説明

地中構造物の構築方法

【課題】水平断面形状が正多角形でありながら、施工資材の保管や運搬等および施工作業を簡素にすることができる地中構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】縦坑1は、複数のセグメント100を接合した環状体10が積層された筒状体であって、セグメント100は長尺部100a、中央部100bおよび短尺部100cを有する平面視で2箇所が折れ曲がった板材である。長尺部100aの上端面に長尺部中寄り上継手ボルト孔152aおよび長尺部端寄り上継手ボルト孔152dが設けられ、中央部100bの上端面の中央には中央部上継手ボルト孔152bが設けられ、短尺部100cの上端面には短尺部上継手ボルト孔152cが設けられ、直上直下のセグメント100を上下方向が反転するように当接し、一方の長尺部中寄り上継手ボルト孔152aと他方の短尺部上継手ボルト孔152cとの位置を一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地中構造物の構築方法、特に、複数のセグメントによって筒状に形成され、地中に設置される地中構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に縦方向に設置される縦坑や横方向に設置される横坑(本発明において両者を「地中構造物」と総称している)は、複数のセグメントを接合してなる環状体を積層することによって形成されている。
そして、地中構造物の内部空間の水平断面形状の多様化(L字形、T字形、十字等)に対応するため、発明者等は、両端面の延長面が直交関係にあるL字状の第一セグメントピースと、両端面が平行関係にある直線状の第二セグメントピースとを有するセグメントピースを開示している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−193685号公報(第5−6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、地中構造物の構築方法の内部空間の水平断面形状の多様化(L字形、T字形、十字等)に対応することができるという顕著な効果を奏するものの、両端面の延長面が直交関係にあるL字状の第一セグメントピースを用いる限り、水平断面形状が四角形を除く正多角形(正六角形)である地中構造物を形成することができないという問題があった。
なお、第一セグメントピースの両端面の延長面を直交関係にないようにすれば、水平断面形状が四角形を除く正多角形(正六角形)である地中構造物を形成することは可能であるものの、角部を形成する第一セグメントピースと角部同士の間を形成する第二セグメントピースとを有するため、施工資材の点数および接合箇所が増加し、施工資材のハンドリング(保管や運搬等)および施工作業が煩雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記問題を解決するものであって、水平断面形状が多角形でありながら、施工資材のハンドリング(保管や運搬等)および施工作業を簡素にすることができる地中構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る地中構造物の構築方法は、複数の環状体が順次積層され、地中に設置される地中構造物の構築方法であって、
前記環状体は、平面視において、中央部と、該中央部の一方に延設された長尺部と、前記中央部の他方に延設された短尺部とを具備する複数のセグメントによって形成され、
前記長尺部は、前記短尺部の長手方向の長さより長く、前記中央部と前記長尺部と前記短尺部とは、それぞれ同じ高さおよび同じ厚さを具備し、前記中央部と前記長尺部とがなす角度と、前記中央部と前記短尺部とがなす角度とが、等しく、
所定の前記セグメントの長尺部の長手方向の側面と、該セグメントに隣接された前記セグメントの短尺部の長手方向の側面とを当接する工程と、
所定の前記環状体における短尺部の高さ方向の端面を、該環状体に積層された前記環状体における長尺部の高さ方向の端面の一部に当接する工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
(2)前記(1)において、前記環状体を形成する前記セグメントの数が3以上の整数nであるとき、
平面視において、前記長尺部の長手方向の側面と前記短尺部の長手方向の側面とがなす角度θ°、および前記中央部と前記長尺部とがなす角度α°および前記中央部と前記短尺部とがなす角度α°をそれぞれ
θ=360/n
α=180・(n−1)/n
にすることを特徴とする。
【0008】
(3)前記(1)または(2)において、前記長尺部の高さ方向の端面に接合用手段が挿入される長尺部中寄り孔および長尺部端寄り孔を形成する工程と、
前記短尺部の高さ方向の端面に接合用手段が挿入される短尺部孔を形成する工程と、
所定の前記環状体における所定の前記セグメントの長尺部端寄り孔と、該環状体に積層された所定のセグメントの長尺部端寄り孔とに前記接合用手段を貫通させる工程と、
所定の前記環状体における所定の前記セグメントの長尺部中寄り孔と、該環状体に積層された所定のセグメントの短尺部孔とに前記接合用手段を貫通させる工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
(4)前記(1)乃至(3)の何れかにおいて、前記長尺部中寄り孔および前記長尺部端寄り孔にそれぞれ連通し、前記環状体の外面側に開口した長尺部中寄り凹部および長尺部端寄り凹部とを形成する工程と、
前記短尺部孔に連通し、前記環状体の外面側に開口した短尺部凹部を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
(5)前記(1)乃至(4)の何れかにおいて、平面視において、前記中央部と前記長尺部とが接合する角および前記中央部と前記短尺部とが接合する角を、同一の曲率半径の円弧に形成する工程を有することを特徴とする。
(6)前記(1)乃至(5)の何れかにおいて、平面視において、前記中央部と前記長尺部とが接合する隅および前記中央部と前記短尺部とが接合する隅を、同一の曲率半径の円弧に形成する工程を有することを特徴とする。
(7)前記(1)乃至(6)の何れかにおいて、前記セグメントを鉄筋コンクリートによって形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(i)本発明に係る地中構造物の構築方法は、1種類のセグメントのみを用いて構築するから、施工資材のハンドリング(保管や運搬等)が簡素になると共に、単一セグメントの量産効果によって資材コストが安価になる。
また、所定の層の環状体を形成するセグメントは、平面視で時計回りの方向(時刻が進む側)に長尺部を配置し、該環状体に積層された環状体を形成するセグメントは、奇数番目の層の環状体を形成するセグメントとは上下を反転し、平面視で時計回りの方向に短尺部を配置するようにするため、長尺部の側面と短尺部の側面との接合位置を高さ方向でジグザグ(「千鳥構造」に同じ)にすることが容易になるから、施工が簡素になり、施工工期の短縮や施工コストの圧縮を図ることができる。
【0012】
(ii)また、所定の層の環状体を形成するセグメントの長尺部中寄り孔と該環状体に積層された環状体を形成するセグメントの短尺部孔とに接合用手段を挿入し、所定の層の環状体を形成するセグメントの長尺部端寄り孔と該環状体に積層された環状体を形成するセグメントに隣接するセグメントの長尺部端寄り孔とに接合用手段を挿入し、上下方向でセグメントを接合するから、高い強度の地中構造物の構築方法が得られる。
(iii)また、長尺部中寄り凹部、長尺部端寄り凹部、短尺部凹部とが、環状体の外面側に開口するから、地中構造物(環状体)の外側からセグメントを接合することができる。よって、地中構造物の内部に、作業用の足場を仮設する必要がなくなるため、施工がさらに簡素になり、施工工期の短縮や施工コストのさらなる圧縮を図ることができる。
【0013】
(iv)また、セグメントの長尺部、中央部および短尺部がそれぞれ接合する角または隅の一方または両方を、円弧に形成するから、地中構造物の外面または内面の一方または両方を凹凸のない滑らかな面にすることができる。このため、地中構造物は、より均等な厚さで、より円筒に近い形になるから、作用する力の集中が防止されると共に、機能性や意匠性が向上する。
(v)さらに、セグメントを鉄筋コンクリートによって形成するから、長尺部および短尺部の長さを変更自在な型枠を用いて、長尺部および短尺部の長さを変更することによって、様々な内径(または対角線長さ)の地中構造物を安価に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る地中構造物の構築方法を説明する構築状況を模式的に示す正面図。
【図2】図1に説明した地中構造物の構築方法によって構築された地中構造物を形成する環状体を示す平面図。
【図3】図2に示す環状体を形成するセグメントを示す平面図および底面図。
【図4】図2に示す環状体を形成するセグメントを示す背面図および正面図。
【図5】図2に示す環状体を形成するセグメントを示す側面図および断面図。
【図6】図2に示す環状体の積層状況を模式的に示す正面図。
【図7】図2に示す環状体の積層状況を模式的に示す正面図。
【図8】本発明の実施の形態2に係る地中構造物の構築方法における環状体を形成するセグメントを示す平面図および底面図。
【図9】図8に示す環状体を形成するセグメントを示す背面図および正面図。
【図10】本発明の実施の形態3に係る地中構造物の構築方法における環状体の積層状況を模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
(縦坑)
図1〜図7は本発明の実施の形態1に係る地中構造物の構築方法を説明するものであって、図1は構築状況を模式的に示す正面図、図2は構築された地中構造物を形成する環状体を示す平面図、図3は図2に示す環状体を形成するセグメントを示す平面図および底面図、図4は図2に示す環状体を形成するセグメントを示す背面図および正面図、図5は図2に示す環状体を形成するセグメントを示す側面図および側面視の断面図、図6および図7は図2に示す環状体の積層状況を模式的に示す正面図である。なお、以下の各図において同じ部分または対応する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、符号の一部の記入を省略した図がある。
【0016】
図1において、地中構造物(以下、「縦坑」と称す)1は、地中9に圧入沈設装置8を用いて設置するものであって、環状体10は上下方向に積層され、互いに接合された筒状体である。
圧入沈設装置8は、地中9に浮き上がり不能に接合された装置スタンド8aと、装置スタンド8aに案内されて昇降する昇降アーム8bと、昇降アーム8bに設置され環状体10を地中9に圧入する圧入ジャッキ8cと、昇降アーム8bや圧入ジャッキ8c等を駆動する油圧ユニット8dと、を有している。
そして、以下の説明の便宜上、最上層の環状体10を「環状体10k」と、その直下の環状体10を「環状体10j」と、さらにその直下の環状体10を「環状体10i」と称呼する。すなわち、環状体10iが所定の距離だけ沈下した(圧入された)ところで、昇降アーム8bを持ち上げ、環状体10iの上に環状体10jを載せて両者を接合し、さらに、環状体10jを所定の距離だけ沈下(圧入)させ、同様に、環状体10kを積層する。
なお、以下の説明において、共通する内容においては、符号の添え字「i、j、k」の記載を省略する。
【0017】
(環状体)
図2において、環状体10は、複数のセグメント100を接合したものである。なお、環状体10iに環状体10jを接合する要領は、セグメント100を周方向で接合し、予め環状に形成された環状体10jを環状体10iに載せてもよいし、環状体10iの上にセグメント100を載せて上下方向および周方向を接合しながら環状体10jを形成するようにしてもよい。
環状体10は、6点のセグメント100が互いに接合され、十二角形を呈しているが、本発明は十二角形に限定されるものではなく、何れの多角形であってもよい。
【0018】
(セグメント)
図3〜図5において、セグメント100は鉄筋コンクリート(以下、「RC」と称す)によって形成され、平面視(断面)で左右の辺長が異なる2箇所で折れ曲がった板材であって、中央部100bと、その長手方向の両側に延設された、長尺部100aおよび短尺部100cとを有している。中央部100b、長尺部100aおよび短尺部100cは同じ厚さ(図3参照)で、同じ高さ(図4参照)である。
なお、本発明はセグメント100を形成する材質を限定するものではなく、たとえば、鉄鋼(圧延鋼板)、鋳鋼あるいは鋳鉄であってもよい。
【0019】
図3および図4において、セグメント100は、それぞれ矩形状の平面である長尺部内面110aと、中央部内面110bと、短尺部内面110cとが、所定の角度(内角が150°)で接合され凹面を呈する内面110と、それぞれ矩形状の平面である長尺部外面120aと、中央部外面120bと、矩形状の短尺部外面120cとが、所定の角度(外角が210°)で接合され凸面を呈する外面120と、を有している。
そして、長尺部内面110aの一方の側縁(中央部内面110bが接合されていない側縁)と長尺部外面120aの他方の側縁(中央部外面120bが接合されていない側縁)が右側面140によって形成され、短尺部内面110cの他方の側縁(中央部内面110bが接合されていない側縁)と短尺部外面120cの他方の側縁(中央部外面120bが接合されていない側縁)が左側面130によって形成されている。
このとき、左側面130と右側面140とがなす角度(図2、図3において「θ」にて示す)は「60°」になっている。
【0020】
そして、長尺部内面110aと長尺部外面120aとの上端縁が接合する長尺部上端面150aと、中央部内面110bと中央部外面120bとの上端縁が接合する中央部上端面150bと、短尺部内面110cと短尺部外面120cとの上端縁が接合する短尺部上端面150cと、を有している(以下、長尺部上端面150a、中央部上端面150bおよび短尺部上端面150cをまとめて「上端面150」と称す場合がある)。
同様に、長尺部内面110aと長尺部外面120aとの下端縁が接合する長尺部下端面160aと、中央部内面110bと中央部外面120bとの下端縁が接合する中央部下端面160bと、短尺部内面110cと短尺部外面120cとの下端縁が接合する短尺部下端面160cと、を有している(以下、長尺部下端面160a、中央部下端面160bおよび短尺部下端面160cをまとめて「下端面160」と称す場合がある)。
【0021】
さらに、左側面130、右側面140、上端面150および下端面160には、シール部材(図示しない)を設置するための左凹溝131、右凹溝141、上凹溝151および下凹溝161がそれぞれ形成されている。このとき、左凹溝131、右凹溝141、上凹溝151および下凹溝161は連通して、環状の凹溝(以下、「凹溝101」と称す場合がある)を形成している。
なお、荷重条件に応じて、肉厚化や応力集中を低減させるために、長尺部内面110aと中央部内面110bとの接続部(接合する隅に同じ)や、中央部内面110bと短尺部内面110cとの接続部(接合する隅に同じ)を断面円弧状にしたり(図3の(c)において「R1」にて示す)、長尺部外面120aと中央部外面120bとの接続部(接合する角に同じ)や、中央部外面120bと短尺部外面120cとの接続部(接合する角に同じ)を断面円弧状にしたりしてもよい(図3の(c)において「R2」にて示す)。
さらに、前記「上、下、あるいは左、右」は説明の便宜であって、セグメント100が実際に施工される際の姿勢とは無関係である。たとえば、上端面150が鉛直方向の下側や水平方向の右側になったり、右側面140が水平方向の左側や鉛直方向の上側になることがある。
【0022】
(上下接合用継手ボックス)
長尺部上端面150aには、長尺部中寄り上継手板154aおよび長尺部端寄り上継手板154dが設置され、短尺部上端面150cには短尺部上継手板154cが設置されている。そして、長尺部中寄り上継手板154aと短尺部上端面150cとの中央で、中央部上端面150bに、中心部上継手板154bが設置されている。なお、これらの継手板はセグメント100の内部に配置された配筋(図示しない)に接続されている。
そして、セグメント100を上下方向で接合するための継手ボルト(図示しない)が挿入される長尺部中寄り上継手ボルト孔152aおよび長尺部端寄り上継手ボルト孔152dが、それぞれ長尺部中寄り上継手板154aおよび長尺部端寄り上継手板154dに設けられ、中央部上継手ボルト孔152bが中央部上継手板154bに設けられ、短尺部上継手ボルト孔152cが短尺部上継手板154cに設けられている。
【0023】
また、長尺部中寄り上継手板154a、中心部上継手板154b、短尺部上継手板154cおよび長尺部端寄り上継手板154dには、継手ボルトを挿入するためのスペース、あるいは挿入された継手ボルトにナット(図示しない)を螺合して締め付けるためのスペースとなる凹部である長尺部中寄り上継手ボックス153a、中心部上継手ボックス153b、短尺部上継手ボックス153cおよび長尺部端寄り上継手ボックス153dが、長尺部外面120a、中心部外面120b、短尺部外面120cおよび長尺部外面120aにそれぞれ形成されている(以下、まとめてまたはそれぞれを「上継手ボックス153」と称す場合がある)。
【0024】
このとき、中央部上継手ボルト孔152bは中央部上端面150bの長手方向(周方向)の中央であって、長尺部中寄り上継手ボルト孔152aと中央部上継手ボルト孔152bとの距離L1は、短尺部上継手ボルト孔152cと中央部上継手ボルト孔152bとの距離L1に等しくなっている。
また、長尺部中寄り上継手ボルト孔152aと長尺部端寄り上継手ボルト孔152dとの距離L4は、短尺部上継手ボルト孔152cと左側面130との距離L2に、長尺部端寄り上継手ボルト孔152dと右側面140との距離L3を加えた値に等しくなっている(L4=L2+L3)。
【0025】
同様に、長尺部下端面160aには、長尺部中寄り下継手ボルト孔162aおよび長尺部中寄り下継手ボックス163aが設けられた長尺部中寄り下継手板164aと、長尺部端寄り下継手ボルト孔162dおよび長尺部端寄り下継手ボックス163dが設けられた長尺部端寄り下継手板164dが設置されている。
また、短尺部下端面160cには、短尺部下継手ボルト孔162cおよび短尺部下継手ボックス163cが設けられた短尺部下継手板164cが設置されている。 さらに、長尺部中寄り下継手ボルト孔162aと短尺部下継手ボルト孔162cとの中央に、中央部下継手ボルト孔162bおよび中央部下継手ボックス163bが設けられた中心部下継手板164bが設置されている。
そして、これらの継手板はセグメント100の内部に配置された配筋(図示しない)に接続されている。
なお、長尺部中寄り下継手ボックス163a、中央部下継手ボックス163b、短尺部下継手ボックス163cおよび長尺部端寄り下継手ボックス163dをまとめてまたはそれぞれを「下継手ボックス153」と称す場合がある。
【0026】
そして、中央部下継手ボルト孔162bは中央部下端面160bの長手方向(周方向)の中央であって、長尺部中寄り下継手ボルト孔162aと中央部下継手ボルト孔162bとの距離L1は、短尺部下継手ボルト孔162cと中央部下継手ボルト孔162bとの距離L1に等しくなっている。また、長尺部中寄り下継手ボルト孔162aと長尺部端寄り下継手ボルト孔162dとの距離L4は、短尺部下継手ボルト孔162cと左側面130との距離L2に、長尺部端寄り下継手ボルト孔162dと右側面140との距離L3を加えた値に等しくなっている(L4=L2+L3)。すなわち、上端面150と下端面160とはそれぞれ面対称の位置に、各部材が配置されている。
【0027】
(左右接合用継手ボックス)
図4および図5において、左側面130には、同一面を形成する左継手板134a、134bが所定の間隔を空けて設置されている。左継手板134a、134bはセグメント100の内部に配置された配筋(図示しない)に接続されている。
そして、左継手板134a、134bには、隣接して配置されるセグメント100同士を接合するための継手ボルト(図示しない)が挿入される左継手ボルト孔132a、132bが形成されている。さらに、左継手板134a、134bには、継手ボルトを挿入するためのスペース、あるいは挿入された継手ボルトにナット(図示しない)を螺合して締め付けるためのスペースとなる凹部(以下「左継手ボックス」と称す)133a、133bが、短尺部外面120cに形成されている(以下、まとめてまたはそれぞれを「左継手ボックス133」と称す場合がある)。
【0028】
同様に、右側面140には、隣接して配置されたセグメント100同士を接合するための、継手ボルト(図示しない)が挿入される右継手ボルト孔142a、142bが形成された右継手板144a、144bが設置され、右継手板144a、144bの位置に、右継手ボックス143a、143b(以下、まとめてまたはそれぞれを「右継手ボックス143」と称す場合がある)が、長尺部外面120aに形成されている。
このとき、左継手ボルト孔132aと上端面150との距離、左継手ボルト孔132bと下端面160との距離、右継手ボルト孔142aと上端面150との距離、右継手ボルト孔142bと下端面160との距離は、それぞれ等しくなっている(図5において「H」にて示す)。
【0029】
(環状体の組立)
図6および図7において、地中構造物の構築方法1は、環状体10iの上に環状体10jを積層(設置)し、環状体10jの上に環状体10kを積層(設置)するものである。
そして、平面視において、中央部100bよりも長尺部100aの方を時計回り方向(図中右側)に配置し、中央部100bよりも短尺部(斜線にて示す)100cの方を反時計回り方向(図中左側)に配置して、環状体10jを形成している。
一方、環状体10iおよび環状体10kは、平面視において、中央部100bよりも短尺部(斜線にて示す)100cの方を時計回り方向(図中右側)に配置し、中央部100bよりも長尺部100aの方を反時計回り方向(図中左側)に配置することで、形成されている。
【0030】
そして、一方のセグメント100の左側面130と他方のセグメント100の右側面140とを当接し、前者に設けられた左継手ボルト孔132a、132bの位置と、後者に設けられた右継手ボルト孔142a、142bの位置とを一致し、それぞれに水平方向(周方向)を接合する図示しない継手ボルトを挿入し、該継手ボルトに図示しない継手ナットを螺合することによって、水平方向で隣接するセグメント100同士を接合している。
【0031】
(縦坑の構築)
環状体10iを形成するセグメント100の下端面160と環状体10jを形成するセグメント100の下端面160とを当接させ、前者の長尺部中寄り下継手ボルト孔162a、中央部下継手ボルト孔162bおよび短尺部下継手ボルト孔162cの位置を、それぞれ後者の短尺部下継手ボルト孔162c、中央部下継手ボルト孔162bおよび長尺部中寄り下継手ボルト孔162aの位置に一致させ、それぞれに上下方向を接合する図示しない継手ボルトを挿入し、該継手ボルトに図示しない継手ナットを螺合することによって、直上(直下)のセグメント100同士を接合している。
なお、環状体10iを形成するセグメント100の長尺部端寄り下継手ボルト孔162dは、直上に位置する環状体10jのセグメント100に隣接するセグメント100の長尺部端寄り下継手ボルト孔162dの位置に一致し、これに上下方向を接合する図示しない継手ボルトを挿入し、該継手ボルトに図示しない継手ナットを螺合することによって、直上(直下)からずれたセグメント100同士を接合している。
【0032】
同様に、環状体10jを形成するセグメント100の上端面150と環状体10kを形成するセグメント100の上端面150とを当接し、前記と同様に、それぞれのボルト孔の位置を一致させ、継手ボルトおよび継手ナットによって、それぞれのセグメント100同士を接合している。
このとき、環状体10jを形成する隣接するセグメント100の左側面130と右側面140との当接位置(接合位置)は、環状体10iを形成するセグメント100の長尺部100a(長尺部下端面160a)と環状体10kを形成するセグメント100の長尺部100a(長尺部上端面150a)とによって挟まれている。
また、セグメント100の凹溝101には、図示しないシール部材を装入し、セグメント100同士の当接面における水密性を向上させている。
さらに、セグメント100の中央部100bには上下方向で貫通し、中央部上端面ボルト孔152b(中央部下端面ボルト孔162bに同じ)から等しい距離に配置された一対の縦配管用孔170が設けられている。なお、縦配管用孔170の数量や位置は図示するものに限定するものではない。
【0033】
以上のように、縦坑1を、1種類のセグメント100を用いて構築するから、施工資材のハンドリング(保管や運搬等)が簡素になると共に、単一種類のセグメントの量産効果によって資材コストが安価になる。
また、奇数番目の層を形成する環状体10を形成するセグメント100は、時計回り方向に長尺部を配置し、一方、偶数番目の層を形成する環状体10を形成するセグメント100は、時計回り方向に短尺部を配置するから、セグメント100の上下を反転するだけで、左側面130と右側面140との接合位置を高さ方向でジグザグ(「千鳥構造」に同じ)にすることが容易になる。よって、施工が簡素になり、施工工期の短縮や施工コストの圧縮を図ることができる。
【0034】
さらに、セグメント100を鉄筋コンクリート(RC)によって形成するから安価になる。また、長尺部100aおよび短尺部100cの長さを変更自在な型枠、あるいは、中央部100bの長さを変更自在な型枠を用いて、セグメント100を製造することによって様々な内径(内接円の直径、または平面視における対角線の長さ)の地中構造物の構築方法1を安価に構築することができる。
なお、以上は、セグメント100を周方向で接合し、予め環状体10jを形成した後、これを環状体10iに接合する要領を説明しているが、本発明はこれに限定するものではない。たとえば、環状体10jを構成するセグメント100を、まず環状体10iを構成するセグメント100に上下方向で接合した後、これに隣接するセグメント100同士を周方向で接合することによって環状体10jを完成してもよい。
【0035】
また、以上は、左側面130と右側面140とがなす角度θを「60°」にしているため、縦坑1は平面視で十二角形を呈しているが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば、角度θを「72°や90°」にして、平面視で「十角形や八角形」の縦坑1にしてもよい。
なお、環状体10を形成するセグメント100の数量を、3以上の整数であるnとした場合、角度θ°および角度α°(図2および図3の(a)参照)は以下の式で示される値となり、環状体10は「2n」角形を呈する。
θ=360/n
α=180・(n−1)/n
また、セグメント100では、上継手ボックス153、下継手ボックス163、左継手ボックス134、右継手ボックス143等の継手ボックスが、セグメント100の外面120(凸面側)に開口しているから、縦坑1を構築する際、セグメント100同士を環状体10の外側(例えば、地上)において実施することができる。
【0036】
[実施の形態2]
図8および図9は本発明の実施の形態2に係る地中構造物の構築方法を説明するものであって、図8は地中構造物の構築方法における環状体を形成するセグメントを示す平面図および底面図、図9は図8に示す環状体を形成するセグメントを示す背面図および正面図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0037】
図8および図9において、実施の形態2に係る地中構造物の構築方法(図示しない)は、実施の形態1に係る地中構造物の構築方法1における環状体10を形成するセグメント100に替えて、セグメント200を用いて同様の環状体を形成したものである。
すなわち、上継手ボックス153、下継手ボックス163、左継手ボックス134、右継手ボックス143等の継手ボックスを、セグメント200の内面110(凹面側)に開口し、左凹溝131、右凹溝141、上凹溝151および下凹溝161がセグメント200の外面120(凸面側)に配置している。
したがって、地中構造物(例えば、図示しない縦坑)を構築する際、セグメント200同士を環状体の外側において実施する。
なお、これを除く形態はセグメント100(実施の形態1)に同じであるから、セグメント100と同様の作用効果が得られる。
【0038】
[実施の形態3]
図10は本発明の実施の形態3に係る地中構造物の構築方法を説明するものであって、環状体の積層状況を模式的に示す正面図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0039】
図10において、実施の形態3に係る地中構造物の構築方法による地中構造物(図示しない)は、実施の形態1に係る地中構造物の構築方法における環状体10を形成するセグメント100について、上下方向および左右方向の接合をより堅固にするため、接合に供する継手板、ボルト孔およびボルトボックスを追加して設けたものである。
なお、継手板、ボルト孔およびボルトボックスは、実施の形態1に示すようにセットになって設けられるため、図10においてはボルト孔についてのみ符号を付している。
すなわち、左側面130において、左継手ボルト孔132aと左継手ボルト孔132bとの間(左側面130の高さ方向の中央)に左継手ボルト孔132cを設けている(左継手板および左継手ボックスも設けられている)。同様に、右側面140において、右継手ボルト孔142aと右継手ボルト孔142bとの間(右側面140の高さ方向の中央)に右継手ボルト孔142cを設けている。
【0040】
また、上端面150において、長尺部端寄り上継手ボルト孔152dと長尺部中寄り上継手ボルト孔152aとの間に長尺部追加上継手ボルト孔152eを、長尺部中寄り上継手ボルト孔152aと中央部上継手ボルト孔152bとの間に中央部追加上継手ボルト孔152fを、中央部上継手ボルト孔152bと短尺部上継手ボルト孔152cとの間に短尺部追加中寄り上継手ボルト孔152gを、短尺部上継手ボルト孔152cと左側面130との間に短尺部追加端寄り上継手ボルト孔152hを、それぞれ設けている。
さらに、下端面160においても同様に、長尺部追加下継手ボルト孔162e、中央部追加下継手ボルト孔162f、短尺部追加中寄り下継手ボルト孔162g、短尺部追加端寄り下継手ボルト孔162hを、それぞれ設けている。
【0041】
したがって、セグメント100の上下方向の高さや左右方向の幅を拡大した場合でも、セグメント100同士を堅固に接続することが可能になる。なお、追加のボルト孔等の数量や配置は、図示する形態に限定するものではなく、一部を間引いても(省略しても)、さらに追加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は以上の構成であるため、1種類のセグメントを上下反転させて接合させた環状体を積層することによって、安価に縦坑を構築することができるから、縦坑やトンネル(斜坑、横坑を含む)等の各種地中構造物の構築方法として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 縦坑(地中構造物の構築方法)
8 圧入沈設装置
8a 装置スタンド
8b 昇降アーム
8c 圧入ジャッキ
8d 油圧ユニット
9 地中
10 環状体
100 セグメント(実施の形態1)
100a 長尺部
100b 中央部
100c 短尺部
101 凹溝
110 内面
110a 長尺部内面
110b 中央部内面
110c 短尺部内面
120 外面
120a 長尺部外面
120b 中央部外面
120c 短尺部外面
130 左側面
131 左凹溝
132a 左継手ボルト孔
132b 左継手ボルト孔
133a 左継手ボックス
133b 左継手ボックス
134a 左継手板
134b 左継手板
140 右側面
141 右凹溝
142a 右継手ボルト孔
142b 右継手ボルト孔
143a 右継手ボックス
143b 右継手ボックス
144a 右継手板
144b 右継手板
150 上端面
150a 長尺部上端面
150b 中央部上端面
150c 短尺部上端面
151 上凹溝
152a 長尺部中寄り上継手ボルト孔
152b 中央部上継手ボルト孔
152c 短尺部上継手ボルト孔
152d 長尺部端寄り上継手ボルト孔
152e 長尺部追加上継手ボルト孔
152f 中央部追加上継手ボルト孔
152g 短尺部追加中寄り上継手ボルト孔
152h 短尺部追加端寄り上継手ボルト孔
153a 長尺部中寄り上継手ボックス
153b 中央部上継手ボルトボックス
153c 短尺部上継手ボルトボックス
153d 長尺部端寄り上継手ボックス
154a 長尺部中寄り上継手板
154b 中央部上継手板
154c 短尺部上継手板
154d 長尺部端寄り上継手板
160 下端面
160a 長尺部下端面
160b 中央部下端面
160c 短尺部下端面
161 下凹溝
162a 長尺部中寄り下継手ボルト孔
162b 中央部下継手ボルト孔
162c 短尺部下継手ボルト孔
162d 長尺部端寄り下継手ボルト孔
162e 長尺部追加下継手ボルト孔
162f 中央部追加下継手ボルト孔
162g 短尺部追加中寄り下継手ボルト孔
162h 短尺部追加端寄り下継手ボルト孔
163a 長尺部中寄り下継手ボックス
163b 中央部下継手ボルトボックス
163c 短尺部下継手ボルトボックス
163d 長尺部端寄り下継手ボックス
164a 長尺部中寄り下継手板
164b 中心部下継手板
164c 短尺部下継手板
164d 長尺部端寄り下継手板
170 縦配管用孔
200 セグメント(実施の形態2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の環状体が順次積層され、地中に設置される地中構造物の構築方法であって、
前記環状体は、平面視において、中央部と、該中央部の一方に延設された長尺部と、前記中央部の他方に延設された短尺部とを具備する複数のセグメントによって形成され、
前記長尺部は、前記短尺部の長手方向の長さより長く、前記中央部と前記長尺部と前記短尺部とは、それぞれ同じ高さおよび同じ厚さを具備し、前記中央部と前記長尺部とがなす角度と、前記中央部と前記短尺部とがなす角度とが、等しく、
所定の前記セグメントの長尺部の長手方向の側面と、該セグメントに隣接された前記セグメントの短尺部の長手方向の側面とを当接する工程と、
所定の前記環状体における短尺部の高さ方向の端面を、該環状体に積層された前記環状体における長尺部の高さ方向の端面の一部に当接する工程と、を有することを特徴とする地中構造物の構築方法。
【請求項2】
前記環状体を形成する前記セグメントの数が3以上の整数nであるとき、
平面視において、前記長尺部の長手方向の側面と前記短尺部の長手方向の側面とがなす角度θ°、および前記中央部と前記長尺部とがなす角度α°および前記中央部と前記短尺部とがなす角度α°をそれぞれ
θ=360/n
α=180・(n−1)/n
にすることを特徴とする請求項1記載の地中構造物の構築方法。
【請求項3】
前記長尺部の高さ方向の端面に接合用手段が挿入される長尺部中寄り孔および長尺部端寄り孔を形成する工程と、
前記短尺部の高さ方向の端面に接合用手段が挿入される短尺部孔を形成する工程と、
所定の前記環状体における所定の前記セグメントの長尺部端寄り孔と、該環状体に積層された所定のセグメントの長尺部端寄り孔とに前記接合用手段を貫通させる工程と、
所定の前記環状体における所定の前記セグメントの長尺部中寄り孔と、該環状体に積層された所定のセグメントの短尺部孔とに前記接合用手段を貫通させる工程と、を有することを特徴とする請求項1または2記載の地中構造物の構築方法。
【請求項4】
前記長尺部中寄り孔および前記長尺部端寄り孔にそれぞれ連通し、前記環状体の外面側に開口した長尺部中寄り凹部および長尺部端寄り凹部とを形成する工程と、
前記短尺部孔に連通し、前記環状体の外面側に開口した短尺部凹部を形成する工程と、を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項5】
平面視において、前記中央部と前記長尺部とが接合する角および前記中央部と前記短尺部とが接合する角を、同一の曲率半径の円弧に形成する工程を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項6】
平面視において、前記中央部と前記長尺部とが接合する隅および前記中央部と前記短尺部とが接合する隅を、同一の曲率半径の円弧に形成する工程を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の地中構造物の構築方法。
【請求項7】
前記セグメントを鉄筋コンクリートによって形成する工程を有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の地中構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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