説明

地中熱利用ヒートポンプ装置、これを備えた地中熱利用装置、および地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法

【課題】 地盤の熱的状況に適応し長期間に渡って安定した運転が実現できる地中熱利用ヒートポンプ装置、およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】温度センサ14で測定したヒートポンプ3から地中熱交換器2への熱媒水の出口温度に基づいて採放熱の限界値を設定し、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ3の運転を制御することで、空気調整装置の運転中において地中温度が高く(または低く)なり過ぎて採放熱効率が著しく低下したり、長期的に地中温度が徐々に上昇(または低下)して採放熱不能になったりすることが防止でき、地盤3の熱的状況に適応して長期間に渡って安定した運転が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱利用ヒートポンプ装置、これを備えた地中熱利用装置、および地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法に関し、詳しくは、地中に埋設された地中熱交換器に接続されたヒートポンプ本体を備え、地中熱交換器を介して地中から採熱または地中へ放熱する地中熱利用ヒートポンプ、これを備えた地中熱利用装置、および地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された地中熱交換器と、この地中熱交換器に接続されたヒートポンプ本体と、このヒートポンプ本体に接続された空調機器等の二次側(負荷側)熱交換器とを備えた地中熱利用装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような地中熱利用のヒートポンプを備えた空調装置等は、安定した温度を有する大地の地中熱を熱源として利用し、この熱源に対して採放熱するものであり、外気に対して採放熱する空気熱源方式のシステムと比較しても、年間を通して変化が小さく安定した地中温度を利用することで、冷房および暖房の両方について高効率に運転できるシステムである。従って、地中熱利用のヒートポンプシステムでは、省エネルギー化や、低ランニングコスト化、二酸化炭素の排出抑制等の効果に加えて、大気に排熱しないことでヒートアイランド現象の抑制効果も期待されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−302122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたような従来の地中熱利用装置では、その運転が二次側の負荷に追従して実施されるのみであり、地盤の熱的状況に応じて運転が制御されるものではないため、長期間に渡る継続的な運転が困難になってしまう可能性があり、問題である。
すなわち、二次側の負荷(例えば、冷房負荷や暖房負荷)が計画値を超えて運転された場合には、ヒートポンプが効率よく運転できる許容値を超えた高温または低温に地中温度がなってしまうことがある。また、二次側の負荷の偏りが大きくなって、地中へ放熱し過ぎたり地中から採熱し過ぎたりした場合には、年間を通した地中温度が徐々に上昇するあるいは低下してしまい、数年後には、採放熱効率が著しく低下してしまうことや、放熱不能あるいは採熱不能になってしまうことがある。さらには、地下水位の変動や地下水の流動状況の変動等を原因として地盤の熱伝導率が変化し、計画当初の採熱、放熱能力よりも低下してしまった場合には、負荷処理に十分な採放熱が実施不能になってしまう可能性もある。
【0005】
本発明の目的は、地盤の熱的状況に適応し長期間に渡って安定した運転が実現できる地中熱利用ヒートポンプ装置、これを備えた地中熱利用装置、および地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の地中熱利用ヒートポンプ装置は、地中に埋設された地中熱交換器と、この地中熱交換器に接続されたヒートポンプ本体と、前記地中熱交換器と前記ヒートポンプとを接続して熱媒水を循環させる配管とを備え、前記地中熱交換器を介して地中から採熱または地中へ放熱する地中熱利用ヒートポンプ装置であって、地盤の熱的状況を測定する測定手段と、測定した地盤の熱的状況に基づいて採放熱の限界値を設定する限界値設定手段と、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ本体の運転を制御する運転制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
ここで、測定手段で測定する地盤の熱的状況としては、初期地盤温度や運転期間中の地盤温度、地盤の熱伝導率などの地盤の熱特性、地下水位や地下水の流動状況などの地盤の熱特性に影響する情報等が例示できる。このうち地盤温度は、地盤中に設けた温度センサ等で直接測定されてもよく、また地中熱交換器とヒートポンプ本体との間に循環される熱媒水の温度やその配管の表面温度等から推定された温度であってもよい。
また、限界値設定手段にて設定される採放熱の限界値としては、当該ヒートポンプ装置が設置された設置位置近傍の地盤で負担可能な採放熱量のみならず、周辺地盤からの熱伝達や地下水の流動によって運ばれる熱を考慮した負担採放熱量に基づいて設定されるものである。すなわち、数年〜十年程度の中、長期的に見た場合に、地盤が熱的に自然回復することを考慮した解析等に基づいて採放熱の限界値が設定されるようになっている。
【0008】
以上の本発明によれば、測定手段で測定した地盤の熱的状況に基づいて採放熱の限界値を設定し、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ本体の運転を制御することで、運転中において地中温度が高く(または低く)なり過ぎて採放熱効率が著しく低下したり、長期的に地中温度が徐々に上昇(または低下)して採放熱不能になったりすることが防止でき、地盤の熱的状況に適応して長期間に渡って安定した運転が実現できる。この際、地盤の熱的な自然回復要素を考慮して採放熱の限界値を設定するように限界値設定手段を構成すれば、採放熱の限界値を低く設定しすぎることがなく、合理的な装置の設計が可能となって設置コストを低減させることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置は、請求項1に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置において、前記限界値設定手段は、前記測定手段にて測定した前年分または前数年分の地盤の熱的状況に基づいて前記限界値を再設定するように構成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、運転期間中における過去の地盤の熱的状況を考慮して採放熱の限界値を再設定することで、地盤状況の変化に応じたより合理的な限界値の設定が可能になり、装置の運転効率を向上させる、あるいは地盤への負担を軽減させることができる。すなわち、地盤の自然回復能力が当初の想定よりも高ければ、採放熱の限界値を上げるように再設定してもよく、このようにすれば装置の運転効率を高めることができる。一方、地盤の自然回復能力が当初の想定よりも低ければ、採放熱の限界値を下げるように再設定することで、地中温度の過度な変動や長期的な変動が防止でき、地盤の採放熱能力を維持することができる。
【0010】
さらに、請求項3に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置は、請求項1または請求項2に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置において、前記測定手段は、前記配管における前記ヒートポンプ本体からの出口または前記ヒートポンプ本体への入口位置の前記熱媒水の温度を測定する温度センサを有していることを特徴とする。
このような構成によれば、ヒートポンプ本体の出口または入口位置の温度センサによって熱媒水の温度を測定することで、測定した出口温度または入口温度から地盤温度を推定できるので、地盤中や地中熱交換器等に温度センサを設置する場合と比較して温度センサの設置個所数を低減することができ、初期コストおよびメンテナンスに要するコストが抑制できる。
【0011】
また、請求項4に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の地中熱利用ヒートポンプ装置において、前記ヒートポンプ本体には、前記地中熱交換器と相違する補助熱源が接続されており、前記地中熱交換器における採放熱が前記設定された限界値に達した場合には、前記補助熱源を利用するように前記ヒートポンプ本体が運転制御手段で制御されることを特徴とする。
ここで、補助熱源としては、空気を熱源として採放熱する冷却塔や空気熱交換機、排熱回収器などが例示できる。
このような構成によれば、ヒートポンプ本体に補助熱源が接続され、地中熱交換器の採放熱が限界値に達した場合に補助熱源が利用されるので、二次側の負荷が大きくなって地中熱交換器からの採放熱を停止したとしても、補助熱源からの熱を利用してヒートポンプ本体の運転を継続させることができる。従って、例えば、二次側が空調室内機である場合には、その負荷が大きくなる夏期や冬期においても地盤へ過大な負担をかけることなく、冷房運転や暖房運転を継続させることができる。
【0012】
一方、本発明の地中熱利用装置は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の地中熱利用ヒートポンプ装置と、この地中熱利用ヒートポンプ装置のヒートポンプ本体に接続された負荷機とを備えた地中熱利用装置であって、前記負荷機には、前記ヒートポンプ本体と相違する他の熱源機器が接続され、前記地中熱交換器における採放熱が前記設定された限界値に達した場合には、前記他の熱源機器を用いて前記負荷機に熱が供給されまたは前記負荷機から熱が吸収されることを特徴とする。
ここで、負荷機としては、室内の冷房、暖房、または冷暖房を行う空調室内機や、冷蔵(冷凍)温蔵機、給湯器、冷水器など、ヒートポンプ本体から供給される(またはヒートポンプ本体で吸収される)熱を利用した各種の機器が例示できる。
また、ヒートポンプ本体と相違する他の熱源機器としては、冷凍機やボイラー、冷温水発生機等が例示できる。
【0013】
以上の本発明によれば、負荷機に他の熱源機器が接続され、地中熱交換器の採放熱が限界値に達した場合に他の熱源機器を用いて負荷機へ熱が供給されるまたは負荷機から熱が吸収されるので、二次側の負荷が大きくなって地中熱交換器からの採放熱を停止したとしても、他の熱源機器により負荷機の運転を継続させることができる。従って、例えば、負荷機が空調室内機である場合には、その負荷が大きくなる夏期や冬期においても地盤へ過大な負担をかけることなく、冷房運転や暖房運転を継続させることができる。
【0014】
また、本発明の地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法は、地中に埋設された地中熱交換器と、この地中熱交換器に接続されたヒートポンプ本体と、前記地中熱交換器と前記ヒートポンプとを接続して熱媒水を循環させる配管とを備え、前記地中熱交換器を介して地中から採熱または地中へ放熱する地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法であって、地盤の熱的状況を測定する測定工程と、測定した地盤の熱的状況に基づいて採放熱の限界値を設定する限界値設定工程と、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ本体の運転を制御する運転制御工程とを備えたことを特徴とする。
以上の本発明によれば、前述と同様に、地盤の熱的状況に適応して長期間に渡って安定した運転が実現できるとともに、合理的なヒートポンプ装置の設計が可能となって設置コストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る地中熱利用装置としての空気調整装置1を示す概略構成図である。図2は、空気調整装置1の要部であるヒートポンプ装置1Aを示す概略構成図である。
図1および図2において、空気調整装置1は、地盤G中に埋設された地中熱交換器2と、この地中熱交換器2に接続されたヒートポンプ(ヒートポンプ本体)3と、このヒートポンプ3に接続された負荷機としての空調室内機4と、地中熱交換器2とヒートポンプ3とを接続して水または不凍液等の熱媒水を循環させる水配管5と、ヒートポンプ3と空調室内機4とを接続して水または不凍液等の熱媒水を循環させる水配管6とを備えて構成されている。
【0016】
ヒートポンプ3には、冷媒(ガス)を循環させる冷媒配管11と、冷媒配管11中の冷媒を圧縮する圧縮機7と、冷媒配管11中の冷媒を膨張させる膨張弁8と、水配管5の熱媒水を用いて冷媒を凝縮または蒸発させる一次凝縮・蒸発器9と、圧縮機7で圧縮された高温の冷媒を凝縮させて水配管6の熱媒水に熱を供給する、または膨張弁8で膨張された低温の冷媒を蒸発させて水配管6の熱媒水から熱を吸収する二次凝縮・蒸発器10とが設けられている。
また、水配管5,6には、それぞれの熱媒水を循環させる循環ポンプ12,13が設けられている。
そして、ヒートポンプ装置1Aは、地中熱交換器2から熱媒水を介して採熱(または放熱)した地中熱を利用し、ヒートポンプ3の冷媒配管11中の冷媒を介して水配管6の熱媒水を昇温(冷却)し、この熱媒水により空調室内機4から空調空間Aに熱を供給(または空調空間Aから熱を吸収)するものである。
【0017】
すなわち、ヒートポンプ装置1Aでは、夏期における冷房運転時において、水配管5,6中の熱媒水および冷媒配管11中の冷媒が、それぞれ図2に矢印で示す方向に循環される。
すなわち、循環ポンプ12は、熱媒水をヒートポンプ3の一次凝縮・蒸発器9から地中熱交換器2に送るとともに、地中熱交換器2での熱交換により地中に放熱して温度の下がった熱媒水を一次凝縮・蒸発器9に戻す。
ヒートポンプ3において、一次凝縮・蒸発器9は、圧縮機7で圧縮された冷媒と水配管5中の熱媒水との間で熱交換を行い、冷媒を凝縮させる。凝縮されて冷却された冷媒は膨張弁8で膨張された後、二次凝縮・蒸発器10へ送られる。二次凝縮・蒸発器10は、膨張弁8から送られた冷媒と水配管6中の熱媒水との間で熱交換を行い、内気を冷却し冷媒を蒸発させる。蒸発して昇温された冷媒は圧縮機7で再度圧縮されて一次凝縮・蒸発器9へ送られ、水配管5中の熱媒水との間で熱交換が行われる。
循環ポンプ12は、二次凝縮・蒸発器10で冷却された水配管6中の熱媒水を空調室内機4へ送るとともに、空調空間Aの内気から熱を吸収して昇温された熱媒水を二次凝縮・蒸発器10に戻す。
以上のようなサイクルを繰り返すことで、冷媒および熱媒水を介して空調空間Aの熱を地中に排熱し、空調空間Aの冷房が実施される。
【0018】
一方、冬期における暖房運転時には、上述した冷媒配管11中の冷媒が図2の矢印と逆方向に循環される。なお、水配管5,6中の熱媒水の循環方向は、図2に矢印で示す通りである。
すなわち、ヒートポンプ3において、一次凝縮・蒸発器9は、膨張弁8で膨張された冷媒と水配管5中の熱媒水との間で熱交換を行い、冷媒を蒸発させる。蒸発されて昇温された冷媒は圧縮機7で圧縮された後、二次凝縮・蒸発器10へ送られる。二次凝縮・蒸発器10は、圧縮機7から送られた冷媒と水配管6中の熱媒水との間で熱交換を行い、内気を加熱し冷媒を凝縮させる。凝縮されて冷却された冷媒は膨張弁8で再度膨張されて一次凝縮・蒸発器9へ送られ、水配管5中の熱媒水との間で熱交換が行われる。
以上のようなサイクルを繰り返すことで、冷媒および熱媒水を介して地中から採熱した熱を空調空間Aに供給し、空調空間Aの暖房が実施される。
【0019】
また、空気調整装置1は、図1に示すように、複数の地中熱交換器2が互いに並列に接続され、これら複数の地中熱交換器2を接続した一系統の水配管5に配管ヘッダー5Aを介して複数(2台)のヒートポンプ3が接続されている。これら複数のヒートポンプ3は、同時にまたはヒートポンプ3ごとに、運転および停止が切替制御可能に構成されている。また、複数(2台)のヒートポンプ3から延びる水配管6は、配管ヘッダー6Aを介してまとめられて空調室内機4に接続されている。なお、以上のヒートポンプ3には、複数の空調室内機4が接続されていてもよく、これら複数の空調室内機4を同時に、または複数の空調室内機4ごとに、運転および停止が切替制御可能に構成されていてもよい。
【0020】
さらに、空気調整装置1には、補助熱源としての冷却塔21、および他の熱源機器としての冷凍機(チラー)23およびボイラ30とを有して構成されている。
冷却塔21は、空気を熱源として気化熱を利用して循環水(熱媒水)を冷却するものであって、循環水を循環させる水配管22によって配管ヘッダー5Aに接続され、この配管ヘッダー5Aを介してヒートポンプ3に接続されている。すなわち、夏期においてヒートポンプ3が高負荷運転され、後述するように地中熱交換器2による地盤Gの採放熱が限界値に達した場合に、地中熱交換器2側への熱媒水の循環が停止または抑制され、冷却塔21側へ熱媒水が循環され、これによりヒートポンプ3の冷房運転が継続されるようになっている。
【0021】
冷凍機23は、前記水配管6と同様に熱媒水を循環させる水配管24で配管ヘッダー6Aに接続され、ヒートポンプ3と同様に圧縮機25と、膨張弁26と、蒸発器27と、冷媒配管28とを有し、蒸発器27における熱交換により水配管24中の熱媒水を冷却するものである。水配管24には、循環ポンプ29が設けられており、この循環ポンプ29により水配管24中の熱媒水が配管ヘッダー6Aを介して空調室内機4と冷凍機23の蒸発器27との間を循環されるようになっている。このような冷凍機23は、夏期においてヒートポンプ3が高負荷運転されて地中熱交換器2による地盤Gへの放熱が限界値に達し、ヒートポンプ3の運転が停止または抑制された場合に運転され、この冷凍機23の運転により空調室内機4の冷房運転が継続されるようになっている。
【0022】
ボイラ30は、前記水配管6,24と同様に熱媒水を循環させる水配管31で配管ヘッダー6Aに接続され、軽油等の化石燃料を燃焼させて熱を発生し、この熱により熱媒水を昇温するものである。そして、水配管31には、循環ポンプ32が設けられており、この循環ポンプ32により水配管31中の熱媒水が配管ヘッダー6Aを介して空調室内機4とボイラ30との間を循環されるようになっている。このようなボイラ30は、冬期においてヒートポンプ3が高負荷運転されて地中熱交換器2による地盤Gからの採熱が限界値に達し、ヒートポンプ3の運転が停止または抑制された場合に運転され、このボイラ30の運転により空調室内機4の暖房運転が継続されるようになっている。
【0023】
以上のような空気調整装置1におけるヒートポンプ装置1Aには、図2に示すように、ヒートポンプ3から地中熱交換器2へ向かう水配管5の出口位置に設けられて熱媒水の出口温度を測定する測定手段としての温度センサ14と、この温度センサ14で測定した熱媒水の出口温度に基づいて地盤Gの熱的状況を判断する制御装置15とが設けられている。制御装置15は、例えば、コンピュータから構成され、予め入力されたデータや組み込まれたプログラムによって、熱媒水の出口温度から地盤Gの熱的状況である地中温度(地中熱交換器2の表面温度)を算出するようになっている。そして、制御装置15は、算出した地中温度に基づいて地中熱交換器2による採放熱の限界値を設定する限界値設定手段として機能するとともに、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ3の運転を制御する運転制御手段としても機能するようになっている。
【0024】
すなわち、空気調整装置1において、図3のグラフに曲線L1で示されるような年間の負荷変動が生じる場合に、図4のグラフに細実線で示される曲線L2が想定される年間の熱媒水の出口温度の変動曲線(基準変動曲線)を示している。そして、図4のグラフに細一点鎖線で示される曲線L3は、熱媒水の出口温度から算出される年間の地中熱交換器2の表面温度の変動曲線である。ここで、曲線L2’(図中、太実線)は、冬期の暖房負荷が過大になって地中熱交換器2による地盤Gからの採熱が過剰になった場合の熱媒水の出口温度の変動曲線を示し、曲線L3’(図中、太一点鎖線)は、その際の地中熱交換器2の表面温度の変動曲線を示している。つまり、地盤Gからの採熱が過剰になると、地中温度が前年の地中温度よりも下がってしまい、地盤Gの採熱能力が低下していってしまうことを示している。これに対して、曲線L2,L3では、一年後の地中温度が前年と略同一であり、地盤Gの採放熱能力が維持されている。従って、このような年間の熱媒水の出口温度の変動曲線(基準変動曲線)L2に基づいて、制御装置15が採放熱の限界値を設定するようになっている。
【0025】
採放熱の限界値(限界出口温度)は、図5のグラフに一点鎖線で示される曲線L4のように設定され、熱媒水の出口温度の変動曲線L2に対して、暖房負荷の期間については、曲線L2よりも所定温度だけ低い温度となるように設定され、冷房負荷の期間については、曲線L2よりも所定温度だけ高い温度となるように設定されている(限界値設定工程)。この際、曲線L2との差である所定温度は、周辺地盤からの熱伝達等により地盤Gが熱的に自然回復することを考慮した解析や実験に基づいて設定されている。そして、設定された限界出口温度に応じてヒートポンプ装置1Aは、図5の丸囲み部の曲線L5のように温度センサ14で測定した(測定工程)熱媒水の出口温度が限界出口温度(曲線L4)に達したときには、制御装置15によりヒートポンプ3の運転が停止または抑制される。このようにヒートポンプ3の運転を停止または抑制することで、熱媒水の出口温度が曲線L2に達するまで回復すれば、制御装置15によりヒートポンプ3の運転が再開される(運転制御工程)。このようなヒートポンプ3の運転制御を実施することで、地中温度が低下しすぎないあるいは上昇しすぎないようにできる。
【0026】
一方、地盤Gの熱的状況は、空気調整装置1の運転開始から数年(例えば、5年程度)の間は比較的安定せず、図6のグラフに示される曲線L6(1年目の熱媒水の出口温度の変動曲線、細実線)および曲線L7(1年目の地中熱交換器2の表面温度の変動曲線、細一点鎖線)のように、前年の地中温度よりも低くなってしまう(あるいは高くなってしまう)ことがある。そして、運転開始から数年以降になると、図6のグラフに示される曲線L6’(5年目の熱媒水の出口温度の変動曲線、太実線)や曲線L7’(5年目の地中熱交換器2の表面温度の変動曲線、太一点鎖線)のように、前年との地中温度の差が小さくなり安定する。このため、本実施形態のヒートポンプ装置1Aでは、運転開始から数年間においては、前年の熱媒水の出口温度の測定結果に基づいて、制御装置15が基準変動曲線(L6,L6’)を毎年再設定し、この基準変動曲線に基づいて、制御装置15が採放熱の限界値を設定するようになっている。
【0027】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)すなわち、温度センサ14で測定したヒートポンプ3から地中熱交換器2への熱媒水の出口温度に基づいて採放熱の限界値(曲線L4)を設定し、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ3の運転を制御することで、空気調整装置1の運転中において地中温度が高く(または低く)なり過ぎて採放熱効率が著しく低下したり、長期的に地中温度が徐々に上昇(または低下)して採放熱不能になったりすることが防止でき、地盤3の熱的状況に適応して長期間に渡って安定した運転が実現できる。
【0028】
(2)さらに、地盤Gの熱的な自然回復要素を考慮して採放熱の限界値を設定するようにしたので、採放熱の限界値を低く設定しすぎることがなく、合理的なヒートポンプ装置1Aの設計が可能となって空気調整装置1の設置コストを低減させることができる。
【0029】
(3)また、運転期間中における過去の地盤Gの熱的状況を考慮して基準変動曲線(L6,L6’)および採放熱の限界値を再設定することで、地盤状況の変化に応じたより合理的な限界値の設定が可能になり、ヒートポンプ装置1Aの運転効率を向上させる、あるいは地盤Gへの負担を軽減させることができる。
【0030】
(4)さらに、ヒートポンプ3から地中熱交換器2への熱媒水の出口温度を測定する温度センサ14を設けたことで、測定した出口温度から地中温度を推定できるので、地盤中や地中熱交換器2等に温度センサを設置する場合と比較して温度センサ14の設置個所数を低減することができ、初期コストおよびメンテナンスに要するコストが抑制できる。
【0031】
(5)また、ヒートポンプ3に冷却塔(補助熱源)21が接続され、地中熱交換器2の採放熱が限界値に達した場合に冷却塔21が利用されるので、空調負荷が大きくなって地中熱交換器2からの採放熱を停止または抑制したとしても、冷却塔21からの熱を利用してヒートポンプ3の運転を継続させることができる。従って、地盤Gへ過大な負担をかけることなく、空調室内機4の冷房運転を継続させることができる。
【0032】
(6)さらに、空調室内機4に他の熱源機器である冷凍機23やボイラ30が接続され、地中熱交換器2の採放熱が限界値に達した場合に冷凍機23やボイラ30を用いて空調室内機4へ熱が供給されるまたは空調室内機4から熱が吸収されるので、空調負荷が大きくなって地中熱交換器2からの採放熱を停止または抑制したとしても、冷凍機23やボイラ30により空調室内機4の運転を継続させることができる。
【0033】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態においては、空気調整装置1について説明したが、本発明の地中熱利用装置としては、冷暖房可能な空気調整装置に限らず、冷房のみ可能な冷房装置や暖房のみ可能な暖房装置でもよく、また冷蔵庫(冷凍庫)や温蔵機、給湯器、冷水器などであってもよい。
【0034】
また、前記実施形態では、測定手段としてヒートポンプ3から地中熱交換器2への熱媒水の出口温度を測定する温度センサ14を用いたが、温度センサ14で入口温度を測定してもよく、また測定手段は、このような温度センサ14に限らず、地盤Gの地中温度を直接測定するセンサでもよく、地中熱交換器2の表面温度を測定するセンサでもよく、さらには地盤Gの熱伝導率を測定する測定装置でもよく、各種の地盤の熱特性を測定可能な装置が適用可能である。
【0035】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る地中熱利用装置を示す概略構成図である。
【図2】前記地中熱利用装置の要部であるヒートポンプ装置を示す概略構成図である。
【図3】前記地中熱利用装置における年間の負荷変動を示すグラフである。
【図4】前記ヒートポンプ装置における熱源側熱媒水の出口温度および地中熱交換器の表面温度の変動を示すグラフである。
【図5】前記ヒートポンプ装置における運転制御方法を示すグラフである。
【図6】前記ヒートポンプ装置における運転開始後1年目および5年目の前記出口温度および前記表面温度の変動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1A…ヒートポンプ装置、2…地中熱交換器、3…ヒートポンプ(ヒートポンプ本体)、5…水配管、14…温度センサ(測定手段)、15…制御装置(限界値設定手段および運転制御手段))、21…冷却塔(補助熱源)、23…冷凍機(他の熱源機器)、30…ボイラ(他の熱源機器)、G…地盤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された地中熱交換器と、この地中熱交換器に接続されたヒートポンプ本体と、前記地中熱交換器と前記ヒートポンプとを接続して熱媒水を循環させる配管とを備え、前記地中熱交換器を介して地中から採熱または地中へ放熱する地中熱利用ヒートポンプ装置であって、
地盤の熱的状況を測定する測定手段と、測定した地盤の熱的状況に基づいて採放熱の限界値を設定する限界値設定手段と、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ本体の運転を制御する運転制御手段とを備えたことを特徴とする地中熱利用ヒートポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置において、
前記限界値設定手段は、前記測定手段にて測定した前年分または前数年分の地盤の熱的状況に基づいて前記限界値を再設定するように構成されていることを特徴とする地中熱利用ヒートポンプ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の地中熱利用ヒートポンプ装置において、
前記測定手段は、前記配管における前記ヒートポンプ本体からの出口または前記ヒートポンプ本体への入口位置の前記熱媒水の温度を測定する温度センサを有していることを特徴とする地中熱利用ヒートポンプ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の地中熱利用ヒートポンプ装置において、
前記ヒートポンプ本体には、前記地中熱交換器と相違する補助熱源が接続されており、
前記地中熱交換器における採放熱が前記設定された限界値に達した場合には、前記補助熱源を利用するように前記ヒートポンプ本体が運転制御手段で制御されることを特徴とする地中熱利用ヒートポンプ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の地中熱利用ヒートポンプ装置と、この地中熱利用ヒートポンプ装置のヒートポンプ本体に接続された負荷機とを備えた地中熱利用装置であって、
前記負荷機には、前記ヒートポンプ本体と相違する他の熱源機器が接続され、前記地中熱交換器における採放熱が前記設定された限界値に達した場合には、前記他の熱源機器を用いて前記負荷機に熱が供給されまたは前記負荷機から熱が吸収されることを特徴とする地中熱利用装置。
【請求項6】
地中に埋設された地中熱交換器と、この地中熱交換器に接続されたヒートポンプ本体と、前記地中熱交換器と前記ヒートポンプとを接続して熱媒水を循環させる配管とを備え、前記地中熱交換器を介して地中から採熱または地中へ放熱する地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法であって、
地盤の熱的状況を測定する測定工程と、測定した地盤の熱的状況に基づいて採放熱の限界値を設定する限界値設定工程と、設定した採放熱の限界値を超えないようにヒートポンプ本体の運転を制御する運転制御工程とを備えたことを特徴とする地中熱利用ヒートポンプ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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