグラウト材等の充填材を注入してもよい。定着用鉄筋4をカプラー3に接続したならば、止水用ナット41を締め付け、止水用ナット41の座面と鉄筋挿通孔1aの開口縁部にシール材42を密着させる。
【0044】
なお、鉄筋挿通孔1aの内部(鉄筋挿通孔1aの孔壁と定着用鉄筋4との隙間)および止水用ナット41の内部(定着用鉄筋4の雄ネジと止水用ナット41の雌ネジとの隙間)にエポキシ樹脂やグラウト材等の止水材を充填してもよい。このようにすると、鉄筋挿通孔1aや止水用ナット41の内部を水みちとする漏水を防ぐことができるので、止水性能をより一層高めることができる。
【0045】
また、止水用ナット41を締め付けた後、定着用鉄筋4の基端部および止水用ナット41に対して発泡ウレタン等の防水材を吹き付けてもよい。止水用ナット41を覆うように吹付け防水処理を施すことでも、鉄筋挿通孔1aや止水用ナット41の内部を水みちとする漏水を防ぐことができるので、止水性能を高めることができる。なお、吹付け防水処理を施した場合には、シール材42を省略してもよい。
【0046】
図示は省略するが、定着用鉄筋4の接続作業と並行して、あるいは接続作業の前後に、頂版S1の主筋や配力筋を配筋するとともに、頂版S1の下面および妻面に型枠等を設置する。
【0047】
頂版S1の配筋工および型枠工が完了したならば、頂版S1のコンクリートを打設し、所定強度に達した後、型枠を脱型する(図4の(a)参照)。
【0048】
頂版S1が構築されたならば、頂版S1の下方において掘削領域Kを掘り下げ、必要に応じて躯体側フランジ11にスタッドなどを溶接する(図4の(b)参照)。なお、頂版S1は、芯材1に支持されているので、頂版S1を支持する仮設の中間杭等を省略あるいは削減することができる。
【0049】
その後、底版(図示略)を構築し、さらに、頂版S1と底版との間に側壁S2を構築すると、図1に示すように、山留壁Wの芯材1にRC躯体Sを接続してなる地中構造物が構築される。
【0050】
本実施形態に係る地中構造物およびその構築方法によれば、芯材用鉄筋2とカプラー3とを事前に組み込んだ芯材1を使いながらも、芯材用鉄筋2およびカプラー3が躯体側フランジ11から突出していないので、躯体側フランジ11を露出させる作業を簡易迅速に実施することが可能となる。
【0051】
また、定着用鉄筋4をカプラーに接続するとともに、カプラー3を躯体側フランジ11に固定し、カプラー3に接続された芯材用鉄筋2を地山側フランジ12に固定しているので、定着用鉄筋4に作用する軸力を躯体側フランジ11および地山側フランジ12に伝達することができ、ひいては、RC躯体Sの隅角部に作用する曲げモーメントを効率よく芯材1に伝達することが可能となる。つまり、本実施形態によれば、RC躯体Sの隅角部の曲げ剛性を効率よく向上させることが可能となる。
【0052】
さらに、カプラー3と止水用ナット41とを利用して、定着用鉄筋4を躯体側フランジ11に固定しているので、定着用鉄筋4を躯体側フランジ11に固定するにあたり、溶接作業が不要になる。なお、定着用鉄筋4を溶接により躯体側フランジ11に固定する場合には、横向き溶接となるので、熟練工を配するとともに、高い品質管理が必要になるので、工期の長期化やコスト増を招く虞がある。
【0053】
また、躯体側フランジ11とカプラー3との間にシール材32を介在させるとともに、躯体側フランジ11と仮ボルト33の座面との間にシール材34を介在させており、仮ボルト33に換えて定着用鉄筋4を装着した後においては、躯体側フランジ11と止水用ナット41との間にシール材42を介在させているので、鉄筋挿通孔1aからの漏水を防ぐことができる。
【0054】
なお、本実施形態では、柱列式連続地中壁を山留壁Wとし、柱列式連続地中壁の芯材1にRC躯体Sを接続する場合を例示したが、山留壁の種類や構造を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、連続する掘削溝に複数の芯材を建て込んで形成する等厚式のソイルセメント連続地中壁を山留壁としても差し支えないし、複数の鋼製芯材を連接して形成する鋼製地中連続壁を山留壁とし、鋼製地中連続壁の鋼製芯材にRC躯体を接続してもよい。
【0055】
本実施形態では、芯材用鉄筋2および定着用鉄筋4をネジ節鉄筋とした場合を例示したが、鉄筋の種類を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、異形鉄筋や鋼棒の端部に雄ネジ加工を施したものや、異形鉄筋や鋼棒の端部に雄ネジ部品を圧接したものを芯材用鉄筋や定着用鉄筋としてもよい。
【0056】
本実施形態では、主筋とは別の鉄筋を定着用鉄筋4とした場合を例示したが、主筋自体を定着用鉄筋としてもよい。
【0057】
本実施形態では、機械式継手がネジ節鉄筋継手である場合を例示したが、機械式継手の形式を限定する趣旨ではない。例えば、芯材用鉄筋および定着用鉄筋を異形鉄筋とした場合には、図示は省略するが、カプラー(スリーブ)と鉄筋との間に無収縮モルタルを充填するモルタル充填式継手を採用してもよい。芯材用鉄筋側については、カプラーを芯材用鉄筋に圧着する鋼管圧着継手を採用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
W 山留壁
1 芯材
11 躯体側フランジ
1a 鉄筋挿通孔
12 地山側フランジ
2 芯材用鉄筋
3 カプラー
31 ロックナット
32 シール材
33 仮ボルト
S RC躯体
4 定着用鉄筋
41 止水用ナット
42 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物であって、
前記芯材は、鉄筋挿通孔を有する躯体側フランジと、当該躯体側フランジに対峙する地山側フランジと、当該地山側フランジに固定された芯材用鉄筋と、当該芯材用鉄筋に装着された機械式継手用のカプラーとを備えており、
前記カプラーは、前記躯体側フランジと前記地山側フランジとの間に配置されており、
前記RC躯体は、前記芯材に至る定着用鉄筋を備えており、
前記定着用鉄筋は、前記鉄筋挿通孔を通って前記カプラーに接続されている、ことを特徴とする地中構造物。
【請求項2】
前記カプラーと前記躯体側フランジとの間にシール材が介設されている、ことを特徴とする請求項1に記載の地中構造物。
【請求項3】
前記カプラーには、雌ネジが形成されており、
前記定着用鉄筋には、前記雌ネジに螺入される雄ネジが形成されており、
前記躯体側フランジよりも前記RC躯体側の前記雄ネジには、止水用ナットが螺合しており、
前記止水用ナットと前記躯体側フランジとの間にシール材が介設されているか、あるいは、前記止水用ナットおよび前記定着用鉄筋に対して吹付け防水処理が施されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地中構造物。
【請求項4】
山留壁の芯材にRC躯体を接続してなる地中構造物を構築する方法であって、
前記芯材の躯体側フランジと地山側フランジとの間に機械式継手用のカプラーを配置するとともに、前記カプラーから前記地山側フランジに至る芯材用鉄筋を前記地山側フランジに固定しておき、
前記躯体側フランジに形成した鉄筋挿通孔に仮ボルトの軸部を挿通するとともに、当該軸部を前記カプラーに螺入し、前記仮ボルトで前記カプラーを塞いだ状態で前記芯材を地中に建て込み、
地盤を掘り下げて前記躯体側フランジを露出させた後、前記仮ボルトに換えて、前記RC躯体に至る定着用鉄筋を前記鉄筋挿通孔に挿通して前記カプラーに接続し、その後、前記RC躯体のコンクリートを打設する、ことを特徴とする地中構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−122190(P2012−122190A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270990(P2010−270990)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(390026723)東京鐵鋼株式会社 (37)
【Fターム(参考)】